学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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冬香の京都弁があってるかに不安を覚えているので初投稿です。

細かいですが実は魏嶽の腕は四本ではなく二本だったので修正しました。


裏話24 誉崎流皆伝

 界龍の中にある練習スペース。

 

 そこで、基臣は剣を振い続ける。ただひたすらに、愚直に。

 

「……何が、足りない」

 

 少し前から基臣は今以上の成長が出来ていないことを悩んでいた。

 

 やってる事と言えば、武器に頼った奇襲戦術ばかり。もちろんそれを考えつく能力も大事であることは理解していた。しかし、それで納得できるかと言えばそうもいかない。

 

「……休むか」

 

 剣を止めて近くにあるベンチに腰かける。剣をジッと見つめるが、当然そんな悩みを抱えている基臣に対して答えを返すでもなく待機状態のままだ。

 

「練習している時間は誰よりも長い自負はある。それに剣の道に対する真剣さも……」

 

 

 

 

 

 そんな事を考えていると、扉が開き沈華が中に入ってくる。

 

「ここにいたのね」

 

「……沈華か」

 

「隣、座るわよ」

 

「……あぁ」

 

 返事を聞いて沈華もベンチに座る。二人の距離は拳一つ分程度。向き合えばすぐそこに互いの顔があった。

 

「師父の所に来ないと思ったらまた修行なのね」

 

「今度の試合は厳しいものになる。いくら準備をしてもしすぎることはない」

 

「……まあそれに関しては同感だけど、しっかりと身体を休めなさいよ。当日になって最大限のパフォーマンスを発揮できないってなったら師父に嘲笑(あざわら)われるわ」

 

「分かっている」

 

 それだけ言うと沈華は黙ってしまう。

 

「…………?」

 

 基臣には、どこか沈華の顔に陰りがあるような気がした。

 

「沈華……? どうかしたか?」

 

「……私は、足手まといかしら」

 

「足手まとい?」

 

「この前のルサールカ戦の時も弱体化を受けてからは思うように動けていなかったし、足を引っ張ることに──」

 

「馬鹿を言うな」

 

 グッと沈華に顔を近づける。二人の距離はゼロになり、互いの顔がすぐ目の前にある。

 

「このチームの要を俺だと思っているようだが、それはお前たち後方支援あってのことだ。それに……お前の強さは世界の誰よりも知っている」

 

「そ、そう……?」

 

(あぁ……もうっ。よくそんなにキザな台詞が言えるわね……)

 

 ニヤケ半分、恥ずかし半分の気持ちを抑える沈華。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか話を進める基臣。

 

「今度の準決勝もお前の力が必ず必要になる」

 

「……分かった」

 

 

 

「……次の試合、荒れそうだな」

 

 

 

 そんな二人だったが、しばらくベンチで基臣と身体が密着したことで、沈華が羞恥に耐えきれなくなって顔を赤くしながら部屋を出て行ったのは二人だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獅鷲星武祭(グリプス)準決勝。

 

 もう残る試合もこの準決勝を含めて二つということもあり、大いに観客が盛り上がる。そんな中、互いのチームのリーダーである基臣と冬香がステージの中央に来ていた。

 

「基臣はん」

 

「ん、なんだ」

 

「うち、あんさんに興味があったんよ」

 

「そうか、長年の歴史ある家の当主にそう言われて光栄だな」

 

「ふふ……もちろん当主としての誇りはあるけど、家の名なんてそう大層なもんやないよ」

 

 そうニッコリ笑うと、握手のために手を差し出す。

 

「あまり正々堂々ではないやり方やけど、よろしゅうな」

 

「あぁ」

 

 それに応えるように手を差し出すと深く握手する。

 

 そんな二人がそれぞれチームの元へと戻ると、試合開始を告げる実況のミーコの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急急如律令、(ちょく)

 

 試合が始まると共に、冬香が扇子を扇いで優雅に振る舞いながら、可憐な声を響かせる。

 

 その声と共に、ステージに大きな魔法陣が現れて白煙が上がる。

 

 その中から現れたのは落ち武者のような鎧を着こんだ骸骨や、醜悪な見た目をした河童、一般のイメージとは程遠い奇形の天狗など、異形の化け物たちが優に百を超す数はいた。

 

 それらが並ぶ姿はまさに、百鬼夜行と呼ぶに相応しい軍勢だった。

 

「この数を一々相手取るのは面倒だな……」

 

 腰元にある煌式武装を手に取り、脇構えに構える。

 

「セーフティー解除」

 

