月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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個人的傑作

お楽しみいただければ幸いです
ちなみに長い
本文だけで31000字以上……
だというのに全くと言っていいほど物語は進みません……
それをご了承の上でお読みください






最後の日常

「はっ!」

 

迫りくる……銀閃。

俺の得物よりも長いその間合いの剣を、俺は下がりつつ捌くことしかできなかった。

 

(はや)い!

 

振る姿も見えず、体がぶれたと思った瞬間には殺意を乗せたその剣が俺を両断せんと迫っている。

それを遮二無二避けて距離を離す。

 

……強い

 

敵の強さに……技量に舌を巻く。

だが巻いてばかりはいられない。

今は果たし合いの最中。

悠長に考え、感動している暇などありはしない。

 

やってみるか……

 

モンスターワールドで苦戦した、蒼き魔を操る火竜。

そいつ相手に苦戦したときに、対処として行った戦闘方法を選択する。

 

「――――ふぅ~」

 

ゆっくりと、呼気を吐く。

手にした得物を握る力を調整。

相手を見据える……思わず一カ所に止めそうになる視線を、全体へと移行する。

 

……全体を見る

 

腕が動く前に肩が、肩が動く前に腰が、足が動く。

それをもってして先読みし、相手の攻撃を予見する。

そうでもしなければ戦えない。

相手の得物は俺が持っている物よりも長い。

間合いにおいては圧倒的に相手の方が有利なのだ。

そしてそれを行っても容易に勝てる相手ではない。

 

……参る

 

以前から考えていた行動を……実行に移す。

 

「ふっ!」

 

鋭い呼気とともに……それ以上に鋭い剣が俺へと向かってくる。

それに対して俺は……あえて懐に飛び込んだ。

 

不向きな格好だが……致し方なし……

 

静かに緩やかに……だがそう見えて究極の斬撃を躱すに足る動きを行いながら、俺は敵の懐へと進む。

敵の剣も受けるのではなく、手にした刀で流すように避けた……。

 

「むっ!?」

 

相手が驚きの声を上げる。

それを持って、俺は自分の選択が半ば正解だと思ったのだが……

直ぐに無意味であったと悟る……。

 

「なっ!?」

 

今度は相手ではなく、俺の驚きの声。

懐へと入り込む一歩手前……。

一撃を捌き、なんとか相手へと接近しようと試みたのだが……懐へと入りきる前に敵の第二の攻撃が俺を襲った。

長物の扱いに長けているとかそう言うレベルではない。

五尺の得物を、いくら俺が気力で強化していないとはいえ、よもや懐に入りきる前に第二撃が来るなど……普通ならばあり得ない。

もはや異次元の攻撃と言っても過言ではない。

 

異次元……だな!

 

だがそれが不思議ではない相手であったことを思い出した。

次元すらも切り裂き、一撃を三撃へと変化させて、絶対に躱すことの出来ない剣撃を放つ男。

それが俺の相手なのだ。

俺はそれを何とか防ごうと思ったのだが……気壁を全力展開する余裕も、手にした夜月を軌跡上へと持っていくことは当然のようにできず……

 

「私の勝ちだな……刃夜」

 

「……くっそ」

 

この言葉で……本日の訓練が終了した。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「全戦全敗とか……どんだけ強いんだお前は?」

「ふふ、そう褒めるな。私とて照れるのだぞ?」

 

廃道場の縁側へと腰掛けて、私と刃夜はようやく昇ってきた冬の朝日を拝みつつ、のんびりと持ってきた暖かい茶をすすっていた。

 

ふむ……だいぶ前に入れたはずだというのに暖かいな……

 

金属製の竹筒に入れた飲み物は、だいぶ時間が経ったというのに今飲んでも温かいままだった。

その事に驚きつつ、私はその茶をすすった。

 

知識としては知っていたが……やはり体感すると違う物だな……

 

私が死してより数百年。

当然のように人は進歩し、この辺りの景色は当然のように変わっていた。

地面はほとんど露出しておらず、こんくりぃと……とやらが地面を固く覆っていた。

 

……まぁ変わるのも当然なのだがな

 

死霊ではないが、それに近い存在として存在している私が物思いにふけるというのも……奇妙な物だった。

そんな間抜けなことを考えている自分がおかしくて、思わず小さく笑ってしまった。

 

「? どうした? 急に笑い出して?」

「いや、なに、ちょっと考え事をな。大したことではない」

 

突如として笑い出した私に不思議そうな目を向けてくる刃夜に、私は手で何でもないと伝える。

 

剣のみで良かったはずなのだがな……

 

これが……この時間が心地いいと思っている自分がいることに苦笑した。

極めたとは思っていない。

剣の道を。

それでも一つのことを成し遂げて……まぁあれに命を賭けていたわけではないのだが……死に絶えた自分の生が愚かだったとは思っていない。

だが、もしもこんな人生もあったのかもしれないと思うと……少し心が痛んだ。

それほどまでにこいつとの……刃夜との時間は心地いい物だった。

 

 

 

 

 

 

■■■■本当■■■■に?

 

 

 

 

 

 

まだまだ荒削りと言える所もあるが……それでも私が惹かれたこの男はすごい奴だった。

 

まさか……柔術を使ってくるとはな……

 

「しかし驚いたぞ刃夜? よもや柔術の歩法まで身につけているとは」

「嗜む程度だが……一応子供の頃からやっているからな。少々の自信はある。まぁそれもあっさり破られたわけだが……」

 

それほど多彩なことをやってのけるこいつは……末恐ろしい男よな

 

数多くの刀を……奇っっっ怪な刀が非常に多いが……自在に操り、それどころか人間とは思えないような所作と動作を体得しておきながら、まだこいつは上を行こうとしている。

ある意味で……馬鹿な男だろう。

 

いや……それは私も同じか……

 

道が違うだけなのだ。

私とこいつは……。

そして……それを究める物も当然違うわけであり……。

 

「お主のその人間とは思えぬ動きを可能としている技術……何と言ったか?」

「? 気と魔力のことか?」

「そう、それだ。それは誰にでも体得が可能なのか?」

 

突然の話題転換に、刃夜が訝しげな顔をするが……私の質問に答えてくれる。

 

「まぁ不可能じゃないな。戦闘時に使う用途によってだいぶ難易度が変化するが」

「用途?」

「気力なら自分の身体に付与するのはそこまで難しくはない。ただ物体に付与するとなると話が違ってくる。何せ自分の身体とは違う物に自分の体力という名のエネルギーを注ぐわけだからな。これを会得するのは結構大変だ」

「その割には使っているのだな?」

「……まぁそれだけの修練はしているからな」

 

そう言いながら朝焼けの空を見つめる刃夜の目は……何か思い出したくないことを思い出しているような、そんな遠い目をしていた。

どうやらあまり触れていい内容ではないようだ。

 

「どうしたんだ急に? 興味が沸いたのか?」

 

その考えを肯定するかのように、刃夜が早々に話を進める。

別に触れて欲しくない中身を聞くことが目的ではないので、それを追求するようなことはしない。

 

「興味は湧いたが、使いたいとは思わんな……」

「?」

 

私の言いたいことがなんなのかわかっていないようだ。

まぁそれも無理からぬ事だろう。

全てを極めようとしている刃夜なのだから。

 

「何、私には合わぬであろうからな。それに私が極めるべき物はすでに決まっている、純粋な剣よ……」

「俺のは純粋ではないと?」

「そうは言ってはおらぬ。要するに私は剣のみを極めようとしている、それだけの話だ」

「?」

「つまりだ……」

 

全てを極めるのが可能なのかどうかはわからない。

特に刃夜に対しては……。

この年齢でこれだけの技術を身につけた刃夜ならば……全てを極めることが可能かもしれない。

だがそれでも……私は自分が思ったことを口にした。

 

 

 

「人にはそれぞれ、その者自身にあった物がある。それを極めるのがいいと、私は言いたいだけだ」

 

 

 

「……」

 

さすがに刃夜もバカではない。

これだけ言えば、私が言いたいこともわかってくれたようだった。

 

「俺にあった……戦闘方法ね……」

「そうだ。お主がもっとも凄まじいのは間違いなく気力と魔力を用いた戦闘方法だ。それをがむしゃらなまでに極めてみるのもいいのではないか?」

「……これでも体捌きとかにも自信があるんだがな」

「そうであろうな。だから私としても無理強いはせぬよ。お主の人生だ。どう生きるのかは……刃夜が決めればいい」

 

これで話は終わりと、私は再度茶をすする。

この会話で刃夜がどう進むかはわからない。

だがそれでも……一つの可能性を示唆した。

これでどうするかは……刃夜自身の問題だろう。

 

……まぁどちらに進んでも……宿敵であることに代わりはないのだがな

 

隣りで思い悩む刃夜を横目に見つつ、手にしている器から茶をすすった。

しかし今度は……注いでから時間が経ってしまったために、茶は冷め切っていた……。

 

 

 

このとき……私は気づかなかった。

 

最初はただ漠然とした思いを胸に、召喚に応じただけだった。

 

極めるために生きた生前の自分。

 

その生前で出来なかった全力の果たし合いを行うために。

 

そして幾人かの存在と……私が望んでいた果たし合いを行った。

 

 

 

だが……それで満たされていなかった。

 

 

 

相手にした誰もが……全てに置いて私と同等の力量を有し、そして果たし合うにふさわしい力量を持っていた。

 

だが満足しなかった。

 

全く私の想いは……餓えは満たされなかった……。

 

そして、私としては助言として言ったつもりでいったこの言葉は……

 

 

 

 

 

 

本当は――――――私が刃夜との果たし合いを……殺し合いを……望んでの、言葉だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

俺にあった戦闘方法……ね……

 

朝の日課の果たし合いにて言われた、言葉。

気力と魔力の運用による、圧倒的出力……つまりは力による攻撃。

狩竜なんかがそれをもっとも体現しているだろう。

一般人では振るどころか持つことも出来ない、七尺四寸の刃渡りを持つ、長大な野太刀。

あれを気力も魔力もなしに振るのは、俺でも厳しい。

振ることは出来ても、ほとんどスローな速度でしか振ることは出来ない。

そんな俺が小次郎すらも驚愕させる速度で振ることが出来るのは、気力にて身体能力を強化しているからだ。

 

……もはや気力を使用しないでの戦闘というのは、ほとんどしないだろう

 

