学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
春も終わり夏に移り変わり始める頃。
もうすぐ迫っている基臣の誕生日プレゼントを選ぶため、沈華は商業エリアをうろついていた……のだが、中々目ぼしい物が見つかっていない。
そもそも、鍛えること以外に趣味を持っていないせいで──それでもシルヴィアがよく連れまわしているおかげで、他の事にもある程度の関心は持っているようだが──どんなプレゼントをあげてもあまり嬉しい反応を示さないのではという懸念が沈華の中ではあった。
そんなこんなで悩むことしばらく、歩き続けたせいで疲れたので、沈華は目についた喫茶店で休憩を取る事に。
(基臣にプレゼントする物といっても、どうしたものかしら……)
うんうんと
「お客様。今、席が大変混みあっているので相席をお願いしたいのですが」
「あ、はい。構いませんよ」
「すいません、ご迷惑をお掛けします」
一度ぺこりと一礼すると、店員は相席する客を連れてテーブルにやってくる。
「相席となりますが、ご了承ください」
「分かりました!」
(随分と元気な子ね……どこの学園かしら?)
ふとどこの学園に所属しているのか気になって、よく見ると胸にピンクを主体としたデザインの校章をつけていることから、クインヴェールの生徒だという事が分かる。
(かわいい……)
さすが容姿を入学条件として求めてくるだけのことがあってか、同姓である沈華から見ても目を引かれるような可愛さ。それと同時に目につくのが身体付き。可憐な容姿とは裏腹に、鍛えていることがよく分かる。
「あのぉ……」
「……っはい!」
「やっぱり相席迷惑だったか……ですかね?」
じろじろと見ていたのを不機嫌にしていると捉えられたのかどこか気まずげな顔をしてこちらを見る少女。
「いえ、大丈夫。こちらこそジロジロ見てごめんなさい」
「う、ううん!」
「それと自然体で構わないわ。無理して敬語使ってるでしょ?」
「……いいの? それじゃあお言葉に甘えて」
向かいの椅子に座ったミルシェは
「あたしはミルシェ。あんたの名前は?」
「私は……」
鳳凰星武祭では基臣にばかり注目が集まっていたが、沈華も十分といっていいほどに有名人。変装で今のところはばれないようにしているが、そのまま自分の名前を言うと騒がれるかもしれないと思い、どうしたものかと思案する。
「あー、何か事情があって名前が言えないとか? ならいいよ、言わなくて」
「……助かるわ」
「あ、店員さん!」
店員を呼ぶとミルシェはメニューにある飲み物を注文する。少しして店員が運んできたジュースをストローでちろちろと飲んでいるミルシェの顔を見る沈華。
「何か悩みでもあるのかしら?」
「え?」
「何か悩んでそうな雰囲気をしてるかなと思ったから。せっかくの出会いだし聞くわよ?」
「……そうだね、せっかくだし話しちゃおっかな」
ミルシェはある男(名前は伏せた)に恋をしている事。だが、その男はそういったことには無関心なため中々アピール出来ないこと。更に、彼を狙うライバルがいること。それらを話したうえで今回の彼の誕生日で一歩近づきたいけどプレゼントが見つからない事を話した。
「ふーん、なるほどね」
ちょうど自身も同じような状況だったので、ミルシェに対して沈華は親近感を覚えた。
「付き合うことができれば何が欲しいかすぐに聞けて楽でいいんだけどなぁ」
「あら、付き合っちゃえばいいじゃない。あなたの容姿なら十分相手を魅了できるんじゃないの? 同姓の私でもあなたを可愛いって思えるぐらいなんだし」
「か、可愛いって……そうなんだけどねぇ。うぅ……」
(あぁ……。この子、積極的な性格に見えて実は
恥ずかしがるミルシェの表情に沈華はなんで相手の心を射止めることが出来ていないのかを察した。
決心をするだけして、いざ本人を目の前にするとビビッてまた今度に後回しにしてしまうタイプ。なるほどどうりで、と沈華は内心思う。
「まあそう言う事なら手伝ってあげるわ」
「え、いいの? あんたも何か用事とかあるんじゃないの?」
「まあ、あなたの要件と被っている所もあるし、そのついでよ」
「被ってる?」
「私もプレゼント探しのために来たのよ。経緯も大体あなたと同じ」
「そっか、あたしと同じかー。それならあたしも手伝うから行こ行こ!」
「あ、ちょっと……。お会計! まだだからっ!」
お店を出た二人はプレゼント選びのために色々な店を回ることになった。
一人だけで選ぶ時と違って、意見を聞くことができるのでお互いに相談し合ってプレゼントに合う商品を選ぶ。
