月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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バーサーカー
イリヤの父親 これは半ば公式見解と考えてもいいだろう
とにかく巌のようにかっこいい……

そんな存在とどう戦うのか……

まぁ予想してる人もいるだろうけどw

そして今回でようやく刃夜も聖杯戦争の概要を知りますよ~


それではどうぞ!







状況

「ん?」

 

それを感じたのは店を閉店してからしばらく時間がたってからの、日付が変わるころだった。

 

「動いたのか?」

「どうやらそうらしい」

 

後片付けやら明日の店の仕込みを行ないながら、俺と小次郎の感覚はずっと、外へと向けたままだった。

そしてようやくとらえたのだ……。

 

 

 

戦いの気配を……

 

 

 

「これはまた随分と強大な気配だな……どうなってるんだここは。いや……これはひょっとして」

「覚えがあるのか? 粗野、もしくは兇悪とも言えると思うぞ」

 

二人して戦闘準備を行いながら、口々に自分の思いを口にする。

少女の背後にいたのと……似ていると思ったのだ。

板前服から着替えつつ、俺は戦闘服へと着替え、得物達を装備する。

小次郎は直ぐに済むが俺は少し時間がかかった。

 

とりあえず手始めに……スタンダードで行くか……

 

手にした得物は左腰に夜月、後ろ腰に水月、背中に封龍剣【超絶一門】を入れた黒いシース。

そして右手に持つのは、長大な得物である狩竜だった。

 

「それも持って行くのか?」

「自慢の得物だからな。何が出てくるかわからない以上、大体の物に対応できて損はない」

 

自慢の得物というのは本当だ。

元々打刀であり、二番目の相棒だった夕月の生まれ変わり。

そして、モンスターワールドにて俺の最後の敵だった煌黒邪神を刺し殺した……得物。

 

「さて、何が起こっているのかわからないが……気配から察するに穏やかではないだろうな」

『凄まじい闘気だ。下手をすれば古龍にも匹敵するぞ? どうにかなるのか?』

 

そんな俺に封龍剣【超絶一門】が語りかけてきた。

というかその内容に俺は驚いた。

 

古龍に匹敵するのかよ……どんな化け物だ?

 

「古龍とは? またぞろ聞き慣れない単語だが」

「……とりあえず化け物だって思っておけばいい」

 

モンスターワールドのことを話すべきか一瞬悩んだが、時間がかかりそうだったので簡潔に説明しておいた。

 

「ふむ。単純にして明快な言葉だな。了解した」

「封絶も頼んだぜ? お前の知恵と力に期待しているぜ」

『了解だ仕手よ。というかその封絶というのは?』

「あぁ、お前のあだ名だよ。封龍剣【超絶一門】だと長いし、なんか略称というか、あだ名はないものかとずっと考えていたんだ。小次郎ですら愛称で呼ぶのだからお前にあってもいいだろう? イヤだったか?」

『いや、突然だから驚いただけだ。別に構わぬ』

 

小次郎との呼び名が決まってからずっと考えていたことだった。

封龍剣【超絶一門】という名前はすごいかっこいいと思うのだが、如何せん長い。

それに愛称みたいな物があってもいいだろうと思い、略称したのだ。

それの許可を貰い、俺と小次郎は店の外へと出た。

 

「では……ゆくとしようか……小次郎、封絶」

「了解した」

『随意に、仕手よ』

 

幽霊の相棒と、剣の相棒ともに挨拶を交わし……俺たちは夜の街を駆け抜けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「やっちゃえ……。バーサーカー」

 

その声と供に……巨体が宙を飛んだ。

坂の上から士郎達との距離までおよそ数十メートル。

それをその巨人は……一足にして突貫してきた。

 

「シロウ! 下がって!!!!」

 

敵との交戦になり、唯一対抗しうる存在であるセイバーが、自身を隠していた雨合羽を放り投げて、四肢に力を込めて迎え撃った。

 

そして互いの得物が激突し……

 

 

 

轟音が響き……空気が震えた。

 

 

 

剣なのか斧なのかわからないその巨人が持つ岩のような物体を……セイバーが受け止めている。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

顔を歪めるセイバー。

そのセイバーに巨人が……容赦なくその得物を振るった……。

もはやその岩剣は暴力その物だった。

何合か切り結ぶが、その体格差故に直ぐに結果が生まれる。

セイバーが受け止めた剣事、吹き飛ばされたのだ。

 

 

 

「くっ!!!」

 

 

 

剣で受けたためにダメージその物は軽微だろう。

だがそれでも圧されているのは目に見えていた。

その少女を追い詰める……黒き巨人。

手にした岩剣を振ることしか知らぬかのように……それを振り回し、叩きつける。

それを剣で受け流して、何とか直撃を避けるセイバーだが……それでも劣勢であることに代わりはない。

故にセイバーの勝機とは、巨人の隙を見いだしてのカウンターしかない。

 

だがそれも直ぐに無駄だと悟るのに、さして時間はかからなかった。

 

 

 

!!!

 

 

 

唸りを上げて迫るその剣戟は嵐その物であり……隙はあるが、その嵐でその隙を突くことが叶わないからだ。

辺りの物を吹き飛ばして行われる……破壊と殺戮の嵐。

 

そしてそれをセイバーは……もろに受けてしまった。

 

その小柄な身体がものすごい速度で宙を舞った。

だが意識は失っていないらしく、宙で身を翻して何とか地面に足から着地した。

しかし……それだけだった。

 

「ぐ……っ!」

 

その胸の鎧に赤い色が混じっていた。

それを見て士郎が絶句した。

 

(そうだ……あいつはこれで三戦目で……まだランサーの傷が治りきってない!)

 

そのセイバーに追従を仕掛ける狂戦士。

それを見て、凜が動いた……。

 

「Vier Stil ErschieBung!!!!」

 

呪文と供に、凜の左腕から魔力の力が迸る。

ほぼノータイムで放たれたにもかかわらず、その威力は大口径の拳銃に近い威力を誇っていた。

 

が……それも無意味だった。

 

セイバーのように無効化したわけではなく、ただ狂戦士は受け止めただけだった。

しかしそれでも何事もなかったかのようにそれは吼えた。

狂戦士のその身体はその程度の攻撃では何とも感じていないようだった。

だがそれでも何もしないわけにはいかない。

凜はさらに追撃を仕掛けるが、効果はない。

それは当然だった。

バーサーカーには究極とも言える護りがある。

それを破るのは、それこそ強大な力が必要だった。

凜の攻撃は確かに人間としては強大だが、サーヴァントからしたら……焼け石に水どころではなく……極熱の巨岩に水滴だった……。

 

「……くっ!」

 

セイバーの顔が歪む。

だがそれでもその目に宿る光が、戦意を失っていないことを物語っている。

そのセイバーに……さらに巨人の狂戦士が剣を振るった。

 

 

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

 

 

吠える……。

黒き巨人が。

 

 

 

!!!!

 

 

 

轟音。

それと供にセイバーが吹き飛ばされ……士郎達の近くに激突した。

 

「セイバー!」

 

士郎の絶叫が夜の空気を震わせる。

それが聞こえたのか否か……ゆらりと、まるで力が入らないはずのセイバーが立ち上がった。

鮮血まみれで、先ほどまで美しいと感じていたその姿に見る影はない。

何より、意志の感じられぬその仕草が……セイバーがすでに限界であることを如実に語っている。

それでも立ち上がったのは、このまま自分が倒れれば、己のマスターが死ぬという絶対の事実があるからだった。

 

見えない何かを地面へと突き立てて、それを杖に立ち上がる……

 

先ほどまで充溢していた戦意も霧散し、立ち上がる力さえも失っている……

 

見えないはずのその剣に……彼女自身の赤い血が滴っている……

 

一瞬の沈黙……。

それを破ったのは、坂の上にいる小さな少女だった。

 

「あは、勝てるわけないじゃない。私のバーサーカーはギリシャ最大の英雄なんだから」

「ギリシャ最大の英雄ですって!? まさか……」

「そう、そこにいるのはヘラクレスって言う魔物。それがどういうことを意味するのか……わかるわよね?」

 

少女イリヤの台詞に、凜は歯がみをした。

それが紛れもない事実だとしたら、生半可な存在がつとまる相手ではないのだから。

 

 

 

