学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
クインヴェールの翼を今更ながら3巻まとめて全部購入したので初投稿です。
皆もクインヴェールの翼を、買おう!(ダイマ)
春先、桜も舞い散る時節。1年に1度の祭典、学園祭が催されるということもあり、基臣がいた公園にはたくさんの観光客が待ち合わせのために集っていた。普段は変装をすることもない基臣だったが、シルヴィアの指摘もあり普段よりも目立たない服装を身に纏っていた。
しばらく待っていると、変装をしているものの可愛らしい恰好をしたシルヴィアがやってくる。
「基臣君、おまたせー」
「あぁ、シルヴィか。こうして遊ぶのも久しぶりだな」
「アイドル活動が結構忙しかったからねー。って、基臣君割と変装が様になってるね。今まで変装してなかったからダメダメな格好で来るんじゃないかと心配だったけど」
いつもと違って今日の基臣は、茶髪に黒縁の伊達眼鏡、服もグレーなどの目立ちにくい色で出来る限り存在感を薄めるような恰好をしていた。
「小さい頃に変装に関しては父から習ったからな。お前程ではないだろうが、この程度の変装だったら俺にも出来る」
「そっか。まあ、その感じだったら他の人からバレることも無いだろうし、さっそく行こっか!」
「あぁ」
シルヴィアに手を引かれるままに基臣は学園祭を巡ることになった。
レヴォルフは学園祭といっても
最初の内はシルヴィアが何回か遊んでいたが、序盤はビギナーズラックで勝つものの後から徐々に負けが込み続けるという状態になり、何故かやるつもりのなかった基臣に途中から交代することになっていた。
今までやったこともない賭け事にどうしたものか、と内心思っていたが――
「またあの小僧が勝ったぞ!」
「どうなってやがんだ!?」
「また勝っちゃったよ基臣君!」
「分かったから落ち着け」
第六感で勝ちそうな勝負や負けそうな勝負を見分けれることもあり、結果は勝率8割以上という大金星だった。
興奮するシルヴィアを
「もうやめるぞ」
「えー、どうして。別に私も楽しんでるからもっと続けてもいいんだよ」
基臣は野次馬精神旺盛な周囲の客たちをチラリと見る。中には黒服のガードマンらしき人物たちが基臣たちをイカサマをしていないか監視している様子が見られた。
「流石に勝ちが続くと目立ち始める。今は俺だけが目立つ程度で済んでるがこのままだと最悪お前の正体までバレかねないぞ」
「……そっか。それならしょうがないか」
少し残念そうな顔をしながらも納得したのかシルヴィアは基臣の引く手にそのままついていった。そのまま換金所へと移動してチップを金に換えるとカジノエリアから逃げるように二人は出て行った。
――が、目立ちたくないという基臣たちの希望は裏切られる。
「おい、そんな男置いて俺達と楽しい事しようぜぇ!」
そろそろ次の学園に向かおうかと二人が話し合っていると、いかにもな柄の悪い生徒達がシルヴィアに絡んできた。当然のように胸にある校章はレヴォルフで、流石のシルヴィアもうんざりする。
「ちょっと裏まで来いよ」
「ハァ……。これがあるから嫌なんだよねぇ、ここ。全校回るって言ったのは私だからしょうがないけどさぁ」
「仕方ない、逃げるぞ」
「おいおいおい!逃がすと思ってんのか嬢ちゃん?そっちのガキはいいとしてもお前だけは逃がさ……」
「何の騒ぎかと寄ってみればよぉ!随分と楽しそうだなぁ!」
いつの間にか現れていたロドルフォはゴロツキ達の内の一人の肩に手を置いた。
「お前は、ロドルフォ……」
「兄貴!どうしてここに……って、ぐぇっ!?」
その肩に乗せていた手が丸刈りの男の頭へと移ると、そのまま掴んでミシミシと嫌な音を立てる。
「まったく、バカは強ぇ奴と弱ぇ奴の区別がつかないから手に負えねえよなぁ!」
軽く締め上げて気絶させると、興味を失ったようにそこら辺の地面に丸刈りの男を放り捨てる。
「また面倒ごとになるかと思ったが、助かった」
「ったく、俺も暇じゃねぇんだからよぉ!お前はまだしも、そっちの嬢ちゃんはもっと気配を消すことを覚えた方がいいぜぇ!」
「うっ……」
ロドルフォの指摘がグサリと刺さったのか、シルヴィアは苦い顔をする。基臣はそんな彼女を慰めながらロドルフォに礼を言ってその場を立ち去る。
「ふぅ……、アクシデントはあったけどなんとかなったねー。次はアルルカントだよね」
「そうだな、俺の用事もついでに終わらせておきたいから……ん?」
アルルカントを出て次の場所に行こうとしたとき、明らかに異質な
彼女も基臣がいることに気づいたようで近づいてくる。
「久しぶりね基臣」
「あぁ、3週間ぶりか。……それよりも何故俺の変装が分かったんだ?そんなに簡単に看破されるものでは無いと思ったんだが」
「明らかに他の人と比べてあなたの運命が強大だから、かしら……」
距離感の近い二人にシルヴィアは嫌そうな顔をする。
「基臣君……オーフェリアとはどういう関係なの……」
明らかにさっきまで良かったシルヴィアの機嫌が急降下しているのに気づいた基臣は、頭を掻いてオーフェリアと知り合った経緯を話したものかと思案する。
オーフェリアはそのあまりにも別格な強さや瘴気を操るという見栄えが悪い能力も相まって、好いていない人も少なくない。実際、基臣も出会って初対面でいきなり攻撃を受けるという普通の人間なら悪印象一直線な歓迎を受けている――基臣の場合は第六感で敵意を感じなかったから特に問題にはしなかったが――のだから。
「再開発エリアでたまたま知り合っただけだ。案外話してみると面白い奴だぞ、意外にも花の話とか――」
「基臣、その事は言わないで」
「む、そういえばそうか。……まあ、ともかくだ。オーフェリアはいいやつだからシルヴィも仲良くしてやってくれ」
「……基臣君のバカ」
シルヴィアの小さな呟きは、確かに基臣の耳に届いたが何が彼女を不機嫌にさせたかが理解できないでいた。
基臣は大きな勘違いをしていた。シルヴィアが懸念していたのは、オーフェリアとつるんで基臣に危害が及ぶことに対してではなく、彼女が基臣の心を奪うのではないかという事に対してだった。