「その彼はそこまでファッションとかにこだわりはないんでしょう? これとかいいんじゃないかしら。丁度秋に入るし」
「あー、いいねそれ! でも、これもいいなぁ」
「うーん……悩むわね……」
一緒に仲良く商品を吟味していた沈華とミルシェ。
性格の方向性が違う二人ではあるが、だからこそ馬が合うのだろう。沈華にとっては、少しお転婆な妹分を持ったような気分だった。
互いに手伝い合ったこともあり、そこまで時間がかからずプレゼントを選び終えた二人。先にミルシェのプレゼントは既に購入し終えていたので、沈華は一人でプレゼントをレジへと持っていく。
「プレゼントの包装をするのに20分ほどお待ちいただくことになるのですが……」
「構いません」
「それではこの番号を持ってお待ちください」
店員から番号札を受け取ると、そばで待っていたミルシェに声を掛ける。
「プレゼントの包装で時間がかかりそうだから、噴水のある広場のところで待っててもらえるかしら。後で、私も向かうから」
「うん! 分かった」
……………………
噴水広場に来ると、買い物袋を膝の上に置いて広場に設置されている時計を確認する。
「ふぅー、もうこんな時間かー」
プレゼント選びで迷っていたが、思いがけない出会いに恵まれたミルシェ。まさか自分とほとんど同じ境遇の人間と偶然会えたことは彼女も驚かされたが。
「ん?」
何やら騒がしいのでその声の方向へと目を向けると、近くでレヴォルフの生徒同士で決闘騒ぎになっていた。
「おいやんのかテメェ!?」
「そっちこそなんだよ難癖つけやがって!!」
本来なら決闘は正式な申請をして、指定されたドームで行うように定められているがほとんどの生徒はそれを守ることは無い。(例外があるとすればガラードワースの生徒ぐらいだろうか)
とはいえ、こうも騒がしくされると近くにいる人間に配慮してくれと言いたくなるミルシェだったが変に声をかけて巻き込まれたくもない。
「相変わらずうるさいなぁ……」
ここにいても良いことは無いと思い、沈華がいた店へと引き返そうとする。
しかし──
「っと……」
近くにいたレヴォルフの生徒の攻撃がミルシェへと向かう。
大した攻撃ではないので普通に回避することが出来たが、明らかに決闘騒ぎの渦中に巻き込まれてしまった。
「……はぁ」
目を付けたターゲットを自作自演の決闘騒ぎに自然に巻き込み、複数人でリンチにする。
レヴォルフの
「これだから嫌なんだよねぇ、こういう輩は」
相手は勝てると思ってるのか底意地が悪そうにニタニタとにやついているが、ミルシェとて基臣に決闘で格の違いを見せつけられてから何もしてこなかったわけでは無い。
もう3,4か月ほどで獅鷲星武祭が始まることもあるので、実力を試すには丁度良いかと戦うことに決めた。
「さーて、さっさと倒しちゃおっかな」
男たちの見立ては余りにも甘すぎた。ミルシェが六学園の中で最弱の名を欲しいがままにしているクインヴェールの校章を付けていた事や一人だけでいた事で大したことはないだろうと慢心していた。
しかし、実際はあまりにも一方的……というよりも相手にすらされていなかった、という方が正しい。
結果、手加減したにもかかわらず30秒足らずで男たちを気絶させて、言葉発さぬゴミへと変えた。
「ふぃー、疲れた」
適当にゴロツキたちを集めておき、星猟警備隊に連絡。そのままミルシェは沈華の元へと向かうことにした。
店の前で待っていると、プレゼントを買い終えた沈華がやってくる。
「あら、広場で待ってたんじゃないの?」
「色々あって広場は危ないと思ったから店の前で待とうかなって」
「…………? そうなの? ならいいけれど」
「それよりもさっさと行こうよ、ほら!」
「はいはい」
途中にゴロツキに絡まれたアクシデントはあったものの、プレゼント選びもなんとか終わり、お互いの手にはプレゼント袋が下がっている。
「今日はありがとね!」
「いいのよ。私も手伝ってもらったことだし、丁度良い息抜きになったわ」
「そっか」
「それじゃあ頑張りなさいよ」
「もっちろん! あんたこそ頑張りなよー」
互いに手を掴み握手する。
一日だけの交流だったが、そこには確かな友情が芽生えていた。
そして、お互いの恋路を応援しようと
そう思っていた……
……いたはずなのだが
「へ……?」
基臣の誕生日という事で事前に知らされていた場所に到着した沈華だったが……
目の前にいるミルシェの姿に呆気にとられたような声が漏れ出る。