サーヴァントは、過去の英雄たちが現世へと召喚された存在。

霊体である彼らはそこに住む人々の認知度によってその性能、能力に影響が現れる。

そのため、認知度が多ければ多いほど、そのサーヴァントは強力な存在へとなっていくのだ。

そのため、ヘラクレスという日本に置いても知らぬ者はほとんどいないといっても過言でない大英雄のサーヴァントというのは……桁外れな能力を有しても何ら不思議はなく……

 

 

 

この通り、実際兇悪なまでの力を有していた……。

 

 

 

イリヤが愉しげに瞳を細めた。

それは敵の止めを刺そうとする愉悦と余裕の笑み。

その相手が誰かなど……考えるまでもない。

 

普通ならばそれがわかっても動けないのが普通だった。

 

なぜなら相手は文字通りの化け物なのだ……。

ただの人間でしかない存在が……対抗しうる存在であるはずがない……。

 

しかしここでもここにいるのはただの人間ではなく……

 

 

 

「こ――のぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

正義の味方を目指す……青年だった……

 

 

 

駆けた。

敵が剣を振り上げるのを見て、士郎は全力で駆けた。

己のために力を尽くしてくれた存在が、このままやられるのを黙って見ていることなど出来るはずがないからだ。

だがかといって士郎が、セイバーの代わりにバーサーカーと戦うことなど出来るはずもない。

故に士郎が取った行動は、今まさに殺されようとしている少女を突き飛ばして、その死から救うことだった。

 

 

 

だがそれを……

 

 

 

 

 

 

「何考えてんだぼけ!!!!」

 

 

 

 

 

 

余りにも不釣り合いな罵倒が……遮った……

 

 

 

そして少女へと走り寄っていた士郎を蹴り飛ばした。

 

 

 

「がっ!」

 

 

 

急なことでそれを避けることが出来るわけもなく、士郎は吹き飛ばされた。

誰が吹き飛ばしたのかそれを見ようとするが、その前に他の人物から答えが教えられた。

 

「あんた!? 定食屋の!?」

「あん? 遠坂凜か。士郎といい、顔見知りが多いな」

 

互いに意外な出会いに戸惑う人間。

さらにもう一つの影が、バーサーカーが剣をセイバーへ振り切る前に、そのバーサーカーへと斬りかかっていた。

 

 

 

「!?」

 

 

 

その剣に何を感じたのか、咄嗟にバーサーカーが剣を振り降ろすのをやめて、その剣を迎撃した。

その巨大な剣を、ひらりと……その男は華麗に躱した。

 

「なんと恐ろしき剛剣よ……。これは受けたらひとたまりもないな。よくぞこれを受けていたものだな……可憐な小鳥よ」

「あなたは!?」

「何、通りすがりの者よ」

 

青紫の陣羽織に、長い絹のような長髪。

そして手にした、長い野太刀……。

そしてその男以上に長い野太刀を右手に持った……男。

 

 

 

供に、野太刀を携えた二人の男達……

 

 

 

アサシンのサーヴァント佐々木小次郎と、そのマスター鉄刃夜の二人組だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

な~んかすごい状況だな

 

無謀にも、知り合いが死のうとしているのでそれを妨害するために蹴り飛ばしたのだが……士郎だけなく、まさか遠坂凜までいるとは思わなかった。

そして何よりも……明らかに人間じゃない黒い巨人が、この異質な状況をさらに異質と言うことを強調していた。

 

「……お兄さん、来たんだ。やっぱりマスターだったのね」

「だから俺は店主(マスター)だと前から言っただろう……」

 

あ、そう言うことだったのか……

 

店主としてではなく、サーヴァントとかいう霊体との主従関係のことを指していたのだと、今気づいた。

ちょっと恥ずかしかったが……まぁ今はマスターとか言う存在なので結果オーライと言うことにしておこう。

 

それに……そんな場合じゃなさそうだしな

 

少女と俺との間に存在する……巨大な壁。

黒き巨人……サーヴァント。

後方で小次郎が救ったのも気配が独特なので、おそらくサーヴァントとか言う存在だろう。

これで少なくともサーヴァントとか言う存在は小次郎、先日の槍兵、目の前の巨人、そして華奢な少女で、合わせて四人は存在することになった。

 

一体何が起こっているのやら……

 

だがそれを確認する事は出来そうになかった。

なぜなら……。

 

 

 

黒き巨人が俺のことを鋭く睨みつけているからだった。

 

 

 

「逃げる……訳にはいかないようだな」

『古龍に匹敵する力を持っていそうだが……大丈夫か?』

『心配ない。確かに凄まじいほどの殺気だが……それで動きが固まるほど柔じゃない』

 

封絶の言葉に、俺は素直な感想を述べた。

確かにこの目の前の巨人は古龍に匹敵する強さを持っていそうだった。

だがそれだけだ。

先ほど接近するときに見ていたが、特殊な攻撃は特になさそうだった。

そう言う意味では古龍種達よりよほど戦いやすい。

その代わりと言うべきか……俺も古龍と戦ったときに使用していた龍刀【朧火】を使用できないが……それでも十分に戦うことは可能そうだった。

 

「行くぞ小次郎? 準備はいいか?」

「問題ない。では参ろうか」

「行くって……ちょっとあんた!? 生身でサーヴァントに立ち向かうつもり!?」

 

そんな俺に、呆れきった声で凜が俺に声を掛けてきた。

それはどうやら士郎、そして騎士然とした少女も同じらしく、俺に妙な目線を向けてきている。

大体どんな意味で言ってきたのかわかったが……別に問題はなさそうだった。

 

「別に問題ないだろう」

「問題ありまくりよ! 普通の人間がサーヴァントに……それもあのバーサーカーに立ち向かうなんて正気の沙汰じゃないわよ!?」

「正気だが」

「どこがよ!?」

 

 

 

「……俺は人間だが……少なくとも普通の人間じゃないからよ」

 

 

 

「……え?」

 

きょとんと……俺の返答に遠坂凜が呆然とした。

説明するのも面倒だし、そんな暇もなさそうだったので、俺は再度バーサーカーへと向き直った。

そして目線を、少し先にいる子供へと向けた。

 

「……引く気はないかお嬢ちゃん?」

「……何で引かなきゃいけないのかしら? 私の目的の一つは、お兄ちゃんを殺すことにあるの。それを邪魔するなんて許さないんだから」

「穏やかじゃないな……」

 

その言葉に嘘がないことは、俺に邪魔されたことによってゆがめられている表情を見れば一目瞭然だった。

だが運良く知人が俺と同じような状況に陥っているのだ。

ならば何か情報をもらえると考えてもいいだろう。

その情報源を死なせるわけにはいかない。

 

「行くぞ小次郎」

「うむ」

 

そして俺たちは圧倒的存在へと、無謀にも己が持つ得物で突貫した。

 

 

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

 

 

凄まじい咆吼と供に、巨人から巨大な斧のような剣が振りかぶられる。

これほどの速度で迫り来る剣を紙一重で避けるわけにはいかないので、俺は大きく避けてそれを回避。

 

確かに怖いが……俺が今まで戦ってきた化け物よりすごいってことはなさそうだな!

 

モンスターワールドで相対してきた連中より下ではないだろうが、それでも上と言うことはなさそうだった。

その分こちらも古龍種達と戦っているときよりスペックは低いが、どうとでもなる。

 

あの経験も、無駄ではないってことだな!

 

がら空きになった銅へと俺は狩竜を気、魔力で強化し、その力の限りに振るった。

 

「ずあっ!」

 

 

 

 

 

 

な……何これ?

 

私……遠坂凜は、眼前の光景を見て呆気にとられていた。

 

「■■■■■■■■!!!!」

「はっ!」

 

圧倒的な存在であるバーサーカーへと、無謀にも生身の人間が突進したのだ。

直ぐに消し飛ばされるかと思ったけど……それは直ぐに否定された。

 

ギィン!