そんじょそこらの連中には気力も魔力もなしで勝つのは簡単だ。

それこそ不良程度ならば百人が束になってかかってきても全く怖くない。

鍛え上げたこの体だけで簡単に勝てる。

だが……サーヴァント相手となると気力も魔力もなしでは死ににいくような物だ。

 

まぁ小次郎はあまりサーヴァントという感じはしないんだがな……

 

相方と言うこともあるかもしれないが……それでも小次郎は他のサーヴァントとは色々と違った点が多い。

まず一つとして、明らかに洋の東西が違うと言うこと。

他の連中は見た目的にも得物的にも、明らかに西洋の英雄達なのだが……バーサーカーは除外……小次郎は完全に侍だ。

また魔力を一切使用していないところが大きく違った点だろう。

他のサーヴァントは宝具の使用に多大な魔力を使用する。

他にも戦闘時に置いて、身体能力の強化に魔力を使用している。

しかし小次郎には宝具もなく、身体能力強化の魔力使用も行っていない。

というかそもそも使えない可能性の方が高い。

 

であるにも関わらず全敗しているわけだが……

 

気力と魔力を併用した俺が、全く持って歯が立たないのだが……。

技術のみでここまで上り詰めた化け物が平行世界とはいえ存在していたとは……。

 

世界ってのは広い……

 

電磁抜刀すらも防いだこいつを倒すには……果たしてどうすればい――

 

「鉄さん? どうしたんですか?」

 

一人思案にふけっていると、目の前の存在……美綴から疑問の声が上がった。

小次郎との訓練を終えていつものように仕込みをしていたら、早朝ランニングの休憩で店へとやってきたのだ。

早朝ランニングの休憩もいつものことだ。

その最中に考え事をして、対応がおろそかになってしまったようだ。

 

「すまない、ちょっと考え事をな」

「いっつも考え事してますね。私がいるときくらい考え事はやめて下さい」

 

……意味深だな?

 

あっけらかんとそんなことを言っているが……果たして……。

 

『考えるまでも無いと思うがなぁ?』

『……』

 

小次郎からのツッコミが入るが……まぁシカトの方向で……

 

俺の立場を忘れてはいけない。

俺は異世界人でこの世界の住人ではないのだ。

帰る以外の事にうつつを抜かしていられるような立派なご身分ではない。

 

「済まなかった」

「いえ、そんな本気で謝られても困るんですけど……」

 

余りにも神妙に言い過ぎたかもしれない。

それに反省しつつも俺は再度軽い感じで謝りつつ、俺は美綴に話の続きを促した。

 

「弓の方の調子はどうよ? うまくいってるか?」

「絶好調! と、までは行かないまでも、普通に好調ではありますね」

 

相も変わらずこの子は文武ともに両道であるらしい。

普通にハイスペックだ。

姉御肌で何とも頼りがいのある子ではあるが……。

 

そこが逆に危ないんだよな

 

普通ならば早々危ない目に遭うことは無いのだが、今の冬木市の状況が状況である。

実際にこの前もライダーに襲われていたのだ。

 

もう少しこの子は自分がどういう存在か理解した方がいいと思うのだが……

 

「それにしても……もう2月も半ばなんですね~」

「……そうだな」

 

今はもう二月中旬と言っていい日付へとなっている。

柳洞寺へと乗り込んでから数日が経過していた。

その間特に変化は起きておらず、夜も毎晩念のため見回りと偵察を行ったが、特に動きは無かった。

それは俺も同様で、ほとんど戦闘らしい戦闘は行っていなかった。

 

現時点で残っているのは……ライダーを除く全クラスか……

 

聖杯戦争が始まってより一週間以上の日数が経過しているが、まだほとんど進んでいないと言っていいだろう。

何せまだ一人しかサーヴァントが脱落していないのだから。

そうして俺が冷静に戦況を判断していた時も、美綴は言葉を続けていた。

 

「そろそろ鉄さんと出会って、一年が経つんですね」

「……確かにそうだな?」

 

最近、ようやく状況が動き出したことで他の事を余り考えていなかった……というよりも考えている余裕はなかった……が美綴の言うとおり、あと二ヶ月ほどでこの世界に来て一年が経過してしまう。

ようやく動いたとはいえ……まさかここまでの長時間、異世界に居座る羽目になろうとは思わなかった。

 

「覚えてます? 出会ったときのこと?」

「一年も経ってないだろう? 忘れるわけもないさ」

 

早朝……俺がこの店を開く準備をしていたときに、ランニングを行っていた美綴が声を掛けてきたのが出会いだった。

この世界に来て大河に出会い、そして雷画さんに出会って生活の場と、生きるための術を恵んでもらった。

そして店を開こうとして準備していたときだろう。

あの時はそう……

 

「なっがい暖簾棒ですよね、あれ」

「……そうだな」

 

まぁ暖簾棒であって暖簾棒じゃないんだがな……

 

前日のうちに作っておいた暖簾をつける棒が無くて途方に暮れていたら、狩竜がちょうど良かったからそれをつけていた時に声を掛けられたのだ。

早朝からランニングをしていた、美綴に。

その日、店を開く前だったと言うことで、訓練を行っている美綴に意見を聞くために、店に招き入れたのがこの朝の日課ともいえる……朝のお茶の始まりだった。

 

それからもう十ヶ月か……

 

なんとまぁ……平和な時間を過ごした物である。

血なまぐさいことからだいぶ離れていた。

そのために最初は現代戦闘……銃器などを用いた戦闘……の感覚を忘れていて少々焦った物だった。

 

だいぶトーシローな戦闘だったがな。麻薬売買組織の末端なんて仮○ライダーの戦闘員A、B、Cにもなりゃしねぇ……

 

雷画さんに調理師免許をどうにかしてもらっている間の数日間で、くだらないあだ名をつけられた物である。

それから店を開いてからはだいぶ忙しい毎日だった……。

 

一人で飲食店なんぞ開くもんじゃないな……

 

これはしみじみ思ったことだった。

教訓になったといえよう。

 

「応援来てくれたときとか、すごく嬉しかったですよ」

 

その後秋の大会にて初めて主将として、弓を引く美綴の応援にも行ったりした。

それだけではなく、縁日で売り子の手伝いをしてもらったり、買い物に行ったり、店を手伝ってもらったことも何度もある。

俺がこの世界で、一番接した人間は間違いなく美綴だろう。

ほとんど毎日会っているのだから、それも当たり前かもしれないが。

 

「……いつ頃帰るんですか?」

 

……そう言えば一応仄めかしてはいたのだったか?

 

この世界の住人では無いと言うことは、余りにも荒唐無稽過ぎて理解されないかもしれないが、それでも俺がその内いなくなると言うこと自体は、遠回しに話していた。

 

……俺も最低だな

 

人は……人と接せずに生きていくことは出来ない。

しかし、ある意味で死という別れよりもひどい別れ方をする俺が、人と余り親しくなりすぎるのは、一種の傲慢なのかもしれない。

俺としても、美綴は親しみやすく、話しやすい子だったが故にここまで親しくなったが……必ずいなくなる存在として、ここまで仲良くなって良かったのか、わからなくなってしまった。

 

人を殺した罪……

 

俺の正義の名の下に、俺が悪人と断じた人間たちを殺してきた。

その恨みを受け止めるべき義務が俺にはある

 

それに許してくれたといえ……忘れていい訳ではないあの子もいる……

 

片足が不自由になっても俺を怨まなかったあの子。

あの子は救うことも出来なかった俺を許してくれた。

だけど、忘れない。

許してくれたとしても……俺はあの子の墓に花を添えるだろう。

彼女が喜んでくれた料理を供えるだろう。

だから俺は帰らなければならない。

 

 

 

そしてそれだけではない……

 

 

 

恨みを受け止める……。

その理由の名の下に、俺は息子を……弟子達を……。

 

そしてあの娘を……モンスターワールドで初めてであったあの娘を……。

 

あいつらを捨ててきたのだから……。

そうしてまで帰ると誓った俺が……帰らないわけにはいかなかった……。

 

「そろそろだろうな……」

 

それがどれだけ身勝手であっても、俺は帰らなければいけない……。

だから、ここで……美綴の言葉を否定するわけにはいかなかった……。

 

「……そうで、すか」

 

今の美綴にどんな思いが去来しているのか考えるまでもない。

しかしそれでも俺は……帰ることを選択する。

 

例え外道であろうとも……俺は……

 

『因果な物よな?』

『……小次郎』

 

そんな俺の言葉をどう受け取ったのか……それとも今のこの状況からの推測か小次郎から思念が届く。

 

『お主にはお主の事情がある。それはわからぬし、聞く気もない。全ての(・・・)事情を知り得ているわけもない。だがそれでも……』

 

泰然と、壁に寄り添いながら佇んでいる小次郎が……朝の訓練時のような鋭き眼光を向けてくる。

だがその鋭さはいつもの鬼気迫る物ではなく……どこか諭すような物であって……。

そして言葉を紡がれる。

 

 

 

『それでも……目の前の娘を傷つけたままでいることが、善行であるとは思わんぞ?』

 

 

 

……言われなくてもわかっている

 

ぐうの音も出ないほどに、小次郎の言うとおりだった。

しかしここで言葉を撤回したり……確証もなく、確信すらも出来ないことを言うのは、ただ罪を重ねることだとしか思わなかった。

 

だけど……

 

いつものからっとした、頼れる姉御のような面影が全く見えず、悲しみに染まっているであろうその表情を見せまいと、カウンターにうつ伏せになっている美綴を見ていたら……俺は……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

わかってたことだけど……

 

 

 

わかっていた。

鉄さんがそのうちいなくなるって。

言われていたからっていうのもある。

けど……なんとなく感じていたことだった。

 

何というか……一線を引いているのが、わかってたから……

 

明確にわかっている訳じゃない。

けど、それでもどこか一歩引いている感じがしてならなかった……鉄さんの態度は。

きっと、その内いなくなってしまうと思っているから、距離を置いているのかもしれない。

確かにいなくなってしまうのは事実なんだろう。

私も、自分の家から出たとしたら、帰りたいと思うのは当然だと思う。

 

それを……見送るしかないのかな……

 

いつか行ってしまうから。

いつかいなくなってしまうから……それを理由にしてしまっていいのか私にはわからない。

 

鉄さんが……私は……

 

最初は武術的に、そして私と大して変わらない年なのに自立して、一人でお店を切り盛りしている人と言うことで、注目しているだけだった。

 

 

 

料理もおいしいし……

 

 

 

朝の日課の自主トレで……この人と出会った……

 

料理を食べさせてもらっておいしいと言ったときに、嬉しそうに微笑んだその顔が……

 

藤村先生のわがままで出前で道場にきて、弓を教えたときの真剣に聞くその姿が……

 

ウェイターとして手伝ったときに、本当に心からお礼を言うその感情が……

 

 

 

ウェイターをしたお礼に買い物に付き合ってもらったあの日から、二人で出かけたその時から、意識していた……

 

 

 

縁日で……私が軟派男達を一蹴したときに、空手の腕を褒めたくれた時のその仕草が……

 

そして私が初めて主将の立場として、大会で緊張してたかっこわるい自分を、優しく応援してくれたあの時の言葉が……

 

 

 

私には……すごく大きな贈り物だった……

 

 

 

あれだけの事をしてもらって……こんなにもすごい人なら、誰だって好きになってしまうのかもしれない。

 

だけど、そんなこと私には関係なかった。

 

確かに私は鉄さんのかっこよさに……その強さに憧れた。

 

けど、この気持ちがそれだけが起因じゃないって……私は自信を持って言える。

 

 

 

鉄さんが……好きだって……

 

 

 

でも言えるのは胸の内だからで……

 

帰ることも相まって……私はそれを伝えることが出来ずにいた……

 

それに……鉄さんが困らせたくないから……

 

 

 

 

 

 

だけど……本当にそれで……いいのかな?

