学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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ようやく忙しい時期を超えた感じなので初投稿です。
これからはもう少し早いペースで執筆できると思います……たぶん(一応、長くても一か月以上は執筆期間は空けないようにはするつもりです)

あと、総合評価が4000ptを超えました。
ここまで見てくださってる読者の皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも学戦都市アスタリスクRTAをよろしくお願いします!


裏話32 葛藤

 アスタリスクの岸に停泊してある旅客船、その船の中にある部屋に入っていった基臣が見たものは、レヴォルフを運営している統合企業財体の幹部たちが集っている光景だった。老若男女、人種等様々な人間が揃っており、統合企業財体に貢献できるのならば前述の要素を気にしない──統合企業財体にとって不利益になる要素があると判断されているのか、星脈世代の中で未だに幹部になれた者はいないが──まさに実力主義を体現した面子である。

 

「統合企業財体の幹部方が勢ぞろいか。流石にここまで集まるとは想定してなかったな」

 

「早く席についてもらおうか。時間が惜しい」

 

 当然のことではあるが、統合企業財体の幹部は基本的に分単位でスケジュールが埋まっている。当然、こうやって幹部を全員集めるのは普通の人間であれば不可能だ。この光景はそれだけ統合企業財体は基臣の実力を買っているという証拠でもあった。

 

 促されるままに椅子に座り、幹部たちと向かい合う。無表情で値踏みしてくる幹部たちの姿に昔の自分があんな感じだったのだろうかと若干感傷に浸るが、すぐに思考を打ち切った。

 

「さて……我々を呼び出したのだから、それに値するだけの事情なのだろうな」

 

「もちろんだ、それに関しては損をさせないと保証しよう」

 

「ならいい、さっそく本題を」

 

「お前たち統合企業財体と交渉がしたい」

 

「交渉? ……その内容は」

 

「統合企業財体を潰そうとする組織についての情報を提供する代わりに、お前たちにはその組織の一人を処理してもらいたい」

 

 話す内容に流石に幹部たちも疑念を抱かざるを得ないのか、胡散臭いものを見るような目で基臣を見てくる。そんな視線を気にすることも無く基臣は

 

「統合企業財体を潰す組織……? とてもではないが信用するに値しない話だな」

 

「まあそうだろうな。……ほら、これが証拠だ」

 

 幹部たちの前に空間ディスプレイを表示すると、基臣がピューレの能力を通じて脳内記憶を映像化したものを再生する。その映像の中には三人が机を囲んで座っていた。その正体は──

 

「ディルク・エーベルヴァインにマディアス・メサ……」

 

「もう一人はヴァルダ・ヴァオスだ」

 

「ヴァルダ・ヴァオス……!」

 

 星導館が所有している純星煌式武装、星脈世代優勢思想の人間が起こした事で有名な翡翠の黄昏事件の真の首謀者として統合企業財体の中では名が通っている存在だった。

 

「こいつらについてだが…………金枝篇同盟、この言葉に多少なりとも聞き覚えはあるんじゃないか?」

 

「…………」

 

「まあ、お前らがその情報を知っているいないの詮索はするつもりはない。問題は、そいつらがこのアスタリスクを破壊する計画を立てている事についてだ。お前たちのとっておきの箱庭であるアスタリスクが破壊されるとなると、ソルネージュだけじゃなくどの統合企業財体にとっても間違いなく大打撃だろうな」

 

「アスタリスクを……? にわかには信じがたいが」

 

「まあそう急くな。詳しくはこの動画を見れば分かる」

 

 基臣が動画を再生すると、オーフェリアを利用することでアスタリスクを瘴気で汚染すること、そしてそれによって高まった反星脈世代感情を利用して対立を引き起こす事。最終的には星脈世代が上に立つ世界を作り出すこと。現状では、おおよそ夢物語としか言えないような計画がその場で話されていた。

 

「見ての通り、これが金枝篇同盟が計画している内容だ。成功するかどうかは別として、実行すればタダでは済まないことぐらいは理解できるだろ」

 

「……ふむ」

 

「言っておくが偽装の類はこの動画に施していない。この動画は渡しておくから、後でソルネージュの諜報部にでも確認させればいい」

 

 基臣の提示した情報に確信は持てないのか、幹部同士で賛否が別れているようで、議論が平行線のままになる。

 

