月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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タイトルで話しの落ちがわかるという……
出オチ……ではないな


タイトルオチ? 名オチ? ネームオチ?



タイオチ!!!!



……わからんわ!!!!

ともかく知っている人にとっては見ただけでわかるよね!!!!

もちろん知らない人向けにも書いたら問題ないですよ!!!!

ちなみに本文はびっくりの24000字数以上だ!!!!


それじゃどうぞ!!!!







聖剣

それは全てを吸収する、檻だった……。

魔法陣が完全ではないとはいえ、英霊であるサーヴァントが使用する魔法陣だ。

それは現代の魔術師であるならば、単身で執行するには困難ものだった。

それをあっさりとやってのけたライダーは、裏の林にて無感動にその結果を受け入れていた。

 

 

 

(……こんな物でしょうか?)

 

 

 

とりあえず結界が発動したことを確認し、徐々に徐々に自身に魔力が集まってくるのを感じつつ、彼女はそれを淡々と喰らっていた。

彼女は殺人鬼でもなければ殺人快楽者でもない。

人間が死んでいくことに対して何も感じないと言うわけではない。

だがそれでも……ライダーにとってはどうでもいいことだった。

 

 

 

(私は……)

 

 

 

!!!!

 

 

 

「!?」

 

自身へと飛来する何かを感じ取り、ライダーは咄嗟に避ける。

それは先ほどまでライダーがいた場所に正確に突き刺さった……一本の矢だった。

 

「これは……」

「そこまでよライダー!」

 

声がした方へと目を向けた。

そこには三人の男女がいた。

先頭にアーチャー、凜、士郎がおり、それぞれがそれぞれの思いを乗せた視線を、ライダーへと向けていた。

 

「今すぐ結界を解除しなさい」

「……マスターでもないあなたの命令に従えと?」

 

凜の命令に当然のごとくライダーは拒否をした。

凜もまさかそれでライダーが止めるとは思ってはいなかった。

故に自身のサーヴァント、アーチャーに視線を投じた。

それを明確に感じ取ったアーチャーは……。

 

ブォン

 

一対の剣を出現させて、答えた。

それを見てライダーも己の得物……鎖で繋がれた杭のような短剣を出現させる。

一触即発。

そう言っても差し支えのない状況で……士郎が言葉を放った。

 

「ライダー……なんだよな?」

「……」

 

クラス名の確認ですら、ライダーは士郎の問いに答えなかった。

答える必要性がないからだ。

サーヴァントがそばにいないとはいえマスターである以上敵であることに代わりはない。

だがそれでも……士郎は問う言葉を止めることは出来なかった。

 

「お前の……お前のマスターは本当に弓道部の人間なのか!?」

「……」

 

再度の問い。

ライダーのマスターが誰であるかという言葉。

当然ながらそれは答えられるはずもなかった。

自身のマスターが誰であるかなど、話して特になるわけがない。

マスターの魔力なしでは存在できないサーヴァントを、一番簡単に始末するならばそのマスターを殺せばいいのだ。

同じようにサーヴァントを失ったマスターがいないとは言い切れないので再契約されてしまう可能性はあるが……それでも間違いなく一番簡単な方法だった。

 

「……」

 

故に……ライダーは当然のように答えなかった。

その反応に、知り合いがマスターであるかが知りたかった士郎が、さらに言葉を放とうとしたが……。

 

「衛宮君。今はそんな場合じゃないわ」

「遠坂……」

 

凜が止め、そして今学園がどういった状況であるかを思い出させた。

確かに今はそんなことよりも、優先すべき事があると。

 

「もう話すことはありませんか?」

「ほぉ? 随分と優しいんだなライダー? いや、それとも余裕か?」

 

ライダーの言葉に返答したのはアーチャーだった。

これ以上時間を取らせるわけにはいかないので、士郎と凜の言葉を言外に封じているのだ。

士郎はそれに気づかなかったが、凜はさすがに察していた。

だが、自分の従者に状況が状況とはいえ指図されるのに若干カチンとしたのは……彼女が子供だからだろうか?

 

「時間稼ぎでしょうか? まだ魔力が集まりきっていませんし……それでもあなたたちを倒せばそれでいいのですから問題はありません」

「……言ってくれるな、ライダー!!!!」

 

アーチャーの怒号を皮切りに……戦端が開かれた。

鎖と杭の投擲の連携で、ライダーだがアーチャーに襲いかかる。

それを切り払い、アーチャーが自身の間合い……剣の間合いへと踏み込みその両手の剣を振るう。

ここに至っては……人間である士郎と凜に何も為すべき事はない。

何もすることが出来ない。

ただ、ただ……アーチャーがライダーを倒すのを待つか、それとも結界を維持するのが不可能なほどの打撃を与えるまで待つしかなかった。

 

(……何も出来ないのか!?)

 

ただ突っ立っていることしかできない自分が……士郎は歯を噛み砕かんばかりに食いしばることで耐えた。

周りで生徒が、教師が……無実の人々が死にかけているというのに何も出来ない自分が、悲しかった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ふん!」

 

渾身の力を込めても当然結果は同じであり……それは気と魔力を込めた封絶でも一緒だった。

この結界を破壊ないし切り裂くには圧倒的に出力が足りないようだった。

 

「ちっ!?」

 

俺は焦った。

何かの結界が発動したのは穂群原学園……大河の勤め先だ。

この時間……三時頃に学園にいないはずがなく、この中にいるのは間違いない。

故に何とか入ろうと試みているのだが……外界からの介入をこの結界は完全に拒んでいた。

 

『仕手よ……この結界は私の力だけでは』

「黙っていろ」

 

親切心から俺に話しかけてくれた封絶に、俺は低い声でそう答えた。

はっきり言ってわかりきっていた。

だけどそれでも何もしないわけにはいかず……俺はがむしゃらに封絶を振るっていた。

その俺に……小さな気配が近寄ってきていることにも気づかずに……。

 

「こんにちは、お兄さん……」

「!?」

 

そう声を掛けられて俺は心臓が飛び上がるほどに驚いた。

小次郎が俺とその声を掛けてきた存在の中間に立つ。

その小次郎の先……声を掛けてきた存在を視認して俺は驚いた。

 

「……お前は、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

「どうしたの? こんなところで」

 

???? 殺意なし?

 

俺に向けられたその視線、声にも全くといっていいほど負の感情が込められていなかった。

負の感情……怒りや殺意といった感情。

 

まるで戦うつもりはないとでも言うというように……。

 

その証拠に……あの圧倒的な存在の気配が感じられなかった。

あれほどの存在を完全に隠しきるのは不可能だろう。

故にこの少女は、自分のサーヴァントを連れていないと言うことなのだろう。

 

「……小次郎、霊体になれ」

「? 何故だ?」

「……サーヴァントをつれていない以上、この子は今ここでやるつもりはないのだろう。ならば俺もサーヴァントをそばに置いておくのは本意ではない」

「ふむ……。それもそうさな。童女とはいえ、女人を傷つけるのは私の本意ではない」

 

俺の願いを聞き届けて……台詞が少し危なげだったが……、小次郎が実体化を解いて霊体に戻った。

いくらこの子を斬るために出したわけではないとはいえ、俺は封絶をシースへとしまった。

そして一応油断はしないまま少女……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンへと声を掛ける。

昨夜の殺気立った雰囲気は皆無だった。

何か意図があるのかないのか……それがわからない以上気を許すわけにはいかなかった。

 

「……どう言うつもりだ?」

「? どういうって?」

 

きょとんと……それはもうこれ以上ないほどに不思議そうにしているイリヤがいた。

それを見てさらに俺はよくわからなくなるが……これを聞かないわけにはいかなかった。

 

「ここでやる気はないと言うことか? サーヴァントもつれずに」

「……何? お兄さんは今ここで戦いたいの?」

 

俺の台詞を聞いた瞬間に、イリヤの雰囲気が一変した。

先ほどまでの親しげ……いや何で親しげだったんだ?……な雰囲気が霧散し、即座に俺に殺意を向けてくる。

その変わりようが……ひどく変な感じがして、俺は違和感を覚えた。

 

「戦いたいって言うのなら私は構わないわ……。私のバーサーカーは無敵だもの……」

「……いや、やる気がないとわかればそれでいいんだ」

 

やる気がないと言うことを示唆するために、俺は両手を挙げる。

それを見て、イリヤはにぱっと笑顔になった。

 

「……それなら俺にどういった用件だろうか? イリヤスフィ――」

「フルネームで呼ぶのやめてくれる? 長いし、イリヤって呼んで欲しいな」

 

ぴょんぴょんと跳ねながら、俺へと近づいて来る。

その仕草がものすごく……見た目相応の子供のような仕草で、俺は戸惑ってしまった。

サーヴァントをつれていないことからも今この場でやる気はないのだろうが……。

 

「えっと、イリヤ……でいいのか?」

「うん! それでいいよお兄さん! お兄さんお名前は?」

 

