学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート 作:ダイマダイソン
その男の子と会ったのは少し前の事。
私はいつも通りウルスラを探すために、再開発エリアの色んなところを回っているときにたまたまゴロツキ2人と鉢合わせてしまった。一応、私の正体がバレないように変装はしてるけど女の子であることには変わりない。
周りに人がいないのをいいことに私にセクハラしようと身体を近づけてくる。
暴力沙汰で目立つことは避けたかったので、どうしようかと迷っていると近くにあったビルの物陰から人影が出てきて一瞬で倒してしまった。
ゴロツキから助けてくれたのは、私と同じぐらいの年の男の子で刀傷らしき物が頬にあるのが特徴的な子だった。
助けてくれたのも束の間、何も言わずに行ってしまおうとするので呼び止める。
「君!」
呼びかけたらあっさりと止まってくれた。特に煩わしそうにしてる雰囲気はしないのでホッとする。助けてもらって何もお礼をしないのは後味のよくない物が残るから何かお礼でもしようと思った。
「さっきは助けてくれてありがとう。君、名前はなんていうの?」
「誉崎」
うーん、なんだろう。どうにも会話が苦手そうな印象が強い子みたい。今まであまり人と積極的に話したことはないのか余りにも会話が簡潔というか味気ないというか。
「えーと、下の名前は?」
「基臣」
基臣くんか。校章を見たら
「基臣くんかー。私はー、っと。ここじゃ人が来るかもしれないから、人気がないところに行こっか。ついてきて」
私が人のいないところに案内すると、すんなりとついてきてくれた。最近来たからかもしれないけど、見知らぬ人の誘いにもすんなりと乗ってくれる。自分の実力に自信があるからなのか、それとも天然か。どちらにしても、基臣くん自身かなり強そうだしそこまで心配することはないのか知れないけど。
「それで、私の正体なんだけど。その前に一つだけお願いがあるんだ」
「約束?」
「これから明かす私の正体は他の人には秘密にしてほしいんだけど……大丈夫?」
「分かった、秘密にすると約束しよう」
「あはは……私が助けてもらった側なのにこんな事お願いしてなんかごめんね。それじゃあ、よいしょっと」
そう言いながら、変装用にかぶっていた帽子を脱ぐと髪色が薄茶色から本来の薄紫色に戻っていく。変装が完全に解けて本来の姿である、アイドルの方のシルヴィア・リューネハイムとしての姿に戻る。
「私の名前はシルヴィア・リューネハイムっていうんだ」
「そうか」
……
…………
……………………
ん?
そうかって、それだけなの? おかしいな、これでも一気に名が売れて最近は世界的に有名になってると思ってたんだけど……。ペトラさんも曲の売り上げとか見せてくれるけど、世界各地でも売り上げトップらしいし知名度的に自信はあったんだけどなぁ。
「もしかして、私のこと知らない? アイドル活動してるからそこそこ名は知れていると思うんだけど」
「俺は知らない。世間のことはそこまで興味がない」
自分で言うのも何だけど有名すぎるから少しは驚くかなと思ったんだけど、反応薄いし。
むぅー、なんか負けた気がする。まぁ、知らないなら知らないで変に緊張したり名前呼びすることも抵抗無いはずだし、いっか。
「それで、私のことなんだけど。親しい人はみんなシルヴィって言うからそう呼んでね」
「分かった、シルヴィ」
さてと、いつまでもこんな所にいるのも良くないし、街の方まで行って喫茶店で話の続きをすることにしよう。
「基臣くん、さっきのお礼もしたいから喫茶店でお茶でもしない? 私、おすすめの場所を知ってるから味は保証するよ」
「別に助けるつもりで、乱入したわけではないが……」
施しを受けないタイプなのかどうなのかは分からないけど、私の提案に少し悩んでる様子だ。こういうのは素直に受け取ってほしいんだけどねー。