 このままでは決着しないまま時間が過ぎていくだけと判断したのか、幹部の一人が後ろに控えていた青年に話を振った。

 

「……どう思う、《オッド・アイ》」

 

 話を振られた青年は基臣をじっと観察した後、動画の内容を再び確認して口を開いた。

 

「んーそうですね、……まあ嘘はついてないと思いますよ。悪意は感じられないですし、特に映像を見ても違和感はない。彼としても統合企業財体(こちら)を敵には回したくないので、あくまでWin-Winの関係を築きたい……って感じじゃないですかね。対価次第では彼の手に乗っても損は無いとは思いますよ」

 

「……なるほど」

 

 オッド・アイと呼ばれた男は余程信頼されているのか、幹部たちの間でも交渉に関しては徐々に賛成の方向性で意見がまとまったようだった。

 

「先ほど金枝篇同盟のメンバーの一人を始末してほしいと言っていたな。我々は誰を始末すればいい?」

 

「金枝篇同盟の一人、ディルク・エーベルヴァインを始末してもらいたい。対価は先ほどの情報だ。星導館の弱みを握るのに使うなり何なりしてくれて構わない。ただし、情報源が俺だという事を開示するな。後の細かい条件についてはこれに書いてある」

 

 紙の書類をポケットから取り出すと、幹部たちのいるテーブルに置く。その紙の中には、オーフェリアの処遇なども書かれており、幹部たちにとっても都合の良い内容だったため首肯する。

 

「それでは──」

 

「交渉成立だな。金枝篇同盟の情報についてはまた後日渡すから今日はこれで帰らせてもらおうか」

 

 交渉も終わり、基臣は席を立って部屋を後にしようと扉に手をかける。

 

「……あぁ、そうだった」

 

 

 

 

 

 

 

「──契約を違えることはしてくれるなよ。もし違えた場合、金枝篇同盟がどうこうするよりも先に俺がソルネージュを潰すと思え」

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 言いたい事を言い残すと扉を開けて出ていった基臣。その後ろ姿を見送った《オッド・アイ》は心中穏やかではない状態だった。

 

(……流石に王竜星武祭優勝候補と名高いだけのことはあるな。やり合えば、俺自身も間違いなく()()()死にかねないし、そもそも戦闘の余波でお偉いさん方が全員死んじまうからな……。それに上層部でも噂になってるあの剣……)

 

 上層部においても、基臣が所持している潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)は個人が所有している純星煌式武装として話題になっていた。

 

(まあ、極(まれ)にではあるが個人が純星煌式武装を所有しているケースはあるにはある。……だからそこは大して問題にはしていない。だが──)

 

 問題は基臣の持っている純星煌式武装の能力だった。映像から諜報部が得た情報によるとその能力はどんな能力も再現できる能力との事だが、その本質は──

 

「──どんな能力でも実質無効化できること、か。噂の第六感との相性もよさそうだし厄介だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統合企業財体との会談から数日ほど経ち、今後の方針も大方固まった基臣はひたすら星露と戦って力を付けていくことにしていた。

 

「準備はええかの?」

 

「ああ、いつでもオーケーだ」

 

「うむ、では始めようか」

 

 星露と基臣の二人は武闘場のステージの中心で向かい合う。ふと気になり星露の様子を見ると、ここ数週間やり合ってきて既に実力は伯仲している状態なだけにかなり楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「…………」

 

「…………」

 

 両者ともに黙ったままどう動いてくるのかの探り合いが繰り広げられる。数秒経ったその時、そんな沈黙を破って先手を取ったのは基臣の方だった。

 

「誉崎流皆伝、神依(かみより)

 

「むっ」

 

 初手から身体能力を向上させる技である神依を繰り出してきた基臣だが、その動きは以前までのそれとは明らかに違っていた。

 

「この前よりも更に速い……成長のスピードが桁違いじゃの……」

 

 今までは、神依を使っても身体能力のおよそ50%程度までしか力を巧く制御できていなかったが、今の基臣は神依によって身体能力の限界、100%最大まで引き出すことができ、普通の星脈世代を凌駕する動きを実現していた。

 

「フンッ!」

 

「おっと──急急如律令、(ちょく)!」

 

