月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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二話構成だよ~
タイトル違うけどね~
今回も多いよ26000字以上だぜ!!w
それでも読んでくれたら嬉しいです~






双剣VS双剣 野太刀VS見えない剣

「――!?」

 

突然の激痛に、士郎は深い眠りから目を覚ます。

土蔵で寝ていた士郎は、跳ね起きてその痛みの出所を探す。

その痛みの元は……

 

「令呪……から?」

 

左手の甲にある令呪から激しい痛みを発していた。

まるで令呪その物が脈動しているかのように。

 

(いったい何――!?)

 

それが何かを考えた瞬間に回答へと行き着いて……士郎は今度こそ跳ね起きて。

 

「セイバー!?」

 

普段ならば絶対にしない……女性の私室へと通じる襖を躊躇なく開けた。

そんな度胸もなければ、そんなに軽い人間でもないからだ。

だが今はそんなことをいっている場合ではないと思い、開けたその襖の先に……士郎が探し求めている存在であるセイバーはいなかった。

 

「あいつ!?」

 

普段ならば……といっても士郎はセイバーが布団で寝ている姿を見たことはないが……寝ているはずの時間にいないこと。

そして令呪に痛みが走ったことで士郎はセイバーがどこにいるのか確信した。

部屋に不在のセイバーがどこに行ったのかは考えるまでもなかった。

 

(あいつまさか柳洞寺に単身で行ったのか!?)

 

先ほどの言い争いの原因となった柳洞寺。

罠があり、敵の本拠地であることを理由にしばらくは様子を見ると結論を出したはずだ。

しかしその時渋っていたセイバーの表情を見て、士郎は嫌な予感がよぎっていたのだ。

そして士郎の想像の通り、セイバーは柳洞寺へと向かっていた。

 

「……遠坂!」

 

とてもではないが自分一人ではどうにもならない自体になっていると自覚した士郎は、すぐさま自分の共闘関係の凜へと助けを求めて部屋へと向かった。

その時余りにも慌てていたために……彼はノックという、人類の偉大な発明を行うことはしなかった。

 

結果……

 

 

 

「え?」

 

 

 

「……っ!?」

 

 

 

開けはなった扉の先……そこには……

 

 

 

霰もない、上半身が下着姿の凜が士郎の視界に広がった。

 

 

 

下が猫柄のかわいい寝間着だったことを考えると……どうやら着替え中だったようだ。

 

 

 

普段は服で隠されている凜の肢体を見て、士郎は硬直した。

 

 

 

実際、凜の外見は美少女と称しても何ら問題ないレベルである。

 

 

 

学園でも男子生徒ならば誰もが凜を特別視しているとも言われている。

 

 

 

性格は知られていないが……。

 

 

 

しかし残念なことに……無駄が一切ないために、本人にとっては残念なことに、胸は全くと言っていいほどなかった。

 

 

 

ちなみに凜が身につけている下着は、ごくごく普通の白いブラジャーであった事を明記しておく。

 

 

 

「……」

 

「……衛宮君? あんたねぇ……!!!!」

 

 

 

最初こそ互いに停止していたが……直ぐに再起動した凜がこめかみに青筋を走らせる。

それを見て士郎が、自分が今どういった状況にあるのかを確認したのだが……時すでに遅し。

 

 

 

「なに許可もなく入ってきてるのよ!!!!」

 

 

 

鋭い踏み込みを行い、その格好のまま攻撃を仕掛ける。

 

右掌を上に向けて肘を前へと打ち上げながら一歩進む。

このとき自身の右足を敵……この場合は士郎……の足の間に潜り込ませる。

そのまま体重を乗せた肘打ちを、ぼけっと突っ立っている士郎の腹へと突き刺さる。

 

 

 

八極拳の裡門頂肘(りもんちょうちゅう)という技である。

 

 

 

凜は知り合いに八極拳の使い手がいるのでそいつから幼少時よりならっているので、そんじょそこらの男よりも強く、仮に素手……魔術は当然使用しない……であっても軽くいなす程度の実力は有していた。

といっても、あくまでもかじった程度であるが故に、本当の達人には叶うわけもない。

 

 

 

が、いくら鍛えているとはいえ、格闘術の心得のない士郎に天誅を下すには十分だった。

 

 

 

「!?!?!?!?」

 

 

 

いくら女の子とはいえ、全体重を乗せた衝撃というのは結構な物がある。

しかも士郎は突発的なことと、憧れていた凜の下着姿を見て硬直しており……しばし意識を失うこととなった。

 

 

 

士郎は突然の事で記憶が飛んでいるかもしれないが……セイバーが単身で柳洞寺に向かったのを伝えることも出来ずに倒れ伏したために、大幅なタイムロスを食らうことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

(もっとも来て欲しくない相手に!)

 

キャスターは現れたセイバーを見て心で悪態を吐いた。

何せ魔法使い(キャスター)にとって、聖杯戦争におけるサーヴァントの中で完全な天敵と称してもいいほどの相手が剣使い(セイバー)なのだ。

対魔力スキルを有し、絶対的な身体能力も有したサーヴァント。。

三騎士の筆頭と言える剣使い(セイバー)

今回の聖杯戦争に置いてもそのご多分に漏れず、今回の聖杯戦争のセイバーも相応に強力なサーヴァントである。

絶対的な魔力を有して、最強の聖剣を持つセイバーが弱いはずがなかった。

 

 

 

しかし完全な天敵と言っても、イレギュラーなサーヴァントであるアサシンも普段とは違い普通に強いので、魔力がほとんどないキャスターに取って、他のサーヴァント全てが天敵になりうるのだが……。

 

 

 

どちらにせよ、セイバーと戦うには準備がほとんど終えていないキャスターがまともに戦えるわけはなかった。

そして……そのキャスターにとって最悪な状況は、刃夜にとっては好都合でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

よし、んじゃまいくか

 

都合良くやってきてくれたセイバーに、俺は心から感謝しつつキャスターへと視線を投じる。

キャスターは案の定……宙に浮きながら表情を歪めていた。

わかっていたことではあるが、どうやら本当に魔力がないようだ。

キャスター単体ないし、葛木先生の援護があってもセイバーを倒すのは難しいのだろう。

俺としては好都合だった。

 

セイバーも当然、消す訳にはいかないからな……

 

最優のサーヴァントと言われる『剣使い(セイバー)』の戦闘能力は是非にでも置いておきたい存在だった。

昨夜のあの光の柱……あれの威力は計り知れない。

今後のことを考えて、高火力な存在を消すわけにはいかない。

となると、捕獲ないし撤退させるのが条件となる。

本来であれば、敵を殺すよりも敵を生かす方が遙かに難しいのだが……セイバー自身がそこまで強敵だとは思えなかった。

無論俺単体で挑むのは無理がある。

いくら普通じゃないとはいえ俺は人間だ。

英霊と言われる存在に対して立ち向かうことは可能だろうが、打倒ないし討伐は難しいだろう。

 

斬り合いは出来るがとどめを刺しきれない感じだろうな……

 

必殺技がない。

俺の弱点は主にこれにつきた。

電磁抜刀は必殺技に分類されるが……如何せん範囲が少ない。

戦争に置いて、最終的に行き着くのは数か範囲だ。

数は一人よりも二人、二人よりも三人なのは当然だ。

範囲に関しては単純な話、例え一人であろうとも半径一キロ位を吹き飛ばす力を持っていたら数も必要ない。

あの光の柱は空を舞っていた天馬を吹き飛ばしていた。

範囲に数という意味ではセイバーの宝具もそう大差がなかったが、遠距離攻撃が可能と言うことは大きかった。

おまけに威力もある。

風に乗ってきたあの熱量を考えれば、あれが通った場所は何も残らないだろう。

それに対して……俺は遠距離攻撃はない。

あるにはあるが、少し使用するまでに時間がかかる。

さらに言えば人を殺しきる威力はあるが、人を消し飛ばすないし消滅させるほどの威力はない。

高火力かつ射程の長く、さらには範囲の広い武装がないのがネックな俺である。

 

まぁそれはともかく……

 

この状況は俺が望んでいた状況なので、動くことにする。

勝手に戦闘を開始されても困る。

 

「キャスター。かなり卑怯だが、前払いとしてこいつは俺と小次郎が何とかしよう」

「……何ですって?」

「今のお前ではセイバーには勝てないだろう? だが俺と小次郎ならおそらく勝てる。ここで契約の証として、退ける」

「……それで既成事実にしようというのかしら?」

 

あれまばれてら……

 

まぁ正直直ぐにバレるとは思っていたが。

ここでセイバーを撃退してキャスターを護衛したという事実を作り、半ば強制的に手を組むのを実行させるという……ヤクザのような手法である。

すでに外道な手法だとは思っているが、そうしなければこいつは遠からず死んでしまう可能性がある。

それに、俺のミスで見つかってしまった以上、キャスターを死なせる訳にはいかない。

 

未熟な俺の責任だな……

 

もう少しクラス名から能力を予想して然るべきだったが……時すでに遅し。

ならばサーヴァントが減らないように尽力するのが俺のつとめであろう。

 