あっ、街まで行くんだし変装は戻しとかないと。よいしょっと。
「いいからいいから、君がそう思ってなくても私は助かったと思ったんだし」
「む……」
基臣くんの背中を押して行かせようとすると、渋々彼もついてきてくれることになった。
抜け道を通って街まで向かうと、メインストリートに出るのでそこからしばらく歩くと、いつも通ってる喫茶店に到着する。
「さ、入ろ。基臣くん」
「……あぁ」
煮え切らないような表情をしていたが、仕方なしにといった表情で私に続いて喫茶店に入る。ここの店員さんは私と顔なじみなので、いつも座ってるテーブルまで案内してくれた。
テーブルの端に挿してあったメニュー表を基臣くんに渡すと、私もメニューを眺めながら何を頼むか決める。
「お礼だから私の奢りだし何でも頼んでいいよ」
「分かった」
こういうお店に入ったのは初めてなのか、どれを頼めばいいのか迷ってる感じだ。誰にでも人気のあるおすすめのメニューを教えてあげることにしよう。
「悩んでるならこれとかどう? カフェラテと季節のケーキのセット」
「じゃあそれにする」
注文も決まったので呼び鈴で店員さんを呼んで注文する。
「カフェラテと季節のケーキのセットを1つとスフレケーキとミルクティーのセット1つで」
「かしこまりました」
店員さんが注文を取って戻っていったところで、基臣くんについて色々聞くことにした。
「そういえば、基臣くんって最近アスタリスクに来たばかりなの? 強そうなのに、全然顔をみたことないけど」
「今日着いたばかりだ。界龍で特待生の試験を受けて合格したから、荷物だけ片付けて後はさっきの場所の近くで鍛錬していた」
「へー、今日来たばかりなんだー。だから場慣れしてない感じがしたんだ」
それに、特待生か。基本的に界龍は生徒会長の星露ちゃんが面白いと思った人間だけが特待生になれるらしいから、基臣くんも相当に強いってことなのかも。
私も強さには自信があるけど、さっき見た動きを思い出すと、基臣くんと戦っても勝てるか怪しいかもしれない。ちゃんと戦ってるところまでは見たことがないからなんとも言えないけど。
「そういえば、基臣君はアスタリスクには何が目的で来たの? 願いがあるとか」
「誰にも負けない強さを手に入れるために来た」
「強さかぁ、このアスタリスクで一番となるとオーフェリアかヘルガさんになるのかなー。
ヘルガさんはもう星武祭に出れないから戦うことはできないと思うけど、オーフェリアなら王竜星武祭に出れば戦えるかもね」
「王竜星武祭か……」
たぶん世間一般でアスタリスク最強は誰かと聞いたらその2人がまず先に出てくるはずだと思う。あとは
「最強と言えば、星露ちゃんはどうなの? 界龍の生徒会長だけど、君を特待生に選んだから戦ったりとかしたんじゃないの?」
「特待生試験の時に戦ったが、何回か攻撃は当ててもまるで倒れる様子はなかったな。むしろ奇妙な術を介した能力を使ってこちらを翻弄してきて、厄介な相手だった。今はまだ勝てないだろうな」
今はまだ……か。その言葉に虚勢をはっている感じはないみたいだしかなりの自信家みたいだ。
「界龍の中でも一撃与えれる人は相当に限られてるって噂はよく耳にするけど、よく星露ちゃんと戦って攻撃を当てられたね。さっき助けてもらったときの動きも凄かったけど、結構強かったりする?」
誰に戦い方を教わったのかな? もしかしたら両親からかもしれない。私は両親が非星脈世代だからウルスラに教えてもらったけど、一般的に星脈世代は親から戦い方を教わることも珍しくないんだよね。あとは、どこかの道場で教えてもらうっていう人も結構いると思うけど。
「父に剣術を教えてもらった。2歳のころから始めたから、他の奴よりは早くから剣術をかじっているとは思うが」
「へぇー、お父さんからなんだ。アスタリスクに来たってことは親から離れて一人暮らしって感じかぁ。どんなお父さんなの?」
