月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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要望にて分割版を掲載
誠に申し訳ありませんが特にないように変化はないです

続き?




いつあげるかなぁ・・・・・・




魔法使い 分割版1/2

エクスカリバー

 

数多の聖剣の一つであり、最も有名と言っても過言ではないその剣は、常に一人の英雄と供にあり、語り継がれた存在である。

その英雄は、英国史上屈指の大英雄のアーサー王のことである。

異国の侵攻や乱発する内乱で混乱していた時代、アーサー王は王たる資格を試すという「選別の剣」を岩より引き抜いて、ブリテンの王となった。

しかしその「選別の剣」がとある戦闘で折れたとき、泉の精霊が「エクスカリバー」をアーサー王に授けたという。

その剣と魔術師マーリン、円卓の騎士らと供に長い年月の多くの戦を、アーサー王は勝利へと導いてきた。

やがて王は実の息子、モードレットの反逆によって命を奪われる。

命を落とす間際に、アーサー王は自分の部下に命じて、聖剣を元の所有者である泉の精霊へと元へと返却させた……。

 

 

 

 

 

 

これがアーサー王とエクスカリバーの物語の終焉だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ほぉ……これはまたすごい光景だな」

 

夜を切り裂く一条の光を、さらに強烈な光の柱が切り裂く光景を見て、小次郎が感嘆の声を漏らしていた。

そう言った知識がない小次郎としてはあれが何なのか全くわかっていないのだろう。

正直な話、俺としても明確にわかっているわけではない。

だがそれでも……細かいことはわからないでも問題はなかった。

 

……なんとまぁ

 

恐ろしい威力を有しているのがわかる。

アレではあの光を受けたサーヴァントは間違いなく消滅しているはずだ。

 

『凄まじいな』

『アレが何かわかるのか?』

『明確にはわからない。だがおそらくアレは魔力を光に変換しそれを射出しているのだろう。この距離からも見えることを考えれば……相当な規模の攻撃だ』

『だぁな』

 

封絶の予想を聞いて、俺も納得していた。

魔力を光に変換しているという封絶の予想が本当ならば相当に厄介な攻撃手段だ。

何せ光だ。

紛う事なき光であるかどうかは謎だが……それでもあれの速度は一瞬で夜空を横切ったことを鑑みても、光に近い速度を有していそうだった。

それはわかる。

わかるのだが……。

 

……っていうか何が起こってるんだ?

 

あの屋上で何が起こっているのか……見当が付かなかった。

さすがにこれほどの距離があっては気配を感じ取ることもできない。

戦闘が起こっていることはわかるのだが……何と何が戦っているのか……。

 

聞いてみるか?

 

「なぁ遠坂凜?」

「……何かしら?」

「あれ、何と何が戦ってるんだ?」

「……何で私が教えないといけないのよ。あんたはさっきこの場はこれで終わりと言ったから、もうあんたに何かを教える義理はないわよ?」

「……その通りだな」

 

実に刺々しい……純度120%の嫌がらせで出来ている言葉を受け取って、俺は苦笑することしかできなかった。

確かに「生かしておいてやるよ」と言われて腹立たない奴はいないだろう。

俺自身傲慢なことを言ったという自覚はあるのだが……それでもこうまで嫌われてしまっては、ちょっと傷ついてしまう。

そうさせたのは俺だが。

 

まぁ別に遠坂凜に嫌われても正直どうでもいいが……

 

それにこの態度、そして士郎がこの場にいないことから、あの宝具はセイバーの物だと予想できるが。

ビルの屋上から光が溢れているアレは、セイバーの宝具なのだろう。

宝具という単語は何度か聞いていたが……実際目の当たりにしたのは初めてだった。

しかもライダーの宝具よりも派手だ。

無論派手と言うだけではないだろうが……。

 

今の俺では……一瞬で消し飛ぶだろうな……

 

気壁程度で防げるとは思えなかった。

全ての得物達の刃気を一斉に解放したとしても、俺の実力ではあれを防ぐことは無理だろう。

 

例外としては夜月が破壊神との戦いの時に見せた、あの気壁……

 

あれならば間違いなく防げるだろう。

あの光は確かに強大な力を有しているようだが、それでも「空間」までも破壊していない。

破壊神のあの力の奔流は空間すらも破砕していた。

その空間破砕の力を難なく受け止め、挙げ句の果てにはそれを押し返して霧散させた夜月の究極の気壁が負けるわけがない。

が……

 

任意に発動できないがな……

 

未だ夜月のあの気壁の発動条件はわかっていない。

何となくわかっているが……仮に俺が予想した通りの発動条件だとしたら、任意に発動することはほとんど不可能と言っても良かった。

 

まぁあれを撃たせなければいいだけの話だから対策はいくらでも立てられ……

 

 

 

そう思案していたその時……

 

 

 

 

 

 

左腕前腕が何かを捉えたのを……俺は感じていた……

 

 

 

 

 

 

……何だ?

 

 

 

左腕前腕の力、龍脈と|魔力(マナ)を自在に操り、それの管理をしていた老山龍が地脈の乱れを捉えていた。

俺はそばにいる遠坂凜とアーチャーに悟られないように注意しながら、それを探った。

 

……これは乱れと言うよりも……一部が肥大化? いや……何か地脈ではない何かがどこかに移動している?

 

地脈の乱れではなく、俺が見つけたのは地脈の流れに沿って何かを運搬している感じだった。

地脈というものは大地の力の脈動だ。

そこで何かを運搬するというのならばそれは大地の力でしかないはず。

 

いや……これは……龍脈その物ではなく、なんかを運んでいる……これは……気?