 

その手に握られた、野太刀の圧倒的な長さを頼りにして遠くから、あり得ないほどの速度で振るってバーサーカーへと生身で斬りかかっていた。

しかもその動きも……生身の人間でありながら、サーヴァントとほとんど拮抗しうる速度を有している。

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

だけど、その長大な長さから繰り出される野太刀の一撃を持ってしても、バーサーカーの身体を突破するには及ばなかった。

しかもその長さが邪魔をして、直ぐに剣を戻すことが出来てない。

それでもあり得ないほどの速度で切り返しを行っているけど……。

そのピンチを……

 

「私を忘れてもらっては困る」

 

鉄刃夜のサーヴァントがいつのまにかバーサーカーの懐に忍び込んでおり、振り上げた野太刀を振り下ろす。

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

それをバーサーカーは腕で受け止めていた。

さすがにサーヴァントの攻撃を受けるのは得策ではないと判断したのかもしれない。

 

遠距離より、その圧倒的な長さを持って攻撃を仕掛ける鉄刃夜と、その長さ故に切り返しが後れてしまう隙を、懐へと潜り込んだサーヴァントがカバーする。

ほとんど完璧と言ってもいい連携だった。

 

何なの……あいつら……

 

わからないことだらけだった。

生身でサーヴァントと拮抗するあいつも、そのサーヴァントも……はっきり言って意味がわからない。

 

特に……鉄刃夜……

 

その存在が私にとってはさっぱりと言っていいほどわからない。

あいつが魔術師でないことは本人の口からも、そして私自身も何度も観察してわかったことだ。

これに関しては間違いない。

だというのに、現実としてあの男はマスターとしてこの場にいる。

マスターになれないはずの男がマスターになっているのが……意味がわからなかった。

マスターには誰でもなれるわけではないのだ。

最低にして、絶対の条件がある……。

マスターになる絶対の条件……それは……。

 

 

 

魔術回路がなければ、令呪が宿らないという、条件だった……

 

 

 

「ふっ!」

 

それを否定するように……鉄刃夜のサーヴァントの侍が、剣を振るってひとまず距離を離した。

相方であるサーヴァントが一旦引いたことで、鉄刃夜も距離を離す。

 

「……お兄さん、何者なの? 本当に人間?」

「……昨日から色んな奴に聞かれるな……。俺は歴とした人間だぞ?」

「でも、それで私のバーサーカーと斬り合えるなんて……おかしいわよ?」

「……まぁ色々と普通じゃないからな俺は」

 

 

 

「それだけで片付けるな!」

 

 

 

思わずその余りにも馬鹿げた鉄刃夜の台詞に、私は吼えてしまった。

確かに普通じゃないだろう。

だからといって、生身でサーヴァントとやり合える存在をそれで片付けていいはずがないのだから。

 

 

 

 

 

 

ゴォッ!

 

「くっ!」

 

唸りを上げて迫る剛剣……剣? 岩の塊のような剣だが……を何とか避けて、俺は内心で冷や汗をかいていた。

どれほどの重さかわからないが……決して軽くはないはずのその巨岩を、黒い巨人は縦横無尽に振るっていた。

しかもそれが完全なる力任せという訳でもなく、確かな技量を感じさせる剣だったのだ。

 

気と魔力で強化したとはいえ……これをまともに受けたら武器が砕けるな

 

さすがにこれをもろに受けてしまっては、狩竜や封龍剣【超絶一門】が砕けてしまうだろう。

そのために基本的に敵の剣は避けるしか方法がない。

それは別に問題なく行えるが……攻撃が通じていないのが歯がゆかった。

 

硬すぎだろ……

 

気と魔力で強化された狩竜の一撃を、すでに幾度も食らっているというのに、巨人は全く意に介していなかった。

まるで巨大な鉄板ないし鉄の塊を叩いているかのようである。

実際身体が強固なのは間違いないだろう。

しかしそれ以外にも、この身体の固さには何か秘密がありそうだが……。

 

龍刀【朧火】があればな……

 

アレは全ての魔力の現象を切り裂く究極の神器。

予想だが、あれを顕現して斬りかかれば、この巨人とてただでは済まないだろう。

だがこの世界は余りにも魔力(マナ)が希薄すぎる。

そのため、身体能力は強化できても龍刀【朧火】を狩竜に顕現するほどの力はなかった。

だがかといってなくなっているわけではない。

俺の未熟さもあるだろうが、この世界での龍刀【朧火】の顕現は不可能そうだった。

 

まぁ無い物ねだりしても仕方がないが……

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

咆吼を上げて、振るわれる巨岩。

それを俺は避けて、狩竜の圧倒的長さに物を言わせて、多少の間合いを空けて野太刀を振るった。

 

ギィン!

 

だがそれも弾かれてしまう。

赤黒い刀身が弾かれたことによって宙を舞い、俺に一瞬隙が出来るが、それを懐に入っている小次郎がカバーする。

 

「そうはさせぬ」

 

俺の攻撃とは違い、巨人はその一撃を斧剣で受け止めている。

そしてそのまま吹き飛ばし、追撃を仕掛けるが……巨人の斧剣ですらも、小次郎はあっさりと避け、もしくはその野太刀で流していた。

 

……マヂでこいつが最も化け物だな

 

巨人も十分……というか一番化け物っぽいが、小次郎は別の意味で化け物だった。

確かに日本刀というのは刀を受け止めるのではなく、流すことを前提に作られた物ではなるが、はっきり言ってそれは至難の業だ。

しかもその相手がこの黒き巨人というのだから、流すことは至難という言葉ですらも収まりきらないほどの難度だというのに。

 

 

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

 

 

さらに敵が吼える。

自身の周囲を根こそぎ吹き飛ばすように剣を振るって、俺たちを強制的に自身の間合いから遠ざけた。

俺はそれを気壁を使用した二段ジャンプで、小次郎はひらりと舞うようにして回避した。

巨人はそのまま突っ込もうとしたのだが……突然構えを解いた。

そして自身のマスターのそばへと歩み寄る。

マスター、イリヤはクスクスとおかしそうに笑っていた。

 

「負けることもなさそうだけど、面白いから見逃して上げるね。バイバイ……お兄ちゃんに、お兄さん」

 

そう言って自身のそばにバーサーカーを近寄らせて、ふわりと……飛び上がってその巨大な肩へと座った。

そのイリヤを慈しむように……バーサーカーがその手で彼女を支えて、歩いていった。

 

……ふぅ。どうやら難は去ったかな

 

敵が引き上げたことで、俺はようやく身体から力を抜く。

一応戦闘が終わったので俺は狩竜の鞘を組立てて、狩竜を納刀した。

 

確かに圧倒的だったが……まぁ何とかなったな

 

敵の巨人は確かに圧倒的な強さを誇っていたが……それでも俺が相手をしてきた怪物に比べればまだかわいいところがあった。

剣を振るう速度は確かに驚異的だし、その巨大な剣から繰り出される威力は掠りでもすればそれだけで御陀仏だろうがそれだけだ。

古龍種関係と違ってやはり特殊攻撃がないのが非常に助かった。

 

「ふむ……手に汗を握る状況だったが、何とかしのげたようだな」

「あぁ。紙一重で死んでたかもな……俺」

「何を言う。その巨大な野太刀で大盤振る舞いであったではないか」

 

 

 

「バカにしてんのかぁぁぁぁ!」

 

 

 

「「うん?」」

 

背後からの怒号に、俺と小次郎は揃って訝しい声を上げて、振り返る。

そこには拳を握りしめている遠坂凜の姿があった。

 

「あんたら……いったい何なの!?」

 

ものすごい剣幕で近寄られて、俺も小次郎も互いに顔を見合わせるしかなかった。

いったい何なの? と言う言葉が何を指しているのかわからないし、仮に何を指しているのかわかっても、俺と小次郎には答えようがなかったからだ。

 

「ちょうどいい。事情わかっているんだろ? 出来たら教えてくれないか?」

「……何が?」

「いやぁ、こいつな」

 

そう言いながら俺は小次郎を指さした。

 

「自分のことがアサシンのサーヴァントっていう意味のわからない存在であることと、佐々木小次郎ってことしかわかってないんだよ」

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎と申す。以後お見知りおきを。可憐な小鳥たちよ。して……月を愛でながら私と一緒にみたらし団子などを一串いかが……」

「出会い頭にナンパをするな」

 

こいつは……全く……

 

内心呆れていたが、ある意味で無理からぬ事かもしれなかった。

騎士の格好をした子も見た感じ女の子のようだし、遠坂凜だって黙っていれば普通に美人だ。

小次郎がナンパしないわけがなかった。

今日も店での接客中にナンパをしまくるからそれをわざわざ仲裁するのが大変だった。

しかも幾人かの女性は本当に見惚れていたし……。

 

まぁ実際美青年だもんな

 

悔しいが……容姿では勝てそうにない。

別にそこまで不細工だと思っていないが、顔ですらも別次元の存在が目の前にいたら自信をなくす。

まぁそこまで容姿に気を遣ってないのでどうでもいいと言えばどうでもいいのだが。

 

