学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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3人目の曇らせ患者を出してしまったので初投稿です。

俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!

その瞳を曇らせたくなるヒロインたちが悪いんだ!(責任転嫁)


if③ 私だけのヒーロー

 私は星脈世代(ジェネステラ)だ。

 

 かけっこをすれば誰よりも早くゴールに着けて、ボールを投げれば学校の外まで飛んでいく。怪我をしてしまっても余程の事がない限り一日二日程度で治ってしまう。普通だったら誰もが羨むような力なのかもしれない。

 

 でも、こんな力なんて欲しくはなかった。同い年の子にはその異質な身体能力から化け物か何かを見るような目で蔑まれ、学校の先生にも疫病神かのように扱われた。親からも双子の兄弟である沈雲(シェンユン)共々、異物のように扱われてどこに行っても居場所がない。

 

「おらっ! いい声で吠えろ!」

 

「っ……ぐっ!」

 

「お、やんのか? ほら、やってみろよ! もし殴ったらお前はその時点で犯罪者だもんなぁ!」

 

「ぇぐ……っ!!」

 

 授業が終わって放課後になれば、こうして校舎裏に連れてこられて脇腹をける、足を踏みつける、と容赦のない私刑(リンチ)が繰り返される。

 

「なんとか言えよこのバケモノ女!」

 

「……うっ!」

 

 痛いし、苦しいし、何もかもが敵に見えてくる。

 

 なんでこんな事をしてくるのか意味が分からない。

 

「なんかつまんねえし、もっと強そうな道具で殴ろうぜ」

 

「そうだ、買ってもらった金属バット持ってきたんだ。それでこいつを殴ってみようぜ」

 

「いいな、それ!」

 

 

 

 もういやだ。誰か私を助けて。

 

 

 

「おい」

 

 

 その声は私をいじめてくる奴らのそれとは違った。虐める手が止まったので何事かと思って顔を上げると、一人の男の子がやってくるのが見える。

 

「お前ら何やってんだ」

 

「ゲッ、基臣(もとおみ)が来やがった」

 

「逃げるぞ!」

 

 その男の子を見ると、いじめていた奴らが脱兎のごとく逃げ出していく。

 

「チッ、胸糞悪い……。星脈世代だろうがなかろうが、俺たちは同じ人間だろうが……」

 

 何事か愚痴のようなものを呟いた後、男の子は私に近づいてくると、身体を何やら確かめてくる。

 

 年は……私と同い年だろうか。確か同じ学校に通っていて一緒の学年だったはずだ。今までいじめに加担してこなかったから珍しくて記憶の隅ではあるものの覚えてはいた。

 

「おい、大丈夫か」

 

「ッ……!!」

 

 私の身体をペタペタと触ってくる。どうせ目の前にいる彼も私をいじめるつもりだ。そう思って警戒心をむき出しにする。

 

「……大丈夫だ。俺はお前を傷つけるような悪いやつじゃない」

 

 その言葉と共に彼は私を優しく抱きしめてくれた。

 

 私よりもほんの少しだけ逞しいその身体からは今まで経験したことのない温もりを感じた。

 

「なんで……私なんか……」

 

「虐められてたから助ける。そんな当たり前の理由じゃ悪いか?」

 

 当たり前って言うけど、普通周りの人を敵に回してまで助けることは出来ない。少なくとも、私は同じ状況に陥ってる人がいても無視してたと思う。

 

 でも、目の前にいる男の子の瞳は真剣そのもの。まるで、小さい頃に絵本で読んだ正義の味方みたいだった。

 

「ぐすっ……私、私……ッ!」

 

「ここだとろくに話も出来ないだろうし……俺の家に行くか。そこなら誰も来ないし安全だ」

 

「…………う、ん」

 

 

 

 私はその男の子の家に連れていかれて、汚れを取るために風呂に入れてもらい、サイズが合わずダボダボの服を着せてもらうと部屋に招き入れられた。

 

 連れられた家には誰もいないようだったが、この男の子は両親を小さい頃に亡くしているらしく、今は家に残っているお金で暮らしている、と話してくれた。

 

 私も彼に虐められていた経緯を説明すると、頭を何度も撫でて優しくしてくれた。

 

「そうか、大変だったな……」

 

 真剣に私の話を聞いてくれたこの時に初めて、彼が私の味方だという事を確信することができた。

 

 

 

 

 

 それからは、その男の子は学校にいるときはいつも傍にいてくれて、休みの日でも私を外に遊びに連れ出してくれた。

 