 その口上の後に激しく(ほとばし)るその刀身を横薙ぎに切り払った。

 

「シッ!」

 

 一瞬の出来事に召喚した式神は迸る光の餌食となってステージ上から消え失せた。

 

「……あらら、そう簡単に葬られるとちょっと自信を無くしてしまいますわ」

 

 微塵も思っていなさそうな事を口にしながら、扇子を口元に近づけ軽く扇ぐ。

 

「どうだかな。それよりも早く本命を出したらどうだ」

 

「ほな、少し早いけれど出てもらうことにしましょか」

 

 開いていた扇子を口元から離して閉じると、距離を離して印を組む。

 

「急急如律令、(ちょく)

 

 刀印を切り降ろすと同時に赤黒い光が駆け巡り、その中から時代を違えているとしか思えない古めかしい甲冑を身に纏った三つ目の男の式神と、それとは対照的に胸と腰を最低限の布だけで覆った女の式神が召喚される。

 

 男の式神は、大きさは目測でおおよそ2.4から2.5メートルほどだろうか。額から生える二本一対の角に赤黒い肌、そして手に持つ巨大な鎖つきの斧は日本に語り継がれている童話の鬼を想起させる。

 

 もう片方の女の式神は、青い肌に一本の角、身長はほとんど男の式神と変わらない程度だろうか。しかし、目に見えて違う点と言えば腕が四本あることだろうか。その四本の腕には複雑な紋様が刻み込まれた大きな弓を携えている。

 

「なるほど、こいつらがか……」

 

 冬香と親交の深い沈華の話によると、男の式神を魏嶽(ぎごく)、女の式神を魏圏(ぎけん)と言うらしい。

 

 今までの試合で一度だけこの魏嶽を出している試合があったが、こうして相対すると相当の実力を秘めている事が軽く見るだけでも伺えた。

 

 しかし、今回だしてきた魏圏に関してはまるで情報が無かった。沈華も名前だけは知っていたようだが、そんな彼女でも魏圏の能力は知らないとのこと。彼らの一挙手一投足に最大限の注意を払いながら剣を構える。

 

「今回は随分と早く呼び出したな当代の主よ」

 

「流石に相手が相手やからね」

 

 魏嶽の指摘に苦笑いしているがどこかその顔は苦しそうな様子だった。

 

(星辰力は大して減少していない……。何らかの代償があるのか?)

 

 とはいえ、基臣もその代償が試合に大した影響がない事は薄々感じ取っていた。すると、魏嶽が冬香と話をしている最中、魏圏が基臣の方へと向く。

 

「私めは魏圏と申しまする。鎮西(ちんぜい)(すえ)、奉公の梅を守護する青鬼(せいき)なれば、どうぞお見知りおきを」

 

「……これは驚きだな」

 

 ここまで人間に酷似した高度なコミュニケーションを取れる式神が存在することに改めて驚きを覚える。

 

 すると、冬香と話を終えたのか魏嶽も基臣を品定めするように見ている。

 

「ほう、此度の相手は中々の物をもっておる。面白……む?」

 

「どうかしたん、魏嶽?」

 

「……いや。当代の主と同じ気を僅かながら感じてな。ほんの僅かである故、気のせいであると思うが」

 

「うちと同じ? 梅小路家の血は門外不出やし、まさかそんなことあらへん思うけど」

 

「うむ……。若き武士(もののふ)、そなたの名を聞こう」

 

「誉崎基臣」

 

「誉崎、というとあの者を思い出すな。一度だけ戦ったがよく覚えておる」

 

「あの者は人の域を超えていまするからな。あんな人間が出るのは先にも後にもあの一回だけだとは思いまするが……」

 

「魏嶽、魏圏。昔話はそこまでにしてよろしゅうお願いしますえ」

 

「む、そうだな」

 

 冬香が指を横に振るとどこに格納しているのかと思う程、無数の呪符がまるで生き物のように飛び立ち魏嶽の持つ斧に巻き付く。

 

「いざ参ろうか」

 

「疾ッ!」

 

 魏嶽の足元へと駆け出し、動きを封じようと身を低くしながらのスタイルで戦う。

 

「ぬっ……中々にやりづらい。だが……」

 

 足を思い切り地面へ踏み込むことで凄まじい衝撃波を周囲にまき散らす。

 

「ちっ……」

 

「その程度の浅はかな策は対策済みよ」

 

 たまらず一度退がった基臣だったが、そこに追い打ちをかけるように魏圏も加わる。

 

