学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
本来なら男は入ることは出来ない女の花園、クインヴェールの一室で基臣は人を待っていた。
ソファでしばらく待つこと10分程。扉が開かれ、そこにはシルヴィアのプロデューサーであるペトラ・キヴィレフトが現れる。
「おまたせしました。わざわざここまでご足労頂き感謝します」
「前のシルヴィの件でそちらには借りを作ったからな、別に構わない。それで、本題は」
「ええ、今回あなたを呼び出した理由ですが……あなたにはシルヴィアの護衛を頼みたいのです」
「護衛……? いくら六学園最弱と言われているこのクインヴェールといえども流石にシルヴィを守れないほどではないだろう。わざわざ他学園の学生に頼むほど状況はひっ迫しているのか?」
「ひっ迫というよりも、人員を大規模に出せないと言った方がいいでしょうか。人員に関する事情に関しては詳しいことは学園の機密に当たるので申し上げられませんが、大体あなたの想像している通りとだけ言っておきましょう」
今回の任務はライブというまさに衆目が集まる状況での護衛。故に──
(実力のある人間といっても、暗部の人間をそう簡単に出すわけにはいかない、か)
「……愚問かもしれないが、星猟警備隊には護衛を依頼しなかったのか? 事情を話せば、ある程度は人員を割いてくれると思ったが」
「最初はその予定でした。しかし──」
「しかし?」
「元々この事件は今に始まったことではないのです。事の発端は3週間前に遡ります」
ペトラはある紙をデスクから取り出すと、基臣の前へと差し出す。そこには、シルヴィアに対しての殺害を予告する文章が書かれている。
「この紙が私の元に送られてきた時、あまり気が進みませんでしたがライブの延期、および星猟警備隊へと通報しました。最初は人員を割いて犯人の特定などに動いてくれました。しかし、犯人の特定に難航したことなどもあり既に半数は手を引いている状態。本来の責務はアスタリスク全体の治安維持のため長期にこの件を受け持ってくれるわけもなく、ほとんど撤退状態と言っていいでしょう。護衛の件も断られました」
「まあ、少数とはいえ犯人の特定の方を協力してくれるだけでも御の字と言ったところか」
「ええ……。それで、護衛に関してですが……」
「引き受けさせてもらおう。シルヴィに危害が加わるのを黙って見過ごすわけにもいかない」
「……協力感謝します。謝礼に関しては、通常のボディーガードに支払う額を用意します。あと、この事に関してシルヴィアには──」
「言わなければいいのだろう。むやみやたらに不安にさせるものではないからな」
「分かっていただけて助かります。では、段取りに関しては別途この紙に記載していますのでよく確認しておいてください」
「了解した」
──────────────────────
当日、基臣は舞台裏に向かうとそこにはライブのためのメイクを丁度終えていたシルヴィアの姿があった。
「あ、基臣君!」
「シルヴィか」
「チケットを渡したから客席にいたと思ったんだけど、どうしてここに?」
「たまたまペトラさんに特別に入れてもらうことになった」
ペトラの名前を出すと、シルヴィアは頬を膨らませムッとする。
「もー、それならペトラさんも言ってくれたらいいのに」
「まあそう責めるな。あの人なりのサプライズのつもりだったのだろう」
「ま、いっか。それより、どう? この格好。似合ってる?」
くるくると一回転して、ライブ衣装を基臣へと見せる。
「あぁ、似合ってる」
「っ……! そっかぁ、似合ってるんだ。よかったぁ……」
嬉しそうにするシルヴィアの姿に心が暖かくなるような感覚を覚えるが、護衛任務があることを思い出し心の内で気を引き締めなおす。
「もうそろそろ開始の時間じゃないのか。ほら、行ってこい」
「うん! じゃあ私のライブ見ててね!」
「分かった」
そのままステージへと向かって行ったシルヴィアをよそに基臣はトランシーバーを装備し、護衛の任を全うしようと集中する。
メイクルームから舞台裏へと向かった基臣は観客から見えない角度で襲撃に警戒する。
しばらく警戒を続けるが特に変わった動きもなく、トランシーバーで報告を行う。
「定時報告。こちら、舞台裏。今のところ特に異常なし、どうぞ」
『舞台裏、こちらはモニタールーム。監視を引き続き続行し、10分後に再び報告を行え、以上』
定時報告を終えた基臣は配布されたトランシーバーを離すと、ステージに立っているシルヴィアの周囲で異常がないかを監視する。
(しかし、おかしい。今まで狙うチャンスはいくらでもあった。にもかかわらず襲撃してこないのは何故だ……。愉快犯という可能性もあり得るが、勘が違うと告げてくる……)
言いようもない嫌な予感を胸の内に秘めながら監視を続行していると、突然頭の中に映像が流れ込んでくる。
「……ッ!?」
(会場の地下……? 爆発……、しかも大規模……まさか敵の目的は!!)
