学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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24歳、覚醒です。


裏話29-② 覚醒

 覚えている最初の記憶は2歳の頃だろうか

 

 

 

 父から剣を学ぶように言われ、幼子だった俺は頷きそのまま子供用の竹刀を持った事を若干曖昧ながらも覚えている。

 

 最初は持っていた竹刀の重量に振り回され、ふらふらとおぼつか無い足取りで素振りをした。そんな俺の様子を、父も温かい眼差しで見て丁寧に教えてくれた。

 

 だがそんな眼差しも、俺の動きが一振りごとに格段に良くなっていくことで、怒りに満ちたものへと変わっていく。

 

 その時は何に怒っているのか理解できなかったが、今にして思えば子供ながらに大人げない事をした。誉崎流の初伝の技のいくつかを数分で習得なんて芸当、2歳の赤子が出来るわけがない。世間一般で言う、才覚溢れた人間、という奴なのだろう。

 

 そんな俺の才能は父の心を狂わせてしまったに違いない。自分にもそんな才能があれば、と。

 

 父の心を理解できなかった罰とばかりに、それからは鍛錬という名の虐待が始まった。

 

『うわぁぁん!!』

 

『立て』

 

 竹刀などという生易しい物ではなく、本物の剣を持たされて本気の殺し合い。頬を切られた痛みで喚けば文字通り足蹴にされ、その痛みに悲しむ暇も許されない。更に、少しでも手を抜こうものなら家に入れてくれなかった。

 

 そんな日々を送っていたからだろうか、いつのまにか嬉しくて笑う事も、憎くなって怒ることも、悲しくて泣くことも、未来に期待することも……全てしなくなった。

 

 当然のことだ。通常ではありえない体験を十年も経験すれば心が折れないわけが無い。

 

 そして、心が折れたそんな時に、俺は仮初の自分を作り出した。もう苦しい思いをしないように、と。

 

 そんな仮初の自分は、父に従順で期待を裏切らないように振る舞った。本当の自分を出さなくなってからは、感情を表にすることも無くなり、肉親であろうと何の躊躇もなく切りつけることが出来るようになった。

 

 だが、父はそんな俺を更に不気味な目で見てきた。

 

 その時に理解した、理解してしまった。いくら才能があっても俺は間違える事しかできないボンクラなのだと。

 

 それでも、父の期待に応えたくて必死に剣を振るい続けた。10にもなる前に奧伝を習得した。他流試合でも天霧辰明流以外には勝つことが出来た。それからしばらくして、父にもほぼ勝てるようになった。

 

 だが、そんなことをしても結局、何も響かなかったのだろう。

 

 父は自害して死んだ。

 

 その自害の時、父は大事な人を守れるようになれ、という言葉を残した。心をどこかへ追いやってしまった自分には父の言う意味があまり理解できなかった。誰からも不気味に見られ、肉親である父にも不気味がられる自分が大事な人なんてものを作れるわけがない。そんな風に俺は思った。

 

 亡くなった父の遺体を近くにある墓の元に埋葬した。

 

 本来ならば涙でも流すのだろうが、特に何の感情も浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 それから、最強を目指すためにアスタリスクに来て、色々と俺自身変わった実感はあった。

 

『基臣君!』

 

 特にシルヴィたちとの出会いは俺に影響をもたらした気がする。

 

 行きたくもない買い物や遊びに連れまわし、俺を散々振り回したが存外悪くない気分だった。いつしか、俺から彼女たちをそういった事に誘うこともあったぐらいだ。

 

 それに加えて、鳳凰星武祭(フェニクス)獅鷲星武祭(グリプス)を通して数々の強敵と戦い、強くなることもできた。正に順風満帆な学生生活というに相応しいだろう。

 

 アスタリスクに来て1年と半年。

 

 ピューレの記憶を通して昔の母や父を見て、俺は幸せになってもいいかもしれない。昔の父もたぶんそう思ったはずだから。そんなことを自虐する心と葛藤しながらではあるが胸の中で薄々と思い始めた。

 

 でも、父の言う通りだった。絶対的な強さを持たない者には幸せを享受する資格はない。結局、迎えたのは愛する人を守ることも出来ないという父と同じような末路だ。強くないから大切な人を目の前で亡くしてしまう。

 

 笑い話にもならない、そんなつまらない結末だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらんな」

 

 …………くだらない? 