「呪具も儀式も呪言も必要ないとは、実にめでたき世になられたことでございまするな」

 

「くっ……」

 

「魏圏の呪詛は星仙術の比にならんぐらい強力やしねぇ。気ぃ付けはったほうがええよ」

 

 身体を動かそうとすると、熱にかかったかのような朦朧(もうろう)とした感覚やだるさ、ふらつきで思うように身体を動かせなくなる。

 

 冬香の発言からして、目の前にいる魏圏が原因であることは疑うまでも無かったが、明らかに能力で肉体に干渉できる度合いを超えている。例外的に《ライア=ポロス》のような純星煌式武装(オーガルクス)であればそのような芸当も可能ではあるが、それと比較されるという事が如何に魏圏の能力が常軌を逸しているかを示している。

 

「ふぅっ、しっ、っとぉ……!」

 

 二体の同時攻撃に思うように攻勢に出れない基臣。

 

 さすが、梅小路家の秘術という事もあってか二体とも戦闘能力は《冒頭の十二人》でも上位入りできるレベル。相手にするのは基臣にとって非常に辛いものだった。

 

「そっちに行ったわ、基臣!」

 

「憤っ!」

 

「…………ちっ」

 

 時折、今のように暁彗が横から奇襲じみた攻撃を仕掛けてくることもあって基臣の状態は非常に芳しくない。

 

「二本しかない腕でよくやるものだ……。できることならば差しの勝負がしたいところではあるが、そうもいかぬ」

 

 斧による魏嶽の攻撃をすれすれの所で回避しながら、あえてワンテンポ外して出鱈目な軌道を描いて飛翔してくる魏圏の矢を煌式武装で切り裂く。

 

「面倒な……」

 

 第六感があるといっても、全てを見せられた攻撃の筋道を回避するように動くことは出来ない。分かる事とそれを元に動くことは決定的な違いがそこには存在しているのだ。

 

「誉崎流奧伝、獄爛(ごくらん)

 

 二体の攻撃後の隙を見逃さず、今度は基臣が攻勢に転ずる。全ての障害を切り裂き、勢いのままに攻撃を加える。

 

「ぐぬっ……!」

 

 基臣の攻撃は魏嶽の身体に傷を刻みこむ。

 

「……なんとも、面妖な技よ。あの者を思い出させる」

 

 しかし、相手は人間ではなく式神。動きに支障をきたすような傷でなければ何の変化も起こらない。

 

 再び攻撃の主導権は二体の式神へと移り、基臣はひたすらに耐える作業を強要される。普通ならば、魏嶽、魏圏、それに加えて冬香の同時攻撃を捌くことは不可能に等しいと思えるが──

 

「誉崎流奧伝、天地開闢(てんちかいびゃく)

 

 魏嶽に魏圏、そして冬香の攻撃に一瞬で対応すると、その全てを完全に防御する。

 

「ぬぅ……、これもまた奇怪な技。我々をここまで驚嘆させるとは称賛に値するな」

 

「急急如律令、勅!」

 

「なぬっ……!?」

 

 音速を超える速度で直径にして三メートルを優に超える雷撃が魏嶽へと向かう。

 

「ぬぅぅぅぅ……っ! ……まさか横槍とは、あの者もよくやる」

 

 魏嶽の身体に沈華の雷撃がそのまま直撃する。ダメージだけでなく身体の痺れもあり、沈華の雷撃の後に来た基臣の攻撃に咄嗟に反応できなかった。

 

「斬!」

 

「ぬっ……」

 

 今度の攻撃は三つ目の内の一つを切り裂き、明確なダメージを与える。

 

(今が最大のチャンスだ……!)

 

「セーフティー解除」

 

 二体の式神目掛けて煌式武装を横薙ぎに振り払う。

 

「ぬっ……」

 

「なっ……!?」

 

 二体ともギリギリで反応して首を取られることは無かったが、腕をそれぞれ切断された。

 

「今のは中々に巧かった。あやうく首まで斬り落とされるところだったわ」

 

 そう言いながら腕をくっつけようとする魏嶽と魏圏。

 

(今まで確認できなかったが切り取られた腕を接合もできるのか。目が再生できていないところを見るに効果はそこまでだろうが再生能力があると見て動いた方がいいだろうな)

 

 煌式武装の莫大な出力によってなんとか攻勢を維持できていた基臣。

 

 しかし、セーフティー解除の稼働限界を迎えた事で再び基臣は劣勢に立たされることになった。

 

(このままでは、持たないか……っ)

 

