呪術師達は、頭を抱えていた。
近年、呪術業界を揺るがしかねない事件が頻発しているからだ。長い歴史を見ても、これほどまでの急激な変化はなかった。非術師達を守る為、影ながら世界を守ってきたと自負している者達だが……ここ最近、除霊して逆に恨みを買う事例が幾度も発生した。
一例として、孤独老人に憑いていた低級呪霊コッコロを除霊したら、老人が呪術師を孫娘を殺した犯人と言わんばかりの憎しみが当てられた。それから数日して老人は、全財産と生命を対価に、呪詛師に呪術師の殺害を依頼するなど恐ろしい事件だ。
だが、呪術師としても除霊が飯のタネでもあるから、仕方が無い事だ。近所に、虚空に話しかける孤独老人がいたら、善意ある住人が通報。その結果、手隙の除霊師がお小遣い稼ぎに動いたのだ。
このような事態から呪術界の重鎮達も重い腰を上げ始めた。その原因調査を担うことになったのが、苦労が絶えない補助監督の伊地知潔高であった。
そんな雲を掴むような依頼を夜蛾正道が伊地知潔高に伝達する。
「本来なら呪術師にやらせるべきだが、人手が足りない」
しかし、彼にとって、こんなの調査するまでもない。
「特級呪霊コッコロでしたか……これは、呪霊GOに出てくるイベント呪霊ですよ」
「――なんだそれは?」
「最近、流行っているスマホアプリです。私も多少やっていますが、よく出来たアプリでスマホのカメラを通じて、呪霊を捕まえるゲームです。これです」
伊地知潔高――スタートダッシュは当然としてリリース初日に大人の課金力で現時点のコンプリートに近いレベルであった。苦労の末に捕獲した特級呪霊コッコロを夜蛾正道に見せる。
スマホに映し出される物は、五条悟から報告があった特級呪霊の特徴と完全一致した。調査を始めて僅か数秒で原因に辿り着く。呪術界上層部が無能すぎて笑えないと本気で不安になり始めていた。
むしろ、伊地知潔高にしてみれば、こんなスマホアプリが大流行しているのだから、呪術業界も一枚絡んでいると思っていた。現に、スマホを通じて呪霊が確認できるのだ。googlemapと連動もしているのだから、近代化の波に乗ったと考えるのは当然だ。
「悪いが、簡単に説明して貰えるか。この手の物には疎くてな」
「えぇ、構いません。これは、呪術師になって全国各地にいる呪霊を捕獲するゲームです。実際にいる呪霊などをカメラに収めて、捕獲するんです。捕まえた呪霊を育成や対戦が可能です。更には、呪霊の位置座標がgooglemapと連動して直ぐに割れます。最近じゃ、五条さんもこの機能を使って……」
夜蛾正道は、今まで聞いた情報だけでも頭が痛い事ばかりだった。
呪霊が一般人にも確認する事が出来るなど、笑えない冗談だ。恐怖などといったマイナスの感情が呪霊を強くする。あの糞ビジュアルの呪霊を見て非呪術師達は何も思わないのかと。
「我々は、仕事柄なれているが呪霊は非呪術師が受け入れられる容姿とは思えないが……」
「美少女化されているから問題無いと思いますよ。心なしか、昨今、呪霊が若干美化されてきているとの報告もありました」
「にわかに信じられんな。だが、無視も出来ない。その開発元にいって話を聞くべきか――確か、一年達はその手のゲームなら詳しいな」
「えぇ、まぁ。高校生達の間でも流行っているゲームなので、虎杖君達なら触れたことはあると思います」
伊地知潔高は、これから大企業とのアポイントメントなど様々な雑務が待っていると思うと胃が痛くなってきた。
□□□
呪霊GOの制作運営会社――サイバーダイン・システムズ。主にハイテク関連の企業で日本の一芸特化の変態技術者達が集まる場所でもあった。
その企業の応接間で義善聖徳は、呪術高専から来た一年と五条悟と話し合いを始めようとしていた。義善聖徳が彼等に感じたイメージは、善人だなという程度だ。そして、特級呪霊コッコロを潰してから、サイバーダイン・システムズに辿り着くまでが遅すぎると思った。
あれだけ、ヒントを出しているのだから、何故今まで行動がなかったのか疑問に思う程だ。
義善聖徳は、一方的に相手のことを知っているが、知らない振りを装う。知っている方が不審に思われるからだ。今は、世界最強と敵対する必要もない。仲よくやるのが一番であると理解している。
「初めまして、私がプロジェクトの代表を務める義善聖徳です。しかし、よく弊社のアポイントメントが取れましたね。失礼ですが、貴方達はどういった方達でしょうか。高校生とその先生のように見えなくもないですが……」
「初めまして、この子達の先生の五条悟です。実は、貴方達が開発したスマホアプリ「呪霊GO」ですが――呪霊を生み出す事で大きな問題となっています。非呪術師の貴方達ではありますが、このゲームを作ったならば知らないはずはありませんよね」