「そう取ってくれて構わない。それにどちらにしろ……今の状況で俺たちが出張らないとお前死ぬだろ?」

「……くっ」

 

悔しげに声を漏らすキャスター。

わかっていたことだが、キャスターではセイバーに太刀打ちできないのだろう。

だから俺と小次郎が出る。

卑怯だと思われても構わない。

 

自分の世界に帰るために必要ならば、外道にも鬼にもなろう……

 

「行くぞ小次郎。出番だ」

「うむ」

 

戦意が高揚している小次郎に声を掛け、俺たちはキャスターと葛木先生を庇うように前に出て、セイバーへと立ちふさがった。

俺たちのその行動、そして戦意に当然気づいているのだろう。

セイバーが鋭くこちらを見据えてくる。

 

「ここから先には行かさないぞセイバー」

「……邪魔をすると言うのか?」

 

風を纏わせた剣をこちらへと向けてきながら、鋭く問うてきた。

最優というだけあって、なかなかに鋭い殺気と気迫を向けてくるが……それでも俺は怖いと思わなかった。

前回のモンスターワールドで戦ってきた連中に比べれば、セイバーの殺気など屁のカッパだからだ。

しかしあの光の柱にだけは用心しなければいけないだろう。

 

まぁ打たせなければいい……

 

どんな強大な弾も、撃てなければ意味もない。

それは当然のことである。

故にぴったりと張り付いて戦えば問題はない。

 

「刃夜よ、私に行かせてはくれまいか?」

「……何でだ?」

「何、西洋の騎士とやらと死合いたくなってな。刀との死合いはお主とよくやっているため満足しているが……」

「OK。行ってこい」

 

小次郎の戦意をくみ取り、俺は特に反論はしなかった。

だがしかし……これだけは言っておかなければいけなかった。

 

「生かさず殺さず……そして小次郎、お前が死ぬことは絶対に許さなんだぞ?」

「無論だ」

 

出力というか、身体能力はセイバーの方が上だろうが、技量は間違いなく……ぶっちぎりで小次郎の方が上だ。

 

というか……気と魔力で強化した狩竜だけでなく、雷月の電磁抜刀さえも技量だけで捌いた小次郎が負けるわけがねぇ……

 

今思い出しても震える……。

あの時の電磁抜刀は間違いなく最高の状況で撃ったのだ。

それをまさか野太刀の剣捌きだけで躱されるとは思わなかった。

電磁抜刀は間違いなく最速の剣だ。

アレを躱せた馬鹿だから心配する必要性はない。

 

 

 

だが、もう少し釘を刺しておくべきだったと……後に思うことになる俺だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

(……先に来ていたか)

 

セイバーは、出遅れたことに臍を噛む想いだった。

どういった状況下わかっていないが、この場に自身を含めてサーヴァントが三体、そしてサーヴァントと生身で斬り合うことの出来る出鱈目な存在の人間(マスター)がいる。

他にも人間が一人いるが、セイバーにとっては障害とは認識されなかった。

 

 

 

もっとも、油断して葛木宗一郎と戦った場合、セイバーはボコボコにされるのだが……それをセイバーが知るはずもない……

 

 

 

(……どうする?)

 

相手は二人。

どちらにもそう簡単に負ける事はないと思っているセイバーだが、さすがに二対一で戦って勝てると思うほど馬鹿ではなかった。

何せ二人でとはいえ、あのバーサーカーと互角に戦った二人組だ。

二人でかかられては敗北は必至だ。

傷つくことをおそれはしないが、それでも敗北し、死ぬことは許されなかった。

 

(……これが『暗殺者(アサシン)』だと?)

 

小次郎と再び対峙して、その存在を再認識し、セイバーは思わず内心で愚痴ってしまう。

暗殺者(アサシン)』。

普通であれば『暗殺者(アサシン)』のサーヴァントは闇討ちないしその名の通り暗殺でマスターを殺して聖杯戦争を勝ち上がっていくのが基本だが……その基本が全く当てはまらないのが小次郎だった。

セイバーとしてはそれ以上に、この小次郎と言う存在が全く持って謎だらけだった。

サーヴァントは真名を隠す物。

弱点に繋がる生前の名は、彼らサーヴァントにとっては敵に最も知られたくない情報の一つだ。

であるにも関わらず、小次郎はあっさりと出会い頭の軽い自己紹介で、それを敵であるセイバーに晒した。

それが不思議でならなかった。

後のやりとりで、サーヴァントとしては色々とイレギュラーな存在とわかったが、それでも謎だらけだ。

西洋の英霊しか召喚されないはずの聖杯戦争に参加した侍。

その野太刀の剣撃はバーサーカーですらも防がねばならないほどの剣。

おまけに、その時のやりとりを見ていたセイバーは、はっきりとわかっていた。

 

 

 

この侍……佐々木小次郎というサーヴァントは、間違いなく最強クラスの敵であると……

 

 

 

セイバーの騎士としての勘が、そしてなによりも本能が……それを告げていた。

身体能力も、そして剣の威力も凌駕しているはずの自分が、その存在に警戒せざるを得ない。

セイバーでなくとも、小次郎の存在は極めて異質だった。

そう攻めあぐねているとセイバーに、小次郎が歩み寄った。

ただ歩み寄ってきただけというのは、野太刀を構えていない上に、殺意がないことからセイバーも容易に想像できたが……それでも用心のために、見えない剣先を小次郎へと向ける。

 

「刃夜よ、私に行かせてはくれまいか?」

「……何でだ?」

「何、西洋の侍と死合いたくなってな。刀との死合いはお主とよくやっているため満足しているが……」

「OK。行ってこい」

 

その二人のやりとりを、セイバーは黙って聞いた。

どちらにしろこの二人を打倒せねば自身の標的であるキャスターにはいけないのだ。

二人がかりで襲われてしまっては、負けることは間違いない。

いくらセイバーには切り札である『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』があるとはいえ、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』には力を収束し、放つまでには少々の時間が必要である。

その間……刃夜と小次郎が何もしないわけがない。

正直な話、刃夜と小次郎を前にして『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を放つのは難しい。

 

 

 

だが……次の言葉で、セイバーはそれらが全て無駄な考えであり、しかも侮辱に近い目を向けられていたことを知る。

 

 

 

「生かさず殺さず……そして小次郎、お前が死ぬことは絶対に許さなんぞ?」

「無論だ」

「なっ!?」

 

刃夜から己のサーヴァントに出された指示を聞かされて、セイバーは一瞬驚き、そして直ぐに怒りがこみ上げてきた。

何せ生かさず殺さずという言葉は、相手を……つまりは自身(セイバー)……侮辱している。

そこまでの感情(侮辱)を刃夜自身は抱いていないが……小次郎が負ける訳がないと思っている事は事実なので侮蔑に取られても刃夜としても何ら問題はなかった。

 

「私を愚弄するのか、アサシンのマスター!」

「愚弄したつもりはないが……お前程度では小次郎一人で十分だ。それとも、お前には自殺願望でもあるのか? 二人がかりで襲われたなら直ぐに俺と小次郎はお前を殺せるぞ?」

「くっ!?」

 

実際刃夜の言う通りに小次郎と刃夜二人組に襲われたらそう時間がかからずに殺されるだろう。

最優のサーヴァントである『剣使い(セイバー)』のサーヴァントが、戦闘に置いては最弱レベルの『暗殺者(アサシン)』と、戦いにもならないはずの人間のマスターの二人組に敗れる。

それほどまでに刃夜と小次郎の二人組は異質だった。

 

 

 

実際には、刃夜にセイバーを殺すつもりはなく、もちろん侮辱したのでもないのだが……セイバーが引かない以上戦うしか選択肢がないので、別にその誤解を訂正するつもりはなかった。

 

 

 

「さらに言えば……風で剣を不可視にしているような軟弱物に……小次郎が負けるかよ」

「!?」

 

その言葉はセイバーを驚愕させるには十分な威力を持っていた。

約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を不可視にしている、『風王結界(インビジブル・エア)』。

それが風の物によることは、現段階ではまだセイバーしか知り得ていない事実である。

しかし、たった今……セイバー以外にも『風王結界(インビジブル・エア)』の秘密を知ってしまった。

 

 

 

鉄刃夜という……人間が……

 

 

 

 

「……貴様、どうやって」

「ほぉ? アレが見えるのか刃夜? 私には何もわからんのだが」

「風の影響によるものならば、俺がわからないわけがない。というか見た瞬間にそれが何なのかわかってたしな。……大体刀身三尺余り、厚さ四寸って所か?」

「っ!?」

 

見事ぴしゃりと、エクスカリバーの剣の長さを言い当てられて、セイバーが瞠目した。

高度な魔術である『風王結界(インビジブル・エア)』を一目で見ぬく人間がこの世にいるとは思っていなかったのだ。

実際、一目で見抜くことはほとんど不可能と言ってもいい。

魔術師の中では歴代に置いても最強と謳われても過言でないキャスターも、たった一目で見ぬくことは難しい。

しばしの時間が必要だ。

キャスターですら見ぬけないはずの物を刃夜が一目で見ぬいたことに、セイバーとキャスターは驚愕している。

 

