学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
ifルートですので、物語本編に関わることはありません。
そういう描写を受け付けられない方はブラウザバックすることを推奨いたします。
基臣君の事を思い出してまず最初に浮かんだのは、もう一度会って話をしたい、一緒に同じ時を過ごしたいっていう感情だった。彼の元に行けばそれは果たされるものだと、そう思っていた。
──でも、たどり着いた時にはもう遅かった。
「なに、これ……」
「……やっぱり、こうなっちゃうんだね」
基臣君の家にたどり着いて、ピューレちゃんに導かれるままにある部屋に向かうと彼の身体は彼自身の手が持つ刀によって刺し貫かれていた。
血の花が壁に咲き乱れているということもなく、身体に刀が刺さっている部分から血が床に向かって赤黒く染み込んでいた。もう随分と時間が経っているからなのか、腐敗臭が鼻の奥にまで到達して、そのキツさにクラクラしそうになる。
ハエやウジなどの虫も身体に寄り付き、衛生的とは程遠い環境だ。
つまりだ
「基臣くん!!」
しばらく呆然としていた私だったけど、事の重大さに気づくと血を流して倒れている基臣君の元に駆け寄る。
「しっかりして、基臣くん!!」
何度も何度も彼の身体を細かく揺する。
「……ねえ、ねえったら!!」
しかし、いくら呼びかけても返事どころか
彼がもう既に息を引き取っている事ぐらい分かっていた。……分かっていたけれど、その事実は私には受け入れられなかった。
「あ、そっかぁ……ドッキリだよね! 私、アイドルだからこの手のドッキリはもう慣れっこだよ。もー、基臣くんったらー」
「…………シルヴィ」
「私にドッキリを仕掛けるなんて、基臣君もお茶目なところがあるんだね~。びっくりしちゃうよー」
「シルヴィ……ッ!!」
「……ピューレちゃん?」
「もう、モトオミは死んだの。生き返ってこない」
死んだ? 基臣君が?
「……………………うそ、だよね」
私の問いかけに首を横に振って否定する。
「じゃ、じゃあ私がピューレちゃんの能力を使って基臣君を蘇生すれば……。私、代償なんて気にしないし……っ!」
「死んでから時間が経ちすぎてる。……もう何か月も経ってると思う。今のシルヴィが能力を使ったら死後一か月ぐらいならまだ蘇生できたと思うけど……こんなに時間が経ってたら、もうダメだよ」
ピューレちゃんは淡々と残酷な事実を突きつけてくる。
信じたくなかった。基臣君が死んでるなんて。
「なんで、なんで……っ!」
涙を留める
「返事、してよ……っ、基臣君っ!」
私はただその場で彼だったモノの亡骸を抱きしめて、泣き叫ぶことしかできなかった。
…………
基臣君の死体をそのまま置いておくわけにはいかないので、焼却することにした。
一番死体の処理で困ったのが、彼の戸籍がこの世に存在しないという点だった。生年月日も名前も性別も生まれの国も親も、全て世界に存在しない。みんな
その事実を理解して初めて基臣君が自身にかけた能力の規模は想像以上のものだった事を理解した。その反面、代償がいかに苦しい物になるのかということも。
戸籍上の問題は、少し苦労したけれど、業者に金を積んでなんとか基臣君の死体を処理し、遺骨にしてもらうことにした。遺骨が入った箱を受け取った時に感じた軽さに彼はもうここにはいない事をようやく実感した。
基臣君の遺骨は誰も引き取り手はいないので私がアスタリスクへ持ち帰ることにした。
……それと、ピューレちゃんは基臣君の死体を見てすぐに、私とは別れてどこかへ行ってしまった。おそらく、もう会う事は無い。別れる前のあの子の瞳は絶望しきっていた。もしかしたら、どこかに身投げするのかもしれない。そんな事でピューレちゃんの《ウルム=マナダイト》が破壊されるとも思えないけれど、自傷行為に走りたい気持ちは分からなくもない。今の私も死んでしまいたい気持ちだったから。
私はアスタリスクへ帰ると、ミルシェやエルネスタ、沈華ちゃんやオーフェリア……全員に基臣君の事を覚えているか聞いたけど誰も覚えていなかった。……というよりもそれ以前の問題で、元から関わりがあったミルシェを除いて誰も私との交友関係があったことすら覚えていない。
