学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
作品本編のデータでは無いとは言え、データが吹き飛ぶとメンタルに来ますね。よよよ……
レヴォルフ黒学院、総合アリーナ
そこは毎月行われる公式序列戦のステージとして学内に設けられている場所で、序列上位の戦いぶりを見ようと見学に訪れる者も少なくない。特に、このレヴォルフでは血気盛んな者が多く、観客席からヤジを飛ばす光景は一種の風物詩といえる。
「ったく、いつものことだがうっせーな……。嫌になるぜここの連中共は」
そんな愚痴を漏らしながらステージに立っている彼女の名はイレーネ・ウルサイス。まだ中等部ではあるものの、いかにもレヴォルフに馴染んだ粗暴な外見を持つ生徒。
そんな彼女の序列は20位。中等部の生徒としては十分過ぎるほどの実力を備えている少女だった。
「なあ、
同意を求めるようにステージの向かいで立っていたオーフェリアに尋ねるが、何も反応しない。
「…………」
「反応もなしかよ、つまんねぇな。まあいい、試合が始まればその人を何も思っていないような顔に吠え面かかせてやるぜ」
イレーネがステージ上の待機場所へと向かうと、序列戦の始まる合図が響いた。
「オーフェリア・ランドルーフェン vs イレーネ・ウルサイス、
「行くぜぇッ!!」
徒手空拳で挑むイレーネに対し、オーフェリアはその場から動かずに攻撃を繰り出す。
「うざってぇなぁッ!」
オーフェリアの攻撃を全て紙一重ながらも回避する。それ相応の武器でなければ壊れてしまう攻撃だ、素手で立ち向かおうものなら、その結末は言うまでもないだろう。
繰り出される瘴気の腕の数々を回避していくにつれ、イレーネの攻めの勢いも弱まっていく。
「あなたも……駄目だわ。私の運命を壊すほどの強さを持っていない」
「チッ! 調子に乗りやがってぇ!!」
力の差を見せつけられても、自身を鼓舞し善戦してるかのように見せるイレーネ。だが、
「これで終わりよ……」
「……ぅっ!? これはッ!」
瘴気をガス状にしてまき散らしたものを、イレーネは気づかずに思い切り吸い込んでしまっていた。身体の痺れや意識が朦朧とする感覚にたたらを踏んでしまう。そんな中、先ほどよりも多い数の瘴気の腕が彼女の元へとやってくる。
「ぁ"っ……くぅっ!」
真正面から受けてしまったせいで瘴気の影響をダイレクトに受けてしまう。瘴気による苦痛にのたうち回りそうになる衝動を抑えて、どうにか膝をつくだけで済ませたイレーネ。
「お姉ちゃんっ!!」
ステージのどこからかイレーネを呼ぶ声が聞こえるが、当の本人は意識が薄れかかっていて、その声をまともに聞きとることもできていなかった。ぼやけていく視界の中、何が悲しいのか悲哀に満ちた表情を見せたオーフェリアの姿だけがイレーネの瞳には映っていた。
「て、めぇ……っ」
オーフェリアに手を伸ばそうとしていたイレーネだったが、途中でその意識を潰えて気絶してしまった。
「イレーネ・ウルサイス、
「勝者! オーフェリア・ランドルーフェン!」
試合時間は1分足らず。その時間の短さはオーフェリアの実力の程を知るには十分だった。
勝者であるオーフェリアは、勝利の余韻にも浸らずにただ総合アリーナの外へと向かって歩く。
「…………!」
そんなオーフェリアの動きが出入り口の前に来るとぴたりと止まる。
彼女の視線の先にいるのは見覚えがある顔で──
「何の用……」
今まで避けていた存在である基臣が、出入り口に立って待っていた。
「最近俺を避けてるようだからな。こっちから来た、それだけだ」
「そう……」
「単刀直入に言おう。なんで俺を避けている。お前を見た感じだと、別に俺の事を嫌いになっているわけでもあるまい」
「……それが、運命だから」
「またそれか。お前の運命論は聞き飽きた。大方、レヴォルフの会長にでも指示されただろ。俺に接触するなと」
オーフェリアに近づく基臣。そして手を取るとギュッと握り合わせる。
「お前はどうなんだ、オーフェリア。お前にはまだ未練があるはずだ」
「未練……?」
「幼馴染だというユリスにお前の事を聞いた。望まぬまま星脈世代になったことも含めてな」
「……そう。あの子が言ったのね」
