学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
(もう、どれぐらい時が経ったんだろう)
(私の周りにいる人はみんな不幸になっていく)
(私、生まれてくるべきじゃなかったのかな……)
……………………
あれから時は五百年近く経ち、誉崎家から逃げ出した基臣の父である
「ほらほら、ママですよー」
「うぃい、あぶー」
「ほら、手を上げてー。はーい!」
「あーぃ」
「あーもう! かわいいなー!」
「親馬鹿もほどほどにしておけよー。基臣が泣くぞ」
「もう! それは私だけじゃなくて
「あ、おい! ……仕方ないな。ほーらほら、パパだぞー」
(私もあの中に、入りたいな……)
目の前の楽しそうな光景に、羨ましく感じる。いつぶりにこんな和やかな光景を目にしただろうか。もう五百年近くは見ていないだろう。
(二人とも優しそうだし、もしかしたら受け入れて……くれるかな?)
過去にピューレは何の遠慮も無く使い潰されたせいでまだ人が怖かったが、それでもこの二人はそんな悪い感じはしなかった。
それこそ、こんな私でも受け入れてくれる。ピューレはそんな気がした。
(しばらくしたら、話しかけてみようかな……)
そんなピューレの期待とは真逆の方向へと、事態は進んでいく。
幸人と澄玲が脱走したことは誉崎家の名に泥を塗るような行為ということで、本家から刺客が澄玲たちの元へと差し向けられた。
「澄玲、ここで隠れていてくれ」
「……気を付けてね」
「あぁ」
部屋から出て行く幸人を見送ると、しばらくして戦闘の雰囲気が物音を通じて伝わってくる。
「大丈夫、大丈夫だからね……」
泣かないようにあやしながら部屋の中で待つ澄玲。自分の命はどうなってでも目の前にいる愛しい我が子だけは、と覚悟を決める。
「見つけたぞ!」
「……っ! 逃げないと」
幸人が相手をし切れていなかったのか、屋敷に乗り込んできた刺客に見つかり、非星脈世代ではあるが我が子を守るために必死に走って逃げる。
「はぁ、はぁ……。日頃から一緒にランニング、しとくべきだったかなぁ……」
自分を必死に奮い立たせるように戯言を言いながら走る。
──そんな彼女だったが、その逃走も長くは持たなかった。
「あ……ッ!!」
後ろからきた矢を背中に受けてしまう。抱きかかえている基臣を守りながらも膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れてしまった。
当たり所が悪かったのか血がドクドクと流れ、矢から生じる痛みが彼女の意識をどんどん奪っていく。
「……あーあ。私、ここで死んじゃうのかぁ」
自分の死期を悟った澄玲は懐かしむように思い出を振り返る。
「もっと幸人君や基臣と、みんなで一緒に、色んな所に行ってみたかったのに、なぁ……」
基臣の頭を優しく撫でてあげる。
「ごめんね、私達のせいでこんなことになっちゃって」
こぼれた涙が基臣の顔に落ちて頬を濡らす。
幼い基臣は何なのか理解できずキョトンとした様子だったが、自分の様子を悟らせないように笑顔を取り繕う。
「ねえ、基臣」
せめて最後にと基臣の顔を撫でて、愛しい我が子に向けて最後の言葉をかける。
「せめて……あなただけでも、幸せに
意識が沈んでいきもうほとんど息をしていない中、追いかけていた刺客が澄玲の元に刃を向けようとしていた。
「……死ね」
「死ぬのはてめぇだ! 糞野郎が!!」
「……ッ!」
斬り殺さんとばかりに構えていた刺客を蹴り飛ばし、片方の刀を喉元に投げ飛ばしてトドメを差す。
「澄玲ッ!!」
澄玲を抱き寄せる。しかし、背中から抜けた血が床を大きく染めるほど出て、顔も生気がなくなったように蒼白。明らかに生きていなかった。
「おい、澄玲! しっかりしろ! ……おい、おいってば!!」
何度も何度も揺らして呼びかける。これが夢であってほしいと、現実な訳がないと。
しかし、そんな淡い期待は叶うはずもなく澄玲からは返事が返ってこない。
「なんで……こんなことに……っ」
自らの弱さを、愚かさを嘆く。これは天罰だったのだ、大切な人を守れるだけの力を持っているという傲慢な考えを持っていた自分への。
「くそっ! くそ、くそっくそ……くそっ!」
それでも──
「ふざけるな…………ふざけるな!! こんなの、認められるかよ!! なんで俺じゃなくて澄玲を!!」
手に持つ刀をひび割れる音が聞こえる程強く握りしめた。刀を持っていないもう片方の手からは血が滲み出て、恨みの籠った射殺さんばかりの目つきをしていた。
「そうだ、殺してやればいい。あんな連中生きていちゃいけない……」
「誉崎家は俺が潰す」
……………………
「ッ、はぁ……はぁ……」
凄惨な過去に見ていた基臣も息が詰まるような感覚に陥る。当然といえば当然だろう。いくら記憶が無いといっても自分の母親が殺されるシーンまで見せられたのだから。それに──
「これでは……」
あまりにも救いが無さすぎる。
期待させられるだけさせられて、そのことごとくが悪い方向へと向かっていく。最初から全てに期待してなかった基臣の今までよりも更に酷い末路といえた。
