学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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アスタリスク最終巻が来月発売らしいので初投稿です。


裏話33 王竜星武祭・本戦

 王竜星武祭(リンドブルス)まであと1か月。

 

 星武祭(フェスタ)最後の締めくくりとなる大会に位置づけられる本大会は、1対1のタイマン勝負という事もあって、特に実力が高い者たちが集まってくる。そうして強者達が集う王竜星武祭では、数ある星武祭の歴史の中でも、ベストバウトと呼ばれる熱い試合が数多く作り出されてきた。そうした背景を受けて、当然、熱い試合を期待している観客の注目度も高く、毎回多くの観客がアスタリスクへと押し寄せてくる。

 

 また、一人で大会に申請出来るというハードルの低さもあってか、参加する生徒も非常に多く、ある程度選別する必要があるため各学園の生徒会はこの時期は特に忙しくなる。

 

 そんなわけで王竜星武祭に向けて忙しそうにするガラードワースの生徒会一員の様子を、鍛錬のついでに生徒会室に寄っていた基臣は来客用のソファに座りながら眺めていた。

 

「随分と忙しいようだな、アーネスト」

 

「まあね。もうすぐ王竜星武祭ということもあって、出場者の参加手続きの管理をしないといけないからね」

 

「なるほどな、どうりでいつもは適当に仕事をこなしているケヴィンが忙しいわけだ」

 

「ちょっとちょっと、オレに対するイメージ、ちょっと酷すぎないかい」

 

「基臣の言う通りだろう。お前は普段が自堕落すぎる。少しは職務を真面目に全うする事だ」

 

「そうですわよ、ケヴィン。一番書類が溜まっているのは貴方なのですから」

 

「うぐ……。はいはい、分かりましたよ」

 

 図星を突かれたのか、ケヴィンは仕方ないなと言わんばかりの表情をしながら、真面目に書類作業に取り組み始める。普段は真面目とは言えない軽薄な性格をしているとはいえ、元々要領はいいタイプなのだろう。与えられた書類を他のメンバーよりも速いペースで捌いていく。

 

「君も出場するんだろう? どうだい、自信のほどは」

 

「まあ、ぼちぼち……といったところだな」

 

「なぁにがぼちぼち、ですの! 王竜星武祭であなたみたいなのが何人もいたら、たまったものじゃありませんわ! 今季のガラードワースは、あなた方界龍(ジェロン)が鳳凰星武祭と獅鷲星武祭を連覇したせいで1位を逃したんですのよ!」

 

「まあまあ落ち着いて。基臣が言ってることも分からなくはない。なにしろ、王竜星武祭にはオーフェリア嬢がいるからね。準備してもし足りないというのが本音だろう」

 

「そんなところだ」

 

 フン、とそっぽを向くレティシアに苦笑するアーネスト。今までほとんど黙ったままでいたライオネルも何か思うところがあったのか、基臣の印象を語る。

 

「それにしても、よくガラードワースの規律を破ることなく馴染めたものだ。お前の実力は散々理解させられたからそこに関して大して驚くことは無かったから、俺としてはそれの方が驚きだ」

 

「俺としても変な騒ぎを起こして除籍処分になりたくないからな。しかも、規律に厳しいガラードワースときたら尚更だ」

 

「そうだよねー、うちのレオみたいなのに目をつけられたら面倒だし」

 

「……それはどういう意味だ」

 

「おおっと、そんなに怒らないでくれよ。君と同じく率直な意見を言ったまでさ」

 

「はいはいそこまでですの。喧嘩をしている暇があるなら書類作業に集中なさい」

 

 口喧嘩になりかけるケヴィンとライオネルの二人をレティシアが抑え、それをアーネストが微笑を浮かべながら見守る。堅いイメージを思わせるガラードワースの生徒会だが、こうした学生らしさを感じさせる光景は界龍と一緒なのだと思わず笑いが零れる。

 

「お、基臣が笑うなんて随分珍しいじゃん」

 

界龍(うち)の生徒会と大して変わらないやりとりをしてるな、と思ってな。最初は堅苦しいイメージがあったからな」

 

「はは……まあ確かにガラードワースの生徒会という事もあって、外部からは堅苦しいイメージを持たれてはいるけど、実際はこんなものだよ。自分で言うのもなんだけれど学生の身だし、適度なガス抜きは必要さ」