 彼は星脈世代だけど、とっても強くて、それでいて優しかった。星脈世代ということで見下す人もいるようだったけど、それを意にも介さずに困っている人には誰でも分け隔てなく接した。そうした行動の甲斐もあって、非星脈世代の子の中にも私たちを受け入れてくれる子が少しではあるがいた。

 

 そんな彼にいつからだろうか、私は恋心を抱いていたのだと思う。ここまで優しくされて惚れない方がおかしいだろう。彼の一挙一動に目が奪われてしまう。

 

 本当はこの胸中を吐き出してしまいたい。

 

 でも、もしそれで私から離れてしまったらと思うと怖気づいてしまう。

 

 だから、その恋心を隠し通すために、それからは彼のことをお兄ちゃんと呼んで私は慕うことにした。家族として見れば少しはこの想いも心の内に留めておくことができるような、そんな気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんとお花畑に行くことになった。本来なら、子供が行くにはあまりにも厳しい場所だったけど、星脈世代である私たちならば対して苦も無く行くことができる、とお兄ちゃんが言っていた。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん。手、つないでいい?」

 

「ん、まあ構わないが」

 

 おずおずと差し出す私の手をお兄ちゃんは優しく握ってくれた。やっぱりお兄ちゃんの暖かさは他の人と違って心地いい。

 

「……よいしょっと、わぁ!?」

 

「よっと、大丈夫か?」

 

「わ、わわわわ……!?」

 

 私が斜面でバランスを崩して落ちそうになると、お兄ちゃんが優しく抱き寄せてくれた。恥ずかしくなって顔を隠したけど、顔がにやけてしまったのはバレてない……よね? 

 

 

 

 

 

 歩くことしばらく。急な斜面や獣道もあったけれど、一度バランスを崩して以降は大して苦労することなく登りきる事ができた。

 

「わぁ、きれい……」

 

 山を登るとそこには、薄紅色の花が辺り一面に咲き揃っていた。

 

「登ってきた甲斐があっただろ」

 

「うん!」

 

 星脈世代特有の異常な身体能力に今まではうんざりしていたけれど、こういう場所に苦も無く行くことができるのを実感して、少しだけ自分が星脈世代であることに自信と誇りを持てるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんと私が初等部3年になった年の冬。旅行に連れ出してくれた。いきなり、2泊3日の泊りがけの旅行だからと言われたので、着替えなどの荷物をぎゅうぎゅうに詰めて飛行機で移動する。両親は私が家にいない方がいいのか、勝手にしろと素っ気なく言われたので沈雲にお土産を買ってくることを約束してお兄ちゃんと旅行の旅へと出発。

 

 移動には飛行機を使うとのことで4時間ちょっとかかるらしく、機内でお兄ちゃんの肩に身を預けながら寝ることにした。

 

 

 

沈華(シェンファ)……沈華……」

 

「……んっ」

 

「ほら着くぞ。窓の外を見てみろ」

 

「ん~……?」

 

 お兄ちゃんに軽く揺さぶられて起きると、目をこすりながら言われた通りに背を伸ばして窓の外を見る。

 

 窓からは六角形の形をした島が見えてくる。

 

「あれ、は……?」

 

「学戦都市アスタリスク。別名、六花だ。お前も話でぐらいは聞いたことがあるだろう」

 

「うん、星脈世代の人たちがいっぱい集まって戦う場所……なんでしょ?」

 

「まあ、大まかに言うとそうだな。他にも星脈世代であっても、何も言われることの無いどころか強ければ称賛されるある意味、理想の都市という側面も持っているがな。そろそろ、降りる準備だけはしておけよ」

 

「うん」

 

 飛行機が着陸し、入国すると王竜星武祭(リンドブルス)の開催期間中ということもあって酷く混雑した空港内を抜けて、船に乗るとアスタリスクの本島へと向かっていく。

 

 フェリー乗り場から本島まで行くと、そこにはビルがたくさん建っていてその中でも、巨大な空間ディスプレイには星武祭の映像が放映されており、応援するために人だかりができている。

 

「わぁ……」

 

「どうだ? 自然に触れるのも良いが、たまにはこういう景色も悪くはないだろ」

 

「うん! 色んな物がキラキラしてて綺麗!」

 

「そうか、気に入ってもらえたようで何よりだ。……とりあえず、ここに来るまでご飯の一つも食べていないし、昼飯でも取ることにするか」

 

「うんっ!」

 

