学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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作詞?んなもん感覚でやりゃいいんだよ!ということで初投稿です。


裏話30-② 理解し寄り添う

「…………え? 私の事、覚えてるでしょ?」

 

「貴様の事など知らん。不愉快だ、消えろ」

 

「……っ!」

 

 冗談でも嘘でもない。本当に記憶から私たちのことを消し去っている。そんな悲しい事実に立ち尽くしていると、ピューレちゃんが駆け寄ってくる。

 

「だから言ったんだよ。今のモトオミは代償で正気じゃない。だから、普通に話しててもまともに取り合ってくれないよ」

 

「ピューレちゃん……。じゃあ、どうすればっ!」

 

「モトオミの代償をどうにかして取り剥がすしかない。……もしかしたら、エルネスタ辺りに頼めばどうにか出来るかも。だから、今できる事はモトオミを気絶させてアスタリスクに連れ帰るぐらいしかないよ」

 

「……そっか」

 

「早く立ち去れ。この忠告を無視するなら、この場で切り殺す」

 

 そんな私達の会話に割り込むように話すと、基臣君はそのまま立てかけていた刀を手に取る。痩せこけてまるで強そうに見えないその姿からでも、発せられる殺気は大の大人でも一瞬にして逃げたくなるほど。

 

 基臣君の代償を取り除く方法。何か私にも……

 

「あっ」

 

 あった。一つだけ、私にも出来ることが。

 

「どうかしたの、シルヴィ?」

 

「……ピューレちゃん、基臣君を任せていい? できれば気絶させないでくれるとありがたいんだけど」

 

「何か策があるの?」

 

「うん、その代わりちょっと時間がかかると思うけど……」

 

「分かった、そういうのなら私が時間を稼ぐ」

 

 何をするのか聞かずに私の言う事を信じてくれたピューレちゃんは自分の剣を手に、基臣君と相対する。

 

「そうやって……お前たちも俺を……」

 

 何事かブツブツと呟くけれど風でかき消されて聞こえない。だけど、私達をどこか恐れている事がなんとなく伝わってくる。睨みつけながら居合の構えで今にも攻撃してくるような状態だ。

 

「誉崎流奧伝、獄爛(ごくらん)

 

 何も言う事なく私達へ向かって攻撃しようとする。それを、ピューレちゃんが遮って鍔迫り合いの状態になる。

 

「シルヴィは自分のやるべき事をやって!」

 

「っ、うん!」

 

 言われた通り、私は私のやるべきことをする。まともなお話は今の基臣君の状態だと出来そうにない。だから、今やるべきことは──

 

 

「初めて会った日 あなたは私を見向きもせずに 自分の殻に閉じこもった」

 

 

 前々から基臣君にプレゼントされた歌にどんな能力を付与させるか迷っていた。だけど、今回の一件でどんな能力にするかを決めた。基臣君の今受けている代償を解消(キャンセル)する事だ。

 

「耳障りだ……ッ!」

 

「させないっ!」

 

「チィ……ッ!!」

 

 刀をピューレに何度も叩きつける。しかし、その太刀筋に前のような勢いを全く感じない。現に実体化した姿では少女程度の力しか発揮できないピューレちゃんでも基臣君に優位に立てている。普通ならば立っているだけでも精一杯だろう事を考えると、今の基臣君の状態ははっきり言って異常以外の何物でもないけれど。

 

 

「初めて語った日 あなたは私を訝しんだままで 自分の殻に入れなかった」

 

 

 そんな基臣君をピューレちゃんに任せて、私は彼がプレゼントしてくれた歌を歌い続ける。今まで完璧でなかったけれど、基臣君のお母さんの歌を聞いて自分の中でもどう歌うべきかがしっかりと定まった気がした。

 

 ピューレちゃんが基臣君を相手にしてくれてるおかげで、今のところは順調に歌えている。

 

