学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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久しぶりにif物です。

オーフェリアが登場回数が少ないにも関わらずヒロイン人気2番手につけたのが意外だったので初投稿です。


if② 愛しのモルモット

 その少年との出会いはいつだっただろうか。

 

 エルネスタが人一倍の努力と類まれなる才によって派閥の中でも権威ある人間となってしばらく、今までやっていた実験がひと段落ついて、暇を持て余していた。部屋の中に籠り続けるなと母親のように説教するカミラから逃げるように抜け出してきた彼女は行く当てもなく学内をふらふらと歩き回る。

 

 しばらく歩くと、やがてアルルカントの敷地の中にある池のほとりへと着く。普段は誰も興味も示さず素通りしていくそこに一人の少年が座っていた。

 

 その少年は最近超人派が買い取ったモルモットらしく、戦闘能力などに関して凄まじい素質があるため学内ではちょっとした有名人になっていた。筋骨隆々としたマッチョな人間かと思っていたエルネスタだったが、意外にもその少年は栄養が足りているのかと心配になるような痩せ気味の体形をしており、彼の纏う雰囲気はどことなく儚げな印象を抱かせるものだった。

 

 なんとなく──それだけの理由だったがその少年が気になってしょうがないエルネスタは声をかけてみることにした。

 

「ねえねえ君」

 

「ん?」

 

 呼ばれた少年は振り返るとキョトンとした顔でエルネスタを見つめる。彼の蒼く美しい瞳に見られるだけでエルネスタは自身の全てを丸裸にされるような気分にされる。

 

 本能的に嫌悪するその感覚に自身の身体を抱えて思わず少年を睨みつけると、罰が悪いような顔で少年は頭に手を置く。

 

「あー……ごめんね。中々初対面の人を視過ぎる癖が抜けなくてさ。気分を悪くしたなら謝るよ」

 

 腰を折って深々と謝罪をする彼にエルネスタは毒気を抜かれる。

 

「……まあ、別にいいけどさ」

 

「それで僕に何か用かな?」

 

「んー……、噂の天才君に興味があってね」

 

 エルネスタのいう事がピンと来なかったのか少し首をひねって考え込むが、やがて何か思い出したのか顔を上げる。

 

「あぁ、ヒルダがそういえば僕の事を天才だとか、そんなこと言ってたね」

 

 少年の言い方にエルネスタは微妙に引っかかりを覚えた。

 

「そういえばって……自分のことなのにまるで他人事みたいじゃない?」

 

「うーん……、まあ彼女のやっている研究とかはあんまり興味がないからね。強くなっても別に嬉しくないし」

 

 その言葉になるほどとエルネスタは思った。雰囲気的に星脈世代であること自体を嫌悪しているわけでは無いが、戦う類の事はあまり好きでは無さそうだった。

 

「じゃあ何に興味があるの?」

 

「特にない、かな。今までは生きるだけでも必死だったからね。趣味なんて作る暇も無かった」

 

「そっか……」

 

 空虚──その言葉が少年を表わすのに一番ふさわしい言葉だった。何もない空っぽなその少年にエルネスタは何故か不思議と興味が湧いてしまう。今まで会ったことの無いようなタイプの人間だからなのか、その答えを求めるように少年との交流をしていくようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その出会い以降、エルネスタは彼の事をモルモット君と呼ぶようになった。彼は生まれて間もない頃に捨てられた孤児で、つけられた名前も知らない──そもそも付けられていないのかもしれないが──ためである。普通の人間が聞けば顔を顰めそうになるような変な呼び名だったが、彼もその名前に関して特に不満は無かったようでその呼び方が定着した。

 

 

 

 それからは時折、少年にちょっかいをかけるというのが日常のルーティーンの中に入り込んでいた。

 

 

 

 とある時、彫刻派と獅子派の間での共同実験で行き詰っていたため、少年に手伝ってもらえないかダメ元で聞いてみることにした。

 

「ちょーっとばかし実験に付き合ってほしいんだけどさー……」

 

 無理で当たり前。奇跡的に受けてくれるなら嬉しい程度に思っていたエルネスタだったが──

 

「いいよ、別に」

 

 意外にもすんなりと承諾を得られることにエルネスタは肩透かしを食らう。

 

「ありゃ、いいの? 実験に付き合ってもらって。超人派(テノーリオ)のこともあるからダメだと思ったんだけど」

 