 お昼ごはんを食べた後は、お兄ちゃんと色々な場所へと行った。この島のメインともいえる六学園のほとんどの校内を見ることは出来なかったけれど、界龍だけは中に入って見せてもらうことができた。

 

 ほかにも、星脈世代の人たちが戦う星武祭の舞台であるシリウスドームや最新の流行を取り扱っている服などを取り揃えた商業エリアなど様々な場所をお兄ちゃんと散策。その途中で、お兄ちゃんに純白の可愛いワンピースを買ってもらった。気に入ったので、私たちが泊まるホテルに到着しても、着替えずにずっと身に着けたままだ。

 

「ふふーん!」

 

「そんなに気に入ったのか、それ」

 

「うん! とっても可愛いもん!」

 

「そうか。だけど、そろそろ寝間着に着替えろよ。シワにして明日着れなくはしたくないだろ」

 

「……うん」

 

 脱ぐのがもったいなくて少し不貞腐れていると、やれやれといった顔でお兄ちゃんがカバンから紙切れを取り出す。

 

「ほら、機嫌を直せ。明日はこれを見に行くんだぞ」

 

「…………? 何これ?」

 

 手渡された紙切れを見てみると、星武祭のチケットのようで私とお兄ちゃんの二枚分用意してあった。

 

「王竜星武祭のチケットだ。しかも、間近で見れる超特等席」

 

「え!? そんなもの、どうやって手に入れたの!?」

 

 そんなプレミアチケット、普通ならば百万どころでは買えないだろう。お兄ちゃんがいくらか金の持ち合わせがあるといっても、そんな高価な物を買うほどの金額は持っていないはずだ。

 

「界龍のスカウトから特待生として勧誘されたから、入学する代わりの謝礼の一部として貰った」

 

「とく、たいせい……?」

 

「沈華にはまだ難しい言葉だな。まあ、俺が優秀だから引き入れたい人がいるってことだ」

 

「お兄ちゃん、どこか行っちゃうの?」

 

「んー……。まあ、そういうことになるな」

 

 お兄ちゃんがどこか遠い所に行ってしまう。

 

「っ、いやだ……っ!!」

 

「わっ!? どうしたんだいきなり」

 

 つまり、お兄ちゃんが私の目の前からいなくなるってことだ。

 

「おにいちゃんと一緒にいたいよぉ……」

 

「沈華……」

 

 ただの駄々という事は自分自身でも分かっていた。でも、一秒たりとも、一瞬たりとも離れたくない。お兄ちゃんは私の全てといっても過言ではないぐらい、それぐらいに私はもう依存してしまっている。

 

「沈華、よく聞いてくれ」

 

「…………」

 

「世界を支配してる統合企業財体は俺たちを食い物にするために敢えてこの異常な差別を放置してる。このままだと星脈世代はずっと(しいた)げられ続けるしかないんだ」

 

「……そう、だね」

 

 お兄ちゃんの言っている事は、最近になって私も薄々感じ始めていたことだった。世界を支配する6つの統合企業財体は、見世物である星武祭で私たち星脈世代を戦わせて、懐を潤わせたいのだろう。

 

 より盛り上げさせるためには、より強い星脈世代が必要だ。そのために彼ら統合企業財体が取った行動は、敢えて私たち星脈世代の差別を放置することだった。そうすることで、差別から逃れるためにこのアスタリスクに来る人を増やし、より強い人間を厳選する腹のはずだ。

 

「そのためにも、俺はアスタリスクに行くよ。それで、お前みたいな不幸な目に遭う奴が現れないように星武祭(フェスタ)で優勝して願いを叶えてもらう」

 

 お兄ちゃんの語る夢に私は思わず身が震えるほど感動した。

 

 星脈世代に対する差別がなくなる世界。簡単に口にするが、それがどれだけ難しく、そして叶うならばどれ程うれしい世界だろうか。

 

「私も行くっ! それで、お兄ちゃんと一緒に星武祭で優勝するよ!」

 

 だから、私もお兄ちゃんの願いの手助けをしたい、そう思った。

 

「……そうか。なら、お前も強くならないとな」 

 

 お兄ちゃんはそう言うと、ギュッと私を抱きしめてくれた。

 

 

 

 翌日、お兄ちゃんと一緒にシリウスドームで王竜星武祭の決勝戦を見ることになった。

 

「すごい……」

 

 星脈世代同士の戦いはとにかくすごいの一言に尽きた。

 