 周りを一瞬だけ見渡すと、他のメンバー達もあまり状況は芳しくない。

 

 虎峰・沈華ペアは拳士、道士のどちらもこなせる暁彗の攻撃に防戦が多いようだった。

 

 セシリー・沈雲ペアも《冒頭の十二人(ページワン)》三人相手はきついのか攻撃に勢いが見えない。

 

「よそ見とは余裕があるようだ。しかし、注意が散漫になると思うように力も出ぬぞ」

 

 周りを見渡している間に魏嶽がその隙を突いて猛攻を仕掛けてくる。

 

「ちぃ……っ!!」

 

(今、ピューレを使う訳にもいかない……)

 

 ピューレの能力はあまり多用していないことから外部からはただの透明化と思われている。決勝戦を前に使ってしまえば、危ない状況で意識せずとも透明化以外の能力を使用しかねない。

 

「貰ったッッ!!」

 

 そんな一瞬の迷いを見透かしたかのように魏嶽が斧を叩きつけてくる。

 

「まずっ!?」

 

 対応が間に合わず斧の攻撃を防ぎきることが出来ない。

 

(やられる──っ!?)

 

「急急如律令、勅!」

 

 ガラスが割れるような嫌な音と共に誰かの身体が基臣へとぶつかる。

 

「ぐっ……! ってぇ……なんとか、なったか……っ!?」

 

 目の前にいる人影に何事かと思い見ると、防御用の呪符を下敷きにして沈華が倒れていた。先ほどの攻撃に自らが盾となって基臣を守ったのだろう。明らかに戦闘を続行できるような状態ではなかった。

 

「はぁ、はぁ……。まったく……、世話が、焼けるわね……」 

 

「な、んで……?」

 

「あなたが、はぁ……はぁ……、リーダーだからに、決まってるでしょう……?」

 

 段々と意識が朦朧としていってるのか言葉も途切れ途切れになっている。

 

「後は……はぁ、はぁ……。頼んだわよ」

 

 握ってくる沈華の手をしっかりと握り返し真剣な表情で頷く。

 

「…………任せろ」

 

 その言葉を聞いた沈華は満足したようにそのまま意識を暗闇へと落とした。

 

「黎沈華、意識消失(アンコンシャスネス)

 

 

 

「……………………」

 

 倒れてしまった沈華を抱き上げて安全な場所へと運ぶ。幸いにも魏嶽たちが攻撃してくることは無く問題なく運ぶことが出来た。

 

 

 

「待たせたな」

 

「いや、問題ない。不意打ちをするのは我の主義に反する。……それでは、もうよいな?」

 

「あぁ、始めようか」

 

 戦いを再開した両者。しかし、手数は明らかに魏嶽たちの方が多い。

 

「取ったッ!」

 

 様々な方向から来る無数の攻撃に、もう打開する策は無いかに見えた。

 

 しかし──

 

 

 

「誉崎流皆伝」

 

 

 

 

 

(かみ)(より)

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

 

 意識が沈みこんだこと思うと、目の前に全身白塗りの人間が座っていた。

 

 全身が白塗りで潰されて年齢は分からないが、その声だけで男ということは分かる。

 

「ようやく皆伝までたどり着いたやつが出たかー。……ほーんと、不器用な奴らばっかだよなぁ。俺が学が足りない馬鹿だったからそのせいか?」

 

 少し哀しそうに自嘲気味にケラケラと笑う目の前の白塗りの男。

 

「……お前は?」

 

「俺か? ……まあ、お前に力を貸す存在? みたいなもんじゃねーかな」

 

「何故に疑問形……」

 

「いや、だって皆伝にたどり着いた奴、俺の(せがれ)以外にだーれもいねーんだから。しかも倅も俺と対面拒否したから、こうしてこの世界で人と対面するのは初めて」

 

「…………」

 

「そもそも俺は誉崎流を作った覚えなんてねーのに勘違いする奴の多いこと多いこと……っと、そんな世間話は置いておいてだ。お前さんここにいるって事は力が今すぐ欲しいんだろ?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「それは()()の意思か?」

 

 先ほどの光景を思い出す。沈華を助けるどころか逆に守ってもらって、それを見ているしかできない自分。

 

 そんな何もできない無力な自分にはもうなりたくなかった。

 

 

 

 自分のせいで誰かが傷つく姿をもう見たくない。

 

 

 

「そうだ。父でも誰でもない、この俺が……」

 

「ふーん……」

 

 しばらく考えていた様子の白塗りの男だったがやがて納得したかのように頷くと、基臣の前へと来る。

 