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 

俺の言葉と、小次郎の言葉に遠坂凜と絶句した。

しかし俺と小次郎……そして士郎もその驚愕の意味がわかっていなかった。

 

「……とりあえず教えてくれないか? どういった状況になっているのか?」

 

 

 

 

 

 

場所は変わって衛宮士郎家。

最も近かったと言うこともあって、士郎の家へとお邪魔していた。

随分と大きな武家屋敷である。

母屋、離れ、道場、土蔵、そして広い庭……。

結構な資産を持っているようだった。

その家の居間でお茶を頂きながら、俺と小次郎は話を聞いていた。

 

「……聖杯戦争?」

「そう、あなたの横にいる……アサシンのサーヴァントは、その戦争のために存在しているの」

 

呆れながらも、机の対面に座っている遠坂凜に、俺と小次郎は興味深く話を聞いていた。

何でも七人のサーヴァントという英雄の霊体を使役して、他のサーヴァントとマスターをぶっ飛ばして、何でも望を叶えることが出来る聖杯とやらを入手するための戦争だという。

ついでに言うとサーヴァントとか言うのはマスターが常時魔力(オド)を供給しなければ存在できないらしい。

仮にマスターが死んだりしたら数時間程度しか存在できない。

そして俺が小次郎との繋がりを探してみたら……余りにも意外なところから気が流出しているのがわかった。

 

……狩竜から? だと?

 

意外と言うべきかなんというか……狩竜に溜められているはずの俺の刃気から本当に微細な量がなくなっているのがわかった。

ちなみに刃気は俺の愛刀達の刀身に俺の余剰の「気」を込めて蓄えておくことだ。

どうやらマスターの証たる令呪は、俺の身体に宿っているが、本来であればその令呪から魔力(オド)が供給されるはずだというのに随分と変則的な状況になっているようだ。

 

まぁ、俺自身がイレギュラーな存在だしな

 

それで片付けてはいけないような気がするが……別に構わない。

繋がりがないというのであれば問題であったが、普通とは違うとはいえあるのであれば問題はない。

 

しかし……大そうなものだな

 

それが聖杯戦争に対する素直な俺の感想である。

またこの場にはいないらしいが、遠坂凜にもサーヴァントがいるらしい。

なお何故わざわざサーヴァントのことをクラス名で呼ぶのかというと、敵に真名を知られないためであるらしい。

 

 

 

真名

つまりはサーヴァントが生きていた頃に名乗っていた己の本当の名前。

率直に言ってしまえば「正体」である。

何故わざわざ正体を隠すのかというと、名を知られてしまうとその英雄の伝承、伝説を知られると言うことであり、弱点に繋がる情報をさらけ出すことになってしまうのだ。

 

召喚したのがアキレスであると知られてしまうと、アキレスの伝承より「かかと」が弱点であると知られてしまう

不死の身体にするために母親が冥府を流れる川の水にアキレスを浸したとき、母親がかかとを掴んでいたためにそこだけ不死にならなかったため

 

 

 

つまり俺はすでに俺のアサシンのサーヴァントが「佐々木小次郎」だと知られているのだが……。

 

佐々木小次郎の弱点って……なんだ?

 

佐々木小次郎は巌流島での宮本武蔵との決闘が有名で、武蔵がわざと遅れることで小次郎を怒らせて明確な判断力をなくさせて倒したという逸話がある……のだが隣りに座って呑気に茶をすすっている小次郎はそんな風には見えなかった。

ちなみにその小次郎のことを、少し離れた位置からセイバーとやらがものすごい勢いで睨みつけていた。

己の主人と俺が知り合いと言うことで、一応同じ空間にいることは許したものの、やはり直ぐに信用することは出来ないようだった。

 

ま、賢明な判断だな。敵を直ぐ信用することは下策だからな

 

別段ここで刀を振るうつもりはない。

その証拠として俺は刀を左にではなく右に置いているからだ。

ちなみに狩竜は壁に立てかけている。

刀を左右どちらかに置くことによって、その持ち主の腹がわかるのだ。

左に置けば、直ぐに抜刀して斬りかかることが出来る。

これは基本的に日本刀が右で扱うことを想定して作られているからである。

右に置けば左に置くよりも抜くまでにタイムラグが生じる……持ち直す必要性があるため……ので「交戦の意志はない」という意味があるのだ。

しかしそれを逆手にとって、左利きの剣士を使用して暗殺なんかも行ったらしいが……。

 

まぁ俺、両方とも使えるけどな

 

俺はどちらの手であっても問題なく振るえるのだが……それでも左に置かないことに意義があった。

実際この二人を倒すつもりはなかったからだ……。

 

 

 

数分前までは……だが……

 

 

 

 

 

 

「刃夜、良ければ一緒に戦わないか?」

「シロウ!?」

「俺自身に聖杯に望む願いはない。だけど無関係な人が傷つくことだけは許せない。だから……」

 

俺はセイバーの静止を無視して、刃夜にそう話しかけた。

事情を全く知らなかったことから、刃夜もこの聖杯戦争に無理矢理参加させられてしまっていると思ったからだ。

拒否できない以上戦うしかない。

それにもしもあらゆる望を叶えるという聖杯が悪人の手に渡ってしまったことを考えると……俺の心はきしんだ。

 

十年前のあの光景を思い出して……一瞬吐き気を催したが、俺はそれを飲み込んだ。

 

アレを再び起こさないためにも、俺は何とかしてこの聖杯戦争を正義の味方として戦わないといけない。

関係ない人が被害に合わないために……。

刃夜も同じだと思っていた。

だがその刃夜の答えは……

 

 

 

「済まないな士郎。それは出来ない」

 

 

 

え……?

 

 

 

意外とも言える言葉に、俺は思わず固まってしまった。

それは遠坂も同じらしく、鋭い眼光を刃夜に向けていた。

 

「俺も先ほどまではこの戦争に興味はなかったんだが……景品が「何でも望みを叶える」っていうのならば話は別だ」

「!? 刃夜には叶えたい願いがあるって言うのか!?」

「あぁ。激しく私的なことだが……一つあるんだ、俺には」

 

そう言って立ち上がりながら、刃夜は隣に座る己のサーヴァントにも席を立つことを促した。

だけどその前に俺はどうしても聞かなければいけないことがあった。

 

「何を望むんだ!?」

「……俺の故郷へと帰ることだ」

「故郷?」

「そうだ。まぁ俺も色々あってな。この冬木市が故郷というわけじゃないんだ。叶えられるかどうかは謎だが……賭けてみる価値はあるだろう。……まぁ最も、その程度で解決出来るような状況にあの二人がするとは思えないが」

 

……なんだって?

 

後半だけよく聞き取れなかったが、それでも刃夜が聖杯に賭ける望みがあると、わかってしまった。

 

「……私は別にあなたが聖杯戦争に参加しようとしまいと構わないのだけど……一つ聞かせてくれるかしら?」

「……なんだ?」

 

じっと、鋭い目で遠坂が刃夜へと睨みつけながら言葉を発した。

それを明確に感じ取っているのか、刃夜もある程度身構えつつ、言葉を促した。

 

「あなた……何でマスターになれたの? マスターになる最低条件は体内に魔術回路があるのが条件のなのよ。あなた前に言ったわよね? 自分は魔術師じゃないって」

「あ~……それかぁ……。正直言って俺もはっきりしたことはわからん」

「……本気で言ってるの?」

「あぁ。俺は魔術師じゃない、これは確かだ。だがマスターとやらが魔術師でしかなれないと言うのに俺がマスターになったのは……多分俺と小次郎が普通じゃないからだろう」

「……普通じゃないですって?」

 

刃夜の言葉に、遠坂が疑問を浮かべる。

それは俺も同様だった。

 

「これを言って信じるかどうかは任せるが……俺はこの世界の住人じゃない」

「?」

「!?」

 

その刃夜の言葉に俺は首を傾げ、遠坂は絶句していた。

遠坂の反応を見て、刃夜が話を続ける。

 

「この世界にはやはりそう言った概念はあるか……。そしてそれは小次郎も同じ……いや明確には違うが、少なくともこいつは佐々木小次郎であって佐々木小次郎ではないと言っている」

「……どういうこと?」

「俺もよくわからんが……ともかく俺と小次郎は互いにイレギュラーといえる存在なのだろう。その存在同士だからこそ、似たもの同士というか……そう言うことで召喚が可能だったんじゃないかと思う」

