日本最大の同人誌即売会――その冬の陣。特に、その3日目には来場者数が20万人にも届く事がある。集う猛者達は、誰しもが底知れぬ負の感情を持っている。そんなおぞましい人数が一施設に集まるのだから、溜まるエネルギーも常軌を逸している。
そんな場所には、毎年、呪術高専から呪術師が派遣される。その目的は、このヘドロのように沈殿している負の感情を呪力をもって発散させる事だ。だが、今日ばかりは派遣された呪術師は、蛇に睨まれた蛙の如く一歩も動けなかった。
「呪霊GO」を開発運営している企業ブースの特設会場――そのイベント席。その中央に視界が歪む程の呪力を身に纏った特級呪霊花御改めカシマが平然と座っているからだ。
サイバーダイン・システムズ社が用意したガラスの個室に入る事で、一般人ですら有明の女王を視認できる事態。そのお陰で、会場からは床にひれ伏してローアングルでの撮影を試みる非呪術師達で溢れかえっていた。
「し、信じられね~。あのレベルの呪霊ならば、非呪術師といえども何も感じないはず無いぞ。彼奴等に恐怖って感情はねーのか」
「逃げるぞ相棒。こんな所にいたら命が幾つあっても足りない」
慌てず一歩ずつ確実に後退する呪術師の二人。
そんな会場を去ろうとする呪術師二人を確認する義善聖徳。近代社会において、携帯電話を持っていない人物などほぼ皆無。よって、この場にいる呪術師達の動向も彼の耳に報告が届いている。
特設会場の裏側で集まった負の感情を収集する特級呪霊達。まさか、こんなお手軽に数十万人規模からエネルギーを得られるなど、呪霊達からしても想定外だった。
「これから、新イベント特級呪霊カシマの紹介をするというのに邪魔が入ってしまうと困りますね。
『仕方が無いの~……って、儂は漏瑚だと何度も言っているだろう!! お主、わざとやっているだろう。儂は、花御のように簡単に存在を上書きされんぞ』
「失礼、噛みました」
既に、既存の特級呪霊に対しても存在の上書きが可能だと証明された。義善聖徳は、当然、わざと漏瑚を間違えて呼んでいる。
『全く、油断も隙もあったもんじゃない。で、殺せば良いのか?』
「いいえ、非殺傷でお願いします。勿論、私からのお願いでないときはご自由にしてください。私は、人殺しではありませんので」
漏瑚は、会場から逃げる呪術師を再起不能に向かう。
………
……
…
大人気スマホアプリ「呪霊GO」の新イベント特級呪霊カシマは大成功した。
大成功の要因は、コミケ3日目の企業ブースで有明の女王が降臨した事だ。それは、ネットだけでなく動画サイトでも投稿され瞬く間に拡散された。勿論、ハイテク技術が売りの大企業だからこそ、AIとVR技術を使った合わせ技だと噂される。
常識的に考えればその通りだ。呪霊の存在が水面下で浸透してきているが、まだ認識が現実に追いついていない。
だが、そのイベント後にとある噂が流布されるようになった。その噂は、あの特級呪霊ですら頭を抱えていた。
『人間とは、どこまで愚かな生き物なのか』
「あぁ~、淫魔像を前に全裸土下座して寿命の半分を渡すと誓えば低級呪霊カシマが現れるというアレですか。でも、本当みたいですよ。我々の呪霊GOでも呪霊反応を感知しています。一応、特定の条件を満たす人の元にしか現れないみたいだから、気にする程でもありませんよ。
『やはり、人間とは相容れない。それで、お前は私の分霊をどう使う気だ?』
分霊達が人間とどう接しているかフィードバックを受けている花御。勿論、それ相応の対価を貰っているので呪力も右肩上がりであった。
「バックアップです。これから、五条悟に対して威力偵察を行うのでしょう? だから万が一に備えて、分霊を作っておけば再起可能です。勿論、分霊をお守りする以上、弊社の研究にご協力頂きますけどね」
特級呪霊達は、義善聖徳が碌でもない事を考えている事は直ぐに分かった。だが、それでも手を取る。それが目的達成のための近道だからだ。
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サイバーダイン・システムズ社の会議室。そこでは、特級呪霊漏瑚と五条悟の戦闘が映し出されていた。
だが、お世辞にも絵面は最低である。
「美少女呪霊になった漏瑚を容赦なく殴りつける。更には、頸をもいで足を置くなど並みの精神力で無理でしょう。ここまでいけば、過剰防衛もいいところですね」
「同士義善。やはり、ロリババァキャラであったから、五条悟が罪悪感を感じないのではないだろうか。もっと庇護欲を誘うキャラに存在を上書きをすべきだったと愚考する」
実に納得のいく意見であった。
「分かりました。漏瑚様には、そのアイディアを提案します。そして、この戦闘画像をYoutubeに公開して世論を味方に、更には呪術師の行動を押さえつけます。非呪術師のやり方で我々は目的を達成するのです」
特級呪霊漏瑚が、死ぬ一歩手前まで追い詰められていた。だが、仲間思いの特級呪霊花御により救い出される。そんな美少女が美少女を救うシーンまで納められた動画は凄まじい再生数を誇った。
映画さながらの戦闘シーンもあり、その事から再生数が伸びたと思われたが……花御《カシマ》の下着が僅かに映っていたことが一番の理由であった。本当に、人間はどうしようもない。
東堂と虎杖が、誰をフルボッコにしたか覚えているでしょうか。
そして、この世界において特級呪霊花御の容姿は、有明の女王……。
次話は、考え中です。