第六感という能力を持っていながら人の心を正しく理解できないでいる自分に嫌気がさすものの、下手な回答をすると手痛い結果が返ってくるのを今まで基臣は散々経験していたので、とりあえず何らかの原因になっているであろうオーフェリアとは手短に会話を済ませて別れることにした。
「それじゃあな、オーフェリア」
「ええ、また会いましょう」
オーフェリアと別れ今度こそ他の学園へと向かって始めるとシルヴィアの機嫌は段々と戻っていく。だが――
「シルヴィ……少し近すぎないか」
「ん?別にこんなものだと思うけど」
明らかにシルヴィアの距離感が先ほどよりも近くなっていた。大して問題にはならないかと基臣は判断すると、腕を絡めてくるシルヴィアをそのままにしておく。
「アルルカントだけど、研究成果の発表会みたいな感じになってるしそのままスルーして他の学園に行くって案もあるけど――」
「いや、ちょっとアルルカントには野暮用があるから寄ることにしよう」
「野暮用?」
「まあそこまで大した用事ではない、すぐに終わる」
アルルカントへと着くと、基臣はシルヴィアを連れて慣れたように研究エリアの方へと向かっていく。
「相変わらずここは機能面に全振りしているな。それに、学園祭にもあまり興味ないようだしな」
「そうだよねぇ。人の出入りも他の学園に比べてそこまで無いようだし」
「まあさほど学園祭のお祭り的な側面は重視していないんだろうな。っと、着いたぞ。ここだ」
研究エリアの一角にある研究室の扉をノックする。すると、いつものようにカチャリとロックが外れる音がしたのでそのまま部屋の中へと入る。
「おい、来たぞ」
「おー、来たねー剣士君」
「むっ……」
「待っていたよ、誉崎基臣。と、君は……」
「俺の連れだ、学園祭を回るついでにここに来るつもりだったからな」
「なるほど、それなら手早く済ませた方がいいな」
椅子から立ち上がったカミラはデスクの前に基臣達を案内する。
「これが、君の要望の品だ」
デスクの上には煌式武装にしては若干大きめのブレードが一振りと手榴弾サイズの遠隔煌式誘導武装が10個用意されていた。
「まだ完成品と言うには不十分な物だがようやくある程度納得できるものが完成してね。待たせて済まなかった」
「いや、十分だ」
「まだまだ小型化できそうな感じがするから、そこらへんも修正できれば完璧だねー。後は実戦データがあれば完璧といったところだけど」
「そこらへんは
「りょーかい。……っとそういえばなんだけどさ」
「どうした?」
「流石にその魔剣ちゃんもガタが来始めてるんじゃないのー?」
「あぁ、その事か。そうしたいのは山々なんだが……。ピューレがどうしてもイヤだと言って聞かなくてな」
最近基臣が困っていたのが、ピューレが彼以外の他者による修理を拒否していることによる性能の劣化であった。いかに使用者に絶大な力をもたらしてくれる純星煌式武装と言えども、整備しなければウルム=マナダイトの出力をそのまま100%出し切れず、確実に性能は劣化していく。
市販の煌式武装を基本的に利用することでピューレの使用を鍛錬と緊急時だけに抑えて劣化を極力抑えているが、それでももう使い始めてから半年以上。基臣だけによる簡易的な修繕には限界が来つつあった。
(オーフェリアを受け入れたこともあるし、その内なんとかなるか)
「ピューレが心を開くようになったら、その時はお前に任せる」
「そっか。じゃあその時はよろしくねー、魔剣ちゃん」
ニコニコとピューレが閉まってあるホルダーを見るが、当の本人は嫌悪感を包み隠さず露わにしている。
「……この分だとエルネスタに心を開くにはまだまだ時間はかかりそうだがな」
「あ、そうだ剣士君。ちょいとこっち来てくれる」
「ん?どうした」
手招きして近くに来るよう指示するエルネスタに基臣はそのまま近づく。
そしていきなり、エルネスタはシルヴィアに向けて意味深げな笑みを浮かべながら基臣の頬に口づけをする。その目は私の得物に手を付けるなと言わんばかりの
「なっ!?」
「……おい。人前でするものじゃないだろう」
「にゃははー。いやぁ、ついついー」
聞く人によってはエルネスタといつもキスしてるのかと誤解しかねない言い方をする基臣に、その場を包んでいる状況を正確に理解しているカミラは溜息を吐く。その懸念は正しく、シルヴィの機嫌は時間が経つごとに悪くなる。その様子を見てエルネスタはしてやったと言わんばかりの表情をしていた。
「ふふーん」
「むぅ…………っ!」
学園祭始まってから二度目の修羅場にさすがに疲れたのか基臣は溜息を吐く。カミラを見ると、私を巻き込むなと言わんばかりに顔を反らされる。どうやら自分でケジメを付けなければならないと理解した基臣はシルヴィアの手を掴む。
「……はぁ、邪魔したな。行くぞ、シルヴィ」
「あっ……」
無理やり手を引いてシルヴィアと研究室から抜け出すと、人のいない落ち着いた場所で止まる。
「基臣君、いきなり引っ張ってどうし……っ!?」
シルヴィアが何事かと基臣に問い詰めようとすると、彼は優しく、そして力強く抱きしめてくる。
(今まで俺にあんな感情を向けてきたのは、シルヴィの先生がいつの間にか遠い存在になってしまった経験からなのかもしれないな)
基臣がシルヴィアから感じていたのは何も嫉妬だけでは無かった。孤独感や無力感、そういう類の感情まで感じ取っていた。それは彼女にとって基臣は大切な存在で、遠くに行ってほしくない――そんな意味を持っているように感じた。
だから、基臣にできる事は自分の存在を身近に感じさせること。遠く離れていかないという事を感じさせるのが何よりだと判断した。
「お前が嫌だと拒絶しない限り、これからも傍に居続けるよ。安心しろ」
「…………うん」
「……まあ、言葉だけでは誠意も伝わらないだろう。ほら」
あっ、というシルヴィアの名残惜しそうな声を聴きながら抱擁を解くと、基臣は彼女に向けて頬を差し出す。
「えっ?どうしたの、いきなり」
「さっきのエルネスタみたく頬にキスしていいって言ってるんだ。ほら、遠慮するな」
「……ふぇっ!?」
いきなりの提案にシルヴィアの脳内はショート寸前になる。
生まれてこの方、キスの一つもしたことの無い初心なシルヴィアはその提案にポンコツ
頬をシルヴィアに差し出した基臣だったが一向にシルヴィアからキスしてくることはない。痺れを切らして彼女を見ると、もじもじとした様子で左右の人差し指を突き合わせてモニョモニョと何やら呟いていた。