 

 

しかしそれも当然だ。

 

「風」による魔術ならば、刃夜の言うとおり、刃夜がわからないわけがなかった。

 

 

 

風翔龍

 

 

 

天候すらも操り、大砲すらも凌駕する威力を秘めた風の弾を放てる風翔の力。

 

それを手にした刃夜が……その程度のものを見抜けないわけがなかった。

 

 

 

「ほぉ、どうやら当たりらしいぞ刃夜? 全く……お主は本当に飽きさせぬ男だな」

「お褒めにあずかり光栄だ。では、よろしく頼む。くれぐれも負けるなよ?」

「了解した」

「……まだ愚弄するか?」

「そう憤るなセイバー。二人がかりだろうとなかろうと、我らサーヴァントは戦う宿命……。言の葉よりも剣で語ろうぞ……」

 

その言葉を放つと供に、鋭い殺気が小次郎よりあふれ出す。

それを感じ……未だ刃夜に対する怒りは収まっていなかったが、小次郎を無視できるわけもない。

セイバーも剣を構えた。

 

「……それでいい。では果たし合おうぞセイバー。サーヴァント随一と言われるその剣技……我が身を持って体験させてもらおう!」

「……アサシン。良かろう……望むところだ!」

 

 

 

風の吹く夜。

 

月光が照るその月夜の山頂の寺にて……。

 

 

 

死闘が……始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「全く……緊急事態なら緊急事態だって先に言いなさいよ」

 

(言える状況じゃなかったぞ……遠坂)

 

アーチャーが先行し、その後ろを士郎と凜がついて行きながら、三人は柳洞寺へと向かっていた。

先ほど凜の八極拳で吹き飛ばされた士郎は、再び普段着に着替えて、ある程度怒りの吸引をした凜のに叩き起こされた(文字通り凜が叩き起こした)。

二重の攻撃で未だ身体の一部が痛んでいる士郎だったが……それでも自体は急を要することを思い出して、凜に伝えて今現在こうして深夜の深山町を走っていた。

 

「というかなんで知らせなかったのアーチャー?」

「先ほど知らせようとしたら、魔力の移動中だから話しかけるなと言ったのは君だろう?」

 

先行する自分のサーヴァントであるアーチャーに文句を言うが、アーチャーはそれに対して悪びれもせず、しれっと返答をする。

余りにも不遜というか、とりつく島もない自分のサーヴァントにさらに言葉を投げかけようとするが……そんな場合ではないことを思い出して、凜は自重する。

 

 

 

魔力の移動。

遠坂家の家系は魔力の移動に特化した家系であり、凜の魔力移動の方法は、自身の魔力が多分にとけ込んだ血を抜き取り、それを魔術の術式を施した宝石に垂らし、魔力を移動させるという物だ。

ちょうどセイバーが移動していたその時間に、凜は士郎の客間の中で、注射器で自分の腕から血液を抜いている最中だったのだ。

 

 

 

故に報告が後れたと弁明するのだが……正直どうでもいい事ではあった。

 

(何やってるんだあいつは!!!)

 

自分の命令を背いてまで単身で柳洞寺に向かったと思われるセイバーに、士郎は内心で怒っていた。

別に、命令を背いたことを怒っているわけではないのだ。

ただ、怪我をして傷つくかもしれない事を危惧している。

ことここに至っても……彼はまだセイバーを少女としてみていた。

それに罪があるわけではない。

セイバーが少女なのは事実だから。

 

 

 

 

 

 

彼女は、とある剣を抜いたときに、身体の成長が停止したのだ。

故に精神年齢は生きてきた年月と同じだが、身体は僅か14歳の時から止まったままだった。

それでも生まれ持った力を用いて、彼女は最強の騎士たり得た。

 

 

 

 

 

 

自分よりも遙かに強い存在であるセイバーを、過剰なまでに心配する士郎の根底はここにあった。

無論、未だそこまで語っていないセイバーの事情を、士郎が知りうるはずもないが。

サーヴァントは戦うための武器であり、ひどいことを言ってしまえば道具である。

それは士郎も理解はしていた。

だがそれでも士郎は、セイバーに傷ついて欲しくなかったのだ。

それ故に士郎は焦る。

令呪の痛みが、その士郎の不安をさらに加速させる。

自分の足がもっと速く走れないことをこれほど呪ったことは、彼の人生において初めてだった。

そしてたどり着いた柳洞寺へと続く参道。

そこに付いて、凜とアーチャーは直ぐに気がついた。

 

「……罠が破壊されているわ」

「罠が?」

「えぇ。どっちが壊したのかわからないけど……柳洞寺で何かが起こっているのは間違いなさそうね」

 

その凜の言葉を聞いて、ようやく士郎も気がついた。

参道の所々があれていることに。

それだけではなく、何か骨のような物がいくつか散乱しているのが月に照らされて辛うじて見えた。

そして、凜の言葉……どっちがという言葉に、士郎は刃夜を思い出した。

 

(……いるのか刃夜!?)

 

昨夜偵察に来ていたというアーチャーの言葉。

それを信じたくない気持ちは当然のようにあった。

だがそれでも……行かなければいけない。

例え刃夜がいたとしても、戦うことを決意して、士郎は凜へと視線を投じる。

それを感じ取り、凜はアーチャーに先へと行くように促した。

罠が破壊されているとわかりながらも、それで用心を怠るわけにはいかないので、三人は注意しながら石段を登る。

そして登り切ったその先で……

 

 

 

すでに戦端は開かれていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「だぁぁぁぁ!!」

 

唸りを上げて、セイバーの剣が小次郎へと迫る。

不可視の剣。

それは近接戦闘に置いて、間合いを計らせないという、圧倒的なアドバンテージを有している。

しかしそれを……

 

「ふむ……」

 

するりと……まるで風に揺れる柳のように、小次郎は力まず、緊張すらもせずに、軽々と身のこなしだけで回避していた。

そして振り終えたセイバーに、小次郎の野太刀「物干し竿」が襲いかかる。

 

「くっ!?」

 

それを振り終えた体勢から無理矢理に、その魔力のブーストによる力業で、セイバーは恐ろしいほどに冷ややかな殺気の塊である野太刀を回避する。

セイバーがつっこんで斬りかかり、小次郎がそれをいなす。

もしくはその野太刀でセイバーの剣を受けて流す……。

戦闘が始まってから、そのやりとりがすでに何回と行われていた。

セイバーの剣が稲妻のならば、小次郎の野太刀はまさに疾風だった。

魔力のブーストによる膂力と速度上昇で、セイバーの剣よりも速さと重さに劣りながらも、しなやかといえた剣の閃きは、セイバーの一撃を悉く防ぎ反撃をしていた。

そして反撃の時……小次郎の剣は疾風から突風へと姿を変えて、セイバーの首に襲いかかっていた。

野太刀というのは長くしたために重さと攻撃範囲が増える代償に、小回りがきかないその剣は、懐に入り込まれてしまっては致命的だ。

長物相手のセオリーとして当然のように、セイバーは懐に入り込もうと必至になっているのだが……最後の一歩を踏み込むことが出来ずにいた。

 

(……出来る)

 

改めて小次郎と対決し、セイバーは冷や汗をかいた。

強いとは思っていたが、改めて対峙し直に剣を交えて理解した。

 

 

 

バーサーカーとは違った意味で……最強の敵であると……。

 

 

 

だが……。

 

「……何故攻めてこないアサシン」

 

攻めてこずに、ほとんど受けに回っている小次郎に、セイバーは怒りに染まった目を向ける。

セイバーの持つ剣と、小次郎がもつ野太刀は、間合いに置いて圧倒的に小次郎の野太刀の方が上だった。

何せ刃渡り五尺だ。

刀身……つまりは刃渡り三尺余りのセイバーの剣よりも、遙かに広範囲に剣を閃かせることが出来る。

故に、セイバーは疑問を感じていた。

何せ敵である小次郎は自分の攻撃範囲よりも広いために、先に攻撃を届かせることの出来る得物を持っている。

つまり、一方的な戦闘に持ち込むことも不可能ではないのだ。

 

長さに物を言わせて、セイバーの剣を届かせないままに、縦横無尽に野太刀を振るわれては、さすがのセイバーも防ぐ以外にほかなかった。

 

無論、やられっぱなしのセイバーでないことは間違いないが……それでも間合いの広さに置いては小次郎が勝っている。

 

 

 

であるにもかかわらず、何故小次郎はその攻撃を行おうとしないのか……?