 鳥のようにフワリとジャンプしたり、魔法使いさんみたいに雷を撃ち出したり、私の知る星脈世代とは違った一面が目の前に広がっていた。

 

「ああ……すごいな、本当に」

 

「こんな中で優勝しないといけないんだよね?」

 

「そうだ。今のままでは優勝は夢のまた夢だ。誰にも負けないようにするためにも、もっと強くならないといけない。だから、一緒に頑張ろうな」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスタリスクから帰ってきてからは、私もお兄ちゃんに混ざって鍛錬をすることにした。

 

「いい筋してるな、きっとお前は強くなれるよ」

 

 いつもそんな風に褒めながら撫でてくれたお兄ちゃんの笑顔が、どんなにつらい鍛錬でも頑張れる原動力になった。

 

 

 

 それからは季節が過ぎ去っていくのは早く、気づけば私たちはもう初等部5年になっていた。あれからも鍛錬は欠かさず行い、お兄ちゃんとは互角に、とはいかないけどそこそこいい勝負ができるぐらいにはなれた、と思う。

 

 お兄ちゃんは早めにアスタリスクに行って強くなりたいという事で、中等部になる前に界龍に入ることに決めたようだ。私も行きたかったけれど、お金の部分がネックになって特待生としてスカウトされるか、中等部の編入試験で優秀な成績を出すしかない。一緒に連れていけないことをお兄ちゃんが申し訳なさそうにしていたけれど、私の我儘で足を引っ張りたくない。無理やり笑顔を作ってお兄ちゃんの特待生入りを祝福した。

 

 

 

 

 

 そして、お兄ちゃんがアスタリスクに行く前日。ついに、私は長年秘めていた想いをお兄ちゃんに告白することにした。もし断られたら、と思うと怖い。けれど、今告白しないと、後悔するような気がした。

 

 待ち合わせの場所でお兄ちゃんを待っている間にも、心臓がドキドキして呼吸も上手くできない。こんなに緊張したのは初めてな気がする。

 

「おーい」

 

「あ……っ」

 

 お兄ちゃんがやって来た。

 

「どうしたんだ、沈華。こんな所に呼び出して」

 

「じ、実はね……! えっと……あの……っ」

 

 好きだという言葉を口にしようとすると、どうしても口が思うように開かない。言わなきゃっていう気持ちが先走ってしまって、口から息をするのも忘れてしまい呼吸が荒くなる。

 

 そんな私の背中をお兄ちゃんは優しくさすってくれた。

 

「落ち着け。焦らなくても、俺はちゃんと聞いてるから」

 

「…………う、うん」

 

 一度しっかりと深呼吸する。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 

 

 …………うん、もう大丈夫。

 

 

 

「……実はね、私、お兄ちゃんの事が好き……なの」

 

 言った、言ってしまった。

 

 もう元の関係に戻ることは出来ない。

 

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

 

 お兄ちゃんの口が開くまでの時間が永遠にも感じるぐらいに長く思えた。

 

 そんな長い沈黙を破って、お兄ちゃんは口を開く。

 

「そっか……。なら、俺もちゃんと沈華の気持ちに答えないとな」

 

 お兄ちゃんは私の顔に近づき、優しくキスをしてくれた。

 

「んっ、ちゅっ……んちゅっ……」

 

 キスの味は甘い味とか、レモンの味とか色々言うけれど、そんな事は無い。

 

 だけど、どこか心がポカポカするような気分になって、お兄ちゃんの唇をずっと貪り続けたい気持ちになる。

 

「……んっ、すき……しゅきぃ……」

 

 唇を触れ合っている瞬間に来る、身体の奥がキュンとするような感覚が中毒になりそうになる。誰かが止めなければ、ずっと続けていたくなるぐらいだ。

 

「っと……、これでいいか」

 

「あっ……」

 

 お兄ちゃんの唇が離れていく。少し名残惜しくて口に手を当てるとまだほんの僅かだけれど温もりが残っていた。

 

「俺もお前の事が好きだ」

 

「……じゃあ、相思相愛なの?」

 

「ああ、そうだな」

 

「……えへへ。お兄ちゃんも私が好きなんだ……」

 

 だらしない姿を見せたくないと思っても、嬉しすぎて頬が緩んでしまう。

 

「アスタリスクに行く前にお前に気持ちを伝えれて良かった」

 

「…………」

 

 そうだ。お兄ちゃんはアスタリスクに行ってしまう。

 

 せっかく、恋人になれたのに……。一抹の寂しさを感じてしまう。

 