 星露が印を結ぶと、空間が歪み基臣の斬撃を明後日の方向へと反らしていた。

 

「危ない危ない……。もう少しで当たるところじゃったわ」

 

「嘘を、つけッ!!」

 

 攻撃を反らされても止まることなく緩急自在に星露に攻め立てる。

 

「……」

 

 だが、攻撃自体は当たりはするものの、致命打とまではいかない。星露の星仙術はピューレの能力で無効化しているが、無効化されたらされたで次の星仙術を披露される。長い年月を経て習得した星仙術の豊富さによって、基臣は決め手となるような攻撃にまで繋げることができないのが現状だった。

 

(攻撃が当たっても星仙術で回復されるようだと削り切れないな……)

 

 おそらく、長時間やり合えば先に星露の星仙術のレパートリーが尽きて僅差で勝つことは出来るだろう。だが、対オーフェリア戦の事を考えると、勝つのなら真っ向から完璧に打ち負かしたい。

 

(やはり、星露相手となると極伝を使わなければいけないか)

 

 極伝は未だに不確定要素の塊で、成功率も半々といった所だった。極伝を使うのを躊躇する基臣を見て星露は鼓舞するように 叱責する。

 

「ぬしの力はそんなものか! 内に秘める闘争心をもっと開放して見せい!」

 

「闘争心……」

 

「ぬしは何のために剣を振るう、何のために力をつける!」

 

「…………!」

 

「…………お」

 

 星露の言葉に反応すると、基臣が身に纏っている星辰力が先ほどと違い激しく揺れ動いていた。鬼気を上手く御する達人の視点からすればその星辰力は不格好も不格好。だが、時間が経つごとにその不細工な星辰力は綺麗に形を成していき、先ほどの星辰力とは段違いの質になっていた。

 

「どうやらさっきよりもマシな面になったようじゃの」

 

「ふぅぅ……っ」

 

 持っている煌式武装を正面に構え、一つ深呼吸をする。

 

(あの時を思い出せ……)

 

 シルヴィアが一度死んだときの事を回顧する。あの時に心の底から湧いてきた飽くこと無き力への渇望、それを引きずり出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誉崎流極伝、玉響(たまゆら)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、世界は、そして世界の支配下にある万物は動きを緩やかにしていき、そのまま静止した。

 

「…………」

 

 何人(なんびと)たりとも静止したこの世界の中で動くことはできない。

 

 

 

 ──ただ一人を除いて

 

 身体能力と精神を極限まで飛躍させることによって発生する時間が極限まで引き延ばされた空間。その空間の中では適応できる人間以外はどんな強者であろうとも全員時が止まったように停止する。それが誉崎流の秘奥たる極伝の正体だった。

 

 基臣自身もまだ技に慣れていないからか、この世界の中では素早く動けずにいるが、それでも完全に止まっている星露に攻撃を当てるのは容易い。ゆっくりと彼女へと近づき、そのまま剣を振り下ろす──

 

「──っ!?」

 

 ──とまではいかなかった。まだ極伝の制御が甘いのか、攻撃が命中する直前で世界が元に戻り星露が動き始める。

 

「チィ……ッ!」

 

「く、くくく……ッ!」

 

 基臣の攻撃を受け止めた星露はその容姿に見合わない不気味な笑みを零した。

 

「これ……これじゃっ!! この感覚、長年ずっと待ちかねておったわ!!」

 

 極伝に歓喜に打ち震え、キラキラと目を輝かせる星露。だが、極伝は身体に負担がかかるのか、星露の様子に気を配るほど基臣は余裕が無い状態だった。

 

「ちっ……」

 

(あの時は身体の負担を完全に無視して、力を無理やり引き出したから無制限に極伝を使うことが出来たが、現状はまだ一回使うごとに持って十秒といったところか。しかも、発動してる最中は身体が何十倍も重い……)

 

「いいぞ! いいぞっ! もっと儂に力を見せてみよッ!」

 

 今までに見たことの無い興奮度合いで向かってくる星露に、基臣も珍しく感情が高ぶり吠える。

 

「星露ゥゥゥウウ!!」

 

「基臣ィィィイイ!!」

 

 今までの自分とは明らかに違う感覚、全能感。それが己の身体の秘めたる能力を引き出していく。

 

「誉崎流極伝──っ!」

 

 だが、基臣も高揚していく感情に身を任せているせいで、自身が持つ煌式武装がミシリと音を立てていることに気が付かなかった。

 

玉響(たまゆら)!」

 

 再び誉崎流極伝を発動する基臣。二度目の玉響の使用である程度感覚を掴めたのか今度は慣れたように星露へと近づき、煌式武装を振り下ろし──

 

 

 

 ──バキィィッ! 