「幸いにもお前を蝕んでいる瘴気の影響も最小限で済むし、まだお前はやり直せる。だから、そんな死に急ぐ真似はやめろ」
「やり、直せる……?」
その言葉にオーフェリアは珍しく怒りの感情を
「私の見たものを何も知らずにそんなことが言えるなんて……随分と勝手のいい話だわ」
沸々と内に収めていた瘴気が外に漏れ、基臣に侵食しようとする。
「私に未練なんてない。勝手にあなたの都合のいい話を作らないで」
「都合のいい話、か」
だが、敢えてそれを無視して基臣はポケットからある物を取り出す。
「…………それは」
その取り出したものを見て、オーフェリアはその怒りを急に収めていく。
「これをやる」
基臣が取り出したものの正体は黄色い花。
「……黄色い、百合?」
その花言葉は──
「偽り……」
「本来なら悪い意味で送るのはNGだそうだが……唐変木なお前にはそれぐらいきつく言わなければ言葉は届かないだろうしな」
少し困惑しているオーフェリアへとその花を押し付ける。
「あ」
瘴気によって花は枯れると思われたが──
「枯れ、ない?」
「一週間程度だが、お前の瘴気に耐えるようにしてある。それを貰ってもこれから己の未練が無いと言いきれるかどうか。……俺には、まだお前の生に対する執着が完全に無くなったようには見えないがな」
用はそれだけだ、と言うと背を向ける基臣。
「そろそろ俺は帰るとしよう。お前の所の会長に見られでもしたら面倒だ」
そう言い立ち去る基臣にオーフェリアは何も言い返せず、黙って花を手に握るだけしかできなかった。
……………………
オーフェリアとの邂逅を終えてしばらく。
基臣が普段から鍛錬のために使用している再開発エリアの一角
そこに普段来ない珍しい客がやって来た。
「久しぶりー」
そう言って来たのはミルシェ。
「あぁ、獅鷲星武祭で戦って以来か。あれ以降随分と忙しそうだな」
「まーねー。ペトラさんのせいであちこちに行ったり来たりの大忙し」
「大変だったな、それは」
最近はシルヴィアだけでなく、ルサールカの名もメディアを通してよく聞くようになった。アイドル通の虎峰の話──無理やり聞かされた──によると、ルサールカの知名度はこの前の獅鷲星武祭を機に大幅に右肩上がり。ライブチケットは発売数十秒後には完売、プレミアが付くほどの人気との事で、今最も勢いがあるグループらしい。
「せっかくだから、今度あたしたちのライブを見に来てよ!」
「いいのか?」
「ペトラさんに頼めばチケットも貰えるからへーきへーき。あたしが言えば関係者ブースの方でも見れると思うけど」
「流石にお前の活動に関係ない俺を入れてもらう訳にもいかんだろう。観客席から見せてもらうことにする」
「うー……。まあ、基臣がそれで良いなら別に構わないけど」
「まあ、その話はまた追々詰めていけばいい」
それよりもだ、と言って話を切り替えるとミルシェに問いかける。
「わざわざ話だけするためにここに来たわけではないだろう。用意はしてきたか?」
「もちろんだよ。ほら!」
ミルシェが取り出したのはギター型煌式武装《ライアポロス=カリオペア》。ルサールカ全員で使わないと十分にパフォーマンスを発揮しないとはいえ、純星煌式武装の一角。遊びのつもりで来てないことはしっかりと基臣に伝わった。
「ならいい、さっそくやるか」
そう言って基臣が取り出したのは一本の木刀。何かあるのかと思いよく観察してみるが、特に何の種も仕掛けもない普通の木刀だ。
「それは?」
「ハンデだ。まともに戦ってもお互いに得るものは無いだろうし、俺はある程度の制約をつけながらお前と戦うことにする」
「うん、分かった」
ハンデ、と言われてもミルシェも馬鹿にしているのかと怒る事は無い。前の獅鷲星武祭で散々実力差は理解させられたのだ。むしろ、これぐらいのハンデはないと、ミルシェがただの打ち込み台になってしまうことは想像に難くない。
「そうだな……俺に一回でも攻撃を当てたらお前の勝ちだ。逆に鍛錬が終わるまでに俺の体に攻撃を当てれなかったら俺の勝ち。それでいいか?」
「おっけー。それじゃいっくよー!」
……………………
「はぁ……はぁ……。基臣、つよすぎ……ぃ」
意気込んで始まることになった鍛錬だったが、結果はミルシェの攻撃が一度も基臣に当たることなく終わった。ずっと動きっぱなしだったため、ミルシェはへたりこむ。
