月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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刃夜が出番少ないな……
もう少し増やさないと主人公っぽくないな
今更?
まぁいい
今回戦闘はほとんどないです
それではどうぞ~




結界

刃夜が出番少ないな……

もう少し増やさないと主人公っぽくないな

今更?

まぁいい

今回戦闘はほとんどないです

それではどうぞ~

 

 

 

 

 

 

「ひっ!?」

 

一歩……ただ踏み出して近寄ってきただけなのに、それは確かな恐怖を持ち合わせていて……私は悲鳴を上げた。

 

……怖い

 

何をされるのかわからない……。

 

だけど何もされないという、余りにも都合のいい考えは出てこない……出てきようがない……。

 

 

 

その身に纏う雰囲気が……すごく怖いから……。

 

 

 

 

 

 

「た、助け……」

 

 

 

 

 

 

叫びそうになってしまった。

 

だけど恐怖で喉が震えていて、声を出すことも出来なくなっていた。

 

バイザーのような物で隠された顔が……私の顔の目の前に来て、暗がりであることも手伝って、相手の顔をほとんど見ることが出来なくて……より恐怖に感じてしまう。

 

それがゆっくりと、降りてきて私の首元へと口が持って行かれる。

 

首に暖かい吐息を感じて……その暖かさもどこか恐怖を覚えてしまう。

 

倒れそうになるほどに膝が笑っているのに、鎖で縛られているからそれも出来なくって……。

 

 

 

『夜道には気をつけろよ? 仲のいい奴が痛い目に遭うなんてのはごめんだぞ?』

 

 

 

今朝……鉄さんにそう言われたことが思い出されて、私は涙を流した。

 

 

 

せっかく気に掛けてくれたのに……

 

 

 

自分はならないって……もしも遭遇しても多少の相手なら迎撃できるって豪語してたらこんな事になってしまって……。

 

今朝の自分を殴りたくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

そんな私に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の大事な友人に何していやがる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな声が……耳に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「俺の大事な友人に何していやがる!」

 

 

 

気と魔力を纏い、それらを放出させての加速は生半可な速度ではなかったために、俺は何とかそう時間を掛けずに美綴の近くへとやってこれた。

そして美綴に撓垂れかかるように何かをしている存在を見た瞬間に、俺は吼えていた。

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

さらに出力を上げて、俺は超速で進むが……距離がある。

 

ちっ!? 今のままじゃ間に合わん!

 

気付くのが遅かった。

このままではとてもではないが間に合わない。

しかし、間に合わないと言ってもあくまでも……接近戦が出来ないと言う意味でだ。

妨害手段はある。

遠距離における……

 

 

 

「封絶! 行ってこい!!!!」

 

 

 

『!?』

 

 

 

気力と魔力をふんだんに込め……背中のシースから封絶を抜剣し、盛大にぶん投げた。

目標は、美綴に襲い掛かっている長い長い髪の毛を持つ存在と、その近くで楽しげにしている男だった。

 

 

 

「!?」

 

 

 

美綴に撓垂れかかっていた相手がこちらに振り返り、封絶に斬られる前に直ぐに身を離して回避した。

さらに何か武器を顕現し、青年の顔の直前まで迫っていた封絶をはじき飛ばしていた。

 

 

 

ゴガッ!!!!

 

 

 

双方の封絶が凄まじい音を立てて壁に突き刺さった。

そしてそれを見て青年が悲鳴を上げる。

 

「ひ、引くぞライダー!」

 

? 今の声は?

 

今の声には聞き覚えがあったが、直ぐに長身で髪が長く、顔をバイザーのような物で隠しているやつと供に引いてしまった。

逃げられた以上どうもでも良くなって、俺は直ぐに美綴へとかっとんだ。

そして倒れる美綴を、地面へと倒れきる前にキャッチする。

 

「美綴!? 無事か!?」

「あ……く、鉄さん……」

 

よほど恐ろしかったのか、声に全く力が込められておらず、身体も震えていた。

横抱きに抱えたが、その身体にも一切力が入っていなかった。

完全に腰が抜けているようだった。

 

「大丈夫か?」

「え……えっと……わ、私……」

 

よほど恐ろしかったのか、軽いパニック状態になってしまっている。

それを見て、これ以上起きたままにしておくのも酷と思い、俺は美綴の頭を優しく撫でて……気を送った。

 

「……あ」

「しばし眠れ……。直ぐに病院に連れて行ってやる」

 

少しだけ脳内へと気を送って、苦しまないように安らかに眠らせる。

言い方があれだから一応言っておくが、殺したわけではない……というか殺すわけがない。

ふっと静かに呼吸を立てて眠る美綴を見て、俺はとりあえず安堵の溜め息を吐いた後、軽く触診をしてみるが……ちなみにセクハラでは断じてない!!!!……特に異常は見られそうになかった。

 

だが俺も素人だからな。医者に診せるべきだな……

 

「小次郎済まないが、俺の得物を全て持って店に戻っていてくれ」

 

本日の装備、夜月、水月、そして回収した封龍剣【超絶一門】を身体より外し、小次郎へと渡す。

それを受け取りつつも、小次郎が言葉を返してきた。

 

「む? 何故だ?」

「美綴を病院に連れて行くんだが、第一発見者が俺になる。怪しまれる可能性はぬぐえない以上、得物を持っていたら没収される可能性がある。それは避けたい」

「なるほど……了解した」

 

俺の言葉に小次郎は素直に頷き、大事そうに俺の得物を抱えてくれた。

 

「封絶も済まない。あまり偵察が出来なかった」

『何を言う。友人を守った仕手を誰が攻めよう? さすがは我が仕手だ』

「サンキュ」

『だが……投げるときはもっと前もって言ってくれ。欲を言えば投げて欲しくないな』

「……善処しよう」

 

封絶の言葉に俺は苦笑し、一応頷いておいた。

そして小次郎と封絶を店へと帰させて、俺は美綴を抱きかかえて病院へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

プルルルルル

 

 

「うん? 電話か」

 

夕食後の衛宮家。

大河と桜が帰宅し、三人で作戦会議を行っているときに衛宮家の電話が鳴り響いた。

時刻はすでに九時を過ぎている。

こんな時間に電話が来ることに訝しみつつ、士郎は電話を手に取った。

 

「はい衛宮……って藤ねえ? どうしたんだ?」

『士郎大変! 美綴さんが!』

「? 美綴がどうかしたのか?」

『病院に担ぎ込まれたって!』

「な、何だって!?」

 

受話器から聞こえてきた大河の声に、士郎は驚きの声を上げる。

さらに話を聞けば美綴が倒れた弓道部の後輩の見舞いの帰り道に倒れたのを刃夜が発見したという。

実際は若干違うのだが……刃夜が病院に担ぎ込んだのは本当だった。

 