 

 

 

 

 

 

ふと……そんな気持ちが芽生えた……

 

今更かもしれない……

 

この気持ちを自覚したのは……もうずいぶん前のことで……

 

今まで時間はだいぶあったのに……打ち明ける時間があったのに……

 

いつかいなくなってしまうからという理由で……打ち明けなかった……

 

 

 

だけど何故かこの瞬間……「それでいいのか?」という、ものすごい敗北感が押し寄せてきた……

 

 

 

何故かはわからない……

 

だけど、あまりにも自分のこの行動が普段の自分らしくなくて、思ってしまったのかもしれない……

 

 

 

……私はこんなに臆病だったのか?

 

 

 

臆病なのは当然だ……

 

私にだって怖いのはいくらでもある……

 

人を傷つけたりすることも、自分が傷つくことも……

 

自分の全力を出せないことも……

 

人に……人ならざる物に、襲われることも……

 

 

 

……そう言えば、もうかっこわるいところは見られているんだっけ?

 

 

 

自分は大丈夫だと豪語しておきながら、その日の晩に襲われたのを助けてくれのが、鉄さんだった……

 

恐怖で声を出すことも出来なくて……

 

余りにも怖くて腰を抜かすことすらも出来なかった……

 

武道をしていた私ならわかった……

 

あれは、普通の人間が相手していい存在(相手)じゃないって……

 

だけどそんな強大すぎる存在(相手)を……撤退させたのが鉄さんだった……

 

私を、救うために……

 

 

 

俺の大事な友人に何していやがる……かぁ~

 

 

 

あの時叫んでいた言葉……

 

少しあやふやだけど……そんな感じの言葉だったのは間違いない……

 

それが鉄さんの私に対する思いなんだろう……

 

だけどあの時はその言葉の意味を考えている余裕もなくて……

 

横抱きに私を抱えてくれた、その腕がたくましかったことをよく覚えている……

 

そして、震える私の頭を優しく撫でてくれた……

 

 

 

恐怖で震えたのを見られるだけじゃなく、触れられて実感させられちゃってるんだよね……

 

 

 

私だって女の……子だ……

 

お姫様のように横抱きにされて、恥ずかしい気持ちだってある……

 

だけど、今思い返してみても……鉄さんのあの必至な言葉と行動、そして優しさが嬉しかった……

 

お見舞いにも来てくれたし……

 

そして……大切なお守りをくれた……

 

そのお礼は当然のように言ったけど……それだけでいいのか?

 

 

 

いいわけが……ないじゃない!

 

 

 

何故か……ここに来て私の中の負けん気が非常に活発になった……

 

このまま、帰って行くのを見送るだけの自分を想像するのすらもしたくなくなった……

 

確かに帰ってしまうのかもしれない……

 

だけど、それで諦めてしまっていいわけがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の恋愛を……自分で諦めてどうするんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分がすごく損をしていたことに気づいた……

 

ぬるま湯に浸かって、それで満足していた自分を殴り飛ばしたくなった……

 

 

 

「……美綴」

 

 

 

そんな私に声が掛けられる……

 

その声の響き、そしてこの雰囲気で何となくだけど……鉄さんが私に何かを言おうとしているのがわかった……

 

きっと私に優しい言葉を掛けてくれようとしているのだと思う……

 

それを受け取るわけには……行かなかった……

 

 

 

よしっ!

 

 

 

ガバッ!

 

 

 

鉄さんが言葉を発する前に、私はうつ伏せていた顔を思いきり上げた……

 

それだけでは抑えきれず、私は思いっきりイスから立ち上がった……

 

イスをはねのけるように立ち上がったので、イスが後方へと倒れて大きな音を立てている……

 

その音に驚いたのか、それとも私が突然立ち上がったのが驚いたのか……鉄さんが固まっていた……

 

 

 

らしくない……私らしくもなく考えることはやめた!

 

 

 

うだうだと考えていた自分に渇を入れる……

 

そして、大切なことを口にした……

 

 

 

「鉄さん」

 

 

 

「……何だ?」

 

 

 

私の思いを感じ取ったのか、鉄さんが顔を引き締める……

 

そして……そんな鉄さんに向かって、私は言葉を放った……

 

 

 

「……また今度買い物いきましょう!」

 

 

 

「……はい?」

 

 

 

私の言葉に鉄さんが素っ頓狂な声を上げる……

 

自分の遙か高みにいる鉄さんの意表を突けたことが、何故か無性に嬉しかった……

 

 

 

すぐに言えないし……それに、私は鉄さんを止める理由にはなりたくない……

 

 

 

帰らなきゃいけない理由がある……

 

これが一番大きな理由なんだろう……

 

自分の家に帰ろうとしている鉄さんの理由は……

 

それがどんな理由なのかはわからない……

 

私は鉄さんが好きだから、その想いの重荷になりたくなかった……

 

言い訳になるかもしれない……

 

けど、尊敬している人である鉄さんの足を止めるわけにはいかなかったから……

 

だから、私は自分で覚悟を決めよう……

 

 

 

別れるときが……必ず来るって……

 

 

 

告白に振られることも……

 

もしも振られなかったとしても……つきあえたとしても、私は鉄さんを引き留める原因にはならないことを……

 

その覚悟を決めるために……少し時間が欲しい……

 

その時になってみないとわからないけど……それでも私は……

 

 

 

 

 

 

自分の気持ちに、正直になりたいから……

 

 

 

 

 

 

「また買い物につきあって下さい……」

 

 

 

鉄さんを意識するようになったのは、ウェイターをやったお礼として、買い物に付き合ってもらった日からだ……

 

だから……この気持ちを伝えるのなら、またあの日と同じように、一緒に買い物をして伝えたい……

 

 

 

きっと、以前と違ってまともに話せないだろうけど……

 

 

 

我ながら随分と乙女みたいなことを言ってて、これこそ自分らしくないと思う……

 

一緒に買い物をしてても、きっと緊張してまともに話すことも出来ないと思う……

 

それだけじゃなく、話したらこの関係が壊れてしまうのではないかという恐怖もある……

 

それでも……その行為に意味があるって思うから……

 

 

 

「その時……私の話を聞いて下さい」

 

 

 

震えそうになる声を必至になって抑えた……

 

 

 

かっこわるいところは、もう見せてるけど……

 

こんな時にまでかっこわるいのはイヤだから……

 

すごく緊張したけど……何故かその緊張が心地よかった……

 

 

 

震えるほど緊張するけど……なんかすっきりしたね……

 

 

 

指先が震えそうになる……

 

顔が引きつりそうになる……

 

けど……それ以上に清々しかった……

 

だから、声の震えを抑える必要もなく、無理に笑顔を浮かべることもなく……

 

 

 

自然と笑って、小指を差し出した……

 

 

 

「……いいですか?」

 

 

 

それでもやっぱり怖かった……

 

突き出した右小指を……差し出した小指を、思わず握ってしまいそうになる……

 

その小指を……鉄さんが自分の小指を絡めて、止めてくれた……

 

 

 

「……あ」

 

 

 

「……わかった。約束だ」

 

 

 

 

 

 

「……はい!」

 

 

 

 

 

 

私が何を言おうとしているのか、気づいているのかもしれない……

 

帰るって言ったのはこうならないためだってわかってる……

 

だけどそれでも応えてくれた鉄さんのその優しさが嬉しくて……

 

 

 

私は早朝であるにもかかわらずに、大声で返事を上げてしまったのだった……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「……Oh My God」

 

それが美綴が帰って行って、女の子がいなくなった店で、俺が心の底から吐き出した第一声だった。

もうこれ以上無いほどに、自然と出てきた言葉だった。

 

……何と言うことだ

 

美綴のあの覚悟を決めたその表情と声。

それに何よりも……俺がそれに応えたときのあの嬉しそうな表情……それはあのときのレーファの表情を思い起こさせていた。

もう悪い予感しか……普通なら嬉しいことだが……しなかった。

 

どうしてこう俺は……

 

自意識過剰であれば……いい。

しかしそう考えるのは美綴に対しても失礼なわけであり……しかしかといってそれを許容するわけにはいかない立場であり……。

 

 

 

俺って奴は……本当に……

 

 

 

【ステータス情報が更新されました】

 

 

 

「!? 何だ今の言葉!?」

「……何を言っているんだ刃夜?」

 

突然脳内に響いたように感じた言葉だったが……小次郎は全く感知していないようだ。

幻聴を感じてしまうほどに精神が危なくなったらしい。

とりあえずそれを放置して、俺は努めて別のことを考えた。

 

まかり間違って現実逃避ではない……きっと……

 

『全速全進、全力全開で現実逃避だと思うが?』

『黙れ封絶! お前はどこぞの社長か、魔砲少女か!?』

 

思念に割り込んできた封絶に、八つ当たりにも等しい思念を返す。

何か意味のわからない言葉を発した気がするが……気にしない。

大人な封絶は何も言って返してこなかったが、呆れている風な感じではあった。

 

「難儀よな、刃夜よ」

「やかましいわ!」

 

相方二人から揃って呆れられてしまった。

まぁそれも無理からぬ事だろう。

 

しかし……まぁ……

 

それを一旦放置して、俺は先ほどの美綴の言葉と態度を、思い出していた。

見事に先を取られて、俺は一瞬呆気にとられてしまった。

しかも、俺が根拠のない言葉を放とうとしたのを感じ取ったかのように……いや実際にわかったのだろう……彼女は俺の言葉を封じるようにして立ち上がった。

外見も、性格も……あれほどまでにできあがった子を俺はほとんど知らなかった。

 

自分のことを知らなさすぎだな……あの娘は……

 

冗談抜きにして、俺にはもったいない女の子だ。

快活で清々しい……とてもいい女の子だ。

 

こんな俺よりも、もっといい男がいるだろうに……

 

素直にそう思ってしまう。

そして……俺の無責任な言葉を先んじて止めてくれた美綴に、俺は心からお礼を言っておいた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

……いっちゃった

 

お店を出て少しして走りながら、私は先ほどの自分の行動を思い出していた。

 

……ものすごく恥ずかしいことを言っちゃった……気がする

 

気がするではなく間違いなくものすごく恥ずかしいことだと思う。

というよりも、普段なら全く考え事をしないランニングの最中だというのに……私は全く集中できていなかった。

 

……いや全く考え事をしないなんて……ことはないけど

 

息の時は鉄さんとどんなことを話すのか考えたり……。

帰るときは会話を思い出しながら……。

また今度ウェイターを手伝ったりしようかな~とか考えたりしていたけど……集中出来ないと言うことはなかった……。

 

というか……

 

集中できるわけがない!