「……父は、つい最近亡くなった」
「あっ、ごめん……」
ちょっと深く基臣くんについて聞きすぎたな。あまり聞いてほしくなさそうだし。雰囲気が悪くなっちゃったから、話題を変えないと。
と思ってたら、店員さんがケーキと飲み物を持ってきてくれた。ミルクティーとカフェラテのいい匂いがする。
「さっ、基臣くん。食べよ」
「いただきます」
ミルクティーの甘さが喉に優しく伝わってくる。うん、おいしい。基臣くんも無表情でものすごーく分かりづらいけど、美味しそうにケーキをたべてくれている。
「そうそう、基臣くんはこの街初めてなんでしょ。私ならここに来てそこそこ経ってるから案内してあげるよ」
「別に案内してもらわなくて構わない。この街で遊ぶことはない」
「えー」
どうにも基臣くんはコミュニケーション能力というか、交友関係が希薄そうに見えて、なんというか危ういような感じがするな。見た感じ悪い人では無いんだけど、人付き合いが不器用で最低限のことしか喋らないから誤解されそうな感じの人柄で損をしてるような気がする。
「まあそう言わずに一緒に回ってみよ? これから生活していくにも何かとお店は分かってないと後で困るでしょ? 生活必需品とか最低でも必要なものはないとだし」
「……まあ、一理あるか」
面倒くさそうにはしてるが、どうやら私の提案には乗ってくれたので安心した。
とりあえず会話しながらお茶した後、喫茶店を出て近くにあるショッピングモールまで向かうことにした。ここなら大体の物が揃ってるし場所も分かりやすいから迷うことも無いと思う。
「ここが、服を売ってるところだね。せっかくだから、基臣君の服選びを手伝ってあげるよ。さ、入ろ」
「いや、服とかは持っているし特に必要ないんだが」
「いーいーかーらー」
「……分かった」
基臣くんは押しに弱いタイプなのか、私の言うことをすんなり聞いてくれるので話が素早く進んでありがたい。男の子とはいえ、基臣くんの服装は地味というか寂しさがあってもったいないなと思っていた。お店に入って、いくつか服を見繕ってあげると試着室で着せ替えしてどの服が基臣君に似合ってるか見てみる。
うん、やっぱり素材が良いからどの服を着せても似合って見える。どれにしようかと、色々服を着せていたらさすがの基臣くんも疲れたのか顔に表れているので、これぐらいにしておくことにしよう。今度は私が服を着替えて基臣くんに評価を聞いてみる。
「ねえ、この服似合ってる?」
「似合ってるんじゃないか。確かお前はアイドルのはずだからなんでも似合うし」
「はずじゃなくて、ちゃんとアイドルだよ!」
もおー、結構思ったことをズバズバ言う性格だからか言われて嬉しいことも嬉しくないことも同時に言ってくる。これでも本人に悪気がないんだからなー、強く言うこともできない。
服をいくつか選んだあと、私たちはショッピングモールを出て、街をぐるぐると回って観光することにした。基臣くんが興味があると思う星武祭の会場の場所から、それぞれの学園の場所、私がアスタリスク内でよくライブに使うステージなど、いつも見ている場所だけど一緒に回ってて楽しかった。
アイドルとしての私を元々知っていないから、肩の力を抜いて忌憚のない会話ができる。
ちょっと女の子に対する接し方に難があるけど、そこを含めても私は基臣くんに対して良い感情を持っている。
また一緒に遊びたいなと心の内で思った。
日が沈もうとするぐらいの時間になったので、私たちもそろそろ帰ろうと思って広場を歩いていると、正面にレヴォルフの生徒が大人数でたむろしていた。
変なトラブルに巻き込まれたくないので基臣君の手を引いて今来た道を戻ろうとすると、それを塞ぐようにレヴォルフの生徒がいた。
「兄貴、この女上玉でしょう」
「へぇ、悪くねえな。今すぐにでも連れ込んで楽しみたいぐらいだ」