「……それだけで納得しろっていうの!?」

 

遠坂が激昂した。

遠坂は聖杯戦争に詳しいので、刃夜がどれだけ異質な存在なのかわかっているのだろう。

 

「神おろしってしってるか? 神からの言葉、つまりは神託を俗世の連中に伝えるための技術だが……神秘を信じていたからと言ってそれが可能って訳じゃない。明確な意志というものが必要だ。俺には神秘、つまりは魔術を知っていたし、それを信じていたし帰りたい目的があった。だから召喚できたんじゃないのか? と愚考するが……正しいことはわからない」

「確かに聖杯は求める者を選定すると言うけど……」

「実際はわからないさ。だが俺に令呪が宿ったことは事実であり、その聖杯とやらを手に入れる権利を得たと言うのであれば……俺は戦うさ」

 

ぐっ、と……手にした刀を握る力を込めて、刃夜がそう明言した。

俺としては刃夜がその願いのために聖杯を使うというのであれば構わなかった。

正義の味方として、俺が最も恐れるのは聖杯を悪事に使うことなのだから。

だけどセイバーは俺と違って目的があるはずだ。

聖杯に願うことがあるはずなのだ。

だから……俺と刃夜は敵になるしかなかった。

 

「……ではここの家の敷地から出たら敵でいいかな?」

「……そうね、私も行くわ」

 

俺の言葉に何も言わないと言うことは、遠坂凜もわかっているのだろう。

見送ろうと一瞬腰を上げたが……だが自身でもどうしていいのかわからず、そのまま遠坂と刃夜を見送った。

 

 

 

 

 

 

「……さっきの話だけど」

「んあ?」

「……この世界の住人じゃないって言うのは本当なの?」

 

帰り道、遠坂凜から聞かれた言葉。

その言葉には今までの比ではない重さを含んでいた。

どうやら何か思うところがあるようだ。

 

「あぁ。俺はこの世界の住人ではない。俺の世界にも日本があり、俺は日本の関東で育ったんだが……、俺の世界の関西に、冬木市という市は存在しなかった。それに俺の家が地図に載っていない」

「……平行世界の存在がこんな身近にいたなんて」

「? どうした?」

「なんでもないわよ!」

 

……何なんだ?

 

よくわからないが……どうやら余り穏やかではないらしい。

それを自ら触るほどバカではないので俺は無言のまま歩く。

 

そして、分かれ道で……遠坂凜のサーヴァントと呼ばれる存在が、登場した。

 

「戻ったか、凜」

「アーチャー!? 大丈夫なの?」

「あまり大丈夫と言えなくもないが……それでもマスターを放置するわけにはいかないだろう?」

 

どうやら間違いなく遠坂凜がマスターのようだった。

だが俺はそれどころじゃなかった。

 

……この気配……どういうことだ?

 

ある疑念が渦巻いていたからだ。

だがそれを聞くことははばかれたし、あり得ないと自分で自分を納得させようとしたが……しかし無理だった。

信じがたいことだが……俺が感じ取ったのは嘘ではないと、本能が告げていた。

 

「ほぉ、それがお主のサーヴァントか……」

「……やると言うのか、侍?」

 

と俺が思案していたら何故か一触即発に近い雰囲気になってしまっている。

だがどちらもここで斬り合うつもりはないようだった。

雰囲気こそぎすぎすしているが、剣呑さはそこまでない。

 

「じゃあな遠坂凜」

「えぇ。今度会ったら容赦はしないわよ」

 

互いに宣戦布告をして、俺たちは己の帰るべき場所へと帰路についた。

いつの間にやらよく意味のわからない状況へとなってしまったようだが……それでも状況が動いたのは俺としてはとてもありがたい物だった。

 

「しかしよもや刃夜が異世界の人間であるとは思わなんだ……」

「違う世界といってもこの世界とそう大差はないみたいだがな」

「それでもこの世界の住人ではないのであろう?」

「がっかりしたか?」

「いや、むしろ神に感謝したい気分だ。これほどの強敵と出会えたのだからな。実に戦い甲斐のある状況だ」

 

どうやらこの様子を見る限りでは、小次郎は本当に戦うために召喚に応じたようだった。

聖杯に願うことはないようだ。

 

聖杯……ねぇ

 

今思い返しても笑い話に近い感覚だ。

万能の願望機であるという聖杯。

手に入れた者の望みを何でも叶えるという物体を巡って争うという聖杯戦争……。

予想通り神秘がらみの事件がようやく巡ってきた。

おそらくこれを切り抜けることが出来れば俺は帰ることが出来るのだろう。

だが……

 

……聖杯を手に入れてそれで帰ることを願うというのは……何か違う気がする

 

それが今の俺の心境である。

あの二人が絡んでいる以上もう少し何かあってもいいような気がするからだ。

あまりにも導き出される答えが簡単すぎると言ってもいいだろう。

確かにサーヴァントとかいう連中がすごいのはわかるが……煌黒邪神に比べれば微生物レベルだ。

確かに俺にもあの時使用した得物が使えそうにないが……それにしたって何か違う気がしてならなかった。

そんなことを考えながら帰宅した。

 

 

 

 

 

 

「どう思うアーチャー? あの二人」

「……どうとは? はっきりと言ってもらわねば返答に窮するのだが」

 

ちっ、こいつは……

 

あえてはぐらかすような口調のアーチャーに、私は内心で舌打ちした。

このサーヴァントは私が召喚してからほとんど変わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「あんたが私のサーヴァントでいいのかしら?」

 

眼前で廃墟のような有様になってしまっている居間に偉そうに居座っている男に、遠坂凜は問いかけた。

そしてその問いかけた存在は……ニヒルに笑っていた笑みをやめてこう答えた。

 

「それはこちらも聞きたい。魔術師のようだが、本当に君が私のマスターなのかね?」

 

その声には、嘲りにも近い感情が混じっていた。

それを感じ取ったのか、それとも偉そうなその態度に苛立ちを覚えたのか……凜は自身の右腕の袖をまくってそれを見せた。

 

 

 

弧を描く線が二つに一本の赤い線で描かれている……紋章を……

 

 

 

「令呪よ。文句あるかしら」

 

見た目と目線が実に脅迫じみているが、凜は別段偉そうにするつもりはなかった。

過去の英雄達を召喚すると言うことで尊敬の念すら抱いていたことも、凜にとって嘘ではなかった。

だが顕れたその英雄の余りにもふてぶてしい態度に、いらだっているのも事実だった。

 

「ふむ、確かに令呪だが、私が言いたかったのはそう言うことではないんだがね」

「? ……どういう意味よ?」

「君が本当に忠誠するに値する人物かを聞いたのだ。令呪などサーヴァントを縛るための道具に過ぎないだろう?」

「なっ!?」

 

その言動に、文字通り凜は絶句した。

不遜にも程があるその態度と、帰ってきた言葉で、凜の怒りが沸騰していく……。

 

「まぁ令呪があるのであれば仕方がない。君を私のマスターと認めよう。だが、戦いは私に任せてもらうぞ」

「……どういうこと?」

 

(苦労して召喚したって言うのに……なんなのこいつ!?)

 

現在の時刻は深夜二時。

遠坂凜が最も調子が良くなる時間であり、しかも体調も準備も万端でサーヴァントの召喚に望んだのだ。

さらにいえば凜としては召喚の儀式は完璧にこなしたし、手応えもこれ以上ないほどだったのだ。

であるにもかかわらず、出てきた英雄はこのような余りにも偉そうなサーヴァントであれば……少しはカチンとしてしまうのも無理からぬことだろう。

 

「どうせ戦いの経験などないのだろう? 素人に余計な口出しをされてはたまらない。君はおとなしくこの家で隠れていればいい」

 

 

 

ブチッ

 

 

 

その台詞で……凜の理性が切れた……。

 

 

 

 

 

 

「あったまきた~~~!!!! 何よ! さっきから来てれば偉そうに言ってきて! そんなに言うならやってやろうじゃない! あんたは誰に従うべきか教えて上げるわ!」

 

 

 

 

 

 

その台詞は鬼気迫るものだった。

さしものそのサーヴァント……アーチャーも驚いていた。

だが次の行動で度肝を抜かれることになった。

なんと、凜が右手をかざしたのだ。

その行為に何の意味もないのだが……何をしようとしているのかわかったアーチャーは今度こそ驚愕した。

 

「ま、待て! まさか令呪を使うつもりか!? わかっているのか!? 令呪がどれほど重要なのか!!!!」

 