 

先ほどの自分の行動を思い返すと……もうこの真冬で寒々しい早朝の気温ですらも涼しく感じてしまうほどに、体中が熱かった。

後悔はしていない……後悔はしてないんだけど……。

 

あんまりにも恥ずかしすぎる!!!!????

 

私らしくなくうじうじ考えるのが自分らしくなかったから、思いの丈をぶちまけてきた。

だけど、それも過ぎてから考えてみれば、あの行動こそが自分らしくないと自覚するのにそう時間はかからないわけで……。

 

顔から火が出そう……

 

走りながらふれてみると、頬は当然のように熱くて……。

ランニングの最中だからそれも当たり前なのかもしれないけど、それでも冬の寒さを全く感じないほどに体が熱くなっているのは、事実で……。

 

恥ずかしい……恥ずかしいけど……

 

それでもこの気持ちも、そして感情も決して不快な物ではなかった。

だって……恥ずかしいことをしたってことよりも、私らしくなくただうじうじと考え事をしているよりも……

 

 

 

さっきの行動が、一番自分らしいって……思えるから……

 

 

 

だから後悔しない……

 

恥ずかしいけど、後悔だけは絶対にしない……

 

行動しないままで終わるなんて……したくないから……

 

そして……迷ったりも、もうしない……

 

 

 

やるって決めたからには全力!ってのがあたしだからね!

 

 

 

手を抜くなんて考えない……

 

考えたくもない……

 

この行動の結果がどうなるかはわからない……

 

あっけなく振られてしまうかもしれない……

 

もっとひどい結果に終わってしまうかもしれない……

 

だけど……がんばる……

 

 

 

恥ずかしさも、恐怖も、そして……一歩踏み出せた喜びも全部私の物だから……

 

 

 

その上でがんばる!

 

 

 

がんばってみせる!!!!

 

 

 

 

 

 

「よしっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

早朝だというのに思わず大きな声で気合いを入れた……

 

いろんな想いが入り交じって……

 

それをすべてはき出したくなって……

 

迷惑なことだってわかっていた……

 

でもそれが……伝えられたことがすごく気持ちよくて……

 

すごく嬉しくって……

 

私は握った手を逆の手にたたきつけていた……

 

 

 

パンッ!

 

 

乾いた音が、さらに私の気合いを入れてくれた……

 

 

 

「どうせなら惚れさせてみますか!? そっちのほうが私らしいしね!」

 

 

 

大それたことかもしれない……

 

だけどそれぐらいの気持ちで行かなきゃいけない気がして……

 

私は決意を新たにしながら家へと帰宅して、朝練へと向かった……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「……仕事しよ」

 

美綴からの約束は正直かなりの問題だったが……それでもいつまでもそれにとらえられているわけにも行かない。

美綴が帰宅したと言うことは、もうすでにあまり時間的余裕はないということになる。

休もうと思えば簡単に休めるのが個人営業店の利点ではあるが……雷画さんに恩を返さなければいけない俺に、そんなわがままが許されるわけもない。

店の開店準備を整えつつ、俺は思考を180度回転させた。

 

 

 

人はそれを現実逃避という by作者

 

 

 

聖杯戦争……か……

 

聖杯という、万能の願望機を奪い合うための戦争。

サーヴァントという、あり得ないほどの強さを持ち得た存在を使役してその戦争を勝ち抜くこの戦……。

 

あの二人が絡んでいるのだから絶対にそれで終わらないだろうがな……

 

俺がモンスターワールドから帰るときに聞こえてきた声。

あの二人の声で間違いがない。

仮にあの二人がこの世界に来た原因であるとするならば……ただ聖杯を手に入れただけでどうにかなる問題ではないだろう。

 

となると、モンスターワールドに言った原因もあの二人の仕業なんだろうな……

 

タンカーのゆられて寝ていて……気づいたら森の中だ。

あの時の驚愕は今でも忘れん。

というか余りにも状況が違いすぎててついて行けてなかったな。

 

そもそもにしてどうして俺を異世界に飛ばすのか……飛ばしさえしなければこんな事で悩まなくて済むというのに!

 

異世界移動というのがすごく軽く感じられてしまうが……絶対にそんなことはない。

では何故に俺はこんなにも移動させられているのか?

まぁそれは考えてから聞き出すとして、現状を再確認する。

 

セイバーは宝具も割れたが故に、そこまで恐れる理由はないが……他がまだ恐ろしいな……

 

宝具。

伝説の英雄達であるサーヴァントを、英雄たらしめているといってもいい究極の武具。

武具に限らず能力もそれに入る見たいだが……ともかく一発逆転可能なその存在が割れるまで動くのは正直危険だ。

 

ランサーは間違いなくあの槍が最強の得物だろうな。キャスターは……弾が無いが故に恐れる理由もない。バーサーカーの得物は宝具らしい感じがしなかったし……だが、一番わからないのはアーチャーだな……

 

ランサーはあの禍々しい槍。

キャスターは不明だが、魔力がほとんど無いあの状態で発動できるとは思わない。

アーチャーは、マスターが魔術師として優秀な遠坂凜のサーヴァントだ。

それ相応の力を有していると考えて不思議はない。

あの剣を具現化させる能力がそうかもしれないが……断言は出来ない。

だが……

 

やはり最大級で厄介なのはバーサーカーだろう……

 

アーチャーの宝具は確かに謎であり、士郎とセイバーと組まれているのでそう易々と勝てる相手でないことだけは確かだ。

しかし、俺は何とかサーヴァントと戦えるだけの力量があり、小次郎は技量に置いては他を圧倒している。

どちらか片方を倒せば倒すのはそう難しいことではない。

だが……あの圧倒的な存在のバーサーカーだけは対処しようがない。

小次郎と俺の同時攻撃ですらも対応してきた相手だ。

しかも俺たちの剣は敵に血を流させることが出来なかった。

こちらの攻撃はほとんど通用していないのだ。

それに宝具もわかっていない。

 

こいつは……龍刀【朧火】でないと勝てる気がしない……

 

しかしその龍刀【朧火】も、この世界の魔力(マナ)では使用不可能と来ている。

おそらく聖杯は必要は無いのだろうが……それでもこの戦いを終わらせなければどうしようもない。

 

アレを倒すにはどうすれば……

 

そんな事を考えて……イリヤ陣営(バーサーカー)の事……いたからだろうか?

少々意外な客が来店した。

 

 

 

「ジ~ンヤ!」

 

 

 

昼休憩の時間。

昼食を取っていた俺と小次郎……生前ろくな物を食べていなかったらしく、色んな料理を作らされてはそのたびに料理の味に感動している……の耳にそんな声が飛び込んでくる。

扉をかわいらしく開けながら……なんとイリヤがやってきた。

 

「イリヤ? どうしたんだ急に?」

「急にって……前に言ったよね? また来るね、って。だから来たんだよ?」

 

あぁ、去り際言ってたね、そんなこと……

 

以前結界の裂け目を教えてくれたときに、お礼として店に案内し定食をごちそうしたのだ。

最初こそ物置と言って入るのをためらっていたのに、今度は一瞬の躊躇もなく楽しそうに入ってきた。

真っ白な銀髪がイリヤの動きに追従するように、嬉しそうに跳ねていた。

 

「一応今は閉店しているから余り店側の出入り口から入られたら困るのだが……」

「? どうして? この前もこのドアから入ったよ?」

「いやまぁそうなんだけど……」

 

昼休憩の時間故に、出入り口から入られてしまうとまだ店がやっていると勘違いされそうで少し怖かったり……。

 

まぁ別にいいんだけど……言ってみただけって気分だしな……

 

イリヤの言っていることは事実であり、実際入ってこられてもそこまで困らない。

俺は不思議そうに小首を傾げているイリヤに笑顔を向けつつ、来訪を歓迎した。

 

「何か食べてきたか? 良ければお昼をごちそうするが?」

 

別段今回俺がお礼などをする理由は何もないのだが……しかし客ではなく「友人」として来た小さなかわいらしい友人から、金を取るような野暮なことをするほど、俺も無粋ではなかった。

 

「うん! ジンヤ! というかそれが食べたくて来たんだよ!」

「そいつは光栄だ」

 

はじけるような笑顔で、諸手を挙げながら喜ぶ少女に笑みを浮かべつつ、残りの飯を瞬時にかっこんで、俺は食器を片付けるのと同時に、調理場に立った。

そして外していた調理帽を被り、リクエストを聞いた。

 

「何がいい? あんまり豪華すぎる料理は作れないぞ?」

「そんなのいらない! 食べたければ自分のお城で食べられるもの。前と同じでジンヤの得意料理がいいな!」

「オ~ライ」

 

さらっとお嬢様発言をしたイリヤに苦笑しつつ、俺は包丁を手に取って調理をすすめる。

 

前回は肉だったので今回は魚~

 

心の中で激しくどうでもいい歌を歌いながら、俺は包丁を縦横無尽に動かす。

魚と言うよりも魚貝類といった方が正しいだろう。

 

「茶だ。日本茶で良かったかな?」

「紅茶とだいぶ違うのね? ちょっと渋く感じるけど……暖かくておいしい」

 

おれが調理をしている間は、以前と同じように小次郎が相手をしてくれている。

小次郎は野太刀を現界させていないから安心しているのかもしれないが……だが、それ以上にこの二人には不思議な信頼のような物がある気がする。

 

そうじゃないといくら知り合いとはいえ敵のサーヴァントと話せないよな?