ただ、エルネスタが娘同然に大事にしているレナティちゃんだけは私と基臣君の事を覚えていた。《ウルム=マナダイト》をコアにした自律式擬形体だからピューレちゃんの能力の影響を受けなかったみたいだ。
結局、絶望するしかなかった私は、何の救いもないこの世界から逃げるようにそのまま部屋に閉じこもるようになった。食べ物も碌に口に通らなくなり、食事は死なない程度に飢えをしのぐだけ。ピューレちゃんによると基臣君はこれよりも更につらい飢えを体感していたはずだと言っていた。ちょっとだけ、基臣君と同じになれたかな、と嬉しさを感じている時点で私もどこか狂い始めてしまっているのかもしれない。
──アスタリスクに戻って3か月が経った。
基臣君の死を確認して以降、活動を中止していたけれど、精神状態的にアイドル稼業はもう続けることはできないということで、正式に私は引退することにした。それからは追うようにクインヴェールの生徒会長を辞任。当然、そんな私の突然の行動が報道されないわけもなく、世間では誰かとのお付き合いがあるから寿引退したのではないか、って話で持ち切りらしい。
……実際は、そんな噂話とは真逆なのが実態だけれども。
マネージャーであるペトラさんやルサールカのみんなは最後までアイドル稼業を続けるよう引き留めようとしていたけれど、彼を失ってしまった私にはもう何もやる気力がなくなってしまった。自分の姿を一度鏡で見てみると、かつての輝きは失われて濁り切った瞳がそこにはあった。こんな姿でファンの前に現れるのは失礼だ、と言うとみんな私が引退することに何も言わなくなった。
ただ、ミルシェだけは勘が鋭いからか、忙しい仕事の合間にちょくちょく訪ねてくる。大方、私の姿を見て自殺でもするのじゃないかと思ってるのかもしれない。気を遣ってなのか、直接自殺するかどうかまでは聞いてこないけれども。
「シルヴィア、入るよ」
噂をすれば何とやら、ミルシェが食事を乗せたトレーを持って私の部屋にやってきた。
「ほら、少しは食べなよ。このままだと死んじゃうよ」
「……うん、ありがとう。でも今はいいかな。そこに置いておいて」
「ほら、だめだってば。いつも残してるんだから、今日こそは食べさせるよ。ほら、口開けて!」
無理やり食わせようと、ミルシェが食べ物を片手に迫ってくる。
抵抗しようと思ったけど、ロクに食事をしていないため力が入らずなすがまま。渋々食べ物を口にすることにした。
──けれど
「ングッ…………。ンンッッ!?」
酷い味だった。口に広がる食べ物の風味は基臣君が死んだときに部屋に充満していた腐敗臭みたいで、肝心の味は腐った肉を食らっているような感じだった。
「ゥッ……! ……ヴェッ……ァ"ッ"……」
あまりにもひどいその感覚に思わず口に入れていた食べ物を吐き出してしまう。
「シルヴィアっ!」
「はぁ……はぁ……」
私に寄ってくるミルシェを手で制止し、ゆっくりと立ち上がると洗面台まで行って、口の中を水でゆすぐ。完全に口の中の異物感が取れたわけでは無いけど、大分マシになった気がする。
水でゆすいだ後、呼吸を落ち着けて鏡を見ると、そこには以前の私とは似ても似つかないワタシがいた。
「……私、すっかり弱くなっちゃったよ基臣君」
思わず涙が零れ落ちそうになる顔を何回も水で濡らして戻ると、ミルシェが私の
「シルヴィア……」
「ごめんね、せっかく持ってきてくれたのに吐いちゃって」
「ううん、あたしこそ無理強いしてごめん」
ミルシェは何も悪くないのに随分と申し訳なさそうな顔をしている。
「「……………………」」
気まずさが立ち込めた空間にお互いに黙ったままになっていると、しばらくしてミルシェが口を開く。
「……ねぇ、シルヴィア。何かあたしに隠してる事あるの?」
「……っ、いきなりどうしたの」
「なんとなくシルヴィアがあたしに罪悪感を抱いてる気がしたから……何か隠してるのかな、って。もしかして……前に話してた誉崎基臣ってやつの事、とか……?」
