学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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約三週間ぶりの投稿なので初投稿です。

お待たせして本当にすみませんでした。
年末特有の忙しさ+筆が思うように進まないの二重苦で、話を仕上げるのに過去最大に時間をかけてしまいました。たぶん今話で今年の投稿は終了だと思いますが、来年もどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m


裏話31 痛みを分かち合う

「ペトラさん、連れてきたよ」

 

「入ってきてください」

 

「はーい」

 

 扉の開く音と共に、基臣とシルヴィアがペトラの執務室へと入る。

 

「わざわざ仕事を投げ出してどこへ行ったかと思えば、随分と早く帰ってきましたね。てっきり一週間ほどどこかへ行ってるものかと思っていましたが」

 

「やだなぁペトラさん。ミルシェじゃないんだから、そんな迷惑かけるような事はしないよ」

 

「……はぁ。まあ、あなたが無事だったようで何よりです。仕事を抜け出した時のあなたはどこか危うい感じがしましたから」

 

「色々と無茶言ってごめんねーペトラさん」

 

「……まあ幸いにも、直近でツアーの予定も無かった事ですし、今回はよしとしましょう。勿論、明日からしっかりと仕事はしてもらいますが」

 

「それは当然だよ」

 

 ペトラの対面にあるソファに基臣が腰かけると、隣に密着するようにシルヴィアが座ってくる。基臣もそれを拒むことなく受け入れた。

 

「…………」

 

 明らかに前よりも親密そうな様子に意外そうな表情で隣り合う二人を見るが、コホンと咳払いすると何事も無いように話し始めた。

 

「こうやって会うのは久しぶりですね。誉崎さん」

 

「ああ」

 

「この数か月行方が分からないという噂があったので何があったのかと思っていましたが……前会った時に比べて随分と、変わりましたね」

 

「まあ、色々あったからな」

 

「……なるほど」

 

 基臣がシルヴィアに向ける視線で何となく察しがついたのだろう。ペトラは少し考えるような仕草を見せるが、何か思い立ったのかシルヴィアへと視線を向ける。

 

「誉崎さん、話す前に少し失礼します。……シルヴィア、ついて来なさい」

 

 ちょいちょいと手招きをするとペトラにシルヴィアが疑問符を浮かべながらも彼女についていき部屋の外へと出る。防音性の高い部屋なのでほとんど会話は聞こえることはないが、そもそも自分に聞かれたくない事だろうというのは理解しているため、聞き耳を立てることなくテーブルの上にある茶を啜る。

 

「けっ……する……自由ですが……なら……になってからにしなさい」

 

「えぇっ!? そ、それは…………だけど」

 

 聞き耳を立ててないので何を話しているのかは分からないが、シルヴィアの動揺ぶりだけは第六感を使ってなくても正確に伝わってくる。何を話し合ってるのかは基臣には知る由も無かったが随分と盛り上がっている事は間違いない。

 

 そんな話し合いが終わるのを待つことしばらく、ドアが開いて二人が帰ってきた。

 

「お待たせしてすみません」

 

「いや、別に構わないが……」

 

 そう言いながらシルヴィアに顔を向ける。彼女の顔を見ると先ほどまでの余裕のある顔はどこへ行ったのか、羞恥でりんごのように真っ赤に染まってしまっていた。しかもその羞恥の対象はよりにもよって基臣に向けられているのだからさっぱり意味が分からない状態だ。

 

「……大丈夫か?」

 

「う、うん……大丈夫」

 

 どう考えても平常な精神状態では無いだろうが、それを突っ込むのも野暮だと思い深堀りすることはせずにペトラに向き直る。

 

「では本題に戻りましょうか。あなたが人を殺してしまった件についてですが……別に問題ないと思っています」

 

「問題ない……のか?」

 

「正当防衛なのですから当然です。自ら進んで殺しを行ったならともかく、シルヴィアを守るための殺人。それを許容しないほど私も恩知らずではありませんから」

 

「……そうか、それならよかった」

 

 殺人の件について何事もなく終わりそうなことに、ホッとした様子で胸をなでおろす。

 

「迷惑をかける事は無いように善処するが、これからもよろしく頼む」

 

「いえ、こちらからもよろしくお願いします」

 

「ペトラさん?」

 

「この子はすぐに問題を自分だけで解決しようと行動する節があります。まあ、あなたがいれば多少は無茶な行動も慎んでくれるでしょうからそこまで心配はしていませんが」

 

「もうっ! ペトラさんっ!」

 

「ああ、任された」

 

「もー! 基臣君までー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー、ペトラさんにも説明が終わって、とりあえずは一安心だね」 

 

「そうだな、話が無事終わったようでよかった」

 

 ペトラから話があると言われて少し身構えていた基臣。しかし、意外にも話し合いは短く済み、殺人を犯したことに関してもただの正当防衛という事で処理された。

 

 もちろん、基臣自身は何も悪くはないが、彼が原因となって事が動いたという点は否定できない。そういう意味では、シルヴィアの身の回りに不安要素を置いておけないために、アスタリスクから立ち去れとペトラに言われる可能性はあったわけである。

 