「…………OKだ。お前さんに力を貸してやろう。ただ──」

 

 白塗りの男が手を差し出してくる。

 

 それに応じるように手を差し出すと、その男は吸い込まれるように基臣の身体へと入り込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

『力に飲まれるなよ。俺の力はちーとばかし扱いに困る代物だからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 あらゆる方向から迫り来る攻撃を神がかったような動きで全て回避する。

 

「何ッ!?」

 

「…………雰囲気が変わった?」

 

 着地すると基臣は直立したまま動かなくなる。魏嶽、魏圏、冬香と一人一人見つめてるようだった。

 

(もう基臣はんに打つ手はあらへん。なのに、何なん……この、嫌な予感は)

 

 今までとは違う雰囲気に冬香は寒気を覚える。

 

「何をしたのかは知らんが、結局は同じこと」

 

 魏嶽は再び斧を振り上げ叩きつける。

 

 直立のまま全く動いていなかった基臣だったが、そんな魏嶽の目の前にいつの間にか立っていた。

 

「ッ、速いっ!」

 

 魏嶽はすぐさま攻撃に移るが、その時には他の場所へと移動している。

 

 移動した方向へと振り向いた次の瞬間に、一瞬にして斧を持っている腕を斬り飛ばされた。

 

「ぬうぅ……っ!!」

 

 移動としているいうこと自体は集中すればギリギリ認識できるという事に途中から気づく。しかし、その動きに対応することができずただ翻弄されるのみ。

 

 切られた腕を接合する暇もなく、残ったもう片方の腕を使って斧を拾って横薙ぎに攻撃するが、そんな攻撃は苦も無く止められる。

 

「ぐぬぅぅぅぅぅぅ……!!」

 

(押されているだと……!? この者の膂力、明らかに人間の肉体が出すそれではない……!!)

 

「終わりだ」

 

 魏嶽の攻撃を弾き、大きく身体をのけ反らせると残る一本の腕も容赦なく切断する。

 

 魏嶽の肩に乗り、抵抗する腕が無くなった首をそのまま()ねた。

 

「……えっ」

 

 あっけなく動かなくなった魏嶽に冬香は固まってしまう。

 

(こんな、いとも簡単に……)

 

「基臣! そっちに行きました!」

 

 虎峰の声に気づき横を向くと、暁彗が迫り来ていた。

 

「基臣、俺に師父の求める答えを見せてみろ」

 

 いつも以上に闘志が(みなぎ)っている暁彗だが、基臣はどこまでも覚めたような表情でそれを見る。

 

「憤ッ!」

 

 暁彗は距離を詰め、剣術を封殺して体術が有効となるような局面を作り出す。

 

 しかし──

 

「何ッ!」

 

 足払いで暁彗の体勢を不安定にさせると、強引に剣を暁彗へと押し込んで無理やり距離を離す。

 

「誉崎流皆伝が一──"染霞(そめがすみ)"」

 

 ふわりと幻術が解けたかのように姿をその場から消してしまった。

 

「どこに……っ!」

 

 必死にその姿を探るがまるで元からいなかったかのように気配すら掴むことが出来ない。

 

 そんな基臣だったが気づけばいつの間にか目と鼻の先。何の予兆もなく、まるで元からそこにいたかのように幽鬼の如く現れる。

 

「ッッ! ──爆!」

 

 持ちうる手段の中で最速の(すべ)を以て基臣から距離を離す。

 

 ステージの半分を覆いつくすほどの爆炎と爆風に他の場で戦う者たちまでもが爆心地から顔を背けた。

 

 爆発の威力は絶大──だが、一瞬でも姿を見失うということは己の身を危険に晒す事に等しい。

 

 爆風で見えなくなった瞬間に、基臣は暁彗の元へ既にいた。

 

「っ!」

 

 暁彗はその事に基臣が攻撃動作に入った瞬間に気づく。

 

「おおおおおおおおおおおおお!」

 

 暁彗が己の拳を以て基臣を迎え撃つ。

 

 今までで最高と言って良い程の技の冴え──だが、基臣はその更に上を行くように拳を身体を捻って躱し、最速の太刀を以て校章を破壊した。

 

「──(ウー)暁彗、校章破壊(バッジブロークン)

 

 チーム・麒麟(チーリン)はチームの双璧を為す存在の片翼を十数秒で潰された。

 

「……強い、この場にいる誰よりも……っ」

 

 誰もが異次元の強さを持つ基臣に対し、畏怖を抱く。

 