「それで美綴は!?」

『多少の打撲みたいな物もあるけど……ほとんど軽傷で、頭も脳波とかも見たけど異常は全くないって。それで鉄さんの身元引き受けに行くんだけど……』

「? 身元引き受け?」

『鉄さんが第一発見者で警察が一応話を聞いたみたいでそれの引き取りに行くの。日本に親類いないらしくて。だから見舞いついでに士郎も行く?』

「……あぁ、行くよ」

 

胸中に宿った自身の疑念を抑えつけて、士郎は大河にそう返した。

震えそうになる手を押さえながら、士郎は受話器を置いた。

 

「衛宮君、綾子の名前が出てたみたいだけど……」

「……美綴が下校途中に倒れたみたいだ。それを……刃夜が保護したらしくて」

「!? それで!?」

 

友人が倒れ、そしてそれを保護したのが刃夜であっては、さすがに凜も冷静になることは出来なかった。

二人が胸中に宿した考えはほとんど一緒だった。

 

……刃夜が手に掛けたのかもしれないと

 

だがもしもそうなら病院に運ぶ理由が見つからないので、それは二人とも直ぐに自分で否定した。

確かに敵ではあるが、刃夜がそんなことをするような人間ではないとわかっているからだ。

しかし……ならばどうして美綴は倒れたのか?

今この冬木市で聖杯戦争が起こっている以上、考えても考えすぎということはない。

 

「遠坂、今から出るけどどうする?」

「もちろん行くわ。何かあったと見るべきだし、そこにあの男が絡んでいるならそれは確実だわ」

 

凜の言葉はすでに断定された言葉だった。

聖杯に関係する人間の名前が挙がった以上、何かあったのは間違いないのは事実だった。

事実、刃夜は襲われていた美綴を救ったのだから。

 

士郎、凜、セイバー、そして姿は見えないがアーチャーが冬木の病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「だから……暴漢に襲われていた彼女を助けただけですよ。そいつにはあいにくと逃げられましたけど」

「ふ~ん。なるほど。ではあなたはこんな夜に一人で何も持たずに何をしていたんですか?」

「散歩です」

「散歩……ねぇ」

 

うわ~、完全に怪しまれてる~

 

半ば予想したことではあったが、警察に普通に事情聴取されています。

と言ってもさすがに第一発見者と言うだけではそこまでの拘束力はない。

病院で簡単に調書を取られているだけだ。

だが警察は「親類が日本にいない」と言った途端に俺をものすごく怪しいと思い始めた。

身元引き受け人がいると言うことで、仕方なく俺は大河を指名したのだ。

 

雷画さんは……ちょっとな

 

こんな程度で雷画さんの手を煩わせるのは気が引ける。

その孫娘の大河にも気を使わなければいけないのだが……出前を何度もさせられた、それに成人していて親しいのは大河しかいなかったので頼らざるを得ない。

ちなみに美綴はよほど恐ろしかったのか、まだ意識が戻っていない。

 

……力加減誤ったか?

 

恐怖で目が覚めないのではなく……俺の気が原因だったらちょっと悪いことをしたかもしれない。

別に後遺症とかはないが……それでも仲のいい友人を苦しめるのは本意ではない。

 

「鉄さん! 来たよ~!」

 

すでに消灯時間も差し迫っている病院に、大河の元気な声が響く。

 

「来てくれたのはありがたいのだが、もう夜だから声を抑えようぜ大河?」

 

それに呆れつつ、俺はその大河の背後にいる複数の人間を一瞥する。

 

これはこれは、お揃いで……

 

大河に連絡した以上来るとは思っていたが……まさか全員で来るとは思わなかった。

士郎に遠坂凜、サーヴァントのセイバー。

しかも姿は見えないが気配がある以上、遠坂凜のサーヴァントもいると見るべきだろう。

 

ここで襲われたら一巻の終わりだな

 

サーヴァント二人が相手でしかもこちらは丸腰。

財布も携帯もないので文字通り何も持っていない。

さすがにこれでは……負ける。

 

「これは夜分にご足労頂きすいません。私は冬木警察署の石垣と申します」

「はい、穂群原学園教師の藤村大河です。それで、身元引き受けが必要と言うことでしたが?」

「はい、身分証も持っていないのではさすがにそのまま帰すわけにはいかず」

「身分証がない? 鉄さん財布は持ってなかったの?」

「散歩だったからな。持たなくてもいいと思って手ぶらだった」

 

きょとんとしながら俺へと疑問を向けてくる大河に、そう返す。

そして話を進めていると獣の嗅覚か……はたまた本能か……俺のことを警察が怪しんでいると勘づいた大河が激昂した。

俺と美綴は知人であり、しかも大河とも知り合いであること。

また背後にいる士郎とも知り合いであり、そんなことは絶対にしない人物であるということを文字通り吼えながら言っていた。

警察もさすがにそれを聞いて俺への疑念を少し薄れさせたようだった。

それでなんとか俺は帰ることが出来るようになった。

その間士郎と凜は美綴の見舞いに行っていた。

すでに面会時間も過ぎていたが、友人と言うことで一目見ることは許されていた。

ちなみにその美綴は、ほとんど問題はないそうだが、目覚めないことを考慮して念のため明日一日入院するらしい。

 

人が多いところなら動きにくいだろう……

 

あのサーヴァント、そして……あいつがそれでも動く可能性はあるが……病院にも気を配っておくべきだろう。

大河は美綴の親御さんとも少し話をするらしいのでまだ残ると言い、俺と士郎、セイバー、遠坂凜とそのサーヴァントは先に帰宅することになった。

 

 

 

「それで……何であなたが綾子を保護したのか教えてくれないかしら?」

 

病院を出てしばらくして、人気が完全になくなったところで遠坂凜が話しかけてくる。

士郎も同じ気持ちなのか、俺に聞きたそうな顔を向けていた。

 

「聞いてなかったのか? 暴漢に襲われていた美綴を守っただけなんだが?」

「そんな言葉信じると思うの? あんたは襲ってはいないんでしょうけど」

 

さすがにそれは疑ってないか……

 

いくら敵とはいえ俺が美綴を襲ったとは思っていないようだった。

だが正直俺としてもよくわかっていないのが本音だった。

あの長身でマスクで表情を隠していたのは間違いなくサーヴァントだろう。

そのサーヴァントが美綴を襲って何かをしようとしているのはわかったが……何をしようとしていたのかはわからない。

後はサーヴァントのマスター……気配と声から行っておそらくだが……間桐慎二がライダーと呼んでいたのであれがライダーなのだろう。

 

騎乗兵(ライダー)のわりには何も乗ってなかったな……

 

しかしそれを言ったら俺の暗殺者(アサシン)である小次郎も、全く暗殺者らしくないので人のことを言えないが。

 

「ライダーに襲われそうになっていたから。何とか助けた。それだけだ」

「!? ライダー!? それってどんなサーヴァントだった!?」

 

反応が過激だな? すでに一戦交えたのか?