「そんな悲しそうな顔をするな。……そうだ、ちょうどいい。今渡すか」

 

「…………?」

 

 お兄ちゃんがそう言ってポケットから取り出したのは、表面に花の絵柄があしらわれたペンダント。

 

「それならこれを持っててくれ」

 

「……これ、は?」

 

「ロケットペンダントだ。中に写真が入ってる」

 

 そう言って、ペンダントを開いて中を見せてくれると、そこには私たち二人が一緒にアスタリスクで撮った写真が入っていた。

 

「お前と一時的に離れ離れになるけど、それを俺の分身みたいな物だと思って持っていてくれ。少しは寂しさも紛れるだろ」

 

「うん……」

 

 少し寂しくなるけど、私はそのペンダントで我慢することにした。私が一年頑張れば、お兄ちゃんと一緒にいれる。それを思うと、寂しさよりも頑張らなきゃという意欲が勝った。

 

 私が界龍に行った後の事を思い浮かべる。

 

 

 

 お兄ちゃんの傍にいて……

 

 大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになって……

 

 お兄ちゃんと子供を作って……

 

 慎ましやかな生活になるかもしれないけれど、胸いっぱいになる幸せがこれからもずっと、ずっと、続くと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、そんなに人生は甘くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沈華っ、大変だ! 基臣が!!」

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じられなかった。

 

 お兄ちゃんが死んだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原因は、飛行機の墜落事故らしい。いくら屈強な肉体を持っているお兄ちゃんでも事故の中で生き残れなかったのだろう。

 

 もう、何を考えればいいのか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは死んだように過ごす地獄の日々が始まった。

 

 お兄ちゃんがいなくなったからなのか、虐めてきた奴らが再び私を(なぶ)ろうと狙ってくる。

 

 こうして校舎裏に呼び出され、お兄ちゃんと出会う前みたいに殴る蹴るの暴力だけでなく、道具まで持ってきて私をボコボコにしようとする。そうはいっても、前とは違って鍛えているため彼らの攻撃は私を傷つけることはない。

 

「この愚図が!」

 

「なんだよ! その目っ!」

 

 バットで何回も叩きつけられる。どうやら、私の反応が鈍いことに苛立ったのか、カッターなどもっと痛がるだろう道具を用意してくる。無抵抗なので流石にカッターの刃が当たると、肌が傷つけられる。

 

 でも、何の痛みも感じない。お兄ちゃんを失ったときの胸の痛みに比べれば本当に……本当に、些細なものでしかない。

 

 そんな中途半端な道具を持ってくるくらいなら、ナイフや包丁……いや銃でも持ってきて殺してくれればいいのに。

 

 殺す覚悟がないからこんな手ぬるい事しかできないんだろう。私からしてみれば何が楽しいのか分からない。

 

「おい、お前ら!」

 

「バケモノ女の兄貴が来やがったぜ!」

 

「逃げろ逃げろ!」

 

 道具で殴られるような感触がなくなったので顔を上げると、いじめっ子たちが私の前から消えていた。

 

「ハア、ハアハア……大丈夫か、沈華」

 

 沈雲が助けに来てくれたみたいだ。どうやら私がいじめられてるのを見て駆けつけてきたのだろう。

 

 

 

 でも、それが何なのだ

 

 

 

「……なんで、助けてくれたの」

 

「沈華がいじめられてるんだ。兄弟の僕が助けに行かず誰が助けに行くって言うんだ」

 

 兄弟……

 

「……私、助けてって言ってないよね」

 

 所詮、沈雲ではお兄ちゃんの代わりにはならない。

 

「沈華、もう自暴自棄になるのはやめるんだ。このままじゃ先に沈華の身体が──」

 

「沈雲に私の何が分かるの!!」

 

「っ!」

 

「お兄ちゃんが死んじゃって……私……私っ、どうすればいいかわっかんないよ!!」

 

「沈華……」

 

 もう誰も見たくない。見てしまったら、所構わず八つ当たりしてしまう。そんな謎の自信がある。

 

「……帰って」

 

「でも……」

 

「帰って!!」

 

「…………分かった」

 

 こんなにも叫べるぐらいの気力が残っていたのかと自分でも驚くくらいだ。

 

 諦めてくれたのか沈雲が帰っていく。

 

「……ぐすん……ひぐ……っ」

 

 罪悪感が私の心を苛んでくる。沈雲は何も悪い事をしていないのに当たり散らすようにキレてしまった。

 