 静かに語りかけるように、聴く人を癒すように歌う。

 

 

「けれど共にいればいるほど 私達は寄り添い 身を溶かしあう」

 

 

 歌いながら基臣君の様子を見ると、歌も半ばまで歌っているからなのだろうか、ピューレちゃんの代償が少しずつ解消されていって、先ほどまであった異常な雰囲気が収まってきている。

 

「くそ、が!」

 

 基臣君はその原因が私の歌である事が分かると、今までに見たこともないぐらいの怒りを現す。

 

「誉崎流極伝、た──」

 

 今まで餓死で死にかけだったと思えないぐらいにすさまじい勢いで星辰力(プラーナ)が練り上げられていく。しかし──

 

「──か……は……ッ!?」

 

 技の負荷に耐えられないのか、激しく血を吐き散らして立ち尽くした。

 

「モ、モトオミ!」

 

 そんな基臣君を心配したピューレちゃんは近寄ろうとする。

 

 でもそんなことをしたら間違いなく、基臣君の攻撃を無抵抗で食らう形になる。そんなピューレちゃんを止めようと思っても歌を中断するわけにはいかない。

 

 

「素顔を見せないあなたが涙を零した日から 私はともに生きたいと願った」

 

 

「俺に触るなっ!」

 

「ガ……ッッ!?」

 

 ピューレちゃんの鳩尾(みぞおち)に基臣君の拳が突き刺さる。例え、彼の一撃が弱弱しい物でも人体の弱点である以上痛い物は痛いはずだ。

 

 

「歌であなたに心からの愛を捧ぐよ 言の葉に想いを乗せて」

 

 

「その歌だ……その歌さえ止めれ……ば!?」

 

 私に近づこうとする基臣君の足をピューレちゃんは手で掴む。いくら今実体化している姿が本体ではないと言っても、ダメージの痛みは本体である純星煌式武装にフィードバックされると言っていた。振り払おうとしている基臣君の一撃一撃が身体に染みるように痛むはず。

 

 本当ならピューレちゃんの元に駆け寄りたい。だけど、ピューレちゃんの瞳が訴えている。私のやるべき事をやれと。

 

「邪魔、だ……!!」

 

「いかせ、ない……シルヴィの元には!」

 

 ピューレちゃんが基臣君をどうにか取り押さえている間も私は歌い続ける。

 

 

「いつか私を運命が連れ去って 別れる日が来たとしても」

 

 

「離、せ!!」

 

「絶対に離さないっ!」

 

 

「あなたをずっと待っているから」

 

 

「……く……っ!」

 

 

「またね 私の愛しい人」

 

 

 時間にして4分ちょっとに及ぶ歌を歌い終え。一つ深呼吸して基臣君を見ると、先ほどまでの異常な雰囲気は完全に失せてしまって、基臣君の表情もどこか変わったように見える。

 

 基臣君に課せられていた代償を完全に解消(キャンセル)することに成功した、ということなのだだと思う。

 

「……歌い終わったの?」

 

 動きを止めてしまった基臣君にピューレちゃんが立ち上がって私に近づき聞いてくる。

 

「うん、見た感じでも代償を解消することはできたはずだよ。後は正気に戻った基臣君に話をするだけ」

 

 ただ、代償を消すことができても、彼の殺意はまだ消えていない。

 

「ピューレちゃん。これからは、私に任せてもらってもいい?」

 

「うん、いいよ。……モトオミの事、よろしくねシルヴィ」

 

「分かった」

 

 ピューレちゃんが静かに事の成り行きを見守ってくれる中、私は基臣君と改めて対面する。

 

 もう何も恐れるものは無くなったはずなのに、彼の眼は射殺さんばかりの視線を私たちに向けてくる。──でも、さっきまでと違うことが一つあった。

 

「ねぇ……基臣君……」

 

 それは、私達を殺そうと決意してるはずなのに──

 