 

「それもそうだな」

 

 その後も、仕事の邪魔をしない程度に他愛も無い話題について談笑をしていると、いつの間にか時間も経ち夕方になっていた。

 

「さて……そろそろ俺も帰るとするか」

 

「おや、もうそんな時間か。門まで見送ろうかい?」

 

「いや、そこまで世話になるわけにはいかない。一人で帰らせてもらうさ」

 

 ソファを立ち、帰ろうとする基臣に書類作業の手を止めたライオネルが声をかける。

 

「……誉崎」

 

「ん?」

 

「本来なら敵同士ではあるが、これでも1年弱共に過ごした仲だ……。今度の王竜星武祭、幸運を祈る」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「素直じゃないねぇレオも。ま、頑張りなよ。当代最強の剣士さん」

 

「むず痒くなるからその呼び名は止めてくれ」

 

「ははっ」

 

 それぞれから激励を受け、生徒会室のドアを開けた基臣。

 

「それじゃあ、世話になったな。……コソコソ隠れて今まで俺を監視してたスパイさん方にもそう伝えてくれ」

 

 皮肉まじりな口ぶりでアーネスト達にそう告げると、基臣は生徒会室を出て行った。

 

「……ハァ。化け物じゃないかな、彼? 最初から何もかもお見通しだったのかねぇ」

 

 ケヴィンが降参のポーズを取って椅子にずっしりともたれ掛かると、緊張の糸が解けたように息を吐く。その様子にアーネストも苦笑いしながら、基臣の出ていった扉を流し見た。

 

「話半分ではあるけれど、人工衛星から彼の事を監視しようとして逆に睨みつけられたっていう噂があるぐらいだからね。いかに至聖公会議(シノドミアス)の実働部隊といえども、彼の察知能力の範囲外から観察するなんて真似は出来ないさ」

 

「まったく……。変に虎の尾でも踏んで、基臣が報復にでも来ないか心配ですわね」

 

「まあ、余程の事でもない限りは大丈夫なはずだよ。それこそ、彼と懇意にしている人間を害したりでもしない限りはね」

 

「あぁもう……! 私はもうあんなのを相手にするのはごめんですわ」

 

「そう言いながらも、レティもアーニィが忙しい時はなんだかんだで、基臣の世話を焼いていたじゃないか。素直じゃないねぇ」

 

「特例で基臣をうちに入れてはいますけど、事実上の外部生を一人で歩かせるのは外聞的にも色々と困りますの! あなたはもう少し危機感を持ちなさいケヴィン!」

 

「はいはい」

 

「それにあなたはですわね──」

 

 二人の喧騒を背に、アーネストは仕事の手を一旦止めて生徒会室にある窓から外を見る。

 

「戦いに絶対は無いけれど、今回の王竜星武祭。星武祭が始まって以来、二度目のグランドスラム達成の瞬間をこの目に出来るかもしれないね」

 

 アーネストは少し口角を上げて微笑むと、窓の外で歩いている基臣を見つめて楽しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラードワースでの生徒会とのやり取りから1か月。

 

 王竜星武祭ももうすぐ始まるため、基臣を始め、シルヴィアやエルネスタ。それに、参加をしないものの、観戦しに来たミルシェが待合室で待機していた、のだが──

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 誰も喋らずけん制するようにお互いに目線を送るだけで、沈黙が居心地の悪い空間を作り出す。

 

「はぁ……、お前ら喧嘩するんなら外でやってくれ」

 

「喧嘩なんてしてないよ、ね?」

 

「そーそー」

 

「そうだよ、基臣の勘違いだってば」

 

「……はぁ、まあいいか」

 

 本人らは否定しているが、誰がどう見ても一触即発状態だ。とはいえ、これ以上藪をつつくような真似をして、彼女たちを刺激するのもよくないと判断し、場の雰囲気を変えるため話題を基臣から振る。

 

「で、今回参加しないミルシェはともかく、シルヴィとエルネスタはいいのか。予選とはいえ、準備ぐらいはした方がいいだろうに」

 

「もう準備は出来てるからねー。それに、基臣くんの傍にいた方がメンタルも安定するし」

 