 

まぁそれ以外にも、あの巌のようなサーヴァントがいるという自負もあるのだろうが……。

今朝水揚げされたばかりの物を保存していた物を取り出し、殻を取ってそれを衣につけて、からっと揚げる。

キャベツの千切りに、ご飯、ワカメと油揚げをいれて自家製味噌をといた味噌汁。

最後に揚げた物のそばにタルタルソースを添える。

 

何故か揚げ物ばかりだが……気にしない!

 

前回も唐揚げで揚げ物料理だったが……美味い物は美味いのだよ……。

後はたまに無性にラーメン食べたくなるよね。

あれも決して体にいいとはいえないラーメンも多いのに。

 

どうしてこう人間ってのは体に悪いってわかっていながらも食うんだろうね?

 

揚げ物はとりすぎると肥満などになったりするが……それでも気にせずに調理する。

おいしい物はおいしくありがたくいただくのが筋という物だ。

というわけで俺は自信を持って、イリヤへとそれを提供した。

 

「へい、おまち~。牡蠣フライだ」

 

二月が旬のカキのフライである。

冬木市は海沿いの街であるために、大変すばらしい魚貝類が毎日上がる。

それを朝市で見にいくのも、楽しかったりするのだ……。

今回は顔見知りの方からのご厚意で、思わず歓声を上げてしまうほどすばらしいカキを頂いたのだ。

一級品で、しかも大量に頂いたのですでに雷画さんにも献上済みである。

 

「今晩はいい酒が飲めそうだ」

 

と恵比寿顔で受け取ってくれた。

他にも素材を見繕って今晩にでも夕食のつまみを作りに行く約束もあったりする。

 

まだ未熟なこの腕で、雷画さんが喜んでくれるの言うのならば……俺は決死の覚悟で包丁を振るおう……

その時余興として俺と小次郎の演武もあったりする……。

ちなみに小次郎のことは雷画さんも承知済みであり……俺の知り合いということであっさりと許可をもらえた。

もう少し怪しんでいい物だったが……何か俺を信頼してくれている以外にもなにか要因(・・)があるような態度だった。

が、それを聞くことは叶わなかった。

 

まぁ……いい……

 

あまり突っ込まれても返せないのは間違いない。

故にそのなにがしかにも……礼を言っておくべきなのだろう……。

 

何かまでは……わからないがな……

 

「!? あっつい!?」

「んぁ?」

 

悲鳴にも似た声で俺は思考の海から引っ張り出される。

声のした方へと目を向けると、イリヤがばたばたと……かわいらしく少しだけ暴れていた。

必至に水を飲んでいるところを見ると、口内でも火傷したのかもしれない。

 

あぁ……中のおつゆが熱かったのか……

 

フライにしたので熱いのは間違いないだろう。

カキはうまみ成分でもあるつゆが結構多いために、それがかかってしまってはそれは熱いだろう。

俺はそんなイリヤに一応氷をひとかけらあげた。

 

「うぅ~いたかった」

「大丈夫か?」

 

見た目相応なその反応に、俺は苦笑を禁じ得なかった。

だがその苦笑には……別の感情も入り乱れていることを否定できなかった。

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

 

第五次の聖杯戦争のバーサーカーのマスターとして来日している少女。

長い銀髪が映える、とてもかわいらしい女の子だが、この子は明らかに普通じゃない。

気配に、宿すその異様に膨れあがった魔力(オド)

それに体が何か違う……。

構成されている感じが違うというか……なんというか……。

言い方がひどいかもしれないが、構成しているものが何か違う。

 

率直に言えば……人間ではない……

 

最初に会ったのは、冬の坂の上で……その時はわからなかったが、霊体のバーサーカーを従えて。

次に会ったのは次の日の夜に、士郎と遠坂凜を襲っていたとき。

この二つの状況ではじっくりと観察をしているような余裕はなかったが……先日の結界騒ぎでこの俺の家へと……しつこいようだが借家だ……食事に招いたときに少し観察する余裕があった。

それと今日。

こうして改めて観察しても、違和感がぬぐえない。

 

「? どうしたの顔をしかめて?」

 

夢中に食べていたイリヤが、いつの間にか食べ終えて俺の顔を覗き込んでいた。

どうやらあまりにも考えに没頭しすぎたらしい。

不意打ちだったからか……それとも俺が知りたかったからか……。

俺は率直に聞いた。

否、聞こうとした……。

 

別にいいな……

 

聞こうとしてなんだが……それを聞いた、聞いてない、と言うことで俺とイリヤの間に何かが起こるわけでもない。

 

まぁ……この子に何か起ころう物なら俺は全力で力になるがな……

 

「あの子」と重ねているのかもしれない……。

それともモンスターワールドで出会った……あの娘か……。

正直重ねていないとは言い切れない。

だがそれでも……この子のために何かをして上げたいと思う気持ちに、嘘はなかった。

 

「……一応聞くんだが、少し無防備過ぎないか?」

 

だからか……俺はするりと言葉をだす事が出来た。

最初に聞こうとしていたことを言い換えたのだが、特に違和感はなかったようだった。

イリヤは俺が言っている意味がわからないというように、首を傾げてみせる。

 

「? どういう意味?」

「いや、まぁ俺はイリヤを襲う気はさらさら無いんだが、それでも他の連中がそうだとは限らないと思うのだが?」

「ふむ……それもそうだな。私としても童女とはいえおなごを襲うなどしないが、少し危ういのではないか?」

「大丈夫よ」

 

この言葉……。

俺と小次郎の問いに対する時に返しただけの言葉なのだが……どこか空々しいと言うか、あまりにも無機質な感じがした。

 

「私のバーサーカーは無敵だもの」

「……」

 

無表情のままにそう言いきるイリヤ。

確かにバーサーカーは無敵並の強さを誇っているが……それでもこの少女を殺すよりは簡単だろう。

 

……この子単体でも結構強そうだが

 

まぁマスターと言うことはこの子も魔術を使えるのだろうから、一般人相手では負けることは無いだろう。

だが……それにしたって無防備な気がしてならなかった。

 

……大丈夫だろうか?

 

そうして心配していると、何故かイリヤが先ほどの無機質な表情から一転して、ニヤリと……悪戯っ子の笑みを浮かべる。

 

「? 何? ジンヤは私のことを心配してくれてるの?」

「まぁ……大事な友人だしな……」

 

この言葉に嘘偽りは全くなかった。

最終的には敵になるかもしれない存在だし、あのバーサーカーが相手では下手をすれば俺が逆に殺されかねない。

だがそれでも、俺はこの子と明確に敵対かはしたくなかった。

 

まぁ完全に俺のエゴだが……

 

やはりどうしても子供相手には躊躇してしまう。

あの子の事を思い出すのもあるが……やはり子供が相手というのは気が引ける。

そんなこといったら高校生である士郎とか遠坂凜、間桐桜ちゃんも子供になるのだが……

 

年端もいかないとはいわないが……まぁまだガキだな……

 

といっても俺と一つ二つしか違わないのだが。

遠坂凜は多少裏の社会の事を知っているが……あまり血なまぐさい事をしたことがないような気がする。

これも勘だが……自分では信頼できる感覚なので全否定はしない。

 

まっ、それはともかく……

 

「もし良かったら……昼時だけでも出前をしようか?」

 

今思いついたのが、俺がイリヤの拠点まで出前をすることだった。

イリヤがバーサーカーを霊体で連れ回さないのは少々謎だが……それでもこうして連れ回していない以上何か理由があるのかもしれない。

ならば俺が出前でイリヤを危険から遠ざけるのも手だと思ったのだ。

イリヤの拠点を知っておきたいという下心も無くはなかったが……それでもイリヤの身を案じているという事に嘘はなかった。

そしてこれを言われたイリヤはと言うと……。

 

「? デマエってなに?」

 

意味がわかっていなかったらしい……。

これは俺の配慮が足らなかった。

セレブ……だと俺が勝手に予測している……のイリヤが、出前というシステムを理解しているわけがなかった。

 

「出前っていうのは、俺がここで飯を作ってイリヤの家に届けるというサービスだよ」

「そんなのあるの?」

「まぁこの店では出前のサービスはやってないが……友人の家にお裾分けするのに理由は必要ないだろう」

 

半ばこじつけに近いが……それでも無防備に外を出歩くよりはいいだろう。

が、イリヤは考えるような仕草をする。

 

まぁそれはそうか……

 

いくら仲がいいとはいえ、敵に本拠地を教えるのは少しいきすぎている。

 

あれ? 俺イリヤに教えてるよな?

 

……考えなかったことにしよう。

 

「やっぱり俺に教えるのは無理か?」

「え、うぅん。そんなことないよ。別にジンヤだったら教えてもいいんだけど……私がいる所、ここから遠いし……」

 

口元にかわいらしく人差し指を添えて、考える銀髪の少女。

その言葉に、俺は少し違和感を覚えた。

 

「遠い?」

「うん。私のお城、この街の外にあるから結構遠いの。ジンヤならそんなの問題ないかもしれないけど……料理が冷めちゃうし」

「……ちょっと待て。そんな遠いのか? っていうかだとしたらイリヤは一体どうやってここまで来てるんだ?」

 

俺ならば問題はないが、料理に問題がある。

となると確かにそこそこの距離があるということになる。

ならばイリヤは一体どうやってそのイリヤのいるお城……っていうかこの辺りには城があるのか?……から来ているというのか?

 

 

 

そして驚きの真実が明かされる……。

 

 

 

「? 車でだよ」

 

 

 

「……はい?」

 

 

 

※車。

自動車とは、原動機の動力によって陸上を走行する車両のうち、軌条によらずに運転者の操作で進路と速度を変えることができる乗り物である。英語ではautomobile、motorcarなどと言う。

 

↑ウィキペディアから引用 by作者

 

 

 

「くるまって……運転する、あの?」

「? それ以外にあるの?」

「細かく定義しないとそれこそいくらでもあるが……ってじゃなくてだな。送ってもらってるのか?」

「うぅん。自分で運転してるよ?」

「免許持ってるのか!?」

「? うん。はいこれ」

 

ごそごそと、紫色のコートから取り出されたそれには……確かにイリヤの顔写真が。

ものすごく無表情なのが面白い……。

 

年齢は……18!? 俺より一つ年下ってだけ!?