 

士郎が反応したのが意外だったが……しかし遠坂凜も聞きたいらしい。

別段話してもいいといえばいいのだが……。

 

……この状況……話せと脅しているような物だよな?

 

霊体化出来ないから仕方ないとはいえセイバーがそばにおり、さらには霊体で遠坂凜のサーヴァントもいる。

そして二人が一緒に行動していることから鑑みるに、共同戦線を取ったのかもしれない。

それに対して俺は丸腰で小次郎もいない。

 

一対四。……サーヴァントがいなければ楽勝だったが

 

さすがにサーヴァント相手に丸腰はあり得ない。

まぁ殺るならとっくに殺っているだろうし、そのつもりはないのだろうが……この状況を自覚してない分、むかつくのも事実だった。

 

「サーヴァント二体を横に置いた状態で丸裸の人間に話せと言うか? ほとんど脅迫だぞ? 随分と横柄だな?」

「な!? そんなつもりはない!」

「つもりはなくてもそう受け取れる状況を作っている時点でアウトだ。加えて言うのならば何で俺が敵であるお前達に情報を渡さないといけないんだ?」

 

まぁそれを言うならば俺をこの時点で殺さないという時点で情報くらい教えてもいいのだが……。

まぁ本当に俺を殺そうとし始めたら、小次郎を呼んだ上で全力で逃げるが。

 

「……それもそうね」

 

さすがに魔術師として長年生きてきただけはあるのか、遠坂凜は今の状況が俺に取って危ない状況であるとわかっているらしい。

 

「アーチャー、実体化して少し距離を離して」

「ふむ? 大丈夫か?」

「こいつがそんなことするわけもないし、したとしてもあなたがいるから大丈夫でしょ? だからあなたも何もしないで」

「ふ、言ってくれる」

 

遠坂凜の言葉で釘を刺されたサーヴァント、アーチャーは不敵に笑いながら俺たちと距離を取った。

今の会話を聞く限り、なかなかにいいコンビを組めているようだ。

それを見習って士郎もセイバーを引かせていた。

セイバーはアーチャー以上に自身とマスターが離れるのを渋っていたが、それでも士郎の指示に従っている。

 

「……これでいいかしら?」

「言われるまで気づかなかったのは減点だが……まぁいい」

「それで刃夜。美綴を襲おうとしていたサーヴァントってのは、何かすごく長い髪の女のサーヴァントだったか!?」

 

食いつかんばかりに詰め寄ってくる士郎に、俺は顔をしかめた。

この反応から出会い、戦ったというのはわかるが、外見は知っていても、どうやらクラス名まではわかっていないようだ。

 

「あぁそれで合ってるよ。顔にマスクみたいな物で眼を隠していたな」

「!? ならあいつが……」

「えぇ。ライダーみたいね」

 

どうやら二人とも会ったみたいだった。

むしろライダーとの接触でこの二人が共闘するようになったと考えるのが妥当だろう。

 

……間桐慎二のことを話すべきか?

 

穂群原学園の生徒である上に、あいつは弓道部に所属している。

元弓道部の士郎は確実に知っているだろうし、遠坂凜も知っている可能性があった。

そして先ほど俺が襲撃したサーヴァントが、ライダーであることを知らなかった以上、マスターがわかってないと思われる。

そしてそれは次の士郎の言葉で証明された。

 

「後は何か知らないのか? マスターとかは?」

 

……やっぱり

 

予想通りで俺は内心で苦笑した。

同じ学園に通っているのだから間桐慎二の始末を任せてもいいかと思ったが……士郎のために少し冷たいことを口にした。

 

「あまり馴れ馴れしくするなよ士郎?」

「……え?」

「お前と俺は敵なんだぞ? 何故俺がお前にそこまで情報を与えないといけない」

「なっ!?」

 

俺の言葉に士郎が絶句した。

だが直ぐにそんな自分を戒めて口を結ぶ。

その士郎をさらに畳み掛けてやる。

 

「まぁ、今のこの場で殺しにかかってこなかった礼として、ライダーの外見は教えたが……それで十分だろう?」

「だ、だけど! ライダーがまだ魂食いを行うかもしれないんだぞ!?」

「……魂食い?」

 

聞き慣れない単語を口にされて、俺は思わず疑問の声を上げてしまった。

 

「霊体であるサーヴァントは人の魂を吸収して強くなるの。だから人を襲わせてそれを食らおうとしていたのよ、ライダーは」

「そんな事も出来るのか? ありがたいが……いいのか俺に情報を与えて?」

「あんたがそんなことしないのはわかってるからいいわ。それに友人を助けてもくれたしね」

 

ほぉ。どうやら人情家ではあるみたいだな

 

遠坂凜の言葉に俺は意外性を覚えつつ……だがそれでもある意味で納得できた。

士郎と組んでいるのだから残虐な人間と言うことはあり得ない。

 

「俺の友人だったから助けただけだ。お前のだからって訳じゃない」

「だから私も気にしてないわ。それに、あなたをここで襲わないのは私の主義に反するからよ。誤解しないで欲しいわ」

 

俺の言葉にそう返す遠坂凜は、なかなかに高潔な人物であるようだった。

冬木の監督者というのもあながち嘘ではないようだった。

 

「そうか、ではこれで失礼する」

 

俺はライダーの情報を送り、そして遠坂凜は俺に魂食いの情報を与える。

と言っても魂食いを行う気がない俺としては不要な情報だったが……実際命を助けてもらったのも事実なので俺はそれに関しては何も言えない。

それに、そんなくだらない情報でなくても、俺の今宵の目的は達成しているのだ。

 

ライダーの戦闘能力の片鱗を知り、そのマスターも判明。さらには士郎と遠坂凜が共闘しているとしれたら上出来だ……

 

まだ俺が表立って行動を起こすつもりはないが……それでも情報が手に入って損はない。

それも敵が共闘をし始めたと言う情報はかなりの収穫だった。

美綴も病院にいることで少しは安全が確保できそうなので俺はほっとした。

 

しかし……ここで俺を襲わなかったのも主義に反するとはいえ、見逃していることに代わりはないのだから、少し俺の方が有利すぎるか?