まさか、たまたま知り合った友人が自分と同じ人を好きになっていて、しかもそれを応援するためにプレゼントをお互いに選びあっていたという偶然。流石に脳の処理が追い付いていないのか、しばらく立ち尽くしたまま。
「…………? 何?」
建物の入り口で突っ立っていた沈華が、ジッと見ていたことに気づいたのかミルシェが声をかけると、彼女は我に返る。
「……っ! ちょっとこっち来て!」
「えっ、ちょっと!」
ミルシェを引っ張って人気が無い所へ連れていく沈華。
「はぁ……はぁ……。いきなり何なのさー」
沈華を変装した姿でしか見ていないミルシェは、目の前にいる人物をあくまで鳳凰星武祭の時の基臣のタッグとしてしか認識していなかった。
「……やっぱり気づいてないわね」
さっきまで変装に使っていた道具を取り出すと、ウィッグを着けて帽子をかぶった後、ケースから伊達眼鏡をかけた沈華。
その様子に徐々にミルシェの顔色が変わり、沈華に指を向けて大声をあげる。
「ああぁぁぁ────っっ!? あの時の!」
変装した姿に変わった沈華にようやく気付いたミルシェは少しずつどういう事なのか理解し始める。
「はぁ……、世間は狭い物ね……。まさか好きな人が一緒だなんて」
「……じゃあ、まさかあんたも」
「そうよ」
ころころと表情を変えるミルシェ。最終的には溜息を吐いた。
「はぁー、まさかあんたと一緒なんて……。まあ、言われてみれば確かに納得できる部分もあるんだけど。……まあでも」
好戦的な目で沈華を見つめたミルシェ。
「沈華が相手でも遠慮なんてしないからね」
「それはこっちのセリフよ」
沈華が正体を隠したからといって、二人の友情にヒビが入る事は無かった。あくまで、恋のライバルになっただけ。二人の間ではそういう認識に変わった。
再び建物の前に戻ってきた二人は、誕生日パーティーをする部屋に入って始まるのを待っていた。
「そういえば基臣はどこにいるの?」
「あ、うん。基臣なら別の部屋で……」
「やっほー、二人とも」
「シルヴィア!」
パーティーということもあってか、いつも以上に着飾っていたシルヴィアがそこには立っていた。
「沈華ちゃんも久しぶりだね」
「……ふんっ」
「つれないなー、もう」
「基臣を狙っている以上、あなたも私のライバルなのだから警戒しないわけがないでしょう」
「あはは……。まあそれはごもっともな話ではあるけどね」
苦笑しながらもシルヴィアも沈華の意見には理解を示す。
「といっても、私だけではないんだけどね。ほら」
「ん?」
シルヴィアに促されて指さした方向へと顔を向けると、いつもの研究服とは違って私服でやってきたエルネスタがいた。
「どもどもー」
「げっ」
どこか頭のネジが外れてるはずなのになんで私服のセンスは普通に良いのだろうか、と一瞬思った沈華だったが、大方カミラ辺りに聞いたのだろう。若干服に着せられてる感があった。
「んなー、失礼だなーもう。せっかく来たっていうのに」
「……胸に手を当てて聞いてみたらいいんじゃないかしら」
「んー、何も分からないけど?」
自分の胸をペタペタ触るエルネスタに若干イラつきを覚える。
「あのねぇ……」
「やー、バチバチしてるなー。こわいこわい。仲良くしようじゃないのー、仲良く。それにさ……」
エルネスタはさっきまでのすっとぼけような表情を、悪戯めいたものへと変える。
「あたしは剣士君の彼女なんだから彼の友達とも仲良くしておかないとねー」
「むっ」
嘘であれ真であれ、エルネスタの発言は明らかにこの場にいる全員を煽るものである事には違いなかった。
「それは……どういう意味かな?」
ニコニコと微笑みながらシルヴィアはエルネスタに近寄る。
他の者もそれぞれ三者三様異なる反応を示していた。だが──
「それは無いと思うのだけれど」
突然聞こえたその声に皆振り向く。
「……っ! オーフェリア・ランドルーフェン……!」
ここまでも全員大物だったが、更にアスタリスク最強と言われているオーフェリアが招かれていたことにミルシェは驚きを覚える。
対して、シルヴィアはオーフェリアと基臣の関係をそれなりに知っていたため、さして驚きはなかった。
「そういえばあなたも招かれてもおかしくなかったもんね」
「ということはあんたも……」
「別に……。私は運命に従っただけでそういった感情は無いわ……。……それよりもさっきの話だけれども、本当の事だとは思えないわ」
「…………? どうしてそう言い切れるのかにゃ?」
「そこにいる彼女がつけている首飾り、基臣と対になってるわ。それは私の故郷にある物で、その首飾りをつけているのはカップルや夫婦の証に等しい物。だから、その発言は嘘じゃないとおかしいはず。彼は二股をかけるほど器用な人間とは思えないから……」