「そういうお前も、この前の獅鷲星武祭からまだ間もないのに結構強くなってるな。忙しいだろうによくここまで鍛えれるものだ」
「えへへ……っ。そー?」
無邪気に笑うミルシェに、どこか愛玩動物のような愛くるしさを感じて思わず頭を撫でてしまうが、彼女も何も言わずに受け入れる。
「さて……」
時間になったので鍛錬を止めて外を見ると、もう日も暮れて暗くなり始める頃合い。門限までに帰らないと、マネージャーであるペトラに折檻されるとはミルシェの談で、それを聞かされていた基臣は彼女を連れて早めに帰ることにする。
「そろそろ日も暮れることだし帰るか」
「そうだねー。よいしょっと……」
基臣の手を取り立ち上がると、ミルシェは歩幅を合わせてくれる彼と帰途を共にする。
シルヴィアやエルネスタ達も基臣によく話しかけるが、その中でもミルシェは大のおしゃべり好き。他愛もない世間話をしながら帰っていると、ミルシェが思い出したように基臣へとある提案をする。
「ねーねー。あたし、正月は暇になるから一緒に過ごさない?」
「ルサールカの他のメンバーとは一緒に居なくていいのか?」
「いーのいーの! みーんな、グータラしてばっかりだもん」
「まあ、それなら考えておこうか」
「やたっ!」
嬉しそうにガッツポーズをするミルシェ。
喜びを表すかのように鼻歌交じりで一緒に歩いていたが──
「待て」
「へっ……どうしたの?」
「…………」
黙したまま立っているだけの基臣に困惑する。先ほどまでの穏やかな雰囲気とは違い、剣呑な感じをさせる様にミルシェはどことなく不安を感じてしまう。
「そこか…………フンッ!」
基臣は前に建っているビルに向かって、ピューレを斬撃を飛ばす要領で振るった。当然、飛ばした先にあるビルの外壁は今の斬撃でものの見事に破壊されてしまっていた。
「えぇっ!? ちょ、ちょっと! 何してんのさ! いくら誰も使ってない廃墟だからって壊すのはダメでしょ!」
「違う、よく見ろ」
いきなり意味不明な行動を取る基臣にミルシェがびっくりするが、彼に指摘され煙が立ちこめている場所に注目すると人影がうっすらとだが確認できる。煙が晴れてくると、そこには黒い不気味な光を満たしたペンダントをしているヴァルダが立っていた。
「まさか、我の認識阻害を看破して正確に攻撃してくるとはな」
「お前か……。何が目的だ」
「ふむ、手早く済まそう……。前はそこの純星煌式武装だけ勧誘してたが、お前の活躍を見て我々も考えを改めた」
「…………?」
「純星煌式武装だけなくお前を含めて勧誘することにした。貴様の能力は間違いなく我らにとっても有用なものになる。お前の言う最強とやらを目指すのも我らの所でなら実現できる」
「断る」
ヴァルダの勧誘に基臣は間を置くことなく拒否する。
「何故だ。我が今言ったことに嘘偽りはない。それとも何か不満でも?」
「不満だとかそういう問題ではない。そもそもお前たちの存在が気に入らない。その中でも特にお前が一番気に障る」
ピューレを仕舞っているホルダーに手を伸ばし、戦う意思を示す基臣。
「シルヴィの師匠の体を乗っ取り、好き勝手している時点で俺がお前と協力する未来は無い」
「……そうか。ならば仕方あるまい」
交渉が決裂し、ヴァルダの首にかけてあるネックレスが黒光りに妖しく光る。
「最初から全力でいかせてもらうぞ」
「うっ……!」
ヴァルダの胸にあるペンダントの光の輝きが増していき、ミルシェは思わず膝をついてしまう。
基臣はピューレを使ってその輝きを無効化することで、精神汚染の影響を受けずに済ませる。
「やはりその純星煌式武装は厄介だな」
忌々しい物を見るようにピューレへと目を向けるヴァルダ。自身の能力を無効化してしまうのだから、彼女にとって天敵といっても差し支えない。
「ミルシェ、下がっていろ」
ヴァルダへと刃を向ける。
「誉崎流皆伝、
星脈世代の身体能力は最近の研究の結果、限界である100%の内、10~25%程度しか使われていないと言われている。
そんな自身の身体能力を、肉体の限界へと引き上げるこの技。基臣はこの技の制御を1か月程度で50%程度までなら行うことが出来るようになっていた。