「あ、あの、そのですね……」
「ん?」
「あうあう……」
明らかに動揺して事態を一向に進展させないシルヴィアにどうしたものかと考えていた基臣だったが、このままでは
時間にして3,4秒と言ったところだろうか。しかし、シルヴィアにとってそれは長いようで一瞬に感じた。
「ふぇ……っ?」
「これでいいか」
シルヴィアの顔は赤く茹で上がる。第六感が運んでくる彼女の感情には、様々なものがごちゃまぜになっていて基臣には彼女が何を考えているのかよく分からなかった。
「あ、うん……。その、ありがとうございます」
俯きながらプルプルとスライムのように震えて表情が見えないシルヴィアを少し怪訝に思いながらも女の子のこういった謎の行動は今に始まったことじゃないとアスタリスクに入ってから今までの記憶を思い出す。
最終的には羞恥のような感情が大多数を占めているシルヴィアを見て、それなら最初からそんな要求をしなければいいのでは、と思ったが口に出したら腹パンされる未来が見えたため口をつぐむ。
少し気まずい雰囲気が両者の間に流れていたが、基臣は話の流れを変えるために近くにあった時計を見るとお昼時で、ランチに丁度いい時間になっている。
「時間もちょうどいいし昼飯にするとしよう。その後は、今日の内に界龍まで見て回るか」
「う、うん!」
二人は近くにあるレストランで食事を取ったあと界龍へと移動することにした。
自分の学校ということもあり、必然的に基臣が校内をシルヴィアに案内することになる。
「あれって
「あぁ、そうだな。確か、あいつと兄の沈雲の星仙術は観客受けがいいだろうからと今回の学園祭のパフォーマンス役に抜擢されたらしい」
「へぇ、そうなんだ」
木派や水派の演目を回りながら楽しく会話をしながら廊下を歩く。
――その瞬間。
「えっ!?」
「……はぁ、いつものか」
二人の周りの万能素が蠢いて景色が歪んだように見えると、次の瞬間、さっき立っていた場所とはまた別の場所である板張りの広間にいつの間にか立っていた。
「ようこそ儂の居城へ」
奥には椅子に座って茶を啜っている星露の姿があった。状況を掴めていないシルヴィアは何が起こったのか理解できていない様子で辺りを見回している。
「おい、星露」
基臣は咎めるような目で星露を見ると、くつくつと喉を鳴らして笑う。
「いやぁ、すまんの。いきなり連れてくるのはさすがに行儀が悪かったかえ」
「俺はいつもの事だから構わんが、シルヴィが混乱するだろう」
「音に聞く歌姫殿の実力を見たくて、ついな。今のところ六花園会議では運悪く会えてないしのぉ」
「貴方が……《万有天羅》の星露……?」
「いかにも、儂が3代目の《万有天羅》じゃよ」
「で、わざわざこんな場所まで強引に連れてきたんだ。顔が見たかっただけでは無いだろう?」
「お、そうじゃそうじゃ。
「こ、恋人……」
「あの、とはどういう意味だ星露。そもそも俺達は――」
基臣の抗議を指を鳴らして部屋が暗転することで黙らせると、部屋の中心に半透明の地球が映し出される。
「これは……?」
「この世界の成り立ち、それをあの……なんじゃったかのぉ……」
「……
「お、そうそう。ホログラムで再現したものじゃよ」
そんな事を喋っている間に、自転していた地球に突如として隕石が現れ、降り注ぐ。
「地球の周りに隕石がいきなり、現れた? これって《落星雨》の再現?」
衝突した隕石は地表を
「然り。このアスタリスクが成り立つ原因となった出来事ともいえるものじゃが……授業じゃと天文台はこの隕石の襲来を予測できなかったと言っておる」
「まさか本当にいきなり、パッと現れたってこと?」
「どれ、次は視点を変えて見てみることにするかの」
シルヴィアの質問に答えず自分勝手に進めていく星露。指を鳴らすとホログラムの地球が間近に迫り、丁度隕石が地表に落ちていく様子を俯瞰できる視点に変わる。
次々と地表が抉られていくその様子にシルヴィアは何が変わったのか分かっていない様子だった。しかし、基臣は何か思い至ったように呟く。
「……誰かによって仕組まれたものか」
「左様」
「え?どういうこと?」
「星露、ちょっと操作するぞ」
事前に許可を得て、基臣がホログラムを操作すると最初に現れた隕石が地表に衝突した直後の画面で停止する。
「この映像の中に見覚えのあるモノが見えるはずだ」
「見覚えの、ってそんな簡単には……あっ!」
「そう、お前が能力を行使するときに現れる魔法陣だ」
停止した画像の中にはシルヴィアが《魔女》としての能力を行使する際に発生するときに出てくる魔法陣が映っていた。とはいえ、規模は比較するのもおこがましい程、段違いに大きい。
「純星煌式武装が能力を発揮するときもこの魔法陣は発現しない。つまり、この魔法陣は自然現象では発生し得ない物だ。あり得るのは人のみ。とはいえ、正直言ってこの落星雨の犯人に関しては今の俺達には関係ない事だから気にするようなことではない。むしろ肝心なのはこの現象を人為的に引き起こせるという点にある」
「えっ?」
まだちゃんと理解しきれていないシルヴィアに対して基臣はかみ砕いて説明する。
「要は、この落星雨よりも遥かに昔の時代、同様の事象があったということだ」
基臣はホログラムを消して、明かりをつけると近くにあった柱に寄りかかって、導き出した考えをシルヴィアへと語る。
「授業で習ったときにもこの《落星雨》によって星脈世代が誕生したという部分が不可解だった。落星雨以前にもピューレのような純星煌式武装があったのだから、それの繰り手となる星脈世代がいないわけがない」
「……まさか、少ないヒントでここまで解を導き出せるとはのぉ。ついでに言えば、かつて存在していた星脈世代は仙人や魔女などと呼ばれておったがのぉ」
「うーん……やっぱりすんなりとは受け入れられないかなぁ。何しろ、スケールが地球規模のことだし」
シルヴィアのその言葉に星露はくつくつと笑う。
「まあよい。どうせ知ったところで何かが変わるというわけでもないしのぉ」
「それよりも、私としては何の意味があってこんなところで学生なんかしてるのかな、っていうのが気になるところではあるんだけどね」
「……何の意味、じゃと?」