 

「そうだろう、負け犬のまま人生を終えて満足する。これがくだらない以外に何と言える」

 

 ……あんたが誰かも知らないが、そうかもしれない。俺は結局負け犬のままだ。

 

「負けたままでいいのか? 己の本懐を果たせぬまま犬死するために、貴様は誉崎流を学んだわけではあるまい」

 

 ……俺の本懐。大切な人を守る、ため……

 

「そうだ、貴様が愛している女を守るため。違うか」

 

 シルヴィを……みんなを()()()()()から……

 

 

 

 

 

『ごめんね、基臣君』

 

 

 

 

 

 シルヴィ……。

 

「奪われたままでいいのか」

 

 ……奪われたくない、誰にも。

 

「ならばやるべきことはなんだ」

 

 強く、なる。誰にも負けないために、誰からも害されないために……誰からも奪われないために。

 

「なら求めろ、力を。例え修羅に魂を売ろうとも」

 

 そうだ、力を……

 

 そのためなら、もう誉崎基臣(おれ)はどうなってもいいから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 守る力をください

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、っ……あ、あ…………」

 

「心が折れたか」

 

「そのようですね」

 

 基臣がシルヴィアの死で魂が抜けたようになってしまったのを、朧は何の感情も浮かべることなく観察する。

 

「こいつを殺して、俺も死ねばこれで誉崎家は終わりだ。これっきりにしなければな、こんな狂った家も」

 

「ご当主……」

 

「こいつの反応も完全に消失したことだ。殺すぞ」

 

 目の前にあるピューレを足で遠くに蹴り飛ばすと、手に持っている剣を基臣へとかざす。

 

「終わりだ、基臣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コロス

 

 

 

 

 

 

 

「──っ!!」

 

「…………? いかがされましたか」

 

「今、気配が……まさか」

 

 何か良くないものを感じ取り距離を取った朧。それと同時に、基臣の体がピクリと動いた。

 

 その嫌な予感は的中する。

 

「…………来い、ピューレ」

 

 その言葉に反応したかのように真っ直ぐにあるべき持ち主の元へと、ひとりでに戻っていくピューレ。

 

 ミシッ ミシッ

 

 それと同時に基臣を拘束している鎖が鈍く鳴る音が聞こえる。

 

 今、基臣を拘束している鎖は、星脈世代用に特別に作られたもの。普通ならば壊せるはずもない。だが──

 

 パキッ

 

 簡単にその鎖は壊された。

 

「……………………」

 

 戻ってきたピューレに手を伸ばして受け取ると、基臣は手をシルヴィアへと向けて伸ばす。

 

 ただ、それだけの行動でピューレから放出される光がシルヴィアを包み込む。

 

「…………ぁ…………」

 

「なっ……!?」

 

 その光が死者であったはずのシルヴィアを蘇生し癒す。

 

 傷口はまるで無かったかのように瞬時に修復し、致命傷だったはずのその身体はどこにも傷が見当たらない。呼吸を取り戻し、正常な状態へと戻っていく。

 

(いつの間にあんな致命傷を。仮に純星煌式武装のポテンシャルがそれほどにあっても、明らかに人の扱える領域ではないはずだ……)

 

 現実とかけ離れた現象に、基臣に対して一層警戒を強める。

 

(……モトオミ?)

 

 一方、いつもとは違う様子の基臣に、ピューレは何か得体の知れない嫌な予感を感じ取る。

 

「『力だ』」

 

「なんだ……基臣とは違う、男の声……?」

 

 ノイズ混じりの基臣とは違う若い男の声が彼の元から発される。

 

「『ピューレ、力を……もっとよこせ……』」

 

(──くっ! ダメッ! モトオミ!!)

 

 無理やり能力を使わされる感覚にピューレは強い危機感を覚える。その感覚はまるで数百年前のあの時のようで。

 

(このままだと、後で代償がモトオミに……ッ!)

 

 しかし、抵抗もむなしく力が基臣から吸い上げられる。

 

「……………………」

 

 そして、まるで亡霊かの如くゆっくりと顔を上げた基臣はピューレを片手に持ち、ゆらゆらと歩き始める。

 

 その雰囲気は先ほどまでとは明らかに異質な物だった。憤怒や憎悪、そういった負の感情とは違う。

 

 そこにあるのは何の混じり気もない殺意。

 

「ッ……!!」

 

「『殺す』」

 

「やれッッ!!」

 

 朧の指示で、近くにいた黒装束の部下たちが数百の光弾を発射し、基臣の元へと殺戮の雨を降らせる。

 

 だが──

 

「『他愛もない』」

 

 何度も攻撃を行うが、どういう原理かその悉くが基臣の元へと届く前に全て消失する。

 

(いや、消えてるんじゃない。数百の光弾、その全てを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!)