つまり皆伝を使った基臣は、低く見積もっても通常時の2倍は強いということになる。
一気にヴァルダへと接近すると彼女が振るう戦斧とピューレがぶつかりあう。
「ぐゥッ!!」
普段よりも基臣が強くなっている証拠に、両手で振るわれる戦斧を片手で受けても、力勝負で優勢に立っている。やはり、映像越しで見るのと実際に体験するのでは違うのか、ヴァルダは驚いた顔を見せる。
「どういう事だ、貴様……ッ。なぜ、我の戦斧を受けてなお力負けせん!」
「さて……なぜだろう、なっ!」
ヴァルダの持つ戦斧を弾き、首飾り目掛けてピューレの切先を突き立てようとする。
「誉崎流初伝、
「させぬっ!」
首飾りの前に光を展開して防御すると、基臣を突き飛ばしてヴァルダは距離を取る。
「ちっ……。流石にそう甘くないか」
「……やはり我らの障害になりかねん男だ」
光を縦長に収束させると、鞭のような形を成してそのまま振り下ろされる。
この一帯を破壊しかねない攻撃範囲を秘めている鞭を見るや否や、後ろで戦況を見守っていたミルシェを片手で容易く抱えて回避行動を取る。
「掴まっていろ、ミルシェ」
「うわっ! ……も、もとおみ?」
瞬きも許されないスピードで振るわれる鞭の乱打を、ミルシェを抱えた状態でありながらもピューレで受け太刀することなく余裕を持ってステップで回避。鞭の方から避けてるのではないかというぐらいに驚くほど当たらない。
その状況を腕の中で見ているミルシェもその規格外の動きに驚かされる。
(早い! 目で追うのがやっとだ……)
既に人外の領域に足を踏み入れつつあった基臣と、あくまで星脈世代の範疇でしかないヴァルダの間には隔絶した実力の差が表れていた。それを理解しているのか、ヴァルダの顔にもほんの僅かながら焦りが見える。
「誉崎流皆伝が一、
霞に溶けるように消えると、ヴァルダの攻撃の余波が及ばない後方に下がりミルシェをおろした。
「ここで待ってろ。俺だけでやる」
「……うん」
おとなしく従うミルシェの頭を撫でると、基臣はヴァルダへと向かう。
(あの女を利用すればと思ったが、そう上手くはゆかぬか……)
「俺に集中しないとはよほど余裕があるようだな」
「……ッッ!!」
ヴァルダがミルシェに注目していると、瞬きの間に基臣の足はヴァルダの影を踏んでいた。
「ちぃ……っ!」
もう後ろに下がっても遅いと判断し、ヴァルダは敢えて間合いを詰めて身体をぶつけに行く。
「誉崎流初伝、
「ガハ……ッッ!?」
そんな間合いを詰める行動に刀身ではなく、柄を用いた意表を突く技を使って応戦する。その攻撃にヴァルダは対応できずにみぞおちを柄が強打すると、足に力が入らず身体を支えれなくなる。
「くっ……!」
二の手を繰り出さんと追撃を仕掛ける基臣を黒い光で退かせると、痛みを感じる箇所を手で押さえる。
いくら借り物の体といえど、それが動きに支障をきたすとなると話は別だった。
「忌まわしい!」
ヴァルダが放出する光の全てを瞬きの間に切り裂くと、屈んで体を縮める。
「誉崎流皆伝が三、
先ほどのビルに向けて放った斬撃とは段違いの速度でピューレを振るう。
「カ…………ッッ!?」
見えない飛ぶ斬撃。
その斬撃に声を上げる事すらかなわず、ヴァルダは吹き飛ばされた。
「く、ぅ。……一年もの間に、随分と鍛え上げたようだな」
ビルの瓦礫を下敷きに起き上がるヴァルダを、ただ基臣は冷たく見下す。
「そういうお前は、強い奴の体を借りる事しか考えてない。いつまで他者の力だけで踏ん反り返るつもりだ?」
両者の間で睨み合いが続くが、ヴァルダはため息をつくと基臣たちに背を向けた。
「……貴様の煽りに乗るつもりはない。このまま続けてもジリ貧になるだけだ。幸いにも貴様の実力の程は知ることが出来たから奴の手土産にはなるだろう」
逃げようとするヴァルダを追いかけたいものの、ミルシェが傍にいるので迂闊に動けない。
「一つ忠告しておく」
背中を向けていたヴァルダが基臣の方を一瞥する。
「そう遠くない未来、お前は身の回りにいる人間を不幸にする。そうならない内に自分からアスタリスクを去ることを我からは勧めておこう」
「不幸に……どういう?」
「さてな、少なくともお前が不幸をまき散らす存在になることは確かだ」
「──違う!」
会話に割り込んできたミルシェの行動に驚く基臣。
