学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
「まさかあなたがここまで勝ち上がってくるなんて思いもしなかったわ」
「へへっ、凄いでしょ」
「確かに並みじゃない努力を積み上げてきたことは分かるわ……でも」
ミルシェを見る沈華の目には並大抵ではない闘志が秘められている。
「ここであなた達は負ける。私たちにかかっているチームの重みは生半可なものじゃないことを分からせてあげるわ」
「それはこっちもだよ!」
それからは互いに言葉を発さず視線が交錯するだけだったが、試合開始の時間が近づくと各々のチームの場所へと戻る。
「話は終わったか」
「…………基臣」
「なんだ」
「勝つわよ、この試合」
「ああ、言われるまでも無い」
「勝負だ!」
機械音声が試合開始の合図を告げると同時にミルシェは、意気込んで基臣と相対そうとしてくる。
「残念だが、お前と戦うのは後だ」
「へっ? 後って……わっ!」
無駄の無い動きでステージの端まで剣圧でミルシェを吹き飛ばした基臣。
試合開始からすぐにリーダーであるミルシェがすぐに補助に入れない状況を作りだし、ルサールカの中で一番厄介な能力を使っているパイヴィを潰そうと動くチーム・黄龍。
「虎峰!」
「はい!」
連携してパイヴィにプレッシャーをかける。空間を歪めることで音圧防壁を作り出して基臣達の行く手を阻もうとするが、彼らは数ある音圧防壁の隙を見つけて更に距離を詰める。
「あたしたちを無視するんじゃねえよ!」
「行かせないよお!」
その意図に気づいたモニカやトゥーリアたちも間に入っていかせまいと動く。
「私達を無視するなんて見立てが甘すぎないかしら?」
「急急如律令、
パイヴィの音圧防壁のようにセシリーも星仙術で壁を作り出して応戦。ルサールカを分断して、チーム・黄龍にとって理想的な試合展開になっていた。
すると、少し距離が離れた所からミルシェの声が聞こえる。
「もういいや! モニカ! マフレナ! 能力使って!」
「りょうかーい!」
「分かりました!」
「能力……? 確かモニカとマフレナは何も無かったはずだ、がっ!?」
すると、いきなり場を圧倒するような凶悪な重低音が響き渡る。その正体を探ろうと基臣は見渡すとどうやらモニカががその発生源のようで、彼女の持っているベース《ライアポロス=メルポーネ》はどこか禍々しい雰囲気を出していた。
「ぐっ! これは……ッ!」
上から押さえつけられるような強い重圧に顔をしかめる基臣。それは例えるならば鉛を埋め込まれて沼地に両足を突っ込んだような感覚。動けないこともないが、明らかに動きが遅くなっている。
「《ライア=ポロス》の能力か……っ!」
チーム・黄龍のメンバーが各々その能力に苦戦している中で一人だけ基臣はまともに動けているものの、先ほどまでの俊敏さは失われていた。
「今だ!」
ミルシェがギター型純星煌式武装《ライアポロス=カリオペア》を構えて振りかざしてくる。
(一撃が重いな……。モニカの能力で目立たないが、マフレナも厄介だ)
早くも《ライア=ポロス》の能力とその使用者を把握しつつある基臣だったが、一番厄介な弱体化を止めるには能力の使用者であるモニカを倒すしかない。だが、間違いなく攻撃している最中に割り込まれて戦局が泥沼化する未来が見えていた。
「もうっ!」
一方でルサールカからしても、中々厳しい状況だった。虎峰の方はいきなり起こった急激な変化に身体が追い付かずモニカとトゥーリアが一方的に攻撃できているが、基臣が一人だけ異常な粘りを見せている。しかも、パイヴィとマフレナはチーム・黄龍の後方支援である沈華たちにギリギリで止められているため、ルサールカが若干有利ではあるがほぼ五分五分の状況。
元々、モニカとマフレナの能力は無理やりこの試合のために間に合わせたもの。彼女たちも慣れない能力の使用感による疲れも見え始めており、いつこの優勢が崩れるかは分からない。
(持って4分……いや、3分かな。こうなったら!)