 さっきまでメンタルが安定するとは対極にある修羅場を作り出していたくせに……と内心思った基臣だったが、その心を見透かしたかのようににっこりと笑うシルヴィアに黙っているしかない。完全に尻に敷かれている基臣に、エルネスタもその様子を見てクスクスと笑う。

 

「あたしの場合は実際に戦うのはレナだしねぇ。メンテナンスは前日に済ませてるし、ある程度の調整は今朝済ませてきたから、問題ないかな」

 

「そうか」

 

「そういうわけで、あたしは疲れたので剣士くんのお膝元でぐっすりと仮眠でも取りましょうかねー」

 

「じゃああたしは腕をもーらい」

 

「あ、ずるいよ二人とも!」

 

「はぁー、勝手にしろ……」

 

 美少女3人が自分の事を好いて身を寄せてくる。世間一般から見れば、羨ましい限りな状況なのかもしれないが、当事者になってその大変さをよく理解させられる。出来る事なら、今ここにいない沈華も含めて全員仲良くやってほしいのだが、そうはいかないのが恋愛の難しい所なのだろう。

 

 ピリピリした雰囲気にはなるものの、別に嫌悪し合っているわけでは無く、一種の揶揄(からか)い合い的な側面があるから余計に口出しがしづらい、と基臣は頭を悩ませていた。

 

 こうして基臣は、操り人形のように彼女たちのなすがままにされながら、死んだ魚のような目で開会の時を待つことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、あっという間に開会式も終わり、予選も難なく突破した基臣は、本戦最初の相手であるネイトフェイルと戦う事になった。予選で圧勝している事で、基臣に勝てないまでもいい勝負にはなるのではないか、というのが観客の予想だったが──

 

『なんとなんとー! ネイトフェイル選手! 予選までの勢いはどうした事か! 誉崎選手の動きに翻弄されています!』

 

「くっ……」

 

 基臣に攻撃を当てるどころか、その姿をまともに視界に納める事すらできず、視認する頃には残像が残るだけである。

 

 まともに相対しては勝ち目が無いと踏んだネイトフェイルは、自分の持ち味である踊りを駆使して、基臣を嵌めようとするが──

 

「……なっ!?」

 

 踊ろうと動き出す瞬間、ネイトフェイルの身体がカラクリ人形のようにピシリと止まる。自分の身に何が起こっているのか訳が分からず、一瞬動揺が顔に現れてしまう。

 

 しかし、一瞬だけ見えない何かに拘束されていたその身体は、コンマ数秒程度で再び動かせるようになる。何が起こったか理解できないネイトフェイルは、先ほどの状況と今まで見た基臣の映像を照らし合わせて回想する。

 

(誉崎基臣の能力は映像を見た限りでは、未来予測ないしは相手の行動を読む程度の能力……。純星煌式武装の方も透明化のはずだから、私の行動を制限するほどの能力があるはずは……いや待て。…………まさか!)

 

「純星煌式武装の能力か……!」

 

 コンマ数秒程度とはいえ、触れてもいない相手をこんな芸当が出来るのは、規格外の存在である純星煌式武装しかありえない。

 

「おのれッ!」

 

 当てずっぽうで放ってきたネイトフェイルの打撃を全て最小限の動きで受け止め続ける基臣。お返しにとばかりにカウンターの裏拳を食らわせる。

 

「く……っ! このッッ!」

 

「…………」

 

 そして、ネイトフェイルの蹴りに合わせて手を出すと、逃げないように彼女の足を掴む。

 

「なにっ!?」

 

「これで終わりだ」

 

 足を離され身体が宙に浮いたかと思うと、一瞬にしてネイトフェイルは掌打を浴びていた。

 

「カ……ハッ!?」

 

 意識が混濁する程の強力な一撃、なんとか致命傷を避けるように反射的に受け身は取ったものの、それでも今にも地に伏しそうな程の痛み。死に体の状態であることに変わりはなかった。

 

「はぁ……ッ、ぁっ……クッ……!!」

 

 初撃をなんとか耐えきる事が出来た彼女であったが、満身創痍な状態での二撃目は流石に反応できなかったのか、まともに食らってしまった。当然、強力な一撃を食らった彼女は、基臣に対する恨み言を口に出すことも出来ず、意識を手放すことになった。

 

『ネイトフェイル、意識消失』

 

