BanG Dream!~失った日常を取り戻して~   作:TRcrant

1 / 1
序章『終わりの始まり』
プロローグ


僕、木村(きむら) 裕也(ゆうや)は、どこにでもいる普通の高校生。

両親は物心がつく前に死んでいるのでいない。

近所の人の話によると、父親は普通のサラリーマンで母はパートという共働きだったらしいけど、詳しいことは何も知らない。

何せ、僕が物心ついた時にいたのは、隣に住んでいた町田さんの家だったのだから。

町田(まちだ) 文代(ふみよ)

それが、僕の親代わりとなって面倒を見てくれた人の名前だ。

夫を亡くし、子供にも恵まれなかったらしく、僕のことを実の子のように育ててくれた人で、感謝してもしきれない。

その人は、”お母さん”と呼んでいいと言ってくれたけど、僕はその人のことを”文代さん”と呼んでいた。

お母さんと呼んでしまったら、もっと甘えてしまうのではと思ったからだったが、今にして思えばちゃんとお母さんと呼べばよかったと思っている。

 

 

 

 

 

高校に入ってすぐに、僕はアルバイトを始めた。

文代さんの負担を少しでも減らせられればと思って始めたバイトだったけど、色々と覚えることが多くて、最初のころは色々と手間取ったけど、時間が経つにつれて何とか慣れて行った。

最初に給料をもらった時の喜びは、今でも鮮明に覚えている。

そのころ、僕は色々な人と知り合いになっていた。

Poppin’Partyの人達や、Roselliaの人達に、Afterglowの人達、Pastel*Palettesの人たちと、ハロー、ハッピーワールドの人たち、Morfonicaの人たち、そしてRaise A Suilenの人たち。

出会って経緯は色々あるけど、とても個性的でいい人たちだった。

この人たちと出会った時から、僕の日常は変わって行った。

 

「ねえねえ、裕也君はメロンパンがいいよね?」

 

それは、ある日の練習の休憩をしている時のこと。

 

「違うよ、香澄ちゃん。裕也君はチョココロネが大好きなんだよ」

「香澄にりみも間違ってんぞ。裕也が好きなのはだし巻き卵だって」

「違うよ、煮込みハンバーグだよ」

 

戸山さんを皮切りに、牛込さんや市ヶ谷さんに花園さんたちが言い合いをしていた。

理由は、僕の大好きな食べ物をめぐってというものだった。

 

「あはは……これはなかなか収まりそうにないね」

「……なんだか、すみません」

 

僕の好きな食べ物が”食べられるもの”というのが原因なだけに、苦笑交じりに言ってくる山吹さんに、僕は体を縮こまらせながら謝るしかなかった。

 

「謝らなくていいよ。はい、ミッシェルパン」

「ありがとう。山吹さん」

 

山吹さんが取り出した熊の顔の形をしたパンを受け取りながらお礼を言った僕は、それを食べることにした。

 

「あーー!! さーや抜け駆けズルいっ!」

「沙綾ちゃん、それはひどいよ」

「抜け駆けだッ」

 

そして、それをめぐってまたいい争いが起こる。

それが僕の日常だった。

音楽の知識も、才能もない僕がどうして7バンドの練習を見ることになったのかは、いまだに自分でもよくわからない。

それでも、失敗に失敗を重ねながらも、僕は彼女たちの力になろうと努力を重ね続けていた。

今にして思えば、みんなと知り合ってから毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかった。

この楽しい時間がずっと続けばいい。

そう思ってたんだ。

 

 

 

 

 

「そんなっ! 先生、何かの間違いじゃっ!?」

 

僕の幸せな毎日に暗い影を落としたのは、文代さんの悲鳴にも似た声だった。

僕がいるのは病院。

数日ほど体調が悪い状態が続いていたのを心配した文代さんに付き添われる形で、訪れていた。

元々体は弱いほうで、体調を崩すことがよくあったので今回のもまたそれなんだと思っていたのだ。

だが、一通りの検査を終えて、結果を聞こうとした時、担当の先生から僕だけ外の待合室で待っているようにと告げられたことが、不安を抱かせた。

担当の先生の表情がこわばっている……むしろ辛そうであることが尚更それに拍車をかけていたのだ。

だから僕は先生に

 