 その場合、シルヴィアも基臣と一緒に出ていくと言って事態が面倒くさいことになっていたはずだ。そういう面倒が起こる可能性を含めてペトラは、殺人行為をしてもシルヴィアとともにいる事を許したのかもしれないが、そこら辺の思惑はペトラ本人のみぞ知るというところだった。

 

「これでとりあえず用件は済んだな」

 

 話が終わるや否や、急ぐようにシルヴィアの元から去ろうとする基臣。その理由はと言われるとはっきりとは言えないが、何か嫌な予感が胸の中を巡っていたからだ。

 

「……それじゃあ俺は界龍(ジェロン)に帰る。また──なッ!?」

 

 しかし、その歩みはシルヴィアによって止められる。

 

「まだお話は終わってないよ、基臣君」

 

 基臣の襟を掴みニコニコと笑みを浮かべているシルヴィア。だが、その笑みはとてつもなく恐ろしいものに思えた基臣は必死に振りほどこうとする。だが、襟を握る彼女の手に力が籠っているからなのか、それは叶わない。無理に振りほどこうものなら、服が破ける事は間違いないだろう。

 

「……その手を離してくれないか、シルヴィ」

 

「だーめっ」

 

「どうしてもか?」

 

「これはもう決定事項なんだよー。諦めておとなしくついてきてくださーい」

 

「…………はぁ、分かった」

 

 渋々シルヴィアの後をついていく事になり、ほとんど吐くことの無かったため息を吐いてしまう。これが本人の言う通り、()()()()()だったなら問題なかっただろう。だが、先述した通りどうにも嫌な予感を感じてしまい乗り気ではない。

 

「ふん、ふふん、ふんふん、ふーん♪」

 

 しかも、目的の場所へと近づくごとにその嫌な予感が増していく。主に自身の胃がキリキリしそうな事態が起きそうな、そんな嫌な予感が。

 

 あることが分かり切っている地雷原に、誰が望んで足を突っ込みたがるだろうか。少なくとも基臣はその地雷原に自分から望んで足を突っ込むような被虐趣味はない。

 

 そんな感じで色々と脳内で思考を張り巡らせている内に目的の場所であるシルヴィアのセカンドハウスまで到着する。

 

 

 

 ──いる

 

 明らかに人の気配が家の中からする。ピューレによる代償がシルヴィアによって解消されてからというもの、第六感の感覚が以前よりも遥かに冴え切っていた。その冴えた感覚から家の中に3人いる事が感じ取れる。しかも、感覚的にその面子は基臣がよく知っている人物だ。ついでにシルヴィアが知っている人物。これだけ判断材料があれば、誰が家の中にいるかは直接姿を見なくとも想像がつく。

 

「ほら、入って」

 

「…………あぁ」

 

 ドアを開けてかたつむりのような歩みでノロノロと動くが、シルヴィアに無理やり背を押されてリビングにまで向かう。

 

「お待たせ、みんな」

 

「遅いよっ!」

 

「まあまあ、こうやって来てくれたんだし」

 

「随分と長かったわね」

 

 ドアを開けると部屋の中にいたのは、ミルシェにエルネスタ、沈華。シルヴィア含めればいつも見る仲良し4人衆だ。

 

「……やっぱりか」

 

 その面子を見た時点でもうすでに色々と悟ってしまい、向けられる感情を理解してもう目を覆いたくなるような気分になる。説教で済むならいくらでも受けるが、絶対にそれでは済まないだろう。説教が終わった後にすぐさま逃げ出す算段を頭の中で構築しながら、表面上は努めて冷静に振る舞う。

 

「それで……ここに俺を連れ出した要件は何なんだ」

 

「私にだけじゃなくて、みんなにも基臣君の事について説明してもらおうかなと思ってね」

 

「なるほどな」

 

 シルヴィアには全てを話したものの、他の三人にはまだ何も話していない。いきなりいなくなったことも含めて何があったか知りたいのは当然の事だろう。

 

「教えるよ、俺の過去を全て。……ピューレ」

 

「はーい」

 

 基臣の指示で姿を現したピューレ。

 

「三人とも、こっちきて」

 

 手招きをするピューレに、ミルシェと沈華、エルネスタは警戒することもなく近づく。その三人に手を触れると、シルヴィアと同じように記憶を流し込む。

 

 その記憶は、自分が父に暴力に等しい教育を受けながら育ったこと、その過程で感情の類が全てそぎ落とされてしまったこと。正当防衛とはいえ人を殺したこと。人から嫌悪の視線を向けられるのではないかと恐れてアスタリスクから逃げ出したこと。今まで経験した事を全て包み隠さず彼女たちに伝える。

 

「これがシルヴィに見せた、俺の全てだ」

 

「「「…………」」」

 

 黙り込んだままの彼女たち。その中で、ミルシェだけが顔を伏せたまま基臣に近づいてくる。

 

「……ミルシェ?」

 

 基臣に近づき顔を上げたミルシェ。次の瞬間には──

 

 

 パァン──ッ!! 

