学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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長くなりすぎて、前半後半と分けることにしたので初投稿です。

後半はある程度出来上がっているのでお待たせしないと思います。


裏話25-① 追憶

「話があるんだ」

 

「……なんだ、話って」

 

 ピューレの対面にある椅子に座って、話を聞くことにする。

 

「いきなりだけど……もう、終わりにしよ」

 

「……いきなりどうしたんだ」

 

 唐突に別れを切り出そうとするピューレ。

 

 今の今までべったりとくっついてきた彼女が人でも変わったかのようにシュンとしている様子に事情も分からないため基臣も困惑するが、そんな彼の困惑を無視するように一人で勝手に話をする。

 

「まずは私の過去を知ってもらわないとね」

 

「お前の、過去?」

 

「見せてあげるよ、私の過去を……」

 

 そう言ってピューレは基臣の手を取る。鳳凰星武祭の時のように直接、基臣へと記憶を流し込んでいく。

 

「うっ……」

 

 強制的に眠らされるような、そんな感覚に襲われながら徐々に視界が暗くなっていく。

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 それは落星雨が起こるよりも遥か昔、戦国の世と呼ばれていた時の話。

 

 

 

 

 

 

 

「追え! 追えええぇぇぇぇぇ!!!!」 

 

「はぁっ、はぁっ!」

 

 一人の女性が必死に敵の兵士の追跡から逃れようと豪雨でぬかるんだ山道を走る。身に纏っている服は気品のある仕立ての良い服だが、それも木々に裂かれ、泥にまみれていた。こんな道を走るのに向かない草履(ぞうり)でもう一里は走っただろうか。(おぼろ)げな意識の中、ほぼ反射的に敵が向かってくる方向とは逆側へ向かって走っていく。

 

「見つけたぞ! こっちだ!」

 

「っ!?」

 

 兵士に見つかり、徐々にその距離は縮んでいく。後ろから来る兵士が気になったのか何度も後ろを見ながら走る女性。

 

 しかし、その警戒が足元への警戒が緩ませ、気づかぬ内にうちに崖に足を突っ込んでしまう。

 

「──ッ!」

 

 そのまま助けを求める事すら叶わず女性は崖下へと転がり落ちていった。

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

「見つけました、こちらです」

 

 兵士の案内に従いながら、軍の長と思われる人間は道なき道を歩いていく。すると、目の前が崖になっている場所で女性の死体と思わしきものを見つける。

 

「女一人でこんなところまで逃げてくるとは……」

 

 危険な場所を一人で切り抜けようとした胆力に感服の意を示しながらその女性の死体に近づく。すると、先に駆けつけていた兵士が何やら抱えていた。

 

「どうやら赤ん坊のようです」

 

 衣服と思わしきものを一切身に着けておらず、裸のままの赤ん坊。

 

「今しがた産まれたばかりか……」

 

「身籠っていたんでしょうが、死ぬ直前になって流れたものかと……。いかがいたしましょうか」

 

 目の前の死体の女性は敵国の将の妻。すなわち、敵国の首領の子。生かさずに殺すのが筋というものだが──

 

「……近くにある川に捨て置け」

 

 男は生かすことを選択した。

 

「はっ、しかし……」

 

 口を出そうとする兵士を睨みつけ、黙らせる。

 

「いいから捨て置け。儂に子供をいたぶる趣味などないわ」

 

「わ、分かりました」

 

(その思いに免じて命だけは見逃そう。名も無き赤子よ……せめて母の分まで生きてみせよ)

 

 兵士に運ばれていく赤子を見送りながら、言葉に出さず無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すやすや……」

 

 そんな赤子は十数年経った今、草原で気持ちよさそうに寝ころび、睡眠の快楽を享受していた。

 

 物を下敷きにして川に流された赤子だったが、近くにあった村で保護されて生きること十数年ほど。世話になった育ての親に別れを告げて、各地を放浪する浮浪の者となった。生活の原資となる金は各地の戦場に赴いて傭兵まがいの仕事をこなすことで稼いでいる。