 

その運搬してる物が何かに似ていると感じて、それに該当する物を探していたのだが……それに心当たりがあった。

俺が最も扱う……体力という気の力。

しかし何というか……混合物のような気である。

それがどこかに運ばれていく……。

 

いや……龍脈を経由する以上、終着点は……

 

 

 

この辺り一帯の龍脈の大元……

 

 

 

 

 

柳洞寺

 

 

 

 

 

 

ふむ……。これは調べてみる必要性がありそうだな……

 

「小次郎。行くぞ……。探索を続ける」

「……うん? いいのか? アレを見に行かなくて?」

「もうすでに終わっている。今更行ったところで無意味だ」

「……ふむ。承知した」

 

俺の何かを察してか、何も聞かずに小次郎が俺に追随した。

それを訝しく思いつつも、それでも士郎とセイバーを放っておく訳にはいかないと判断したのか、遠坂凜があの屋上へと向かっていく。

俺たちを睨みつけながら……アーチャーが安全のために先行していた。

 

さて……

 

『参るぞ小次郎。何か起こっているようだ』

『どこでだ?』

『柳洞寺だ……』

『ほぉ……懐かしい単語だな』

 

柳洞寺という単語に珍しく小次郎が知っているような仕草の言葉を漏らした。

 

『? 懐かしい?』

『以前……生前か。星を見に柳洞寺まで出向いたことがあってな』

『ほぉ……』

 

そんな会話を行いつつ、俺たちは夜の深山町へと向かっていく。

俺は柳洞寺へと直ぐに向かいたいところを必死に抑えて、探索しているふりをした。

直ぐに向かってしまっては何かが起こっていることを他の連中に悟られてしまう。

そうして長い時間を掛けて、俺は柳洞寺へと続く長い長い……石畳の階段へと来た。

そして……そこで俺は気がついた。

 

……これは?

 

長い長い階段へと続く石畳の道……参道。

それ以外の場所、つまり森木々が連立している所……つまりは森に強固な結界が張られていた。

否、別段それは不思議でもない。

以前から結界その物はあった。

寺という空間のために、悪霊と言った類を入れさせないためのものだと勝手に解釈していたのだが……。

 

それだけじゃなさそうだな……

 

しかしよくよく観察してみると、ある種の特徴があるようだった。

人間である俺にはそこまでの弊害はなさそうだが、それでもサーヴァントである小次郎にはきついと感じるような結界だ。

 

 

 

何というか……自然ではない霊体の侵入を拒むような結界である感じだ……

 

 

 

以前はこの結界がどういった類の物を排除するのかわからなかったが、傍らにいる小次郎のおかげで俺ははっきりとわかった

 

 

 

この結界は|自然(・・)霊以外の不自然な霊体を排除するための結界なのだ……

 

 

 

小次郎……つまりはサーヴァントのような……

 

 

 

空気がよどむ都合上、一時的に出はなく永続的に結界を張る場合は逃げ道が必要なので、正門へと続くその道には張り巡らされていない。

それも以前と同じままだが……以前には感じ得なかった違和感がある。

 

罠……だろうな……

 

もしもここに何かがいるというのならば、唯一の侵入口となる場所を放置するわけがない。

故にこの参道にはいくつかの罠なんかが張り巡らされていても何ら不思議はない。

俺の今の装備は軽装備……何が起こるかわからない上に、敵の本拠地に攻め入る以上、選択肢は多いに越したことはない。

 

……とりあえず何かがいることは間違いないな

 

山門へと続く参道に罠が仕掛けられていること。

以前になかったそれがあるだけで、この柳洞寺に何かがいることがわかった。

しかしそれだけでは張り巡らされた結界の特異性がよくわからないが。

 

……なんかきなくさいな?

 

そう思うのだが……材料が少なすぎて結論が出せない。

面倒になったので考えるのをすっぱりとやめた。

柳洞寺に何かしらの変化があったこと。

正体がわからないまでも、セイバーの切り札を知ることが出来たこと。

情報収集としては十分すぎるほどの収穫だ。

柳洞寺をさらっと流しながら見て……帰ろうと思ったのだがその時、視線を感じた。

 

!? 何だ!?

 

遙か彼方から俺を見つめる視線に気づいた。

俺から見ることは叶わないが……この視線は知っている。

 

 

 

……アーチャーか!!!!

 

 

 

まさに射貫くかのようなその目線は……弓兵のものに他ならない。

 

……なるほど『|弓使い(アーチャー)』のクラス名は伊達ではないと言うことだ

 

視線が発せられているのは、大橋のアーチの上……

まさか大橋からここまでの俺を見るとは……。

 

ちっ!? どうやら何かあると悟られたようだな……

 

注意深く行動したのが、返って裏目に出たかもしれない。

何かがあると知られてしまったために、明日やつらもこの柳洞寺へと来る可能性がある。

まだ動くべき状況ではないが……それでも明日、何かあると考えてもいいだろう。

 

面倒なことになったな……

 

もうすでに夜も更けている。

俺の装備も今宵は準備万端とは言い難い……。

今宵の活動はもうこれでいいだろう……。

 

「ちっ、帰るぞ小次郎」

「ふむ、やられたな?」

「あぁ」

 

さすが小次郎。

アーチャーの視線に気づいていたようだ。

クラス名からもっと相手の能力を考えなかった、俺の甘さに敗北感を味わいながら……夜の深山町を歩いて、店へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

(気づかれた!?)