 

「──っ!」

 

 全力で基臣の頬をぶっていた。

 

「ふ────っ、よし!」

 

 思い切り振りぬかれた手で叩かれた顔を見て満足そうにするミルシェに呆気にとられる基臣。

 

「何を……?」

 

「あたしたちの前からいなくなったらビンタするって約束、忘れたとは言わせないから」

 

「……そういえば、そうだったな」

 

 ぶたれた頬に手を添えながらミルシェの言う約束に思い至ったのか納得の表情を見せる基臣。

 

「まあ、なんで私達をもっと頼らなかったのかとか、色々不満はあるけどこれで許したげる。みんなもそれでいい?」

 

 ミルシェの問いかけに皆一様に頷く。

 

「じゃあこの話は終わりってことで」

 

「終わりで、いいのか?」

 

「別に基臣がどういう経緯でどういう暮らしをしてきたかなんて気にしないし。だって、結局のところ大切なのは今じゃん? 過去でうだうだ言うのあたし嫌いだし」

 

「……そうか。お前たちがそれでいいなら俺も構わない」

 

 彼女たちが良いというのなら、基臣としても特に異論はないという事でそのままミルシェの判断を受け入れた。思ったよりもあっさりと話が終わったことに少し驚きはしたが、シルヴィアが既に基臣と話をしているからと彼女たちなりに判断しての事なのだろう。

 

「これで終わりだよな。俺は帰るぞ」

 

 話も終わったので、急ぎ足で家から出ようとする基臣。だが、それを阻止するようにシルヴィアが出入り口のドアにもたれかかって立ち塞がる。

 

「駄目だよ、基臣君。まだ最後の話が残ってるんだから。というか、ここからが本題なんだけど」

 

「……聞かなきゃいけないのか?」

 

「うん、もちろん」

 

 窓から逃げようかとチラリと確認するが、当然のように他の三人も逃げ道を塞いでいる。強引に逃げれないことも無いが、わざわざそのためにシルヴィアの家を破壊するのも基臣も本望ではない。

 

「はぁ……。それで、その話っていうのは?」

 

「その話っていうのはね……」

 

 胸の前に握りこぶしを置くと、意を決したようにシルヴィアは口を開いた。

 

「私達……基臣君の事が好きなんだ」

 

 率直に告げられた愛の告白。

 

「……やっぱり、そうか」

 

 何を好きになったのかは知らないが、以前から、時折熱っぽい視線が向けられていることには基臣自身も気づいていた。いつ告白されるのだろうかとは思っていたが、こんなタイミングだとは、基臣も思っていなかった。

 

「基臣君は……どう思ってるの?」

 

「どう思っているかって言われても、だな……」

 

 異性として好きかはまだよく分からないが、全員好ましく思っている。一緒に過ごしていて楽しいし、彼女たちがいたからこそ基臣は人生に意味を見出すことが出来た。

 

 だが、基臣には恋というものが分からない。唯一、恋に関して知り得る知識はピューレから見せてもらった父や母が仲睦まじく暮らしていた記憶ぐらいだ。

 

「私達のだれを選んでも、全員振ってもらっても構わないよ。みんな覚悟してるから」

 

(誰を選べばいいんだ……)

 

 誰を選んでもきっと幸せに過ごす事はできるだろう。しっかり考えれば、今にでも付き合う相手を選べれるかもしれない。

 

 ──ただ、彼女たちの告白を受けた最中でも、脳裏にはオーフェリアの悲しそうな顔がちらついて仕方がなかった。

 

 だから──

 

「本当に悪いと思ってるんだが……返事は、オーフェリアとの決着を着けるまで待ってくれないか」

 

「え?」

 

 その返事を、基臣は後回しにすることにした。

 

「自分でも都合の良すぎる話だと思ってる。だけど、ほかの事にも気を取られてる状態でお前たちの思いに答えるのは誠実じゃない。たぶん、答えたら後できっと後悔する」

 

「「「「……………………」」」」

 

 そんな基臣の答えに、4人は顔を見合わせるとクスリと笑った。

 

「堅物というかなんというか……」

 

「しょうがないねー。でもまあ、基臣君らしいといえば基臣君らしいよね」

 

「そんな剣士君だからあたしたちも好きになったんだろうけどねー」

 

「待つと言っても一年も待つわけじゃないんでしょう? それぐらいだったら待ってあげるわ」

 

 その基臣の返事を彼女たちは許容した。

 

「いい、のか? 自分でも割と無理のある発言だと理解してるんだが」

 

「まあオーフェリアも基臣の事を友人としてじゃなくて、異性として好きだろうし、あの子もいないとフェアな気がしないからね」

 

 ミルシェの言葉に基臣はポカンとした表情になる。オーフェリアから来る感情は家族に向ける親愛に近いものだっただけに、そういった恋愛感情とは程遠いだと思っていた。

 

「……え、そうなのか?」

 

「まさか、気づいてなかったの?」

 

「まだ本人も自覚無い感じだから基臣君の能力でも気づけなかったんじゃないかなー」

 

「まあ、そういうわけだから王竜星武祭が終わるぐらいまでは私達も返事を待ってあげる」

 

「……本当に助かる」

 

「そ・の・か・わ・り!」

 

 胸先三寸ほどの距離にまでミルシェは近づくと、上目遣いで基臣を見上げてくる。彼女の吐息が首元にかかり、くすぐったい気分になる。

 

「今まで通りに私達とも遊ぶこと! いくら鍛錬とかが忙しいって言っても一か月に一回ぐらいは遊べるでしょ」

 

「……あ、あぁ。分かった」

 