 

 

「うるさい! うるさい! うるさい!!!! おとなしく私の言うことを聞け――――!!!!」

 

 

 

 

 

 

その言葉と供に……暗闇に閉ざされていた遠坂邸に一瞬、深紅の輝きが迸った。

 

 

 

 

 

 

「ふむ……とんでもないことになったな」

 

それから十数分後。

ほとんど廃墟と言っても言い居間に甘やかな香りが漂っていた。

気持ちを落ち着かせるために、アーチャーが凜のために紅茶を煎れたのだ。

その仕草に一切の迷いはなく、また危なっかしさもなかった。

給仕……というよりも家事にとても慣れているような感じの所作だった。

紅茶を煎れる手順はほぼ完璧だったので、味は口に含めるまでもなかった。

 

(随分……何というか庶民的なサーヴァントね)

 

それが凜の胸中に宿った思いだったが……それを言うことはしなかった。

 

「うるさいわね。私だってこんなことに令呪を使うなんて思ってなかったわよ」

 

令呪。

三度限りの絶対命令権。

サーヴァントの空間転移すらも可能なこの切り札とも言える存在を、サーヴァント召喚より数十分と経たずにすでに凜は一つ消費してしまったのだ。

普通ならばそれは憂慮すべき事態であり、はっきり言ってしまえばふざけた命令で消費していい物ではないが故に、失策と言っても良かった。

 

「いや、案外無駄ではなかった」

「どういうこと?」

「令呪とはサーヴァントに行動を強制するためのものだ」

 

切り札と言うが、戦闘に関することでなくても命令できるのだ。

サーヴァント自身が拒むようなことであっても、令呪を使用することによって強制的にそれを執行させることが出来るのが令呪なのだ。

 

「聖杯からのバックアップ、令呪の使用によってサーヴァントは一時的に実力以上の力を発揮できるが……これにはいくつかの条件がある」

 

令呪の条件。

それは命令内容と実行する期間が定まっていなければいけないと言うことだ。

この条件を満たさなければ令呪が発動しないことがほとんどであるのだ。

 

「普通ならば「私に逆らうな」という命令など令呪が作動しないのだが……私は君の言葉に強い強制力を感じている。令呪が一画なくっていることからも先ほどの命令が施行されたのは間違いない」

 

アーチャーの言うとおり、凜の令呪はすでに一画が消費されている。

またその令呪による効果を、アーチャーは自ら感じ取っていた。

 

「これはつまり君の魔術師としての能力は優秀だと言うことだ」

「あ……」

 

ようやく己のサーヴァント、アーチャーが言いたいことを理解して、凜は笑みを浮かべた。

 

「それじゃ認めるのね? 私があなたのマスターだって言うこと」

「あぁ、前言を撤回しよう。私は君をマスターとして認め、その指示に従おう」

 

(やれやれ……ようやく相方が誕生したわ……)

 

内心そうぼやくが……またぞろ蒸し返すのも時間の無駄と思い、凜はそれを飲み込んで笑みを浮かべた。

 

「そう。ならこれからよろしくね。それとあなたのクラスは?」

「私はアーチャーのクラスに割り振られたようだ」

 

(アーチャー……か)

 

自身のサーヴァントがアーチャーと知り、少しとはいえ落胆してしまう凜だった。

叶うことならば自身との連携がしやすい前衛タイプのセイバーとの契約を望んでいたのだが……結果としてアーチャーが召喚されてしまった。

だがやり直すことが出来ない以上、それを受け入れるしかなかった。

 

(まぁ……何の触媒も用意できなかったんだからしょうがないか……)

 

 

 

触媒

サーヴァントを指定して召喚するために使用される物体のことである。

簡単に知ってしまえば生前に英雄が使っていた物……マントや剣の破片、鞘など……を用いてその英雄を強引に召喚するための物だ。

元来、つまり触媒を使わずに使用すれば、そのマスターにふさわしい……もしくは相性がいい……サーヴァントが召喚されるのだが、触媒を使用することで目当ての英雄を召喚することが出来るのだ。

 

 

 

金銭的な理由からか……どういった事情かは謎だが、凜が触媒を使用しなかったのは事実であり、その結果として眼前のアーチャーが召喚されたのだ。

文句のつけようがなかった。

 

 

 

これが遠坂凜とそのサーヴァント、アーチャーの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「正直に話すのであれば、あまりぶつかりたくない相手だな」

「……やっぱり?」

「あぁ。家の屋上から眺めていたのだが……まさかあのバーサーカーに生身で斬り合うことの出来る人間がいるとは思いもしなかった。しかも蛮勇というわけではなく、きちんとバーサーカーの剣を見切っていた」

「!? それ本当!?」

「あぁ。あのサーヴァントも相当の技量を誇っているようだし……二人で行動している状態で正面から挑むのは得策ではない」

 

私はアーチャーの台詞に驚きを隠せなかった。

実際に目にしたのだが、まさかサーヴァントであるアーチャーまでそう評価するとは思ってもいなかったからだ。

てっきりあの佐々木小次郎とか言うサーヴァントがよほどすごいと思っていたのだが……当てが外れてしまったことに私は歯がみした。

 

けどだからって……引き下がるなんてことはしないわ

 

アインツベルンのバーサーカー、素人に召喚されてしまったセイバー、そして魔術師でないにもかかわらずマスターへとなってしまった男。

色々と想像すると頭が痛くなってしまうことが多かったが……それでもすでに聖杯戦争は始まっているのだから泣き言言うつもりはなかった。

 

「まぁあのコンビ、どうやら遠距離武器はなさそうだから、奴の店に私がアーチャーとしての力を使用して遠距離で射殺せばいいだけのはな……」

「そんな無様な勝ち方は絶対に許さないわよ? いい、遠坂家の家訓は「常に優雅たれ」なんだから、無様に、しかも無関係な人間まで巻き込んでの勝利なんて認めないわよ」

「やれやれ……そんなことを言っているようでは、まだこの戦いの厳しさを理解していないようだ。だが、黙って言うことを聞こう。また令呪を使われてはたまらないからな」

「……ふんっ!」

 

偉そうに言ってくる自分のサーヴァントに返答はしなかった。

 

「とりあえず帰って休眠を取って作戦を考えるわよ」

「了解した」

「私たちで聖杯を手に入れるんだからね!」

「無論だ凜」

 

考えるべき事は山ほどあるけど……でも負けるなんて考えることすらしたくない。

遠坂の魔術師として、私はこの聖杯戦争に勝つのだ。

密かに気合いを入れて、私とアーチャーは、自分たちの拠点である私の家へと、帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日……。

俺が小次郎を召喚した廃屋の武家屋敷……。

 

「はっ!!!」

「おぉ!!!」

 

今日も昨日と同じような時間に起きて、小次郎と斬り合いという名の訓練を行っていた。

狩竜の斬り合いでは今日も敗北したが、時間があったので第二戦目として、夜月を使用しての訓練を行っていた。

無論封絶も持ってきている。

装備しているのは封絶ではなく夜月だが……右腰に俺は今回使用しようと思っている刀も携えていた。

互いに鎬を削り合い、命すらも削り合うかのように、刀を振るった。

夜月で戦ってわかったことが一つあった。

 

……化け物だ! こいつは!!

 

昨日の狩竜での戦闘でも思っていたことだし、すでにわかっていたことだが、それでもこの実力は常軌を逸していた。

昨日は自身よりも遙かに長い野太刀を使う俺を相手にやりにくそうにしていたが、今回は俺が打刀の夜月のために、本来のスタイルに戻れたようだった。

 

つまりは……野太刀の圧倒的なリーチを言わせての、斬撃攻撃だ……

 

「っ!」

 

鋭い呼気と供に、迫り来る野太刀の一撃。

俺はそれを夜月で払い、懐に入ろうとするのだが……その一歩が踏み込めなかった。

目測でおよそ刃渡り五尺ほどの野太刀を、それこそ縦横無尽に振るい、俺が最後の一歩を踏み出すのを阻止されていた。

 

確かに俺の狩竜よりは軽いだろう……。だが完全に技術のみで長い野太刀を己の手のように振るとは!!!?