 

 

 

「何……貴様の剣を見切っているまでだ。全容は刃夜より聞いたが……知識と経験は違う物だ。それを終えるまでは過信せぬ事よ……だが、嬉しいぞセイバー。我が邪剣をここまで受けて立っているとは。さらに言えば打ち込みもすばらしい。その小躯でこれほどの剣を振るうとは……さぞ、鍛え抜いた剣であろう」

 

そう、小次郎は刃夜の言葉に頼り切らずに、ひたすらにセイバーの剣の間合いを計っていた。

だが小次郎の言うとおり、間合いを計るだけと言いながら、並の物であればすでに十数回は死んでいるほど鋭い剣閃をセイバーに見舞っていた。

その慎重な態度と確かな技量が、セイバーの警戒心を最大レベルにまで上昇させるのだが……。

次の小次郎の動作で度肝を抜かれることになる。

 

「なっ!?」

 

セイバーの眼前……小次郎が取った行動は、構えだけでなく、その殺意すらも解いてしまった。

これでは降参と取られても不思議ではない。

だがその小次郎の表情を見る限り……そんな気が微塵もないことを、セイバーは感じ取った。

それ故に、侮られたのかと思い斬りかかるが……その寸前に小次郎が目を瞑った。

 

(!?)

 

さらなる衝撃がセイバーを襲ったが……そんなことは瑣末だった。

何せ次の瞬間……。

 

フワッ

 

まるで風に吹かれて軽く飛んだ一枚の木の葉のように……見ないでセイバーの剣を回避したのだ。

 

「ふむ……。これで完全にお主の剣は見切ったな」

「ぐ……」

 

確かにその通りだった。

刃夜の助言があったとはいえ、よもやこれほどの短時間で見ぬかれるとはセイバーも思っていなかったのか、その口から漏れる言葉には重い響きがあった。

見えない剣を前に果敢に攻めることなど出来るはずもない小次郎は、ひたすらに受けに回った。

無論反撃だけでなく自分から仕掛けもしたが、それはごく少ない。

逆に言えばそのためにセイバーは追い込まれていないとも言えた。

剣の間合いを計り切れていないがために攻勢に出れなかった小次郎。

しかし今は間合いを測りきった。

故に小次郎はもう攻勢に転じることが出来る。

おまけに避けたときに目を瞑って避けたということは……

 

 

 

間合いだけではなく、その所作や、体運びまでも見ぬかれていることに他ならなかった……

 

 

 

加えて言うのならば小次郎の得物は野太刀……つまりは日本刀だ。

セイバーの生前の戦闘は主に剣の戦いが主だった。

当然のように刀との戦いなど、経験があるわけがない。

 

「……信じられない。いくらマスターの助言があったとはいえ、この短時間で魔術も使わずに、私の剣を見ぬくなど」

「何、私が使うのは邪剣故にな。こういった大道芸のような物ばかりうまくなる」

 

その表情には涼しげな微笑が浮かんでいるだけだ。

だがその表情の下に、恐ろしいまでの凄烈な気迫があることは、セイバーにははっきりと感じ取ることが出来ていた。

 

「大道芸。なるほど。私の一撃をまともに受けずただ流すだけが貴方の戦いだった。邪剣扱いとは、その逃げ腰から来た呼び名ですか?」

「ははっ、そう憤るな。まともに打ち合えるわけもない。この長刀故に打ち合えば折れるのは必至。お主としては撃ち合いの力勝負が本領なのだろうが、こちらはそうはいかん」

 

基本、刀というのは受けて流すことを前提に作られている。

さらに言えば、真剣勝負というのは元来一瞬のうちに決まる物だ。

日本刀というものはそう言う物だ。

重さと力で叩ききる西洋の剣と違い、速さと技で断ち切るのが刀。

その刃は触れるだけで肉を斬り、骨を断つ。

故に一撃で勝負が決まる。

セイバーと小次郎の勝負は、正反対の刃物の頂上決戦と言えなくもなかった。

 

「剣と刀は生まれた場所も時代も違う。戦いがかみ合わぬのも道理であろう?」

「……」

「さて語り合いはここまでだ……。そちらの剣の間合いは把握した。ここからは……攻勢に転じさせてもらう!」

 

涼しげな微笑を浮かべたまま、小次郎が一足でセイバーへと近寄り襲いかかる。

今までただ受けて払うだけだった剣が疾風となって、セイバーの首を切らんと襲いかかる。

それをセイバーは受けるが……自分の剣が敵へと襲いかかる前に、小次郎の野太刀がセイバーを襲った。

 

(くっ!? (はや)い!)

 

野太刀の圧倒的なリーチだけではセイバーは圧されない。

その程度で負けるようでは、槍を相手にまともに戦えるわけがない。

だが……槍よりも御しやすいはずの小次郎の野太刀は、セイバーの予想の遙か上をいっていた。

間合いの長さだけではない、その技量から繰り出される一撃は、防がねば間違いなく命を絶つほどの剣。

ただの線ではなく、奇怪とも言える曲線を描くそれを、セイバーは躱すことが出来なかった。

紙一重で躱すことは難しいために、受けるしかない。

だがその後に攻撃に転じようとしても、自分の得物が届く前にさらに敵の野太刀がセイバーを襲う。

長さ故に小次郎の野太刀の方が、セイバーよりも打ち込みの数が少なくなるはずだというのに、その疾風のような剣閃はセイバーの接近を許さなかった。

セイバーの剣と違い、その疾風のような閃きは優雅ではあるが、セイバーの一撃よりも遅い。

であるにもかかわらず、何故か小次郎の剣撃は、セイバーの返す剣よりも速くセイバーの首へと迫る。

そのために懐に潜る込むどころか、剣が間に合わないので引くことでしか、野太刀を避ける術がセイバーには残されていなかった。

故に下がるしかないセイバーは、徐々に徐々に下がっていくしかない。

 

 

 

長さと技量……たった二つのこの要因で、最優のはずのセイバーは一方的に攻められている。

 

 

 

しかも洋の東西の違いはあれど同じ剣での勝負でだ……

 

竜の因子を有し、莫大な魔力を用いての最強クラスの身体能力で数多の敵を圧倒してきたセイバーが……

 

気も魔力もない……

 

それどころか技しかないと言ってもいい一人の男に、防戦一方の状態にされてしまっていた……

 

 

 

それを見れば考えるまでもない……

 

 

 

 

 

 

剣技に置いて、小次郎は間違いなく「最強」の人間だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

相も変わらず化け物だ……

 

小次郎とセイバーの斬り合いを見た感想がそれだった。

あれほどの魔力を有し、それを用いたブーストで戦うセイバーを、こうもあっさりと封じ込めることの出来る力量……というよりも技量だな……には、「天晴れ」というしかなかった。

 

手を抜いていた訳じゃないのだろうが……俺とやるときとはまた違った立ち会いだな……

 

身体能力はあれど、魔力ブーストで俺よりも少し上のセイバーが、ああもあっさりと封じ込められていては……俺との朝の訓練の時に手を抜いていると思わなくもなかったが、狩竜という存在がやはりネックなのかもしれない。

 

もしくは……令呪か……

 

右手に刻まれた、赤い血のような紋様を見つめる。

これがあるために、小次郎は俺との全力の勝負が出来ないのかもしれない。

無論本人も手を抜いているわけではないはずだ。

だが……令呪という存在がある以上、気づかないところで剣を引いてしまっているのかもしれない。

 

……口惜しいな

 

聖杯戦争のおかげで小次郎と知り合えたのは事実だが……それでもこれほどの達人と、心からの斬り合いが出来ないというのは、口惜しかった。

 

「……末恐ろしいわね。あなたのサーヴァント」

 

俺が自問していると、宙を飛ぶのをやめたキャスターが俺の近くへと着陸した。

警戒しているのか、おそよ一間(約1.8m)ほどの距離を離しているが……俺にとってはあってないような距離だが、警戒させるだけなので、あえて触れないことにした。

 

「あぁ、俺もびっくりしてる」

「その程度で済む話じゃないわよ? セイバーは間違いなく最優であり、最強のサーヴァントであるはずなのに、あのセイバーを魔術もなしにあっさりと封じ込めるなんて」

 

同じサーヴァントであり、さらに言えば天敵であるセイバーをこうもあっさりと封じ込める人間がいるのが驚きなのだろう。

小次郎もサーヴァントであるが、特殊な能力は何一つとして持っていないのだから、それが最強性能のセイバーを封じ込めれば、だれもが驚くところだろう。

 

ま、俺はそこまで驚かないが……

 

毎日の訓練で、小次郎がどれだけ化け物かわかっている俺としては、これは当然の結果だったので感心こそすれ、感嘆はしなかった。

そうして俺とキャスター、さらにはキャスターに寄り添うように葛木先生が二人の決闘を見守っていると……後方から複数の気配がやってきた。

 

数は三……ということは……

 

気配の種類が二つ、そして人数が三人。

その時点で、相手が誰かなど考えるまでもなかった。

 

「セイバー!!!!」

 

罠があるかもしれない……といってもアーチャーと遠坂凜が見ぬいただろうが……というのに、無防備にも士郎が山門よりなだれ込んできた。

少し警戒心を持たせるためにナイフでも投げてやろうかと、一瞬考えたが……アーチャーがいるので弾かれて終わる。

ので、ナイフの無駄なので俺は中止した。

 

ただじゃね~からな……

 

無論回収できる物は回収しているが……それでも大体がスローイングナイフは使い捨てだ。

故に、結構なお金がかかってしまう。

 

節約節約……

 

妙にけちくさいが……雷画さんに恩を返すために無駄金は使うわけにはいかない。

俺はそんな馬鹿なことを考える自分に苦笑しつつ……三人へと向き直った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「セイバー!」

 

山門より、柳洞寺へと入り当たりを見渡し、自分の相方であるセイバーの姿を探す。

しかし探すまでもなく、直ぐに見つける。

金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響き、それが遠く離れた山門へと届いてくる。

そちらへと目を向けると……そこには青紫の袴を羽織った小次郎に、セイバーが一方的に追い込まれている光景だった。

 

(!? 無事か!?)