 ミルシェの様子に若干引きながら他の三人を見ると、全員の目つきが獰猛な猛獣のそれになっている事に気づき、体中に悪寒が走る。返事は待ってくれると言ったが、待ちきれずに暴走するのではないかと戦々恐々とせざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、帰ってきおったか」

 

「数か月いなくなって悪かったな」

 

「よいよい。おぬしの事は修行の旅に出たと言って誤魔化しておるから、大して騒ぎにもなっておらんしの」

 

 久方ぶりに帰ってきた弟子を座して出迎えた星露は、基臣を見て笑みをこぼす。

 

「どうやら、その顔を見るにお主の最大の問題点は解決できたようじゃな」

 

「問題点……というと、感情が無かったことか?」

 

「左様。今までのお主は言うなればただの人形みたいなものじゃった。だが、今のお主はまさしく人間そのもの。嬉しさも悲しさも他者と分かち合える、真の意味で強者たりえる資格を有しておる」

 

「強者……ね」

 

「それにしても、大きく成長したのぉ。以前とは大違いじゃ。今儂とやればいい勝負が出来るんじゃないかえ」

 

「どうだろうな。まだ五分五分とはいかないだろうが、数か月あれば星露が本気を出してもそれぐらいの勝負は出来るだろうな」

 

「カッカッ! それは益々楽しみになるわ! それだけ大口を叩くのじゃ、お主には毎日でも相手をしてもらうぞ」

 

「俺から頼みたいと思ってたことだ、もちろん相手になるさ」

 

 しばらくの間、星露と他愛も無い話をしていると、ふと、ある質問が思い浮かんだ。

 

「……なあ、星露」

 

「ん、なんじゃ」

 

「仮に今、お前がオーフェリアと戦った場合、勝率はどれくらいになるんだ?」

 

「……ふむ。まだ今の状態ならば儂の方が若干優勢と言ったところかの。じゃが、時間が経つにつれあやつの持つ力は更に強まってきておる。王竜星武祭で仮に戦ったとして、儂と五分五分といったところか……」

 

「なるほどな……」

 

「じゃが、お主なら王竜星武祭の時期になるまでには倒せるぐらいの実力を持ち得る可能性は大いにある。精進することじゃ」

 

「言われずとも精進する。俺のためにも、オーフェリアのためにも……」

 

「ふむ……」

 

「……なんだよ」

 

「やはり、いい顔をするようになったと思っての。……じゃが、女に好かれ過ぎる所はどうにかした方がええと思うがのぅ。沈華たちへの態度があやふやなままじゃと、いつか後ろから刺されるぞえ」

 

「……余計なお世話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、食堂で待ち合わせにするべきではなかったか」

 

 ここ最近星導館へと転入してきたユリスは、超有名人になっていた。リーゼルタニアの王女であり、星導館に来てすぐに《冒頭の十二人(ページ・ワン)》入り。そんな出来事があったとなれば、話題にならないという方がおかしいだろう。

 

 そのせいで、現在進行形で数多くの生徒から注目の視線を向けられてしまっている。話しかけられずに視線を向けられるだけなら以前から慣れてるのでまだいいが、サインや写真を求められることもあるので、それはもうストレスの溜まる生活を送っていた。

 

 とはいえ、そういう輩に激怒して追い返すわけにもいかず、うんざりとする気分を押し込めながらカレーを食べていた。

 

「……うん、美味しい」

 

 王族であるため、孤児院以外で大衆料理を食べる機会が無かったユリスにとって食堂のカレーは絶品だったのだろう。そんな訳で周りの視線をシャットアウトしてカレーを堪能していたユリスだったが──

 

「おい、ユリス」

 

「ひゃんっ!?」

 

 先ほどまでのむっとした顔がどこへやら、可愛らしい悲鳴を上げながら身体をビクッと震わせる。ゆっくりと後ろへ振り向くと、待ち合わせの約束をしていた基臣がそこにはいた。周りからの視線などをシャットアウトしたがために、ユリスは基臣の接近に気づくことが出来なかったのだ。

 

「ほ、誉崎……!? お、お前と言う奴は……っ!」

 

「……そんなに驚くことでも無いだろうに。事前にここに来ると連絡を入れていただろ」

 

 ユリスの怒りように若干呆れながら基臣は隣を座る。彼女も一瞬驚かされた怒りで手を出しそうになったが、別に彼は何も悪い事をしていない。驚くような事態になったのは自分の落ち度だ。コホンと一度咳き込んで心を落ち着かせると、凛とした表情で基臣に向き直る。

 

「久しぶりだな。前会ったのがゴールデンウィークだったから、大体一年ぶりといったところか」

 

「ああ。あれから一年か……私にとっては長いようで短い時間だったな」

 

 これまでの一年を回顧する。リーゼルタニアで沈華(シャンファ)に負けて以来、《魔女(ストレガ)》としての素養を高めることはもちろん、不安要素だった近接戦闘にも磨きをかけてきた。そのおかげで、星導館に入ってすぐに《冒頭の十二人(ページ・ワン)》にも力の差を見せつけて勝つことが出来た。

 

「見た感じ、ある程度は力を付けてはきたようだな」

 

「オーフェリアに話を聞かねばならないからな。今の私には、いくらあっても力があっても十分ということはないだろう」

 