 

薄暗い空間。

おそらく中心にあるであろう、浮遊している球体が発する光だけが、この空間の光源だった。

その球体には、何か映像が映し出されていており……そこには店へと帰還している刃夜と小次郎の姿があった。

それを覗き込んでいる人物は、フードで顔を隠しているためにその顔を見ることは叶わない。

だがその細い、華奢とも言える体つきを見れば、その人物が女性であることがよくわかる。

 

『|魔法使い(キャスター)』のクラスのサーヴァント、キャスターである。

彼女は刃夜が怪しいと感じ、偵察に来た柳洞寺の一室に自身の私室を構えており、そこで使い魔による視覚情報から刃夜と小次郎を監視していた。

 

(……失敗したわね)

 

新都にて、莫大な魔力の奔流を検知したキャスターは、それを隠れ蓑にして今までよりも多めな量の魔力を吸い上げて地脈に乗せて、この柳洞寺まで運んでいたのだが……それに気づいたのが刃夜だったのだ。

 

(まさか、気づくだなんて)

 

 

 

魔術師の英霊であるキャスターは当然魔力に特化したタイプなのだが……相性の問題もあり、聖杯戦争では最弱と言われている存在である。

それはクラス特製のスキル影響によるもので、大半のサーヴァントが「対魔力」というスキルを有しているからだ。

これは魔術攻撃を無効化する能力のことである。

ランクによって魔術の無効化が当然異なるが、最高クラスの対魔力を有する『|剣使い(セイバー)』には魔術ではダメージを与えられないと断言してもいい。

むろん対魔力を超えるほどの魔術を行使すればいいのだが……彼女にはそれが出来なかった。

否、今の状況では出来ないといった方がいいだろう。

キャスター自身は非情に優秀な魔術師であり、その実力ははっきり言って「魔術師」という枠組みの中……いやそれどころかその分野の中では最強の実力を有している。

そのため、彼女は最優のサーヴァント『|剣使い(セイバー)』であっても勝てなくはない(無論策を張り巡らせてだが)。

 

(……見つかることは覚悟していたけど、よりによってなんて厄介な存在に)

 

使い魔を設置した場所より、遠ざかっていく二人組を水晶玉の物から見送りつつ、キャスターは憎しみで歯がみしていた。

彼女自身は最強クラスの魔術師であることは間違いない。

だが……彼女、キャスターには魔力がないのだ。

ないといっても別段すぐさま消滅するほど少ないわけではない。

彼女が実力を発揮するほどの魔力の蓄えがないのだ。

「陣地作成」という固有スキルを使用し、柳洞寺に擬似的な「神殿」を造り上げて、龍脈より少しずつ魔力を吸収していた。

しかしいくら彼女が優秀とは言え、龍脈から直接魔力を吸い上げることは難しく、また生きているわけではない彼女には龍脈の力を自身の糧にするのは難しい。

故に彼女は龍脈という「運搬路」に、自身の力で吸収した生きた人間達の生気……「生命力」を乗せて、この辺りの龍脈の大元である柳洞寺へと運び、それを糧にしていた。

敵である他のサーヴァントに気づかれぬように、吸い出された本人でさえもほとんど体調不良にしか思わないほどの微細な量を、数え切れないほどの人間から吸い上げていた。

 

(あの人間……)

 

本来ならば、彼女の行っている行為はばれるはずがなかった。

何せ超優秀と断言できるキャスターが、細心の注意を払って行っていた魔力の吸い上げは、例えサーヴァントであろうとも気づけないほど自然な物だったのだ。

確かに今回、いつもよりも多めに吸い上げたことは事実だ。

だがそれでもセイバーやアーチャー、ライダーは全く気づいていなかった。

 

(……本当に人間なの?)

 

つまりこれはキャスターの失策ではないのだ。

 

 

 

気づいた人間……鉄刃夜という存在が普通じゃないのだ……

 

 

 

しかしそれもある意味で当然といえた。

 

龍脈や生命の|魔力(マナ)を蓄え使役し、自在に使用し、従わせることの出来る老山龍の力を宿した刃夜が、世界が異なるとはいえ龍脈の異変に気づかないわけがなかった。

 

むしろそんな存在である刃夜が今まで気づかなかったことこそ、キャスターの実力を物語っている。

 

 

 

(……明日奴はここに来るはず)

 

それが恐ろしかった。

何せバーサーカーに普通に斬りかかることの出来た存在だ。

しかもサーヴァントまで従えている。

 

自身が従えるべきだったはずの……サーヴァントを……

 

それを思うとさらに憎念が彼女の心に渦巻くが、そんな場合ではなかった。

 

(……あまり魔力は使えないけど)

 

それでも、自身の望みのために生きていたい。

そのためにキャスターは、あまり多くない魔力を使用して、必死に対策を練った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「う~ん……うまくいかないな?」

 

日が昇り始めた早朝。

まだほとんどの人間が眠りについているだろうその時刻に……廃墟のような武家屋敷でそんな声が上がった。

武家屋敷の広い中庭。

その場にいるのは腰に打刀を差して唸っている刃夜と、その後方で野太刀を振るっている小次郎だった。

今朝方の訓練という名の斬り合い……ちなみに刃夜の負け……を終えた後だ。

後方で野太刀を振るっていた腕を止めて、小次郎が不思議そうに刃夜へと向き直る。

 

「何がうまくいかないんだ? 先ほどから軽業師のように飛び跳ねているが?」

「いや……多分今の俺なら出来ると思ってやってるんだが……うまくいかなくてな……」

「何をだ?」

 

再度小次郎が問いかけるが、集中しているのか刃夜から反応がない。

付き合いが短いとはいえ、刃夜が武術に置いて無駄なことをしないと、小次郎もすでにわかっていた。

それに刃夜は小次郎では知りもせず、わかりもしない不思議な力を有していることも知っていた。

そのため小次郎が取った行動は……。

 