 

暗がりではあるが、月光がある以上真っ暗闇ではない。

何とか目をこらせば、怪我をしているようには見えなかった。

当然それは士郎だけではなく、凜にも見えている訳であり……士郎とは違った意味で、凜は驚愕していた。

 

(セイバーが押されてる!?)

 

なまじ、まともな聖杯戦争の知識があるだけに、凜の内心は驚愕なんて言葉では片付けられないほどに渦巻き、もはや混沌の様相を呈していた。

 

(さ、最優のサーヴァントで、しかもその名に恥じぬ力を持っているセイバーが……白兵戦最弱のアサシンに……)

 

先にも説明したが、白兵戦に置いて『暗殺者(アサシン)』は最弱である。

それがまさか白兵戦最強クラスの『剣使い(セイバー)』が、最弱の小次郎(アサシン)に追い込まれるなど、普通ならばあり得ることではなかった。

その思いはアーチャーも同じなのか、凜と同じように信じられないような物を見る目を、小次郎へと向けていた。

しかしそんな知識がない故か、はたまた別の要因か……セイバーが追い込まれているのを見た士郎が何の策もなく、また何の意味もなく駆け寄ろうとするが……。

 

 

 

「どこへ行こうというのかね?」

 

 

 

どこか巫山戯た響きで声を上げながら……刃夜が士郎の前へと立ちふさがった。

道をふさがれ……何より、刃夜の身体からあふれ出す殺気を士郎も感じ取り、足を止める。

軽く身構えながら、士郎は刃夜へと話しかける。

 

「……そこをどいてくれ、刃夜」

「それは出来ない相談だ。俺はキャスターと手を組むからな。お前を先に行かせてしまってはそれを破棄するというような物。故に無理だな」

「「「!?」」」

 

その刃夜の言葉に、士郎だけでなく凜もアーチャーも驚きの表情を浮かべた。

昨夜、アーチャーが柳洞寺を偵察していたという情報で、刃夜がここにいること自体はわかっていたことだが、その目的までもわかっていたわけではない。

だが、今その目的が明らかとなって、三人は……特に士郎が驚愕した。

 

「本当なのか!? キャスターと手を組むっているのは?」

「あぁ。何かとキャスターの能力は使えそうだからな。俺が聖杯戦争を勝ち上がるために、手を組んだ。それだけの話だ」

「キャスターは魂食いを行っていると知った上で言っているのか!?」

 

キャスターが柳洞寺の地形を利用して魂食いを行っている。

未だ推論の域を出ていなかったが、それでも僅かでも可能性があるのならば疑ってかかるべきだと、士郎もそう思っていた。

そしてその事を、刃夜が知らないが故にキャスターと手を組むのだと思い、そう言葉を投げかけたのだが……。

 

「知ってるぞ?」

 

それは脆くも崩れてしまった。

 

「……知ってて手を組むって言うのか!?」

「何か問題でもあるのか? 戦争に勝つために民から力を得るというのは常套手段だぞ? 己の願いのために他者を退けるのは至極当然のこと。まぁやりすぎたらあれだが、それでもやりすぎなければいいと俺は思っている」

「――っ!?」

 

刃夜の言葉を聞いて、士郎は驚きの余りに声を上げることすらも出来なかった。

何の関係もない人々から魂食いを行うことは当然のように士郎に取っては許せないことだった。

だがそれをいってもなお、刃夜はキャスターと手を組むと言い、あまつさえ己の願いのために他者を退ける……つまりは利用し、捨てるということを言ったのだ。

まだ一年に満たない時間の付き合いではあったが、まさか刃夜がそんなことをいうと思っていなかったのか、士郎はショックで言葉もなかった。

無論刃夜も全ての手段を肯定しているわけではない。

キャスターが無関係な人間の命を根こそぎ奪い、大量の人間を死に至らしめようとするのならば止めに入る。

だがそれでも、今のキャスターの方針ならばまだ許せたのだ。

キャスターの現世での目的が何となくわかり、それを応援したい気持ちにもなったのだ。

そのため、士郎や凜の標的が自分へと向かうように突き放すような言葉を投げかけていた。

そしてそれは狙い通りとなり……。

 

「……キャスターに操られているわけではないのね?」

「無論だ。俺は俺の意志でここにいて、キャスターと手を組むことを持ちかけた」

「……そう」

 

低く紡がれたその言葉と供に、アーチャーが両手に一対の剣を顕現しながら、前へと……刃夜へと躍り出る。

月光に照らされて鋭く光るその刃と同じように、鋭い目を刃夜へと向けながら。

冬木の監督者でもある凜は当然として、アーチャーも士郎ほどではないにしろ、キャスターの行いを由とはしていなかった。

サーヴァントとしてマスターである凜を勝たせたいと思う気持ちもあったが、それとは別にキャスターの行いを止めようとしているのもまた事実だった。

 

「……どけ」

「先にも言ったはずだ。行かさぬと……」

 

言葉を返しつつ、刃夜は狩竜を遙か上空へと打ち上げる。

そして自由になった両手が、背中のシースの取っ手へと伸びて……封絶を抜剣した。

その行動を見て、士郎と凜が再び驚愕した。

いくら強いとはいえ、サーヴァントと一対一での勝負を行うとは思わなかったからだ。

だがその行動にアーチャーは動揺せず、逆に目をさらに鋭くした。

サーヴァントとしての直感が気づき、なによりも彼の歴戦の戦での経験でわかっているのだ……。

 

相手が生半可では勝てる相手ではないということに……

 

「では……お相手願おうか!」

 

そう叫ぶと同時に、刃夜が両手に持つ封龍剣【超絶一門】を振るいながら、アーチャーへと襲いかかる。

気と魔力で強化された身体能力は常人のそれを遙かに超越した速度を有しており、アーチャーも一瞬その速度に驚いたが……それで倒されるほど弱い相手ではなかった。

 

 

 

!!!!

 

 

 

封龍剣【超絶一門】と、アーチャーの双剣、干将莫耶が交差し火花を散らす。

その交差した剣同士が反発しあい……アーチャーの干将莫耶を、振るった腕事吹き飛ばした。

 

 

 

干将莫耶。

白と黒の対の夫婦剣であり、アーチャーを象徴する宝具とも言えた。

アーチャーは、『弓使い(アーチャー)』でありながら、弓での遠距離線よりも、この一対の剣による白兵戦が主な戦闘方法だった。

干将莫邪は古代中国の呉の刀匠、干将と妻の莫耶二人で制作された短剣である。

黒い刀身の陽剣・干将、白い刀身の陰剣・莫耶となっており、互いに引き合う性質を持つ。

その剣を持つということで、本来であればアーチャーは中国に由来する英霊と考えるのが本来であれば打倒だった。

だが、アーチャーに普通の考えは当てはまらなかった。

 

 

 

それが刃夜との剣撃での撃ち合いで負けたのだ。

確かに刃夜の封龍剣【超絶一門】は長く身幅もあるために重い。

打刀と同じくらいの長さのある封龍剣【超絶一門】と短剣サイズの干将莫耶とでは、ある意味で当然といえるかもしれない。

だが振るっている存在が、その結果をあり得ない物にしていた。

何せ刃夜は人間であり、相手はサーヴァントなのだ。

いくら力比べが得意ではないアーチャーとはいえ、サーヴァントが人間に負けるなど……本来であればあり得ないことだった。

そもそもにしていくら先に振るったとはいえ、剣速に置いてサーヴァントが負けるなど、普通ではない。

 

(……馬鹿力め)

 

予想はしていたが、それでもその力が余りにも人間離れしていて、アーチャーは内心で呪詛を吐いた。

少し距離がありはしたが、それでもその能力で刃夜が生身でバーサーカーへと斬りかかった時点である程度の力はわかっていたが、実際に体験してみるのと想像では天と地ほども差があった。

 

「ずぁっ!」

 

そのアーチャーの驚きをよそに、刃夜がさらに封絶を振るう。

身体能力で負けていることを直ぐに見ぬき、アーチャーは封龍剣【超絶一門】による攻撃を流すように干将莫耶を振るうのだが……それに合わせて刃夜もその干将莫耶をおうようにして攻撃を行っていた。

さらに言えば衝突の瞬間に力を抜くことである程度衝撃を緩和して、武器破壊を防ぐように奮闘するアーチャーだったが、それすらも刃夜は力を抜く瞬間にさらに力を込める事でそれを防いでいた。

 

その技量が……どれほど馬鹿げた物であるかなど、考えるまでもない。

 

 

 

(こいつ!)