 

別段紳士でもないので見逃してくれるというのであれば放置しても良かったのだが……同じ学園にいるのだから俺よりもよほど始末がしやすいだろう。

そう言う打算もあるが、全てを教えてもあれだったので、俺は首だけで振り返り二人にこういった。

 

「それとライダーのマスターだがな、士郎……お前がよく知っている弓道部の人間だったぞ?」

「!? な、なんだって!?」

「弓道部……ですって?」

「服装もお前達と同じ穂群原の学生服だった。これを信じるか否かは……お前らに任せる」

 

あえて混乱させるような言葉を言い残して、俺は今度こそ振り返りもせずに帰路へと着いた。

とりあえず命があることにほっとしつつ、俺は明日の予定を考える。

 

明日見舞いに行って新たなお守りを私に行くか……

 

美綴の見舞いもかねて、新しくお守りを作ることにした。

店に帰って無事に帰れた事に脱力しつつ、俺は少し夜遅くまで起きて、新たなお守りを制作する。

少しは気壁が発動するように仕込みをしたお守りを。

 

まぁ気休めにしかならないが……

 

相手がサーヴァントだったらそれこそ紙程度の防御にしかならないだろう。

だがないよりはましだ。

情勢が早くも動いたことを知りつつ……俺はさらに気を込めながら、お守りの板を彫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「くそ、くそ、くそ!!!!」

 

 

 

深夜。

間桐家の間桐慎二の私室の中で声を荒げている青年がいた

その私室の主……間桐慎二は、自身の部屋で呪詛を吐き、心の中で敵を……刃夜を罵倒することで少しでも溜飲を下げようとしたが……ほとんど効果はないようだった。

 

 

 

(何であいつにまで令呪が宿ってマスターになってるんだよ!!??)

 

 

 

その負の感情が、今の慎二の心を完全に支配していた。

帰ってからライダーに教えられた、刃夜がマスターであること。

自身がなりたくてもなることが出来なかった魔術師……。

そして今まで深山町という住宅街で、ほそぼそと定食屋を営む刃夜が魔術師であると知って激しく憎悪した。

自身の前に高速で剣を投擲し、恐怖へと陥れた存在……定食屋の主鉄刃夜は魔術師(マスター)として聖杯戦争に参加している。

それが慎二には許せなかった。

実際はマスター、サーヴァント共にイレギュラーな存在として、魔術回路がなくとも小次郎をサーヴァントとして使役できる存在であるだけであって、魔術師ではないのだが……慎二がそれを知っているはずがなかった。

 

 

 

(僕は、始まりの御三家……間桐の正当後継者なんだぞ!!!!)

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争。

始まり……聖杯戦争が開始された時ではなく、その前段階。

つまりは聖杯戦争を作り上げた者達がいた……。

「始まりの御三家」と今でも言われている者達であり、聖杯戦争を作り上げたのは、遠坂、アインツベルン、そして……()()()の三つの家だった。

この御三家が全ての始まりだった。

遠坂は冬木の監督者として代々冬木にいた。

何故、冬木という日本の土地を聖杯の召喚場所へと選んだのかというと、聖堂教会の眼が届かない極東の地であったからだった。

遠坂は冬木という場所を提供し、アインツベルンは聖杯の器を提供し、マキリは聖杯戦争のシステム……英霊をマスターの使い魔「サーヴァント」として成立させるシステム、そしてそれらを縛る「令呪」……を造り上げて、提供した……。

数百年前から存在するこの御三家は、これら聖杯戦争を造り上げたことからもわかるようにその道……魔術師としての名家だった。

 

 

 

マキリは使い魔に関して優れた技法を持っており、令呪もこの能力を応用して造り上げたのだ。

そして今より二百年前、聖杯戦争のために冬木に移り住んだ。

名を……「|間桐(まとう)」と変えて……。

ちなみにこのとき、遠坂と間桐は盟約を結んでいる。

だが外国の家系であるマキリは日本の土地が身体に合わなかったのか……どんどんと衰退していってしまった。

代を重ねる事に徐々に徐々に、魔術師としての証……体内に宿す魔術回路が減っていき、ついに間桐慎二の代で完全に魔術回路がなくなってしまったのだ。

 

だが幼少時の間桐慎二がそんなことを知るわけもない。

幼少時に間桐の当主のみが入ることを許された部屋へと忍び込んで、自身の家が魔術の家系であると知り、彼は胸を躍らせた。

神秘というものに触れる事を許された、|特別(・・)な人間であると知ったからだ。

それから彼はほぼ独学で、間桐の家に納められている魔術書を読み漁り、当主になるために努力をした。

 

だが現実は当然のように残酷だった……。

 

 

 

魔術回路がない彼が魔術師になれるはずがないのだから……。

 

 

 

特別であると信じていた自分が実は特別ではないと知って……間桐慎二は呆然とし、怒り狂った。

 

 

 

特別な人間であるはずの自分が……特別ではないことに……

 

 

 

故に彼が聖杯戦争へと参戦し、望む願いはただ一つだった……

 

 

 

 

 

 

死者蘇生すらも軽くやってのけるという万能の願望機「聖杯」の力で、今度こそ自分は特別な存在……「魔術師」になるのだと……

 

 

 

 

 

 

だからこそ許せなかったのだ……

 

 

 

 

 

 

特別な自分を邪魔した相手……鉄刃夜……

 

 

 

今まで侮辱していた相手が、まさか自分とは違ってすでに|特別(マスター)であったことが……

 

 

 

「おいライダー! まだ他のサーヴァントに勝つまでには魔力が溜まらないのか!?」

 

自身のそばで直立不動で佇む女性……ライダーに荒立たしげにそう怒鳴り散らした。

それは詰問でもあったが、ほとんど八つ当たりだった。

 

「はい。まだそこまでの魔力は溜まっていません。ですが今の状態でも相手を倒すことは不可能ではありません」

 

いくら数を重ねているとはいえ、魔力の面で言ってしまえばあまり上等とも言えない一般人からの吸収だ。

確かに吸収しないよりはましだが、劇的な変化など望むべくもない。

それは事実なのだが……ライダーの返答が余りにも平坦だった。

それが慎二を怒らせる要員の一つになる。

そしてその怒りに逆らわずに、慎二はライダーを殴りつけた。

それで少しでも怒りを下げようと思ったのだが……効果はほとんどなかった。

 

「不可能ではない……だって!? 僕のサーヴァントなら、あんな半端物のサーヴァントくらい軽く倒して見せろ!」

「慎二、さすがにそれは難しい。相手()まっとうなサーヴァントでないとはいえ、サーヴァントに違いない。しかもあのタイプは私と相性が悪い。そう簡単には倒せません」

 