俺の手を取って、嬉しそうに跳ねるイリヤス……イリヤに俺の戸惑いは加速した。

はっきり言って意味がわからないからだ。

だが戦う気がないというのであれば別に構わないだろう。

 

「これは失礼した。俺の名前は鉄刃夜だ」

 

 

 

 

 

 

「クロガネジーヤ? 変な名前だね」

 

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

 

 

ジーヤ

 

 

 

 

 

 

その言葉が……俺の脳裏に過去を思い起こさせた……

 

 

 

 

 

 

「済まない。出来たらジーヤはやめてくれないか?」

「? ジーヤはイヤ? ならなんて呼べばいい?」

「ジンヤって呼んで欲しいが……呼びにくいか?」

「ジンヤ? ジンヤ、ジンヤ……う~ん、特に呼びにくいって事はないよ?」

「そうか、ならそれでいいかな?」

「うん!」

 

名前の交換が嬉しいのか……それとも単に人と触れ合うのが面白いのか、すごく喜んでいた。

だが俺はある意味でそれどころではない。

少女が普通ではないことを何となく察したからだ。

何というか……普通の人間ではない感じだった。

 

まぁ魔力(オド)の量が半端なかったからそれもある意味で当然か……

 

どういった存在かわからないが……それでもこの子に害がないというのであれば構わないだろう。

 

「それでどうしたんだ? 散歩?」

「うん! そうだよ。私は冬木を見て回ってたの」

「ほぉ~……ってそれどころじゃなかった!」

 

イリヤとの接触で一瞬優先事項が変わってしまって、忘れてしまっていたが今はこの子に構っているわけにはいかなかった。

何とか結界の内部に入る方法を探さなければ……。

イリヤから離れ、俺は再度結界をどうにかしようと向き直るが……どうすればいいのかわからなかった。

 

封絶も匙を投げたこの結界をどうにか出来るとは思えないが……何もしないというわけには……

 

「何? この結界がどうかしたの?」

「む? 気づいているのか?」

「そらそうよ。これが規模の大きさはともかく魔術であるのなら、私がわからないわけないもの」

 

……わからないわけがない?

 

何か意味深なことを言っているが……それの本意はわからない。

だがそれでもあまり関係はないので俺は再度封絶を抜いて結界へと斬りかかるという……無謀なことをしようとしたのだが……。

 

「何? お兄さんは結界の中に入りたいの?」

「あぁ」

「なら教えて上げようか? この結界の切れ目」

 

何!?

 

余りにも意外なその言葉に、俺は勢いよく顔を向けた。

俺の反応が面白かったのか、それともそれを知っていることが誇らしいのかは俺には測りかねるが……それでも少女のその言葉が嘘でないことは俺には直ぐにわかった。

 

「教えてくれないか?」

「いいよ。お兄さん私のバーサーカーと戦っててすごかったから教えて上げる!」

 

価値基準はよくわからないが……すごいと認識したから教えて上げると言うことでいいのだろう。

早速とばかりに俺はイリヤに案内されて何の変哲もない、ちょうど学園の端……四隅の一つの場所だった。

だが……。

 

『確かに……切れ目ではありそうだな』

「……あぁ」

 

力と力がぶつかり合っているような……そんな感じのする場所だった。

どうやら結界の切れ目というのは間違いなさそうだった。

 

「え? 今……その剣がしゃべったの?」

『……あぁ、よろしく頼む少女よ』

「すご~い! 見た目的に普通の剣ではないと思っていたけど……意志を持つ魔剣だったんだぁ!」

 

……魔剣ねぇ

 

実際魔剣なので何とも言えないが……何というかすごく人間くさい封絶が、最近魔剣と思えなくなっている自分がいる。

まぁ正直些細なことなのでどうでもいいが……。

 

「イリヤ、下がっていてくれ」

「? どうするの? 言っておくけどこの結界は地脈と綿密に結びついて発動するタイプだから外から破壊するのは困難だよ?」

「それでも……何もせずに諦めるのはしたくない」

 

イリヤを少し下げ、俺は封絶を収めた。

その代わりに……竹刀袋へと収めていた夜月を出した。

そして一歩前へと出て……静かに目を閉じる。

 

簡単に破壊できないことはわかっていたが……

 

 

 

 

 

 

「それだけで、恩人を見捨てる理由にはならない!」

 

 

 

 

 

 

ゴワッ!

 

 

 

 

 

 

閉じていた目を見開き……それと供に左腕前腕を、夜月の柄頭へと持って行く。

 

「魔力解放……」

 

そこらの魔力と、自身の気力と魔力をありったけかき集めて、俺はそれを左腕前腕に眠る力へと……注いでいく。

 

 

 

目覚めろ……紅炎王龍よ!!!!

 

 

 

左腕前腕が燃えるような力を醸しだし……それが俺が手にした夜月へと注がれていく。

 

紅い……紅い……炎熱の力が徐々に徐々に纏われていく……。

 

やがてそれが渦を巻き、夜月全てを覆い尽くしたとき……それが顕現した。

 

 

 

 

 

 

魔紅獅刀(まこうしとう)炎王(えんおう)】!!!!」

 

 

 

 

 

 

プレートのような刀身となり、中に鍔元から剣先へと二本の線がある。

 

先は尖らずに、四角くなっていて、まるで鉈のような形状だ。

 

鍔はなく、その付近が刀身よりも厚く、そして幅広になっていることで指を保護している。

 

色は先の方ほど濃く紅く、鍔辺りの色は若干紫がかっている。

 

突きよりも斬ることに特化した刀剣となった……。

 

刀身に紅きオーラを纏い……それがここら一帯の冬の気候を一気に夏へと変化させる……。

 

それほどの力を有している。

 

そしてそれを俺は大上段に振りかぶり……

 

 

 

 

 

 

「縦閃……炎!!!!」

 

 

 

 

 

 

凄まじい威力を有するそれを……思いっきり振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

「ふっとべ!!!!! 結界!!!!」

 

 

 

 

 

 

紅きオーラが刀と供に剣閃を描き……結界へと激突した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

!!!!!!!

 

 

 

「!?」

 

自身が張った結界が外部から凄まじい衝撃を受けて、それを感じ取ったライダーは一瞬動きを止めてしまった。

刃夜の一撃をライダーだけでなく、アーチャーや士郎、凜も感じ取っていた。

何せ凄まじい衝撃と音が結界で覆われた穂群原学園に走ったからだ。

士郎と凜は何が起こったのかはわからなかったが、結界を張ったライダーは外から何物かが攻撃を仕掛けたものだと理解していた。

 

(今のは一体!?)

 

「戦闘中に考え事は……感心しないな!」

「!?」

 

思考を遮る声で、今がどんな状況かを思い出したライダーだったが、その時にはすでに遅かった。

何とか咄嗟に回避行動だけは行ったので、致命傷を受けることだけは避けられたが、それでも右腕を深く切られてしまった。

 

(……油断しました)

 

予想よりも相手が強かったこともそうだが、外部からの攻撃に気を取られてしまったことが最大のミスだった。

ライダーの結界は地脈と結びついて発動するタイプのために、そう簡単には破壊できない。

さらに地脈との結びつきによって外部からはほとんど察知されることがない。

発動に手間がかかったりするなどのデメリットも多数あるが……これを発動させることはなかなかに理にかなっているのだ。

しかしそれ故にライダーが驚くのも無理はなかった。

発動してもほとんど気取られるはずのない結界を感知し、あげくこの場にいる全員が感じ取れるほどの衝撃を加えてきたのだから。

確かに切れ目に攻撃されたがために、普通よりも強烈な衝撃が加わった。

しかし衝撃によって結界の発動に齟齬を来す……などと言ったことは全くない。

だがそれでも一瞬、バーサーカーが来たのではないかと、思ってしまったのだ。

 

 

 

それほどの衝撃だったのだ。

 

 

 

「くっ!?」

 

それで油断して腕を切られてしまい、ライダーは戦力が半減した。

それを確認し、ライダーがさらに斬りかかろうと接近するが……ライダーはそれを何とか避けて距離を取った。

 

「逃がすか!!!!」

 

さらに追撃するアーチャー。

そのため……アーチャーと士郎、凜との間に、少しの距離が開いてしまった。

 

 

 

「……何でも仕掛けておく物ですね」

 

 

 

距離が開いたことを確認して、ライダーがそんな声を上げた。

その声に不吉な気配を感じ取ったアーチャーが、咄嗟に背後を……士郎と凜の方へと振り向いた……。

 

 

 

その二人に向かって……鎖の付いた杭が迫っていた。

 

 

 

「ちぃっ!?」

 

自身のマスターの危機にアーチャーは一瞬で弓矢を投影し、士郎と凜に迫っていた杭を撃ち落とした。

そしてそのアーチャーを……鎖が縛りつける。

 

「くっ!?」

 

拘束が甘かったそれを、アーチャーは一対の剣を投影させて断ち切って振り返るが……相手はすでに姿を消して、遠ざかっていった。

それから少しして、結界が収まった。

その事で士郎と凜にかかっていた重圧が霧散する。

それに伴って、学園を覆っていた血のような色の結界が消え、頂点にあった眼のような模様も消失した。

 

「……とりあえず結界だけは解除できたようね。アーチャー」

「わかっている、直ぐに追おう」

 

凜が結界がなくなったことでほっと安堵の溜め息を吐き、すぐにアーチャーへと指示を飛ばした。

それに即応し、アーチャーが霊体化しつつライダーの後を追った。

 

「遠坂! 直ぐにみんなを!」

「わかってる!」

 

だが、危機が去ったからといってこれでやることがなくなったわけではない。

結界によって倒れてしまった学生、教師達を放っておけるわけがない。

士郎と凜は、直ぐにとって返して生徒達と教師陣の様子を見に行った。

 

 

 

ほぼ全ての学生と教師が昏睡状態にあったが……それでも何とか命に別条はなかった。

 

士郎と凜は直ぐに救急車などを手配した。

 

結界を阻止することは叶わなかったが、それでも人を救えたことに、誰も死人が出なかったことに……士郎は心から安堵するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

!!!!