「なんで、そんなに悲しそうなの?」

 

 ──彼の顔は今にも泣きそうな顔だった事だ。

 

 

 

「…………は?」

 

「人を殺そうとしてるのに、なんでそんな──」

 

「うるさい!!!!」

 

 叫んで私の言葉をかき消すと、より一層目を細めて突き刺すような視線を送ってくる。

 

「どうせお前たちは俺の事を化け物みたいな目で見て……軽蔑して……」

 

「本当に私達がそんな風に見てると思う?」

 

「ああ、そうだ! お前らなんか信用できない!」

 

「私達がどう思ってるか、今の君なら分かるでしょ」

 

「……っ」

 

「基臣君の事を嫌うなんて事絶対ありえないよ。……だって、君のことが大好きなんだから」

 

「……うそだ」

 

「本当だよ。分かるでしょ? 第六感で」

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」

 

「本当に嘘だと思う?」

 

「嘘だッッ!!」

 

 冷静な所ばかり見せてきた彼が、今まで見たこともないぐらいの取り乱した姿を見せる。

 

「そうやって何もかも俺の全てを見透かしたような顔をしやがって……っ。お前なんかに……お前なんかに! 俺の何が分かる!!」

 

「……そうだね。基臣君の言う通り、私は君の事が分かる、なんて言ってもそんなの嘘偽りだと思う。だから……これから君の事をいっぱい知るよ」

 

 基臣君に触れるために彼の身体に手を伸ばそうとする。

 

「戯言を……っ! 近寄る────っ!?」

 

 その瞬間、私を振り払おうとした基臣君の手は金縛りにあったかのように止まった。

 

「……なんで……手が止まって」

 

「やっぱりそうだ」

 

 私の事を、私達の事を基臣君が嫌いになるわけが無い。つらいことから逃れようとそういうふりをしているだけ。

 

「来るな……」

 

 近づこうとする私の手から逃げようと基臣君は後ろへ、後ろへ、じりじりと下がっていく。

 

「ねえ、基臣君。なんで下がるの? 私を殺さないの?」

 

 そんな基臣君に私は歩み寄り、少しずつ距離を近づけていく。

 

「く、くるな……」

 

「……………………」

 

「くるな……くるなっ、くるな、くるな!!」

 

 怯えたような雰囲気を感じさせるその言葉を無視して近づく。

 

 一歩、また一歩。距離は徐々に近づいて、もう三歩歩けばたくましくもどこか頼りないその背中を抱き留められる。距離を詰めてくる私に、基臣君は恐怖の感情を撒き散らしながら刀を向けてくる。

 

「これ以上近づいたら殺す!」

 

「そんなこと、基臣君にはできないよ。だって、優しいんだから」

 

「黙れッ!!」

 

 近づけさせないためか口汚く私の事を罵ってくる。でも、その一言一言を発するごとに基臣君の顔はすごく苦しそうな顔を見せる。

 

 

 

 一歩

 

 

 

「本当に殺すぞッ! いいのかッ!!」

 

 

 

 二歩

 

 

 

「やめろっ!!」

 

 

 

 三歩

 

 

 

「…………っ。やめ、てくれ……っ」

 

 

 

 基臣君に近づき、私はぎゅぅ、と優しく抱きしめる。

 

「……ぁ」

 

 数か月もの間、碌に飲み食いをしていないからなのか、彼の身体は軽くて細くて、強く抱きしめてしまえば折れそうなほどか弱い。

 

「ねぇ、基臣君」

 

「…………」

 

「もう元に戻ってるはずなのに、どうして私を遠ざけようとしたの? 私の事、そんなに嫌い?」

 

「……それは、違う」

 

 私の問いに否定する。

 

「お前の事は大好きだ。……いや、お前だけじゃない。沈華(シェンファ)もエルネスタもミルシェもオーフェリアもみんな……みんな」

 

「なら、どうして?」

 