「そうか」

 

「それで、オーフェリアは今どんな状況なのだ」

 

「今のオーフェリアだが……前よりも状態が悪化してるな。おそらくあいつの飼い主が、俺との接触を禁止したからっていうのもそれに拍車をかけてる」

 

「あいつの飼い主というのは、ディルク・エーベルヴァイン……《悪辣の王(タイラント)》か」

 

「あぁ、そうだ。どうやらそいつが俺を警戒してるようでな。会いづらくなってからもオーフェリアに接触をしたんだが、大分素っ気なくなって……と俺が言っても実感が湧かないだろうな。まあ見ないことには分からないだろうし、とりあえず昼食を食べたらあいつに会いに行くか」

 

「会いに……? でもどうやって」

 

「友人に人を見つけるのが得意な奴がいるからな」

 

「友人……?」

 

「そこらへんは後で追々言うから、とりあえず先に昼飯食うぞ。あまり長居しすぎると騒がれるからな」

 

「あ、あぁ」

 

 基臣の言われるままにユリスはカレーを急いで食べると、トレーを返却口に下げて、急ぎ足で星導館を後にした。

 

 

 

 

 

「それで、どうやってオーフェリアを探すのだ」

 

「それなんだが、っと早速来たな」

 

 基臣が端末を開くと、受け取ったメールの中からマップデータを表示する。

 

「これは……?」

 

「友人にオーフェリアを探知してもらったのをマップに表示した。移動されても困るし、さっそく行くぞ」

 

 基臣の案内されるままに星導館から出て、商業エリアの人通りが無い路地裏へと移動する。

 

「こんな所に来て何をするつもりだ?」

 

「まあ見ておけ」

 

 そう言って基臣が懐から印章を取り出すと、その印章は淡く輝きだした。

 

「なっ──」

 

 それと同時に、基臣とユリスを中心とした空間に縦横無尽に線が走り、空間が組み替えられていく。

 

 そして──

 

「着いたぞ」

 

「ここは……再開発エリアか?」

 

 ユリスの問いに基臣は黙ったまま首肯すると、ピューレをしまう。

 

「星露の星仙術を利用させてもらって空間転移をした。もちろん、この事は秘密にしろよ。他人にこの術を無断で見せたことがバレたら、あいつに後で怒られるからな」

 

「あ、あぁ……」

 

 規格外の現象に少し呆気にとられながら基臣の後をついていく。

 

 転移してからオーフェリアがいる場所までそこまで離れておらず、彼女を見つけたのは転移して数分の事だった。

 

「……っと、いたな」

 

 基臣の足が止まったのを見て、ユリスは彼の視線の先を見ると、そこにはオーフェリアが何かを持って寂しそうに佇んでいるのが見えた。

 

「枯れてもまだ捨てないなんて、そんなに俺が渡した花に愛着を持つようになったのか、オーフェリア」

 

 枯れ果てて原型を失ってしまった黄色い百合の花を見つめていたオーフェリアは基臣の方へと顔を向けると、ほんの僅かに顔を歪ませた。

 

「基臣……それにユリスも……」

 

「……オーフェリア、なんだな」

 

 久しぶりにあったオーフェリアの姿に顔を歪ませる。白い髪に真っ赤な双眸、昔とは似ても似つかないその姿はユリスにとって非常にショッキングなものであることに違いなかった。

 

「……それで、わざわざ私に何の用かしら」

 

「お前に話があってきた」

 

「……話?」

 

「お前の事についてだ」

 

「私の……? リーゼルタニアに帰ってこいと言いたいのかしら……? それなら──」

 

「そうではない! 別にお前が今更リーゼルタニアに戻ってこなかったとしても私としては特段問題にしていない。だがな……前の王竜星武祭の時のように、無暗に力を使うのはやめろ! 能力を使うたびに命を削っていることぐらい、当事者であるお前が分からないわけでもないだろう!?」

 

「……分かっているわ、そんなことぐらい。でも、私はこうやって運命に身を委ねるしかできない……。だから、放っておいて。あなたには関係ない事だから」

 

「関係ないだと……? この大馬鹿者め……っ!!」

 

 諦めの感情を撒き散らすオーフェリアに怒りを覚えるユリス。

 

「そこまで言うのなら、決闘で言う事を聞いてもらうぞ!」

 

 胸にある校章に手を当てると、決闘の申請をオーフェリアへと出そうとする。

 

 だが、その行動に待ったをかけるように基臣はユリスを手で制する。

 

「……いいのか? 言っておくが、間違いなく負けるぞ、お前」

 

「負けるからといって私はあいつの愚行を見逃すわけにはいかない。止めてくれるなよ」

 

 覚悟を秘めた瞳で訴えかけるユリスに、止めることは出来ないと悟ると基臣は大人しく引き下がる。

 

「……分かった。だが、無茶はするなよ。一歩間違えれば死ぬぞ」

 

「あぁ、分かっている」

 

 数歩前に歩み出て、オーフェリアと向かい合う。ユリスの決闘申請に対し、オーフェリアも素直にこれを受諾。一瞬にして、互いに一触即発の状態となった。

 

「やるからには全力を出させてもらうぞ! 手加減はしない!」

 