 

 

 

……だめか?

 

魔紅獅刀【炎王】を振り終え、ぶつかった炎熱が結界へと衝突し、凄まじい音と衝撃を生み出したが……結界に変化はなかった。

さすがに地脈と結びついているだけ合って、その強固さは一筋縄ではいかなそうだった。

 

ちっ……もう弾切れだというのに……

 

振り終えた魔紅獅刀【炎王】が、形成していた魔力の分散と供に姿を消し……元の夜月へと戻っていく。

纏っていた炎を衝撃としてぶつけたとはいえ……一振りしか振るうことが出来なかった。

おまけに……

 

溜め込んでいた魔力全部使ってこれか……

 

俺は多少……本当に少し……だが、魔力を体内に蓄積できて、それとともに俺が扱えるだけ大気の魔力を使用して魔紅獅刀【炎王】を顕現したのだが……一振りで終わってしまった。

しかも蓄積していた魔力は再度の蓄積に丸一日近くかかり、さらには顕現まで若干のタイムラグがあるので……あまり実戦向きではない。

 

……手を尽くしたが……今の俺ではここまでか

 

己の未熟さに歯がみする思いだったが……その未熟さとは裏腹に、結果が訪れた。

 

「お?」

 

手応えをほとんど感じていなかったというのに、結界が解除され、学園を覆っていた重圧が姿を消した。

左腕前腕にある老山龍も異変を感じないことから、結界は解除されたと考えていいだろう。

俺はそれで一安心できた。

 

……気配も感じ取れるし、死んでいるって事はなさそうだな

 

学園内部に大河の気配があり、それとは別に士郎と凜の気配が走り回っているので……おそらく大事には至らないだろう。

それを確認して夜月を収めて、イリヤへと振り返った。

 

「すまない、助かった」

「……すごいねジンヤ。今の……宝具?」

「あ~……まぁ古龍からもらった能力を発現したからな。宝具で……合っているような……違うような……」

「コリュウ? 聞き慣れない単語だけど……龍からもらったの?」

「あぁ」

 

紅炎王龍……テオテスカトルには失礼かもしれないが、あれを「龍」というのは少し納得が出来ないのだが……

 

紅炎王龍テオテスカトル。

モンスターワールドにおいて俺が倒した古龍の一匹。

炎を操り、炎を膂力へと変換するという……生粋の前衛タイプの魔龍。

後衛タイプにして妻だった、紫炎王龍ナナテスカトリとのタッグは今思い出しても冷や汗をかく。

強さは間違いなく一級品で、性格もかなり良かったし、俺としても好きだったのだが……見た目が「龍」というよりも「獅子」にしかみえない。

 

まぁあくまでも私見だがな……

 

見た目はともかくあり得ないほど強かったし、そいつの能力をもらったに等しいので、俺の力とはっきりと言い切ることが出来ない。

龍刀【朧火】がなければ絶対に倒せなかったからだ。

 

まぁ……いい……

 

俺の魔紅獅刀【炎王】の攻撃で結界が壊れた訳ではないだろう。

だがタイムラグがそれほどないにもかかわらず結界が解除されたと言うことは、何かしらの意味があったのだろう。

無駄にならなかったことにほっとしつつ、俺は夜月を収めて再び竹刀袋へと収めた。

 

礼をしないとな

 

「ありがとうイリヤ。お前のおかげで何とかなったみたいだ。何か礼をさせてくれ」

「別にいいよ。私が教えたかったから教えただけだし」

「ならそれと同じだ。俺がお礼をしたいだけだからお礼をさせてくれ」

 

自分の台詞をそっくりそのまま返されたことが面白かったのか、一瞬イリヤが目を見開き、おかしそうに微笑した。

 

「うん、なら付き合って上げる!」

 

嬉しそうに笑いながら、両手を振りかげてイリヤが飛び跳ねていた。

了承を取れたことで、俺は時計を見た。

まだ五時までは十分に時間があるので、店に帰って何か料理を作る時間は十全にあった。

 

「イリヤ、失礼するぞ?」

「え?」

 

先に断りを入れて、俺はイリヤを横抱きに抱えた。

いきなり抱きかかえられて眼をぱちくりとさせるイリヤだったが……懐かしそうに眼を細めた。

 

「すまないな。ちょっと人目に付きそうだったから急いで帰らせてもらうぜ? しっかりと捕まっていてくれ!」

 

その表情は懐かしそうであり、悲しそうな表情だったので……俺はあえて触れずに自分の都合だけを言った。

実際……人目に付いていないとは言えないだろう。

小次郎が姿を消したときに人目はなかったが先ほどの衝撃は中だけではなく、当然外……つまりは俺がいる住宅街にも広がったわけで……。

加えて言うならば救急車や警察のパトカーなどが迫ってきている音が聞こえていたのだ。

別段、俺は悪いことはしていないが、昏睡事件の起きた学園のそばにいるのは怪しまれる上に、この世界で登録されていない夜月もあるので捕まる理由はあったりする。

故に、俺は今すぐここから離れた方が賢明だった。

 

「……いいよ。レディをエスコートするのは男の人の責任なんだからしっかりしてね」

「了解」

 

まだ若干表情は晴れなかったが、それでも寂しげな表情が少し消えたのを確認して……俺は疾風のごとく駆け抜けた。

おそらく死ぬことはないだろうが、それでも大河無事であることを願いつつ。

 

……そう言えば美綴は病院だったから結界内部には入っていないのか?

 

先ほど美綴とは病院で会ったばかりだ。

故に結界による悪影響はほぼ確実に受けていない。

それを喜ぶべきかどうかは謎だが……それでもとりあえず安堵しておくべきだろう。

そんなことを考えながら数分。

 

「ほい到着」

 

我が家兼職場の「和食屋」の前へと到着する。

とりあえずイリヤを降ろして俺は店の鍵を取り出した。

そんな俺を興味深そうに見つつ……イリヤがこう言った。

 

 

 

「……物置?」

 

 

 

 

 

 

「ちょっとまてい!」

 

 

 

 

 

 

いろいろと聞き捨てならない単語に、俺は思わず声を上げながらイリヤへと振り返った。

 

「人の家(借家だが)に対してなんて言うこと宣いやがりますか!?」

「え!? うそよ! こんな物置みたいな建物に人なんて住めないんだから!」

「いや、俺が住んでるっていうの……」

 

……いいとこのお嬢様か?