 

この身長でこの年齢……。

この事実が、俺の考えを裏付けてしまう。

 

「本当に免許だな」

「そんなに驚くこと?」

 

表を見ても裏を見ても当然それが変わるわけもなく……。

この見た目からは想像も出来ない年齢だった。

 

士郎よりも年上かよ……

 

ものすごくびっくりな出来事であった……。

ちなみに車種はメルセデス・ベンツェ 300SLらしい。

間違いなく高級車である。

 

「……驚いた?」

 

ほとんど変化がなかったが……だがそれでもイリヤの声に陰りがあることに俺は気がついた。

多分……普通の人間なら気がつかないだろう。

本人も気づいていないかもしれないほどに、か細い物だったから。

それを聞いたからというわけではない。

そもそもイリヤの年を知っていようが知っていまいが関係なかった。

 

イリヤはイリヤだしな……

 

正直かなり驚きの真実だったが……だがそれでイリヤに対する態度が変わるような事はない。

確かにイリヤは普通の人間ではないのだろうし、年齢と外見が全く比例していないが……それでもイリヤがイリヤであることに代わりはないのだ。

ならば年齢と外見が比例しないということで態度を変えることもない。

 

「別に? 驚きはしたが、それでもイリヤが俺の友人であることに代わりはないさ」

 

態度を取り繕う必要性はない。

聞く前と聞いた後で態度を変えるということは、多かれ少なかれイリヤの年齢のことで俺の中でイリヤに対する心情が変化したと言うことになる。

故に……というかそもそも何とも思ってないのだからこんなこという必要も無いが……俺は普通にイリヤに笑いかける。

 

「イリヤはイリヤだろ? ならそれで十分だ」

 

多くは語らない。

語る必要性もない。

俺は見せてもらっていた免許をイリヤへと差し出した。

 

「事故にだけは気をつけろよ? そんなことで死んだらただの間抜けだからな」

 

どんな運転をしているのかは謎だが、事故というのはどれだけ注意してても起こる物だ。

だから俺はそれだけを注意して、話を終わらせる。

 

まぁ最悪バーサーカー召喚してどうにか出来るだろうが……

 

その俺の台詞にきょとんとしていたイリヤだったが……直ぐに満面の笑みを浮かべて、俺に抱きついてきた。

 

 

 

「やっぱりジンヤはお兄さんだね!!!!」

 

 

 

お兄さん? 意味がわからぬ……

 

はっきり言って意味不明だが……それでもこれだけ喜んでくれている少女の気分を害することはしない。

何故か抱きついて来た少女を拒むことはせず、俺はその綺麗な銀髪を優しく撫でた。

 

『……なかなかに危ない絵図よな』

『やかましいわ』

 

くつくつくつと、愉快そうに笑いながら思念を送ってきた小次郎に思念を返していた、その時だった。

 

ザワッ!!!

 

!? 何だ!?

 

唐突に、体がざわつく感覚が思考を遮る。

それに呼応するかのように、たてがみの首飾りが一瞬光り輝いた。

しかしそれは一瞬であり……まるで防衛本能のようなもののように、直ぐに収まった。

 

これは一体?

 

 

 

料理もごちそうしてくれたし、私のこと、友人だって言ってくれたから、ジンヤには特別に教えて上げる

 

 

 

!? イリヤ!?

 

 

 

俺の脳に直接響くようなイリヤの声。

それでわかった。

イリヤが何か魔術のような物で俺に何かをしようとしている。

最初こそそれをたてがみの首飾り、キリンが防ごうとしたのだろう。

しかしそれが俺に害意のある物ではないと言うこと認識し、防衛を停止したのだ。

 

……生きているんだな

 

まぁ魔力の固まりとも言える首飾りが存在している以上、死んでいるわけではないと思っていたが……。

そうして何の関係もないことを考えていると、俺の脳内にイメージが流れてきた。

それは冬木の街を越えて山へと入り、深い森を複雑な道順で歩んでいく。

イリヤからのイメージではあったがわかった。

この森には複雑な結界が張り巡らされていることに。

その結界が発動しないような道順を辿っているのだろう。

言うなれば裏道のようなものだ。

そしてそれを越えると……日本には似つかわしくないいかにもな西洋の城が鎮座しているだだっ広い空間に出た。

その城自体にはそこまで複雑な術はなさそうだった。

必要性が無いからだろう。

 

バーサーカーがいるからな……

 

森の結界はあくまでも一般人を入れないための物。

それを越えてくると言うことは一般人ではないと言うことであり……つまりは魔術師とそのサーヴァントが勝負を挑みに来たと言うことになるのだ。

ならばそれを相手に小細工は無用。

圧倒的たる存在のバーサーカーで鏖殺ないし撃殺するのみなのだろう。

そして正門を抜けて大広間に入った時に……イメージの流入が終わった。

 

「どう? 見えた? これが私のお城。ジンヤには特別に結界の抜け道教えて上げたよ」

「それは光栄だ。これでいつでも出前にいけるな」

「うん! 待ってるね!」

 

満面の笑みでそう言ってくるイリヤ。

 

だがそれは叶わぬ願いだったのかもしれない。

 

ようやく状況が動き出した。

 

聖杯戦争というこの状況で。

 

しかしそれも一段落を終えたかのように、数日は平和に過ごせていた。

 

それが噴火の前に作られるタメのための静寂であったと……

 

 

 

 

 

 

俺は後に知ることになるのだった……。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「遠坂~」

 

夜。

衛宮家の夕食が終えた後、士郎は凜を探していた。

先日の柳洞寺の一件にて、キャスターには手を出すことは難しくなってしまったが、それで止まっているわけにはいかない。

聖杯戦争は合計で七組で行われている。

先日セイバーが吹き飛ばしたライダーをのぞけばまだ合計で六組。

殺し合いを行っている割にはずいぶんと進行が遅いといえなくもない。

 

……早くこの戦争を終わらせないと

 

正義の味方として、この戦いを終わらせるために参加した士郎。

その想いは今でも変わっていない……本人(・・)はそう思っていた。

 

だが、それが揺らいでしまっていることは……先日の柳洞寺にて、刃夜に言われた一言で発覚している。

 

正義の味方としての責務を果たそうとすらもしなかった己自身。

命の恩人であり、自分の今のあり方を示してくれた切嗣(養父)との約束。

それが揺らいでいることに本人は気づいていない。

だからこそ士郎は焦っていた。

何か行動を起こしていなければ不安に思ってしまうほどに……。

 

 

 

そしてその焦りこそが……彼が変わり始めている兆候だった……

 

 

 

後は遠坂の部屋だけど……

 

一通り自分の家を探し終えて最後にきたのは当然のように凜が寝泊まりしている部屋だった。

客間の一室。

純和風と言っても差し支えない衛宮家で、唯一フローリングの部屋であり、一応ベッドもある部屋だ。

彼女は来訪した瞬間にめざとくその部屋を占領……自宅から自前の魔術道具も一式持ってきていた……していた。

そして先日……士郎が手痛い目に遭った場所である。

 

……綺麗だったな

 

憧れていた遠坂凜という存在。

凜は街を歩けば十人中九人は振り向くと言ってもいいほどの美少女だ。

対して接点のなかった士郎にとっても、凜の容姿にひかれたことは否定できなかった。

だがふたを開けてみればびっくり……凜はものすごいほどに猫をかぶっていた。

聖杯戦争にて知った「優等生」としての遠坂凜ではなく、「魔術師」としての遠坂凜は、全くと言っていいほどに別人だった。

それによって士郎が抱いていたあこがれが木っ端みじんに吹っ飛んだことは想像に難くない。

だがしかし、それとは別に凜というのはなんだかんだで人情家というよりも、「いいやつ」なのである。

魔術師として冷酷であろうとしている凜にとってはその評価は納得のいかない物であるだろうが、それでもそれは事実であり、士郎もそんな凜にひかれていた。

 

そして初めて見る……生々しい女体が初と言ってもいい士郎の脳裏に刻まれてしまうのはある意味で当然といえた。

 

な、何を思いだして居るんだ俺は!?

 

一瞬凜の下着姿を思い出しそうになって士郎はそれを勢いよく首を振ることでかき消した。

凜の部屋……一時的ではあるが……の前でうんうんうなりながら顔を赤くして首を振るっているのは怪しいことこの上なかったが、誠に残念ながらそれを見ている人間は誰一人としておらず、士郎が赤っ恥を知ることはなかった。

 

それよりもまずは相談を……

 

当初の目的を思い出して、士郎は煩悩を追い出して扉をノックした。

 

 

 

さすがに先日痛い目にあったばかりなので再度同じミスをすることはなかったようだ。

 

 

 

「遠坂? いるか?」

「……なに?」

 

不機嫌、とは言わないまでも少々素っ気ない感じの声が扉から帰ってくる。

というよりも何かを集中して行っているような感じの声だった。

それを感じ取り、士郎は静かに相手の作業が終わるまで待った。

そしてそう時間を待たずに……

 

「いいわよ衛宮君。入ってきて」

 

という許しが出た。

が、それでも一瞬だけ躊躇する士郎。

 

……女の子の部屋にはいるのは少し気が引けるな

 

しつこいかもしれないが士郎は初心である。

良くも悪くも正義の味方になることを目指して生きてきた青年が、恋愛沙汰の出来事なんぞあったわけがない。

故に今の状況……セイバーと凜が同じ屋根の下で寝泊まりしている……は、士郎にとって少々刺激の強い物である。

だが許しが出ているのにもかかわらず、いつまでも立ちつくしているわけにも行かないので、士郎は勇気を出して、そのドアを開けて……

 

 

 

別の意味で驚愕した。

 

 

 

「……何やってるんだ遠坂?」

 

それが士郎の正直な感想だった。

凜が私室として利用しているその部屋の机に凜は座っていた。

その机と椅子に腰掛けて、凜が手にしていた物は……真っ赤な液体が入った注射器だった。

 

「? 何って見てわからない?」

 