『試合終了! 勝者、誉崎基臣!』

 

『なんとなんとーッ! 誉崎選手! 今大会の有力候補とされていたネイトフェイル選手をたった数十秒で撃破しましたっ! 前回大会から更なる成長を遂げた誉崎選手ですが、どう思いますか?』

 

『そうっすね、前回の獅鷲星武祭よりも動きが凄く洗練されてると思うっす。王竜星武祭が始まる前から優勝候補と目されていたっすけど、この試合でよりその線が濃厚になったんじゃないっすかね』

 

『なるほど! 誉崎選手は黎沈華選手と同じく、グランドスラムを達成する可能性を秘めた選手。果たして、王竜星武祭優勝の栄冠を掴むのは誰になるのでしょうか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな基臣の試合の様子を、エルネスタとカミラは特設の観客席から眺めていた。試合が終わり、彼の成長にエルネスタは呆れと嬉しさの混じったような吐息を漏らす。

 

「やっばいなぁ……基臣君強くなり過ぎじゃないかにゃあ」

 

「そう言う割には、随分と嬉しそうじゃないか、エルネスタ」

 

「そりゃあまあ、私の愛しの剣士君ですから。勝ってるところを見て嬉しさが湧かないわけがないでしょー。大幅パワーアップしているわけだし、実況席の方で言ってるように間違いなく今大会の優勝最有力候補だよねぇ」

 

「ふむ、獅鷲星武祭で見せたあの技……神依だったか。それもまだ予選・本戦と共に未だ見せていない。それに加えて、例の純星煌式武装を出していないあたり、まだまだ本気では無さそうだしな」

 

 オーフェリア対策なのか、予選中、露骨に自分の手札を明かさなかった基臣。普通ならばそんな状態では基臣の実力も評価しづらいものだが、そんな状況でも観客からは今大会の最有力株の一角として認識されている。その証拠に、本戦が始まる前に実施された王竜星武祭の優勝者を予想する非公式の賭博のオッズがそれを示している。

 

 オーフェリア・ランドルーフェン  1.78倍

 誉崎基臣             2.10倍

 ・             13.30倍

 ・               ・

 ・               ・

 

 前回の王竜星武祭でのオーフェリアの実力を考えればオッズは単独での独走になるだろうと思われていたが、二つの大会を制覇した実績からか、基臣のオッズが明らかに彼女のそれに迫っている。

 

 また、学園に在籍する選手の強さを評価するサイト詩の蜜酒(オドレリール)でもオーフェリアに次ぐ二位など、明らかにオーフェリアの対抗馬という評価をされていることからも基臣の実力が高く評価されている事は言うまでもないだろう。

 

「それはそれとして、レナティの状態はどうなんだ?」

 

「今のレナで基臣くんに勝てるかは分からないケド、まあ……でも一矢報いるぐらいは出来る、と信じたいな。せっかくカミラにもレナの整備を手伝ってもらったんだし」

 

「やれるだけのことはやったんだ。後は見守るしかないさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『準々決勝第2試合! 先に出てきたのは、今大会の優勝候補と目される当代最強の剣士、誉崎基臣選手! そして続いて出てきたのは、今大会のダークホース! 幼く可愛らしい容姿からは考えられない怪力を見せつけて快進撃を見せている最強の自律式擬形体(パペット)レナティ選手!』

 

 時間を更に進める事しばらく、準々決勝まで進んだ基臣はエルネスタの愛娘であるレナティを相手にすることになった。

 

「おと────さ────ーん!!」

 

「うお……っと!」

 

 いきなりステージ端から飛び出してきたレナティを受け止めたために、基臣も思わずよろめいてしまう。いきなりの行動に観客席からも好奇の視線が基臣たちに突き刺さる。

 

『おっと、これは……どういうことでしょうか? 情報では特に誉崎選手とレナティ選手の交流は無いはずですが』

 

『んー、噂では誉崎選手がアルルカントに時々入っているという話も聞くっすから、そこらへんで交流があったんじゃないっすかね』

 

 疑惑の視線を向けられてはいるが、レナティと基臣のマイク共にオフになっていたため音声を拾われてないおかげで、その関係性までは詳しくは突き止められていないようで、まさか親子関係などとは夢にも思っていないようだ。

 