 

 

 

あまりに巫山戯た人間といえる刃夜に内心で悪態を吐くが、当然効果があるわけがなかった。

アーチャーが持つ干将莫耶よりも大型の封龍剣【超絶一門】を、アーチャーよりも重さと速度を兼ね備えて振るう。

そのために、アーチャーはセイバーと同じように後退を余儀なくされた。

小次郎の時とは違い、相手の武器を破壊するために斬り合い振るう、あまりにも無骨な金属音が当たりの空気を震わせる。

 

 

 

!!!!

 

 

 

凄まじいまでの金属音。

交差させた干将莫耶を砕かんばかりに振るわれぶつかり合った音に、アーチャーは顔をしかめた。

 

「本当に人間とは思えない力だな」

「全てのサーヴァントとかいう存在から聞かれるな……。だが俺は歴とした人間だが? と、いうかだな……」

「この問答も……聞き飽きたというのか?」

「あぁ……その通りだよ!」

 

刃夜が再び吼え、交差し受け止めている干将莫耶に重圧がのしかかる。

刃夜が力を加えたのだ。

アーチャーはなんとかそれを流して、敵との距離をとる。

それをどう見たのかは謎だが、刃夜が吼える。

 

「逃がすか!」

 

弾き出されるように動き、瞬く間に間合いを詰められる。

あまりの身体能力の高さに、さらに度肝を抜かれる。

しかしそれを態度に出さずに、アーチャーはその剣を受け止めた。

否、受け止めようとしたのだが……

 

ゴッ!

 

唸りを上げて迫る、敵の双剣……。

それを受け止めた干将莫耶が……

 

 

 

粉々に砕け散った……

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

その結果……剣が粉々に砕け散るのを目の当たりにして……アーチャーは普段は上げないような驚愕の言葉を、無自覚のうちに漏らしていた。

 

 

 

己が投影した得物……干将莫耶。

 

 

 

投影とは、自己のイメージからそれに沿ったオリジナルの鏡像を魔力によって生成する魔術。

イメージが完璧でなければ投影できず、術者の知識が本物に近いほどに完璧な物になるが……少しでもほころびが生じれば存在することが出来ず霧散する。

はっきり言ってしまえば……これほど効率の悪い魔術もない。

無駄に複雑な工程を要するくせに、効果は一瞬であり、また完璧に投影しても本物には遠く及ばない。

投影を行うならば、物質などの既存の物体に魔力を通して使用する「強化」の方が効率がいい。

「投影」はどんなに完璧でも10の魔力で3、4程度の力の物しか作れないが、「強化」ならば元々存在している物を強化するので、10の魔力+元々の物体の力、となるのだ。

故に、普通の人間は投影を使用するという選択肢を選ぶどころか選択肢にすることすらしない。

 

 

 

あくまでも普通の投影ならば……であるが……。

 

 

 

アーチャーの投影は特別な技法であり……厳密に言えば投影ではない。

そして普通とは違う投影とはいえ、投影によって作られた彼の干将莫耶も当然本物ではない。

贋作だ。

しかし彼の特性上、剣に限れば、それは限りなく本物に迫り……もしくは本物すらも越える偽物を作り出すことが出来る。

言うなれば真に迫る贋作なのだ。

 

 

 

その真に迫る偽物を……数々の戦場をくぐり抜けた自分のもっとも手になじんだ武器を、よもやただの人間に破壊されるとは、アーチャーも予想外だった。

 

「くっ!」

 

アーチャーは、己の失策に歯がみしつつ、さらに干将莫耶を投影した。

だが正攻法では叶わないと判断し、先ほどとは戦法を変える。

投影したのは確かに干将莫耶だったが……用途が違った。

 

 

 

一組の干将莫耶を、投影し……それを敵に向かって投げ放つ。

 

 

 

『留意せよ仕手よ。この短剣から、ただならぬ魔力を感じる』

「了解した! その前に叩き斬る!」

 

封龍剣【超絶一門】の言葉に頷き、刃夜はその言葉通りに干将莫耶を、その剣に宿る魔力ごと叩き斬った。

 

 

 

ギィン!

 

 

 

甲高い音を立てて、干将莫耶が宙で飛散した。

そしてそれと同時に、剣に宿っていた魔力すらも吸収し、文字通り鉄くずとなってしまった。

だがそれはアーチャーには予想していたことだった。

それは囮。

封龍剣【超絶一門】が普通の剣ではないことを一目で見ぬいたアーチャーは、時間稼ぎのためにそれを行ったのだ。

時間稼ぎと言っても僅か一瞬の時間でしかない。

だがその時間さえあれば、アーチャーには十分だった。

その一瞬で投影したそれを……

 

 

 

三組の干将莫耶を……刃夜へ向けて投擲したのだ……。

 

 

 

「むっ!?」

 

先ほどと同じ攻撃ではあるが、数が違い、さらには込められた魔力の質と量が違うことを一目で見ぬき、刃夜が唸り声を上げた。

 

『仕手よ、先ほどよりも魔力を感じる。おそらくこれは……』

『言われなくてもわかっている!』

 

封絶と心でそんなやりとりをしつつ、刃夜は向かってくる剣を迎撃すらもせずに、ひたすら後退する。

そして手にしている双剣を地面へと突き刺して、腰の夜月を抜刀。

さらに宙から落ちてきた、超野太刀狩竜を手に取る。

そのまま二振りの刀で身構える仕草を取った瞬間。

 

「おそい!!!!」

 

アーチャーの声が響き渡り……

 

 

 

 

 

 

爆音が辺りを揺らした……

 

 

 

 

 

 

(……やったか?)

 

爆風が自分の衣服を、髪を揺らし、目を見開くのも困難な風を生じさせていたが、アーチャーはその両の眼をしっかりと、相手のいるであろう場所へと向けたままだった。

爆発はアーチャーが投擲した三組の干将莫耶が魔力を暴走させて四散して生じた物だった。

 

 

 

己の宝具に眠る魔力を暴走させて爆発させる技法……『壊れた(ブロークン)幻想(ファンタズム)』。

壊れた(ブロークン)幻想(ファンタズム)』はその宝具に宿った魔力を暴走させて爆発させる……つまりは爆弾……技法だ。

唯一無二ないし、僅かしか持たない切り札の破壊ということで、普通は使用されないし、仮に使用したとしても己の半身をなくすに等しいので、その身を引き裂くほどの精神的苦痛を味わう……。

また当然壊してしまえば修復は困難であり、しかも切り札ないし武器を失うのでその後の戦闘を考えると得策ではないどころか悪手にも等しい。

だがアーチャーは、彼自身の特殊能力ともいえる投影があるために剣の宝具は無限にあり、そして……英雄そのものに絶望している彼には、そんな躊躇いは存在していない。

壊れた(ブロークン)幻想(ファンタズム)』は彼の得意技の一つだった。

 

 

 

 

この攻撃は魔力爆発の広範囲による攻撃だ。

避けるのは至難の業である。

戦争とは最終的には数と範囲だ。

士郎と凜に、そしてキャスターの魔術で眠らされている寺の住人達の事を考慮し、範囲こそそこまで広くはないが……一足で逃げることの出来るほど狭い範囲ではない。

しかもこれは相当強い部類に入る攻撃である。

威力について具体的に言おう。

 

 

 

 

 

 

仮に今のを……アーチャーが行った三組の干将莫耶の『壊れた(ブロークン)幻想(ファンタズム)』が、無防備に直撃した場合……バーサーカーですら殺すことが出来る。

 

 

 

 

 

 

セイバーに、刃夜、そして小次郎。

その三人の剣を受けてもびくともしなかったバーサーカーを殺すことが出来るのを鑑みれば破格の威力である。

しかしそこで注意すべきなのは、バーサーカーを殺すことは出来るが、殺しきれない(・・・・・・)ことである。

それはバーサーカーの宝具による恩恵だが……この場にいる彼らが、その事実を知るわけもない。

 

「刃夜!?」

 

その爆発を見て、士郎が悲鳴を上げる。

いくら敵になったとはいえ、さらにいえば自分とは相容れなかった思考を持っていたとしても、士郎にとって知り合いが死んだことに代わりはない。

故に、士郎は悲鳴を上げる。

凜の表情も、苦痛に似た表情が刻まれていた。

いくら自分を負かし、敵であるとはいえ人間を殺すことになるとを、彼女もいいとは思っていなかったのだ。

 

 

 

しかしその二人の悲痛を……真っ向から否定する者がいた。

 

 

 

 

 

 

「出てこい、アサシンのマスター。……私の目をごまかせると思っているのか?」

 

 

 

 

 

 

そう言葉を放ったのは、攻撃を行ったアーチャー本人だった。

彼としても文字通り必殺の攻撃だった。

アーチャーの投影は確かに普通ではない。

普通の投影よりも遙かに高度であり、効率もいい。

さらに言えば干将莫耶の投影も、彼自身にとっては投影するのに効率のいい媒体ではある。

 

 

 

だが……それでも全く持って疲弊しないと言うことはあり得ない。

 

 

 

アーチャーの戦闘の技術は、才能で裏付けされた物ではない。

彼の弛まぬ努力で磨き上げられてきた、これ以上ないほどの努力の結晶。

故に彼は無駄な事はしない。

彼は……アーチャーは間違いなく必殺の一撃を、刃夜へと放ったのだ。

しかしその自らの行為を、彼は否定する。

 

 

 

それが不思議でならない士郎と凜だったが、直ぐに回答を……爆風の中から鋭い突風が生じたことで、それを知ることになる。

 

 

 

「……な」

「――嘘……でしょ?」

 

揃って士郎と凜が絶句する。

 

その視線の先……そこは干将莫耶の爆発の中心地。

 

バーサーカーすらも殺すことの出来る、人間よりも上位存在であるはずのサーヴァントの一撃。

 

それを受けてなお立ち上がるとするのならば……本来であればそれと同じ存在か、さらなる上の存在であることが普通である。

 

 

 

 

 

 

であるにも関わらず、サーヴァントよりも下位の存在の人間が受けて無事な場合……それは果たして、本当に人間なのか?