 

そう言えば今更かもしれないが、身に纏った濃い紫色のコートもどう見ても安物に見えない。

仕草は見た目相応だが……ひょっとしたらかなりお嬢様なのかもしれない。

そして外国の子であることから察するに……お城とかに住んでいたのかもしれない。

 

「……まぁいいや。入ってくれ。掃除は行き届いているから汚くないから」

 

相手が日本のことを知らないのだから、その程度で腹を立てていても仕方がない。

失礼かもしれないが、まぁ別段そこまでひどい物でもないので、俺は特に気にしないことにした。

 

「……お、おじゃまします」

 

おっかなびっくり入ってきたイリヤを苦笑しつつ、俺はイリヤを温かく迎えた。

イリヤから戦闘の意志がないことを告げてきているので、そう言った警戒ではないのだろうが、未知の物に触れるのは誰だって怖い物だ。

 

「よく来たな……少女よ」

「? あなたはさっきもいたサーヴァント」

「小次郎と申す。以後よろしく頼むぞ、可憐な雛鳥よ」

「……おい。さすがに犯罪だぞ?」

 

霊体で俺たちのそばにいたにもかかわらず、店に入った途端に現界し、イリヤを口説き始めた。

しかし俺の言いつけは守っているのか、背中にいつもの野太刀はなかった。

 

「む、失礼だな刃夜。私に童女趣味はないぞ?」

「……そうなのか?」

「っていうか……レディーに対して童女は失礼だよジンヤ!?」

「いや、俺が言った訳じゃないだろ」

 

何故か童女と明確に発言したのは小次郎だというのに俺が言ったみたいにされてしまった。

イリヤも最初こそむ~っとかわいらしく顔を歪めていたが、しかし直ぐに店の中を色々と見始めた。

そんなイリヤを店のカウンターに案内し、俺は手を洗う。

 

「何が食べたい?」

「食べたいって……ジンヤ、料理作れるの?」

「ここは料理屋だ。何が食べたい?」

「……えっと、私ニッポンの料理のことはよく知らないから、ジンヤの得意な物食べさせて!」

「俺の得意料理か?」

 

得意ねぇ……。大概の物は得意だが……

 

勝手がわからないのもあるのだろうが……それでも期待に満ちた目を向けられては、それに応えないわけにはいかない。

何が好きで何が嫌いかわからないが……とりあえずスタンダードに。

 

 

 

~十数分後~

 

「へいお待ち! 唐揚げ定食(小盛り)だ」

 

おそらく、余り嫌いな人間はいないであろう、唐揚げをチョイスした。

身体も余り大きくないことから、そこまで食べないだろうと思い、全体的に盛り方は少なめだ。

仮に大食いで全然足りなかったとしても、作り足せばいい。

 

「カラアゲ?」

「知らないのか? 鳥を衣で包んで上げた肉料理だ。嫌いだったか?」

「え、うぅん。ただ初めて見る料理だったから。それに、なんかすごく種類が少ないのね?」

「量じゃなくて種類?」

「うん。だって、お城で食べるときってもっとすごい色んな種類が合って、好きなのを食べるから」

 

あぁ……俺の大嫌いな貴族式の食い方か……

 

仕事上、王族というか貴族の連中に食事会に誘われたことがあったときの話だ。

広いテーブルに所狭しと……だが下品にならない配置で凄まじい数の種類の料理が置かれていて、そこから好きな物を好きなだけつまんで食べるという、残すことが前提の料理を食ったことがあった。

確かに貴族の食事だけあって味は最高なのだが……それでも残すことが前提であると言うことが俺には許せなかった。

食い物の命を侮辱し、そして作ったり、取った人々の苦労が水泡に帰しているからだ。

しかもそう言う連中に限って誰もそう言ったことを考えていない。

まさに金に飽かせての食事だ。

ついでに言えば作法が細かいというか色々と合って面倒なので肩肘を張ってしまう。

 

食い物は大事にしようぜ……

 

料理屋を営んでいるとつくづく思う。

食い物を作ると言うことの大変さという物を……。

 

まぁこっちでは……作物というか農耕はしてないんだがな……

 

モンスターワールドでは最初米がなくて発狂しかけた物だった。

 

「悪いがそんな大層なものは出せないぞ? 俺の店は」

「あ、気にしたらごめん。別にいやだって言ってるわけじゃないの。ジンヤが造った料理なんだから食べてみたいし」

 

ほぉ……

 

どうやら文句ではなく純粋に感想だったようだ。

早とちりしたことを心の中で詫びつつ、俺はイリヤに食事を促した。

そして食べて……

 

「!? おいしい!」

「そらよかった」

 

満面の笑みでおいしそうに食べてくれた。

どうやらお嬢様であるイリヤの口にもあってくれたみたいだった。

ナイフとフォーク、そしてスプーンで和食を食べているために若干手間取っているようだが、それでも残さず食べてくれたのは嬉しかった。

 

「おいしかったよ!」

「そいつは何より」

 

夜営業のための仕込みを行っていた手を止めて、俺はイリヤへと食後のお茶を出した。

紅茶があれば良かったのだが……あいにくないので麦茶を出した。

緑茶よりは飲みやすいと思って出したのがよかったのか、熱いお茶を飲んでいた。

それからしばし談笑した。

聖杯戦争とは何の関係もない話……この冬木市や互いの事について。

どういったところで育ったのか? 暑いのが苦手だとか、寒いのが嫌いだとか……。

ひどく平和な時間だった。

 

そして……それも程なくして終わりを告げる。

 

夕方五時前。

 

「そろそろ帰るね」

「……あぁ」

 

俺の店が始まる前に、イリヤが身支度をして店を出て行く。

その仕草……それになによりその声と雰囲気に、先ほどまで合った親しげな物は全くない。

互いにわかっているからだ……。

 

 

 

ここを出れば……また敵であ……

 

 

 

「すごくおいしかったよジンヤ。また来るね」

「……へっ?」

 

聞こえてきた単語の意外性に、俺は思わずアホみたいな声を上げた。

てっきり出た瞬間に敵であると言い出すかと思ったのだが……

 

「おじいさまが言ってたわ。お日様が出ているときは戦っちゃだめなんだって。だから夜はだめだけど、また来たっていいでしょ?」

「……あぁそういうこと」

 

日が出ているとき……つまりは人目に付きやすい状況下ではだめという意味だろう。

魔術とは秘匿される物であるという暗黙の了解をきちんと守るようにおじいさまとやらから言われているようだ。

 

「私に敵なんていない。他のマスターなんてそこらの害虫だもの。でも、ジンヤがいい子にしてくれるなら見逃して上げてもいいよ?」

「見逃すって……まぁありがとうとだけ言っておこうか」

 

確かにあのバーサーカーが強力なために、最強と自負するのも無理はない。

実際、俺と小次郎ではかなり厳しい。

俺が今使える魔力武器で、バーサーカーの鋼鉄のような身体を突破できるかどうかは謎だが……。

 

宝具もわかっていないしな……

 

宝具という、切り札がわかっていない以上、余り博打を打つのはよくない。

もう少し情報を収集してから当たるのが無難だろう。

だが……

 

正直……やりにくいな……

 

今知ってしまった、イリヤという少女。

この子はただ世間知らずというか、あまり日常という物を知らないだけの子供のようだった。

とてもいい子なのだ。

それに……子供を殺したくないというのが俺の本音だ。

この世界で自身に戒めた不殺ということを抜きにしても……。

子供とは文字通り未来なのだ……。

この子がいくつなのかは知らない。

何か特殊な身体をしているようなので、普通とは違う身体であり、普通じゃない生活を送ってきたのだろう。

だがそれでも俺よりも年上と言うことはないはずだ。

 

そんな子に……俺は剣を向ける気にはならない

 

それも……何も悪いことをしてない、この少女を……

 

「それじゃ行くね。バイバイ……また会おうね、ジンヤ」

 

そんな俺に何を思ったのか……イリヤはそのまま店の入り口から外へと行ってしまった。

どこか悲しげな微笑を……浮かべながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「それでシロウ。ライダーの行方にどこか心当たりがあるのですか?」

「遠坂と相談した結果、おそらく新都であると思うんだ」

 

時刻はすでに日も暮れ、深夜と言っても差し支えのない夜。

結界による学園の集団昏睡事件の事情聴取などを何とか振り切り、士郎と凜、そのサーヴァントであるセイバーとアーチャーは、新都を中心に二手に分かれてライダーを探していた。

結界が半ば不発に終わってしまったので、まだ魔力を集める可能性が高いと判断して士郎と凜は、夜に人が多い新都に狙いをつけて見回りと探索を行っていた。

魂食いを行うのならば獲物である人が必要であり、夜でも人通りが多い新都はまさにうってつけと言えた。

逆に深山町は住宅街であるために、夜になると人通りが少ない。

必然的な考えであるといえる。

 

「新都で魂食いを行わせるわけにはいかない。仮にもしも他のサーヴァントと出会っても極力戦闘は行わないでライダーの探索に専念することになる」

 

他のサーヴァント。

それはほとんどバーサーカーを指していると言っても過言ではない。

一対一では基本的に分が悪いと言うことはすでにわかっている。

だからこそ凜との共闘を承諾したというのに今は互いに必要とはいえ別行動を行っている。

最悪出会ってしまった場合は逃亡することを最優先とする。

そういう考えで士郎と凜は見回りを行っていた。

 

「はい、わかりました。魂食いという行為を、許すわけにはいきません」

 

バーサーカーは確かに越えなければいけないが、今はそれはいい。

魂食いという無関係な罪もない人間達から甘い汁を吸うライダーとそれを指示したであろうマスターにセイバーも怒りを覚えていたので、その返答に淀みはなかった。

 

「彼女の宝具が未だわかっていない状況下で戦いたくはありませんでしたが……」

「確かにそうだけど……そうも言ってられない」

 

ライダーの宝具がわからないというのは、かなりの痛手だ。

敵がどの程度の力を持つ存在であるかわからないからだ。

宝具がどのようなタイプの物なのか?