「お願いします。本当のことを知りたいんです」

 

とお願いして、その場に留まることにした。

僕のそのお願いに、”分かりました”とだけ答えた先生から、検査の結果が知らされた。

どんな結果でも、受け入れる覚悟をしていたはずなのに……

 

「残念ですが……もう手の施しようがありません。持って半年ほど……です」

 

僕に突き付けられたのは、突然の死へのカウントダウンだった。

その衝撃に、病名はおろか、先生の話が全く頭に入ってこなかった。

僕の覚悟は、中途半端だったのだ

 

(そんな……嘘だ……これは夢なんだ)

 

必死に自分にそう言い聞かせるだけで、精一杯だった。

 

 

 

 

 

先生から余命宣告されてから、文代さんはとても悲しそうな顔で僕を見るようになった。

どんなに僕が大丈夫と言っても、文代さんは笑ってくれることがなくなってしまった。

 

(変だよね。何ともないのに)

 

自覚症状なんてそんなにない。

数日続いた体調不良も、少しすれば直ったので、今まで通りの状態だ。

それがかえって、余命宣告そのものが夢であったのではと思わせていた。

一か月。

二か月。

三か月と時間が過ぎて行っても何も変化はなく、僕は何かの間違いなんだと思い込んでいた。

でも、現実は残酷で、5か月が経過した頃に、体の調子はめまぐるしく悪化し始めていた。

先生から処方された薬のおかげで、軽減されているとはいえ、体中に走り続ける痛みはとても辛くて、今までだったら大丈夫だった道も、すぐに息が切れるようになっていた。

それでも、僕は皆には病気のことを言ってなかった。

皆を心配させないため。

なんていえば格好がいいけど、本当は現実を受け入れたくなかったから。

皆と一緒にいる時だけ、僕は自分に突き付けられた現実を忘れることができる。

そんな現実逃避にも近い理由だった。

そのころ、彼女たちと一緒になってある一大イベントを成功させるべく、日々準備を進めていた。

それが『ガールズバンドパーティー』通称”GBP”

ライブハウスCiRCLEで、過去二回ほど開かれた催しの第三弾ということもあって、みんな気合が入っていた。

僕はどちらかというと会議の進行や意見のとりまとめ、設営準備などの裏方的な役割を担っていたが、このイベントの時にはみんなの演奏を聴かせてもらう約束になっていた。

 

(早く、当日にならないかな)

 

みんなの演奏が楽しみで仕方がなかった僕は、GBP開催日に早くなってほしいと待ち望んでいた。

……だけど、GBP開催まで残り一週間を切ったある日、僕の病気が進行して、僕は入院生活を余儀なくされた。

準備に参加できないことを連絡する時に、その理由をこの時も、”家の都合”としか伝えられなかった。

正直に言ったほうがいいのは、僕だってわかっている。

でも、それを言うことができなかった。

 

(大丈夫。明日にはよくなってるよ)

 

僕はそう思って病室のベッドに横たわりながら外を眺めた。

そんな僕をあざ笑うように、一日、また一日と、日を追うごとに体調は悪化していった。

そして、GBPの前夜。

 

(大丈夫……明日になれば……良くなってる)

 

この日も、それまでと同じように自分に言い聞かせる。

もう、手足を動かすことができないのに。

 

(明日起きて、GBPに行くんだ)

 

そう思いながら、僕の意識はブラックアウトしていった。

 

 

 

そして、僕が目覚めることは二度となかった。

 

 

 

そう。

 

 

 

僕は、死んだのだ。




初めての方は初めまして。
この度は本作をお読みいただきありがとうございます。
初っ端から重い話ですみません。
しばらくは暗い話が続きますが、お付き合いいただけると幸いです。
今回は、主人公のモノローグに近い話なので、セリフが少なめだったりします。

本作は不定期投稿です。
完全に気ままに書いている状態なので、温かい目で見守っていただけrと幸いです。



それでは、また次回お会いしましょう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。