 自分の愛剣である細剣型の煌式武装《アスペラ・スピーナ》を取り出すと、それをオーフェリアへと向ける。

 

「咲き誇れ! 呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!」

 

 以前、リーゼルタニアで見た時よりも遥かに巨大な炎竜が姿を露わにする。そして、ユリスがコントロールして炎竜をオーフェリアへと飛翔させる。轟音を立てながら建物を巻き込んでいくその様にオーフェリアも少し驚きを覚えたような様子だった。

 

「思っていたよりも実力は備えているのね。だけど……」

 

 手を前にすっ、と差し出すと炎竜に無限に等しい星辰力(プラーナ)で真っ向から防御を行おうとする。そして、そのままオーフェリアに直撃すると、紅炎は地面を焦がすもののオーフェリアが身に纏う星辰力を削り切る事は出来ず数秒の内にかき消されてしまった。

 

「そんな程度では私の運命は覆すことは出来ないわ。……塵と化せ(クル・ヌ・ギア)

 

 オーフェリアの言葉と同時に、背後から巨大な一本の腕が姿を現す。その禍々しい異形の腕はユリスへと向かって不気味な動きを伴いながら襲い掛かる。

 

「──グッ!?」

 

 手を交差して瘴気の腕の直撃を防御するも、その勢いは削がれることはない。

 

「ガッ!? ……カハ……ッ!」

 

 まともに防御しきれず、ユリスは勢いよく飛ばされて地面を転がり倒れてしまった。防御と同時に、後ろへと回避するために受け身を取っていたおかげで直撃は避けれたが、それでも規格外の威力からか今にも気を失いそうになっている。

 

 いとも容易く防御を崩されたが、これでもユリスはよくやっている方だった。沈華との出会いが無ければ、オーフェリアの攻撃を直接受けてしまい、今以上にもっと悲惨になっていたことは想像がつく。

 

「オー……フェリア……ッ!」

 

「……だから、言ったのに。貴方の運命では私の運命を覆すことは出来ないのよ……」

 

 気絶して地面に伏したユリスを見て、オーフェリアは己の運命は変えられないのだと自嘲するように呟く。

 

「久しぶりにユリスと会ったというのに、随分と嫌そうだったな。そんなに今の自分の姿を見られるのが嫌だったのか」

 

「基臣……っ!?」

 

 オーフェリアの気づかぬうちにいつの間にか接近した基臣は彼女の手を握っていた。

 

「何を……?」

 

「…………」

 

 彼女の疑問に答えることなく、手を強く握るとオーフェリアと基臣、二人の周りが万能素(マナ)の煌めきに取り囲まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……研究室か」

 

 辺りを見回すと研究機材が一面に大量に配置され、行っている研究の規模が大きい事を伺わせる。

 

 基臣はオーフェリアの身体に接触することによって、彼女の過去の記憶を辿った。その代償として、痛覚なども全て共有されてしまうが、その点はそれほど問題ではない。

 

 施設の中、窓ガラスの中に薄茶色の綺麗な髪をした少女が、そこにはいた。何をされるのかが分からないからかそわそわと辺りを見回している。

 

「オーフェリア……なのか」

 

 とても今とは似ても似つかない、無垢な少女だった。こんな少女がさっきのオーフェリアのように変貌してしまうのかと驚く。

 

「きししししししししし! 照射角度や出力、ともに正常! 次こそは成功するはずです!」

 

 近くから声が聞こえたので、その声の主の方へと振り向くと、そこには中等部ぐらいだろうか、それぐらいの年の見た目をしたヒルダがいた。おそらく、オーフェリアを星脈世代にするための実験の主導者なのだろう。

 

「では、万能素加速器(マナコライダー)を稼働させましょうか! 楽しみですねぇ! きしししししししししし!」

 

 ヒルダの指示と共に機器に繋がれたオーフェリアは、万能素加速器から放出される光に晒される。

 

「──ッつ……!」

 

 近くにいる基臣は《魔術師》であるために、加速した万能素(マナ)によって発生する頭痛に思わず顔を(しか)めるが、その痛みもすぐ消失した。いつのまにか、基臣の精神は宇宙空間へと放り出されていたのだ。

 

「なんだ……ここは? さっきまで実験施設にいたはずだが……」

 

 肉体はなく、自分とオーフェリアの意識だけがそこにはある。

 

 その感覚に困惑する基臣。わけも分からず見下ろせば、青い惑星がそこにはあった。

 

「地球か……? それにしては随分と地形が変わっているが……」

 

 見下ろしている惑星が地球と、そう認識した瞬間に、何か巨大な存在が唐突にオーフェリアへと近づき、彼女の意識へと触れた。

 

「これ、は……っ!?」

 

 頭の中に流れ込んでくる情報の多さに思わず顔を(しか)める。基臣も過去にピューレの代償によって似た経験をしたことがあるため堪え切れたが、元は普通の生活を送っていたオーフェリアが受け止めるにはあまりにも莫大すぎる情報量。実際、その情報の多さのせいで彼女の精神は壊されて一度修復されている。その修復した存在が──

 

「ぅ……ぁ……。……神、か」

 

 こちら側の世界とはまた違う歴史を辿ったもう一つの世界。その世界に存在するのが神だった。神は基本的には惑星に住む人々を庇護するが、気まぐれに神罰としてその多くの人々の命を奪っていく。それを人々も運命として受け入れているのだ。