 

 

 

 

 

 

爆風の中心地より鋭く吹き荒れたその突風は、刃渡り七尺四寸の()尺の刀が振るわれて生じた人為的な風。

 

 

 

狩猟の世界に置いて、数々の怪物(モンスター)達の血で染まる、呪われた血のような色の刀身と刃。

 

 

 

銘を……狩竜。

 

 

 

それを振るうのは当然のごとく……その狩竜を鍛造し、錬鉄し、刃を造り、刃を為す者。

 

 

 

己が刀に命を込め、眼前の敵を斬り捨てる。

 

 

 

 

 

 

鉄刃夜だった。

 

 

 

 

 

 

「ふむ……どうやらお前から距離を離すのは、得策ではないな。名は体を表すと言うが……まさにその通りのようだ」

 

 

 

 

 

 

「……ほざけ。アサシンのマスター。化け物め」

 

 

 

 

 

 

「化け物ね。それは少し心が痛むが故に、出来たらこう読んでくれ。『モンスター』とな。そちらの方が馴染みがあるんだよ。俺にはな」

 

 

 

 

 

 

先ほど道を塞いだときと同じように巫山戯ながら、さらには嘲笑混じりにアーチャーへと向けられるその言葉。

敵意だけでなく……憎悪に近い感情を抱き、それを顔に刻みながらアーチャーは刃夜を睨みつける。

 

右手に夜月を、左手に狩竜を持ちながら、爆心地に悠然と佇むその姿は……

 

 

 

 

 

 

間違いなく、普通の人間ではなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

マジデシヌカトオモッタ……

 

内心で冷や汗どころではない……正直本当にデッドエンドかと思った。

肝を冷やしてしまったがそれをおくびにも出さずに、俺は挑発的な言葉と態度で、相手に話しかけた。

 

挑発しておかないと、キャスターへと向かわれたら面倒だからだ……

 

幸いと言うべきか、士郎と遠坂凜も俺とアーチャーの戦いを見届けていてそちらへと向かうつもりはないようだ。

 

まぁ最も、その場合葛木先生が黙ってないだろうが……

 

魔術が使えないというハンデがあっても、軽くあしらうだろう。

あの人にはそれだけの実力がありだそうだった。

まぁそれはともかくとして……実際危なかった。

もしも狩竜が落ちてくるのが後一瞬でも遅ければ、刃気と魔力解放が間に合わずに、俺は木っ端微塵に吹っ飛んでいたことだろう。

何とか間に合って事なきを得たが……そのおかげで、溜め込んでいた少ない魔力がスッカラカンになってしまった。

つまり、切り札になりうるかもしれない手札がなくなってしまったのだ。

時間がかかるとはいえ、可能性が多いだけ相手は混乱する物だ。

その手段が減ったのは……失策といえなくもない。

 

本当に距離を取らせるわけにはいかないな……

 

 

 

とそうして、アーチャーへの対策を考えていたその時……静寂がこの柳洞寺の空間を支配した。

 

 

 

 

 

 

……ちょっとまて? 何で静寂?

 

 

 

 

 

 

この場にいるのは、俺とアーチャーを除いて、士郎に遠坂凜、キャスターと葛木先生、セイバーに我が相棒……小次郎だ。

俺とアーチャーは一旦小休止というか……とりあえず手を止めており、士郎と凜は呆然と佇み、キャスターも同様だが葛木先生は無感動な目を俺へと向けている。

これはまだいい。

全員何もせずに佇んでいるのだから音がするわけがない。

しかし……静寂がこの空間を支配するのがおかしい。

何せ俺とアーチャーの他に、戦いを行っている奴がいるはずなのだ……。

 

であるにも関わらず静寂なのは……

 

その俺の嫌な予感を裏付けするように……夜空を切り裂く一条の光が、俺の背後から燦然と輝きだした。

すでにわかっていたが、それを否定したくて俺はそちらへと目を向ける。

 

するとそこには当然のように……

 

 

 

 

 

 

風の鞘を抜きはなつ……光という力を解放しようとしているセイバーがいた……

 

 

 

 

 

 

な……

 

 

 

な……

 

 

 

 

 

 

何させてんだあいつはぁぁぁぁぁぁ!?!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

時間は少しさかのぼり……アーチャーとの斬り合いが始まって少しした時間……。

 

 

 

!!!!

 

 

 

金属がぶつかり、流れていく音が葉に付いた夜露を振るわせて、地面へと落ちていく。

金属同士の硬質であり、高質なその音は……とてもすばらしく綺麗な音だった。

 

 

 

最も……

 

 

 

!!!!

 

 

 

こんなにも……それこそ息を吐く暇もないほどに連続していなければだが……。

 

 

 

(くっ!?)

 

 

 

その長尺の野太刀の絶え間ない連続の剣撃を受け手、セイバーはその連続の剣を受け、捌きながら後退することを永遠に感じるほどの時間、繰り返していた。

もっとも、それは当人の認識であって、それほど長い時間ではない。

 

 

 

しかし死闘であり、命のやりとりの剣戟は……長時間に感じてしまうのも仕方のないことだった。

 

 

 

 

 

 

ましてや……一方的に攻撃されてしまっては、当然だった……

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ……」

 

セイバーを追い詰めていた小次郎……。

その手を休め、少しばかり距離を離す。

小次郎のその動作に……セイバーは当然のようにそれが何を意味するのか、理解できずに顔をしかめる。

 

「何故手を止める、アサシン?」

「いや何……さすがにこのまま続けても意味はないと思ってな。些か興も削がれた。もうよい頃合いだろう? セイバー。いい加減、手の内を隠すのは止めにしろ」

 

その言葉は、小次郎の微笑も相まって余り迫力はなかったが、それでもその言葉はセイバーを驚かすには十分な物だった。

 

「手加減? 私が手加減をしていると言うのですか?」

「していないとでも言うつもりか? 剣を鞘に収めたまま立ち会いとは舐められた物だ。それとも……私程度ではそれで十分という意味か?」

「……」

 

その小次郎の言葉に、セイバーは黙るしかなかった。

確かにセイバーは風王結界にて、風の鞘を纏っていると表現しても問題はない。

そのままでも十分に相手を断絶するだけの切れ味を誇ってはいた。

だが、相手に間合いを計らせないと言う意味が要しなくなった以上、それをいつまでも使用している意味がないのもまた事実だった。

 

 

 

だがそれでも……彼女はそれを解くのをためらった。

 

 

 

人間ならばともかく、英霊として存在している者ならば、アーサー王が持ち得た聖剣を知らぬ者はいない。

昨夜は遙か頭上にて誰にもその聖剣の姿を晒すことはなかったが……剣を見られてしまっては気づかれる可能性が高い。

眼前の英霊がまっとうではないにしても、彼女としてはそれは避けたかった。

 

「……」

 

故に、彼女は黙る。

そのセイバーの対応を見て、小次郎は少しばかりの失望を交えた嘆息を吐いた。

 

 

 

「ほぉ、あくまでも応じぬつもりか……。よかろう、ならばここまでだ」

 

 

 

ゾクリ!!!

 

 

 

小次郎の口より紡がれたその言葉は……冬の夜気すらも凌駕するほどの寒さを誇った。

否、その恐怖が、自然の力をも超越し、セイバーの身体に悪寒を走らせたのだ。

咄嗟に剣を構えるが、それは何の意味もない。

 

 

 

「お主が出し惜しみをするのならば……先に我が秘剣をお見せしよう」

 

 

 

小次郎の秘剣。

 

「燕返し」

 

長大な野太刀から完全に同時に振るわれる三つの斬撃。

この剣を避けることは事実上不可能だ。

それこそ瞬間移動でもできない限り。

確かにセイバーには魔力ブーストがあり、鎧や風の鞘を解除し、それを回すことでさらなる推力を得ることは可能だった。

だがそれでも……小次郎の燕返しは回避できない。

 

(……どうする!?)

