学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
「ん……?ここ、は……?」
基臣が起きると、そこは彼の実家である屋敷の一室。いつも、基臣が寝所にしている場所だった。
「なんでこんなところに俺が……」
身体とは不思議な物で、疑問を抱きながらも昔のように起き上がり、身支度を済ませて部屋を出る。
障子を開けて歩くことしばらく。縁側に人影が見えた。その後ろ姿はいつも見る人のもので──
「シルヴィ……? おい、シルヴィなのか!」
「……………………」
呼びかけても振り返らないことに違和感を感じ、彼女の元へと近寄る。
「どうしたんだ、こんな所で座って。それよりも、なぜここに……」
後ろから肩を掴むと、目の前にいたシルヴィアの姿が一変する。
「なッ!?」
その体は深紅に染まり、肩に触れていた手には血の感触がべったりと絡みつく。
「ねえ、基臣君……」
──ナンデ、タスケテクレナカッタノ
「ぁぁぁあああ"あ"あ"あ"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
誰もいない一人部屋で、普段発さない叫びをあげた。
「っ! ……はぁ……はぁ……っ!」
全身から汗がびっしょりと噴き出し、呼吸が安定しない。夢だと思いたいが、あまりにも先ほど感じた感覚はリアルすぎた。
「シル、ヴィ……。シルヴィ……っ!」
焦る気持ちを抑えきれず、携帯端末を手に取ってシルヴィアの連絡先へと電話をかける。
「頼む……っ!」
祈るようにかけたそんな通話だが、5コールほどでつながった。
『……んー、もしもし』
寝ていたのかウトウトとした表情をしているシルヴィア。下着だけの無防備な恰好で寝ていたのか、露出した肌が画面に映る。
「シルヴィか!?」
いきなり大声を上げる基臣に、シルヴィアはビクッと体を震わせる。
『って、わわっ!? どうしたの基臣君、そんなに声を荒げて』
「大丈夫か! 怪我は!?」
基臣の問いに何を言ってるのか分からないのか、きょとんとした顔で首を傾げる。
『怪我って……そんなの無いけど……』
「…………そうか。それなら良いんだ、それなら……」
『良いんだって……いきなりどうしたの? まだ、4時半だよー?』
「……いや、なんでもないんだ。朝早くにすまなかったな。……あと、その無防備な恰好、気を付けた方がいいぞ。通話相手に肌を見せる露出魔だとか、そんな風のいらぬ誤解を生む」
『え、いや。その、これはっ──』
何やら弁明するような声が聞こえた気がしたが、それに構っていられる余裕がなかった基臣は電話を切ると、ホッと一息吐く。
「本当に…………夢、か」
その夢は酷く記憶に残った。普通ならば数分もすれば頭の中から切り取られたように消えてしまうのに、まるで忘れるなと言わんばかりに
「……最近は特に酷くなってきているな」
冷蔵庫から水を取り出し、浴びるように喉に流し込む。
「……まったく。隠そうとするはずだ、こんな代償」
基臣を信じ、自身の本心を打ち明けることに抵抗が無くなったピューレは、自身を使うことの代償を話してくれた。
ピューレの能力の代償。
それは、精神的に使い手の一番の弱さとなっている要素──大体の場合はトラウマ──を元に、強制的に使い手が一番精神に来る悪夢を見せることだった。能力の使用頻度次第では、そんな悪夢と毎夜直面させられることになり、更にその内容もひどいものに変わる。似たような代償として《パン=ドラ》も毎夜、自分が死ぬ夢を見せられるようだが、それと違ってピューレの悪質な点はその悪夢から覚めてもずっと記憶に残り続けることだった。
更に、身の程を
「考えたくもないな、そんな事態は」
ピューレが何度も念押しに、度の過ぎた能力の使用を注意してきていることからも、人の身には耐えきれない代償なのだろう。過去に何人もの人間が不幸な死に見舞われた理由はそこにあるはずだと基臣は少しずつ落ち着いてきた思考の中で推察する。
「……個人的には、まだ《パン=ドラ》の代償の方がまだマシだな」
自分の命の価値を低く見積もっている基臣にとって、まだ己の死を体験する方がマシだったのだろう。