彼女といってオーフェリアが視線を向けたのは沈華。その首にあるのはリーゼルタニアで買ってきた首飾り。
オーフェリアが言い終わるとさっきまでの喧騒は何だったのかその場は静寂に包まれる。
しかし、次の瞬間、空気がどす黒いものに変わる。主にその発生源はシルヴィアとエルネスタからだったが。
「ふふふ……」
「にゃはは……」
エルネスタに向けられていた意識は一気に沈華へと向けられる。
シルヴィアとエルネスタが薄暗く笑うと、沈華へと顔を向ける。
顔は笑っているように見えても目は明らかに笑っていない。特にエルネスタはライバルとなる存在はシルヴィアだけだと思っていただけに、想定外の事象の原因である沈華に警戒度を上げていた。
ゆっくりと詰め寄ってくるシルヴィアに沈華は思わず後ろへと下がるが、いつの間にか壁際まで追い詰められて逃げ場が無くなっていた。
「さて、沈華ちゃん。どういうことかな?」
「うっ」
優しく沈華の肩に手を置くシルヴィア。だが、そんな優しい接触とは裏腹に早く事の詳細を吐け、と言わんばかりの圧が沈華を襲う。
シルヴィアたちの圧に流石に言葉を詰まらせていた沈華。
その時、不意にドアが開く音がしたことでその圧は収まった。
「もう揃ってたか」
「あ、基臣」
基臣の姿に思わずホッとした沈華。
何か感じ取るものがあったのか基臣は部屋の中にいた皆の顔を見ると、ほんの少しだけ困った顔をする。
「ニコニコ肩を組んで仲良くしろとは言わんが、ほどほどにしておけよ」
「何のことかなー」
「……まぁいいか。反省はしてるみたいだし」
「基臣ー! パーティーの準備できましたー」
「あぁ。そのまま持ってきてくれ」
「分かりましたー」
しばらくすると虎峰たちがケーキや料理などを色々と持ってきた。
「それじゃあ全員集まったことだし、始めるか」
虎峰が事前に準備を済ませていたのか、ろうそくに炎の灯ったケーキがテーブルに置かれる。
「誕生日おめでとう!」
全員の祝福の声と共に基臣はろうそくの炎を消した。
…………
「君、本当に愛されてるねぇ……」
呆れ顔で基臣の誕生日パーティーの時の話を聞いていた朧。実はドアを開ける少し前から基臣は中の様子をドア越しに聞いていたため、彼女たちの修羅場は何となく理解していた。
「その子たちの思いには応えないのかい? どう考えても好かれてるのは──」
「分かってる。俺を好いてくれていることぐらいは」
この前の旅行辺りから恋愛感情という物をおおよそ理解し始めていた基臣は、シルヴィアたちが自身に好意を抱いていることを理解していた。これもアスタリスクに来てからしばらくしたことで基臣に現れた変化だった。
「ふーん。ならどうして?」
──お前のせいでッ! 澄玲は!
虐待の中に残るかすかな記憶。
「……俺は自分の幸福を望んではいけないからだ」
自分に自責の言葉をかけるように呟く基臣。
「だが、断るにも上手い事しないと彼女たちを傷つけてしまう。今の関係を維持したまま、守るべきものを見つけるという達成しなければ……。父の言う事は絶対だから……」
「……そうか。まあ君がそう言うなら、俺が言うまでもない事か。……さてと」
待機状態にしていた煌式武装を起動すると立ち上がる。
「獅鷲星武祭まで時間もないんだろう? 特訓を再開しようか」
「あぁ」
互いの刀が擦れた甲高い音がフロア中に響き渡る。
(……こいつはもうダメだ)
(シルヴィア・リューネハイムや他の奴との交流で多少は変わってはいるが、その本質は変わらない)
(やはり殺すべきだ。手遅れにならないように……)
(だが、今はまだ殺るには早い。殺るのは最大限の準備をしてからだ)
(誉崎家の人間は一人残さずその芽を摘まなければならない。俺も含めて一人残さず…………)
本作の中であなたが一番好きなヒロインは?
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シルヴィア・リューネハイム
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オーフェリア・ランドルーフェン
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ミルシェ
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エルネスタ・キューネ
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黎沈華