 あはは、と苦笑しながら少年はその言葉を否定する。

 

「ヒルダは割と適当な所があるから、彼女の実験にちゃんと付き合ってあげれば他は何をしても文句は言ってこないよ。僕の所有権を持ってるのは彼女だから他の超人派の人たちは文句を言えないしね」

 

「なるほどねぇ」

 

 なるほど、確かにヒルダらしい考え方だ。彼女は他者との競争を望んでいるわけでは無く自身の研究に対してのみしか興味がない。故に彼が実験の時間以外にどうしていようが壊されなければ構わないというスタンスなのだろうとエルネスタは思った。

 

 エルネスタが少年を連れてきた事で、獅子派や彫刻派の面々は大喜び。これで研究が前進するかもしれないと言っていた。

 

 

『それじゃあ、さっそく煌式遠隔誘導武装を試してくれ』

 

「うん、分かった」

 

 さっそく実験に協力することになった彼は指示通り煌式遠隔誘導武装を起動して、近くにある大量の武装を思念だけで全て持ち上げる。

 

 

 

 

 

 ──その数、およそ50

 

 

 

「は?」

 

 その異常な数に相手をする実戦クラスの生徒だけでなく、それを観察していたエルネスタ達も驚愕する。何らかの異常かと計測機器確かめるが特に異常がある様子はなかった。

 

「つまり、彼の能力だけであれほどの数を一気に動かしているのか……」

 

 まだ彼の使っている煌式遠隔誘導武装は完成品ではなく、動かせる人間でも2個や3個程度が限界だった。それにも関わらず、桁一つ違う個数を操作するその天才的な感覚は見る者を震撼させるものだった。

 

 当然ながら圧倒的物量で取り囲まれた武装の包囲網を掻い潜れるわけもなくそのまま相手へと殺到していく。

 

「ブハァッ!?」

 

「こんなところかな」

 

 少年が攻撃するときに手加減をしていたのか、特に相手にも目立った怪我はないようでしばらくの間データを計測し続ける。

 

 その様子をガラス越しに見ていたエルネスタ達は戦慄する。恐らく世界を探しても少年のようなイレギュラーは見つからないだろう。それほどに彼の能力が突出していることがデータからも分かる。

 

 実験データをしばらく見ていると、訓練室から少年が帰ってきた。

 

「これでよかったのかな」

 

「お疲れ様だ。体調は大丈夫か?」

 

「うん、特に問題ないよ」

 

 疲れた様子もなく平然としている少年にエルネスタは驚きを通り越して呆れて苦笑する。

 

「ほんと君って噂通りの規格外なんだねぇ……」

 

「…………? そうなの?」

 

 戦闘データを眺めながらカミラは苦笑する。

 

「現時点で1つでも操作できれば優秀というレベルなんだぞ。それをこうもイレギュラーな数値を出されては研究者泣かせと言わざるを得ないさ」

 

「それにしては随分嬉しそうな気がするけど」

 

「それとこれとは話が別だ。研究者泣かせではあるが君のデータは研究を何年も早く進めることができるような素晴らしい代物でもある。研究者にとっては喉から手が出るほど欲しがるだろう」

 

「ふーん……」

 

「もう少し嬉しそうにしなよー、ほらほらー」

 

 身体を密着させてくるエルネスタに少年は鬱陶しそうにせず成すがままに受け入れる。

 

「まったく……」

 

 少し嬉しそうにする少年の姿にエルネスタはどこか心が暖かくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その内、少年といる時間がエルネスタにとって楽しみになっていた。

 

 まだ自覚していなかったが、少年に対して恋心を抱くようになったのもこの頃からだった。明確な理由はなかったがなんとなく波長が合っていたことが一因であるのは間違いなかった。

 

 

 いつものようにちょっかいをかけるために少年を探し歩いていると、彼はいつものように池のほとりで座っていた。

 

 近づいてくる気配に気づいたのか顔を動かさずにその蒼い瞳だけエルネスタのいる方へと動かす。

 

「あぁ、君か」

 

「まったく……。どしたのー、こんなとこでさ」

 

黄昏(たそがれ)てただけだよ」

 

「ふーん」

 

 慣れたようにエルネスタが少年の近くに座ると、彼は池を眺めながらふと思いついたように問いかける。

 

「ねぇ、輪廻転生ってあると思う?」

 