 

 

 

 二度目の静止した時間の中で星露に攻撃しようとした瞬間、真っ二つに煌式武装が破損した。猛烈なスピードで飛んでいく煌式武装の破片が、とんでもない轟音を立てて入り口の扉にぶつかったのだった。

 

「「あ」」

 

 その様子に二人は思わず声を漏らすと動きを止め、壊れた煌式武装に目を向ける。試合続行不能な状態である煌式武装を見て星露はため息を吐いた。

 

「……まったく、丁度楽しくなってきたところだったんじゃがのぉ」

 

「すまん」

 

「まあ、お主の武器がその状態じゃと鍛錬だの言っておられんじゃろう。どれ、見せてみい」

 

 破損した欠片を回収し星露に手渡すと、破損状態を詳しく確かめ始める。

 

「ふむふむ。……煌式武装に関しては儂にとって畑違いの分野じゃから詳しい事は言えんが、まあ見ただけでもお主の加速によって発生する負荷についていけんという事ぐらいは分かるわい。とんでもない速度で動くわけじゃから当然と言えば当然ではあるが」

 

「となると、この煌式武装は使い物にならないか」

 

「そうじゃの、そこまで来ると純星煌式武装(オーガルクス)クラスでなければ耐えられん可能性がある。といっても、お主にはすでに潔白の純剣があることじゃし二本目の純星煌式武装を、とはいかんがの」

 

 星露の言うように、ピューレが二本目の純星煌式武装は持つなと何度も何度も言われてきているので基臣としても煌式武装を使うしかない。それに加え──

 

「──ぅ……ッ!?」

 

「っと、さすがに体力を消耗しとるか」

 

 フラフラとしながら倒れかけた基臣を支えると、近くにあった長椅子に腰かけさせる。意識が一瞬明滅して飛びかけたせいで、基臣自身でも何が起きたのか理解できていないようだった。

 

「何、が……」

 

「ぬしの使っている極伝は精神と肉体を極度に消耗させる。技を我が物にすればその消耗もまだマシになるじゃろうが、今はせいぜい2,3回使えるのが関の山じゃろうて」

 

「なるほど、な」

 

「まあでも、技の完成度自体は悪い物じゃなかったわい。この儂でもぬしが接近するのに気づけなかったぐらいじゃからのぉ。昔一度だけ手合わせしたあやつを彷彿とさせるような技じゃったわ」

 

 極伝が作り出す世界に耐えうる煌式武装に、繰り出した際の体力・気力の消耗。解決すべき課題はまだまだあるが、オーフェリアに勝つ可能性が十分に見え始めてきたことにホッとする。

 

「……とりあえず煌式武装に関しては、あいつに相談するしかないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──というわけなんだが」

 

「えー、あたしたちが作った煌式武装壊しちゃったのー?」

 

「本当にすまん」

 

 ところ変わって、基臣は煌式武装が破損した件について相談するためエルネスタの私室へと訪れていた。たった先ほどまでエルネスタの娘同然の存在であるレナティが一緒にいたのだが、エルネスタが来てから小難しい話になった段階でつまんなくなったのか部屋を出て行ってしまった。

 

 煌式武装を破壊した事を申し訳なく思っているのか、丁寧に腰を曲げて謝罪する基臣にエルネスタは手を横に振る。

 

「いいっていいってー、別に怒ってないし。むしろよく壊せたね。結構耐久性高めの設計にしたつもりだったんだけど」

 

「それについてだが……先に動画で見てもらうか。ほら、これだ」

 

「へー、どれどれー」

 

 基臣から送られた動画を確認する。もちろん、対戦相手であった星露の許可も貰っている。

 

「ふむふむ……」

 

 だが、撮影してある動画では基臣たちの動きが断片的にしか見えず、まともに戦闘状況を理解するのは難しいだろう。エルネスタも同じ星脈世代ではあるが、彼女は別に鍛えているわけでは無い。基臣たちの動きを追う事は難しいだろう。なので後で基臣から解説を入れようと思っていたが──