(ステージ内の音声を拾われなくて助かった……。まったくエルネスタめ……これを見越してわざとレナティのマイクをオフにしてたのか。流石に後であいつに文句の一言でも言っておかないと気が済まんがな)

 

「おとーさん! 今日はよろしくね!」

 

「あぁ。だが、勝ちは譲れない。遠慮はしないぞ」

 

「こっちこそ、おとうさんだからって遠慮はしないよ!」

 

 純真無垢という言葉がよく似合うレナティの姿に和まされてしまう。相変わらず基臣の事を父親呼ばわりするが、エルネスタの入れ知恵なのでどうしようもないと最近は諦めている。とはいえ、レナティの事は基臣も娘のように好ましく思っているのは事実だ。

 

「話し足りないのは山々だが、そろそろ時間だ。待機場所で待っておけ」

 

「はーい!」

 

 試合開始まで間もなくということもあり、レナティに言い聞かせて待機場所に向かわせる。

 

 集中力を高めながら、基臣はピューレを抜いて待機していると、待機場所に向かったレナティの方もまた大型の煌式武装、ユードムラを取り出す。

 

「ふん、ふふ~ん♪」

 

 可愛らしい見かけによらず、豪快な素振りをするレナティ。小さな女の子が馬鹿でかい武器を振り回すという光景だけでいえば、面白おかしいシュールな図ではあるが、一撃でも食らえばロクな目に遭わない事は予想が付く。

 

『さて! 準々決勝第二試合も間もなくスタートします! 果たして勝つのは、アルルカントの英知が詰まった自律式擬形体(パペット)、レナティ選手か! それとも、当代最強の剣士、誉崎選手か!』

 

 

 

 

 

「王竜星武祭、準々決勝第二試合。試合開始(バトルスタート)

 

 

 

 

 

「えぇぇぇいっ!!」

 

 試合開始を告げる音声が会場に響くと同時、レナティは基臣よりも先に踏み込み、一瞬にして距離を詰めた。

 

 レナティの振るう近遠自在の武装、ユードムラは大剣へと変化して的確に基臣の顔面を捉えようとする。

 

「ぉっと……!」

 

 もちろん、その攻撃を読んでいた基臣はそれを紙一重で回避すると、続けざまに来る二撃目も身体を捻って回避する。

 

 回避されたレナティの攻撃の風圧が吹き荒れ、ステージの防壁すらも揺るがす。

 

「その武器、随分と恐ろしい威力だな。お母さんに作ってもらったのか」

 

「うぅん! お母さんじゃなくて、カミラお姉ちゃんに作ってもらったんだー。すっごいでしょー!」

 

「そうか、カミラにか」

 

 攻撃・防御・速さ、全てが今大会でトップクラスといっても差し支えない程に高められている。そこにアルルカント最大派閥である獅子派の協力があるとなれば、当然ながら基臣にとって脅威そのものでしかない。

 

 奥の手は隠さなければいけないが、前述の要素がある故に基臣が手を抜いて勝てるほど甘い相手ではない事は目に見えていた。

 

「それだけ本気で来られたら、こちらも手を抜くわけにはいかないな……」

 

 ──ゾクリ

 

「──っ!? ぉ……とう、さん……?」

 

 基臣の身体の内から今までに見たことないような、圧倒的な力の奔流が溢れ出す。それは、圧倒的な強者に対する恐れから来るものか、人間のボディでもないレナティの全身を震え上がらせた。

 

「誉崎流皆伝、神依」

 

 基臣が技名を告げた途端、嫌な物を感じ取ったレナティは己の勘に従い、即座に後ろへと退く。

 

「行くぞ」

 

「は、や──!?」

 

 10メートルは離れていた基臣の姿がブレて、一瞬にして目と鼻の先にまで距離を詰められる。

 

 そして、それを視認したと同時に振るわれた基臣の攻撃はレナティの防御障壁を紙切れのように切り裂き、破壊するとそのまま斬撃がボディに刻まれる。自律式擬形体であるため、関節部でもない限り肉体的なダメージの影響はほぼ無いものの、基臣との対戦まで一度も突破されなかった防御障壁を易々と突破した事に会場中がざわめき立つ。

 

「へ……?」

 