「どうだった?」
「随分と、嫌な記憶ばかりだな……」
ピューレの記憶を見た限りでは幸せだった時はほとんど無かったと言っていいだろう。強いて言うなら、あの重信という人間に居た頃が一番まともな生活をしていただろうか。
「……実はさ、この前の試合、モトオミが強くなったのを見た時、不安だったんだ」
「…………」
「シゲノブの時みたいに使われなくなったり、あの男みたいに適当に使い潰されて終わるんじゃないかって」
ピューレの手が小刻みに震える。己の過去を改めて見直して、その不安が限界を迎えたのかもしれない。
「分かってるんだよ……? モトオミが私の事を裏切る訳ないって。でも、私の記憶の中のトラウマは消えてくれなくて」
「……ピューレ」
「それに……私を持ってるとみんな不幸になってしまう。モトオミが親を亡くしたのだって、きっと……きっと私のせいだ……っ!」
ネガティブな考えが更に彼女を追い込む。いつもの無邪気な顔はどこへいったか、今に儚く消えてしまいそうな危うさを感じた。
「たぶんそんな考えでいたら足を引っ張っちゃう。そんなことになるなら私、わたしっ……!」
嗚咽の声が漏れる。そんな彼女の様子を少し見ていた基臣だったが、耳に触れながら困ったような顔をする。
「……ピューレ、少し表に出るぞ」
「え……? あ、ちょっと……」
ピューレの手を引き、家の外へと出て行く。
彼女の手を引いて連れて行ったのは家の前にある花畑。いつも彼女とお茶会をしてる場所だった。
「俺が言うのもなんだが、お前、戦う事ばかりに目を向けすぎだ」
「だって、それしか私の存在価値は……」
「ほら、手を貸してみろ」
「え、あ……!」
ピューレの手を握り、花畑の方へと向かう。色とりどりに咲いた花たちの中に立つと、彼女と手を繋いだ基臣が枯れてしまっている花へと手を近づけさせる。
「よく見ておけ」
すると、淡い光の粒子が枯れていた花を徐々に綺麗に咲いていた時のような姿へと変えていく。
「…………わぁ」
そして、完全に元の綺麗な姿を取り戻した花がピューレの目に映った。
「自分自身をダメだ何だと言ってるが、視野が狭いよお前は」
「視野が、狭い?」
「この能力があれば花だけに限らず人の傷を癒して助けることもできるし、お前の能力の可能性を考えれば色んな場面で役に立つ。お前の考えてる以上にな。……もちろん、限度はあるだろうがな」
そう言うと蘇らせた花を一輪摘み、ピューレに手渡す。
「私にも、戦う以外に意味が……」
「それにな……」
「…………?」
「今更な事を言うが、お前を使えるか使えないかで判断するんだったら鳳凰星武祭の時点で切り捨ててるだろ。あの時、物凄い反抗されたんだから」
「うっ、それは……」
鳳凰星武祭の時の振る舞いを思い出して赤面するピューレ。自分でもおかしい事をしていた自覚があるだけに今となってはあの記憶は黒歴史として蓋をしている。
「確かに今からも星武祭のグランドスラムのためにお前の力を借りることはいっぱいある。だがな……」
ピューレとつなぐ手を強く握りしめる。
「仮に今度の試合や王竜星武祭で勝っても負けても、俺はお前とずっと一緒にこうしていたい。それに、お前を持っていたら不幸になるなんて事は無い。それを俺が一緒にいることで証明する」
「…………モトオミ」
「お前はどうなんだ、ピューレ」
手を繋ぎながら基臣とピューレは目の前の景色を眺める。咲き乱れる花々には何の変化も無い、見る人によってはつまらないかもしれない、そんな景色だが、色鮮やかなその光景はどこか見ていて飽きない。
「……うん、私もずっとこうしていたい」
「それならいい」
「うん、うん……」
何度も噛みしめるように頷く。
「そういえば、言うのを忘れてたな」
「……ふぇ?」
ピューレの身体を抱きしめる。こうして抱きしめるのは初めてかもしれない、そんなくだらない事を考えながら彼女の様子を窺うと、何が起きたのかよく分かっていないようだった。
「辛かったな、ピューレ。……今まで気づいてあげれなくて、ごめん」
初めて、今まで封じていた
その言葉にピューレの目から一滴、涙がこぼれる。
「あれ、なんだろ、これ? わたし、どうして」
そんな彼女の身体をギュッと優しく、けれども離さないように強く抱きしめる。
「っ……!」
「俺とお前以外に誰もいないんだ。思う存分泣け」
肩を震わせ、涙混じりの声を発しながら彼女も抱き返す。
「わたし……っ! つらかった、つらかったよぉ……!」
「……大変だったな」
優しく銀髪の少女の背中をさする。その背中はいつもみたいな悪戯じみたものではなく、見た目相応の小さな背中に見えた。
(純星煌式武装といっても、心は人と同じぐらいに脆い、って事なんだろうな)
改めて自分の愛剣の事を何も知らなかったのだと痛感させられる。それでも、これからでも彼女の事を知っていけたら良いと、そう思うことにする。最初から完璧な関係性などあるわけ無いのだから。
初めて見せてくれたその姿をどこか愛おしく感じながら、彼女が泣き止むまで抱きしめた。
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