 

 そんな理不尽な存在によって、彼女が運命という存在を悟ったのはこの瞬間だったのだろう。圧倒的な力による無慈悲な制裁を弱きものは受け入れるしかないという運命を。

 

 

 

 だが、オーフェリアの苦難はそれだけでは終わらなかった。

 

『あああああああああああああああああああああああっ!』

 

「っ!?」

 

 それはオーフェリアが星脈世代に変えられる実験によって、運命を悟って少し経っての事だった。

 

 オーフェリアの悲痛な叫び声が部屋に響き渡り、鼓膜を激しく震わせる。それと同時に激しい痛みが基臣の身体を食い破らんとばかりに暴れまわった。

 

 痛みに顔を顰めながらもオーフェリアを見れば、拘束具によって彼女の身体は完全に固定され、星脈世代に変わっていく痛みに耐え続けていた。

 

 何度も、収まることの無い痛みを裡から与えられオーフェリアは壊れていく。正確に言えば、痛みに、ではない(うち)で日が経つごとに膨れ上がる圧倒的なまでの『力』によって壊れていくのだ。自分が自分でなくなる感覚が恐ろしいのだろう。

 

 そして、実験が終わってからのオーフェリアは完全に全てを放棄してしまっていた。彼女の中にあるのはただ一つ。自死の願いのみ。実験を行っていた研究所を破壊してから、ディルクにその所有権が移ってからもその根幹は変わらない。

 

 その痛々しい姿に基臣は酷く胸を痛まされた。物理的に、精神的に、対象の感覚を共有できる『第六感』の力があるからこそ、強く、深く共感できる。だからこそ、基臣はそんなオーフェリアを救いたいという気持ちが更に強くなっていく。

 

「オーフェリア…………」

 

 オーフェリアが星脈世代になってから、ディルク達が率いる金枝篇同盟の傘下に入って現在に至るまでの全ての彼女の記憶を見終えて、基臣は小さく嘆息する。彼女の破滅的な行動を取りたがる心理は元来の性格によるものであると最初は睨んでいたが、過酷な成り行きでこうなるべくしてなったのだという事を強く認識させられた。

 

 まるで救いが無い。自分にはいらない力を無理やり植え付けられ、その力のせいで万物から自身を否定される。平穏な日々を過ごしたかった少女にとって、その感覚はとてもつらい物だろう。

 

「…………? 基臣、どうしたの……」

 

 長い時間をかけてオーフェリアの過去を体感していたが、実際は時間にしてほんの数秒程。しかも、オーフェリア自身は何をされたか理解していない。

 

 その基臣に対して、いくら現状突き放した態度を取っているとはいえ、親しい人であるために攻撃できずに困惑しているオーフェリア。

 

「もとお────み?」

 

 そんな彼女を基臣は優しく抱きしめた。

 

「……つらかったな。欲しくも無い力を植え付けられて、その上誰からも拒絶されるなんて。ただ、普通の日常を過ごしたかっただけなのに」

 

「──っ!? どうしてそれを……」

 

「俺がお前を元に戻してやる。何年、何十年かけても」

 

 耳元で囁かれる優しく、そして温かい言葉。そんな身体を蕩けさせるような甘言にオーフェリアは思わず基臣の事を受け入れそうになる。

 

「だから──」

 

「……来ないで!」

 

 珍しく声を荒げ、これ以上の抱擁を拒んだオーフェリア。基臣をけん制しようと睨みつける。もうこれ以上、甘い言葉で惑わされないように。

 

「……どうして、そんな……表情(かお)をするの」

 

 だが、拒絶したオーフェリアに対して

 

 

 

 ──基臣は、哀れみの表情を浮かべていた。

 

 そんな表情にオーフェリアは困惑し、混乱する。なぜ、彼はこんなに面倒くさい私を見捨てないのだろうか。なぜ友人であるユリスを躊躇なく攻撃した私を軽蔑しないのだろうか、と。

 

「見捨ても、軽蔑もしない」

 

 ただ、ひたすらに目の前にいる基臣が怖かった。彼に心を読まれる事が酷く恐ろしいと感じた。自分はもう運命に従って生き続けるだけのつもりだったのに、そんな決意をいとも容易く打ち砕いて、心変わりさせられるのではないかと。

 

「…………っ」

 

 その恐怖に急かされ、オーフェリアは足早に逃げていった。もうこれ以上基臣の言葉を聞くと、決別していた過去の自分が掘り起こされる気がしたから。

 

「……図星、だったか。あの感じだと」

 

 そんなオーフェリアの様子に基臣はひとり呟いた。

 

 第六感は対象の心を読むだけではなく、精神状態、性格、記憶など、対象を根幹から支えている部分まで読み取ることができる。

 

 まるで人の心を丸裸にして、自分の物にするような感覚。これが能力の到達点といえる効力なのかと思うと末恐ろしい。悪用しようものなら、基臣の事を心酔させて疑似的に洗脳したりなど恐ろしい事にも転用できるだろう。そんな事は当然しないが、それだけこの能力は強力なのだ。

 

「第六感の能力に関してはひとまず置いておくとして……とりあえずは、これからするべき事はたくさんあるな」

 