瞬間、部屋中に殺人的なまでの威圧感が放たれる。身体は寒気を覚え、空気は絶対零度の場にいるかのような貫くような痛み、臓腑は星露に掴まれているのではないかと錯覚するほど。まさにその実力は規格外と呼ぶにふさわしいものだった。
「決まっておろう、儂が望むは強きものとの闘争じゃ」
星露は楽しそうにけらけらと笑いながら語る。
「今の若人たちは才気に溢れておる。が、自らの素養に気づかせ、それを引き出させてやらねば意味がない。じゃから儂がその役を買って出たという訳じゃよ」
「家畜を育てる畜産家みたいな事を言うんだね」
激しく浴びせられる威圧感の中、反抗するように皮肉るような発言を星露へと放つ。
「ほっほっ、面白い物の例え方をするのう、歌姫殿。じゃが、あまりにもいい香りを放たれると基臣の恋人と云えども、我慢の限界になるぞえ」
星露の瞳が得物を狩るような獣のようになると同時に――
「ほどほどにしておけよ、星露」
シルヴィアと星露の間に割って入るように基臣が立ち阻む。
「おぬしが儂に物を言うとはのう。じゃが、実力差は弁えてから物を言え」
それと同時に星露からかつてない程のプレッシャーが放たれる。
「……少しは自重しろっ」
さすがの基臣もその圧迫感に額から汗が
「師父、学園祭の資料をまとめておきまし……って、なにをやってるんですか!」
開け放たれていた広間の入り口から驚いたような声が飛んでくる。それと同時にさっきまで感じていた凄まじいプレッシャーは嘘のように消えていく。
「いいところに来たわい、
「いい加減にしてくださいよ師父!いくら師父でもこれ以上の問題行動は上からのお咎めが出かねませんからね!」
「すまんかったな歌姫殿。いくら恋人と言えど戯れが過ぎたようじゃな」
「ううん、本気じゃなかったみたいだったしね」
そう言って、シルヴィアと星露はクスリと笑う。
「それで師父、こちらの方々は?」
「うむ。基臣とクインヴェールの序列一位じゃ。粗相のないようにな」
「はぇ……?」
虎峰は口から間抜けな声が漏れ出て、何を言っているのか分からないポカンとした顔をしている。
基臣はシルヴィアに目配せすると、二人で同時に変装を解く。先に変装が解けた基臣を見た時はそこまで驚いた顔をしなかったが、その次に変装が解けたシルヴィアを見た瞬間その顔は驚愕に染まる。
「え、えええええええええええええっ!?なんでシルヴィアさんがこんなところに!?それよりも……」
虎峰は基臣に近づくと服を掴んで激しく問いただしてくる。
「ちょっと、基臣くん!シルヴィアさんとはどういう関係なんですか!」
「どういう関係と言われても、たまたま知り合って今では仲良くさせてもらっているが」
「いやいやいやいや!?それだけではないでしょう!まさか……」
「はぁ……。お前、シルヴィのファンだったのか」
虎峰がシルヴィアのファンであることを察した基臣は面倒くさいことになったと内心思った。
それから虎峰から追及が幾度となく来たものの、さすがに弁えているのか必要以上に探ってくることは無かった。しばらくすると星露達に別れを告げ、界龍から出るとシルヴィアをタクシー乗り場まで送り届ける。
「あはは、色々とありすぎて今日は疲れちゃったかな」
「そうか、まあ無理もない。今日はゆっくり休め」
「うん、そうするよ」
タクシーに乗った後手を振って帰っていくシルヴィアを見送った基臣はそのまま界龍へと帰っていく。……虎峰に見つからないようにしながら。
翌日、ガラードワースの近くにある公園でシルヴィアを待っていた基臣だったが昨日と同じ時間にシルヴィアが来ないため、チラチラと時間を確認していた。
(おかしいな……。そんなに時間にいい加減な性格をしてはいないはずだが)
「おまたせー!」
「いや、そこまで待ってな……い?」
「どう、基臣君?」
肩が見えるような露出の多い服装にいつもよりも3割増しで丈が短いスカートという組み合わせに、さしもの基臣も感じることの無かった恥ずかしさのような感情がこみあげてくる。
「……いいんじゃないのか」
その態度を見て、基臣の様子に気づいたのかシルヴィアは妖艶な笑みを浮かべると抱き着いてその豊満な胸を当ててくる。昨日よりも全体的に薄い服装なので身体の柔らかさがダイレクトに基臣へと伝わる。
「おいっ、シルヴィ……!」
「ふーん、基臣君もそういう顔をすることもあるんだねぇ。ほらほら~」
図星を突かれてしまいニヤニヤと見てくるシルヴィアに基臣は敵わないなと内心思った。
「あぁ、もう……。ほら、行くぞ」
話を打ち切るように強引に最初の目的地であるガラードワースへと向かおうと歩き出した基臣に、シルヴィアは引きずられるようにしながらついていった。
「あっ、もう基臣君!少しは優しくエスコートしてよー!」
そんなこんなでシルヴィアを連れてガラードワースにやってきた基臣。
校内は他の学園よりも綺麗にされていてどことなく気品な校風を感じさせる。とはいえ、やはり思春期の男子女子がメインとなって企画するとあって、イベントの内容自体は屋台やパフォーマンスなど普通に学園祭らしさを感じさせるものが揃っている。
「堅そうなイメージがあったが意外と普通に学園祭らしい事をしているな」
「ははは……、さすがに年に一度のお祭りだからガス抜きみたいな側面もあるんじゃないかな。とはいえ、こんな時でもトラブルの少なさに関してはさすがガラードワースって感じだけども」
基臣が見回してみると、シルヴィアの言う通り他の学園に比べて明らかにトラブルが起きているような様子は無い。元々の校風が、という事もあるが現在の生徒会長になってから更に秩序がしっかりと保たれているという話はアスタリスクでよく話題に上がっていた。
「なるほどな……」
「ちょっといいかな」
「ん?」
後ろからの呼びかけに応じて振り返ると、長身で金髪の美男子が立っていた。知り合いかと思って記憶から引っ張り出そうとするがどうやらそうでは無さそうだった。
「あ、久しぶり」
「3か月ぶりだったかな、ミス・リューネハイム」
「知り合いかシルヴィ?」
「うん、この人はガラードワースの生徒会長さんだよ」
「君が誉崎基臣君だね」
手を差し出してきたため、それに応じた基臣は記憶の中から目の前の人物の名前を引っ張り出す。