水を飲み干した基臣は、ジャージに着替えるとドアに手をかけて外へと出る。
「強くならなければ……もっと、強く……」
基臣は本来、男子禁制の場であるクインヴェールへと足を踏み入れていた。
来た事も数度しかない場所だがその足取りに迷いはない。
しばらく歩くと、豪華な装飾がされたドアの前にたどり着く。
ドアを開くと、生徒会長用の椅子に座っていたシルヴィアが書類から目を離し、基臣へと手を振る。
「やっほー、基臣君」
「仕事中のようだが、邪魔だったか?」
「別に大丈夫だよ。書類に不備が無いかの再確認だったし、たった今終わったところだから」
「そうか」
「それにしても、まさかこうやって堂々とお話できるなんてねー。ほら、座って座って」
備え付けのソファに案内されて座ると、シルヴィアも隣に座る。
用意していたティーカップに紅茶を2杯分注ぐと、基臣の前にも差し出す。
「そういえばニュースで見たけど、基臣君があんなお願いをするなんてね。まあ、君らしいと言えば君らしいけれど」
ティーカップを口に付けながら苦笑するシルヴィア。
「それほど意外でも無いと思っていたが……過去に似たような願いを申請した奴はいないのか?」
「いないはずだよ。だからこんな感じでニュース記事にもなってるよ、ほら」
そう言ってシルヴィアは基臣に空間ウィンドウでニュース内容を見せてくれた。記事の中では基臣の願いの目的の考察がこれでもかとばかりに敷き詰められており、余程珍しいのだろうという事を理解させられる。
「どうりで俺を探す記者どもが多いわけだ」
「特にクインヴェールは女の子だけだから、現在進行形で大騒ぎ。君のファンだった子なんか、一目会えるかもと大喜びみたいだけどね」
「確かにここに入ってから俺に対する視線が多かったな」
正門から入った瞬間に、女生徒からの侮蔑の視線や別の生き物を観察するような視線、好意的な視線……などなど、色々な感情を乗せた視線が刺さり、基臣はむず痒いものを覚えながらシルヴィアの元へと来ていた。
「……もしかして、うちの子たちに手を出したりしてないよね?」
「そんなわけないだろう。ここで不祥事を起こしたら、二度とどこにも入ることが出来なくなる」
「そっか、それならよかった」
「よかった?」
「別に基臣君が他の子に取られないか心配したわけじゃないんだよっ!? 生徒会長としてみんなの安全を……。あ、そうだ! それよりもほら!」
勝手に話を拡大解釈した後に、強引に話を切り替えるシルヴィアに思わず苦笑する基臣。
「じゃーん!」
シルヴィアが取り出したのはシンプルなデザインの四角い弁当箱。
「弁当か」
「一緒にお昼ご飯を食べれるって聞いたからちょっと張り切ってきちゃった。さ、一緒に食べよ」
「それなら、ありがたくいただこう」
弁当を受け取って蓋を開ける。彩り豊かなおかずが敷き詰められていた。
「いただきます」
「いただき、ます」
食事前の挨拶の習慣は欧州圏では馴染みのない文化なので、シルヴィアのその言葉はたどたどしさを感じさせるが、それでもしっかりと心のこもったものだった。
基臣は箸を手に取ると、おかずを一口頬張る。
「ん、美味しい」
「よかったー」
ふにゃぁ、と柔らかな笑みを見せると彼女も弁当を口にする。
「忙しそうなのに、すまないな。わざわざ用意してもらって」
「もー、私がしたいと思ってやったことなんだからいいんだよ。どうせなら、感謝の言葉をもらう方が嬉しいかな」
「そうか……ありがとう」
「どういたしまして」
そんなこんなで談笑を交えながらも弁当を食べ終え、その後は主にシルヴィアから振られる話題に答える基臣。
「あのー……お願いがあるんだけどさ」
「どうしたんだ、そんな改まって」
両手の人差し指を擦り合わせながら、チラチラと上目遣いにシルヴィアは基臣へとお願いをする。
「私、ピューレちゃんの姿が見たいなー」
「ピューレをか?」
「うん!」
以前、エルネスタに乞われてピューレを実体化させたが、彼女が必要以上に可愛がりすぎたせいで怯えて自分から実体化を解いて戻ってしまったことを思い出す。
シルヴィアはそんなことはないと思ってはいるが、万が一のこともあると思い、脳内でピューレに聞いてみることにした。
(……ピューレ、いいか?)