(ふむ。見学するか)

 

何をするのか興味が湧いた小次郎は、野太刀を鞘に収めて武家屋敷の道場縁側へと腰掛けて、刃夜の行動を見守ることにした。

その刃夜は、そんな小次郎に気づかずにただひたすらにジャンプを繰り返していた。

 

 

 

もしもこの場にわかる人がいたら……まるで青い格好の右腕バスター野郎がダッ○ュジャンプを練習しているような光景に見えたかもしれない。

 

 

 

それほどまでに刃夜は無駄に飛び跳ねては着地して思考し、跳んでは思考するを繰り返してた。

それをのんびりと小次郎は面白い物を見るように、のんびりと眺めていた。

 

(相も変わらず……面白い奴だ)

 

それが刃夜に対する小次郎の感想だった。

確かに自分はその生涯のほとんどを、剣を振るうことのみに費やした。

それ故に一般的な世俗にも疎く、そしてそれ以上に裏のことはほとんど知らないといっても良かった。

 

ただ自分の剣技さえ磨ければそれで良かった……。

 

それは死後、正規ではないとはいえ英霊として祭り上げられてもその考えは変わらなかった……。

 

 

 

だがそんな彼が興味を惹かれたのが、刃夜だった。

 

 

 

確かに小次郎の野太刀は長い。

 

だが、彼以上の野太刀を所有し、それを振るっていた武人は数多く存在した。

 

しかしそれは彼にとってはどうでも良かった。

 

自分の剣技さえ磨ければそれでいい存在である小次郎が、自分よりも長い野太刀を扱う人間に興味を引かれるはずがないのだ。

 

だが……それでも、刃夜の存在は見過ごせなかった。

 

 

 

刃夜の持つ、七尺四寸の野太刀、狩竜に……そしてなにより、刃夜に惹かれたのだ……

 

 

 

何故かは小次郎自身にもわかっていない。

 

だがそれでも小次郎は見たいと思ったのだ……。

 

 

 

あまりにも異質で異常な……刃夜の事を……

 

 

 

そして気がついたら現界して、刃夜のそばに佇んでいたのだ……。

 

サーヴァントという異質な存在となって……。

 

それもあり得ないクラスでサーヴァントとして現界したのだ……。

 

 

 

「マスターの天敵」と言われる、『|暗殺者(アサシン)』。

最高クラスの「気配遮断」スキルを有しているために、常に気を張っていなければいけない相手である。

何せ気配遮断のスキルを用いた『|暗殺者(アサシン)』には、おなじサーヴァントでも気配を捉えるのは難しい。。

サーヴァントが気づかないのであれば、必然的に性能で劣っている人間が気づくわけがない。

気配遮断を行ってマスターに近寄り、息の根を止める。

 

故にマスターの天敵。

 

だが、攻撃に転ずればその分気配を察知できるために、返り討ちに遇うこともままあり、そこまで優秀といえるサーヴァントではない。

実際マスター相手には天敵だが、同じサーヴァントと普通に白兵戦を行った場合、ほとんど勝機はないと言っていい。

そもそも『|暗殺者(アサシン)』に、斬り合いを望むべくもないのだ。

この『|暗殺者(アサシン)』のクラスは本来ならば、「暗殺者」の語源となった暗殺教団の歴代頭首「ハサン・サッバーハ」のみが呼ばれるクラスである。

歴代頭首、全19人の中から一名が選ばれて召喚されるのだ。

 

 

 

しかしそれに全く当てはまらないのが小次郎だった。

『|暗殺者(アサシン)』でありながら、侍である彼は暗殺者ではない。

だが、それは彼にとっても……刃夜にとってもどうでも良かった。

 

 

 

自分たちが心から惹かれあい、さらには己の技量を試すにはこれ以上ないほどの好敵手である二人にとっては……クラスなんていうものは全くもってどうでもよかった。

 

 

 

(……刃夜……か)

 

 

 

まるで恋いこがれる|女子(おなご)のように、小次郎は刃夜に好意を抱いていた。

 

その気持ちは全く持って嘘ではない。

 

これ以上ないほどに純粋であり、互いに互いを認めて背中を預け合うにふさわしいと思っていた。

 

 

 

 

 

 

だが、本人も気づかないほどの心の奥深くに……黒い感情が芽生えているのを、小次郎は気づいていなかった……

 

 

 

 

 

 

一人の敵として……

 

 

 

一人の剣士として……

 

 

 

一人の……好敵手として……

 

 

 

 

 

 

小次郎は、刃夜との死合いを望んでいた……

 

 

 

 

 

 

二人してそれに気づかず……刃夜が気づくわけもないが……、刃夜は軽業師のように飛び跳ね、小次郎はそれを道場の縁側で眺めている。

 

「よし……」

 

その刃夜が、何かを掴んだように目を閉じて……見開いて再び宙へと跳ぶ。

 

そして何もないはずの空を蹴り、再び空へと舞い上がる。

 

これまではいつも通りだった……。

 

 

 

だが……今回は違った……

 

 

 

「……こうだ!」

 

 

 

その声と供に、再び刃夜が宙へと跳ねた。

 

地を蹴り、空を二回蹴った……。

 

それを、小次郎は呆れるとも驚くともしない……実に曖昧な表情を浮かべている。

 

 

 

(全く……こやつは……)

 

 

 

小次郎としては苦笑を禁じ得なかった。

 

常人では振るうどころか持つことも出来ない長大な野太刀を軽々と振るい、それだけではなく様々な力を内包し、そして今は人間業ではない三段跳びという……意味のわからないことをしている。

 

その刃夜が宙から地面へと着地する。

 