「…………それは」

 

 理由を問おうとすると、基臣君は言い淀んでしまい答えを中々出そうとしない。

 

「……いや、だったんだ」

 

「嫌? なにが嫌だったの?」

 

「俺のせいでお前たちが傷ついてしまうのが…………いや、それがきっかけになってお前たちが俺を嫌いになってしまうって事が……」

 

「私達が基臣君を嫌いに……なる?」

 

「俺が原因や重荷になったせいで、お前たちがかつての父さんのように侮蔑と嫌悪の視線を送ってくるか分からない。それがたまらなく怖いんだ」

 

「……基臣君」

 

「もう……っ、いやなんだ! お前たちが俺を俺として見てくれなくなる可能性がある事が!」

 

「…………」

 

 初めて見る基臣君の今にも泣きそうな表情に私は思わず息を飲んでしまう。

 

「お前が殺されたとき、その不安は現実の物になった。俺が原因でお前は殺された。つまり、俺という存在がお前を殺したも同然だ。なのにどうして俺のと以前と同じように接することが出来るんだ!?」

 

「基臣君、私は──」

 

「俺は……人を傷つける事しかできない……。俺は生まれちゃいけない人間だったんだッ!」

 

 腕の中から逃れようと何度も何度も基臣君はもがく。

 

 怖かったんだと思う。自分のせいじゃない事は分かっているはずだ。だけど、自分の悪い未来をどうしても想像してしまうんだろう。丁度ピューレちゃんの代償をその身に受けたことで、その悪い未来に対する恐怖が今の基臣君の心を支配している。

 

 基臣君は表面上では心が強くできてるように見えるけれど、実の所はそんなに強くできていない。むしろ、第六感で私達の心を読めるからこそ人の心変わりには人一倍敏感で、人一倍その手の感情に怖がりだ。

 

 だから、私はそんな彼を落ちつけさせ、宥めるように優しく包み込む。

 

「……ぁ……ぅ」

 

 その思いが伝わったのか、必死にもがこうとしていたその力がだんだん弱まり、震えながらではあるが基臣からも抱き返してくれる。

 

「基臣君は今まで救ってきた人たちの事、覚えてる?」

 

「……すく、った? おれが……?」

 

「他のみんなについては詳しくは分からないけれど、少なくとも私は君に救われた。ウルスラの身体を乗っ取ったヴァルダ=ヴァオスから」

 

「……あ」

 

「ヴァルダから基臣君が私を助けてくれた時、どれだけ嬉しかったか……。どれだけ救われたか分かる?」

 

「それ、は……」

 

「それに救うだけじゃない。君は誰よりも人の心の痛みを理解できる。誰よりも人のために使える力、それが君の力」

 

「……俺の、第六感が、人のための力?」

 

「君は化け物なんかじゃない。私の、私達の英雄(ヒーロー)だから」

 

「俺が、化け物じゃない……」

 

「だから、人を傷つけることしかできないなんて事、言わないでよ」

 

「…………」

 

 基臣君の私を抱く手の力が強まって、ギュッと抱きしめてくる。

 

「シルヴィ……」

 

「うん」

 

「シル、ヴィ……っ」

 

「うん」

 

 そばにいてくれる事を確認するように何度も、何度も私の名を呼ぶ。その意図を分かっていたから、私も基臣君に何度も返事を返す。

 

「俺は、幸せに……なっても、いいのか……? みんなと一緒に暮らしてもいいのか……?」

 

「……当たり前だよ。例えみんなが、世界が否定しても、私だけは君のことを肯定するよ。絶対に君に幸せになってほしいから」

 

「っ、シルヴィ……っ!」

 

 みんなと一緒に暮らして幸せになる、そんな人として当たり前の権利を認めただけ。だけど、そんな言葉が基臣君にとっては救いだったのかもしれない。抱きしめた胸の中でも泣いてるのが顔を見なくても分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ、っと。これで最後かな……」