 

「これって基臣君自身が身体能力を極限まで強化してる感じなの? この前の獅鷲星武祭の時の技とは別物だとは思うけど……」

 

「よく分かったな」

 

 戦闘に関してはずぶの素人であるにも関わらず、基臣の動きをある程度理解できていた。

 

「まあなんとなくそんな感じなのかなって思ってねー。瞬間移動の線も考えたけど、瞬間移動系の《魔術師》が煌式武装を携帯して能力を発揮した際のデータがうちにあったからそういう現象は起きないって結論が出てるしね」

 

「流石にアルルカントでトップを張っているだけの事はあるな」

 

「えへへー、それほどでもあるけどねー」

 

 動画を見終えると、少し納得のいったような表情をしながらベッドの上で黙りこくったまま思案に浸り始める。その様子を見守っていると、しばらくしてエルネスタが口を開いた。

 

「見た感じ基臣君の剣の振りの早さだと煌式武装の方が先に自損しちゃうから、もっと耐久性が無いとまたその動画みたいに派手にぶっ壊れちゃうし、丁度良い機会だから王竜星武祭用に新調しちゃおうか」

 

「いいのか、わざわざ新しく作ってもらって」

 

「本当なら面倒だしやりたくないんだけど。惚れた弱みってやつなのかな、むしろ喜んでって感じ? にゃはは~」

 

「…………っ」

 

 照れくさそうにしながら頬を掻くエルネスタに、彼女の恋心を利用している気がして申し訳ない気分になる基臣。その様子に気づいたのかエルネスタは苦笑する。

 

「別に気にしないでいいからねー、あたしがやりたいと思ってやってる事なんだから」

 

「……そうか。なら、何かしてほしい事とかあるか? さすがに貰うだけだと申し訳が立たないからな」

 

「ん~、それじゃあ……」

 

 エルネスタは手を前に大きく広げると、基臣へ身体を向けた。

 

「ギュッてしてもらおっかなー」

 

「……はぁ、仕方ないな。ほら、来い」

 

「ではでは~」

 

 エルネスタは猫のように身体を擦り付けてくると、嬉しそうにふみゅー、と声を漏らす。前まではこんな事をして何がいいのかと思っていたが、受け入れている基臣からしても存外悪くないなという気持ちになる。

 

 

 

 

 

 ――だが、エルネスタを抱くこと数十分

 

「…………なぁ」

 

 さすがに同じ姿勢のままいるのも疲れてきたこともあって肩を叩いて離してもらうようにお願いする。

 

「そろそろ離れてくれないか」

 

「んー、だーめー」

 

「やれやれ……」

 

 普段の姿からは想像できない甘えっぷりに、人は見かけでは判断できないという事を感じながら彼女の背中を優しく(さす)る。その手つきが気持ちがいいのか、鈴を転がすような声を微かに上げながらエルネスタは受け入れる。

 

「ねえねえ」

 

「ん?」

 

「最近、胸がまた一段と大きくなっちゃってさー。直接当たった感触はどうですかな?」

 

「…………はぁ」

 

 成長期になったことで、更に豊満になった胸を押し付けてくるエルネスタだが、本当は恥ずかしがっている事が第六感で見え透いている。大方、シルヴィア達を出し抜いて基臣を誘惑しようという思惑があっての言動なのだろう。答えは先送りにしているが、別に基臣にアピールしてはいけないというルールはない。

 

 そんなエルネスタにため息をつきながら、頭に軽くチョップを食らわせる。

 

「いてっ!?」

 

「恥ずかしがるくらいならそんな事をするな。10年後、20年後に黒歴史になっても知らないぞ?」

 

「……っ、もぉー! 第六感であたしの考えてる事丸裸なんて卑怯ー!」

 

 ポコポコと胸を叩くエルネスタに、やれやれと思いながらそれを受け入れる基臣。だが、それが気に入らなかったのか彼女は膨れっ面で顔を近づけてくる。

 

「今後第六感を使うのは禁止!」

 

「使うも何もお前が変な事をしなければいいだけだろうに」

 

「それだと基臣君をいじり倒せないじゃん!」

 