「そういうお前は、アーネスト……フェアクロフ……だったか?」
「君に名前を覚えてもらってるなんてね。人との関わりを嫌がるタイプの人間だと聞いていたから意外だよ」
「お前が《聖剣》の使い手だという話ぐらいはアスタリスクにいれば必ず耳に入る」
「そうか……、それは光栄だよ。そういう君こそ、この前の序列トーナメントの映像、見させてもらったよ。中々面白い事をするね」
「あ、それ私も見たよ。目隠しに木剣で挑んだんでしょ?」
「あぁ、あれか」
「しかも開始1分は相手に攻撃の機会を譲ることまでしたんだからねぇ。あれ、完全に相手は戦意消失したんじゃないかなぁ」
「ただ悪戯に弄ぶ目的でやるのなら褒められた行為ではないけど……何かしらの理由があるのかい」
アーネストの見定めるような視線を受けるものの、基臣としては悪意を以って行った事ではないので正直に説明する。
「実力の差をしっかりと見せつけて、トーナメント外での決闘を挑んでくる人間を出来る限り出さないための措置だ。学園が関与しない決闘は性質上トラブルも起こりやすい。そこら辺は決闘を禁止しているガラードワースなら理解できる所はあるだろう?」
「まあ、確かにね」
ガラードワースが他学園との差別化が図られている点として学生間での決闘の禁止がある。思春期という良くも悪くも不安定な時期は、序列が絡んでくる決闘はトラブルが発生しやすいため、イメージを悪化させない目的があるのだと基臣は推察していた。
「まあそのために対戦相手を踏み台にしてしまったのは若干申し訳なかったから、もちろん後で謝罪はしに行った」
「なるほど、そういう経緯だったのか。疑問が解けたよ、ありがとう」
基臣の序列トーナメントに関する質疑応答が終わった後もお互いに会話を重ねていく。
「そういえば、何故わざわざ俺達に会いに来たんだ」
「今回君たちに、いや君に会いに来たのは《聖剣》が望んだことなんだ」
「《聖剣》が?」
アーネストのホルダーに入っている
「前、君と出会った六花園会議の時もそうだったけど《聖剣》がこんな反応を示したのは初めてだから僕個人としても君には興味があったんだ。実力も相手にとって不足なしだし――おっと、すまない電話だ」
二人に断りを入れて電話に出たアーネストの方から、不満げな女性の声が響いてくる。詳細は聞き取れないものの、彼が業務を一時的に抜け出してやってきたことが伺えた。
「分かった、すぐに戻るよ。あぁ、分かってる」
しばらくの会話の後、電話を切るとアーネストは申し訳なさそうな顔をして二人に謝罪する。
「すまない、これから急用があるから僕はここまでで失礼させてもらうよ」
そのまま丁寧な所作で立ち去っていったアーネストに基臣はどこか眩しく感じていた。
「さすがは清廉潔白な騎士サマ、といった感じだったな。身体能力は若干こちらが有利だろうが、技量はおそらくあちらが上だろうか……。今度の獅鷲星武祭では厄介な相手になりそうだな」
「まあ前回の
シルヴィアの意地悪な質問に基臣は迷うことなく頷く。
「ああ、当然だ」
強敵の存在を近くで感じたことで新たな目標を立てることができた基臣は有意義な時間を過ごせたなと感じた。
その後星導館の学園祭を回り、六学園の中で最後となるクインヴェールの学園祭にやってきていた。
「本当に女子だらけだな」
「そりゃそうだよ。というか前も来てたでしょ?」
「まあそうだが、前は人が少ない時間帯だったから実感しづらかったのも……ん?」
『じゃあ次の曲、いっくよ~!』
「あれは……?」
聞き覚えのある声に引かれてその方向へと目を向けると、見覚えのある5人組グループがライブをしているようだった。
「ルサールカか」
「そ。あの子たち、私を超えるような有名人になろうって頑張ってるみたいで、ペトラさんもああやってイベントを組んでくれてるらしいよ」
「なるほど……、そういえば前は見なかったメンバーが1人いるようだが」
「あぁ、マフレナちゃんのこと?彼女は1年後輩だから今年からクインヴェールに入学して、ルサールカに入ったんだよ」
後輩のはずなのに、ルサールカの中では一番しっかりしてるけどね――と苦笑いするシルヴィアになるほどとうなずく。彼女に注目すると、他の4人に比べて練習が足りていないのか若干ミスをするところが見受けられた。とはいえ、他のメンバーがカバーしてくれているため本当に集中して聞かないと気づかないレベルではあるが。
全員、顔は活き活きとしており、心からライブを楽しんでいることが伺えた。客の入りも、半年ほど前に愚痴っていた程少ないわけでもなく、小規模のライブ会場にしては上々といえる数だった。
「見ていくとするか」
「うん、そうしよっか」
近くに設営されていたパイプ椅子に座り、ルサールカのライブを観る。
彼女たちの歌は快活、元気という印象でシルヴィアとはまた違った魅力があった。
また、メンバーのそれぞれのキャラがファンにとって身近に感じさせるという点はシルヴィアを上回る強みと成り得るのかもしれない。そんな事を素人ながらに考えていた基臣だったが、いつの間にかライブは終わる。
「いいグループになるだろうな」
「うん、あの子たちならきっと私に追いついてくる。私も頑張らないとねー」
椅子から立ち上がり、ライブ会場を後にする。
その後もシルヴィアの案内で校内を一通り回る。二日間ぶっ通しで学園を巡り歩いていたからか、シルヴィアの顔にも少し疲れが見られ始めた。
「そろそろ休憩するか」
「そうしよっか」
人通りの少ない休憩場所へと移動してシルヴィアをベンチに座らせると、基臣は飲み物を買いに自販機のある場所へと向かうことにした。
「飲み物を買ってくる。何か希望は?」
「うーん……じゃあ、りんごジュースで」
「分かった。そこで待っていてくれ」
シルヴィアからの注文を承り、自販機へと足を運んだ基臣は特に迷うことなく商品を選んでそのまま来た道を戻っていく。戻ってくるとベンチには帽子だけが取り残されていて、座っていたはずのシルヴィアはいなくなっていた。
「シルヴィ……?どこに行ったんだ……」
先ほどまでベンチに座っていたはずのシルヴィアがいなくなったことで不審に思う基臣だったが、そんな考えを打ち切るように電話がかかってくる。
「ちっ……、こんな時に一体誰からだ」