 

 基臣君の最低限の荷造りをして再び家から出る準備をする。その準備にはもちろん私も手伝いに参加して、手早く終わらせる。

 

「それにしても、随分と大きい家だなぁ……」

 

 ピューレちゃんに見せてもらった時も大きいとは思っていたけれど、実際にこうしてみるとその広さがよく伝わってくる。少し余裕があったので家の中を探索させてもらったけど、基本的に家の中は和室で統一されている。

 

 ただ、その中で厳重に閉められていた一室があった。気になったので基臣君と一緒に開けるとそこはピアノが置いてある洋室で、おそらく基臣君のお母さんが歌ったり作曲するための部屋だったのだろう。基臣君に聞いてみると、今までお父さんから開けるなと言われていたようで、部屋の中は一度も拝むことが出来なかったらしい。

 

 部屋の中にはピアノ以外にもいくつか楽譜が置いてあり、その全てを基臣君は私にくれた。最初は勝手に私物を持ち出すのも失礼だと思って断ったけれど、基臣君のお母さんも誰かに歌ってもらった方がいいだろうという事で最終的に私の手元にある。

 

 準備を終えて少し時間があったので新しくファイルに挟まれた楽譜を見ることにした。

 

「帰ったらさっそく歌ってみなきゃね……」

 

「準備は終わったか、シルヴィ」

 

 しばらく楽譜を眺めていると、基臣君も準備を終えたのかリュックを背負って立っている。そして彼の腰元には純星煌式武装があった。今は待機状態にしてあるので実体化したピューレちゃんの姿を見ることは出来ないけれど、さっき所有権を基臣君に譲渡したとき、ようやく彼の元に戻る事が出来たからかピューレちゃんもどこか嬉そうにしていた。

 

「うん、もうバッチリ」

 

「それならもう家から出るんだが、その前にちょっと寄りたいところがあるんだ。少し時間を貰うがいいか?」

 

「もちろん大丈夫だよ」

 

「それなら行くか。ついてきてくれ」

 

 そう言って基臣君に連れられて家を出てしばらく歩く。

 

「ここは、さっきの……」

 

 少し歩いて着いたのは、さっきピューレちゃんと一緒に見た、雑草だらけの墓場。

 

 ここに私を連れてきた基臣君はというと、大きなゴミ袋と水入りのバケツを持ってきていた。

 

「少しだけ墓周りを綺麗にしたいから、シルヴィは適当にそこらへんで待っててくれないか」

 

「むぅ……」

 

 基臣君はそう言うが、私だけ一人で待っているのはとてもじゃないけれど居心地が悪い。

 

「私の性格、分かってて言ってるのかな。基臣君」

 

「……あー、それもそうだな。じゃあ手伝ってくれるか」

 

「うん、もちろん!」

 

 私も墓の周辺にしゃがんで、基臣君と同じようにして雑草をむしっていく。無言で草をむしっては袋に詰めてを繰り返して、できる限り墓の周りを綺麗にしていく。

 

 そうして綺麗にすることしばらく、基臣君曰く二年ほどの間放置されていたものなので完璧に、とはいかなかったけれどそれなりに見栄えの良い墓になった。草をむしり終えると、持ってきたバケツの水をかけると基臣君は墓の前にしゃがみこむ。

 

「さて、と……こうしてちゃんと俺が俺として話をするのは初めてかな。父さん、母さん」

 

 今更だけど、基臣君の喋り方も前の堅苦しいものから変わった。元々は基臣君のお父さんを参考にした口調で喋ってたみたいだけど、今は自分自身を隠す必要も無くなったので本来の喋り方をしている。実際、その喋り方の方が私にとっても窮屈さを感じさせないし、前の喋り方よりも好きだ。

 

「せっかくだから、隣にいる人も紹介しようか。ほら、シルヴィ」

 

「え、私?」

 