(モトオミが……そう言うなら。前みたいなことにはならなそうだし)
基臣はソファを立つと、ピューレを取り出す。
すると、ピューレの刀身が眩く輝き、徐々にワンピースを着た白髪の少女が現れる。
「わぁ……可愛い!」
ススッと基臣の背後に隠れるピューレに、目を輝かせていたシルヴィアはハッとする。
「おっといけない。初対面で怖がらせちゃいけないもんね」
基臣の近くに寄ると、軽くしゃがんでピューレと視線の高さを合わせる。
「こうして姿を見るのは初めましてかな。ピューレちゃん、でいいんだっけ?」
「……ん」
基臣の背後から少しだけ顔を出すピューレにニコリと微笑むと、怖がらせないようにゆっくりと手を差し出し頭を撫でる。その様子を眺めていた基臣だったが、ピューレが嫌がらずにそのまま受け入れている姿に驚きを覚える。
「この前の試合、見てたよ。みんなの前に姿を現すのも怖かったはずのによく頑張ったね」
「──っ!」
少しだけだが、ピューレの表情が驚きに満ちたような顔を見せ、ほとんど姿を隠していたはずの体を少しだけ覗かせる。
その隙を見逃さず、シルヴィアはピューレの手を握ると自分の座っているソファへと連れていく。
「ほら、おいで」
ぽんぽん、と椅子に座ったシルヴィアが膝の上を指し示す。
「…………ぁ」
意図していないのか、まるで引き寄せられるようにピューレはシルヴィアの膝の上へと座る。
「可愛いねぇ、ほんとに」
ピューレの頭を優しく何度も撫でる。
「むぅ……」
「ふふふ……」
小学生に接するような態度のシルヴィアに、少し不服そうにしながらも黙って受け入れるピューレ。そんなシルヴィアの姿はさながらピューレが見せてくれた記憶の中の母のようで……
「……良い母親になれそうだな、お前は」
「お、おおっ……お母さんっ!? ま、まだ早いよ! そういうのは!」
あわあわと手と顔を横に振りながら妄想に耽るシルヴィアをよそに基臣はどこか遠い目をしていた。
「…………でも、俺が強くないとこの光景は」
「……モトオミ?」
様子がおかしいことに気づいたピューレは儚く消えてしまいそうな基臣へと手を伸ばしたが──
「ここにいましたか、シルヴィア」
ドアが開く音がしたので振り向くと、そこにはタブレットを片腕に抱えたペトラが立っていた。
「ッ──!」
キッ、とにらみつけるピューレに対し、何の感情も見せることなく無視してシルヴィアを見るペトラ。
「あの人、嫌い……!」
「あらら。初対面なのにずいぶんと嫌われちゃったね、ペトラさん」
「もともと、他学園の
「はいはーい。……それじゃ、ピューレちゃん。悪いけど、今日はここまでだからまたね」
「……うん。また、ね?」
手を振るシルヴィアにちょこんと手を振って返すピューレ。
ピューレのその顔はどこか嬉しそうな感じがした。
シルヴィアに会いに行った翌日。
基臣は武器の修繕を頼みにアルルカントに来ていた。当然、中に入るのに一々許可を取らないでいいため、正門横にある警備室の検問をスルーし慣れたようにエルネスタの研究室へと向かう。
「おい、エルネスタ」
研究室に入ったが、返事は返って来ない。
「……いないのか?」
室内を探し回るが、寝袋で寝ている姿も見受けられずにどうしたものかと思い椅子に座る。
「珍しいな……。いつもは待ち合わせ時間よりも早く来る事が常だったはずだが……ん?」
ドアが開き、何事かと見ると薄い金色の髪を後ろに纏めた可愛らしい一人の女の子が立っていた。
「あ、いたー!!」
「ん?」
「わーい! おとーさんだー!」
「ぐっ!」
いきなり飛びついてきた女の子に、反射的に受け止めた基臣。
幼い容姿に騙されそうになるが、抱きしめているとその幼い見た目からは尋常ではない強さの奔流が感じ取れる。
(今の俺が正面からやりあったら、下手したら力負けしかねない……。どういう身体スペックをしてるんだ……?)