義善聖徳は、苦笑いした。
いきなり本題をぶっ込んできたと。流石は、世界最強だ。完全に上から目線での脅迫じみた依頼であった。だが、想定していたケースの一つだ。
「存じておりますよ。ですが、何か問題でも? 別に元より呪霊は自然発生もしています。それに方向性を示しているだけですよ。成功例のコッコロのお陰で、今や多数のニートや介護老人が助かっております。感謝されど恨まれる筋合いはないかと」
何食わぬ顔で義善聖徳は、現実を突きつけた。
社会から見放された連中を助けている呪霊。これの何処が悪い。どのみち、放置しておけば生活保護や医療費問題など社会のお荷物にしかならない連中の面倒を見る天使のような存在を作り上げたのだ。
ノーベル平和賞を貰っても可笑しくない功績である。
「あぁ~あの呪霊か。あれは、やべーーよ先生。全肯定してくれる美少女呪霊なんて、そりゃ問題だよな。羨ましすぎて……」
「サイテーーだな。見た目がよけりゃ、見境無しかよ。伏黒、さっきから黙っているが、まさかとは思うが――」
「……何のことだか分からないな」
言いよどみ、遠くを見る伏黒。最近、彼の影から女性特有の良い匂いがしている事を思い出す主人公一同。だが、証拠は彼の影の中だ。今現時点では、黒に限りなく近いグレーだ。
「まぁまぁ、落ち着こうよ君達。別に、高校生なんだし、特殊性癖の一つや二つ持っていても不思議じゃないって。ごめんね、話の腰を折って……どうしても駄目かな? ゲームに嵌まった学生とかが、廃墟とかで事故死もしているんだけど」
「それはお悔やみ申し上げます。ですが、そんなの交通事故で死んでいる赤の他人となんら変わりは無い。そんな事故死した人の責任がまるで弊社にあるかのようにいうのは名誉毀損で訴えますよ。私は、大事な顧客との打ち合わせがあるのでコレで失礼します。もう少し大人の会話が出来るようになってから、おいでください。世界最強の呪術師五条悟様」
応接間を後にする義善聖徳。死人が出ても丸で他人事であるような言いぐさに、呪術高専の人達は思うところはあったが、当然だなとも感じていた。
10年で数億ドルを超える利益が見込める人気スマホアプリだ。それを人が死んでいるから配信停止しろなど、交通事故で人が死ぬからトヨタに車を作るなと言うに等しい。
………
……
…
義善聖徳は、五条悟達との話し合いを終えて別の応接間へと移動していた。そこには、最重要顧客が待っていた。
「遅れて申し訳ありません。夏油傑様、真人様、漏瑚様、花御様、陀艮様」
「いいや、構わないよ。それより、よかったのかい? 五条悟がきていたんだろう」
「何も問題ありません。私は、ビジネスパートナーである貴方達の方が大事ですから。仕事の報酬は、現金がご希望ですか?それとも貴金属? なんでもおっしゃってください」
呪霊GOの運営陣と夏油一派は、ズブズブの関係だ。呪霊を改変させるに当たり、真人の能力を科学的にも検証させてもらっていた。そして、いつしか彼は、人間を美少女、美少年に変貌させる事すら可能にしてしまった。魂を弄れば容易い事だと。
「いくつかセーフハウスが欲しいな。それと、呪術師達の通話記録――サイバーダイン・システムズなら可能でしょう。それと五条悟の位置情報は逐一欲しいね」
顧客の要望に義善聖徳は笑顔で承諾した。その程度、金と権力を持ってすれば容易いと。
そんなやり取りを真人除く特級呪霊三人。誰しもが10人が10人振り向く美少女呪術霊にされている。
『なぁ、真人。一体、儂達はいつ元の姿に戻れるんだ』
『さぁ~?でも、いいんじゃない。漏瑚の姿は今の方が人間受けはいいよ。花御……ごめんね手遅れ。この間、ネットに画像があがった瞬間から何故か魂が固定化されちゃってね。有明の女王って存在に固定化されちゃったよ』
真人の能力を持っても既に戻せない。花御は、一瞬困ったが、深くは考えなかった。姿形などどうでも良いのだと。
『私としては、別に支障は無い』
「それは僥倖です。花御様……宜しければ、人間の負の感情があつまる場所で呪力を高めに行きませんか。実は、コミケ三日目の企業ブースで新イベントの発表予定があります。是非、貴方に来て頂きたい」
この時、花御は自身の存在が上書きされるほどの人間の改変能力を知る事になるとは考えても見なかった。人間とは共存不可能だと改めて理解する事になる。
花御ならカシマになっても不足はないと思っています!!
ちなみに、真人以外は全て擬人化されておりますw
それをやったのは当然真人です。
色々を事件するウチに仲間でも試した口です こいつは。