即座にトランシーバーを手に取るとボタンを押し、報告をする。
「本命は暗殺じゃない、会場の爆破だ! 至急、できるかぎりの人員を今から言う地点に向かわせ爆弾の解除を行ってくれ」
『爆破……。何を言っている……?』
「とりあえず、一人でもいい! 早急に用意してくれ!」
基臣の切羽詰まるような声に只事では無い事を理解したのか、少し間を置いて返信が帰ってくる。
『……了解した、護衛の観点からもまずは一人そちらの言う通りにさせよう。しかし、爆発物が設置されているという事実が確認できていない以上、これ以上の人員は派遣できない』
「十分だ、感謝する」
通信を切ると、勘が告げる方向へと全速力で疾走する。
ライブが既に始まっているため通路には人は全くいない。観客でない人間を除けばの話ではあるが
工作員と思わしき人物たちがかなりの数、10メートル先で立ちふさがっており基臣の行く手を阻んでいた。そばには気絶しているボディーガードがおり、不意打ちを食らったのだろうことが伺える。
「絶対に通すな! 死守しろ!」
左右に移動しながら進んでいき相手の視線を揺らして感覚を狂わせながら、即座に通せんぼしていた工作員たちを殺さないように速度を落とさず手加減しながら即座に切り裂く。
(ここしばらく、勘が妙に鋭くなってきている気がする……。ピューレ曰く、能力の覚醒が始まってるとの事らしいが)
そんなことを考えながら、爆弾がある場所へと向かうと巧妙にカモフラージュされた爆弾が隠されていた。
「ピューレ」
『ええ』
基臣はピューレを爆弾に触れさせると、カウントを刻んでいた数字は故障して暗転する。あとで証拠として提示するために拾い上げると、トランシーバーから連絡が入る。
『聞こえるか』
「ああ、どうした」
『そちらの言う通り爆弾を発見した。陽動の可能性もあるため護衛の人数を最低限確保するが、爆弾解体に向けて人員を各所に派遣させる』
「了解した」
トランシーバーでいくつか爆弾解体に関する確認をした後、基臣は各所へと駆けまわり爆弾を解除する。
「あとは、残り一つ……!」
最後の一つが残っている地下駐車場へと向かって突き進んでいき、すぐそこまでという所まで来る。
その時、基臣の第六感が人の気配を感知する。黒子のような恰好をしており、見るからに怪しい。
(人が一人……、明らかに一般客とは思えない装備。爆発物を警護している所から間違いなく敵だ)
敵だと判別した基臣は躊躇う事なく攻撃を加えることを決定。
自動ドアを叩き割ると勢いのまま、基臣は敵へと向かって突貫していく。一連の動作の速さからか未だに男は基臣の方向へと振り向いてこない。
(もらった……!)
攻撃が当たることを確信するその瞬間、悪寒が身体の隅々にまで駆け回る。
「……ッ!?」
その悪寒が間違いないものであると確信して基臣は即座に回避行動を取ると、本来の攻撃の軌道上だった直線には莫大な数の刀剣が突き刺さっていた。
「仕掛けに気づかれるとは……厄介極まりない」
(今まで視えていなかったはずの刀剣がいきなり……空間転移系か武器生成系のいずれかの線が濃いか)
どちらの能力にしろ距離を取られるとまずいと判断した基臣は一気に黒子の男へと距離を詰めようと駆け出す。
しかし、地下駐車場の柱を盾に立ち回って動くため思うように接近を許されない。
「ちぃ……っ!」
空間から突如として出現する敵の暗器を第六感で認識して全て叩き落すと、再び攻勢に出ようとする。
男は柱に隠れたため、接近してその姿を視認しようとする。
「当然だがいない……か」
柱に接近する数瞬前に気配が消失したが念のためにと確認したものの、やはりいなくなっている。
振り返ると、男は離れた柱の影から姿を現す。
(これで空間転移系で確定だな。おそらく運動量が保存された状態でどこかにストックしている武装を罠のように張り巡らせて相手を消耗させる。ついでに能力者自身も瞬間移動じみた事ができる、とはいえ、距離はそこまでといったところか。遠くへ飛ばせるなら、最初から俺を飛ばしている)