「突っ立ったままなのも不自然だろ。ほら」

 

「それもそっか。……それじゃーえっと。どうも初めまして、基臣君のお父さん、お母さん。シルヴィア・リューネハイムって言います。基臣君とは今は……友達みたいな関係です」

 

「ここにはいないけど、シルヴィ以外にもアスタリスクで知り合った友達はいっぱいいる。今の俺にとってみんな……大切な存在だ」

 

 過去を振り返るように基臣君は目を(つぶ)る。

 

「父さん。昔、俺に言ったよね。大切な人を見つけて守れるような力を身に付けろって。……ようやく、父さんの言ったことの意味、分かった気がするよ。俺を鍛えてくれたことの意味も。だから、これからも俺は強くなるよ。……大切な人を守りたいから」

 

「……基臣君」

 

 大切な人と言っているのは私だけの事じゃない。ピューレちゃんや沈華ちゃん、エルネスタにオーフェリアにミルシェ、みんなの事を言っているんだ。皆が皆、基臣君にとって大切な存在だから。

 

「母さん。……母さんの事はピューレに見せてもらった記憶でしか見たことがないから、まだ何となく母さんの子だって事は実感ないけど、命を張って俺を守ってくれたこと嬉しかったよ。だから、母さんの命の分まで、俺は幸せになるよ」

 

 言いたいことは全て言えたのか、すっきりとした面持ちで基臣君は立ち上がった。

 

「しばらくしたらまたここに帰ってくるよ、それじゃ」

 

 その言葉を最後に基臣君は私に手を差し出してきた。

 

「ほら、シルヴィ」

 

「……えっ?」

 

 基臣君の方から手を繋ぐように催促してくるなんてこと、今まではそんな事が無かっただけに少し驚くけれども、不愛想にしながら手を握った頃と比較すると嬉しい変化なのかもしれない。その事に、自分でも頬が緩むのを感じながら彼の手を握り返すと、バケツと雑草を集めた袋を手にして墓から立ち去ることにした。

 

「それじゃあ、帰るか」

 

「うん、そうだね」

 

 ふと気になって墓のある方を振り向く。別に墓にいるからといって埋葬してある基臣君のお父さんやお母さんの声が聞こえるわけでは無い。

 

 だけど、どこからかきっと私たちを見守っていてくれるだろう。丁度木々の中から差し込んできた陽光が、そう思わせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはどこだろう。

 

 基臣君と一緒に帰る道中、飛行機に乗ってそれから……確か私が疲れて寝てしまった気がする。

 

 ……という事は夢なのかな。それにしては随分と真っ白で何もない空間な気がする。

 

 

 

 ──あれ。人影が……2人いる? 

 

 

 

 片方は、基臣君のお母さんでもう片方は、基臣君のお父、さん……? 

 

 私に背を向けて歩いているので後ろ姿しか見えないけど、間違いない。

 

「あ、あのっ!」

 

 私が声をかけると二人は立ち止まってこちらを振り向く。私に気づいたのか、少し驚いた様子を見せるけれど、すぐに驚きの表情を変えてにこやかに微笑む。

 

 そして、二人は私にむけて口を開くとこう言ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 息子をよろしくね、と──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヴィ…………ルヴィ……」

 

「──ん……?」

 

「もうじきアスタリスクに着くぞ、起きろ」

 

「……基臣君」

 

 気づくと夢から覚めて目の前に基臣君の顔が映る。

 

「どうかしたのか? 俺の顔なんかジッと見て」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

 夢の中で、二人は私に向かって基臣君の事をよろしくと言っていた。たかが夢だと切り捨てる事だって出来る。だけど、私はその言葉を胸にして基臣君と共に寄り添って生きようと、そう決心した。

 

「帰って来たね」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 このアスタリスクで

 

 

 




最終回的な雰囲気で終わらせたけど、お話はまだまだ続くよどこまでも。
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