端末を開いて誰から来たのか確認すると、エルネスタの名前が書いてあった。
「エルネスタ……?」
着信拒否するのも後で話が拗れるかもしれないと思い、電話を受けることにした基臣はウィンドウを開く。
『やぁやぁ剣士君』
「エルネスタ、今時間が惜しいんだ。手短に頼む」
基臣の切迫した表情に状況をなんとなく理解したのか、ヘラヘラとした表情を切り替えて真剣な顔つきになる。
『あー、なるほど。それじゃさっさと本題に入ろっか。はいこれ』
新たにウィンドウが起動したので確認すると、前にエルネスタに調査を依頼した電話番号とその隣に大型の船舶が映し出されていた。
『例の電話の主の件なんだけど実はね――』
「……エルネスタ?おい、エルネスタ!」
いきなり電話が途切れる、画面を確認すると電波の目盛りが完全に消えており圏外状態になっていた。
「人通りが少ないといってもこんな場所が圏外になるわけがない。考えられるとすれば……」
「初めまして、誉崎基臣さん」
「……ッ!?」
いきなり近くに現れた人の気配にすぐさまホルダーに手をつけて臨戦態勢を取る。長身で細身に白髪交じりの髪。とてもではないが強そうには見えない風貌の男がそこには立っていた。
「いやはや……さすが誉崎家の人間といったところでしょうか。いい反応速度をお持ちだ」
「何のつもりだ」
「と、言いながら薄々勘付いてらっしゃるでしょう?私達の目的を」
「……誉崎家の報復とやらで俺やシルヴィたちを害することか」
頷く初老の男に、基臣は一つの疑念が生じる。
「俺がお前たちに何か害を為していないのに、何故そうも執着してくる。八つ当たりにしか見えないが」
「八つ当たり、ですか……。まあ間違いではないでしょうな」
「だったら……」
「貴方のお父上がいけないのですよ」
「……父?どういうことだ」
唐突に出てきた父という単語に基臣はその真意を問おうとするが、そこからは初老の男は語ろうとしない。
「…………流石に外野である私が喋りすぎましたね。これ以上は私の口からは言うのは憚られますゆえ」
初老の男が口を閉ざすと両者の間に言葉は交わされなくなる。
(結局、何故このような事をしたかは分からなかったが……少なくともこいつらは俺達の害となる存在だという事は間違いない)
待機状態から起動したピューレを構えて今すぐにでも攻撃できる状態に移った基臣を見て、初老の男もそれに応じる。
「それでは始めましょうか」
男は腰元から慣れた手つきで剣を取り出す。その抜かれた刀身は青白く、冷徹に光り輝いていた。
「それは……」
青い輝きを放つ魔剣の存在に、基臣は思わず身を固くする。
(
適合者が現れたことの無い
適合者が現れたというニュースがなかった以上、考えられるのは強奪されたか秘密裏に譲渡されたかの二択。とはいえ、今考えるべきはそこではなかった。
(ある程度の能力が分かっていると言っても、実際の映像が一つもないから。下手に踏み込むのも危うい……)
能力の詳しい情報が無いために迂闊に飛び込めないと判断して一定の距離を保つ基臣だったが――
「ぁ……ッッ!?」
自分が真っ二つに切り裂かれる数瞬後の未来を第六感で察知した基臣は反射的にしゃがみ込んで、回避行動を取る。その察知は正しく、近くにあった明かりは見事に真横に切断されていた。
「はぁ……はぁ……!」
(……こいつ、前の奴と比べて別格に強い!)
先ほどの一振りだけで感じさせる強者のオーラ。今まで戦ってきた中でも上から数えてすぐであろう強さをその男から感じさせられた。強さで言えば各学園の序列1位クラスだろうか。いや、それ以上だろう、と基臣は心の中で警戒度を一気に引き上げる。容赦をしたら死ぬのは自分だと理解した基臣は昔の感覚を即座に蘇らせる。
「初見でこの能力を完璧に回避してきたのは貴方が二人目です」
「……それは誉め言葉として受け取るのが正しいのか?」
「ええ、貴方のことを強者として正しく評価している。だからこそ……」
(来る……っ!)
「全身全霊を以ってお相手しましょう」
再び始まる青鳴の魔剣の一方的な遠距離攻撃に受け身にならざるを得ない基臣はとにかく走って接近を試みる。
座標軸を指定しての遠隔斬撃、それに対しての有効策は変幻自在に速度を変化させながらとにかく動いて自身の座標を絞らせないことだった。
(止まるな、動け……動け!!)
必死に自身の身体を動かして青鳴の魔剣の遠隔斬撃を回避しながら状況の打開策を練っていく。
身体を一歩一歩動かすごとに頭の中は段々と冴えていき、一秒前の自分よりも更に強くなっていくような感覚が駆け巡る。
どう動けばいいのかという最善策を身体が動くよりも遥かに速いスピードで頭が考え出していく。
まるで自分が神の領域に急激に近づいて行ってるような全能感。その成長に自然と身体は高揚していく。
強敵との戦いによって得られる圧倒的成長速度。これも第六感の能力の一つであった。
とはいえ圧倒的に相手の方に地の利があるのは間違いなく、今のところ全ての攻撃を回避できているだけで上手い事攻勢に回れていなかった。
「チッ……」
(普通なら音で目立って人が来るはずだが、まるで人っ子一人もくる気配もない……。周りの空間に何か細工をしたか……?)
「考え事をなさりながら戦うとは、随分と余裕のようだ」
初老の男は剣を一振りする。それと同時に発生する遠隔斬撃を基臣は回避する――が、
「あっ」
間髪入れずに2撃目を放ってくるのは読めていても、回避しようがなかった。
「まずは1本」
血しぶきが舞って腕が綺麗に斬り落とされる。そんな光景に動揺するかと思い、基臣の顔を見る初老の男だったが意外にもその顔は驚きを一つも表していなかった。
(血がどんどん抜けていってるな……)
血が急激に失われていくことで呼吸は浅くなり視界が若干ぼやけて敵の顔も輪郭程度しかしっかりと認識できなくなる。ピューレの能力を使用して元に戻すとまではいかなくとも止血程度の処置を施してその場を凌ぐが明らかに劣勢だった。
(右腕を取られなかったからまだやれる……が、正面突破はもう無理だ。それなら相手よりもアドバンテージを取れる状況を作るしかない……)
しかし、それを以てしても成功する確率は半分程度。普通ならそんなことに命を賭けるのに躊躇する。
だが、基臣は迷わず実行に移した。
(なんとでもなるはずだ……!)