 いきなりよく分からない質問をしてくる少年だったが、今に始まったことではないのでエルネスタも特段驚くこともなくなっていた。

 

「えー……、科学やってる人間にそれ聞く?」

 

「いいからいいから」

 

 少年に促され、一応ある程度は真剣に考える。

 

「うーん……、そうは言っても私の見解は無いの方に一票かなぁ」

 

「そっか……。僕はね、あると思う。人が死んでまた生まれ変わって前世で親しかった人と奇妙な縁を結ぶ。前世では恋人だった人が今世では母親になってる、とかね」

 

「うへぇー。なんかやだ、それ」

 

「僕はそうでもないと思うけどなぁ。どんな形であれ愛しい人とまた会う事ができる。二度と会う事が出来なくなること程寂しいものはないと思うよ」

 

 そう言う少年の顔はまるでそんなことを経験したかのような表情をしていた。

 

「……もしかしてそういう経験があったりとかする?」

 

「あったような、無かったような……。自分でもよく分からないんだ。言葉にするには難しいんだけど、ただ……そういう感情だけは胸の内にあるというか……」

 

 要領を得ない曖昧な言葉を紡ぐ少年にエルネスタは思わず苦笑する。

 

「随分と曖昧な回答だねぇ……」

 

 そのまま会話が途切れ、しばらくの間、二人の間を静寂が包み込む。

 

「…………で、なんでこんな事話したの?」

 

「んー……まあ、ただの世間話だよ」

 

「世間話にしてはずいぶんと壮大すぎる気がするけどねぇ」

 

 相変わらずの少年の一般人とは若干ずれた感覚に呆れるが、自分も人の事を言えないかと心の内で苦笑する。

 

 しばらく経つと、もう満足したのか立ち上がって伸びをした後に帰途へと就こうとする。

 

「おかげで気分転換になったよ、ありがとう」

 

「まー、私もたまには休暇を取らないとだし、良いきっかけになったかな、うん」

 

 たまに実験に付き合ってもらったり、適当に近くの公園で世間話をしたりで平穏な日々が続くとエルネスタは思っていた。

 

 

 

 

 あの日が来るまでは──

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ」

 

 ある日、エルネスタは起きてからというものの妙に強い不安に襲われていた。ただ、少年と一緒にいる時だけは比較的その不安が和らぐのでその日はずっといることになった。彼も嫌がることは無かったのでその優しさに甘えることにした。

 

 しかし、ヒルダの実験に少年が呼び出されると知って何故か不安が強くなる。

 

 その不安がずっと拭えず、無理を言ってエルネスタはヒルダの実験に同伴させてもらうことになった。不安だからという曖昧な理由で他派閥の人間を見学に入れてくれるのか不安だったエルネスタだったが、意外にもヒルダがすんなりと同伴を許可してくれたため、こうして実験場所の外からガラス越しに様子を見ることができていた。

 

「それでは言った通りに動いてもらえますか」

 

「うん、分かった」

 

 ヒルダの指示通りに行動する少年に、先ほどからする胸騒ぎが消えずエルネスタは無性に不安になる。

 

 今、ヒルダがやっている実験は少しずつ星辰力を身体に注入して身体能力を向上させるという試みで、今まで何十人もの被験者のデータが存在し、どのデータを見ても安全であることが保障されているため特に問題のある実験ではなかった。

 

 そう、問題のある実験ではなかったはずだった──

 

 

 

「ふむふむ、やはり感度が良いのか身体能力の伸びは明らかに他の者とは違いますねぇ。……おや?」

 

 実験の途中、少年は突如動きを止めて頭を抱えるように(うずくま)った。何事かとエルネスタ達はガラス越しに彼の様子を(うかが)う。

 

「あ、ぁあああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

「モル、モット、くん……?」

 

 明らかに様子がおかしかった。激痛に悶えるように頭を押さえつけて、床へと這いつくばる。しばらくすると、気を失ったのかうつ伏せの姿勢のままピクリとも動かなくなる。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 実戦クラスの生徒が近くに行って様子を確認するが、まったく呼びかけに反応しない。異常事態だと理解した生徒たちはすぐさま治療院へと通報をする。

 

「早く、治療院に搬送しろ!」

 

 慌ただしく動き回る周りと違い、現実を受け入れられていないエルネスタは立ったまま呆然としている。

 

 

 

 

「……だって、さっきまであんなに元気だったのに……」

 

 