 そんな周りとは対照的に、基臣は二人の強者を倒したことに何の感慨も無い様子で次の戦場へと足を動かす。

 

 今度は魏圏に目標を定めた基臣は一歩、また一歩と彼女に詰め寄ってくる。

 

「セーフティー、解除……」

 

「もう一度同じように呪詛を……ッ!?」

 

 先ほどと同じように印を組んで呪術を発動させようとした瞬間。印を組んでいたその腕は距離が離れている基臣に切り取られていた。

 

「…………まず、二本」

 

 切られた腕に構わず残る二本の腕で魏圏が弓を引き基臣へと矢を放つ。

 

「遅い」

 

 それを矢を放った瞬間に手に持つ煌式武装で断ち切ると、弓を使えないように距離を詰めて掌底を叩きつける。

 

 近接戦闘をするのにあまりにも不向きな状態。当然、魏圏はまともに攻撃を食らってしまう。

 

「ちぃっ!」

 

「魏圏!」

 

 すかさず冬香からの星仙術による支援が入るが、見向きもすることなく避けられる。

 

 冬香の攻撃は完全に基臣の眼中になかった。

 

「くっ」

 

 流れるように煌式武装を構えて残る二本の腕を斬り伏せ、最後に上下逆さまに落下しながら足の腱を切った。

 

「カハァ……ッ!?」

 

 印を組む腕を全てもがれ、更に立つこともできなくなり地に伏せるしかない魏圏。もうすでに万策尽きており、待っているのは数瞬先の死のみだった。

 

「終わりだ」

 

 魏圏の目の前に来ていた基臣はそのままあっけなく首を()ねた。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 界龍第七学院黄辰殿、謁見の間。

 

 明らかに小さな身体に不釣り合いな大きな椅子にちょこんと座った星露(シンルー)は一人の女性と基臣たちの試合を見ていた。

 

 その女性は界龍の特務機関に属する元序列一位、アレマ・セイヤーン。

 

 普段は仕事があるアレマだが、星露に負けず劣らずの戦闘狂である彼女はせっかくの獅鷲星武祭ということもあって仕事を放棄してまで星露と試合を観戦していた。

 

『まさか基臣にこんな隠し玉があるなんてねー。辛うじて見えはすれど、反応できないってのが中々面倒だねぇ』

 

 アレマは首元にあるチョーカーのように細長い呪符の影響で喋ることができなくなっている。その代わりに隣に浮かんでいる空間ウィンドウに文字を表示させながら、楽しそうに試合の映像を見る。

 

「ほっほっ。じゃが、まだあやつの技は極伝の劣化技よ。極伝ならばこの儂でも認識できんわ」

 

『おや、星露ちゃん。その言い振りだとまるで見た事があるみたいじゃないかい』

 

「あるぞえ。誉崎流の開祖に相当する人間に一度戦ったことがあるわ」

 

『ほー、流石は戦闘狂(バトルマニア)。それで結果はどうだったんだい』

 

 軽く鼻を鳴らすと首を横に振る。

 

「惨敗じゃ。1分と持たんかったわ。強いて言うなら布切れ1枚切れた程度か」

 

『へー。そりゃあたいも戦って見たかったなー、そいつと』

 

「それはともかくじゃ。さっきは劣化技だのなんだの言ったが、それでも十二分に強い。この勝負、チーム・黄龍の勝ちじゃの」

 

『ありゃ、勝ちと言い切っていいのかい? まだ勝負はついてないけど』

 

「阿呆、ぬしも戦局が見えぬほど愚盲ではあるまい。今のあやつに正面切って戦えるのは数えるほどしかおらぬよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

「梅小路お得意の式神は倒した、後はお前だけだ」

 

(あかん、勝てるビジョンが見えへん)

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 無数の雷撃を基臣へと浴びせるがその全てを最小限のステップで回避する。

 

 それからも考え得る限りの全ての手段を用いて基臣へと攻撃を行う。

 

 しかし──

 

「……嘘やん、こんなん」

 

 そんな攻撃の一切を意に介さず目と鼻の先にまで詰め寄ってきていた基臣。

 

 彼の手には冬香の胸元にあったはずの校章が握られていた。

 

(これは敵わしまへんわ)

 

 

 

「梅小路冬香、校章破壊(バッジブロークン)

 

 

 

「試合終了! 勝者、チーム・黄龍(ファンロン)!」

 

 

 

 

「っ! ぁ、はぁ……はぁ……」

 

 初めて使う技に身体的疲労が大きかったのか、基臣は立ち尽くしたまま呆然としていた。

 

