月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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進むたびに刃夜の出番が減るんだけど……

なんかこのまま「主人公(笑)」とか「主人公空気」とかになりかねん……

まっいっかww

今回短め15000字くらい





追憶

月の綺麗な夜だった……

 

己はただ、何をするのでもなく、自分を引き取った存在である、養父の衛宮切嗣と月を眺めていた……

 

冬だというのに、あまり肌寒くなかったことを……よく覚えていた……

 

自分を引き取ってからも、頻繁にそして長期にわたって外出をしていた切嗣は、この頃あまり外に出ず、家にこもってのんびりとしていることが多かった……

 

 

 

 

 

 

まるで何かを諦めたかのように……

 

 

 

 

 

 

今でも思い出すと後悔する(・・・・)……

 

それが己の死期を悟ったからだということに……何故自分は気づかなかったのだろう……

 

冬の夜闇を淡く照らす月を、本当に綺麗だと思っているのか……それともすべてを諦めたからなのか……

 

 

 

切嗣の横顔はただ、ただ……穏やかだった……

 

 

 

 

 

 

「子供の頃……僕は正義の味方にあこがれていた……」

 

 

 

 

 

 

自分の命を救ってくれた「正義の味方」そのものの養父は、懐かしむようにそんな言葉を口にした……

 

それに対して自分は、むっとして言い返していた……

 

自分にとって正義の味方だった切嗣が、それを口にしたのが、悲しかったから……

 

 

 

「残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと……もっと早くに気がつけばよかった」

 

 

 

自嘲気味に笑う……養父……

 

それを言われて何故か納得していた……

 

 

 

その言葉に込められた感情にも……気づかずに……

 

 

 

何でそうなのかわからなかった……

 

だけど切嗣が言うことなのだから間違いがないと思ったのだ……

 

自分を救ってくれた存在を追いかけた……

 

少しでも近づきたくて魔術も教わった……

 

そんな存在が口にするのだから……間違いないのだと……

 

「そっか。それじゃしょうがない」

 

 

 

 

 

 

「そうだね……。本当に……しょうがない」

 

 

 

 

 

 

苦笑しながら、切嗣は相づちを打った……

 

見上げるその先にある月を……本当に穏やかな笑みで見つめながら……

 

だからこそ……次の自分の台詞は決まっていた……

 

 

 

 

 

 

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。爺さんはもう大人だから無理だけど、俺なら大丈夫だろ? まかせろって。爺さんの夢は……」

 

 

 

 

 

 

――――――俺がちゃんと、かたちにしてやっから

 

 

 

 

 

 

そう言い切る前に、養父は……切嗣は微笑(わら)った……

 

続きなんて聞くまでもないって言う、顔をしていた……

 

切嗣はそうか、と長く息を吸って……

 

 

 

 

 

 

「あぁ――――――安心した……」

 

 

 

 

 

 

静かにまぶたを閉じて……その人生を終えていた……

 

それを見ても自分は騒がなかった……

 

あまりにも穏やかだったから……

 

 

 

そしてそれ以上に……死に見慣れていたから……

 

 

 

何をするでもなく、満月を見て……

 

 

 

 

 

 

そして(士郎)を見て……

 

 

 

 

 

 

父親だった人は、長い眠りへと入ったのだ……

 

 

 

 

 

 

冬だからか、庭にも虫の声はなく、辺りはただただ……静かだった……

 

 

 

だけど月夜に照らされた明るい闇の中、両目だけが熱かったことを、覚えていた(・・・・・)……

 

 

 

それが、五年前の冬の……月が美しかった夜の話……

 

 

 

当時の自分はあまりにも幼くて……

 

 

 

その言葉の意味を考えられず、感情もとらえることが出来なくて……

 

 

 

 

 

 

だけど、切嗣からもらった確かな物があって……

 

 

 

 

 

 

藤ねえの親父さんに葬儀の段取りをしてもらって、この屋敷に一人で住むようになった……

 

 

 

切嗣のような正義の味方になると誓ったのだから、のんびりしている余裕はなかった……

 

 

 

それ以来、自分なりに研鑽を続けていた……

 

 

 

口にしたことはなかったけど覚えていた……

 

 

 

十年前、燃えさかった火事場の中で自分を助け出してくれた男の姿を……

 

 

 

火傷で、死にかけていたからか……そのときの表情はとてもよく残っていた……

 

 

 

そして助けられたという以上に……印象的な表情だったのだ……

 

 

 

助けてもらったのは自分のはずなのに……

 

 

 

『生きていてくれてありがとう』

 

 

 

『生きていて本当によかった』

 

 

 

表情がそう語っていて……

 

 

 

目に涙を流しながら……

 

 

 

 

 

 

まるで助けてもらったのは『自分である』とでも言うように……

 

 

 

 

 

 

それがすごく綺麗だったから……

 

 

 

そしてその人はそのときから……俺の憧れになった……

 

 

 

誰も助けてくれなかった……

 

 

 

誰も助けられなかった……

 

 

 

そんな中で、ただ一人助けられた自分と……助けてくれた人がいて……

 

 

 

 

 

 

だからそういう人間になろうと誓ったのだ……

 

 

 

 

 

 

なのに……

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

俺は……

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「……ぅ」

 

ゆっくりと浮上した意識は、日頃の鍛錬のおかげなのか、それに逆らうことなく士郎は目を覚ました。

夢を直前まで見ていたせいなのか、目は覚めてもぼんやりとしたままだった。

まともな布団すらもろくにない土蔵で寝てしまったために、体の節々が痛かったが、士郎はそんなことなど気にしなかった。

 

……久しぶりに見たな

 