ランサーのゲイボルグのように、敵に直接作用するタイプなのか、もしくは何か火力があるタイプの宝具なのか……。

それがわからないのではあまり有効な戦術を立てることが出来ない。

結界もライダーの固有宝具の一つではあるのだが……士郎と凜はあの結界でライダーの正体を突き止めることは出来なかった。

 

「出来ればマスターを突き止めてそいつに魂食いをやめさせたかったけど……結界を発動されてしまった以上、もうそんなことも言ってられない。もしも他の……新都でアレを発動されたら……」

 

先ほどまで自分が介抱していた同じ学園に通う生徒達。

魔力として生気を吸い取られてしまった彼らの冷たく、弱々しい身体にいくつも触れたときに、士郎は己の無力さを噛みしめた。

 

(もう一度同じ事をさせるわけには行かない)

 

静かに心にそう誓い、セイバーと士郎は夜の新都を歩いていた。

二人とも周囲を注意深く観察し、ライダーを捜しているが……二人ともある意味で見当違いな所を探していた。

見当違いと言うよりも……見るべき目線が違うと言うべきか……。

 

 

 

頭上とは、人間に取って最大の死角である……。

 

 

 

サーヴァントであるセイバーでも、人間として存在している以上、それは逃れられぬ運命だったようだ。

二人を……遙か上空より見下ろす存在がいた。

二人の標的……ライダーである。

 

(……セイバーですか)

 

ライダーは遙か上空……新都にそびえ立つ高層ビルの屋上の航空障害灯の上に立っていた。

普通の人間ならば卒倒するほどの高さであるが、サーヴァントである彼女は平然としていた。

夜風が吹く冬木の空で、そのあまりにも長い髪をなびかせて眼下の相手を見つめていた……。

 

(……アーチャーよりはやりやすいですね)

 

遠距離攻撃が可能なアーチャーと当たるのを危惧していたが、ちょうどよくセイバーとマスターである士郎の二人で行動しているのは……彼女にとって好都合でしかなかった。

 

「行きます……」

 

ぼそりと……そう呟いてライダーは一人、眼下の敵へと急速に落下した……。

 

ゴッ!

 

夜気の冷たい空気を裂き、猛烈な速度で落下していくライダー。

彼女の凄まじい長さの長髪が、激しくなびいていた……。

 

「!? シロウ!!!!」

 

頭上からの殺気を明確に感じ取り、すんでの所で士郎を突き飛ばして、セイバーは自分のマスターを危機から遠ざけた。

それと同時に鎧を顕現し、さらに自身の二つ名ともいえる見えない剣を顕現し、飛来した杭を吹き飛ばした。

 

ギィン!!!!

 

新都とはいえ、すでに夜。

薄暗い夜の暗闇を、一瞬だけ照らす火花の光。

それが向かってきた方向へと、士郎とセイバーが同時に向けた。

新都のビルの壁面……ガラス張りのその壁に張り付いていた。

ぬらりと……舌なめずりをしながら……。

それを見て士郎の背筋が震えた。

 

(な!? まさか屋上から降りてきたのか!?)

 

頭上という死角を付くためとはいえ、普通ならば落ちて死ぬような高さの場所から落ちてきたことに士郎は絶句した。

しかしそれが人ではなく、頂上足る存在であるサーヴァントであれば不可能ではない。

 

「ふふ……」

 

不敵に笑い、ライダーがそのまま姿勢を変えて、ビルの上へと向かっていった。

 

「追います! 士郎はここにいて下さい!」

「な!? 追うって……!?」

 

どう追うんだ? そう問いかけようとしたその言葉が士郎の口より出るより前に、セイバーは一瞬で士郎の視界より消え去った。

 

「へ!?」

 

ビルの屋上より落下してきたライダーに驚き……そしてそれを跳躍だけで追いかけたセイバーに士郎が度肝を抜かれていた。

そんな状況でも当然状況は進むわけであり……ビルの谷間にいくつもの銀閃と赤い花が散っていた。

 

「な!? 何を考えているんだあいつは!」

 

猪突猛進……とまでは言わないまでも、それに近い形で飛び出したセイバーに、士郎は声を荒げて二人の後を追った。

 

(どんな罠が仕掛けられているかもわからないのに!!!!)

 

ライダーが魂食いではなく、こちらに攻撃を仕掛けてきたことで、士郎の心に暗い影が落ちていた。

結界の目的は魔力を蒐集することだった。

人間一人一人やるのではなく、結界という宝具を用いてより効率的に、より強力に魂食い……つまりは魔力を集めるのが目的だったはずなのだ。

それが失敗したために敵はさらに魔力蒐集を行う可能性が高い。

被害者が増えるのを防ぐために士郎と凜は別行動を取ってまで新都へと赴いた。

だが二人に取っては追い詰めるべき敵であったライダーが、魂食いを行わずにこちらへと攻撃してきた。

そのある種矛盾したと言える行動が、士郎の脳裏に最悪の未来を思い起こさせた。

 

 

 

もしかして……追い詰めようとして焦ってしまった自分たちは、ライダーの罠にはまってしまったのではないかと……。

 

 

 

「くっそ!!!!」

 

だが遙か上空へと行ってしまったセイバーにすでにそれを伝えるのは難しい。

士郎は何とかビルへと侵入して、セイバーが向かっている屋上へと走っていく。

 

 

 

 

 

 

その士郎の頭上を……二つの影が駆け上がっていた……。

すでに地上は遙か下にある。

互いに壁面を蹴り上げて高みへと進み、疾走しながらその剣を閃かせ、短剣を投げ飛ばして相手へと攻撃していた。

頂上へと向かいながら二人とも幾度となく互いに攻撃を行った。

その速度はもはや、常人では見ることも叶わず、それどころか夢想することすらも叶わない、超人同士の戦いだった。

 

(くっ!?)

 

ライダーの短剣を吹き飛ばしながら、セイバーは内心で焦っていた。

いくらサーヴァントとはいえ、彼女は生身で空を飛ぶことが出来ない。

故にもしもビルの壁を駆け上がるのに失敗すれば真っ逆さまに地面へと落ちていくだけだ。

そうすればいかなサーヴァントとはいえ無事では済まない。

だがライダーはそうではなかった。

魔術を使用しているのか謎だが、ライダーは縦横無尽にビルの壁面を駆けていた。

自在に動き回りながら頂上へと登りつつ、ライダーはセイバーへと攻撃を仕掛ける。

それを何とか避ける。

しかし、それでも跳躍を行う以上、壁面を蹴るその隙をライダーが見逃すわけもなく……そのたびに足下へと攻撃されて、セイバーの精神はかなり疲弊させられていた。

 

「ふふ、随分と粘りますね。このまま落ちてしまえば楽になると言うのに……」

「世迷い言を!」

 

そう返しながらさらに高みへと登っていくが、両者には決定的な違いがあった。

セイバーは焦っていた。

先ほどよりもさらに。

 

(……この先に何が)

 

魂食いを行わずにこちらを仕掛けてきた。

それを追ったときに気づくべきだったと、セイバーは自身の迂闊さに歯がみした。

明らかにライダーが頂上へとセイバーを誘っているのはわかりきっていた。

つまり屋上での戦闘は死闘になることは確実と言っていい。

屋上という、周りに遮蔽物のない状況を選択していることが、ライダーの宝具(きりふだ)はそう簡単に使えないことを物語っている。

つまり、それほどの強力な宝具であることが予想される。

だがそれでも引き返すことは出来ない。

セイバーとしてもライダーとそのマスターを放っておくことはしたくなかった。

だからこそここで決着をつけたいと……思っていた。

 

(……最悪これを使ってでも)

 

自身の手の平の中にある、見えない剣の柄を握りしめながら、セイバーは飛来したライダーの剣を弾いていた……。

 

セイバーの持つ剣は彼女の複数ある宝具の能力うちの一つで不可視にしているのだ。

 

余りにも有名すぎるが故に、弱点を……真名を知られないために剣を見えなくした。

 

剣を使うとき……それは剣を白日の下にさらすということであり、敵に自身の正体を悟られてしまう。

 

故に、出来れば剣の力を使いたくないというのがセイバーの本音だったが……出し惜しみで死ぬわけにはいかない。

 

あらゆる事を想定しつつ……セイバーはさらにライダーとの剣戟を行いながら、屋上という死地へと赴いていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「む……」

 

閉店後の見回りを開始して直ぐに、俺は明確な戦いの気配を感じ取り、そちらへと目を向けていた。

ちなみに今夜の俺の装備は昨夜と同じように探索のために狩竜を置いてきたので、夜月と封絶、水月となっている。

 

「ふむ。すでに戦端が開かれているようだな」

「誰と誰だろうか?」

「それはわからぬ。だがそれでも……行ってみるべきであろうな」

 

小次郎がそう言いながら、ニヤリと笑みを浮かべていた。

それに苦笑しつつ、俺と小次郎は新都へと向かったのだが……。

 

「え? あんた……」

 

その途中でばったりと……遠坂凜と接触してしまった。

当然こんな夜中にサーヴァントをつれていないわけがないのでアーチャーも一緒である。

 

「鉄刃夜!」

「遠坂凜か」

 

厄介なのに……

 

今宵の目的は探索なので戦闘ではない。

だが何故か知らないが殺気立っている遠坂凜と遭遇してしまった。

そして話をする前に戦闘態勢へと移行されてしまった。

 

 

 

いくら探索がメインであり、加えて言うならばあまり戦いたくないと考えている俺としては不本意だったが……それでも殺意を向けられて黙っているわけにはいかなかった。

 

 

 

互いに即座に戦闘態勢へと移行し、俺は遠坂凜へと……小次郎はアーチャーへと躍りかかっていた。

もしもこの場に士郎がいたのならば、戦う気がないとか言って戦端を開くのを拒否したのだろうが、あの甘ちゃんともいえる士郎と違って、遠坂凜はさすが魔術師といったところだろうか?