そんな事を考えながら観察をしていると、女の子は基臣に抱き着いてきたその腕を解いた。
「レナはね! レナティっていうんだ! よろしくね、おとーさん!」
「…………は?」
いきなりの爆弾発言に流石の基臣も固まってしまう。
「何を、言ってるんだ……?」
「ふみゅー? おとーさんはおかーさんからレナの事、聞いてないのー?」
最初から一言一句、言ってる事を正確に理解できず、基臣はただ困惑する。
「そのおかーさんって誰だ? いや……心当たりはあるが、結婚した覚えはないんだが──って」
純粋な疑問から生じるその問いだったが、その言葉が目の前の少女の地雷を踏みぬいてしまう。
「どうしてそんな酷いこと、言うの? おかーさん、嫌いになっちゃったの?」
目を潤ませ、今にも泣きそうになっている少女。基臣にとって自らの感情のままに動く人間ほど、扱いに困る者はいない。
「いや、そのだな……」
話が色々とかみ合っていないことに
「にゃははー、もうそっちに行っちゃってたかー」
「あ、おかーさん!」
白衣を身にまとい、遅れて登場してきたエルネスタ。いつものように小悪魔じみた笑みを浮かべながら、研究室に入ってくる。
「おい、エルネスタ。この子をどうにかしろ。お前が作り出した
「おや、分かっちった?」
「ここまで考察材料が揃えば、分かるに決まっているだろう。こんなに精巧に作り出された
「いい子でしょ? ピューレちゃんもだけど、やっぱり小さい女の子は可愛くってしょうがないんだよねー」
レナティを抱き上げると、頬擦りする。
「ふみゅみゅー」
「あ、そうそう。この子はレナティって言うんだ。あたしが丁度もらったウルム=マナダイトと君がくれたウルム=マナダイトで作った愛の結晶ってやつかなー」
「……誤解を招く言い方はやめろ」
「ごめんごめん」
反省の色もない表情で謝ると、椅子に座りレナティを解放する。
「ほら、さっきの部屋にいたカミラお姉ちゃんと遊んでなさい」
「はーい!」
素直にエルネスタのいう事を聞き、ドアを開けてカミラの元へと行ったレナティを見届けた後、基臣は話を切り出す。
「武器の修繕をしに来たつもりだったが、その前に一つ聞きたいことがある」
「どうしてレナティに君の事をお父さんって呼ばせたか、かな?」
「そうだ、どうしてこんなことを……ムグッ!?」
真意を問いただそうとした口をエルネスタは手でふさぐと、顔を基臣の元へとグイッと近づけてくる。
「あたしって勘が冴えてるからさ、基臣君の考えてる事、なんとなくわかるんだよねー」
んー、と片手で自身の口に触れて可愛らしく悩むような恰好をするエルネスタ。
「キミ、私達の恋心を知ってて敢えて無視してるでしょ?」
「……お前、気づいて──」
「そりゃねー。キミが自罰的な考えをしているから誰も選ばないんだろうなってことぐらい、しばらく見てきたから理解できるよ」
ツツツ……と基臣の身体に刻まれた傷跡を優しくなぞるエルネスタ。
「もしかしてそんな自罰的な考えになった原因は、この虐待の跡っぽい傷だったりして……。まあ、それに関しては外野の私がとやかく言う事じゃないかもしれない。けどね……」
耳元に口を近づけると、エルネスタはくすぐるように囁く。
「あたしを選ばずに誰かを選んで幸せになるならまだしも、誰も選ばずに逃げるっていうのは一番嫌いなんだよね」
「……っ!」
「それで、どうすればキミが逃げなくなるか考えたんだよ。色々考えたんだけどさー……」
普段の無邪気な彼女からは考えられない妖艶な笑みを基臣へと見せる。
「基臣君は責任感じるタイプだから、子供がいるって分かったら嫌でも選んでくれるでしょ?」
その言葉に冷や汗が額から
不味い。このままだと確実に彼女のペースに乗せられてしまう。そう思っても基臣の口から拒否する言葉が出てこない。彼女の言っている事は事実なのだから。
「いやー、既成事実って偉大だなー。こうしてキミを縛り付けることが出来るんだもん」
カラカラと鈴が鳴るように笑いながらもその目は全く笑っていない。
基臣は気づいてしまう。レナティが作り出された時点で基臣は既に彼女の術中に嵌まってしまっていたのだと。
「もう絶対に逃がさないよ、基臣君……」
本作の中であなたが一番好きなヒロインは?
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シルヴィア・リューネハイム
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オーフェリア・ランドルーフェン
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ミルシェ
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エルネスタ・キューネ
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黎沈華