顔には何かをやりきったような……達成した時の満面の笑みを浮かべていた。

 

その表情が余りにもすがすがしくて、思わず声を上げて小次郎が笑った。

 

 

 

「ふははははは。よもや三段も宙を跳ねようとは。一体どういった原理だ?」

 

「いや、以前に説明しただろ? 気の足場を造って跳んでいるって。二度目はそれとは別に魔力の足場を形成して跳んだんだ。今の俺なら出来ると踏んでいてな」

 

 

 

嬉々として語る刃夜の言葉を、小次郎は感心しながら聞いていた。

正直いって小次郎は刃夜の言っている意味がよくわかっているわけではない。

だがそれでも自分の戦友にして宿敵が、何かを成し遂げたことは簡単に理解できている。

新たな技を会得した刃夜を褒めつつ、小次郎は話を聞いた。

 

 

 

こうしてどんどんと人間離れしていく刃夜。

魔力壁だけでなく、それを足場として再度飛び事の出来るエ○ハイク(魔力の足場バージョン)を身につけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「追い出された?」

「はい、鉄さんが帰った後直ぐにです。うちの学校で何かあったみたいで」

 

翌日。

いつものようにやってきた美綴に体調のことを聞いてみた。

身体自体は見舞いの時に異常がないことを知っていたので、どちらかというとその後のことが知りたかったのだが……追い出されたというのは少しだけ驚いた。

 

まぁ学園で昏睡事件起きたらな

 

美綴の話では、学園で全校生徒並びに教師が一成に昏睡してしまうという事件が起こったらしい。

結界が発動したこと自体は知っていたが、それがどのような効果をもたらすのかわかっていなかったので、それを知ることが出来た。

 

衰弱した状態で一部の例外を除く人間が運ばれたと言うことは……魂食いとか言う奴の広範囲版か……

 

どうやらあの結界は魂食いとおなじ作用を、結界内部の人間全員に食らわせるための物だったようだ。

程度の具合は人それぞれらしいが、死人は出ていないことからそこまで大事には至らなかったようだ。

 

「なんかベッドが足りなくなりそうだから帰ってくれって言われちゃって。まぁ暇だったからちょうど良かったんですけど」

「ふぅむ。何というか……運が良かったな」

「私は運が良かったかもしれないけど……知り合いがほとんど倒れちゃったから、あまり素直に喜べないんですけどね」

 

ライダーに襲われかけて意識を失って学園に行かずに済んだ美綴が良かったのか、ライダーに襲われずに学園で吸収された方が良かったのか……どちらがいいのかは謎だが、それでも俺としては美綴が無事なのは喜ばしかった。

 

「ふむ、友に気遣って心を痛める必要はない。運が良かったのは事実かもしらんが、それでもお主が無事なのは喜ばしいことだ。それでも気になるのならば、お主が元気な分、他の者を見舞ってやればいい」

「……そうですね」

 

小次郎の言葉にしばし考える仕草をしていたが、それでもそれが一番だと美綴自身も思ったのか、決意を新たに頷いていた。

その二人の会話を見つめつつ……俺は美綴に心の中で詫びていた。

 

今情報収集のために利用している感じがするのがいやだな……

 

だがそれでも情報収集と言う意味でも美綴の存在は貴重だった。

学園というのは一種の閉鎖空間だ。

外から内部の様子を探るのは難しい。

学園の人間で士郎と凜、二人のマスターがいるために、放置しておくわけにはいかない。

 

まぁあの二人は学校で暗躍するとか、学園を利用して何かを企むとかそう言うタイプじゃないけどね……

 

士郎は人助けのために生きているような物なので、人を襲うと言うことはほぼあり得ない。

遠坂凜は冬木の管理者として頑張っている人間だし、それになによりそう言った暗鬱とした行為を行うような人間とは思えない。

だから放置してもあまり問題はないが、何が起こるのかわからないので情報は収集しておくべきだ。

という言い訳の元、俺は毎朝美綴とのお話を楽しむのである……。

 

『何というか……言い訳にも程があるな。会話を楽しんでいること自体は嘘ではないのだろう? ならば素直に楽しみきれば良かろうに』

『やかましいぞ封絶』

 

的確なつっこみをしてきた封絶を切って捨てて、俺は美綴にさらに話しかける。

 

「となると学園はしばらく休校か?」

「そうですね。また暇になっちゃいました」

 

たはは、と苦笑しながら美綴が笑っている。

学園のほぼ全員が昏睡してしまっては、いくらなんでも二、三日は休日にするしかないだろう。

いくら途中で終わり、死者が出なくても全員が一斉に倒れたのだ。

学園側に責任がないとはいえ、それを無視するわけにはいかないだろう。

 

教師陣大変だな~。大河に出前でもしてやるか?

 

本来ならば学園に全く非はないのだが、それでも管理がどうとかなんか言ってくる輩もいるだろう。

教師はそれの対応に追われることになる。

故に大河も大変な目に遭っているはずだ。

自身も倒れたというにもかかわらず、走り回っているのが容易に想像できた。

 

大河は生徒思いなのは間違いないからな。普段のふざけた言動に目を奪われがちだが……

 

そう実は大河……教師とはしては結構優秀であるらしい。

まぁ若干25歳にして、すでにクラス担任をしていることを鑑みれば優秀なのは当然だろう。

しかも剣道五段らしく、武道も強い。

美綴は武道を習得し、それをきちんとした使い方をしている人間には敬意を払うような子なので、大河には最終的には頭が上がらないらしい。

 

ここで「最終的には」という単語が付くところが大河らしいな……

 

普段はやはり普段の大河らしいので、尊敬しているが困ってもいると言っていた。

 