「基臣、大丈夫ですか!」

 

「っ、ん? あ、ああ……それよりも試合は終わったのか?」

 

「…………? 当たり前じゃないですか」

 

 少し混乱した記憶の中で必死に試合中の記憶を手繰り寄せる。

 

 まるで自分が自分でなくなるような感覚。最後の辺りは少しだけ自我を取り戻す事が出来たものの、身体の支配権(コントロール)を奪われるような感覚は気持ちが悪かった。

 

(自分が身体を動かしている感覚がまるで無かったな……。慣れない内は乱用は禁物か)

 

「すまん、少し疲れたから肩を貸してくれ」

 

「あ、はい」

 

 虎峰の肩に手を回してゆっくりと歩く。

 

「……しかし」

 

(あの男、いったい誰だったんだ……)

 

 誉崎流の皆伝を習得した時に現れた白塗りの男。正体不明のその男に考えを巡らせながら基臣はステージから去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インタビューを受け終え、待機室まで戻ってくると虎峰に一声かけてシリウスドームから出て行く。

 

 向かう場所はもちろん沈華が搬送された治療院。虎峰から場所を聞くと、前に基臣が腕を切断された時に世話になった場所だった。

 

 一度行ったことがあるため迷わずに向かうと、受付の看護師に沈華の部屋の場所を聞いた。

 

「あぁ、沈華さんなら突き当たりの部屋にいらっしゃいます。そこまで重症では無かったので起きてらっしゃると思いますよ」

 

 部屋を教えてくれた看護師に礼を言うと、急いで沈華のいる部屋へと向かう。

 

「ここか……」

 

 部屋の前のネームプレートを確認して三度ノックする。

 

「どうぞ」

 

「入るぞ」

 

 部屋に入るとベッドに横になっている沈華が顔を向ける。

 

「……あら、思ったよりも早い到着ね」

 

「インタビューの後にすぐ来た。それよりも体調はどうだ」

 

 体調を聞くとどこか悲痛そうな顔をしながら口を開いた。

 

「骨折したらしいわ。しかも肋骨。この状態だと決勝戦は無理だと言ってたわ」

 

「そうか……」

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 しばらく互いに何も喋らない沈黙の時間が流れる。

 

「沈華」

 

「ん、何かしら」

 

「あの時、お前の仕事じゃなかったはずなのに、無理をさせてしまった。すまない」

 

「……はぁ。何を言い出すかと思えば、まだ獅鷲星武祭(グリプス)が終わってないのに反省会かしら」

 

「そういうつもりでは……!」

 

 どこか自罰的な様子の基臣の口を手で塞ぐ沈華。

 

「なら、今は何も考えない事。説教してほしいなら後でいくらでもしてあげるわ」

 

「……あぁ」

 

 そこまで言われたら先ほどの試合の事を掘り返すわけにもいかず基臣は黙る。

 

「……あなた、そんな顔もするのね」

 

「えっ……?」

 

「……いえ、なんでもないわ。ほら、私が大丈夫だって分かったんだから行きなさい。決勝が控えているのにこんな所で時間を潰す暇なんて無いはずよ」

 

「……………………あぁ」

 

 名残惜しいのか、少し時間を置いて返事をすると立ち上がって部屋を立ち去る。

 

「じゃあな」

 

「……ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……! はぁ……はぁ……」

 

 我慢していた身体の痛みに顔を(しか)める。

 

「私も難儀な性格をしてるわ……。痛いって言えば彼にそばにいてもらうこともできたのに」

 

(でも……)

 

 さきほどの彼の顔を思い出す。

 

 普段は仏頂面な彼の、あの時の泣きそうな顔を。

 

「初めて見たわ、あんな顔……」

 

(何かが彼の中で変わっていってるのかしらね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからチームのメンバーに沈華の状態と、決勝には参加できないことを伝えた。皆、リタイアしたことを悲しみはしたが、大怪我にならなかった事は素直に喜んでいた。

 

「ふぅー……」

 

 ベッドに腰掛け、天井を見つめて明日の予定を立てることにする。

 

(沈華が離脱したから、明日は確認のためにも軽く連携だけ見直して後は休息にするか。……それよりも)

 

 思い出したように腰元のホルダーからピューレを取り出す。他の人にはその姿を見せない彼女。最初の頃は吸い込まれそうなほど綺麗に透き通っていた白い柄は、何度も使ったことでどこか濁っているように見えた。

 

 頑なに他人による整備を許さないため、未だに簡易的な整備しかできない弊害が最近になって露骨に表れ始めている。

 