 

驚くべき事は、小次郎が気や魔力を用いている気配が全くないことだろう。

であるにも関わらずそれらを用いた俺と互角……いやそれどころか俺がほとんど防戦一方に追い込まれているのだから相当な腕前だ。

確かに主観時間で一年以上もの間、まともな対人戦を行ってこなかったとはいえ……魔力を用いる俺をここまで押し切るとは……。

 

「だぁっ!」

「ふ!」

 

首筋を狙っていた剣を夜月で弾き、その勢いのまま俺は飛び退いて距離を離した。

「技量」に置いて敵が上回るのは事実だが、しかしそれでも身体能力、筋力……つまりは「力」は気と魔力を有する俺の方が有利なのだ。

敵の懐に入ろうとして戦うのは不利であるならば……速度と力に任せたヒット&アウェイを行うのが上策であった。

 

「卑怯とののしられるかもしれないが……戦法を変えるぜ?」

「ほぉ……、それは楽しみだ。卑怯などと言わぬ。それにお主がこういった場で真に卑怯なことを行わないというのは……直ぐにわかる」

 

それはどうも……

 

悔しいが完敗だった。

技量に置いてこいつに勝てることは出来ないだろう。

だがこれはあくまでも訓練であり、勝負である。

技量に負けたからと言ってそれで敗北するわけではない。

敵よりも秀でた力があるというのならば、それを用いた戦いをすればいいだけの話だ。

右手を夜月から離して、俺は左手のみで夜月を持つ。

 

「うん? 降参か?」

「まさか」

 

片手で夜月を持つ俺を見て、小次郎が訝しんだ声を上げるが、俺はそれに笑いながら応えた。

そして、空いた右手を……右腰に差している打刀の柄へと伸ばした。

 

 

 

碧い……碧い……碧玉が埋め込まれている、その刀へと。

 

 

 

「磁波鍍装、蒐窮」

 

 

 

その言葉と供に……気を碧玉へと込めていく。

それに伴って……その碧玉から生じた電磁が、この薄暗い朝焼け色に染まる木々を、白き電磁の稲光で染まった。

 

 

 

「ほぉ……これはまた不可思議な……」

 

 

 

右腰に差した打刀雷月から発生した電磁を見て、小次郎が嬉しそうに笑った。

未知の剣を見れると言うことで小次郎も興奮しているようだった。

その顔に嬉々とした笑みが刻まれる。

 

行くぜ……雷月

 

モンスターワールドにて鍛造した……特殊な打刀へと念じて、俺は全力で飛び出した。

気と魔力で強化された身体での突進。

そしてその勢いも合わせて全力で俺は夜月を振り抜く。

ちなみに右手は雷月を持ち、電磁を抑えたままだ。

 

「があぁっ!!!」

 

だがあっさりと避けられてしまう。

小次郎が、俺が横から通り過ぎようとするときに、野太刀で追撃する。

しかしそれを、俺は気壁によって作った足場を蹴って強引に下に落ちてスライディングした。

 

「!?」

 

そのまま滑りつつ、俺は夜月で小次郎の足を振り払う。

だがそれも読まれていたのか、飛び上がった小次郎がそんな俺の頭を斬りかからんと、頭上から野太刀で振り下ろしてくる。

滑りながら俺はその野太刀を、振り切った夜月をその勢いのまま振りかぶって、野太刀を迎撃した。

 

!!!!

 

金属同士がぶつかり合う音が響く。

飛び上がった小次郎が着地し、流された野太刀で俺へと袈裟斬りを行う。

俺はそれを立ち上がりつつ、斜めにした夜月でそれを滑らせて回避。

流しきったことで隙が出来た小次郎のがら空きの胴へと、払った夜月をそのまま振り上げて左切上(ひだりきりあげ)をするが……それはあっさりと体捌きで回避される。

 

 

 

ここ!!!!

 

 

 

体捌きで回避された。

しかもその俺の胴に右薙の野太刀が振るわれようとしているが……俺にはまだ手があった。

 

切り上げの勢いそのままに……夜月を宙へと放り投げ、空いた左手を雷月の柄へと添えた。

 

そして……

 

 

 

鯉口を切った……

 

 

 

 

 

 

「電磁抜刀、禍!!!!」

 

 

 

 

 

 

磁場によって加速された、音速の刀が……小次郎へと迫った。

 

 

 

「!?」

 

 

 

さすがの小次郎も一瞬目を見開いたが……そこからは俺が驚いた。

 

なんと……右薙に振るっていた野太刀をそのまま雷月の剣閃上へと持って行きそれを流したのだ……。

 

 

 

なっ!?!?!?

 

 

 

電磁の光と金属が激しく擦過したことによる火花で……一瞬目がくらむがそれ以上に驚いた。

 

 

 

音速の電磁抜刀を見切り、受けたあげくに流しただと!?

 

 

 

正気の沙汰どころではなく、そしてその行動はあり得なかった。

 

流されたことでがら空きとなった俺の首筋へと……小次郎の野太刀を当てられる。

 

「また私の勝ちだな」

「……完敗だ」

 

俺は悔しさでうちひしがれながら、言葉を返した。

 

……まさか電磁抜刀を流すとは

 

驚愕なんて言葉ではすまされなかった。

何せ俺の最速の剣だったのだ。

それこそ真に音速を越えた電磁の刀を、まさか流されるとは思ってもいなかったのだ。

 

……なんとまぁ……でたらめな

 

ここまで明確に技量差があると、笑いしか出てこない。

内心悔しさでいっぱいだったが、それ以上に充溢感があった。

何せこれほどの力量を誇った相手と毎日訓練が出来るというのは興奮以外の何物でもなかったからだ。

 

「しかしすごいなお主も。よもや宙で再度飛び跳ねるとは思わなかったぞ?」

「あれはまぁ、俺の一つの特技というか……、簡単に言うと体内に宿る「気」という力を体外に足場として固定してその気の足場を蹴ったんだ」

「しかも今の剣は何だ? 恐ろしい速度だったな」

「電磁……といってわかるか? 電磁の反発作用で刀を音速の域にまで高めたんだ」

「ほぉ……」

 

俺の説明を真剣に聞く小次郎。

見知らぬ技であるために興味があるようだった。

俺は宙から降ってきた夜月をキャッチし、納刀しながらも言葉を続けていた。

親父とではわからんし、じいさんには確実に勝てないだろうが……気も魔力も為しにこれほどの腕を要しているのは本当に驚嘆だった。

 

しかし……わからないこともある

 

サーヴァントという生きた人間ではない存在だというのは最初からわかっていた。

未だにわからないのはこいつの正体だった。

すでに俺とは敵になりえないし、頼れる相棒なのだが……それでも正体が分かりきっていないのは不安でもあった。

 

しかも遠坂凜の言の通りならば、こいつの真名は「佐々木小次郎」というので間違いないんだろう。だがこいつは言っていた……。佐々木小次郎であって佐々木小次郎ではないとならば一体どういうことなのか?

伝承に伝わる佐々木小次郎ではないというのは間違いないのだろう。

だがこいつが佐々木小次郎と名乗るには、それに足る理由が存在するはず。

 

「ん? どうした刃夜よ。神妙な顔をして」

「……お前が佐々木小次郎を名乗る理由は何なんだ?」

 

かねてより疑問だったが……何か色々とごたごたのせいで聞けなかったことを俺は聞いてみた。

それを聞いて、小次郎がきょとんと頭に?マークを浮かべた。

 

「……言っておらなんだか? 私が何故佐々木小次郎を名乗るのかを」

「聞いてないな。別に信用してない訳じゃないんだが……出来れば聞かせてくれないか?」

『それは私も知りたい物だな』

 

別段この世界の歴史に詳しくないだろうに、封絶が俺に同意を示した。

別段封絶も疑ってはいないのだろうが、昨日の遠坂凜の話も聞いていたので興味が湧いたのかもしれない。

 

「……ふむ。そうだな。お主もお主独特の技を私に見せてくれたのだから、それの返礼に見せるのも礼儀……か」

 

俺の言葉に頷いて、小次郎は少し距離を離し……背中の鞘に収めた野太刀を再度抜刀した。

 

「離れていろ刃夜……。我が秘剣の間合いに入れば、いかに刃夜とはいえ……避けることは叶わんぞ……」

「……」

 

余りにも鋭い殺気故に、俺は思わず本能的に一歩後ろへと下がっていた。

小次郎がミスをするとは思わなかったが、俺は夜月を普通に構えて小次郎の動向を見守った。

特殊な装備を持っているとは思えない小次郎と一丈以上の距離を離してなお、夜月を構えずにはいられないほどの……恐ろしく冷えた殺気だった。

 

一体……何を!?