 そうだ、私の身勝手が周りの人間を不幸にしてしまう。

 

 こんな私は存在する価値なんて無い。だから、本当は自死でもしてお兄ちゃんのところに行きたい。でも、まだそうするわけにはいかない。

 

 せめて……お兄ちゃんの、そして私の願いでもあった星脈世代が酷い目に遭うことのない世界を作ってからじゃないと死んでも死にきれない。

 

「やらなきゃ…………」

 

 

 

 

 

 それからは必死になって自分を鍛えぬいた。

 

 鬼気迫るその鍛錬の姿から、いつの間にか虐められることも無くなったけれども、その代わり私に対する恐怖の視線は月日が過ぎるごとに増えていく。前の私なら気になっていたかもしれないけれど、今になってみればそんな視線は欠片も気にならない。

 

 沈雲からは相変わらず気を遣われているが、大事の中に小事なし。そんな事を気にする余裕もなかった。何しろ、私が目指すのは星武祭優勝なのだ。生半可な実力では簡単にふるい落とされてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星武祭にエントリーができる年齢になると、お兄ちゃんの時と同じようにスカウトの目に留まって特待生として界龍に在籍することになった。それと同時に沈雲も私と同じように特待生として界龍に入ることにしたらしい。スカウトの目には引っかからなかったものの、試験の際に彼の才能が万有天羅の目に留まったらしい。

 

 それから、界龍に入ったからといって特別変わったことはない。

 

 強いて言うなら、万有天羅に星仙術は教わっているがそれ以外の人間とは関わりを作っていない。狙いを王竜星武祭一本に絞っている私にとって、人の繋がりとは持っても意味のないものだと思っている。傍から見ていても、彼らとの交流はただのなれ合いにしかならない事は一目瞭然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、王竜星武祭にオーフェリア・ランドルーフェンが出るという事が分かってから考えを改めることにした。

 

 一度だけ彼女を間近で見たことがあるが、今の……いや、一生かけても私では彼女には勝つことはできないだろう。それぐらいに私と彼女の間では圧倒的な実力の隔たりがある。もしかしたら、お兄ちゃんだったら勝てる可能性があったかもしれないが……そんなたらればを言っても仕方がない。

 

 

 仕方なく、狙いを鳳凰星武祭(フェニクス)に変更することにした。だけど、今まで他人との関係を持ったことの無い私にペアが作れるわけもなく、ペア探しに難航した。

 

 沈雲にその事を話すと、喜んで協力してくれた。おそらく、肝心な時に助けることができなかった私に負い目を感じての事なのかもしれない。それを知っていながら図々しく協力してもらおうなんて、我ながら自分が醜くて嫌になってしまう。お兄ちゃんならこんな事しない。

 

 沈雲と連携の練習などをしている内に、鳳凰星武祭のエントリー期間が終わる。しばらくして公開されたトーナメント表を確認すると、一部変わり種がいるがどれも無難に勝てそうなペアばかりだ。確実に優勝するために高等部になるまで待っていたが、ようやくこれで願いを叶えられる。

 

 

 

 その後、私たちは難なく鳳凰星武祭を勝ち進んでいき、決勝戦まで駒を進めることができた。最後の相手は叢雲(むらくも)華焔の魔女(グリューエンローゼ)。普通に真っ向からやりあっても勝てる相手だろうが、油断して全てを無為に帰すのは愚者のやることだ。徹底的に相手が立ち上がろうという気概を起こさせないぐらいにねじ伏せて勝ってみせる。

 

「沈華、先に行ってるよ」

 

「うん」

 

 沈雲が待機室から出ていって一人になったのを見計らうと首にかけているペンダントを手に取る。

 

 開くと、初めてアスタリスクに来たときの写真が入っている。

 

 

 

 私の時間は、お兄ちゃんが死んだあの頃から止まったままだ。

 

 

 

「お兄ちゃん、大好きだよ」

 

 

 この鳳凰星武祭で優勝して、長年の宿願を達成させる。

 

 




というわけで、基臣が沈華と幼い頃に会っていたら且つ沈華の取り巻く環境が最悪だったらというif話でした。
改めて見直すと、基本的にif話は救いのない話ばっかりな印象ですね。まあその分、本編ではヒロインたちが幸せそうなので大丈夫でしょう()

本作の中であなたが一番好きなヒロインは?

  • シルヴィア・リューネハイム
  • オーフェリア・ランドルーフェン
  • ミルシェ
  • エルネスタ・キューネ
  • 黎沈華
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