相手も……。

それはつまり自身も普通のサーヴァントではないと言っているのだが……怒り心頭の慎二はそれに気づかない。

 

「それでも僕のサーヴァントなら、僕を勝たせるために勝って見せろ! 僕は、聖杯戦争に勝たないといけないんだ!」

 

なおもいい募る慎二の言葉を、ライダーは黙って聞いていた。

無反応の相手を殴っても意味がないと思ったのか、もしくは何の発散にもならないと思ったのか、それ以上慎二がライダーに暴力をは振るうことはしなかった。

というよりも、ほかの方法を思い浮かんだのだ。

 

(難しいなら……簡単にすればいい)

 

こちらが強くなって、相手を圧倒すればいいのだ……と。

 

「倒すのが難しいなら、お前が強くなればいい。明日、結界を発動させろ」

 

結界。

ライダーの固有の力で宝具の一つ。

それは結界内部へと入った人間を融解し、血液の形で魔力へと還元する能力。

広範囲展開に適したその結界は、学園生徒全員から魔力を吸収することが可能だ。

それだけの魔力を吸収すれば、確かに強力な力を持つのは事実だった。

だが……ライダーはそれを拒否した。

 

「余り薦められません。まだ魔法陣の構築が終わっていませんし、それにあなたがマスターであることを、あなたの知り合いに知られてしまった。この状況で大きく動くのは推奨できません」

「そんなの、お前があいつを倒せば関係ないだろう! そしてお前が強くなってあいつを倒すために結界を使うんだ! それのどこに問題がある!?」

 

自分の言うことを聞かないサーヴァントに、慎二は怒鳴り散らした。

それを聞いてライダーもそれ以上何も言う気になれなかったのか、何も言わずに頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

その日……俺は不思議な夢を見た……

 

森の中だった……

 

深い深い山奥の森の中に……木々しかないようなそんな場所に……そいつは立っていた……

 

 

 

たった一振りの……野太刀を持って……

 

 

 

そいつがすることはただ一つ……その野太刀を振っていた……

 

それだけだった……

 

来る日も来る日も……

 

それこそそれしかやることがない……とでも言うように……

 

否、それは違った……

 

それしかやることがないのではない……それ以外にやらないのだ……

 

それこそ睡眠食事なども最低限こなして、後はひたすらに剣を振るっていた……

 

そいつが行っていたのは……()()すばやく剣を振るうこと……

 

それだけだ……

 

最初こそ普通だったその剣撃は、やがて徐々に徐々に洗練されていった……

 

そして最晩年に……彼はついに辿り着いたのだ……

 

 

 

 

 

 

剣を三度……「同時に」振るう剣技に……

 

 

 

 

 

 

だがそれも彼にとってはそこまでの感動ではなかった……

 

彼の目的……燕を斬ることを目的とし、それを叶えるためにたどり着いた境地でしかないのでそのあり得ない剣技を会得しても、彼はただ、出来た……としか思わなかった……

 

そしてその直後に……彼は死亡した……

 

ただただ……剣を振るだけの生を全うして……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

……何だ今の夢?

 

起きて思ったことがそれだった。

何というか……その場に自分がいるんではないかと思えるほどリアルな夢だった。

さらに言えば主観ではなく……まるで他人の生を見ていたかのような違和感があった。

自身が体験していない事を、見せられたという感じだろうか?

そして内容から言ってほぼ間違いなく……

 

小次郎が生きていたときの記憶……か?

 

姿が少しみすぼらしい感じがしたので余り今の……というかサーヴァントの佐々木小次郎としての特長はそこまで見られなかったが、最後に見せた「同時」に放たれた秘剣が、小次郎であることの何よりの証拠だった。

 

……まさかこれほどだったとは

 

やることと言えばただ剣を振るだけ……それだけだった。

だがそれが彼の全てだった……。

そしておよそ普通ではたどり着けないような境地に……己の身体のみでたどり着いてしまたったのだ。

 

……そら強いわけだ

 

無窮……と言う言葉では収まりきらないほどの修練だった。

何せ剣を振っていた……立ったその一言で自分の人生を語ることが出来るほどに、それしか行っていないのだ。

あれほど剣が鋭いのも納得だった。

そしてその最後に会得した……剣閃三撃同時の秘剣「燕返し」。

 

……確かに小次郎の言うとおりだ。簡単に出せる技じゃない

 

小次郎がいくつで死んだかはわからないが、それでも俺より年下で死んだということはなさそうだった。

それだけの時間を掛け、小次郎がようやくたどり着いたのだ。

はっきり言ってしまえば……絶対に出せないだろう。

だがそれでも……

 

最高峰と言えるものを見せられた以上……それに追いついてみたい……

 

追いつくと言うよりも、別の方法で行うかもしれないから明確には追いつく訳じゃないだろう。

俺の気と魔力を使用してそれを目指すのだから。

だがそれでも追いつけるかわからない。

だから俺は……

 

今日も張り切って特訓するか!

 

追いつけるかどうかもわからず、それ自体も困難だ。

だがそれでもたどり着いてみたい……。

 

一目惚れした技を撃ってみたい……

 

その純粋な想いで、俺は小次郎と供に今朝も訓練に励むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ここはどうだ?」

「……ビンゴね。下がってて」

 

早朝……。

まだ朝練にも早い時間に士郎と凜の二人が学園へとやってきて、学校中を回っていた。

ライダーの結界の魔法陣を破壊し、少しでも結界の発動を遅らせて時間を稼ぐためだ。

時間を稼ぐだけでなく、結界での被害を防ぐことも理由の一つだ。

しかし学校中と言ってもそこまでの時間もなく、またさすがにサーヴァントの魔法陣と言うだけ合って、魔法陣の頑健さもそれ相応だった。

それ故に凜の実力があっても、一つ破壊するのにも時間がかかった。

というか……いくら時間がかかるとはいえサーヴァントが作り出した結界の魔法陣を自身の力だけで破壊することの出来る遠坂凜の方がすごいのだが。

 

「壊せたわ。なんとかなりそうね」

「……それにしても弓道部の人間が」

 

士郎の顔にはライダーの魔法陣を壊せた嬉しさは微塵もなかった。

刃夜の言葉……「弓道部の人間がマスターである」という言葉。

それが士郎の心を重くしていた。

自身の知人が聖杯戦争に関わり、あまつさえそれで人を襲ったという事が信じられなかったのだ。

自身で見ていなかったことも手伝って、士郎は未だに信じていなかった。

 

「まだ言ってるの? 弓道部の人間かもしれないし、そうじゃないかもしれないわ。けど今はそれは関係ないわ。ライダーのマスターが学園の生徒達を魔力として利用しているのを黙ってみているわけにはいかないわ」