「ええい、もう! 来て、トゥーリア!」
「おう!」
もう一人の前衛である虎峰をモニカ一人に任せ、ミルシェとトゥーリアの二人で同時にかかって斬りつける。
「誉崎流奧伝、
そんな圧倒的不利な状況の中、基臣は二人の攻撃を防御し、更にカウンターまで行う。
「きゃっ!?」
「ちぃっ! バケモンかよこいつ!」
マフレナの弱体化を受けているとは思えない強さにトゥーリアも不満を垂れる。
「……こいつ、本当に弱ってるんだよな?」
「そのはず、なんだけど……」
確かに身体の動きは鈍くなっている。だが、その鈍化に逆らうことなく、敢えてその状態で出来る限りの行動の最適化を行うことで、ミルシェ達の攻撃に間に合うようにしていた。
動きが遅くなっていても基臣はその技術を以て、ある程度ならばその
(とはいえこのままでは防戦一方か……)
「仕方がない、使うか」
まだ奥の手として隠しておくつもりだったものの、そうもいかなくなった。
基臣の服の中から取り出された球状の物質にミルシェたちも警戒する。
「…………何あれ?」
ポケットの中から指輪を取り出し、左手に嵌めた基臣。
すると、基臣の左手に嵌めていた指輪が光り、それに呼応するようにその球も浮遊する。
明らかにヤバい。そんな予感が後ろから指揮を取りながら見ていたマフレナでもよく分かった。
「逃げてください、ミルシェさん!!」
「遅い」
次の瞬間、球状の物質はミルシェへ向かって一気に飛翔して爆散する。
「クゥッ!!」
その小さい見た目とは裏腹にすさまじい火力を秘めた爆発。なんとか直前で能力である破砕振動波を出して4個ともギリギリで防御することができたが、それでも爆風だけで服はボロボロでダメージを受けている。1個でもまともに受けていたら軽傷では済まされなかった。
「リーダー!」
「大丈夫! それよりも……」
ミルシェたちがあたふたしている間に、既に基臣は二投目の体勢に入っていた。
「また来る!!」
二度目の攻撃に再び警戒を厳にして迎え撃つミルシェ。確かに爆弾の飛翔速度は少し速いが、それでも目視してから回避できるレベル。
基臣ができるだけ爆弾の情報を隠そうと軌道を直線だけにして使用していたことや一つずつしか動かせないように見せていることも助かって、まだミルシェたちにも回避できるだけの余裕があった。
一個目を無事回避し、二個目も回避することに成功したがその爆弾だけ床に着弾した瞬間、煙を上げてステージの一部を白煙で満たしていく。
「これは、煙幕……?」
二個目の爆弾の正体は煙幕だった。といっても、星武憲章で外部から視認できない状況を作り出しての攻撃は禁止されている。だが、禁止されていると言っても過去にも煙幕を張っている間に罠を仕掛けてハメるといったようなグレーゾーンをついた試合はいくつもある。
そういう展開も考えられたため、急いでミルシェは煙幕の範囲外に抜けるためにメンバーのいた方向へと逃げていく。
「よしっ、抜けた!」
「リーダー! 後ろ!」
「…………え」
ミルシェが煙幕から抜け出して間もなく、爆弾も煙幕の中から4つ時間差で出てきてミルシェの元へと向かってくる。
基臣は元から煙幕を利用した罠は狙っていなかった。狙いは存在しない罠に意識を取られている間に爆弾を合計4個になるように再び投擲してミルシェを数の暴力で倒すこと。特に、直前まで爆弾の存在に気づかせないように煙幕を張っている事でより効果的に爆弾での攻撃を行えた。
「ミルシェ、
4つの爆弾が迫り来る状況にミルシェは対応できず、そのまま爆発で校章は粉々に破壊された。
「
立ったまま、ミルシェは呆然としながら呟く。
「……まけ、た」
「……リーダー?」
チーム・黄龍の元へと歩いていくミルシェの様子に訝しむルサールカのメンバー達。
「ん? どうかしたかミル、シェ……っ!?」
試合で疲れて警戒を緩めていたため、基臣はミルシェが抱き着いてくることを事前に察知することが出来なかった。