接近してくる俺から距離を離しつつ、人差し指を向けてくる。

その右手に込められた魔力を感じることが出来れば……それがただ俺を指さしているだけではないことが如実にわかった。

 

「凜!!!! 戦うことを考えるな! 逃げろ!!!!」

「人の心配をしている余裕があるかな?」

「ちぃ!!!!」

 

俺に交戦の意志を向けている自身のマスターへと戒めの言葉を放つが、それを小次郎が野太刀を振るったことで強制的にその言葉を封じていた。

それをアーチャーが一対の剣を顕現して迎え撃つ。

そのまま剣戟の音が、新都の夜に響いた。

 

「ガンド!!!!」

 

夜の闇にとけ込むかのように、漆黒の球体が凜の指先から俺へと放たれた。

魔術の一つなのだろうが……俺は回避を取らずに背中のシースより封絶を抜剣し、盾にしてそれを防いだ。

遠坂凜の球体は、封絶が弾くこともなく、逆に封絶が弾かれることもなかった。

なぜなら……敵の魔術を封絶が吸収したからだ。

 

「うそ!? ガンドを吸収した!?」

 

その事に遠坂凜が絶句する。

だが俺としてはわかりきっていたことなので構わずに進む。

 

古龍という……伝説のモンスターすら切り裂き、あげくに敵から魔力を吸収したこいつが、いくら天才と言えるような相手とはいえ、普通の人間の魔力程度に負けるわけがない……

 

『その通りだ我が仕手よ。この程度の魔力でやられるような私ではない』

『さすがだ……』

 

いくつも……それこそガトリングのように繰り出されるガンドとかいう魔術を、俺は封絶で全て吸収する。

遠坂凜もおそらくなにがしかの武術なんかを習得しているのだろう。

その体つきから何となく想像できた。

後ろに下がりながらも、かなりの速度で走っているのがそれを裏付けていた。

だがそれでも……気と魔を併用して戦う俺から逃げ切れるわけもない。

 

「邪魔をするな! 侍!!!!」

「それは出来ない相談だ。私が邪魔をしなければお主は我が主の元へ行くだろう?」

 

後方で小次郎とアーチャーの剣戟の音が響いている。

それを音楽として耳に入れつつ……体当たりで尻餅をつかせた遠坂凜へとその剣先を向けていた。

 

「チェックメイトだ。遠坂凜」

「……あんた……本当に人間なの!?」

「くどい。その問いは聞き飽きた。遠坂凜のサーヴァント……アーチャーだったか? お前も手を止めろ。主を殺されたくなかったらな」

「くっ!?」

 

俺の言葉に、アーチャーは悔しそうにしながら一対の剣を消失させた。

だがそれでもまだ襲ってくるかもしれないので、小次郎が俺とアーチャーとの間に入り、咄嗟の時に迎撃できるような立ち位置へと移動してくれた。

 

相も変わらず……律儀というか、まめというか……

 

すばらしい相方に感謝しつつ、俺は遠坂凜へと鋭い目を向けていた。

その俺へと、遠坂凜が悔しそうに顔を歪めながら下から俺を睨みつけている。

 

「いくつか聞かせろ……」

「……何かしら?」

 

俺の言葉が命令であることを状況から察した遠坂凜は、逆らうことなく俺に先を促した。

 

「……大河は無事か?」

「……へ?」

 

しかしその内容が余りにも意外だったのか……遠坂凜が思わずといったように目を丸くしている。

だが直ぐに状況を思い出したのか、訝しみながらも言葉を放った。

 

「……藤村先生なら無事よ。少し衰弱してしまったけど……でもあの人は入院と言うほどひどい状態にはなってないはず」

「ふむ……そうか……次に、学園に張られた結界は何だ?」

「……やっぱりあんただったのね。あの時の衝撃の原因って」

 

ほぉ、中にも衝撃が伝わっていたのか?

 

士郎と遠坂凜が、結界発動時に学園にいたことは気配で感じ取っていた。

その当人が言うのであれば、衝撃が伝わったことは間違いないのだろう。

そうなると、魔紅獅刀【炎王】の衝撃は中の人間にまで音が聞こえるほどの威力を有していたということになる。

 

まぁ不思議でもないが……

 

「余計なことはいい。質問に答えろ」

「あの結界は魂食いを広範囲で行うための結界よ。ライダーが仕掛けていたのを発動したの」

「ふむ……」

 

大体予想通りだな……

 

必要な情報を聞き終えた俺は、封絶を収めた。

そんな俺を見て、遠坂凜が訝しんでいた表情をさらに歪める。

 

「……どういうつもり?」

「情報を教えてくれたから……この場はこれで終わりだ」

「なっ!?」

 

俺の言葉に絶句する遠坂凜。

これで納得できるかどうかは謎だが……それでも俺はこう言うしかなかった。

確かにある種傲慢と言えるかもしれない。

生殺与奪を完全に掌握しておいて、ポイッ、と捨てたような物だからだ。

しかしそれでも、俺には守らなければいけない枷があった。

 

 

 

不殺の戒め

 

 

 

別世界の存在として、恨みの連鎖を作るのを恐れている俺としてはこの世界(・・・・)の住人を殺すことはしたくなかった。

何度も言うが別に人を殺すのが嫌になった訳じゃない。

しかし敵であるとはいえ、善良とも言える遠坂凜を殺すのは……俺の主義に反する。

故に俺は情報を提供してもらった交換条件として……命を見逃すという形を作り出した。

 

「どういうつもり……ひょっとして情けを掛けてるんじゃないでしょうね?」

 

先ほどとはまた違った目線を向けてくる遠坂凜。

情けを掛けている訳ではなく、完全に俺の事情なのだが……。

しかしそれで納得するわけもないので、俺は俺のわがままを貫き通すために……遠坂凜に畳み掛けた。

 

「情けを掛けてはいない。情報提供料の代金だ」

「そんなもの! あんただったらそんなこと調べれば直ぐにわかるでしょ!? それなのにこれで命を対価にされたら……」

「あまり甘えるなよ? 遠坂凜。殺そうと思えば今この場で一秒と立たずに殺せるんだぞ? つまり貴様は敗者であり俺は勝者だ。それの意味するところは……わかるな?」

「……!?」

 

ギリッと、悔しさで歯を噛みしめる音が聞こえてくる。

おそらく遠坂凜の胸中は俺に対する憎悪なんかで渦巻いていることだろう。

契約を破棄させると言うことも考えなくもなかったが、それでも俺はそれを実行せずにここで遠坂凜を……、アーチャーを仕留める気にはならなかった。

日々、時間が経つ事に強くなる考えと予感が、それを許さなかったのだ。

 

 

 

……何かがある

 

 

 

この戦争には何かがある。

それが頭から決して離れることがなかったのだ。

だからこそまだ状況が変わっていない、わかりきっていないこの時に、アーチャーを消すべきではないと思ったのだ。

当然、俺の事情の不殺ということも絡んでいるが、それでも殺して……アーチャーを消してはだめだと、俺の本能が告げていた。

 

まぁでも殺そうと思えば殺せたのも事実であり、勝者であることもまた事実。

 

敗者は勝者に従うべき……

 

ある種野蛮とも言えるその考えも、俺は場合によってはありけりだと思っているので……ここは遠坂凜に我慢してもらおう、そう思ったときだった。

 

 

 

 

 

 

!!!!

 

 

 

 

 

 

「ん?」

「ほぉ?」

「え……」

「あれは……」

 

俺が気づき、続いて小次郎が、遠坂凜、アーチャーの順に、爆音が鳴り響いた場所……遙か上空へと目を向けた。

 

そこには……

 

 

 

「これはこれは……まさかモンスターワールドでもないこの世界で、あんな物を見ることになろうとは……」

 

 

 

そこにいたのは遠目でわかりづらいが……

 

 

 

真白色の体毛……

 

 

 

体毛と同じ白の蹄を響かせて……

 

 

 

その雄々しき天使のような翼を持った存在遙か上空で嘶いていた……

 

 

 

天駆ける馬……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天馬(ペガサス)が……宙を駆けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「くっ……はっ、はっ―――」

 

士郎は途中でなくなってしまったエレベーターに呪詛を心の中で吐きながら、さらに最上階目掛けて階段を駆け上っていた。

すでにライダーとセイバーの戦闘が始まって十分近くの時間が経過していた。

サーヴァントという頂上の存在の戦いとなると何が起こるのかわからない。

自身に何かが出来るかわからないし、おそらく何も出来ないだろうとわかっていながらも、士郎は嫌な予感を振り切るように……必死になって足を動かしていた。

 

(くっそ! まだなのか!?)