 

「うーん、んっ……」

 

 目を覚ましたのか、(うめ)き声をあげながら起き上がる。

 

「はぁ、よく寝たー」

 

 日の方角を確かめると、丁度時刻にして午の刻*1だろうか。時間にして半刻*2ほど寝ていたことになる。

 

「町にでも行くか、ついでに腹ごしらえも済ませたいし」

 

 重い腰を上げると町へ向かい歩を進める。

 

 普通の人間なら一日二食で済ませるものだが、身体をよく動かしているからなのか一日三食。それに加えて間に軽食を取るのがこの男の中では常識だった。

 

 向かった先は城下町ということもあって人が行き交い、栄えていた。歩く途中に茶屋があったので、餅を10個ほど注文して食べることにした。店の主も大量に餅を食す姿を見るのは珍しいのか、目を丸くしながら男に声をかける。

 

「見たところこの町の人間ではないようだけど、何の用で来たんだい?」

 

「ちょいと鍛冶屋に行こうかと思ってな」

 

「それなら……ここからしばらく進んだところに有名な鍛冶屋があるよ」

 

 店主の説明を聞き終えると、男は餅を食べ終え懐から金を出す。

 

「ありがとさん、これお代。釣りはいらないから、情報のお礼に取っといてくれ」

 

「まいど!」

 

 それから茶屋を発ち、歩くことしばらく。情報通りに鍛冶屋を見つける。

 

「入るか」

 

 暖簾(のれん)をくぐり、店の中に入ると様々な刀剣だけでなく、鉄を使った日用品の数々も置いてある。興味深く色々としばらく見て回っていた重信だったが──

 

「お、面白そうなのあるな」

 

 そう言って見たのは店の端にある、柄だけしかない一風変わった剣、だろうか。数ある刀剣が飾ってある中で一際異様な雰囲気を醸し出していた。

 

 少し気になり店主である壮年の男に声を掛ける。

 

「おっちゃん、この剣は?」

 

「あぁん? ……それか、そいつは曰く付きだぜ。やめときな」

 

「曰くつき、ねぇ……」

 

 なんとも物騒な話だが、見た感じだけで言えばそういった類の雰囲気は男の直感センサーには感じない。

 

「あぁ。今まで、数人の腕に自信がある剣豪が持っていたみたいだが、全員不慮の事故で死んじまってる。おまけに頭の中で誰とも分からん言葉が聞こえるんだとさ」

 

「ふーん、じゃあこれにするか」

 

「話聞いてたのかい兄ちゃん! そいつは呪われた妖刀なんだ。使い手になったら最後、確実に死ぬんだぞ」

 

 そんな店主の話を聞かず男は剣を手に取り、起動する。

 

「…………きれいだ」

 

 男の視線を釘付けにしてしまうほど、その剣はどこまでも透き通っていて世界のあらゆる物よりも綺麗だった。

 

「……気に入った。おっちゃん、これ貰うわ。お代は?」

 

「って、おい! …………あーもう、馬鹿が知らねえぞ。お代はいらねぇ、好きに持って行け!」

 

「あいよー。ありがとな、おっちゃん」

 

 剣を無償で貰い、機嫌よく店から立ち去る。

 

 要件も済んだので町を出てしばらく歩くと、頭の中に誰かの声が聞こえる。

 

『あなた……誰?』

 

 まだ(よわい)十五に満たないぐらいだろうか、どこか妖精を思わせるような透き通るような声をしていた。

 

「おっと、さっそく頭の中に直接声が聞こえたな。初めましてだな、俺が新しいお前さんの所有者だな」

 

『……私が呪われてると知って持ってるの?』

 

「そんな雰囲気無いし適当にでっちあげられた与太話だろ、どうせ。そんなことよりもお前が魅力的に見えたから貰ったんだよ」

 