 

 

「あはは、違うよね。まったく……倒れちゃうなんて、最近研究続きで疲れちゃったのかなー」

 

 

 

 

 

 少し過労で倒れてしまっただけだろう。翌日にはまた元気な姿を見せてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなエルネスタの僅かな希望は医師の言葉で粉々に砕かれる。

 

星脈世代(ジェネステラ)の能力で脳を酷使しすぎたことで大脳が深刻なダメージを負ったようです。おそらく、一般的な生活ができない寝たきり……いわゆる植物状態になっているものと思われます』

 

『そん、な……』

 

 

 

 こうして病室でスヤスヤと寝ている彼が植物人間になってしまったなんてまるで信じられない。しかし、目を背けたかった現実からは逃れられない。隣に座っていたカミラから受け取ったハンカチでしばらく泣きじゃくる。

 

 泣きに泣いた後に残るのは、後悔だけだった。少年を無理を言ってでも引き留めておけば──色んなたらればがエルネスタの頭の中を埋め尽くす。

 

 

 そんなエルネスタに火に油を注ぐかのように、病室のドアが開くとそこには少年を植物状態にした張本人、憎き相手であるヒルダが涼しい顔をして入ってくる。

 

「あんた……、どの面下げてここに来たの……」

 

「一応彼は私の実験道具ですからね。まだ使えないか確認しに来ただけですよ、キシシ」

 

 どこまでも自分本位で彼が植物状態になったことなど気に病まないヒルダの様子にエルネスタは怒りがこみあげてくる。

 

「いやぁ、彼は良い素体でしたよ。失うのが惜しかったほどです。貴重な素体を雑に扱ってしまう癖は直そうと思ってるのですが中々上手くいかないものですねぇ──」

 

「ヒルダア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」

 

「おや、あなたがそんなに感情を露わにするのは初めて見ましたねぇ。もしかして、彼に入れ込んでいたのですか? ただの実験道具に過ぎないというのに」

 

 少年を馬鹿にするような物言いにエルネスタは激昂し、ヒルダの胸倉を掴んで今にも射殺さんばかりの視線を向ける。

 

「ふざけるな! あんたのせいで……、あんたのせいで!!」

 

「落ち着け! エルネスタ!」

 

 喚きたてるエルネスタを落ち着かせようとカミラは後ろから羽交い絞めにする。

 

「そんなことをしたらあいつともう二度と会う事が出来なくなるんだぞ!」

 

「ぁ、……っ!」

 

 渋々掴んでいた手を離すと、崩れ落ちるように床に座り込む。

 

「私としてはもう粗方取れるデータは取ったのであなたに差し上げたいところなのですが、後輩が彼をよこせと五月蠅くてですねぇ……」

 

「…………」

 

「ま、後は私の知ったことではないのでこれで彼ともお別れということになりそうですがね」

 

 しばらく少年の様子を確認した後、そのまま出て行き部屋の中はエルネスタとカミラ、少年の3人だけになる。

 

「……あたし、絶対に目覚めさせるよ」

 

「エルネスタ……」

 

 

 

 

 

 それからいうものの、自分自身を罰するかのようにエルネスタは研究へと没頭する。その鬼気迫る執念は他の人間が近寄りがたいものだった。事実、彼が倒れてからしばらく。所属する派閥からは追い出され、時折カミラが訪ねてくるものの一人だけでの孤独な作業が時間の大半を占めていた。

 

 

 

 全ては彼を手に入れるため

 

 

 全ては彼を目覚めさせるため

 

 

 

 しかし、エルネスタには医学に関しての知識は皆無に等しい。

 

 そのため、星武祭での優勝は必須だった。しかも、超人派から彼を手に入れる、そして意識を取り戻させる、これらの願いを叶えるためにも少なくとも2回は優勝する必要があった。

 

 頼れる仲間も限られるため険しい道のりだが、優勝のために彼女の持ちうる全ての知識を駆使して戦闘用の自律擬形態を作り上げる。不幸中の幸いか、彼の残したデータは非常に有用で彼女自身も驚く程のスピードで研究は進んでいく。唯一の懸念事項だった煌式武装に関してはカミラにお願いして作成してもらうことになった。

 

 

 

「エルネスタ、あまり根を詰めすぎるなよ。身体に障る」

 

「うん、分かった」

 

「その言葉は前も聞いたんだがな……。まあいい、倒れてくれるなよ」

 