ほんとにミルシェは聡くて、そして勘が鋭い。その勘の鋭さに思わず嫌悪感を覚えてしまうほどに。
ミルシェにも真実を教えてあげたい。だけど、彼女に本当の事を話すわけにはいかない。話してもミルシェは基臣君の記憶を取り戻すことはできない。ピューレちゃんと接触する前の私のように思い出したくても思い出すことが出来ない苦しみを味わうだけだ。
「……何も隠し事なんてしてないよ」
だから、私は笑ってごまかした。彼女の性格的にそれ以上は追求してこない事は分かっているから。
「本当?」
「うん、本当」
「…………分かった。疑うような真似をしてごめん」
「ううん、気にしてないから大丈夫」
「……次のライブツアーの準備しなきゃいけないから、あたし、そろそろ行くね」
「北米ツアー、明日からなんだっけ? 頑張ってね」
「……うん」
ギィ ギィ
前後に揺れるたびに鳴るロッキングチェアの音が耳に心地よく感じる。
日だけを浴びて、ただ無為に時間を過ごす私の姿はたぶん、傍から見たら廃人みたいに見えるはずだ。
……結局、私はクインヴェールを退学してアスタリスクから出ると、基臣君の実家で生涯を終えることに決めた。アスタリスクで基臣君の事を思い出すことが出来ないミルシェたちへの罪悪感を抱えながらいるよりも、この場所で彼との思い出に浸りながら死にたい、そう思ったからだ。
遺骨の入った箱に指を滑らせると、思い出すのは彼との思い出。
ショッピングをしたり、カラオケに行って彼に歌い方を教えてあげたり、学園祭で色々見て回ったり……いい思い出ばかりだった。
「ふふっ……」
カラオケでどう歌えばいいのか分からず困惑していた彼を思い出し、思わず笑みがこぼれてしまう。
誕生日には彼の大事な形見である楽譜をもらったこともあった。今もなお大事に持ったままだ。
「…………そうだ」
立ち上がって屋敷の隅にある部屋へと向かう。この屋敷の部屋割りはピューレちゃんに教えてもらった。その中でも南京錠でロックされた異質な部屋が一部屋ある。
少し前に無理やり南京錠を破壊して開けたその部屋にはピアノが一台置いてある。その部屋だけ床が畳ではなく洋風のフローリング。基臣君のお母さんがピアノを弾くためだけに作られた部屋であることが分かる。
近くに併設されているテーブルに遺骨を置くと、鍵盤に指を乗せる。
「~~~♪」
飲食をまともに行っておらず発声練習ももう半年ほどやっていないため、歌声はかすれて、とても歌と呼べるものでは無かったがそれでも必死に基臣君への鎮魂歌を歌い続けた。彼の死に顔は何かに酷く怯えたようだったから、それを少しでも救済してあげたい。
……そのついでに、この曲を歌えば彼が蘇らないか、というくだらない考えで歌い続けたけれど当然、歌い終わっても彼が蘇ってくることは無かった。
「……バカだなぁ、私」
自分の馬鹿さ加減を思わず鼻で笑ってしまう。亡き彼の思い出を辿ろうと空しく力を振り絞っただけ。
「もう、いっかな……」
椅子から立ち上がり、遺骨の入った箱を抱えて愛しい彼が寝床にしていたという部屋へと向かう。
歌を歌った洋室からそこまで距離は離れていない。でも、その距離を歩く一歩ごとに力が抜けて倒れそうになる。けれど、最後の力を振り絞って部屋までたどり着く。
ふらふらになりそうにしながらも頑張って扉を閉めると既に用意してあった布団に入り込む。
「基臣君……すぐそっちに行くからね」
布団に入るとそんなに時間が経たずとも、意識がどんどん薄らいで瞼が勝手に閉じていく。その感覚にもうすぐ死ぬんだろうなって実感が湧いてくる。
「私、君と一緒にいることができて幸せだった」
死んだら基臣君とまた会えるだろうか、昔みたいに遊ぶことが出来るだろうか、そんな考えが頭の中をよぎる。
「愛してるよ、基臣君」
アスタリスク16巻さっそく購入したので読みました。
ネタバレはご法度なので避けますが、とにかく全てが規格外の一言に尽きますね。物語も色々と進んだので個人的には満足できる巻でした。
あとがきで次巻が最終巻になると言及しているので、今から17巻が発売されるのが楽しみです。