「そう言うわけ何で、鉄さん。またお手伝いさせてくれませんか?」

「え、いやいいよ。っていうかこういった事情の時は基本的に自宅待機じゃないのか?」

 

いくらやむにやまれぬ事情があるとはいえ、平日に休みを設ける場合は、生徒は自宅待機のはずだ。

 

「そうなんですけど、家にいても暇っていうか……それに、お礼だってしたいですし」

「お礼って……。だから俺がお前を助けたのは別に……」

「そ・れ・で・も・で・す!」

 

……不退転だなぁ

 

もう手伝わせてもらうまで帰る気がないようだ。

そんな美綴と俺を見て、小次郎がクツクツと愉快そうに笑っていた。

 

『笑ってないで助けろよ?』

『いやなに。美綴がもしも働いてくれると言うのであれば、私としても愛でる対象が増え……』

『あ~はいはい』

 

何を言うのかわかったので、俺は念話を一方的に終わらせた。

そしてもう一方の相手に助言を頼むことにする。

 

『封絶。この場合どうすればいい? 竜人族の英知で助けてくれ』

『そう言ったくだらないと言えなくもないことで私を頼られてもだな……まぁ構わぬが。しかし仕手よ。それで美綴の気が済むというのであればさせてやってはどうだ? どこかに出かけるよりもよほど安全だと思うぞ?』

 

|お前も(ブルータス)か!?

 

意外や意外。

まさか封絶までもそちらに回るとは……思わなかった。

 

まぁ確かにその通りか……

 

俺の店にいる分には、そんなに危険な目には遭わないだろう。

ならば手伝ってもらうという名目で、保護しておくのも悪くはない。

 

「わかった。頼んだ」

「!!?? はい! わかりました!」

「といっても、今日は夜の部ないんだけどな」

「? 何でですか?」

「ちょっと気になることがあってな……。調べ物にな」

 

お礼として頑張ろうと意気込んでいた美綴には申し訳なかったが、それでも夜の部をやるつもりはなかった。

夜になる前に、武装のチェックを行いたかったからだ。

他にも柳洞寺を遠目から観察して、何か変化がないか見たかったのだ。

 

『わかっていると思うが今宵は敵の陣地に乗り込むぞ?』

『ふむ。何が出てくるか見物よな……』

『了解した。仕手よ』

 

相方達に念話でそう伝えておき、俺はそれとは全く違うことを、口にする。

 

「よ~し。んじゃ今日は美綴にも料理を作ってもらおうかな?」

「え!? む、無理ですよ! 私そんなに料理できないです」

「そんなにって事は少しは出来るんだろ? ならそれをやってくれ」

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

そんな談笑をしつつ、俺たちは開店の準備を行う。

普段よりも人数が一人増えて騒がしいというか……和気藹々といった感じに作業を行う。

 

 

 

ちなみに余談だが……

美綴は確かに料理が余り出来なかった。

名誉のために言うが、美綴が造った料理は好評だった。

何というか、凝る料理よりも大量に造れるような料理……今回はお好み焼きを作ってもらった……が得意なようだ。

しかも量を造れば造るほど美味かった。

ある種不思議な才能である。

かわいい女の子がいるからか男性陣には好評であり、しかも女性側からも何人か学生が昼食を食べに来たときに、熱視線を送っていた。

 

……あなどれんな、この子

 

改めて、美綴のハイスペックぶりを認識した俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

思わぬ休日なってしまったとある日の昼食後。

作戦会議と言い出した士郎に凜が同意し、衛宮家の居間にて、士郎、セイバー、凜で今後の作戦会議が開かれていた。

ちなみに例によって例のごとく、アーチャーは見張りに立っているためにいなかったりする。

 

「刃夜が柳洞寺に偵察に行っていただって?」

「……えぇ、そうよ」

 

(何でそんなに不機嫌なんだ? 遠坂)

 

そして会議が始まって刃夜の動きを士郎が聞いて返ってきた答えがそれだった。

何故か刃夜の事で苛立ちを覚えていると見抜いた士郎は、あえてそれを聞くような愚かなことはしなかったが、その原因がわからないので困惑した。

士郎もまさか凜が、自分が死ぬ気で屋上へと上っているときに、刃夜に敗北して屈辱的な思いをさせられたとは思うまい。

 

「アーチャーが、あいつが何気ない仕草を装いつつも、柳洞寺に探索に行ったのを見ていたらしいの。あいつが何かを感じ取ったのだとしたら、きっと何かあるはずよ」

「しかし凜。一体何があるというのですか?」

「一晩あったからそれは考えておいたわ。でもね、正直考えるまでもなかったのよ。残ったサーヴァントを考えれば、あそこに何がいるのかは自然とわかるわ」

「残ったサーヴァント?」

 

凜の言葉に、士郎が残りのサーヴァントを思い浮かべてみた。

 

刃夜のサーヴァント、アサシン。

士郎のサーヴァント、セイバー。

凜のサーヴァント、アーチャー。

イリヤのサーヴァント、バーサーカー。

ゲイボルグを使用するランサー。

昨夜セイバーが戦ったライダー。

残るクラスは……。

 

「残りは……キャスターか」

「えぇ。きっとあそこにはキャスターがいるわ。ランサー、ライダーの線もなくはないけど……。でも不思議なのは、一体どうしてあんな場所にいるのかってことなの」

「確かにそうか……」

 

凜の言葉に、士郎が同意を示す。

確かに柳洞寺は、冬木市でも結構へんぴなところに立っている。

寺に行くにも相当長い階段を上らなければいけないこともあるのだ。

まぁ霊体の存在であるサーヴァントに、階段なんぞ意味はないだろうが……。

そんなその二人の言葉を、真っ向から否定する存在がいた。

 