『そんな風に私を見てくれる人、初めて。……ねえ、あなたの名前は?』

 

「俺の名前? 俺は誉崎重信。……つっても、誰かにもらった訳でもなく自分がつけた名前だけどな」

 

『シゲ、ノブ?』 

 

「そうだ」

 

『……よろしくね、シゲノブ』

 

「あぁ、よろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 それから、ピューレは重信と共に旅をした。

 

 

 

 時には、うっかり山に跡を残すほどの斬撃を放ったり。

 

 時には、万にも及ぶ軍勢を相手取ったり。

 

 時には、梅小路家や夜吹家に喧嘩を売りに行ったり。

 

 

 

 その度にピューレは思う。自分が大して必要になる局面はないのだと。

 

 それもそうだろう。重信がわざわざ本気を出してピューレを使ってくれることは無かったんだから。

 

 そんな事実に、いらなくなって捨てられるのではないかという思いもあったが、それが現実になるのが怖くて黙ったままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数年。放浪の旅を止め、重信は住処を持ち定住することになった。

 

 その理由は──

 

「おかえりなさい、重信さん」

 

「あぁ、ただいま。(より)

 

 帰ってきた重信を家の中で出迎えた重信と同じかそれよりも下に見える年の女性。名を(より)姫といった。

 

 戦によって没落した士族の娘だったらしく、それを道中出くわした重信が保護したのが始まりだった。彼女は生まれながらに病弱だったが、重信が仕事で得た金で薬を買い与えることでまともに生活できている。

 

 今では、紆余曲折経て結婚したのち、子も授かっていた。

 

「ピューレちゃんもおかえりなさい」

 

 少女の姿で実体化したピューレに微笑む。

 

『た、ただいま』

 

「恥ずかしがり屋なのね、ふふ」

 

『────ぅぅっ!!』

 

 初めて経験する家庭の温もり。恥ずかしくもあるが、居心地のいいその空間に使われていないという不安が消えるぐらいにはどこかホッとするピューレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に、10年近く経ち、一家には子供も生まれた。妻である依姫の薬代を稼ぐために戦場に行って戦う傭兵業に忙殺されていたが、それでも妻の笑顔を見れるのならつらいとも思わず戦った。

 

 

 

 今日は久しぶりの休養日ということで絶好の昼寝場所で睡眠をとっている重信。ピューレは何かあった時のためにと妻の元に置いたまま出かけてきている。普通ならばたいした武装も持たず寝ていようものなら野盗に襲われてしまうのがオチだ。だが、過去に一万もの軍勢を相手に無傷で勝ったことのある重信にその常識を当てはめてもしょうがない。

 

 昼寝をしていた重信を人影が覆い隠す。

 

「……ん?」

 

「ぬしが誉崎重信じゃな?」

 

 声が聞こえたので目を開くと、異国の服を着た若い女が立っていた。

 

「儂は隣の明からおぬしの噂を聞きつけてやってきたのじゃが……その噂の本人で合っとるかの?」

 

「今度は外からの人間まで来たか。どこで噂を嗅ぎつけてきたんだ、まったく……。それで何の用だ?」

 

「そなたと戦いたいのじゃ、一つ手合わせ願えるかの」

 

 まあそうだろうな、と思いながら重信は立ち上がる。

 

「……まあ構わねぇけど、これっきりにしてくれよ? 何度も来られても相手するの面倒くさいし」

 

「相分かった」

 

「それじゃ移動するか。ここだと人が来るかもしれないからな」

 

 それから重信たちは草木が茂り、人が通ることのない場所へと移動する。

 

「そっちからどーぞ」

 

「それならお言葉に甘えるとするかの」

 

 手で印を組み始める。初めて見るその手の動きを興味深く観察していると、女は印を組み終え刀印を切り降ろす。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 すると、一人だけしかいなかったはずの女がそっくりそのまま、たくさん複製される。

 

「おぉ、分身か。初めて見たな」

 

「ゆくぞっ!!」

 