 だが、何よりもその衝撃は観客よりも防御障壁を破壊された本人が一番大きかった。そう容易く破壊されると思っていなかった自慢の鉄壁の防御、それをこうもあっさりと突破された事実に棒立ちになってしまう。

 

「ま、まっ──」

 

 怒涛の猛攻に流石のレナティも受けに回らざるを得なくなっていく。人間特有の無駄な動きを探ろうとするものの、強烈なラッシュでありながらも一つの隙も見つからない。こうなっては、いかに力によるゴリ押しが得意なタイプといえども、上手い事相手の手中で踊り続けるしかないのだ。

 

「むむむ……」

 

 ただ一方的に攻撃されていく事にフラストレーションが溜まっていくレナティ。元々、我慢強くないタイプである彼女に基臣の攻撃を耐え忍び続けて打開のチャンスを探らせるのは無理な話だった。

 

「もぉ! つまんな────ーい!!」

 

 防御にずっと回っていたことに痺れを切らしたのか、レナティの我慢はついに限界を迎える。彼女の内にある《ウルム=マナダイト》から光が漏れ出たかと思うと、眩いほどにその光が会場を照らし出す。

 

「──っ、この光は……」

 

 眩い光が止み何が起こったのかとレナティを見ると、その身体は光り輝き、目は金色に照り輝いていた。

 

「これならレナも全力で戦えるもんねー!」

 

 どうやら変化したのは見た目だけではなく、今までは安定的に戦えるよう力をセーブしていたようで、今のレナティは纏っている星辰力の量が爆発的に増えている。その量は間違いなく、オーフェリアに次ぐレベルだった。

 

「いっくよー!」

 

 自らの得物であるユードムラを手放し、素手になると拙いながらもファイティングポーズをとる。

 

「来るか……っ!」

 

 発光する前と変わらない機動力ではあるものの、明らかにレナティから漂っている圧は先ほどまでの比ではない。基臣は即座にピューレを構えて防御態勢を取ると、彼女の攻撃を真っ向から迎え撃つ。

 

「えぇぇぇい!!」

 

「──っ!? く……っ」

 

 構えもまるでなっていなく、適当そのものなパンチだったが、拳を受けた瞬間、何台も積み重なった重機を受け止めるような衝撃が全身に伝わり、基臣も堪えはしているものの膝が笑うぐらいにはその負担は大きい。

 

「ここまでのパワーとは、なっ……!」

 

 第六感で事前に感じ取っていたとはいえ、想像以上のパワーに驚きを隠せない基臣。

 

 両者譲らずの展開のように見えるが、ほんの若干レナティ側が優勢の状態。星脈世代の限界を引き出すことでどうにか拮抗を保てていたが、これ以上は良くないと悟った基臣はたまらずレナティの間合いから抜け出した。

 

「むー! 今ので倒せたと思ったのにー!」

 

「……っ、ふぅ……。正面から叩き潰すのはあまり得策ではないな」

 

 内包している星辰力の量は明らかにレナティの方が上。もちろん、ピューレの能力を使えば、一時的にオーフェリアすらも上回る力を発揮できない事は無いが、それを見たディルクがすぐさま下手な手に出てくる可能性が捨てきれない。そうなると、オーフェリアどころかこのアスタリスク自体が壊滅の危機に陥ってしまう。全力を出し切れないのが何とも面倒だが、決勝戦までは使えない封じ手だ。

 

(少し回りくどくなるが、力を見せないように出来る限りギリギリの戦いを演出する……)

 

 瞬時にレナティを倒す算段を頭で構築し、実行に移す。地面を這うような低姿勢で急接近し、視界の端からの攻撃を試みる。

 

「──わっ!?」

 

 当然、反射神経もずば抜けているレナティは紙一重でそれを回避する。しかし、無理な姿勢で回避したのが(たた)り、次に繰り出される攻撃の回避は不可能。そう思考誘導させ──基臣の攻撃を敢えて腕で防御させる。

 

「むっ」

 

 全力の一撃ではあったものの、自律式擬形体(パペット)特有の頑丈さでどうにか腕にピューレの刃を食い込ませる程度で済ませたレナティ。更に運の悪い事に、急いでピューレをレナティの腕から抜こうとするが、思っていたよりも食い込んでいたのか中々引っ張り出すことが出来ない。

 