勿論、いきなりの熱い抱擁に場内もどよめきが起こる。
「な……っ! お前、この場でそんなこと」
アイドル活動をしているミルシェがこんなことをするのはまずい。そう思って急いで彼女を丁寧に引き剥がそうとする。
が、引き剥がそうと少し力を入れても、ミルシェは全く離れようとしない。
「いーのいーの! ほら、もう少しこうさせて」
抱き着くその腕は少し震えていた。
「…………はぁ、分かった」
「「……………………」」
二人の間で何も言わず、ただ抱き合うだけの時間が過ぎていく。
他のメンバー達も二人がふざけた雰囲気でない事を薄々気づいたのか静かに見守っている。
「あの、さ」
しばらく黙ったままのミルシェだったがようやく口を開いてポツポツと喋り出す。
「……負けちゃったんだよね、あたし」
「あぁ」
「そっか、そっかぁ……」
「…………」
「必死に努力して、がん、ばったのに……っ」
「ミルシェ……」
「悔しいなぁ、ちくしょう……っ!」
勝者が敗者にかける慰めの言葉はない。基臣はミルシェを黙って優しく抱きしめる。
顔はよく見えなくても、すすり泣く声だけが聞こえた。
「ごめん、負けたのは自分の実力不足だっていうのに手前勝手なことして」
「別にいい。それよりも少しは気は晴れたか?」
「ん」
「ならよかった」
抱擁を解いて彼女の顔を見ると、少しはスッキリしたのかいつものような顔をしていた。
「それじゃあな」
「……基臣!」
背中からミルシェの声が響く。
「絶対に優勝してよ!」
「ああ、約束する」
ミルシェが基臣に抱き着いた様子は当然、シリウスドームで観戦していたシルヴィアとペトラにも見られていた。
「噂の収束はベネトナーシュに任せるとして、彼女は帰ってきたら
「あはは。でも少しは優しくしてあげてよ、ペトラさん。あの様子だと相当悔しがってるはずだから」
「無論です。ですが、厳しくするところは厳しくしなければいけませんから」
「相変わらずだなぁ……」
いつでも持ってるスタンスを変えることのないペトラにシルヴィアは思わず苦笑する。
この試合でルサールカは全世界に大々的に名前を売ることになった。それに伴って、これから色んなメディアでの露出も増えることに違いない。そうとなると、ペトラは一々説教している暇もない。彼女たちのメンタルケアだけに努めることだろう。
「そういうあなたはどうなのですか、シルヴィア?」
「ん、何が?」
「あなた、ミルシェに嫉妬してるでしょう? 見てて分かりますよ」
ペトラがそう指摘するが、シルヴィアはその微笑んでる顔を崩さないまま言葉を返した。
「なんのことかなー?」
「……ハァ。頭痛のタネが多すぎてどうしたものやら」
自分の担当しているアイドルたちをその気にさせてしまっている基臣に、ペトラは恨み言の一つでも言いたい気分になる。それでも、一度交友関係を認めた手前、彼にどうこう言う資格はない。せめて、記者会見で上手く誤魔化してくれることを祈りながら、ペトラはシルヴィアとルサールカがいる待機室へと向かった。
「……基臣君のバカ」
次の準決勝の相手であるチーム・
「中々、手ごわい相手になりそうどすなぁ」
「……前、手合わせしたときよりも遥かに技量が上がっている」
「ほんにそうどすなあ」
「……今度の試合、師父が私に求めているものの答えを見つけることができそうだ」
暁彗は己の身体の内で血が湧きたっているのを感じた。長年、星露が満足する答えを示すことが出来なかった彼にとって、直感とはいえその答えを見つけることができるであろうと感じたその試合に、持てる全てを以て臨もうと決心した。
そんな思いを胸に去っていく
「……うちの可愛らしい式神さんらに頑張ってもらわんとねぇ」
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シルヴィア・リューネハイム
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黎沈華