 分身たちが各々自由意志を持つかのように動きを変え襲い掛かる。

 

 変則的なその動きを初見から全て見切り、回避する。

 

「勢ッ!」

 

「危なっ、衝撃波か」

 

 衝撃波を発生させる呪符を初見ながら全て回避する。

 

 それ以外にも多種多様な分身たちの攻撃をそつがなく受け流し、カウンター気味にその分身を全て消していく。

 

「本体はそこか」

 

「くっ!?」

 

(何故じゃ!? 普通の分身ではなく別次元から呼び寄せた、言ってみればもう一人の自分に等しいはずなのにどうして見分けれるのじゃ!)

 

 見通されたかのようにピンポイントで本体を叩く重信に困惑する。

 

 しかし、それとは別に闘争心が段々と湧きたってもいく。

 

「ククク……。滾ってきおったわぁ!」

 

 呪符を大量にばら撒くと、それを起点に二メートル大はある爆炎球が百以上現れる。

 

「分身の次は炎か」

 

 木刀でその全てを捌ききり、爆風で姿をくらまして女へと攻撃を仕掛けた。

 

「────っっ!」

 

 ギリギリで重信の攻撃を回避すると反撃とばかりに手刀を振るう。

 

「女だからと侮っていたが、良い反応速度だな……って!」

 

 重信の身に纏う服が手刀の軌跡に沿って破れ、そこから血が滲み出る。

 

「しまったなぁ、依に縫ってもらわねぇと」

 

 そんな能天気な事を考えている内に彼女は次の術を完成させる。

 

「憤ッ!」

 

 印を組み終えて最後に刀印を切り降ろすと、上空から天変地異レベルの落雷が重信の元に降り注ぐ。

 

 雷特有の轟音が耳を刺激し、明滅する閃光が視界を埋め尽くす。

 

「……っ、どうじゃ!」

 

 音からして直撃した手ごたえがあった。この雷撃を今まで受けたもので立ったままでいれたものはいない。それ故に、彼女は勝利を確信する。

 

 

 だが──

 

 

「ほー、天災を呼び寄せるなんて面白い術使うんだな」

 

 地面が焦げて草葉が根こそぎ焼けてしまっている中、その中心で無傷のまま重信は立っていた。

 

「おぬし、どうやって今のを……」

 

「あ、これか? 星辰力(プラーナ)で包み込んだ木刀を使って雷を受け流しただけだ」

 

 理解を超えた方法で動く重信に流石に余裕の表情だった女も冷や汗をかく。

 

「今までいろんな者を見てきたが、おぬしはその中でも特に規格外じゃわ……」

 

「さて、面白い物を見せてもらったし、礼としてこっちも全力でやるか」

 

 重信は身に留めていた星辰力を開放し、木刀を構える。

 

(……この星辰力の量! やはりただものではない!)

 

「急急にょ──」 

 

「遅い」

 

「──っ!? カハッ!」

 

 星仙術を使う暇さえ与えず不可避の速攻を仕掛けた重信。気絶させるべく彼女の鳩尾(みぞおち)に一撃を与える。

 

(まったくっ、動きが見えんかった……!)

 

 動きの途中どころか初動すら見ることが出来なかった。

 

(こんなこと、初めて、じゃ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………む。ここ、は……?」

 

 先ほどまで戦っていたはずだったが、意識を取り戻して起きると先ほど出会った草っぱらに横たわっていた。

 

 起きたばかりで記憶が曖昧な女の元に何かが放り投げられる。よく見ると、握り飯だった。

 

「おはようさん。飯いるだろ? 一つやるよ」

 

「……もらおう」

 

 投げ渡された握り飯を一つ貰い口に頬張る。適度な塩味が脳に浸透し先ほどまでの戦いの疲れを癒す。

 

「それにしても……強かったな、お前。今まで戦ってきたやつの中では一番だ」

 

「ほざけ。薄布一枚しか裂けんかった儂が一番強いなどと」

 