 

 

「いえ、別段不思議でもありません。柳洞寺を拠点にするのは都合がいい」

 

 

 

今まで黙って聞いていたセイバーである。

 

「都合がいいって……セイバー、どうして柳洞寺のこと何で知ってるんだ? 俺はまだ連れて行ったことないぞ?」

 

セイバーの言葉に、士郎が疑問を口にする。

士郎がセイバーを召喚してからまだそんなに日数が経っていない。

その間にも色々と合ったこともあり、セイバーにこの冬木市の事を案内しなければいけないと思いつつも、士郎にそんな時間も精神的余裕もなかった。

 

 

 

確かにサーヴァントは、時代の違う世界へと赴くために、生活などに支障を来さないために、その時代の知識などは聖杯より与えられている。

しかしそれはあくまでも一般的な知識であるために、地形や、霊脈と言った戦術及び戦略に直接関わりのある事まで詳細に教えられることはない。

 

 

 

「……そう言えばまだ話していなかったですね」

「何をさ?」

 

セイバーが何か重大な事を話すと思い、身構える士郎と凜。

しかし身構えた程度ではどうにもならないほどの爆弾だった。

 

 

 

「私がこの聖杯戦争に参加したのはこれで二回目です。前回の戦争に参加したので、この町の事は熟知しています」

 

 

 

「え?」

「へ?」

 

恐るべき事実に……二人は揃って固まった。

前回の聖杯戦争。

それは士郎が災害に巻き込まれた、冬木大災害の直接の原因となっていた、第四次の聖杯戦争のことを示している。

 

「ちょ、ちょっと待てセイバー! ぜ、前回の聖杯戦争って……十年前のやつにか!?」

「えぇ。正直な話、それほど時間の経たない今回の戦争に参加することになるとは私も予想外でした」

「……十年前に」

 

士郎は驚愕し、凜は呆然と言葉を発していた。

その言葉には……寂しげな感情が込められていた。

凜の様子に気づきつつも、聞くべきではないと察したセイバーが、言葉を続けた。

 

「それで柳洞寺なのですが、あそこは落ちた霊脈なのです」

「落ちた霊脈!? それって|遠坂邸(うち)のはずよ!?」

 

落ちた霊脈。

つまりは龍脈の大元であるという意味。

冬木の管理者として代々この町で生きてきた遠坂は、当然ながらそれだけの権利を有している。

そのために、魔術師としては見逃すことの出来ない、龍脈の大元の上に家を建てて、この町の管理を行って来た。

そのために、凜の言葉は当然のように正しかった。

だが……それだけで、この冬木市に大元が一つ限りであるということにはならないのだ。

 

「私も詳しいことは知りませんが、この町には二つの落ちた霊脈が存在しているのです。そしてそれのおかげか、あの土地は魔術にとっては神殿に等しい。この地域の霊脈の大元とも言える場所だそうですから、魂を集めるのには絶好の拠点となるはずです」

 

魂を食らうことによって強化することが可能なサーヴァント。

それの強化には魂という代価が必要だが、それは当然リスクを伴う。

ライダーが行っていたのを考えれば当然だろう。

個々を狙い、夜に実行したとしても人目がないとは言い切れず、結界を発動させた場合、いくら外に漏れないと言っても、完全に情報が漏れないと言うことはないのだ。

しかしそれを龍脈の元締めとも言える柳洞寺を占拠することによって、そこから龍脈の力と本人の力量によって、遠隔地からの魂食いが可能となる。

今回の聖杯戦争がいつ始まったのか、明確にはわからない。

最初に呼び出されたサーヴァントが誰だかわからないからだ。

しかしもしも仮にキャスターが早期に召喚され、そしてそれとほとんど同じ時期に柳洞寺を占拠し、龍脈を利用しての魔力吸収を行っていたら、相当量の魔力を有している事になるのだ。

 

「知らなかったわ。それが本当だとすると、確かにうってつけの土地ね」

 

自身が知らなかったことに嘆きつつも、それを感情にまかせて否定するほど凜は子供ではなかった。

むしろ彼女にとっても有益な情報といえた。

しかしそうなると次なる疑問が浮上するのだ。

 

「でもそうなるとどうして真っ先にあそこを制圧しないの? 修行僧はいるけど、魔術師じゃないから何とでも出来るはずでしょ?」

「確かに霊脈だけをみればいいのですが、サーヴァントにとっては都合が悪い場所なのです」

「サーヴァントにとっては?」

 

今まで半ばついて行けなくなっていた士郎が、率先して疑問の声を上げる。

このままだと取り残されると思ったのかもしれない。

 

「あの山には自然霊以外を排除する法術が作用しているのです。生身の人間なら問題ないのですが、サーヴァントにとっては鬼門です。と言っても寺院の中は問題ありません。そして正門へと通じる参道だけはその結界がないみたいです」

 

龍脈の大元である寺院を密閉してしまってはどんな不具合が起こるかわからない。

故に一本道だけではあるが、柳洞寺に通ずる道が存在している。

それが正門である山門へと通ずる、参道だった。

 

「なるほどね~。だから陣地にしないのね。それにそれを知ってないとそもそも拠点にしようとしないんだから、それもある意味で仕方がないことか」

「それで、どうするのですか? サーヴァントはまだ確定していませんが、それでもマスターがいるのは明白です。このまま指をくわえて敵が強大になるのを見ているだけなのですか?」

 

一応疑問形で聞いてはいるがセイバー自身、行うことは決定しているような響きだった。

セイバーには自負があるからだ。

 