「いじり倒すって……」

 

 ぶーぶー、と頬を膨らまして不満気にするエルネスタに苦笑しながら頭に手を置く。

 

「そういう風にしてる分には愛玩動物的な可愛らしさがあるんだがな」

 

「むぅぅ」

 

 いいように揶揄われるのが嫌なのかエルネスタはギュッと再び強く抱きしめてくる。基臣に見せないように抱き着いて顔を隠しているが、流れてくる感情からその顔はきっと真っ赤になっていることだろう。

 

「まったく……」

 

 そんな可愛らしいエルネスタの姿を愛おしく思いながら基臣も彼女を強く抱き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ──俺がお前を元に戻してやる。何年、何十年かけても

 

(……っ)

 

 何度振り払っても、基臣の言葉が頭の中ににへばりつく。

 

 何故彼は自分にここまで構ってくるのだろうか。たかが偶然出会った人間、たかが知人。特に、自分が世間から見て面倒くさい性格をしている事を理解しているだけに未だに彼の行動原理は何なのかが理解できない。

 

 でも、そんな彼の言葉が嬉しかったと思えたのもまた事実だった。

 

「素直に彼の手に掴まればどれだけよかったのかしらね……」

 

 常に間違った選択をする事しかできない自分に自嘲する。けれど、もうそんなことはどうでもいい。もう少しだけ生きてさえいれば、惨めたらしく()()ことができるのだから。

 

 そんな中、唐突に端末が鳴りオーフェリアの意識が現実に引き戻される。誰かと思って空間ウィンドウを見ると、表示されてる相手は自分の飼い主であるディルクだった。電話に出ると画面越しでいかにも不機嫌な顔で睨みつけてくる。

 

『……おい、何してやがる。約束の時間はもう過ぎてるだろうが、さっさと来いノロマが』

 

 電話の相手であるディルクの馬鹿にするような物言いを聞いて時間を見ると、彼が指定していた集合の時間はとっくに過ぎていた。

 

「…………ええ、分かったわ」

 

 ディルクの小言を聞き流して電話を切ったオーフェリアは手早く準備を済ませる。部屋に飾られているもう枯れてしまった花を一瞥すると、感傷を打ち切るように部屋を出る。

 

 部屋を出て指定された場所へ向かうと、既に車の中にいたディルクが早く乗るように促すので、素直に車内へと乗り込む。

 

 車で移動している途中、何やらディルクがオーフェリアに今回の仕事についての話をしているようだが、そんな言葉は彼女の耳をすり抜けて頭の中に入らない。こうなったのも全部彼のせいだといらつきを基臣へと向ける。

 

 会うたびに心を揺り動かされ、助けを求めてしまいたくなる何かが基臣にはあった。でも、もう会わないとオーフェリアは決意したのだ。

 

「だって……これは運命が決めたことなのだから」

 

 今のオーフェリアにとって運命という存在が唯一の生きる指針であり、絶対順守すべき存在。結論から言ってしまえば現実逃避するための都合の良い道具なのだ。

 

「おい、行くぞ」

 

 ディルクに声を掛けられ車から出たオーフェリアは彼の後をついていく。裏の仕事のため、人通りの無い道を歩いていると、前に人影が一つポツリと立っていた。

 

「あぁ……?」

 

 目の前の立ち塞がる人影にディルクは苛立たし気に視線を向ける。その正体は、オーフェリアのよく知る人物で──

 

「……てめぇは」

 

「半年ぶりくらいだな、オーフェリア」

 

 ──今、一番会いたくない人だった

 

「……っ、基臣……!」

 

「てめぇが噂の誉崎基臣か。いきなり俺の前に現れて何の用だ」

 

「お前に用はない。おい、オーフェリア」

 

 ディルクの隣を通り抜けオーフェリアに近づくと、彼女は基臣の接近に怯えるかのように一歩足を後ろへと動かす。

 

「一つ、王竜星武祭が始まる前に聞いておきたいことがある」

 

「…………っ」

 

「オーフェリア、無視しろ」

 

「俺と最初に会った時に比べて、随分と自分を押し殺してるみたいだが……」

 

「おい、オーフェリア──」

 