「いやいや、俺油断してはなかったんだぜ。今まで一度も攻撃を貰ったことないんだから、お前さんがその第一号ってわけだ」

 

「はあ……言ってくれるわ」

 

 握り飯を食べながら、女は疑問を口にする。

 

「それにしてもお主、なんでそんな状態で身体が壊れんのじゃ?」

 

 その質問に重信は首を傾げる。

 

「何故壊れない、と言われてもなあ。今までこれでやってきたからその質問は分からないとしか言いようがない」

 

「普通考えれば、肉体が裂け、骨も砕かれるはずじゃが」

 

「うーん……。強いて言うなら星辰力で補強しているといえばしてるが」

 

「ふむ……」

 

「それよりも俺の身体能力は異常なのか? 今までまともにお前の言う星脈世代とやらに会ったことが無いから分からんのだが」

 

「普通、非星脈世代と同じように星脈世代も身体に異常な負荷がかからんように制限がかかっておる。じゃが、おぬしにはその制限がないように見える。普通考えれば、あり得ん話じゃよ」

 

「ふーん、そっか」

 

 貰った握り飯を食べ終えると、重信の方を向き真剣な表情を見せる。

 

「つかぬことを聞くが、おぬし、儂の婿とならんか?」

 

「嫌だ。俺には妻がいるんだ、他を当たれ」

 

 即答する重信に星露も呆気にとられる。自惚れでも何でもなく、自分の容姿は少なくとも一般よりも美しいものだという自覚がある。少しは悩む様子を見せる物と思っていただけにその返答の速さに驚かされた。

 

「妾でもいいんじゃぞ」

 

「俺は妻一筋だからな。他の奴が入る席はない」

 

「ちぇっ、つまらん男じゃのう。まあそこまで言うなら仕方なかろう」

 

 服をはたき、立ち上がる。

 

「そろそろ帰るのか?」

 

「いんや、初めてこの国に来たから少し観光して帰ることにするわい」

 

「そうか、楽しかったぜ」

 

 手を振りながら去っていく女に、重信もまた手を振って別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重信が30歳手前になった頃、ピューレを息子に渡す事に決めた。彼は彼女が胸中で抱いていた、捨てられるのではないかという不安を見抜いていた。このまま持っていても、その不安は解消されないだろうことから実力がまだ未成熟な息子に手渡す方が良いと重信は思った。

 

 ピューレに説明を事前に済ませると、息子である重行(しげゆき)が丁度やってくる。

 

「何だよ、こんな所に呼び出して」

 

「長い話も好きじゃないしさっさと本題に入ろうか」

 

 腰から剣を取り、息子に手渡す。

 

「…………これは」

 

「そうだ、潔白の純剣。俺の持ってる剣だ」

 

「何故、お前が俺なんかに今更こんな……」

 

「今更って言われてもな」

 

 重信の言葉に重行はその顔を怒りに歪める。

 

「母さんをロクに面倒見ずに、放浪しているお前なんかに!! どうせどこかで女でも作ってるんだろ! この屑が!」

 

 重信が家に帰ってくるのは一年の内、ひと月あるか無いか。重信も本来ならもっと妻に寄り添ってあげたいが、薬の値段が異常な高さのため、仕事漬けの毎日。

 

 そんな事を知る由もなく憎悪の念を抱く息子に思わず溜息をついてしまう。まだ年齢は10を過ぎたばかり。事情が事情なだけに真実を話せないことが悔やまれる。

 

「はぁ……。分かった分かった。とりあえず持っておけ、いずれは役に立つ」

 

「……ちっ」

 

 ピューレを受け取ると逃げるように立ち去って行った。そんな彼の行動に重信は少し苦笑いしつつも、どこか悲しそうにその様子を見ていた。

 

 すると、依姫もその様子を陰ながら見てたのかしばらくして重信の元に来る。

 

「ごめんなさい。あの子、重信さんのことを嫌ってるみたいで。話は何度もしてるんですけど……」

 