 

 遠距離から何度光弾を浴びせても、基臣を一つも傷つけることすら叶わない。

 

「『ゆくぞ』」

 

 歩くテンポを一歩ごとに早めていき、やがて疾走するスピードへと達する。

 

(はや)い……っ!?」

 

 基臣は、ピューレの能力を行使して星脈世代の身体能力の終着点である肉体の限界を超え、更にその先へ向かう。

 

 その身体能力が、一個人が百人以上の精鋭に対し立ち向かう本来なら無謀に等しい行為を可能にしていた。

 

 しかし、朧にとっても基臣を殺さずして死ぬわけにはいかない。できる限りの最善策を仲間である部下達に指示する。

 

「奴と同じ高度で戦うな! 上下様々な角度から接近しろ!」

 

 指示した内容は確かに悪くは無い内容だった。剣というものは対集団戦にて突出して優秀な武器ではない。それがさらに上下左右様々な高度からの攻撃を対処しなければならないとなると、剣の持ち味は確実に潰されるだろう。

 

 

 

 相手が常識の範囲であればだが

 

 

 

「ガ……ッ!」

 

(認識できない……)

 

 ある程度距離を取って部下達と戦っている基臣を観察しても、挙動の一切を掴むどころか動きの起こりさえ認識することが出来ない。

 

 一秒後、敵の集団の半数に及ぶ首を基臣は正確無比に切り落としていた。

 

 基臣にとって初めての人殺し。しかし、そこに何の思い入れもない。あるのは敵を殺したという事実だけ。そのまま、誰にも傷つけられることなく相手を蹂躙(じゅうりん)していく。

 

(まるで弱点がない。可能性があるとすればあの状態が長く持たないという点だけか)

 

 だが、今の基臣から時間を稼ぐことが出来るビジョンがまるで想像できない。数秒後には間違いなく今、目の前で繰り広げられているように首を刎ね飛ばされていることだろう。

 

 考えを張り巡らせている内に基臣の一振り一振りが命の灯を消していく。

 

 そして、取り囲んでいた集団を全員切り伏せ終えたその瞬間、基臣は朧に目を合わせる。

 

(来るか……)

 

「誉崎流奧伝・(あらた)絶界(たちのさかい)

 

 目が合った瞬間に朧は技を出して待ち構える。

 

 誉崎流の技と第六感を組み合わせ、自分の領域に入り込んできた敵に瞬時に攻撃を繰り出す技。だが、基臣は瞬きの内に接近するとそんな技を見切り、朧の剣を片手で掴んで粉々に粉砕する。

 

「剣、が…………ッッ!?」

 

 剣を破壊すると流れるように今度は脇腹に蹴りを入れて再起不能にする。

 

「化け、物だ……」

 

 誰も基臣の動きについていけなかった。

 

 まるで互いの間で決定的に時間の流れが違うかのように。

 

「ご当主ッ!!」

 

「『青鳴の魔剣か……』」

 

 唯一残っていた青鳴の魔剣を持つ男は一瞬で三回斬る動作を行う。

 

 三回、それがこの男にとって青鳴の魔剣の能力の真骨頂を最大限引き出せる限度。

 

 普通ならば基臣の切り刻まれた身体が地面に横たわっていたはずだったが。

 

「……っ!? 回避した!? まさかそんなことが……ッ!!」

 

 うなじのチリチリと痛む感覚に、本能的にすぐさま防御態勢に移行しようとするが、既に行動し始めた時には身体は吹き飛ばされ宙に浮いていた。

 

「……くっ……かはッ!?」

 

 そんな隙だらけの男の首を、基臣は何の躊躇もなく切り落した。

 

 

 

 20秒

 

 

 

 それが、基臣の能力が覚醒してから、敵を全滅するまでの時間だった。

 

「ハァ……ッ、ハァ……ッ!」

 

 そんな全滅状態の中で、辛うじて意識を保てていた朧の前に基臣は足音も立てず現れる。

 

「ッ……ガッ……!?」

 

「『そんなに、シルヴィを殺したのが楽しかったか』」

 

 朧の身体をピューレの刃が貫き通す。だが、死なない。いや、殺させなかった。

 

「『そんなに人の苦しみを見るのが愉しかったのか』」

 

「かぁ……っ!!」

 

 ピューレの能力で無理やり生きながらえさせ、更に苦しみを味わわせるために意識を保たせる。

 