それから幾度となく接近を試みるが、柱のせいで思うような展開が出来ていない。
(柱が邪魔だな。とはいえ、切り落としたら上にどう影響するか分からない)
多重に仕掛けられたトラップを回避している隙に黒子の男に即座に距離を取られる。
(まともに相手をしていれば時間がかかる……。しかしそれでは爆弾の解除に間に合わない、か……。
……最近は遠距離主体の相手が多くなって敵わんな)
今度は基臣の側から距離を取って、ある程度把握した黒子の男の能力範囲外へと抜け出す。
(仕方ない、やるか……)
「ふぅ……」
『相手は躊躇なく殺せ、情け容赦をかければこちらが死ぬ』
かつての父の教えを思い出し、殺し合いに等しい状況に身を置いていた昔の感覚を蘇らせる。
「……っ!?」
先ほどまでとは明らかに身に纏う空気が一変した基臣の雰囲気に黒子の男は裏側の人間として培った経験から警戒を一気に強める。
「なんだ、この異常なまでの雰囲気は……」
「逝ね──」
「……っ!! まずい……ッ!?」
即座に地に伏せた男の判断は正しかった。少しでも反応が遅れていれば、数瞬後にはその身を二つに切り刻まれていたのだから。
男は柱を見るものの、基臣と男の間にあるはずの柱には傷一つ付いていない。
「ようやく感覚が掴めてきたな」
器用にピューレを手元でクルクルと回しながら、再び基臣の攻撃が始まる。
男はさっきまでの距離をとっての遠距離戦を維持することが出来なくなっていた。その原因は──
「殺気が微塵も感じられない」
今まで感じていた殺気を感じられなくなったことで今まで感じられた相手との距離感を狂わされるという事態に陥っていた。
基臣は柱を踏み台に三次元機動で相手の火力を集中させないように駆け回ると、手傷を負わせることよりも攻撃を当てることを重視した黒子の男は武器を散らして射出する。
弾幕の層が薄くなったことを好機と捉えた基臣は防御を固めて正面から突っ切った。
「死ね」
男の目と鼻の先まで到達すると同時に武器が基臣へと射出される。
射出された武器を回避した瞬間、更に今までとは比にならない大量の武装が現われ基臣の元へと殺到する。それと同時に男は勝利を確信する。
「もらった」
四方八方から向けられた刀剣類に基臣の身は貫かれる。
「…………っ!」
しかし、数多の刀剣にくし刺しにされ見るも無残になった身体からは血が流れない。
「なぜ血が出ない……。いや、まさか幻か──!?」
切り裂いた肉体からいきなり白煙が漏れ出し始めることで、今まで相手にしていた存在は囮であることに気づいた。尤も、気づくのが遅すぎたのが男の最大の失態であったのは言うまでもない。振り返ると、背後には基臣がすでに攻撃の体勢に入っていた。
スローモーションで流れていく時の中、基臣を見るとその瞳は何の色も映し出さない漆黒で塗りつぶされている。あまりにも冷徹に武器を振りかざすその姿は──
「死神……!」
死を覚悟した男はすぐに来るであろう痛みを出来る限り感じないように意識を手放そうとする。
が──
「ガッ……!?」
その身に叩き込まれたのは拳だった。能力が使用できない且つ気絶しない程度に威力を抑えた攻撃を男に叩き込まれた。
「お前にはまだ喋ってもらわなければいけないことが山ほどある。まあ、星猟警備隊に爆破事件の主犯格として連れていかれる訳だから死んだ方がマシなぐらいの拷問を受けるかもしれないがな」
男は身体を引っ張り上げて起こそうとする基臣の姿を認める。
しかしその姿はどこかつらそうな様子を無理やり堪えているようだった。
「はぁ……はぁ……」
(無理やり殺意衝動を抑えるのはやはり体に負担がかかるな……っ。しかし、このアスタリスクでたとえ不可抗力であっても殺しはしないと誓った。堪えろっ!)