「もちろん。あたしが倒れたら全てが台無しになっちゃうから」

 

「……エルネスタ」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 結果、研究は実を結んで人工知能を搭載した自律擬形態(パペット)で苦労することなく王竜星武祭を優勝することが叶った。

 

 

 

「やっと……ここまで来た……」

 

 目の前には眠り続けたままの少年がいた。一度星武祭を優勝したことで願いとして彼の身柄を超人派(テノーリオ)から引き受けることを望んだ。後は──

 

「君を目覚めさせるだけだよ……、モルモット君」

 

 病室で眠ったままでピクリとも動かない彼の手を優しく握り、何度も、何度も、その温もりを直に感じる。その手はずっと寝たきりなんて信じられない程に暖かい。

 

 しばらくその感触を堪能していると、いつの間にか時間は過ぎ去っていたのか日も暮れ始める。

 

 そろそろ帰ろうかと思ったとき、病室のドアが開いた。

 

「ここにいたのか」

 

 振り返るとカミラが見舞いの品をいくらか籠に入れて立っていた。

 

「……カミラかー。もー、脅かさないでよ。びっくりしたじゃん」

 

「レナもいるもん!」

 

 可愛らしい声がしたのでよくよく見てみると、カミラの背中からぴょこっと小さな女の子が現れる。その正体は星武祭優勝のために開発した戦闘用の自律擬形態(パペット)であるレナティだった。一人で作り上げたという経緯もあって、レナティはエルネスタの事を母のように見ている。

 

「レナもいたんだ、気づいてあげれなくてごめんねー」

 

 少し拗ねているレナティの頭を優しく撫でてあげると、徐々にその機嫌は良くなっていく。撫でられることに満足したのか、レナティはようやくベッドで寝ている少年の事に気づく。

 

「おかーさん、その人だれー?」

 

「…………彼はね、レナティのお父さんだよ」

 

「おとーさん?」

 

「そう……お父さん」

 

 思わず嘘をついてしまう。エルネスタは彼とは結婚どころかデートやキスの一つもしていない。

 

「エルネスタ……」

 

 少し不思議そうな顔をしたレナティは少年の顔にペタペタと触れる。

 

「うみゅー……。でも、なんでおとーさんは起きないの?」

 

「病気にかかっちゃってね、お父さん起きれないんだ。でも、次の星武祭もレナティが優勝してくれたらその病気も治せるんだよー」

 

 自身の願いのために実の娘のように愛しているレナティを利用するなんて、我ながら最低な人間だとエルネスタは自嘲した。天国や地獄があるのなら間違いなく地獄に落とされるだろうという自覚は彼女の中であった。それでも、もう後に退けないことを理解していた。

 

「そっか! それじゃあ、レナ頑張る!」

 

「うん……いい子……」

 

 再び頭を撫でてあげるとくすぐったそうにするレナティに思わず頬が緩む。まだ起きることの無い少年の手をギュッと握って祈るように呟く。

 

 

 

「待っててね、もうすぐ起こしてあげるから──」

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

「……またあの夢、か」

 

 寝汗でびっしょりの寝間着の気持ち悪さに少し顔を顰めながらもベッドから身体を起こして、先ほどまで見ていた夢を思い返す。

 

「モルモットくん……」

 

 顔立ちは違うが基臣と夢の中の「彼」はどことなく似ている気がした。

 

 

 こんなのただの夢と断じてもいい内容だった。

 

 しかし、夢と断じて忘却の彼方へと押しやろうとすると心が締め付けられるような感覚がエルネスタを襲う。夢の中の自身が忘れてはいけないと訴えかけてくるかのように。

 

 

 

 それからは基臣と会えば密着して色仕掛けなどのスキンシップを繰り返して他の女よりも自分を見てもらおうと必死になっていた。

 

 失っていた時間を取り戻すかのように

 

「らしくないこと、しちゃってるかなぁ私」

 

 柄にもなく基臣に色仕掛けを繰り返している自分に苦笑する。

 

 それでも――

 

 ── 二度と会う事が出来なくなること程寂しいものはないと思うよ

 

「そうだね……その通りだよ……」

 

 

 

本作の中であなたが一番好きなヒロインは?

  • シルヴィア・リューネハイム
  • オーフェリア・ランドルーフェン
  • ミルシェ
  • エルネスタ・キューネ
  • 黎沈華
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