「……あぁ」

 

それは事実だった。

正義の味方として、しないわけにはいかなかった。

……士郎は正義の味方として戦うと決めたのだから。

 

例え誰であろうと……それが明確な悪意ある行動をしていると言うのならば、戦わなければいけないのだ……。

 

「あぁ、わかってる。すまない遠坂、次に行こう」

「えぇ」

 

迷いつつもとりあえず行動に移す士郎に、凜が微笑を浮かべた。

だがその表情とは裏腹に、凜の心の内は疑念だらけだった。

 

(弓道部の人間がマスター……)

 

魔術回路がなければ令呪が宿らない。

これは本来ならば絶対の条件であるはずなのだ。

刃夜という例外はあるが、本来であればその通りなのである。

ある程度の実力のある魔術師ならば魔術回路があるのかないのか、見ればわかるのだ。

それは当然凜も同じである。

そして凜は、学園の関係者には魔術師がいないことはすでにその能力で調べていたのだ。

 

(……こいつのことはわからなかったけど)

 

ちなみに凜は、士郎も魔術師であることを知らなかった。

本人に言わせればへっぽこすぎるので気づかなかったらしい。

まぁそれも事実ではある。

魔術師は自身の子供に自分の魔術刻印を移植することも出来るのだが、士郎と切嗣は刻印の移植は出来なかったのだ。

血の繋がりがないので、不可能なのだ。

故に一代目である士郎がへっぽこなのはある意味で無理からぬ事である。

また間違った方法で鍛錬も行っているので、未熟なのは仕方がない。

 

 

 

しかしそれでも気づかなかったのは……遠坂凜の「うっかり」が絡んでいることは否定しきれない。

 

 

 

(……他の人間に魔術回路がないのは間違いないはずなのに)

 

といっても、士郎のことも見逃しているのでその言葉に信頼性はない気がしないでもない。

 

(あいつは……まぁ実力があるから……理解は出来ないけど、納得は出来る)

 

刃夜は色んな意味で普通ではない。

異世界人であり、自身の世界でも色々と普通の人生を歩んではいない。

そしてモンスターワールドにて特殊な力を得た。

それを魔術師として何となく凜は察しているのだ。

 

(あいつは本当に一体……)

 

凜にとっては刃夜は不思議の塊だった。

ちなみに凜が何故ここまで「平行世界」の事を気にするかというと、遠坂家は「根源の到達」の他にも、先祖の師匠キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが課した課題……。

 

平行世界の運営

 

という宿願があった。

 

 

 

キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ

現存する四人の魔法使いの一人である、第二魔法「平行世界の運営」の使い手。

宝石剣を持ち、宝石をシンボルとする魔法使いであるため「宝石翁」「万華鏡」「魔道元帥」とも呼ばれる。

悪に義憤し善を笑うという性格。

彼に弟子入りする場合は二択しか弟子に結末はない。

「廃人になる」か「大成するか」の二つであるらしい。

 

 

 

 

 

 

ちなみに仮に優秀であっても、ほぼ99%の確率で廃人になるので滅多なことでは自身の弟子をゼルレッチの元にはいかさないらしいが……。

 

 

 

 

 

 

とまぁ、そんな課題が残されている凜に取っては刃夜の存在は文字通り驚愕だった。

自分の身近な場所にそれの体現者がいるとは思わなかったのだ。

 

 

 

ちなみに、凜は刃夜がそう言った力(平行世界への移動)を持っていて、失敗とかをしたために聖杯を求めていると思っているが、実際は某二人組の力によって強制的に送還されただけだが……。

 

 

 

(……あんな概念武装持ってるんだから、その可能性もなくはなかったのね。見込みが甘かったわ)

 

士郎と二人で歩きながら自身の愚かさを呪っていた。

今となっては完全に敵対関係となってしまった以上、話を聞くのも難しい。

もう少し話を聞いておくべきだったと……後悔する凜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「よぉ美綴。元気してるか?」

「お邪魔するぞ、美綴よ」

「あ、鉄さんに小次郎さん」

 

昨夜襲われた私は、今冬木総合病院の病室で暇を持て余していた。

そんなときに来てくれたのが、私を昨夜救ってくれた鉄さんに小次郎さんだった。

時刻は午後二時半頃で、板前服の格好で何かお見舞いの品……風呂敷に包まれたお重を……持ってきてくれた。

他にも、朝の訓練でよく手にしている黒い包みと竹刀袋を持っていて、時間からも、格好からも、お仕事のお昼休みに来てくれたのは明白だった。

それに恐縮しつつも、暇だった私としては話し相手ができただけでも嬉しいし、何よりもお見舞いに来てくれた事がすごく嬉しかった。

 

……来てくれた

 

実際、来ないと思いつつもやっぱり期待してしまっていたので……すごく嬉しかった。

 

「どうだ? 大丈夫か?」

「身体には何の問題もなかったんですから大丈夫ですよ」

 

備え付けのイスに腰掛けながら、鉄さんがそう言ってくれるのを、私は苦笑しながら返した。

ちなみに、病室はなんか余っている部屋がICUしかなかったらしく、ほとんど個室みたいな状態で、周りに他の患者さんはいなかった。

 

「個室か。まぁ良かったな。女の子だし」

「まぁ~そうかもしれませんけど、暇なことに代わりはないからどっちでも良かったですね」

 

実際……暇だった。

一応とはいえ検査されたけど、異常は一切見あたらなかった。

正直今すぐ帰ってもいいのだけれど、それでもだめらしいので仕方がない。

 

「何、今日で退院出来るのだろう? ならばそれでなによりだ。どれ、茶でも入れようか」

「あ、すいません! 私がやりま……」

「だぁほ。病人は座ってろ。これ、見舞いの品だ。摘める物を適当に食ってきたから食べてくれ」

「あ、すいません。ありがとうございます」

「後、これだ」

「?」

 

そう言って差し出されたのは、手作り感溢れるお守りだった。

でも以前の「勝」と彫られた木の板のお守りと違って、実にお守りっぽい感じの作りになっている。

それになんか……不思議な力を感じるっていうか……。

 

「正直思い出させたくなかったが……念のためにな」

「……あ」

 

それを聞いて、昨夜の記憶が蘇る。

何か得体の知れない……人の形をした何かが私に何かをしようとして……。

あの時はわからなかったけど……首もとに口を持って行ったことから噛みつこうとしていたんではないかと思う。

マスクのような物で顔を隠していたから、全然表情が読み取れなくって。

 

後一歩……鉄さんが来るのが遅かったら……

 

そんな最悪な想像もしてしまって。

その時……

 

ポン

 

 

 

「大丈夫。大丈夫だ……。もうあんな事は起きないし……起こさせやしない」

 

 

 

「……あ」

 

その声に……頭を撫でてくれるその手の温かさに、恐怖に飲み込まれそうになっていた私の心が少し落ち着いた。

それに……鉄さんの言葉が嬉しくって……。

 

 

 

起こさせやしない、って……すごく感情がにじみ出てた……

 

 

 

それは、鉄さんの本心であることが、何となく感じられた……

 

 

 

「ったく」

 

ピン!