「『なあ、どうだ。自分の体を思いっきり貫かれる気分は?』」

 

「ぁか……っ! こぁっ……の……っ!」

 

 痛みに必死に耐える朧に何の感情を抱くことなく見下ろす。

 

 だが、数秒で死に至るほどの痛みを何度も繰り返しフィードバックさせられたことで、反抗の意思もすぐにへし折られる。

 

「……ぁ……っ」

 

「『つまらん、もう終いか』」

 

 朧の身体からピューレを引き抜くと、もう一度だけ治癒させる。

 

「『……言い残す言葉は』」

 

「……無い。殺せ」

 

「…………『死ね』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わったか」

 

 身体能力を強制的に引き上げる能力を解除した基臣は、膝をつきながら死体の散乱した地面を眺めて一人ポツリと呟く。

 

「こんな末路、分かっていた。……なのに俺は目を背けた」

 

 一人寂しく基臣は目の前の光景を目に焼き付ける。自分の行いの末路を忘れないために。

 

 そんな時──

 

「──っ!? ……く、ぅッッ!!」

 

 ──コロセ、スベテヲ

 

 張り裂けるような痛みが身体を食い破り、全てを殺せという言葉が脳内を激しく揺らす。

 

「はぁっ……はぁっ……カホッ、ケホッ!!」

 

 度が過ぎた身体能力強化の影響か既に基臣の身体は満身創痍で意識を保っているのがやっとの状況だった。

 

 血反吐が地面に撒き散らかされ、身体は見るも無残な状態。

 

「治癒、しなければ……」

 

 ガンガンと頭を叩きつけるような殺せという呪詛のような言葉に耐えながら、杖代わりに身体を支えていたピューレを持ち上げて治癒能力を行使する。

 

 暖かな光が基臣を包み込み、その体を癒していく。

 

 しかし──

 

「う"っ"!?」

 

 今度は身体的な傷とは別にピューレを使っていた代償が精神を急激に蝕んでいく。

 

「んん……っ。…………こ、こは?」

 

 そんな中、傷が治癒したことで意識を取り戻して少しずつ瞼を開いたシルヴィア。どこからか聞こえる呻くような声に視線を向ける。

 

「……あれ、もとおみくん?」

 

「ち、がう……」

 

 フワフワした意識の中で見える基臣の姿。しかし、その顔は苦悶の表情でトラウマを見せられているかのように恐れを見せていた。

 

 通常、魔女(ストレガ)魔術師(ダンテ)を凌駕する能力を使えると言われている純星煌式武装(オーガルクス)でも、使い手の実力相応の能力しか引き出せない。

 

 だが、ピューレには能力使用の限界、リミッターというものが一切存在しない(ただし、ピューレが使い手を信頼していない場合は通常の純星煌式武装同様にリミッターがかかるが)

 

 使用者が望めば、先ほどのシルヴィアのように死んだ人間を蘇生する事も可能で、一種の願望機だという事を知れば皆喉から手が出るほど欲しいと思うようになるだろう。

 

 そんなピューレだが、能力を使うだけ使って代償は常識の範囲で済む、というわけでは決してない。

 

「シルヴィ、みんな……ちがう、ちがうんだっ。お、れは……!」

 

(しっかりして!落ち着いて、モトオミ!)

 

 今の基臣のように、この世の地獄の全てを詰め合わせたかのような幻を強制的に五感全てで感じ取らされる。その幻に、他人からの言葉も一切受け付けれない程、精神を一瞬にして病んでしまう。歴代のピューレの使い手の不審死は全てこれが原因なのだ。

 

 しかも基臣の場合、その代償を受ける期間は数年ではない。今の戦いで溜まった代償の年数は数百年分に上る。その間、つまり死ぬまで苦痛を伴う幻を見せ続けられる。現実だろうと夢の中だろうと。

 

「もう、いやだ……っ」

 

「基臣、君?」

 

 そんな極めて異質な様子の基臣にシルヴィアも何かおかしくなっているのを感じ取る。

 

「そうだ……、俺の存在を全員の記憶から抹消すればいいんだ……」

 

 基臣から発せられる穏やかではない言葉に、シルヴィアは、理由は分からないが引き止めないといけないという嫌な予感がした。

 

「もう、こんなところにいたくない」

 

(だめっ!モトオミ!!)

 

「待って、基臣君っ!」

 

 

 

 ピューレの刀身は基臣の願いに呼応するかのように目が潰れそうなほど眩く光り輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして世界は光に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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