「……ミルシェ?」
「基臣は人を不幸にするとか、そんなんじゃない!」
「……何?」
「あたしには詳しいことは分かんないけど……少なくとも、悪いのはお前たち悪事を働いてるやつらだ! お前たちがいなかったら基臣もそんな不幸な目に巻き込まれることは無いんだ。人を悪者扱いするな!」
「ふん……勝手に言っていろ。我が話したことは遠くない未来に必ず起こる」
それだけ吐き捨てるように言い残すと、光に包まれたように消えてしまった。
「……消えたか。シルヴィに先に報告だけはしておくか」
端末を開いてシルヴィアにヴァルダと遭遇したことを伝える旨のメールを送る。この時間はまだ彼女はライブに参加しているため返信はすぐには返ってこないが、その内来るだろうと思って携帯端末をしまう。
「帰るぞ、ミルシェ」
「──待って」
帰ろうとミルシェに背を向けると、後ろから女性特有の柔らかな身体の感触が伝わる。そんないきなりの後ろからの抱擁にぴくり、と基臣は身体を微かにだが震わせる。
「何を……」
「……今回が初めてじゃないんでしょ、こんなこと」
「こんなこと、とは?」
「今みたいに殺し合いになりそうなこと」
ミルシェは普段は馬鹿でやんちゃなただの女の子だが、こういう時の勘は人一倍鋭い。シルヴィアの誕生日会の時に、ルサールカのメンバー達からそう聞かされていた。まさか、それを実感するときが来るとは基臣も思っていなかったが。
「…………そうだ」
「それなら……なんで一人で抱え込むの? もしかしたら何か手伝えることがあったかもしれないじゃん。そんなにあたし達が信用できない?」
ミルシェの問いに基臣は黙りこくってしまう。
「……別に、そういうわけでは無い」
「嘘つき」
「そんなことは──」
「そういう訳じゃないなら、なんで相談しないのさ」
基臣が動こうとすると、逃がさないとばかりに彼女の抱きしめる力が更に強まる。
「あたし達の事は助けるくせに、いざ自分の事となったら隠すなんて卑怯だよ」
「……すまない」
「すまない、じゃないよ? まったく……」
「…………」
「あたし……基臣の事が心配だよ。なんだか、今にも消えてしまいそうで……怖い」
「……ミルシェ」
獅鷲星武祭の時と違い、明らかに殺気立ったような雰囲気を目の前で感じ取ったミルシェとしては、やはり基臣の事が心配なのだろう。怒っているというよりも、圧倒的に心配する気持ちが伝わってくる。
「ねえ……」
「……なんだ」
「無理にあたし達を頼れなんて言わない。……けど、あたし達の前から消えないでよ」
懇願にも近いそのお願いに拒否しようと思ってその言葉が出てこない。口をついて出たのは──
「……善処する」
誤魔化す言葉だけだった。
むー、という不満げな声で納得していないことが顔を見なくとも伝わってくる。
「はぁー。煮え切らない答えだけど……それで許したげる。でも……」
手を解いて解放すると基臣の前に立って、背伸びして口と口が触れ合いそうなぐらい近くに迫る。
「もし約束破ったらビンタだから」
結構重い約束の筈なのに、破った罰が意外と可愛らしいレベルであることに基臣は内心苦笑する。
「おっかないな、それは」
ちょっと小馬鹿にした風の返しに、ミルシェは頬を膨らませてむっとする。
「馬鹿にしてるでしょ」
「してない」
「しーてーた!」
彼女の擁護する言葉にどこか救われていたのだろう。自分が不幸をまき散らす存在ではないんだと、その言葉が思わせてくれた。
本作の中であなたが一番好きなヒロインは?
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シルヴィア・リューネハイム
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オーフェリア・ランドルーフェン
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ミルシェ
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エルネスタ・キューネ
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黎沈華