 

「あたっ!?」

 

そうして、優しく撫でられる手の感触に心癒されていたら、撫でるのをやめて隙だらけの額にデコピンをされてしまった。

それに対して不満げな顔を鉄さんに向けるけど……それを一蹴されてしまった。

 

「まったく……油断しているからこうなるのだ。いいか? 今度からは気をつけろよ?」

「それには激しく同意だぞ美綴よ。だから申したであろう? 可憐な花弁を傷つけては大事だと。養生しなされ」

「……はい」

 

飴を与えたらちゃんと鞭もするところが……実に鉄さんらしかった。

小次郎さんも一緒だから二人に叱られてしまったけど……二人がすごく私のことを心配してくれているのがわかって……むずがゆかった。

鞭を与えている今も、なんか、すごく朗らかな笑顔で……私もつられて笑ってしまった。

病院だから、余り大きな声で笑うことは出来ないけど、その時間がひどく心地よかった。

 

でもまず……

 

まず、と言うにはもう遅いかもしれないけど、それでも言わなきゃいけないことが……。

 

「鉄さん」

「ん?」

「昨夜は……ありがとうございました」

「気にするな。今度から気をつけてくれたらそれでいいよ」

「でも!!!!」

 

何とでもないと言うように言ってくれる鉄さんに、私は詰め寄る。

だってあの時……本当に怖かったから。

もしも鉄さんが来てくれなかったら……どうなっていたかわからない。

それを考えて、あの時のあの目を隠した人の恐ろしさを思い出すと今でも身体が震えてしまう。

怖くて記憶が曖昧だからよく覚えてないけど、鉄さんが助けてくれたことだけは覚えてた。

 

「だ~か~ら~。気にしなくていい。俺がお前を助けるのは当たり前のことだろう?」

「……!?」

「口説いてるぞ刃夜?」

「……そういうつもりじゃない」

「ならばどういうつもりなのだ? たぶらかすような下衆ではなかろう?」

 

二人が何か言い争いをしているけど、私の耳にはほとんど入ってこなかった。

だって……あまりにもはっきりと言ってくれた言葉と、その時の表情があまりにも格好良かったから……。

 

……病院で暇だったけど……それに見合う時間は取れた……かな

 

おもわずらしくない、そんなことを思ってしまう。

だけど、それでもこの時間が心地よく、愛おしかったので私は何も考えずにただ……鉄さんと小次郎さんとの会話を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(……ここもですか)

 

慎二が魂食いを行っていたのを刃夜に邪魔された翌日の朝。

穂群原学園の各所にて暗躍する影があった。

その名はライダー。

昨夜の慎二の指示、結界を発動させるためにその魔法陣の確認を行っている最中だった。

だが結果として魔法陣は破壊されてしまっていた。

破壊されたと言っても全てが破壊されたわけではない。

だがそれでも、元々完全に準備が出来ていなかった結界の魔法陣が破壊されてしまったのは、痛い物があった。

今朝、朝早くに魔法陣を破壊するために士郎と凜が学園へとやってきて破壊したのだ。

無論姿は見えないがアーチャーも一緒である。

時間が限られていたためにそこまでの数は破壊されてないが、それでもいくつかは破壊されてしまった。

これでは完全な結界を作動させることは不可能だろう。

だがそれでもマスターの指示である以上、それを遂行しないわけにはいかない。

ちなみにその指示を出した慎二は本日穂群原学園には来ていない。

魔術師ではない慎二までが結界に入ると、自身までも影響を及ぼしてしまうからだ。

 

(少々問題はありますが……)

 

少々どころではなく、はっきりいって問題だらけと言っても良かった。

元々魔法陣が完全に敷き終わっていなかった上に、ライダーが全力出せないと言う理由もあり、挙げ句の果てに士郎と凜の破壊工作まで加わってしまっては、とてもではないが全力の力を出すことは難しいのも当然だった。

 

(……マスターの命令とあっては断るわけにもいかないですね)

 

別段、ライダーは士郎や凜と違って、結界で生徒達を魔力に変換することをためらっている理由は全くなかった。

むしろ力を少しでも手に入れられるのならば問題はなかった。

 

 

 

 

 

 

自身の目的のために……

 

 

 

 

 

 

ライダーは結界の起点……弓道場の裏の林で跪いて念を送る。

 

 

 

「他者封印……」

 

 

 

起点とライダーから凄まじいほどの魔力が迸る。

それが渦を巻くようにして……ライダーの周りに漂う。

さらに起点から地面を這うようにして、地面を血のような赤い線が走り……さらにそれが学園の敷地を駆けめぐる。

それが地を這う事に徐々に徐々に肥大化していき……学園全体を包むように球場の形をしていく。

線が球場を形成し、それが頂上で集まり……さらに巨大化していく。

 

 

 

そしてその中に……何か巨大な眼のような物が、出現した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉がライダーの口より紡がれた瞬間に……穂群原学園は、文字通り異界となってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

!!!!

 

 

 

「なっ!? これは!?」

 

凄まじい重圧が身体を抑えつけるようなそれを感じ取り、士郎はその瞬間に倒れそうなほどの虚脱感に見舞われた。

ライダーの結界の能力で、生態エネルギーや肉体を魔力に変換し吸収されているのだ。

 

(くっ!? こういうときは……)

 

魔術師としての本能で士郎は身体全体に魔力を巡らせる。

それによって何とか虚脱感がなくなったが、状況が好転したわけではない。

周りを見渡せば、クラスメイトが全員倒れていた。

それを見て士郎の顔が一瞬青ざめる。

だがそんな場合ではないことを思いだし、直ぐに行動する。

 

「みんな!?」

 

呼びかけても特に反応がない。

反応が出来ない。

一般人である学生達が、サーヴァントの結界に耐えきれるわけがない。

 

「う……うぅ」

「!?」

 

声一つなく、不気味に静まりかえった教室にうめき声が聞こえた。

それは士郎がよく知る声……藤村大河の声だった。

 

「藤ねえ! 大丈夫か!?」

「……ぅ……ぁ」

 