正面からの戦いは分が悪いと感じたが故に基臣のとった選択は、床の舗装を破壊して姿を隠せるほどの煙を生み出す事だった。
「なるほど、目くらましですか。単純ですが、理にかなっている」
自分の身の回りをある程度把握しているといっても、視覚を封じられれば能力を大幅に制限される。この短時間で青鳴の魔剣の能力の対策を即座に思いつくその戦闘センスに思わず感嘆しそうになった男だったが、今はそうも言ってられなかった。
煙が立って視認しづらい状況下でどこから狙われるか分からないため、敢えて男は逃げではなく相手の攻撃を待つことを選択する。
「後ろか……!」
後ろから風を切るような音がして振り返ると、うっすらとだったが黒い影が近づいてくるのを視認できた。
「策は良くても若さが滲み出てしまう……」
初老の男は遠隔斬撃を放とうと振りかぶったが――
「……な!?」
ここで基臣が選択したのは足元へのピューレの投擲だった。ピューレの視認できない特性は基臣の投擲する姿を見られると意味を完全に失う。故に姿を隠すことによってその特性を完全に活かすことが出来るようになっていた。
足にピューレをもろに受けたせいで膝をついて迎撃することになった初老の男が、不利な体勢になっている間に基臣は一気に畳みかけようと試みる。
「セーフティー解除」
その言葉と同時に持っている煌式武装が更に輝きを放つ。明らかに通常の規格の煌式武装ではありえないような出力が手元から放出され、尋常でない圧迫感がその場を包み込んだ。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」
ピューレを投擲して新しく煌式武装を起動、セーフティー解除の後、大上段からの最大出力攻撃。
この間、およそゼロコンマ1秒単位の出来事だった。
「ぐ……ぬぅ……ッッ!」
未だ完成の出来ではないと言ってもこの段階で既に
出力差だけでなく攻撃態勢によるアドバンテージが基臣の側にあるため、男は攻撃を受けることもままならずそのまま受け手側の腕を肘まで綺麗に切断される。
基臣の煌式武装が身体に届く直前に男は後方に飛び退くと、利き腕である右腕とピューレに貫き抜かれた左足を一瞥してから基臣を見る。
「……思ったよりも成長が早い。やはり第六感か」
「はぁ……はぁ……ッ!」
基臣も限界が近づいているのか肩で息をしているような状態。満身創痍とも言える状態だったが、それは初老の男も似たようなものだった。しばらく睨み合いが続く両者だったが、やがて男は諦めたかのように青鳴の魔剣を待機状態にしてそのままその場から立ち去ろうとする。
「今日の所はこれまでにしておきましょう。私も出血過多で死にたくはありませんからね」
「待てッ!!」
「ではまた」
そのまま立ち去っていく初老の男だったが、基臣も追いかける体力が完全に無くなっていたため、追撃せずにそのまま見逃すしかなかった。
「っはぁ……はぁ……。随分と手痛いダメージを受けてしまったな」
自身の切断された手首を見ながら溜息を吐かずにはいられなかった基臣だったが、時間が押していることもあり切断された手を服の中に隠すとすぐに走り出す。
(ピューレ、俺の手が欠損してないように幻覚を見せてくれ)
『大丈夫……?残ってる星辰力をかき集めれば腕を元に戻すとまではいかないけど最低限の治療ぐらいだったら――』
(いいから早く。時間がもったいない)
『……分かった』
ピューレの気配が消えると共に、基臣の手首に星辰力が集い形を成していく。偽りではあるものの手が元に戻ったかのように作られていた。
『モトオミの星辰力が少なかったからその幻覚は完璧じゃない。気を付けたほうがいいよ』
「それで十分だ。助かる」
そこまで遠くには行っていないだろうと近くを探していると星辰力の残滓を知覚する。
「シルヴィ……っ!」
一歩、その歩みすらも面倒に感じるほどに気持ちは心配と焦りで埋め尽くされていた。
彼女の星辰力の残滓を頼りにして辿っていくと、やがてシルヴィアが床に伏している姿が見つかった。
「シルヴィ!」
床に倒れていたシルヴィアの元に駆けつけて抱き上げると、何度も何度も叫んで呼びかける。
「ん、うん……」
「大丈夫か、シルヴィ!!」
軽く揺らして起こそうとすると、その振動に気づいたのか薄っすらと目を開ける。そのアメジストの瞳はどこか不安の混じったような目をしていてうわごとのように何かを呟いていた。
「あれ……。もと、おみくん……?わたし、ウルスラを追って、それで……」
「大丈夫か!?」
「あ、うん……。大丈夫だよ」
「そうか……」
体の端から端まで確認するが、彼女の言う通り多少の怪我はあったものの特に目立つような怪我は無いようだった。
「どうして基臣君がここに?」
「ジュースを買って帰ったらベンチからいなくなったのはお前だろう。どうしてここにと聞きたいのはこっちの方だ」
珍しく責め立てるような言い方の基臣に、罰が悪くなったのか少し視線を反らして頭を掻く。
「……ごめん、基臣君。勝手な行動を取って」
「分かってくれたならそれでいい。それよりも立てるか?」
「うん、よいし――うっ!」
手を差し出す基臣に応じるように掴んで立ち上がろうとするシルヴィアだったが、どうやら立ち上がれない様子だった。
「その感じだと腰を抜かしたか、それなら……」
基臣は彼女を抱き上げると、そのまま立ち上がる。
「ひゃぁっ!?」
流石のシルヴィアもお姫様抱っこをされたことは無いのか、徐々にその顔が羞恥に染まっていく。
「ちょ、ちょっと基臣君。恥ずかしいよぉ……」
「こうでもしないと動けんだろう、我慢しろ。ほら」
先ほど回収していた帽子をそのまま彼女の頭へと雑に置く。
「流石にそのままの姿で衆目の前を通るのは不味い。変装しておけよ」
「……うぅ、でもでも」
「抵抗する気力があるようで何よりだが、さっさと行くぞ」
「えっ、ちょおっ!?」
いきなりだが、普通の星脈世代の身体能力は鍛え上げられた人間3人分相当に匹敵する。だがこの身体能力も星脈世代によってそれぞれ違い、基臣の場合だと現時点で鍛え上げられた人間7人分相当に匹敵する。
つまり何が言いたいかと言うと――
「ひゃああああああああああ!!」
基臣の全速力のダッシュは車を圧倒的に凌ぐレベルの速度が出ているということだ。スピードガンで計測したら200キロは優に超えているだろう。
「ちょっと基臣君、減速してぇっ!」
「ダメだ。お前に何かあってからでは遅い。事は一刻を争うような状況だ」
「もう!バカバカバカ!」