 オーフェリアの過去を読み解く事で、間接的にだがディルクが所属する金枝篇同盟の目的も大体は理解した。金枝篇同盟はその目的のためにオーフェリアを都合の良い道具として使うつもりのようだった。

 

 彼らの指示によって、彼女は自らの内包する瘴気を以てアスタリスクにいる人間全員を殺すつもりでいる。しかも、いつでもその行動は実行できるという嫌なおまけつきだ。

 

 当然、そんな行動を起こそうものなら、行く着く先はオーフェリアの死という最悪な結果だ。

 

「そんなことは絶対にさせないがな」

 

 金枝篇同盟は潰す。そしてオーフェリアを救う。その過程でヴァルダや処刑刀も障害となるだろうが、問題ない。自分が一人残らず倒すだけだ。

 

「……だがまあ、その前にユリスを運ばないとな」

 

 気絶してしまったユリスをおぶると、基臣は風が吹き抜けたかのようにその場から一瞬にして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ユリス」

 

 温室の中で植木鉢に球根を植えているユリスに、オーフェリアは隣で花に水を与えながら話しかける。

 

「ん、なんだ?」

 

「ユリスってお姫様なんでしょう?」

 

「まあそうだな。……正直大して嬉しくも無い職位だが」

 

「それなら、きっとユリスはみんなに慕われる良いお姫様になれると思うわ」

 

「何を言い出すかと思えば……。姫といっても統合企業財体の傀儡だ。何の権利も権力も無い。民草のためになる施策は出来ない。そんな私が慕われるような良い姫になれるわけがないだろう」

 

「ふふっ……」

 

「……何もおかしい事は言ってないつもりだが」

 

「こんなにユリスが弱気だから、珍しいなと思って」

 

「む……」

 

 むくれるユリスに、慌ててオーフェリアは彼女の事を宥める。だが、それでも機嫌を直してくれないユリスに苦笑しながら花の世話を続ける。

 

「ねえ、ユリス」

 

「……なんだ?」

 

「さっき言ったいいお姫様になれるって言葉、冗談じゃないからね。私は信じてるわ」

 

「…………ふん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

「お、やっと起きたか」

 

「今のは夢……か。それに、ここ、は……」

 

 ユリスが起き上がるとそこは白で統一された清潔感のある部屋だった。気づけば、彼女の隣には椅子に座って基臣がこちらを見ている。

 

「治療院だよ。お前がオーフェリアに倒されたから俺がここまで運んできた」

 

「……そうか、私はあの時あいつから一撃をもらってそのまま……」

 

 基臣の言葉でオーフェリアに倒された事を思い出し、唇を嚙みしめる。彼女の事を止めたいという一心で決闘を挑んだはいいものの、結局まともに攻撃を当てることもままならずに決着という無様な結果に終わった事に悔しさが募る。

 

「すまない。お前に散々忠告されておきながら、このざまだ」

 

「あいつのためを思っての行動だ、俺がとやかく言う必要もないだろ。それよりも、お前が死ななくてよかったよ」

 

「……あぁ」

 

「それでだが……とりあえず今後の大体の方針を俺なりに決めた」

 

「方針?」

 

「どうせ、俺たちがこのまま無暗にあいつに会って、説得をしようとしたところで意味も無い。それなら、いっそのこと王竜星武祭(リンドブルス)まで必要最低限の接触で済ませる。まあ、方針と言った割には至極単純な物だが、結局のところ、王竜星武祭で負かせばあいつも少しは頭を冷やすだろうし、それが一番効果的だろう」

 

「じゃあ王竜星武祭(リンドブルス)で戦うのは……」

 

「そうだ、俺がやる」

 

「……私ではダメなのか」

 

「お前じゃダメだ」

 

「何故ダメなのかは……分かってはいるが、一応聞いておこうか」

 

「お前もさっきの決闘で理解しただろうが、実力があまりにも足りない。お前がオーフェリアに肉薄できる可能性があるとすれば……まあ最低でも3年は必要だな。さすがにそこまでは俺も待てないし、その間にあいつも自分の力のせいで消耗していく」

 

 基臣の言う通り、ユリスには明らかにオーフェリアを倒せるほどの実力は無い。今から王竜星武祭に向けて仕上げても今よりマシになるとはいえ、勝つことは叶わないだろう。

 

 それに加え、ユリスは何もオーフェリアのためだけにアスタリスクに来たわけでは無い。祖国の孤児院の資金難を星武祭で優勝して解消する目的もある。そのため、出場権を(いたずら)に消費しても意味はない。そういう点を考えると、基臣の提案は一番理に適っていると言えるだろう。

 

「お前の役割は王竜星武祭で倒した後のオーフェリアとの対話役だ」

 

「……それもお前がやればいいのではないか?」

 

「オーフェリアとの対話は俺よりも付き合いの長いお前だから出来る事だ。そんなに自分が無価値だと悲観的になるな」

 

「……分かった、オーフェリアの相手はお前に任せる。だから……」

 

 ユリスは基臣の手を掴むと祈るように握る。

 

「本当に、頼むぞ……?」

 

 口をキュッと結んで懇願するように見上げるユリスに基臣は強く頷いた。

 

「あぁ、任せろ」

 

 

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