見てわからないからこそ聞いているのは士郎の呆けて顔を見ればわかりそうなものだが、凜がそう返す。

凜の常識が当てはまるのならばそれも不思議ではなかったが、残念ながら士郎は凜の常識には当てはまらない存在だった。

 

 

 

「まっとうな魔術師」ではない、士郎には。

 

 

 

「わからないから聞いてるんだけど……」

 

血を抜いた後と思われる、赤い液体が充填された注射器を若干引きながら見て、士郎はそう言葉を返す。

それに取り合わずに凜は何か呪文のような言葉を口にして、その赤い液体を右手に持っている一粒大の宝石へと垂らした。

それは普通であれば宝石を伝い、申し訳程度におかれている机へと垂れるはずだった。

だがそれは垂れることなく、まるで宝石が吸収したかのように消失した。

それを見て士郎が驚きに目を見張った。

行っている行為が魔術行為であることはわかっているが、逆に言うとそれだけしかわかっていなかった。

 

これが遠坂家の魔術移動だった。

血液はまさに命そのものといっても過言ではない。

神秘的なことを言えば、そこに魔力(オド)があっても不思議ではない。

普段のその余剰の魔力(オド)を、こうして宝石へと蓄積しているのが凜の日課だった。

欠点としては……移動させる物体が「宝石」であるためにものすごく金を喰うことである。

何せ、親指と人差し指で○を作れるほどの大きさだ。

その値段は押してしかるべしである。

それを少しでも安く仕入れるため、凜は宝石を主に中古の骨董屋から買い取っている。

安くするためだけではなく、人の手から離れた宝石の方が魔力をいれやすいという理由もあるが。

また宝石に魔力を移すという行為を十七年間、たゆまなく続けてきた十の宝石が、凜にとっての切り札だった。

ちなみにその宝石……凜が十七年間、魔力充填した宝石……は、円単位で八桁ほどするらしい。

 

「こんなの基礎中の基礎だと思うんだけど……。って、そういえば衛宮君の工房ってどこにあるの?」

 

工房とは、その魔術師独自の魔術の研究するための場所である。

遠坂家においては、凜がアーチャーを召喚したときに使用した、地下室がそれに該当する。

工房とは当然他人に見せる物ではない。

それは凜もわかっていて、それを確認することで間違って侵入してしまうことを回避するための質問だったのだが……結論から言うとそれは無意味だった。

 

「ないぞ、工房なんて」

 

士郎からの言葉はそれだけだった。

 

「え?」

「いやだから工房なんてな……あ、でも土蔵がそれに近いかな?」

「工房がないって……どういうこと?」

「? 言ってなかったっけ? 俺まともな訓練を受けてないんだよ」

 

工房がないことの理由は、それだった。

本来であれば、一子相伝の技術である魔術。

仮に姉妹(・・)だったとしても、実の子供二人に教えるわけにはいかなかった。

その場合は養子に出したりもする。

しかし士郎にはそれが当てはまらない。

切嗣の養子である士郎に、切嗣が魔術を教えることは本来あり得ないことなのだが……切嗣自身が魔術師としては異端だったこと、そして士郎が頼みに頼んで強引に教えてもらったことで、自分の工房すらも持たない……普通では考えられないような魔術師が誕生していた。

 

パートナーの戦力を把握していないというのは、結構抜けていると言わざるを得ないだろう。

確かに聖杯戦争が始まってからの数日は、めまぐるしい状況だったことは間違いない。

だがそれを差し引いても士郎も凜も甘い。

士郎はまだいいかもしれない。

何せ自分が凜のいうへっぽこだというのは重々承知しているし、士郎は凜がすごいことは身にしみて理解している。

だが凜はどうだろうか?

自分よりも劣っているのがパートナーであるというのならば、相手のことを知っておかなければ自身の命が危ない。

何せ下手をすれば命を預けることになる相手なのだ。

それがどの程度のことが出来るのか、知っておくというのは命の掛け合いにおいては非常に重要になる。

 

が、これを行っているのは間違いなく遠坂凜の「うっかり」と言っていいだろう。

 

そしてそれを聞いた今現在……凜はこめかみを指で押さえて気むずかしい顔をしていた。

 

「気づくべきだったわね。あんたがへっぽこだったんだから、それも当然なのかもしれないけど……」

「へっぽこって……」

 

ずいぶんな言いぐさにさすがの士郎も少し凹んでしまうが……それも事実なので士郎も強く言い返せなかった。

そして簡単な事情を説明する。

別段話すこともないと思ったため、士郎は深い事情……切嗣の養子であること、つまりは冬木の大災害の被災者だと言うこと、魔術を教わった経緯など……までは説明せずに、自分が出来る魔術のみを教えた。

 

「強化だけ!?」

「あ、あぁ」

 

凜の驚愕の声が、客間に響き渡る。

士郎が主に使えるのは「強化」という魔術のみだった。

それも失敗だらけでとてもではないが信頼の置ける力ではない。

強化とは文字通りの魔術で、存在している物体に自分の魔力を通すことで飛躍的に耐久力を上げる魔術である。

しかし、強化はそれ以上のことは出来ず、また物体がなければ使用できないため、「ないよりはあったほうがいい」程度の存在でしかないといえる。

凜のように優秀な魔術師であれば、驚愕の声を上げてしまうのもある意味で無理からぬことだった。

だがしかしそこで終わらなかったのは、凜にしては珍しく「うっかり」をしなかったと言っていいだろう。

 

「あなたって本当に強化の魔術しか使えないの?」

「? どういう意味だ?」

「系統の中にある別の魔術が使えるんじゃないの?」

 

系統とはその言葉通りの意味だ。

炎を使用した魔術でも様々な系統の異なる魔術が存在する。

簡単な話だが、単発の炎なのか、爆発するたぐいの魔術なのか……という具合に。

そしてそれらに得手不得手があっても不思議ではない。

凜が言っているのは「強化」の系統の魔術の中に別に使える物があるのではないか?と聞いているのだ。

 

「確か変化と投影(・・)だったよな?」

 

その程度ならば士郎も切嗣から話を聞いていた。

しかし残念なことに士郎はどちらも不得手だった。

切嗣も、対して使い道のない魔術を、得意でもないのに学ぶ必要はないと言って、協会外はほとんど使用していない。

 

「まぁそうよね。普通の投影(・・・・・)じゃ使い道はないものね……」

 

以前にも説明したが、「投影」は術者のイメージが完璧でなければ使用も出来ず、効果は一瞬。

さらには燃費も非常に悪いためにほとんど好まれない、使い道のない魔術である。

「変化」も物体に本来と異なる性質を与えるだけであり、元の物体とかけ離れた変化は不可能なので、扱いづらいものだ。

故に強化だけに修練を行ってきたのは別段問題はない。

 

 

 

ここまでならば全く問題はなかったのだが、ここから先が士郎は問題だらけだったのだが……それは凜という優秀な人間であっても、そう簡単に見抜くことの出来ないほどの問題だった。

 

 

 

本人も、そして指導者(切嗣)も、凜も……

 

 

 

気づかない。

故に、凜が行う指導はごく普通の指導であった。

 

「わかったわ。なら実際に強化の魔術を使ってくれる?」

 

凜も指導できるほどの腕前……あくまでも強化の魔術ならば……であるがそれでも士郎よりも優れていることは疑いの余地がない。

故に、凜は士郎にとって唯一の得物である「強化」をどうすればいいのか考えるために、士郎に実演させるのだが……

 

……何これ?

 

実演を見た凜の感想がこれだった。

そう思われている当の士郎はというと、座禅を組んで目をつむって、真剣に自己流(・・・)の強化を起こっている最中だった。

玉の汗を浮かべているその表情は真剣そのものであり、とてもふざけている様子には思えなかった。

 

……まさかこいつ、ずっとこれを続けてきたわけ?

 

これを見た凜は内心で士郎の師に対しての怒りを覚えたが……怒ったところでどうしようもないので、一つ溜息を吐いて士郎の魔術を終了させた。

 

「何だよ遠坂。まだ終わってな――」

「あんたのそれは強化って以前の話よ! ちょっと口開けて」

「? こうか?」

 

何故起こっているのかわからない士郎は、理不尽に思いながら……すでに逆らっても無駄だとわかっているのだ……も、言われるがままに口を開ける。

その口内へと、凜は問答無用で宝石をぶち込んだ。

 

――なっ!?

 

突然のことでそれをはき出すことも出来ず、士郎はそれを飲み込んでしまった。

そしてその瞬間……

 

ドクン!

 

「がっ……」

 

すさまじいほどの苦痛が士郎を襲った。

 

「いい、衛宮君。あなたは根本的なところから間違っているわ。魔術回路ってのは毎回一から作り出す物じゃないの。それは切り替える物なのよ」

 

凜の言うとおりで、士郎が行っているのは強化の魔術ではなく、なんと魔術回路の生成だった。

一度作ればそれですむ物を、士郎は毎日のように生成したのだ。

指導してくれる人間がいなかったとはいえ……一歩間違えれば死に至ることがありえる行為である。

しかしそれでも士郎は毎日その命を掛けてそれを行っていた。

 

 

 

正義の味方になるために……

 

 

 

「まったく、正気の沙汰じゃないわ。あんたの回路は長い習慣で変な癖がついちゃってる。今飲ませた宝石の魔力で体内から魔力を活性化させて矯正できるわ。少し辛いかもしれないけど、我慢しなさい」

「つっても……これは洒落になって……な……」

「死ぬことほどじゃないわよ。荒療治だけど我慢しなさい」

 

そして士郎の意識は闇へと飲まれた。

その後なんだかんだで倒れてしまった士郎の看病をしたり、セイバーを呼びに言って看病を手伝ってもらうなどを行う凜。

いくら相方とはいえ、やすくはない宝石を躊躇なく飲み込ませて士郎の間違いを正してあげたり、なんだかんだで看病してしまう凜は、やはりお人好しなのだろう……。

 

 

 

ちなみにその後、セイバーが看病している最中に士郎は目を覚ました。

時間にしてほんの数時間しか倒れていなかったことになる。

本来であればまる一日前後は動けないと予想していた凜は、偉く驚いていた。

その後、強化を一瞬にして行うほどに上達した士郎が喜んでいたのだが……

 

「まぁ、木の棒から粗末な剣に変わったくらいよ。過信はしないことね」

 

と、さらりと毒舌を言われ……実際その程度のレベルでしかない……て涙する士郎だった。

 

 

 