最高速を維持したまま走り続ける基臣の袖を落ちないように必死に掴むシルヴィアは後で着いた時に文句を言ってやろうと胸の内で決心した。
それから、全速力で走ったこともあって基臣達はすぐに治療院に到着した。
シルヴィアは診察の結果、特に異状なしと判断され怪我の処置だけしてもらってそのままクインヴェールにタクシーで帰ってもらうことにした。
「気を付けて帰れよ」
「うん、基臣君も気を付けてね」
シルヴィアをタクシーでクインヴェールに帰した基臣はそのまま治療院に戻り診察を受けることにした。基臣が星武祭で優勝した有名人ということもあってかそこまで待たされずすぐに診察室に案内される。
「随分と派手に怪我をしたようだな。
「……」
だんまりな様子の基臣に治療院の最高責任者であるヤン・コルベルは溜息を吐いてカルテを見る。明らかに殺す気でやったとしか思えない手首の切り口、しかも星辰力の残滓からして普通の煌式武装ではない。煌式武装に精通しているものの、医師も流石にどういった武装で基臣がこんな怪我を負ったかまでは分からなかったが、純星煌式武装クラスの武装なのだろうというのはその豊富な知見から容易に推察がついた。
だが、元々この治療院には普通の患者だけでなく訳アリの人間も多数訪問してくるし、多種多様な怪我を直した実績からヤンは「死にたてだったら連れ戻す」をモットーとしているため、この程度の怪我ならば普通に治療できる。とはいえ、まさか他の医師に呼ばれて診ることになった訳アリの患者が
「まあいい。金さえ貰えればこちらとしてもプライベートには首を突っ込まない。そういうルールなんでな」
「……助かる」
「お前の腕の状態だが……綺麗に切断されたこともあってそんなに時間はかからん。1時間といったところか。これぐらいならわざわざ治癒系の能力を使う必要もないから普通に手術だな」
「費用は、いくらだ?」
「そこまで高くつかん。見積ってざっとこんなところだろう」
ヤンから差し出された見積り書を受け取った基臣はどれくらいの金額になるかを確認する。
提示された金額は意外にも基臣が想定していたほど高くなく、昨日レヴォルフのカジノで稼いだ分程度で済むほどだった。
「この金額で構わない」
「じゃあそこの契約書にサインをしてくれ。書いたらさっさと始めるぞ」
契約書にサインした後、手術によって手を繋げることが出来た基臣は医師からしばらく左腕を安静にすることを言い渡され――ピューレの能力ですぐにとはいかないものの、早く元に戻すことができるのでその言葉を無視することになるが――そのまま退院することになった。
帰りながら基臣は今回襲撃してきた敵の目的について考えていた。
(前の言葉をそのまま受け取るのなら、シルヴィは俺があの男を相手にしている段階で殺されていてもおかしくなかったはず……)
ここに来た時にはもう姿をくらましていたのは、はたして基臣が来るのが早かったからなのか、それとも敵が何らかの目的を既に達成したからなのか。
(まるで見えてこないな、敵の目的が……)
その時、シルヴィアが起きる時に独り言で彼女の先生だったウルスラの名前を呟いていたのを思い出す。
(とはいえ、今は怪我の治療が優先だな。話はまた今度聞くとするか)
──────────────────────
タクシーに乗って帰ったかのように見えたシルヴィアだったが、実際はUターンしてそのまま治療院まで戻ってきていた。
(なんか基臣君の様子、おかしかったんだよねぇ……)
半年以上前にウルスラから助けてもらって以降、シルヴィアは基臣と手を繋いで歩くことが普通となっていたのだが、いつもなら彼は車道側に回って歩いてくれていた。だが、治療院から出てからは何故かいつもと違って内側の方に回って歩いていた。まるで左手を握られたくないかのように。
シルヴィはその若干の違和感に気づいてしまった。気づいてしまったが故にその違和感は更なる疑念を産みだす。例えば、基臣にお姫様抱っこされていた時――
(基臣君の身体……なんだか冷たかった、気がする)
と、考え始めれば様々な疑念が浮かび上がってくれる。
それなら直接本人に聞けばいいと思ったが、聞こうと思ったときに限って向こうから無理やり捻りだしたかのように話題を振ってくる。その様子を見ておそらく基臣は話してくれない、と薄々シルヴィアは勘付いていた。
「おっと、そのままだと隠れてるのがバレちゃうから……」
シルヴィアは能力で自身の気配をできるだけ消すようにする。おかげで殺気や害意を持っていたり、激しく感情が揺れ動くことがない限り基臣には気取られる恐れは非常に低くなる。
しばらく治療院近くのお店で時間を潰して様子を見ていると、2時間ほどで基臣が治療院から出てくる。
「…………ギプス?」
──────────────────────
太平洋を巡行している大型客船。ただ、その船には賑わいは無く波を立てて進んでいる。
その船のVIPルームにあたる部屋の一室。
まだ20代半ばであろう顔立ちの男はデスクの前で座って誰かを待っていた。しばらくすると、基臣と戦っていた初老の男が現れる。
「お待たせしました」
「仕込みは?」
「はい、問題なく。ですが……誉崎基臣の成長速度が尋常でなく、途中で腕と足を一本ずつやられました」
初老の男の言葉に、椅子に座っていた男は片眉をピクリと微妙に上げる。
「お前がそこまでやられたか……。甘く見ているわけでは無かったが想定以上の強さだな」
「はい。おそらくあの者の強さが一定のラインを越えたら、私では抑えきれない可能性もあります」
少し考え込むと、男は初老の男に紙をはさんだバインダーを手渡す。
「……分かった。それがリストだから人員は好きに補充しろ」
「ありがとうございます。では、これで……」
「ああ」
そのまま立ち去っていく初老の男を見送った後、デスクに置いてある紙束を手に取る。
「青鳴の魔剣の一時的譲渡も、ヴァルダ=ヴァオスの協力も、見返りとして要求してくるのはどいつもこいつも金か……」
興味を失ったようにその紙束を放り投げると、男は同じくデスクに置いてある写真立てを眺める。
その写真には父親と母親と思しき人物と、小学生にも満たないような小さな子供が笑顔で映っている。
――父さんっ!母さんっ!
「…………父さん、母さん。俺はやるよ、必ず」
写真立ての前で一人呟いた後、男はそのままどこかへと向かっていく。
その瞳は人を不幸のどん底へと引きずり降ろそうという悪意に染まり切った色をしていた。
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