「いんや、構わんよ。俺が家を留守にすることが殆どだからな。嫌われててもおかしくない」

 

「……そろそろ、本当の事を言った方がいいのではないですか?」

 

 本当ならそうしたいのは山々だった重信だが、その提案を首を横に振って否定する。

 

「俺が戦に出稼ぎに行ってると知れば間違いなくついてくる。まだあいつは子供だ、死地に向かわせるぐらいなら嫌われてでも黙っておいたほうが良い」

 

「あなたがそう言うなら……」

 

「すまんな。こんな嫌な雰囲気を作り出して」

 

「いえ、あなたがよかれと思ってやってる事ですから。いつかは分かってくれますよ」

 

「ありがとう」

 

 重信は微笑んでくる彼女にキスをする。

 

「じゃあ行ってくる」

 

「気を付けてくださいね、重信さん」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そうした平穏な日常は長続きしなかった。

 

 重信が30手前という年齢で早逝すると、彼の力を恐れていた重信の住んでいた国の武将が妻であった依姫と息子である重行を狙って抹殺命令を下した。

 

 早めにその噂を聞いていた息子は母を連れて隠れるように暮らしていたが、まともに仕事にもありつけず母の薬を買うこともままならなかった。当然、母の容態は悪化の一途を辿り、一人ではまともに食事にありつけないほどの状態。

 

 それでも必死に息子は働き、薬を買えるほどのお金を手にする。

 

「大丈夫だよ、母さん。薬買ってくるから」

 

 金を片手に家から出ようとする息子の手を止める。

 

「いいの、もう」

 

「……っ! いいわけ、ないだろ!」

 

 声が震える。

 

 息子にも分かっていた。

 

「分かるの。もう私の命も残り少ないって」 

 

 もう母の命が残りわずかであることを。

 

「そん、な……」

 

「…………今だから話そうかしら」

 

「……話?」

 

「……お父さんはね、私の治療費のために戦場に出稼ぎに行ってたの。だから、いつも家を留守にしてたのよ」

 

「…………え?」

 

 信じられない。あんな屑みたいな人間が母親のために働いていたなどと、息子には到底思えなかった。

 

「でも、なんで黙って」

 

「今まで黙ってたのは、あなたが無茶して戦場についていくような危ない真似をしてほしくなかったから」

 

 混乱している息子だが、母は自身がもう持たない事を悟り、話を続ける。

 

「こんな事を隠していた私達を今更許してなんて言わないわ」

 

 息子の手を握り、どこか涙ながらに話す。

 

「ごめんね、こんな不甲斐ない母親、で……」

 

「……………………? まさか……母さん!!」

 

 いきなり喋ることをやめた母親に大声で話しかける。

 

「……嘘だろ。かあ、さん…………母さん!」

 

 母の亡骸を揺すって何度も声をかける。しかし、身体は既に冷めて生を感じさせなくなっていた。

 

 無理やりにでも理解させられる。もう母は死んでいることを。

 

「……俺は、誰を恨めばいいんだ」

 

 今まで憎しみを向けていた父は、実は薬を買うために必死に働いていて、自分のためを思って黙っていた。これでは一方的に怒りを向けていた自分は馬鹿だと、そう思わされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重行たちの抹殺は梅小路家と夜吹家、それぞれに依頼をしていた。お互い仲間と言える間柄ではないので、どちらが早く首を取ってくるかを争っていた。

 

「……そろそろ首を取っている頃か」

 

「ご、ご当主!!」

 

 扉を開けて焦った様子で向かってきた側近。

 

「む、どうした。そんなに慌てて」

 

「大変です! 誉崎の抹殺に向かわせていた者達が全員返り討ちに! それと……」

 

「なんだ?」

 

「本家の屋敷にいたはずの秋穂様がいなくなりました」

 

「いなくなっただと!? どういうことだ!」

 