これはセイバーと士郎の関係に大きく原因があるのだが、それを見抜くことが出来ない……というよりもそれがどういった原因かを考えなかった……のが、やはりうっかりの「遠坂家の血」なのだろう……。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「刃夜さん! おつとめご苦労様です!」

「……あなた方にそれを言われると、まるで俺が刑務所に入ってたみたいだからやめてもらえませんかねぇ?」

 

そしてイリヤが帰って夕刻。

俺は小次郎と供に愛用の道具と材料を持って藤村組へと足を運んでいた。

そしてひたすらに包丁を振る……えなかった。

一通りつまみを作らされたら、なんと俺を囲んでの宴会に移行してしまったのだ。

と言うか雷画さん、大河的にはそれが本来の目的だったみたいだ。

大河がすげ~暴走して大変だったことは、言わなくてもわかってくれるだろうと思う。

 

「相も変わらずうまかったぞ刃夜殿。さすがというべきかな」

「喜んでいただけて何よりです。若輩の身ながらこうして雷画さんに少しでもおいしいと思っていただけるのならば、作った甲斐があるというものです」

「謙遜せんでいい。すばらしい料理だったぞ」

 

そしてそれも終わり、俺は雷画さんに謁見の許可をもらい、こうして雷画さんの部屋にて二人で対面していた。

深夜といってもいい時間であるにも関わらずこうして時間をいただいていること、そして二人きりでこうして話をしてくださる雷画さんに、俺は心から感謝した。

 

「して……今日はどういった趣だ? また借地代とかいうのならば断るぞ? 今月分はもういただいているからな。それどころか今日の出張費を払おうとしても断りおって」

「こちらとしては、お世話になっている雷画さんからこれ以上のご厚意をいただくわけには……ってそうじゃなくてですね」

 

見事に話をそらされそうになってしまったが、俺はそれを普通に方向修正した。

そして、正座していた姿勢を再度改めて、俺は雷画さんの目をまっすぐと見つめた……。

 

「一つ……お願いがあります」

「何だ?」

「……少し、それこそ十日程でかまいません。旅行にでも行ってくれませんか?」

「理由は?」

「……いえません」

 

 

平行世界の住人である俺に戸籍をくれた、すむための家を与えてくれた、職すらも与えてもらった。

そんな大恩人に、事情を伝えることができないのが、すごく心苦しかった。

だけどそれでも、この複雑怪奇ともいえるこの状況を一般人に説明するのは難しいから。

だが……それでも……

 

「ふむ……そうか」

 

事情を説明もせず、無礼きわまりないことをお願いしているにもかかわらず、雷画さんは決して機嫌を損ねることも、怒ることもしなかった。

そして、当然のように……

 

「出て行くわけには行かぬよ、刃夜殿」

 

首を縦には振らなかった……。

 

 

 

 

 

 

「勘違いをするな、刃夜殿。別に事情を説明しないからここをでないと行っているわけではない」

 

きちんと正座をし、頭を下げていた刃夜君に頭を上げるように行って、私は言葉を続けた。

できれば事情を知りたいとは思うが……それでも刃夜君が事情を説明しない以上、わしがどうにかできることでも、理解できることでもないのだろう。

この今時にしては珍しい若者が事情を言わないと言うことはそういうことだ。

だから別に怒っているわけでも何でもないのだ。

 

「では……何故?」

 

「ここがわしの土地だからよ」

 

疑問をぶつけてきた刃夜君に返した言葉は、たったそれだけだった。

それをきて幾分か考えたようだったが……刃夜君はすぐにわしの考えに思い至ったようだった。

 

「ここは先祖代々、わしの血族が支えし土地よ。故にわしがここを離れることはあり得ない。それも……逃げるという理由でこの場を離れるなどもってのほかだ」

 

先祖代々よりこの土地を支配し、支え、街を守ってきたのがわしの……藤村組の目的であり願いだった。

 

その血族の末裔にして、現組長であるわしが、いくら手も足も出せないことであろうとも、逃げるわけにはいかなかった。

 

「で……ですが……」

 

「何、死ぬことになってもわしは老人よ。まだやるべきことはあるが……まぁお前さんよりはすくないわな」

 

目の前の青年は、それこそわしでも想像もできないような世界で生きているのだろう。

そういった世界で生きているというのならば、やることはそれこそ山積みだろう。

 

生きていくと言うこと……

 

罪を償っていくと言うこと……

 

きっと、わしよりも重かろうよ……

 

 

 

「故にわしは逃げぬ。それに……」

 

 

 

「それに?」

 

 

 

何を言うのかわからない。

そういった表情の刃夜君に、わしは心の中で苦笑した。

 

まだまだ……子供よのう……

 

二十歳前の青年であるのだからそれも当然なのかもしれないが。

そんな刃夜君の年相応なところを発見したことを嬉しく思いつつ、わしはさらに言葉を放った。

 

 

 

「おぬしが何とかしてくれるのだろう? その状況を……」

 

 

 

渦中の人物であろう刃夜君が、身命を賭して物事に当たっているのは想像に難くない

 

ならば、この目の前の人物がきっと……何とかしてくれるだろう

 

訳ありなのは考えるまでもなかったこの青年のために、身分を与えた、職を与えた

 

別段そういった算段があったわけでもない

 

孫がひいてしまったということ

 

ただ土地にある店を腐らせるのももったいないと思ったから与えただけのこと

 

頼まれていたことでもあったこと

 

だから刃夜君がそこまで恩義に感じることはない

 

わしとしてはこちらから礼を言いたいくらいなのだ

 

それでもこの青年の心がそれで軽くなるのであれば、わしはこの青年のためにそれを与えよう

 

 

 

それをしてくれさえすれば……わしはもう何も言わぬよ……

 

 

 

言葉にはしない

 

それでもわかるであろうから

 

刃夜君はすぐにわしの意図に気づき……一瞬だけ目を見開いた……

 

そしてすぐに、顔を引き締めた……

 

 

 

「御意に……。この命に代えましても……」

 

 

 

「若者がすぐに死ぬなんて言うもんじゃないぞ刃夜君。生きてお主の国に帰るがいい」

 

 

 

若者にすべてを任せるというのがすこし心苦しかったが……素人がしゃしゃりでる物ではないので、わしは刃夜君に、わしの命を預けた。

 

 

 

 

 

 

そして刃夜君は一度うなずくと、大河に呼ばれてすぐに部屋を出ていった。

それを見届けると、わしは隣の部屋の襖を開ける。

 

「……あれで本当によかったのですか?」

「十分じゃな」

 

襖を閉めて、その部屋に鎮座している人物の前へとわしは座った。

西洋風の服装がこの和室にずいぶんと浮いていたが……それでもそんなことなど些末なことでしかなかった。

 

この人自身が、明らかに浮いているからだ……。

 

雰囲気に浮いていると言うよりも……もはや「世界から浮いている」と言う感じである。

 

「えらく面倒なことを頼んですまなかったな雷画坊主」

「いえ、全く持ってたいしたことはしておりませんが……あの青年とはどういった関係で?」

「別にあの小僧と直接面識があるわけではない。ただ昔お世話になった方のお孫さんでな。少し協力してほしいと言われたからな」

「ほぉ、あなたほどの方が世話になったとは……。刃夜君の祖父の方はよほどすごいと言うことですかな?」

「そういうことになるな」

 

そう一言いうと、席を立った。

いつものように……それこそわしが子供の頃からまったく変わっていないそのままの感じで……。

 

「どちらへ?」

「何、話にでたら久しぶりにお会いしたくなってな。ちょっと行ってこようと思ってのう。わしとおなじことを剣技のみで至った馬鹿者もおるからもっと見ていたかったが……まぁ別に構わぬだろう。あの人に見せてもらえばいい」

 

意味のわからないことを言っている。

が、それはいつものことで今に始まったことじゃない。

そもそもこの人を理解できるはずもない。

そうしてわしが考えていると襖を開けて外へと出た。

それに続いて出たはずなのに……もうそこには姿がなかった。

 

……相も変わらず不思議なじじいだ

 

それですませていいことではない気がするが……それでもその程度でどうこうできる存在ではないので、そう思うしかないのだ。

 

後は君次第だ……。刃夜君……

 

彼が何を思ってこの状況に身を投じているのかはわからないが……それでも彼が懸命に何かをしているのは事実だ。

だから……

 

「わしは、応援しておるよ」

 

月夜を眺めながら、そんなことをつぶやいた。

 

 

 




外道B
B-よりランクアップ
ステイナイトの世界においても外道の道を歩もうとしている刃夜。
ある意味で必然のランクアップ。
少女の純粋な想いを、踏みにじることになるであろう青年に捧ぐ。
当然戦闘行為に対して影響力はないwww




ステータスがランクアップしたね! 良かったじゃん刃夜www
外道刃夜の快進撃は止まらない!!!!
まぁもっとも外道になるのは第三作の話なんだけどね~
書くか謎だし、書けるかも謎だが……


さてさて、個人的恋愛面での傑作でしたが、いかがだったでしょうか?
こんなの美綴さんじゃない!
って思う方もいらっしゃるでしょうが、私としては結構な力作です。

あぁ……こんな恋愛がしたかった……

と思うのは密かに内緒ですwww
あ、でもこんな恋愛となると、刃夜みたいな目に遭うのか?
ならやっぱりいいやwww

対価なくして、結果は得られない……

と名言っぽいことをいってみるぜ!?

そして激しく今更ですが……



祝、月夜に閃く二振りの野太刀 一周年~~~~



2011/11/19に、R?MH終了と同時に開始したこの作品は、先日一周年を迎えました~
これもひとえに呼んでくださっている皆様のおかげです!
あれ? 一周年? ……一年経っちゃった?

半分も進んでないのに……(遠い目)

前回のエヴァの感想ぶちまけた日だったんだよね~
馬鹿だった……
高校時代の友人がその日にエヴァ見に行ったから電話してきて話してたらそれで完全に逃してしまった……俺の馬鹿

まぁいい

そしていつも世話になっている編集者HM様とアイディア提供者TT様のおかげでもあります!
先日もね!
飲み会でとんでもないことになっちゃったwww
主に外伝とか番外編とかそんなところがwww
それを書くためにも、R?MHの時に比べたらもうカタツムリ以下の速度となっておりますが、がんばる所存でありますが故に、これからもお読みくださると嬉しいです!


と、風邪でのどがやられた馬鹿が言ってみるwww

皆さんも風邪には気をつけましょう!



次回はまぁ……正月以降かな~

速くいろいろと書かないとね!!!
ではでは~
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