大概の敵には負けないという……自身という名の自負が……。

 

今の会議の結果、柳洞寺にいるのはキャスターである可能性が高いことがわかっている。

実際、残ったサーヴァントであるランサーにライダーは柳洞寺に潜伏していない。

ランサーはアーチャーが追跡したときも、柳洞寺には戻っていなかった。

こちらに潜伏先を知られないためという事も考えられなくもないが、ランサーの性格上それはない。

ライダーに至ってはセイバー自身が滅ぼした。

故に残ったサーヴァントと、今セイバーより語られた柳洞寺の特製を鑑みればキャスター以外にあり得ない。

だが……。

 

「待って、セイバー。それは賛成できないわ」

 

凜が、それに反対する。

その凜の言葉に、セイバーは驚いた。

 

「意外ですね。凜ならば即座に戦いに挑むというと思っていたのですが」

「それ、どういう意味かしら……? まぁいいけど。いくら何でも情報が少なすぎるし、仮にもしもキャスターが霊脈を使って魔力を蓄えているのならば相当手強い相手になっているはずよ? それに敵の本拠地に行くのなら、それ相応の準備が必要でしょ?」

 

実際情報が少なすぎる。

士郎と凜の生活圏内に入ってはいるものの、普段寺に用事があるわけもなく、また参道の長い長い階段がさらに行く気をそいでしまう。

士郎にはまだ凜よりも行く理由はあるが……柳洞一成の家のために……それでもここ最近柳洞寺に行く事はなかった。

 

「なるほど……。ではシロウ。我々だけでも行きましょう」

 

凜が断ったが、それで止まるセイバーではなかった。

すぐさまに自身の主である士郎へと言葉を向ける。

だがその士郎も……。

 

「俺も遠坂の意見と同感だ。まだあそこには手を出さない方がいい」

 

凜と同じように、セイバーの意見を却下した。

 

「なっ!? 貴方まで戦わないというのですか!?」

「そうはいってない。遠坂の言うとおり情報があまりにも少ない。しかも本拠地であるなら罠だってあるのは事実だ。だからもう少し情報を入手してからじゃないと危険だ」

 

士郎も凜とほとんど同じ意見だった。

実際そうだ。

何せ士郎と凜は人間なのだから。

確かに二人とも一般人とは言えないだろう。

魔術師と魔術使いの違いはあれど、ふたりとも魔術という力を有している。

使い方によっては人なんて簡単に殺せるほどの力なのだ。

だが……それでも二人はどこまでいっても人間なのだ。

故に慎重にならざるのも当然といえる。

だが……セイバーが違った。

 

「そのような危険は当たり前です。無傷での勝利などほとんどあり得ない。だが、敵の罠に身体を貫かれたとしても、この首と心臓さえ渡さなければ戦える。どのような傷を負おうとも、マスターさえ倒せばそれで終わるのです」

 

彼女は……人間にして人間でない存在、サーヴァントなのだ。

彼女の剣撃は常人では防ぐことも避けることも叶わない。

身体能力も、その小柄な身体であるにも関わらず、凄まじいほどの力を有している。

さらには自身の宝具に、自身のスキル……それらが合わさっているために、セイバーには苦戦を強いられたとしても、負けるという考えは頭には浮かばなかった。

 

 

 

その二つの……二人の決定的なまでの存在としての違いが、士郎とセイバーの間に齟齬を生じさせる。

 

 

 

それになによりも、士郎には断じて許せることではなかった……

 

 

 

自身のために戦ってくれている彼女が……無意味に傷つくのを……

 

 

 

 

「バカを言うな! 無茶をして怪我をして……そもそもこの前の傷だってまだ癒えきってないんだろう!?」

「ほとんど癒えていますし、戦闘に支障はありません。傷のことで私を気遣うなど無用です」

 

 

 

セイバーは相手を倒すといい、士郎はセイバーに無理をさせたくないという。

 

完全な平行線の言い合いは……やがてどんどんと感情が入り交じる。

 

故に士郎にも当然のごとく感情が入り……。

 

 

 

 

 

 

最悪の一言を口にしてしまう……

 

 

 

 

 

 

「無茶をして無理をして……それでバーサーカーの時みたいになったらどうするんだ!? 無理を承知で戦って、あの時は刃夜が助けてくれたから良かったけど、あのままだったら俺もお前も共倒れだったんだぞ!?」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

士郎の言葉……。

それは確かにセイバーを止めるのに足る言葉だった。

何せセイバーにとっては失策とも言える、バーサーカーとの戦闘。

自身のマスターを守りきれずに敗北した。

それは例え表に出さなくとも……彼女の心をえぐっていたのだ。

 

(あちゃ~)

 

成り行きを見守っていた凜が、思わず内心で嘆いていた。

止めるべきだったかもしれないというのは……セイバーの俯いた表情を見れば一目瞭然だった。

 

「……それを言うのは卑怯です」

「卑怯でもいい。ともかく、まだ仕掛けない」

 

そう言って士郎は口を閉ざした。

もうすでに語るべき事は語り尽くしたというように。

セイバーも一言だけ口にして、後は黙り込んだ。

 

「……わかりました。マスターがそう言うのならば」

 

微妙な空気のまま、話し合いは終わり、凜とセイバーは自室へと戻っていった。

それを居間で見届けながら……士郎の胸中では後悔が渦巻いていた。

 

(……なんだって俺はあんな言い方を)

 

去り際に見せたセイバーの表情を見せて、自分が失策したことを自覚した。

自分のためにあんなにも懸命になってくれている彼女を傷つけてしまったことで自己嫌悪に陥るが……それを止めてくれる存在は、いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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