 こうなると、基臣の得物であるピューレを失う事に成りかねず、今度はレナティの方に形勢が傾きかねない。その焦った(演技の)基臣を見逃すことなく、空いている片腕を使って強烈な一撃を浴びせようとする。

 

「っ、危ないな……」

 

 自らの得物(ピューレ)を失ってしまった状態の素手でまともにレナティの拳を受ければ、骨折はしないまでも、かなりの痛手を負うだろう。それを理解したレナティは、もう勝ちを確信したかのような笑みで基臣を見る。

 

「ふふーん! これでもうおとーさんはピューレお姉ちゃんを使えないでしょ!」

 

「……まあな」

 

(ここまでは順調……あとはレナティが俺の思惑通りに動いてくれれば……)

 

 この状況を好機と見たレナティは、無手状態の基臣へと襲い掛かっていく。

 

「誉崎流組討術、双槌穿(そうついせん)

 

 間近にまで迫ってきていたレナティの足を払い、転ばせるとその手を掴んで組み伏せマウントポジションを取る。そのまま、ピューレを取り返そうと刺さっている腕に手を掛けるが──

 

「にぎぎ……! まだまだー!!」

 

「うぉ……っ!」

 

 持ち前のパワーで一瞬で組み伏せられていた状態を強引に振りほどき、一瞬にして距離を取るレナティ。

 

「なあ、レナティ。いい加減ピューレを返してくれないか」

 

「返したらまたおとーさんばっかり攻撃してくるじゃん! そんなのずるいもん!」

 

「そうか、そこまで言うなら仕方ない」

 

 ポケットに手を突っ込むと、そこから無数の爆弾が取り出され空中へと散布される。

 

「それは……おかーさんたちが作った」

 

「そうだ、これの威力の恐ろしさはお母さんに教えてもらっただろ。しっかりと防御しろよ、レナティ」

 

 操作できる限界、12個全てを使ってレナティに攻撃を仕掛ける。獅鷲星武祭の時よりも改良され、高速で動き回る爆弾に、回避行動を取るのも難しいレナティ。

 

「きゃうっ!?」

 

 一つ一つが命中するたびに派手な音と共に爆発を撒き散らす。一つだけでは防御障壁にヒビを入れる程度の威力ではあれども、連鎖して爆発しようものならそれすらも破壊してボディへとダメージを与えてくる。

 

「ケホッ! ケホッ!」

 

 爆発に気を取られている間に、基臣は一瞬にして距離を詰めてくる。手数を増やして、レナティの意識を分散させている間にピューレを奪還する目算なのだろう。

 

「でも……この程度なら……っ!」

 

 だが、遠隔誘導爆弾だけならかすり傷程度にしかならない。そんな事よりも、基臣にピューレを返さないように意識を向ける。攻撃の要であるピューレを失ってしまえば、爆弾が尽きるまで耐え抜いてあとはこっちのペースに持っていくだけ、そうレナティは思っていた──その幼さゆえの安直な思考が命取りになると知らずに。

 

「……憤ッ!!」

 

「──素手でっ!?」

 

 至近距離にまで接近されて、ようやく基臣の思惑がピューレを奪還する事ではなく、そのままレナティの校章を破壊する事だと気づく。

 

「でもそんなのじゃ……」

 

 ただの拳ごときではレナティの防御障壁を破壊するどころか、ヒビも入れる事は叶わない。それゆえに、恐れるに足らないと油断していた基臣の拳だったが、防御障壁に衝突した拳の勢いは削がれるどころか、更に勢いを増していき、防御障壁にヒビを入れていく。

 

「そんな……!?」

 

 そう、今の基臣の拳はただの拳ではない。ピューレの能力の支援を受けた、純星煌式武装にも引けを取らない最強の拳なのだ。

 

「終わりだ、レナティ」

 

 急いで距離を取ろうと動くレナティだが、基臣が有利に動ける間合いに完全に入り込んでしまって抜け出すことは不可能。既に基臣の策に嵌まっていたのだ。

 

「レナティ、校章破壊」

 

「試合終了! 勝者、誉崎基臣!」

 

『試合終了ーっ! レナティ選手の猛攻に耐えきれないかと思われた誉崎選手でしたが、一転攻勢! 相手の不意を突く形で校章を破壊して勝利しましたー!』

 