 

先ほどから感じている、「罠」という単語。

それが士郎をより慌てさせた。

それに何より、普通ならば振動しないはずのビルが地震以外の影響で今も振動しているのだ。

しかも一度ではなく何度も何度も。

それだけで士郎にも、何かが起こっているとわかるのにさして時間はかからなかった。

 

ガチャ

 

階段を上りきり、屋上へと繋がる扉を開けた。

普段は固く閉ざされているはずのその扉は、何故か士郎の手に逆らうこともなく、その先へと士郎を進ませる。

 

風が強い夜だ。

 

屋上に位置しているために風の影響がよりあるのかもしれないがそれにしても強かった。

 

 

 

まるで、自然ではない物が……風を巻き上げているかのように……

 

 

 

そしてその風が士郎の鼻に異臭を届けていた……。

 

(これは?)

 

暗くてよく見えないが、それでも熱気があり、さらにはその匂いが今屋上がどのようになっているのかを教えてくれた……。

 

(コンクリートが焦げている?)

 

屋上のコンクリートが、あり得ぬことに所々焼けこげていた。

 

そしてその中心……。

 

焼け付き、削られてしまっているその屋上の中央に……膝を突く騎士の姿があった……。

 

「セイバー!」

「!? シロウ、どうしてここへ!?」

 

肩を上下させているセイバーに士郎が駆け寄る。

いや寄ろうとした……。

 

「な……あれは!?」

 

士郎も気づいた……気づいてしまった。

 

地上よりも遙か上へと来たこの屋上よりも遙か高く……。

 

その真っ白な翼をはためかせる……白馬がいた……。

 

 

 

「ぺ、ペガサス!?」

 

 

 

士郎の間抜けとも言える驚きの声が響くと供にその天馬が、上から下へと……士郎とセイバーを襲おうと、凄まじい速度で迫ってきた。

 

闇夜を貫いて行くその姿はまさに閃光だった……。

 

 

 

「!? シロウ!!!!」

 

 

 

自身のある事吹き飛ばしかねないその攻撃を、士郎から遠ざけるために、セイバーは士郎から遠ざかった。

そのセイバーへと天馬が……閃光が襲いかかる。

 

「くっ!?」

 

セイバーは剣を前方へと突き出し、自身が操ることの出来る剣に纏わせた風で見えない壁を作って盾として、跳躍しながらそれを避ける。

 

 

 

!!!!

 

 

 

ありえないほどの衝撃が身体を叩き、完全とは言えないまでも大半を避け、風の盾を貫いてセイバーに衝撃を与える。

 

本来であればその風が、あらゆる衝撃を削減するのだが……天馬のその凄まじい速度を緩めることすらも出来なかった。

 

「ぐ!!!!」

 

その事に驚き呆けることも、休む暇も、倒れ込んでいる暇も、セイバーにはなかった。

 

あるわけがない。

 

敵は罠へとまんまと引っかかった愚かな相手(セイバー)を……ライダーが手を緩めるわけがないからだ。

 

その証拠に……天馬は空中で旋回し、滑空を開始して再びその閃光をセイバーへと向ける。

 

受け止めることは出来ない。

 

出来るわけがない。

 

セイバーに出来ることは跳躍と風の盾による回避と敵の攻撃を少しでも受け流すことのみ。

 

だがそれでも避けきれず、防ぎきれないその衝撃の余波は、確実にセイバーの体力と魔力を奪っていく。

 

このままでは完全にジリ貧だった。

 

 

 

「それがあなたの宝具か……ライダー。まさか幻想種を持ち出してくるとは……」

 

 

 

幻想種。

その名の通り幻想の中に存在知るモノ。

妖精や巨人などの亜人、鬼や竜などの魔獣。

その存在その物が「神秘」である幻想種は、それだけで魔術を軽々と越える存在だった。

神秘とはより強力な神秘に打ち消される定めにある。

 

 

 

故に存在その物が神秘であり、その長い長い生涯の中で強力な存在となっていく幻想種に……いくらサーヴァントとはいえ、人間が立ち向かえるわけがなかった。

 

 

 

「私のかわいい子です。しかしこの子の突進をここまで受けて……見かけによらずに頑丈ですね貴女は」

 

 

 

ライダーのその言葉には間違いなく驚きの感情が混じっていた。

 

だがそれ以上に驚いているのがセイバーだった。

 

 

 

(……ただの天馬ではない)

 

 

 

それがライダーが駆る天馬への、セイバーの思いだった。

 

天馬自体はそんなに強い幻想種ではない。

普通の天馬は成長しても魔獣程度の力しか得ないが、ライダーが駆る天馬はそれ以上……それこそ幻想種の頂点と言われる「竜種」に近い力を持っていた。

つまりライダーの駆る天馬は、最強の竜に等しい力を有している。

 

 

その身からあふれ出す膨大な魔力を放出し、飛翔、滑空を行っての閃光のような突進。

それは城壁が突進してくるようなものだ。

 

それをいくらギリギリとはいえ何とか躱し、防ぎ、直撃を避けているセイバーも驚きだが……それ以上に驚くべき事があった。

 

天馬はライダーが呼び出したモノ。

 

その召喚にライダーは真名を叫ばず、ただ無の空間から膨大な魔力のみで天馬を召喚したのだ。

 

それは、ライダーにとって天馬は、瞬時に顕現させる短剣とほぼ同じものであると言うこと……。

 

 

 

 

 

つまり……ライダーは未だに最強の切り札たる宝具を使用していないのだ……

 

 

 

 

 

 

(まさかこれほどの切り札を持っていたとは……)

 

 

 

ライダーの宝具はその威力を出すために飛翔、滑空する空間が必要だった。

だからこそライダーはビルの屋上という、それを飛べるモノにとっては広大なフィールドを死闘の戦場へと選んだのだ。

 

 

 

「私の宝具は強力であるがために、地上では使うのに適していない。それにどうしても人目に付いてしまう。だからまだどのサーヴァントも脱落してないこの状況で使うのは好ましくなかった。けれど、ここならばのぞき見される心配もない。だからセイバー……貴女はここで潔く散りなさい……」

 

 

 

ライダーのその声は冷静ではあったが、それでも微かな愉悦が混じっていた。

 

 

 

罠を掛け、それに獲物がまんまとかかったのだからそれも無理からぬ事であった。

 

 

 

確かに……並のサーヴァントであるならばこの天馬の攻撃を防ぐことは出来なかっただろう。

 

 

 

並のサーヴァントであれば……だが……

 

 

 

(……このままではいずれやられてしまう)

 

 

 

ライダーは一つ勘違いをしていた。

 

 

 

確かにここ屋上という空間は彼女にとっても都合のいい空間であるのだろう。

 

 

 

天馬を召喚するという、破格とも言える切り札を存分に振るうことが出来る空間だ。

 

 

 

だがそれは彼女……セイバーも同じだった。

 

 

 

 

 

 

セイバーもまた……ライダーと同じように、威力がありすぎるが故に、人目に付いてしまうような宝具を有している……。

 

 

 

 

 

 

「……終わりにしましょう」

 

 

 

 

 

遙か上空より、ライダーの声が届けられる。

 

その声と同時に、ライダーと天馬の魔力放出量が桁違いに膨れあがった。

 

 

 

そしてその手元に……黄金に輝く縄が形成されていく。

 

 

 

 

 

 

(来る!?)

 

 

 

 

 

 

「!? セイバー!!!!」

 

 

 

 

 

 

自身を心配してくれる……青年の声……

 

セイバーの主である、士郎の声……

 

その声には自身のサーヴァントが負けてしまうのかもしれないという悲嘆も、悲哀も……落胆もない……

 

あるのはただ、自分の(しもべ)であるはずのセイバーを……一人の少女を気遣い、心配をする悲痛の叫び……

 

一度たりともセイバーのことを(しもべ)だと見ていなかった……

 

自身よりも遙かに強大で優れていると理解しながらも……

 

一度たりともセイバーを騎士として扱わず……自分の大事なパートナーであり、か弱い女の子だと思っていた青年の声……

 

今この場で彼女の剣を使うのは得策ではない……。

 

だが今のままでは戦いの余波が、士郎にまで及んでしまう……

 

今からでは逃げることも叶わない……

 

そんなことは士郎もわかっていた……

 

 

 

だがそれでも……彼は愚直であり、自分に正直だった……

 

 

 

 

 

 

(このままじゃだめだ!!!!)