 ディルクの言葉を遮るように基臣はオーフェリアの肩に触れる。彼女の気が動転しているからなのか、肩に触れている手はコントロールが乱れてしまっている瘴気によって浸食されていく。しかし、そんなことも気にせず基臣は彼女の耳元で囁く。

 

「自分の命を犠牲にしてこのアスタリスクを破壊する。それは、本当にお前が望んだ選択なのか? 自分が楽になる方法を見つけたから、ただ目の前の現実から逃げてるだけじゃないのか」

 

「違う……っ! 私は逃げてなんて……」

 

「なら何故こいつの言う事をそっくりそのまま聞いているんだ。どう考えても思考停止しかしていないだろ」

 

「私は運命に従ってるだけで──」

 

「…………チッ。おいオーフェリア。こいつを叩きのめせ、邪魔にしかならねえ」

 

「……え?」

 

「てめぇも鬱陶しく思ってるだろうが、やれ」

 

「でも──」

 

 

 

 

 

「──やれ。それがてめぇの運命だ」

 

 

 

 

 

「……運命。そう、運命……。それが私の運命……なのだから」

 

 自分に言い聞かせるように何度も運命運命と繰り返し言葉を発する。そして、オーフェリアはディルクの指示に従い、彼女の身に纏う瘴気が基臣を害そうとする。

 

「……やはりダメか」

 

 身体に絡んでこようとするオーフェリアの瘴気を、そのまま抵抗することなく受け止める。星辰力の質が良くなったとはいえ、その程度で瘴気を防げるわけもなく、全身の皮膚が呪詛に(かか)ったかのように血色の悪いものになる。

 

「なんで…………!」

 

 眉一つ動かさず瘴気を受け入れる基臣に、これ以上傷つく姿が見たくないのか、オーフェリアは無意識に彼の身体を突き飛ばす。

 

「っと……どうした、いきなり突き飛ばして。俺を殺さないのか?」

 

 突き飛ばされた基臣はゆっくりと立ち上がると、再びオーフェリアに問いかける。見かけ上は平然としているが、瘴気に身を侵されようものなら、意識を失ってもおかしくない程の激痛が奔る。そのはずなのに、なぜ彼が正気を保っていられるのかが分からない。ゆえに、彼の姿はとても恐ろしいものに見えた。

 

「……どうして、どうして……っ!」

 

「そうやってお前は人を傷つける事さえ自分で決める事を放棄するのか? 嫌なことから逃げ続けるのか?」

 

「っ……!! 違う……私は……私は……っ!」

 

 基臣が質問をするたびにオーフェリアの様子はおかしくなっていき、ついにはその無表情だった顔が今にも泣きそうになっていた。

 

「おいてめぇ……。何をしやがった」

 

「俺が何かをしたわけじゃない。お前がオーフェリアを現実逃避するように惑わし続けてきたから、その現実と今まで向き合ってこなかったツケが回ってきた、それだけだ」

 

「てめぇ……」

 

「俺はお前を絶対に許さない。人の不幸を食らい続けるお前を、お前の人生を」

 

 殺気を混ぜて睨みつけても基臣に臆することなく、ディルクはオーフェリアに近づく。

 

「覚悟しておけよ。お前は確実に裁かれる。己の為した業が故にな」

 

「…………ちっ。おい、行くぞオーフェリア」

 

「……っ! …………ええ」

 

 基臣の横を通り抜け、街中へと消えていくオーフェリア達の後ろ姿を見送ると、ピューレの能力で瘴気によるダメージを治癒させる。最初から攻撃を受ける事は想定していたため、最小限のダメージになるように保険をかけておいたことが功を奏したのか、すぐに完治した。

 

「ディルク・エーベルヴァイン……、非星脈世代なのに中々に肝が据わっていたな」

 

 オーフェリアの記憶からもある程度ディルクの事を知ってはいたが、実際に相対してみるとその異質さがよく分かる。あの目は自分が勝つことを望んでいない。相手が負ける事だけに心血を注いでいる異質な目だった。

 

 まともにやり合おうものなら、こちらにも少なくない痛手を負う事は間違いないだろう。

 

「ソルネージュが直々に処分するからあいつを相手にしなくていいのは助かったな。……さてと」

 

 端末を開くと、ある連絡先へと電話をかける。

 

「……ああ、王竜星武祭が始まる前に一つ頼みたいことがあるんだが──」

 

 

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