 

敵が何かしらの切り札を……宝具を使用していることはセイバーもわかっていた。

といっても、「燕返し」は厳密には純粋な「技」であるために「宝具」ではないのだが……セイバーがそれを知っているわけもなかった。

 

 

 

真名を知られると言うことは……弱点を知られると言うこと……

 

 

 

 

昨夜は状況が状況だった……

 

 

 

 

宝具を使用するしか、士郎を救う手だてはなく、さらに言えば気休めではあったが、間近で宝具を使用しているのを見ている者はいなかった……

 

 

 

だが、今は何もかもが昨夜とは違った……

 

 

 

宝具を使う必然があるわけではない……

 

 

 

だが……騎士として……

 

 

 

小次郎に対して無礼を働いたままでいることを……

 

 

 

セイバーは、由とはしなかった……

 

 

 

 

 

 

ダッ!

 

 

 

 

 

 

突如詰めるのに躍起になっていた間合いを離して、セイバーが遙か後方へと跳躍した。

二人の距離がちょうど三メートルと少しに差し掛かる前だった。

小次郎に燕返しにほとんど間合いは関係なかったが、最大範囲が三メートル弱だった。

セイバーは直感だけで、小次郎の燕返しの間合いの本当に少し手前でその危機を回避したのだ。

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

ゴォッ!!!!

 

 

 

 

 

 

「む……?」

 

突如として吹き荒れた暴風に、小次郎は思わず声を漏らす。

その身に追従して穏やかに流れていた彼の後ろで束ねた長髪が、その風に煽られて激しくたなびいていた。

 

「貴方の言うとおりだ、アサシン。手加減など……出来る相手ではなかった」

「ほぉ……ようやくその気になったか、セイバー」

 

自らの枷を解き放つ彼女を、小次郎は歓喜に満ちた目で見据えている。

 

大気が震える。

見えない剣は……セイバーの意志に呼応して、大量の風を吐き出す。

 

「ぬ!?」

 

その突風に耐えきれず、小次郎は踏ん張るも僅かに後退した。

しかしそれも無理からぬ事で、セイバーの剣から放出された風は、もはや突風すらも超えて台風だった。

小次郎だけでなく、山門、寺の屋根瓦までもが風に煽られてきしみ、音を立てている。

人間すらも吹き飛ばす程の暴風が、セイバーの剣からあふれ出している。

 

 

 

その風を物ともせず……そのセイバーへと接近する人間がいた。

 

 

 

 

 

 

「させるかぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

当然のごとくというべきか……刃夜だった。

風翔龍の風の加護で、突風程度では吹き飛ばない。

その能力を生かして、刃夜はセイバーへと斬りかかった。

セイバーのこの行動が、宝具の使用だと言うことは誰の目にも明らかだ。

敵の攻撃が発動される前に潰そうと考えるのだが……。

 

「させん!」

 

その刃夜の邪魔を、アーチャーが行う。

弓を投影し、矢をつがえて跳躍して接近している刃夜へと矢を放つ。

弓使い(アーチャー)』から放たれた故か、はたまたアーチャー独自のスキルの恩恵なのかは謎だが……この暴風の中それは狙い違わずに、刃夜へと迫る。

 

「ちっ!?」

 

それを明確に察知し、刃夜は気壁を足場に展開し、二段ジャンプを行って避けて、さらにセイバーへと接近するが……さらにその刃夜をアーチャーの弓矢が追求する。

 

(くっそ!?)

 

さらに魔力壁を用いて三段ジャンプを披露した。

そのあまりに人間離れした所業に、士郎に凜だけでなく、攻撃を回避されたアーチャーも驚愕していた。

だが刃夜は今それどころではなかった。

この突風と本能からの警鐘が、セイバーが宝具を使用しようとしていることを教えてくれている。

セイバーのエクスカリバーはセイバー自身の魔力を光へと変換、収束し加速させることで絶大な威力を発揮する。

だがその魔力の収束に若干の時間を要する。

本来であればその際、風王結界を解いた事の反動で暴風が吹き荒れて、普通の人間どころか、サーヴァントでさえも動きが阻害されるので、その隙をカバーしているのだが……刃夜にはそれが通用しない。

それでどうにかセイバーを潰そうと考えるのだが……アーチャーの妨害に遭い、難しい物となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

黄金に輝くその西洋剣。

凄まじい暴風を吐き出しながら、それは昨夜とほぼ同等の光をあふれ出させていた。

先ほどまで見えなかったその剣は、燦然とした輝きを放ちその身を覆う全ての魔力がそこに集結していた。

 

 

 

全てを……まるで城さえも引き飛ばすような恐ろしい一撃を。

 

 

 

つ~か昨夜使ったから少しは減っている物じゃないのかよ!?

 

 

 

ほとんど昨夜の光量と変わらないことに驚く。

よほど魔力タンクが巨大なのか、もしくは一晩で全ての魔力を回復したのか……はたまたその両方か……。

技量に置いては小次郎に完敗したが故に、そこまで脅威と感じていなかったのだが……この魔力量は確かに桁違いだった。

 

っていうか……

 

「じょ、冗談だろ?」

「おやおや……小鳥と思っていたらその実、獅子の類だったとは……」

「呑気に冗談言っている場合か!?  というか何させてんだお前は!?」

 

呑気に冗談を宣っている相棒に叫ぶ。

というよりも死ぬことは許さないと念入りに釘を刺していたつもりだったのだが……何故こいつはセイバーに宝具を発動させる時間を与えたのか?

 

バカじゃないの……バカじゃないの!?

 

「そう憤るな刃夜。一人の剣士として、セイバーの真の実力を体験したかったのだ」

「それで死んだら元も子もないでしょうに!?」

 

しかしこの絶体絶命とも言えるこの状況下でも、相棒はいつも通り泰然としていた。

それが俄然腹が立つ原因となる。

そんな俺たちの漫才を、セイバーとアーチャーは鋭く見据えていた。

俺を殺すことになるのを気にしているのか、士郎がセイバーに向かって大声を上げていたが、この突風では意味をなさない。

令呪を使うという手もあるのだろうが……さすがにそこまでバカではなかろう。

遠坂凜は俺に何か複雑な目を向けていた。

 

まぁ結構ひどいこともしたしな……

 

というか今はそんな冷静に周りを観察している余裕はない。

距離があるため、すでに発動前に潰すというのも難しくなっている。

このままではセイバーの宝具を使われてジ・エンドだ。

 

 

 

 

 

 

【……】

 

 

 

 

 

 

どうする!?

 

このまま突進しても、アーチャーの怒濤の矢の攻撃は捌けないだろう。

今も俺が一歩でも前に進めば射殺す準備万全だ。

封絶を投げたとしても、この暴風ではどうなるかわからないし、アーチャーが迎撃する。

同様に電磁抜刀も無理だ。

魔力解放しての古龍種武器顕現も、先ほどの魔力壁で魔力を使い切ったために使用不可能。

仮に使用できたとしても果たして有効な攻撃が出来たかどうか……。

 

 

 

 

 

 

【……――】

 

 

 

 

 

 

どうす――……

 

 

 

 

 

 

【―――――!!】

 

 

 

 

 

 

――――ん?

 

 

 

最初こそ空耳かと思った。

 

どこかから聞こえてきたその言葉。

 

それはまるで頭に直接響くかのような声で……。

 

そして俺に取って大事なやつの声であった。

 

しかしその声を聞くことはもうないと確定していたと言ってもいいはずだったのに。

 

 

 

 

 

 

【―――――――!!!!】

 

 

 

 

 

 

「呼ぶ? ってどういう意味だ?」

「どうした刃夜? 突然変なことを言い出して?」

「いや、頭に直接声が……」

 

 

 

 

 

 

約束された(エクス)……」

 

 

 

 

 

 

そうして俺が頭に響く声に戸惑っていると、敵の攻撃準備が整ったのか、今の俺たちにとっては不吉とも言えるその声で、自分の得物の名前を叫ぼうとしている。

 

 

 

 

 

 

【―――――!!!!!!!!】

 

 

 

 

 

 

俺のその焦りがわかるのか、その声も俺に急かすようにそう言ってくる。

どうして声が聞こえたのか? そもそも呼ぶって何だ? とか、お前はどうして俺の状況がわかっている? か聞きたいことは山ほどあったが、そんな場合でもなかった。

 

 

 

「ええい!! 色々と言いたいことも聞きたいこともあるがそんななのは後回しだ! お前に全てを掛けるぞ!」

 

 

 

俺がある種の覚悟を決めると、俺の胸から紅炎に輝く玉が出てきて、俺の眼前へと浮かびあがる。

 

 

 

 

 

 

「こい!!!」

 

 

 

 

 

 

勝利の剣(カリバー)!!!!」

 

 

 

 

 

 

「―――!!!!」

 

 

 

 

 

 

同時に叫んだために俺の声はかき消されたが、それに構わずその玉から溢れんばかりの紅銀に輝く炎が宙に燃え広がって、俺の視界を覆った。

 

 

 

 

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