大河を介抱していたが特に意味はなく、うめき声を返してくるだけだった。

普段無駄に元気な大河のその余りにも見慣れぬ反応に、士郎が絶句する。

その時教室のドアが勢いよく開き、凜が入り込んできた。

 

「衛宮君!? 無事!?」

「遠坂、これは!?」

「間違いないわ、ライダーの結界よ。あれだけ妨害したのにまさか発動させるなんて!?」

 

凜としても予想外だったらしくその表情には焦りが出ていた。

それは当然士郎も同じであり……いや、それ以上だった。

正義の味方としてこの状況は許される物じゃなかった。

教室……学園中の生徒を吸収せんと発動してしまった結界は、今も発動しており学生達から魔力を吸収しているのだ。

 

「遠坂! 急いで結界を解かせないと!」

「わかってる! アーチャー!」

「了解した。行くぞ凜!」

 

凜の掛け声と供にアーチャーが現界し、その手に一対の剣を握る。

アーチャーが先行し、それを凜と士郎が追った。

必死に二人を追いかけつつ……士郎は令呪で繋がっているセイバーへと念を送った。

 

(セイバー! 来てくれ!)

 

まだ非常事態ではないので慌てる必要はない……と自身を必死に自制して、令呪を使うのを抑えた。

士郎としては今すぐ召喚してもいいのだが、さすがにまだ状況が動ききっていないので、無駄に使うことはないと、思っていた。

 

「アーチャー! ライダーはどこにいるの!?」

「下の林から気配を感じる。おそらく結界の起点だろう」

 

もちろん、凜も焦っていた。

冬木の監督者として現場にいながら、この最悪の事態を引き起こしてしまった自分の情けなさに歯がみしていた。

罪もない人々を吸収してまで聖杯戦争を勝ち上がろうとしている輩も許せなかったが……それ以上に自分のことが、許せなかった。

だが後悔に苛まれてばかりではない。

直ぐに思考を切り替えて、凜はやるべき事を優先する。

 

(直ぐに結界を解除させれば!!!!)

 

それしか学生全てを救うことは出来ないのは事実だった。

規模が大きいので他者がそう簡単に破壊できるわけがないのだ。

ならば術者を倒すしか方法はない。

不幸中の幸いと言うべきか……士郎と凜の妨害により、結界の出力は弱まっているのだが、あまり悠長なことを言っている余裕はなかった。

 

 

 

結界が発動し、学園全てが死地と化してしまった校舎の中を、三人の駆け足が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「……うん?」

『どうした仕手よ?』

「何かあったか?」

 

美綴の病院の見舞いの帰り道。

俺は強烈な龍脈の乱れを感じ取り、思わず足を止めていた。

今から午後の部の仕込みを始める時間まで、俺の大事な友人美綴を襲おうとしたライダーとやらの情報入手をするつもりだったのが……それを停止させざるをえなくなった。

そんな俺に小次郎と封絶が言葉を掛けてくるが、今の俺にそれに反応する余裕はなかった。

ひどく……むかつく感じの何かを、俺の感覚が捉えていた。

 

いや……感じたのはこいつか……

 

左腕前腕が熱く感じられる。

内部に収められた老山龍の神器が龍脈の乱れを明確に察知していた。

 

……これは穂群原学園か?

 

龍脈の乱れの発生源を明確に感じ取り、俺は直ぐに移動を開始する。

それに小次郎が追随する。

すぐに穂群原学園に到着するのだが……外見上に何ら異常がなかった。

 

「……学園がどうかしたのか?」

『何の異常も見られなさそうだが……。いや、これは?』

 

さすがと言うべきか……封絶は気づいたようだった。

 

結界……だと?

 

学園をすっぽりと覆うように張り巡らされた、血のような色の結界。

龍脈を使用するタイプのようで、かなり頑健さを誇っているようだ。

その上地脈と繊細に結合しているらしく……ほとんど外に力が漏れ出ていない。

ここまできてようやく封絶が感じ取れた事がそれを証明していた。

 

どんなタイプかは謎だが……この雰囲気と見た目から察していい物でないことだけは確かだな

 

学園が何か邪悪な結界に飲み込まれたとなると……中の人間はただではすまないだろう……。

そしてその中には、俺の親しい人間であり、恩人の孫娘がいるわけであり……。

 

……大河が!?

 

「小次郎! この結界……何とか出来ないか!?」

「む……。どうにかしたいが……私は呪術の類などは全くわからん。そもそも学園には何も異常がないように思えるのだが?」

 

生粋の剣士である小次郎は、学園に結界が張り巡らされたこともわかっていないようだった。

否、小次郎だからと言うわけではないのだろう。

周囲の人間……道を行き交う人々は誰も学園を気にしていない。

何かしらの能力で隠遁したのか……はたまた龍脈と結びついているが故に気づかないのかは謎だが、普通の人間は気づかないようだ。

 

『封絶! お前は!?』

『……残念だが、私には』

 

唯一気づいた封絶に望みを託すが、芳しい答えは返ってこなかった。

だがそれで諦めるわけにはいかないので、俺は封絶を抜き結界の壁に斬りかかってみるが……。

 

 

 

シュン

 

 

 

何!?

 

渾身の力を込めた封絶が空を切った。

確かに結界を切り裂くことは出来たのだが……切った瞬間に修復されてしまったのだ。

これでは手の出しようがない。

魔を引き裂き吸収する封龍剣【超絶一門】ですらこれだと……今の俺では手の出しようがない。

 

……どうする!?

 

気持は焦るが、何も出来そうにない……。

恩人である大河が危ない目に遭っているというのに……。

 

 

 

 

 

 

あれだけ強大な力を入手したというのに……俺は無力だった……

 

 

 

 

 

 

美綴さんは安全のために避難させたってかんじだねw

一日入院はそう言うわけなのだw

身も蓋もないかもしれないがwwwww

 

され次回辺りに見せ場があるよ~

誰の見せ場かはあえて言わないw

一応、宝具が三つ登場しますw

次回はばりばりの戦闘だよ~

頑張って書いたから期待しててね!

 

 




美綴さんは安全のために避難させたってかんじだねw
一日入院はそう言うわけなのだw
身も蓋もないかもしれないがwwwww

され次回辺りに見せ場があるよ~
誰の見せ場かはあえて言わないw
一応、宝具が三つ登場しますw
次回はばりばりの戦闘だよ~
頑張って書いたから期待しててね!



ハーメルンにて追記
私明日(10/4)からゾンビ狩りにいそしみますので連休明けまでは続きをあげられません
感想はできうる限り読ませていただくようにしますが遅れるかもしれませんのでそこんとこよろしく!!!!



2018/5/14 追記
S(人格16人)様 誤字報告ありがとうございました!
修正しました!
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