いつからか、分からないが私たちを見つけてあとをつけていたみたいだ。間違いないく、彼らの狙いは私なのだろう。数はおよそ40~50ぐらいで、序列入りしているのがちらほらいる。
「おい、お前。邪魔だから女置いてさっさと失せろ。そうすれば見逃してやる」
彼らのリーダーらしき人物が基臣くんに私を置いていくように言うが、彼は意に介していないようだった。
「聞こえなかったのか? さっさと失せろ」
「なぜお前たちに指図されないといけない。そっちこそ邪魔だ、失せろ」
「……てめぇ」
さすがに基臣くんでも人数が多すぎる。私も加勢すれば大丈夫だとは思うけど、序列入りがいくらかいることが心配だ。身バレすることも覚悟で能力を使って逃げることも考えた方がいいかもしれない。
「基臣くん、ここは逃げよ。戦っても面倒くさいだけだし、あの中に何人か序列入りの人間が混じってる」
「俺一人でやる。下がってろ」
「あっ、基臣くん」
基臣くんは前にでると、一瞬で移動して相手の一人を殴り倒していた。
それからは一方的な蹂躙が繰り広げられた。
気絶させる程度に手加減した殴打で基臣君は相手の数を減らしていく。
それとは対照的に相手は一回も基臣くんに攻撃を当てることができず、数分で全員殴られて地面に倒れていた。
「こんなものか……」
つまらなそう表情でそんなことをつぶやくと、掴んでいたレヴォルフの生徒を放り投げて私のもとに戻ってくる。
「全員気絶させてるから大丈夫だとは思うが、いつ起きてもおかしくはない。さっさと帰るぞ」
「う、うん」
最初に出会った時に簡単にゴロツキを倒していたから、ある程度の強さはあるんだろうと思っていたけど、まさかこの人数を相手にして無傷で済むほどだなんて思っていなかった。
レヴォルフの生徒を倒してからしばらく歩いて、クインヴェールまで送り届けてもらうことになった。わざわざ送り届けてもらう必要はないと思って断ったけど、街を案内してもらった貸しを作ったままにしたくないのでそのお返しだということで頑なに送り届けることにこだわっていた。
そこまで言われたらしょうがないので、その提案を受け入れることにした。
クインヴェールまで歩くことしばらく。入口まで着くことができた。
「ね、基臣くん。連絡先交換しない?」
「連絡先?」
「そ、また今度遊ぶとき無かったら困るでしょ」
「いや俺は遊びに……」
「もー! そういうのは素直に受け取るものだよ。君、このままずっとそういう生き方で過ごしたらいつか身体が持たなくなるよ」
「…………」
私の言葉を無下にするつもりはないのか、悩んでるようだった。どうにも基臣くんは自分を戒め続けるような方向へと向かいすぎな気がする。
何があるのかは本人が言わない限り深く詮索してはいけないと思うけれど、それとは関係なしに放ってはおけないような性格をしてる。
基臣くんはしばらく黙っていたままだったけど、観念したように端末を開いて私に見せてきた。
「これが俺の連絡先だ」
「えっと、ちょっと待ってね」
手早く基臣くんの連絡先を端末に入力して、お気に入りに登録する。向こうも連絡先を登録したみたいで、端末を閉じていた。
「じゃあ、今日はありがとね。楽しかったよ」
「あぁ」
色々あったけど、基臣くんに出会えて楽しかったなと思えた。また、今日みたいに遊ぶことができたらいいなと思いつつ、自分の部屋へと帰っていった。
帰宅後、私の顔を見たペトラさんが何かを察したのか溜息を吐きつつも、予定があるならスケジュール調整してあげると言われたり、ルサールカの子達からはゴシップだと騒いで詮索されたりと、誤解を訂正しようと苦労したけどそれはまた別のお話。
これで話のストックがなくなったので今までより投稿ペースが少し落ちますが、出来る限り早く投稿できるように頑張ります。
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