感性の強い子供は、大人より呪霊という存在に敏感だ。子供の中には、非呪術師の家系から突然変異で高い呪力を持つ子供が産まれてくる事がある。往々にして、その子供は不幸だ。
人は眼に見える物しか信じない。だから、子供が幽霊やお化けがいると常に言うとどうなるか……気味が悪い存在に思われる。そして、我が子への愛情と天秤に乗せられる。天秤が愛情以外の方向に傾く場合が多い。
その行き着く先は、児童虐待。
国家としても、児童虐待問題の解決は難しい。家庭内事情に首を突っ込みづらいし、往々にして揉めるため、費用対効果が悪い。公務員は、色々と業務を抱えており、児童問題にだけ注力する事が出来ないからだ。
家庭問題と行政に間につけ込んだのが呪術業界だ。
呪霊を肉眼で確認出来る呪力を持つ子供。要らないのならば、金で買い取ると。買い取った目的は幾つかある。オーソドックスなのが、自らの呪力を後生に残す為の子作り用。最悪なのが、呪術の実験やその神秘の解明のためモルモット扱い。
児童売春どころか人身売買が平然と日本で行われている。
そんな呪術師達の勝手が許されて良いのだろうか、許されて良いわけがない!!
呪霊問題に加え、呪力を持つ特殊な児童問題解決にも手を出すサイバーダイン・システムズ。国家としても人身売買をする呪術業界を知っていて見逃しているとは思われたくない。この事が公になれば困りますよねと優しく呟くと、快く協力を申し出る。そして、把握している呪力を持つ子供の情報を提供する。
□□□
呪術高専一年に依頼された事は、昨今発生している児童が行方不明になる事件の調査だ。日本で発生する行方不明事件には、呪霊が関わっている事が多い。よって、この手の仕事は呪術師達の食い扶持である。
その調査に派遣されるのは、虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇の生徒三名に加えて、引率の五条悟だ。五条悟には、虎杖悠仁の暴走抑止と伏黒恵の監視も仕事に含まれている。
「五条先生、調査といっても何から始めるの? 近所の聞き込みとか?」
「悠仁は、素直だね。まぁ、そういった雑務は、補助監督達の仕事。僕達は、その調査結果から実行犯の排除と子供達の救出。ちなみに、二級呪術師が既に失敗している。でも、安心してよ。今回は、僕も着いていくから」
「で、その実行犯とやらは何処にいるんすか? まぁ、今回の呪霊はどうせ糞野郎だし、遠慮なくぶちのめせるな。先生、終わったら銀座で寿司お願いね」
「ずりーー釘崎。俺は魚より肉が食いたいんだって。な、伏黒もそうだろう?」
「俺も寿司に賛成だ。肉は、昨夜…いいや何でも無い」
そして、五条悟の先導されて着いた場所は修道院だった。
実質、児童養護施設も兼ねている。施設は、最近建築されたかのように清潔感が溢れている。敷地内には、庭で遊ぶ子供達。
そこには確かに笑顔があった。ある少年は、サッカーを。ある少女は砂場で。平日のお昼に相応しい平和的な光景であった。但し、そこで遊んでいる少年少女達が、補助監督達から渡された資料にいる人物であるという一点を除けばだ。
『こらこら、ガキども遊んでないでお昼の準備を手伝いなさい。全く、なんで私が洗濯や食事の準備なんて~』
色白で銀髪の修道女。だが、遠目でも分かるほどの整った容姿……プロポーションも抜群であった。
しかし、言動と行動が微妙に不一致する様子。
「な、なぁ、もしかしなくてもアレって呪霊? あの男の妄想を山盛りしたようなツンデレ修道女が!? あんなの女の敵だろう。よーーし、私に任せておけ一人で除霊してきてやるよ」
釘崎野薔薇は、女の敵を除霊しようと意気込んでいた。
そして、修道院の敷地に踏み込もうとする。だが、そこに院長がやってくる。柄の悪い人達が修道院の周りを彷徨いていれば、責任者が出てくるのは当然だ。
「おやおや、この修道院に何用ですかな? 院長のバラライカだ。お話があるなら伺いますが?」
顔に火傷のあるロシアマフィアみたいな女性の登場。院長と言うより、屈強な傭兵を従えた女指揮官と言われた方が100倍しっくりくる。
「何用って、そりゃ、あの呪霊を祓うんだよ。なんで、神の家?でいいんだっけ。そんな神聖な場所で呪霊を飼ってるんだ」
釘崎野薔薇が今にも釘を打ち放ちそうだが、その射線上に院長が居座る。
「口の利き方に気をつけろイエロー・モンキー。呪霊がどうした? 貴様等は呪術師とかいうシャーマンだろう。彼女の何が問題だ。口は多少悪いが、面倒見の良い奴だ。後、飼っているんじゃない。勝手に、住み着いているだけだ」
「こわ!! 今、勝手に住み着いたっていったよね?」
サイバーダイン・システムズが出資する修道院と呪霊は、全くの無関係。勝手に住み着いている。よって、完全に無関係だ。呪術高専内にだって、呪霊は存在していた。なのに、呪霊側とは繋がっていないと明言している。
つまり、偶然敷地内に呪霊が住み着いているだけと言い張れば基本的に無罪が押し通せる。
「落ち着け、虎杖。ご婦人、彼女と一緒に遊んでいる子供達についてはご存じですか?」
女性に対して紳士的に対応するスキルが身についた伏黒恵。
だが、彼には考えがあった。人型美少女呪霊……つまり、これはコッコロや
「詳細は知らん、聞こうとも思わん。だが、子供達はここに来るまで皆酷い扱いを受けていた。言いにくい事だが、呪霊が見える事で親から虐待を受けていたのだろう。他にも、実の親に呪術師へ金で売られそうになった子供もいる。平和といわれる日本で笑わせるな。祖国よりよっぽど治安が悪い」
そんな子供達を保護している場所がここなのだ。
つまり、子供達の面倒を見ている呪霊である彼女を排除して、親元に帰す。その選択肢がどんな末路になるかは、呪術業界に身を置く者としては手に取るように分かる。芋づる式で、この依頼元がどんな連中かもわかりやすい構図だ。
実に心を抉る依頼である。そんな真相に目を背けたいと思っていると問題の呪霊がやってくる。
『バラライカ、そろそろ昼食の――。誰かと思ったら無能な呪術師達じゃない。懲りないわね~。子供達は私が預かっているわ、返して欲しければ』
「邪ンヌお姉ーちゃん。ごはん食べよう」
強キャラのイメージを出そうとしたら、幼気な少女からお昼のお誘い。洋服の端っこを摘まむあたり尊い。
『―― 貴方達、そこで少し待ってなさい。ガキどもが昼食を終えたら相手してあげるわ。ちょっと、そこの柄が悪そうな女、その残念な者を見るような目むかつくわね』
「柄が悪そうなのはどっちだよ。私には、釘崎野薔薇って名前があるんだよ」
『奇遇ね。私も名前位あるわ。ジャンヌダルク・オルタ……人間の負の感情が生み出した英霊ジャンヌダルクの特級呪霊よ』
この時、五条悟の脳に電流が走る。
「ジャンヌダルクってあの聖女で有名な? いや~、その胸で聖女は無理があるでしょう」
呪術高専の一年全員が言いたかった台詞を代弁した五条悟。その一言は、分かっていても口に出しては駄目な物である。
ポンコツ特級呪霊邪ンヌ とか可愛いよね。