「そ、それが……。誘拐されたものかと思われます……おそらく誉崎の者かと……」

 

「何だと!?」

 

 代々優秀な星脈世代を輩出してきた梅小路家にとって前代未聞の誘拐事件。しかも、その誘拐された現当主の娘である秋穂はその資質の高さから次期当主になる予定だった。厳重な守りにある本家の屋敷にいたはずの彼女をどうやって誘拐したかは不明だが、相当な痛手であることには違いなかった。

 

 頭を悩ませながらも現当主はこの騒動を広めないことに決める。

 

「……この事実は決して他の者には漏らすな。不慮の事故で亡くなったことにせよ」

 

「それでは……」

 

「……うむ。一生この事実は我々のみで封印するものとする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ……もう、やめてぇっ」

 

 そんな誘拐された女は重行にとって、子を産むためだけの道具としてしか見られていなかった。

 

 肩で息をしながら、床に四つん這いになる女を何の感情も持たずに見下ろす。

 

「…………まだだ」

 

「あっ! だめっ、そこっ」

 

 

 

 結局、本質は変わらなかった。何かに対して怒り、憎しみを抱くことでしか重行は生きる意味を持てない。そんな悲しい生き方しかできなかった。

 

 無理やり産ませた我が子に対しても何の愛情も注がず、ただ強く、ただ憎き相手を殺すためだけに育てるという歪んだ考えを持って接した。

 

 

 

 そして、その怒りの矛先が憎き相手を貫く時がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁっ!!」

 

「や、やめろっ……あ"ぁ"っ"!!」

 

『もうやめてよ!』

 

「騒がしい、黙っていろ」

 

 母や自身の抹殺を命じた武将が住まう城。その場所へ重行一人で殴り込み、そこにいる人間を男女構わず全員斬り殺していた。

 

 その者たちの絶叫、憎悪、様々な感情がピューレへと突き刺さる。

 

『いやぁ!』

 

 反抗するピューレを無理やり押さえつける。普通、純星煌式武装(オーガルクス)の力を以てすれば所有者を拒否することも可能だが、この男にはまるでそれが通用しない。おぞましいと形容するだけでは足りない程の鬼気がピューレを縛り付けていた。

 

 そんな苦しんでいる彼女の事を(つゆ)ほども気にせず、目の前の人間を次々に斬りつける。

 

 父ほどではなかったが、この男も最強と呼ぶにふさわしい剣技の持ち主。何人が一斉にかかろうとも容易くそれらを薙ぎ払っていく。

 

 そんな城内に居る人間たちの怨嗟の念を受けながら、最後の〆とばかりに将が居る最上階へと向かう。

 

「お前が最後だ」

 

「貴様……まさか!」

 

「何の罪もない人間を抹殺しようとしておいて、よくもこんなに優雅に過ごしていられるものだ。吐き気がする」

 

「えぇい、この儂が殺して──」

 

「黙れ、その薄汚い声を発するな。耳障りだ」

 

「ァ……ぁっ……」

 

 侮蔑の目を向けながら、首に刃を押し込む。しばらくしてピューレを抜くと空気混じりのかすれた声を上げながら倒れた。

 

 汚い物に触れるように足で転がして生死を確認する。

 

「……やっとだ」

 

 長年、殺してやるとひたすらに思い続けていた怨敵を自身の手で打ち取ることができた。

 

「やっと、やっと……母さんをいじめてた屑どもを滅ぼすことができたよ」

 

 肩を震わせ、喜悦に顔を歪ませる。しかし、その顔は正気とはかけ離れた狂気に満ちたもの。

 

「く、ククク……アハハハハハハハハハハハハ!!」 

 

 誰もいない城内に狂笑が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰か……たす、けて……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
正午

*2
約一時間

本作の中であなたが一番好きなヒロインは?

  • シルヴィア・リューネハイム
  • オーフェリア・ランドルーフェン
  • ミルシェ
  • エルネスタ・キューネ
  • 黎沈華
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