 

何をするのかと見ていると、俺に驚きの光景が写った。

なんと小次郎が構えを取ったのだ。

おそらく遠く離れた俺へと放つことを想定しているはずだというのに……自ら背中を俺へと向けた。

一番近いのは……柳の構えだろう。

刀を頭上よりも上へと斜めに上げ、剣を受け流すのが本来だが……小次郎の構えはそれに似て非なる物だった。

そもそもにしてこの殺気が、受けの構えでないことを如実に語っている。

対面している俺から見て、刀を左へと構えてほぼ目線と同じ所へと上げ、背中を俺に見せている。

何をするのかわからないが……今まで構えらしい構えを取っていなかった小次郎が構えるのだから相当だろう。

何よりもこの殺気が……

 

 

 

普通じゃないことを教えてくれる……

 

 

 

 

 

 

「秘剣……」

 

 

 

 

 

 

ゆらりと……その剣が一瞬ぶれる……

 

 

 

そして……それが放たれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燕返し!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉と供に……刀が分裂した……

 

「!?」

 

いや、分裂したわけではないようだった。

実際振り終えた小次郎の野太刀は技を打つ前と同じで一本のままだ。

 

だが……今のは見間違いではないはず……

 

『……何だ……今のは?』

「……俺の見間違いじゃないんだな封絶。確かに今……」

『あぁ……確かに今、小次郎の剣が三つになった……』

 

振るったのは確かに一本の野太刀だったのだ。

だがしかし振るったと同時に小次郎の刃圏に三本の剣が閃いたのだ。

もしもあの間合いにいたら……三本の同時の剣撃故に、避けることも防ぐことも叶わなかっただろう。

 

「私がこの剣を編み出したのは偶然だった」

 

封絶と供に度肝を抜かれていると、小次郎から解説が始まった。

未だに興奮冷めやらぬ……というよりも驚きが大きかったが、聞かないわけにはいかないので、俺は小次郎の言葉に耳を傾けた。

 

「ある日暇つぶしに燕を切ろうと戯れた時のことだ。だが燕は大気の震えを感じ取り飛ぶ方向を変える。故に刀をただ振るってもその空気の流れを読まれて何度も避けられた。それを考えて工夫していった結果こうなったのだ」

「……今、三つに見えたんだが」

「そう、三つだ。それが結論だった。三つの剣撃を同時に放つことによって燕を封じる檻を作り、断ち切った……」

「……な」

 

何というバカだ……

 

俺は驚愕で言葉も出なかった。

バカとは言ったが、完全に褒め言葉だ。

今俺が目にしたのは間違いなく、完全に同一時間(・・・・・・・)に三つの剣撃が宙を舞ったのだ。

完全に同時にだった。

一本の剣が一瞬にして三つになり襲ってくるのだ。

 

 

一 頭上から股下まで振るわれる唐竹斬り

 

 

二 一の太刀を回避する敵の逃げ道を防ぐための閃き

 

 

三 左右への離脱を阻むための剣閃

 

 

僅かだが見えた軌跡……。

これら三つの剣閃が間違いなく「同時」に振るわれるのだ。

燕だって斬り捨てられるのも仕方がないという物だろう。

それを会得したことにも十分驚くことが……もっとも恐ろしいのはそんな物ではなかった。

 

……一切何の力も感じ取れなかった

 

そう、それが最も恐ろしかった。

普段から気も魔力も使用しないのが小次郎の戦闘スタイルだ。

それはわかっていた。

だが今の技……断言してもいい、「普通ではない」「ありえない」と言い切れる技を、気も魔力もなしにこいつは放ったのだ。

力任せではなく、純粋な剣技……「技術」のみで今の技を放ったのだ。

絶技なんていう言葉ですら収まりきらない……究極の剣技だった。

何せ放てば当たるのだ。

よほど強固な盾を装備しない限り防ぐことは叶わないだろう。

いや、盾を装備してもそれすらも斬り捨てて敵を断絶しそうな剣の冴えだった。

 

 

 

 

 

 

…………何を言えばいい?

 

 

 

 

 

 

あまりのすごさに、俺は寒さとは別に身体全身に鳥肌が立ち、しかも心が震えていた。

恐怖ではなく……余りにもすばらしい物を見た、感動で……。

 

「これが私が自身を佐々木小次郎と名乗っている理由だ。燕返しを使える……ただその一点でいないはずの英雄として、佐々木小次郎を名乗り、この戦争に参加させてもらった」

 

この小次郎は佐々木小次郎ではないが、燕返しが使えると言うことで佐々木小次郎を名乗っているのだ。

つまりはそう言うことらしい。

 

だが……今の俺にとってもはやどうでもいいと言って良かった。

 

「……幸運だと言ったよな小次郎? 俺と会えて」

「うん? 言ったな。お主ほどの相手と(まみ)えたことは間違いなく幸運であろう」

「……俺もだ」

「うむ?」

 

 

 

「俺もだ、小次郎……。お前ほどの相手をあえて……訓練を行えて、供に背中を預けることが出来るような状況の今の戦争に……俺は心から感謝したい……」

 

 

 

「……それはよかった」

 

俺の言葉から何を感じ取ったのかはわからなかった。

だがそれでもその笑顔を見れば、小次郎も喜んでくれているのがわかった。

 

「……どうすれば今の技を撃てるようになる?」

「容易い道ではないぞ? 私も一生を掛けてこれを習得したのだ。といってもこれに命をかけていたわけではないのだが」

「そんなことは百も承知だ。だが教えて欲しい。直ぐには出来ないだろう。だが出来るようになってみたい」

「了解した。ではまずは……」

 

こうして朝の特訓に、新たな訓練事項が加わったのだ。

俺も振るえるようになるかはわからない。

ひょっとしたら一生研鑽しても無駄かもしれない。

 

だが……見てみたかった……

 

小次郎と同じ物を……

 

小次郎と同じ境地へと……たどり着きたかった……

 

一生を掛けても無理かもしれない……

 

それほどの技だったから……

 

だから無駄かもしれないけど……俺はこの訓練を必死になって行った……

 

そんな俺に何を見たのかはわからない……

 

だが小次郎は笑顔で俺に指導をしてくれた……。

 

 

 

こうして俺と小次郎は、仕込みの時間いっぱいまで、燕返しの練習を行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アサシン 
真名 佐々木小次郎(佐々木小次郎の殻をかぶった剣士)

筋力 C
耐久 E
敏捷 A+
魔力 E
幸運 A
宝具 ×

保有スキル
気配遮断D
サーヴァントとしての気配を断つ。本来ならばアサシンクラスのために最高クラスの気配遮断を持つのだが、イレギュラーな存在のためランクダウン

心眼(偽)A
視覚妨害による補正への耐性。天性の才能による危険予知。要は第六感、虫の報せ。

透化B+
明鏡止水。精神面への干渉を無効化する精神防御。

宗和の心得B
同じ相手に同じ技を何度使用しても命中精度が下がらない特殊な技能。攻撃が見切られなくなる。



宝具
燕返し
正しくは宝具ではなくスキル。
修練を重ねた結果編み出した技。かつて暇つぶしにツバメを斬ろうとした際、空気の流れを読まれてことごとく避けられた結果、それでもなお打ち落とそうとして編み出した。
無形を旨とする彼が唯一決まった構えを取る。
相手を三つの円で同時に断ち切る絶技。
三つの異なる剣筋が同時に(わずかな時間差もなく、完全に同一の時間に)相手を襲う。
魔術ではなく魔剣。
人の業のみでたどり着いた武術の極地であり、「分身」の魔技。円弧を描く三つの軌跡と、愛用する太刀の長さが生み出す回避不能の必殺剣。
多重次元屈折現象、と呼ばれるものの一つ、らしい。



↑の説明文は全て「公式設定」です
公式なので、私の小説で作り出したご都合設定ではない
気づいている人も多いかもしれないが、この小次郎、実は地味に最強クラスの実力者なのだ……(実際原作者奈須キノコも「五次なら剣技において最強」と言っている)
そんな男のマスターとなってしまった刃夜は、日々小次郎との斬り合いを楽しむのであった……


みたいな感じの話でした~

ここから先は基本的に刃夜が余り介入できないので士郎がメインになるかも?

え? 主役は刃夜じゃないかって?

大丈夫!

最後の方はきちんと活躍するから!!!!


当分先だけどね!!!!

普通にモンハンより長くなりそうだわ!!!!



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