「仕方がない。素人作業ではあるがやらないよりはマシだろう」

 

 そう言って基臣は整備道具を取り出す。

 

「ぅっ!?」

 

(頭が……っ、耳もか……)

 

 (きし)むような頭の痛みと共に耳鳴りのような音が響く。

 

 いきなり視界が白に染まり、思わず目を閉じた基臣。

 

「くっ……っぅぅぅ!」

 

 やがて白くなった視界が収まり、目の前にある光景を映し出す。

 

「ここは……いつもの茶会場所か」

 

 そこは基臣にとってこの1年ほどで見慣れた場所だった。

 

「まったく……いきなり茶会に誘うとはな。いや、唐突なのはいつもの事か」

 

 少し文句を言いたくなる基臣。

 

 二人きりであれば基臣にべったり、と言っても差し支えない程に好意を抱いているピューレではあるが、好意があっても素直に言う事を聞いてくれるかどうかは別の話。

 

 途中からは言っても無駄だなと悟ってはいたがここまで強引に精神世界に連れてこられることは無かった。

 

 オーフェリアと一緒に花植えをしたことで、前よりもかなり広くなっている花畑を抜け彼女がいつも居着いている家へとたどり着く。

 

「邪魔するぞピューレ」

 

 土足で家の中に入り、いつもの部屋に繋がる扉を開けた。

 

「…………どこだ?」

 

 どこかに隠れたのかと思い、辺りを見回すがそれらしい姿も見えない。

 

「おい、ピューレ! どこにいるんだ」

 

 声を張って彼女の名前を呼んでも返事は返ってこない。

 

「……どうしたんだ、いったい」

 

 いつもとは違う、静寂に包まれた雰囲気に不気味なものを感じる。

 

 居間、ピューレがいつもいる私室、書斎……どこに行ってもその姿は見えなかった。

 

「どこだまったく……」

 

 探し始めて10分ほど。家のどこにもいない彼女。

 

 まったく姿を見せてくれないピューレにどうしたものかと思った時だった。

 

「…………ん? こんなもの、あったか?」

 

 それは何かの写真を収めているだろうロケットペンダントだった。

 

「……開かないぞ、これ」

 

 いくら力を入れても開かないロケットペンダント。どうしたものかと思っているとどこからか音がする。

 

「なんだこの音……?」

 

 その音のする方向へと向かうと音の発生源は二階へ向かう階段だった。

 

 上しかないはずだった階段。音がしてからは今までと違って下へと降りていく階段が見つかる。

 

「地下なんてあったのか、この家……」

 

 初めて知る地下の存在。

 

 何故彼女がそんな場所を隠していたかは知る由もなかったが、なんとなく基臣にはピューレがそこにいる気がしてならなかった。

 

 

 

 カッ……カッ……、と靴音を鳴らしながら階段を下りていく。

 

 壁には燭台が掛けてあり、等間隔に並んでいるろうそくがどこか先ほどまでとは違う雰囲気であることを意識させる。

 

(それにしても随分と壁の材質も古そうだ。この世界なら新しいのに変えるのも訳ないはずだが……)

 

 そんな考えを巡らせながら下へ、下へと降りていく基臣。

 

 螺旋階段を三周ほどしたところでようやく地下までたどり着いた

 

(随分と雰囲気が変わったな)

 

 地下に降りると繋がっている長い廊下を歩いていき、奥に行く。

 

 廊下の突き当たりに部屋につながる扉があったので、ピューレがいるかどうか扉を叩いて確認する。

 

 

 すると──

 

 

 

「来たね、モトオミ」

 

 部屋の中からピューレの声が聞こえた。

 

「入っていいよ」

 

 彼女の許可を得たところで扉を開けて部屋に入る。

 

 

 

 

 そこには椅子に座るピューレの姿があった。

 

 

 

「話があるんだ」

 

 

 

 しかし、その顔はどこか憂いを帯びたような表情だった。

 




《現在開示可能な設定》

誉崎流皆伝 神依(かみより)

何者かの力を憑依させ、自身の力の限界を引き出す火事場の馬鹿力のような技。
走者はただの超高速移動と勘違いしているが、実際は膂力、反射能力、視力……その他、人間を構成する様々な身体能力の全てが向上する。ただし、使いこなせていないため限界を引き出すと言っても無意識に力を一定の割合でセーブしている。(そのせいで相手は認識自体はできても反応ができないという現象が発生している)

本作の中であなたが一番好きなヒロインは?

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