 場内から歓声が響き渡る。呆然とそれを見つめていたレナティだったが、自分が負けたことを理解すると乾いた笑いを吐き出す。

 

「……はは。終わ、ったんだ」

 

「…………」

 

「えへへ……。やっぱり、おとうさんには、かなわないや……」

 

「……レナティ」

 

 レナティを慰めるために足を動かそうとして、彼女の顔を見て思わず踏みとどまってしまう。

 

「あれ、なんでかな……っ、どうしてなみだが……」

 

 ──泣いていた。

 

 負けたことに対する悔しさと、父親同然の存在である基臣の前でそれを出したくない感情がない交ぜになり、どう表現すればいいのか分からない、彼女の感情から伝わってきたのはそんな内心だった。

 

 幼いながらも、悔しさを必死に隠そうとしているレナティの意志を踏みにじるのを良しとしない基臣は慰めるという選択をしなかった。

 

「ねえ、おとーさん……。おねがいがあるの」

 

「……なんだ?」

 

「ぜったいに……ぜったいに、ゆうしょう、してね……っ!」

 

「……あぁ、約束する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり基臣くんには敵わないなぁ……。あたしの全身全霊を込めて作り上げた愛娘をこうも簡単に倒しちゃうなんて、少し自信なくしちゃうなー」

 

 観客室で基臣たちの様子を見ていたエルネスタは、事の成り行きの全てを見守り終えた後満足そうな顔をしていた。負けたはずなのに清々しさすら感じるその表情の理由は──

 

「……なるほど。今回、エルネスタがレナティを出場させるために裏で色々やっていたのは、別に優勝するためではなく誉崎と戦わせるためだったか。しかも、負けという挫折を経験させるために」

 

「あれ、やっぱり分かっちゃった?」

 

「お前と長年付き合って来たんだ、その胸の内ぐらいは簡単に分かるさ」

 

 意思を持った自律式擬形体であるレナティの単独出場は、六花園会議でもかなり議論が難航していた議題でもあった。そんなレナティを選手として扱うか一個の武器として扱うかという話題をアルルカントの生徒会長が提示した事で、後者だと不味いと思った他の学園の生徒会長たちは選手としての出場を認める運びとはなったが、その段階に持っていくまでアルルカント内部でも一悶着あった。

 

 今のレナティの精神は赤子同然。嫌な奴に会えば、容赦なく殺そうとするし、そのために力を使う事は(いと)わない。当然、そんなことをしようものならエルネスタの地位だけではない、自律式擬形体に対する評判までもが地に落ちてしまう。

 

 おそらく、レナティを基臣と戦わせることで何か得るものがあるだろうと考えての今回の王竜星武祭の出場だったはずだ。もし、レナティに何かあって暴走する事があっても基臣がなんとかするのだろうと思ったに違いない。

 

 基臣にとって迷惑な話と言えば迷惑な話だが、今まで何度も煌式武装制作を手伝って来たのだから、これくらいは協力してくれるだろうと思っての考えだったのだろう。

 

「その様子だと、お前の目論見も今回は上手くいったようだし、何よりだな」

 

「そだねー。ま、そのせいで基臣くんにも迷惑かけちゃったし、その分は裏方に回ってサポートして借りを返しますかなー」

 

「……そうだな」

 

 思えば、エルネスタの性格も誉崎基臣という存在にかなり影響を受けることになったものだとカミラは独り思った。

 

 基臣に会っていなければ、人に対する気遣いよりも、更に我が道を行く選択肢を選んだことだろう。そうならなかったのは、基臣に対する恋がそうさせたのか。本人のみぞ知るため、部外者であるカミラに知る由は無いが、いい意味で性格が変わったと言えるだろう。

 

 そんなことを振り返りながらエルネスタの横顔を見ると、レナティを見るその顔は、どこか温かく、僅かながらも慈愛を含んだもので──

 

「お前もそんな顔が出来るんだな」

 

「え?」

 

「まるで我が子の成長を見守る母親のような顔をしてるぞ。鏡を見たらどうだ」

 

「いやだなーもう、そんなこと言われたら恥ずかしいんだけどー」

 

 恥ずかしそうに頬を掻くエルネスタの精神的な成長を、彼女を昔から知るカミラは微笑ましく見つめた。

 

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