精神に引っ張られそうになる身体を無理やり言い聞かせて、意識を元に戻す。
「スゥ―……、ふぅ……。さて、早く爆弾を解除しなければ──」
「うおおおオオオオオオオオ!!!!」
「なっ……!!」
戦えないレベルまで戦意を喪失していたと思っていた黒子の男がいきなり身に隠していた凶器を手にし、身体に巻き付けていた爆弾を起爆しようと動こうとする。
「自爆かっ! ピューレ!」
『分かった』
殺さないように手加減しながらピューレで敵を切り裂く。それと同時に能力によって体に巻き付けられた爆弾は効力を失い、ただのガラクタと化す。切り裂かれた敵はそのまま崩れ落ちるものの、爆弾を解除した後に脈を確認すると正常に動いているため気絶しているだけのようだった。
「敵ながら、並々ならぬ執念だったな……」
他に爆弾が隠されていないことを確認した基臣は捕縛した敵を連れて上へと向かう。既に通報からかなり時間が経ったからか、十人以上の隊員が集結して事態の解決に乗り出していたようだった。隊員たちの先頭には警備隊のリーダーであるヘルガ・リンドヴァルもいた。
「あんたは……この前の」
「ん? あぁ、誰かと思えば君か。レヴォルフのゴロツキどもの件以来だな。久方ぶりだ」
手を差し出されたので、空いている片手でその手に応対する。
「まさか星猟警備隊のトップが来るとは、よほどの事らしいな」
「ああ、まさかここまで大規模な爆破事件を起こすとは思わなんだ。テロの可能性も含めて捜査しなければいけないがためにおかげさまで私まで引っ張り出されたという訳だ」
「なるほど」
「それで、そいつが今回の」
「ああ、おそらくだが実力的にはこいつが首謀者に近い存在だろう」
そう言って、基臣は引きずっていた黒子の男をヘルガへと引き渡す。
「協力感謝する。それにしても、やはりこのまま置いておくには惜しいな。将来は星猟警備隊に来てほしいものだが」
「前も言ったが、その話は保留させてもらおう。……といっても、そちらのお仲間たちは俺を受け入れる雰囲気では無さそうだがな」
ヘルガの5メートル後ろほどに控えていた星猟警備隊の隊員たちを一瞥すると、向こうも露骨に嫌悪感を示す。
「……はぁ、まあ仕方あるまい。色々とやらねばならないことも多い。これで失礼させてもらおう」
そのまま隊員を引き連れてどこかへと向かって行ったヘルガ達を尻目に、基臣は舞台裏へと急いで戻る。
到着すると、そろそろライブも終わるのかスケジュールにあった最後の曲を唄っているのが聞こえる。
「ご苦労様でした。今回は貴方の助力が無ければシルヴィの身に何が起こっていたことか。報酬に関してですが前言った報酬の2倍を──」
そう告げてくるペトラに基臣は首を振って、断る。
「任された仕事をこなしただけだ。報酬はそのままで構わない」
「……あなたが言うのならそう言うことにしておきましょう。ですが、感謝だけは言わせてください。本当にありがとうございます」
ペトラと話している内にライブも終わり、シルヴィアが舞台から戻ってくる。
「基臣君!」
「お疲れ様」
「ねえ。私の歌、ちゃんと聴いてくれた?」
「ああ……、いい歌だった」
「ニヘへ、それならよかった!」
シルヴィアの笑顔に何故か胸の内が痛くなるのを感じる。
「それでね……」
シルヴィアと他愛もない話していると、突然端末から電話がかかってくる。
「ん、電話か。すまん、少し良いか」
「あ、ううん。いいよ別に」
シルヴィアに断りを入れて少し距離を離すと彼女に聞こえないような音量でその場で音声通話を行う。
「はい、もしもし」
『誉崎基臣だな』
「…………誰だお前は」
『我々はお前の父親に全てを奪われた者』
「俺の、父……? どういうことだ、答えろ」
『まだ、この程度では我々誉崎一族の恨みは晴らされない』
基臣の質問を無視し、呪詛を吐き散らすようにしながら言葉を続ける。
『お前の大切にしている者を殺し、最後にはお前に裁きを与える』
ツー、ツー
「……」
「どうしたの基臣君? 誰からのでん、わ……?」
(また……誉崎、か)
基臣は父の姿を思い出す。
(父は何も語らなかったが、過去に何かがあったのか。いずれにせよ、俺だけならまだしも周りにまで被害が出かねない状況だった。電話の主にはそれ相応の落とし前はつけさせなければ)
「基臣……君?」
「ん……ああシルヴィ。どうかしたか」
「あ、いや……。なんでもないよ」
(すぐに元に戻ったけど、今の基臣君……物凄い怖い顔だった。まるで初めて会った時みたいに。いや、それ以上に不気味な何かが……)
基臣の尋常ではない雰囲気にシルヴィアは得も言えない不安を胸の内に抱く。
(何か嫌なことが起きないといいけど……)
本作の中であなたが一番好きなヒロインは?
-
シルヴィア・リューネハイム
-
オーフェリア・ランドルーフェン
-
ミルシェ
-
エルネスタ・キューネ
-
黎沈華