 

 

 

 

 

 

その思いと供に士郎は駆けた……

 

自身が出たところで、何が出来るわけでもない……

 

だがそれでも今のこの状況で何もしないわけにはいかなかった……

 

己を守るために奮闘してくれている小さな女の子のことを……放っておけるわけがなかったからだ……

 

ライダーの突進が直撃をしなくても余波で自身を滅ぼせる威力があること……

 

そしてセイバーに駆け寄り、盾となったところで紙にもなりはしないこともわかっていた……

 

だがそれでも……彼は駆けた……

 

この自身の命の窮地に際してもなお……セイバーに駆け寄る……

 

あの時のように……バーサーカーに斬られそうになったあの時と同じように……

 

セイバーを救うまいとその非力な身体でセイバーを突き飛ばそうとしていた……

 

 

 

その自身を省みない態度が……

 

 

 

自分を徹底的に殺して……人のために尽くすその態度が……

 

 

 

 

 

 

過去の彼女を……セイバーの過去を呼び起こした……

 

 

 

 

 

 

(この人を……シロウを死なせるわけにはいかない!)

 

 

 

 

 

 

マスターとしてでもなく……サーヴァントとしてでもない……

 

一己の存在として……

 

サーヴァントとしてではなく、セイバー自身として……

 

 

 

 

 

 

士郎を救わなければと思ったのだった……

 

 

 

 

 

 

駆ける天馬……

 

遙か彼方……それこそ天まで届くのではないかと言うほどの天上までも駆け上がっていく……

 

月まで昇らんと駆けたその勢いのままにそれは弧を描き……地上へと翼をはためかせた……

 

舞い降りてくる一筋の閃光……

 

 

 

それはまさに彗星だった……

 

 

 

 

 

 

騎英の(ベルレ)――――」

 

 

 

 

 

 

名が紡がれていく……

 

宝具とは、真実の名を解きはなってこそその真価が発揮される……

 

故に、その真名が天を駆ける馬上より、天からの裁きの雷であるかのように……轟いた……

 

 

 

 

 

 

「――――手綱(フォーン)!!!!」

 

 

 

 

 

 

一筋の光が閃く……

 

それは一直線に……屋上へといるセイバーと士郎を貫き滅ぼすために駆けていた……

 

 

 

しかしそこにいるのはただのサーヴァントではない……

 

 

 

 

 

 

「……この場所ならば人目につかないと言ったな……ライダー」

 

 

 

 

 

 

風が生じた……

 

夜風でも、天馬の突進によって生じた突風でもない……

 

セイバーを中心に巻き起こり、荒れ狂うかのようなその突風は、セイバーを突き飛ばさんと駆けていた士郎を遠ざけた……

 

それは拒絶ではなく、彼を救うための風……

 

剣に纏わせていたその風を……セイバーは解きはなっていた……

 

 

 

 

 

 

「同感だ。ここならば……地上を吹き飛ばす心配はない!!!!」

 

 

 

 

 

 

封印が解かれていく……

 

自らの魔術で作られた風の鞘を解く……

 

白兵戦においては敵に間合いを悟らせないという効果が大きいために、そちらに意識を奪われがちだが……これは剣その物を、敵に知られないための第二の鞘……

 

その幾十、幾百も纏っていた風の鞘を払い……

 

 

 

 

 

 

その剣が姿を現した……

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

自身を吹き飛ばす風よりも……迫り来るその強大な力であるライダーの天馬に寄る突進ですらも……

 

今この瞬間……

 

士郎がセイバーの剣を目にしたその瞬間に……

 

 

 

頭の中から綺麗に消し飛んでいた……

 

 

 

(あれは!?)

 

 

 

見えないはずの剣が見えていること……

 

その剣を中心として吹き荒れる突風のことも気になったが……それでも彼にとってそんなことは瑣末だった……

 

 

 

「黄金の……剣……」

 

 

 

闇夜に閉ざされたその天を照らす、光……

 

その光を発する剣を……士郎は呆然と見つめていた……

 

屋上へと迫るライダーの天馬より放たれる光が一筋の閃光であるとしたら……

 

 

 

 

 

 

セイバーのそれは光の柱だった……

 

 

 

 

 

 

その光が剣へと収束されていく……

 

その光から発せられる魔力は、遙か上空より飛来したライダーの天馬の魔力をも軽く上回っていた……

 

 

 

それも当然といえた……

 

 

 

確かにライダーの駆る天馬は最強の幻獣種の頂点に立つ竜種に迫る力……

 

 

 

単身が持つには余りにも強力すぎるその力だが、それでもセイバーが手にした剣に比べれば劣ってしまう……

 

 

 

なぜならばセイバーが持つその剣は、星の光を集め、人々の想念が星の内部で結晶化され、生成された、星が……神が造りし剣……

 

神造兵装……

 

その中でも最強と謳われる最強の幻想……

 

無駄な装飾はないが、そんなモノは関係がない……

 

その剣は美しさを遙かに超越し……ただ、ただ、ひたすらに尊かった……

 

所有者の魔力を光に変換し、それを収束、加速させたそれを放つ……

 

 

 

光という究極の斬撃……

 

 

 

 

 

その真名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)……!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その名と供に……光の柱が冬木市の上空を引き裂いた……

 

 

 

それは狙いがはずれることはなく……ライダーの天馬と激突し……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを貫いて……冬木の空を切り裂いたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖剣の光が、ライダーの天馬を貫くその刹那の時間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬だけライダーが光り輝いた事に気づいた者は……誰一人としていなかった……

 

 

 

 

 

 

 




風王結界(インビジブル・エア)
ランク:C
種別:対人宝具
セイバーの剣を覆う、風で作られた第二の鞘。厳密には宝具というよりも魔術である。幾重にも風の層が屈折率を変えることで剣を透明化させ、不可視の剣へと変える。敵に間合いを把握させない白兵戦で効果を発揮するが、最大の利点はセイバーのあまりにも有名すぎる剣を隠すためである。風で覆う対象は剣に限らず、自身に纏わせて身体能力をアップさせたり、風を前面へと展開して風の楯とすることも可能である。また、纏わせた風を解放することで破壊力を伴った暴風として撃ち出す「風王鉄槌(ストライク・エア)」という技ともなる。


約束された勝利の剣(エクスカリバー)
ランク:A++
種別:対城宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000人
由来:アーサー王の聖剣エクスカリバー
生前のアーサー王が、一時的に妖精「湖の乙女」から授かった聖剣。人ではなく星に鍛えられた神造兵装であり、人々の「こうあって欲しい」という願いが地上に蓄えられ、星の内部で結晶・精製された「最強の幻想(ラスト・ファンタズム)」。あまりに有名であるため、普段は「風王結界」で覆って隠している。神霊レベルの魔術行使を可能とし、所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による「究極の斬撃」として放つ。攻撃判定があるのは光の斬撃の先端のみだが、その莫大な魔力の斬撃が通り過ぎた後には膨大な熱が発生するため、結果的に光の帯のように見える。威力・攻撃範囲ともに大きい。聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置し、「空想の身でありながら最強」とも称される。アーサー王の死に際では、ベディヴィエールの手によって湖の乙女へ返還された。



↑TYPE-MOON wikiより引用



はい終わったよ~

いや~疲れたわ
やはり最後のほうの真名解放は書いてて興奮しましたね!
今回のシーンはステイナイトでも屈指の名シーンだからね!!!!
まぁライダーが完全に噛ませ犬扱いなのが個人的にいやなんだけど……

今回は多少とはいえ刃夜の出番があって良かったね!
魔紅獅刀【炎王】は本当に一瞬しかつかえませんね。
他のとかはどうなっているのかって? それはそうですね~次か、次の次辺りでびっくりな情報を公開しますよ~www
何かはお楽しみにしてて下さいね~



次はとりあえずまだ出てきてない存在を出しますよ~

問い 七人のうち残っているサーヴァントと言えば?

A魔法使い(キャスター) Bローブ姿の女性 Cかわいい者が大好きな女性


答え A、B、C全部www

ようやく登場しますよ!!!

あのHAで完全に崩壊したあの人が!!!


お楽しみに~



下記重要報告


といってもペースが劇的に落ちることは間違いないです
ついに私も社会人となるわけでして……しょ~じき来月は余り書けないと思うんですよ
一応多少はストックがありますが、四月は一話ないし二話上げられたらいい方だと思います
そこらをご了承下さい



ハーメルンにて追記

もうね……
本当に社会人になると自分の時間がないわ……
学生の皆さん?
勉強して遊んで……
ちゃんと青春を謳歌した方がいいですよ~
少なくとも学生じゃなかったら「一ヶ月まるまる休み」なんてことはあり得ませんから
特殊な仕事だとあるかもしれないけど無条件でくれるわけがないから

ゾンビ狩りは順調っちゃ順調
一部システムは5の方がよかったなぁ……と思う
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