今見ていた夢を、再度思う。

 

 

 

何故気づかなかった(・・・・・・・)のだろうと……

 

 

 

だが今となってはすべてが遅い。

 

切嗣はとっくに鬼籍へと入ってしまった。

 

命を救われて、なくなってしまった帰る場所と……家族を与えて、逝ってしまった人だった……。

 

士郎はそれが寂しいとは思わない。

 

最後に見た切嗣の横顔は、本当に安らかだったから……

 

 

 

そして何かを思い出したかのように……懐かしそうに微笑を浮かべていたから……。

 

 

 

何か見失っていた物を……見つけたかのように……。

 

そのときの微笑が、士郎には偽りだと……嘘だとは、思えなかった。

 

 

 

それが例え、その生涯において何も成し遂げられず、何も勝ち取れなかった男の……最後の微笑みだったとしても……

 

 

 

その笑みに嘘がないと知っていた……だからこそ士郎は寂しいと思ったことは一度もない。

養父(切嗣)は安心して眠ったのだから……。

養父と二人でも相当に広かったこの屋敷は、たった一人になってしまったがためにさらに広々と感じてしまう。

だけどそれに不満を言うことは当然無く、士郎はただひたすらに日々努力していた。

 

 

 

切嗣から託された……この胸に宿した、想い(正義の味方)を成し遂げるために……

 

 

 

 

 

 

なのに……

 

 

 

 

 

 

それを果たせなかった……否、それを果たそうともしなかった自分を見て、切嗣はなんと言うだろう?

刃夜の言っていたことに一理はあったかもしれない。

だがそれでも、士郎は正義の味方として反論しなければならなかった。

そして、例え無謀であろうとも、戦わなければならなかった……。

絶対勝てないという意味では同じだが、それでもバーサーカーにつっこむことと、刃夜につっこんでいくことでは、圧倒的に後者の方がまだ行いやすい。

士郎はもとより、凜もセイバーもアーチャーも知らないことだが、仮に刃夜に襲いかかっても、刃夜は士郎や凜を殺すことはしない。

不殺という己に課した枷があるからだ。

恨みの連鎖を止めるために、刃夜はこの世界(・・・・)の人間を殺すことはほとんどあり得ないと言ってもいい。

仮に殺されることになっても……それをするのが正義の味方として正しいあり方かもしれない。

 

 

 

だが、士郎にはそれができなかった……

 

 

 

……何でだ?

 

 

 

冬の夜気によって冷やされた空気の冷たさが……そんなことを思い起こさせているのかもしれない。

そしてそれを悩んでいたとき……彼女が土蔵へと入ってきた。

 

「先輩? 起きてるんですか?」

「あ、あぁ桜。起きてるよ」

 

自分を呼ぶ声に、士郎は思考を中断して立ち上がった。

入ってきたのは、朝夕に衛宮家の食事の手伝いをしにきている桜だった。

桜が家にきたと言うことで、いつまでも思考にふけっているわけにはいかなかった。

何せ朝は忙しい。

これから朝食の用意をしなければいけないからだ。

 

「参ったな、少し寝坊した。桜、朝練だろ? すぐに飯の支度するな」

「あ、じゃあ私も手伝いますね。でもその前に顔洗ってきてくださいね先輩。先に行ってますから」

 

土蔵の小さな窓から差し込む朝日に照らされながら、桜は笑った。

朝ご飯を作るのを手伝うのが嬉しいと、そういうかのように。

 

 

 

朝日に照らされた、桜の笑みが視界に写った……

 

 

 

それを見て、士郎は思わずといったように、少しだけ声を漏らしてしまった。

 

「……ぁ」

「? どうしたんですか先輩?」

「い、いや何でもない。わかった」

 

それを言葉にすることが出来なくて、士郎はごまかして桜を先に行かせた。

その後ろ姿を見て、最初の頃と……あの頃と変わったことを思い出していた。

 

 

 

何故だろう? 自問するが当然のように答えが出るわけもない。

 

養父の夢を見たからか、それとも場所が同じだったからか……。

 

しかしそんなことはどうでもよかった。

 

士郎はもう一つの、忘れられない……忘れてはならない……出来事を思い出していた。

 

二年前……。

 

いや正確には一年半前……。

 

一昨年の夏の話。

 

怪我をした士郎の手伝いをするために……桜は衛宮家へ訪れていた。

 

うちに手伝いに来たいと言っていた桜に対して、士郎は何度もそれを断っていた。

 

それでも桜はあきらめず、強引であり、強情と言ってもいいほどに通い続けていた。

 

その根気に負けて、士郎は桜を土蔵へと呼びつけて、降伏宣言をしたのだ。

 

 

 

『桜には負けた。だからこれをやる』

 

 

 

そう言って士郎が取り出したのは、古い鍵だった。

 

土蔵にしまっておいた切嗣が使っていた家の鍵を、士郎はそこで桜へと手渡したのだ。

 

それを渡されそうになった瞬間、今までの強引さはどこへ行ったのか? 桜は驚いてしまい、恐縮してそれを断った。

 

自分は他人なのだから、合い鍵なんて物は受け取れないと、そういって……。

 

今でこそ普通となっている、毎朝毎晩の手伝いに。

 

 

 

それをしに来ると言っていたにもかかわらず、断ってしまったそんな素っ頓狂な桜に……

 

 

 

 

 

 

士郎はこういった……

 

 

 

 

 

 

『あのな、毎日手伝いに来るくせに他人も何もあるか? これからは好きにうちを使ってくれ』

 

 

 

 

 

その言葉に驚いている桜を見ないようにそっぽを向きながら、士郎はさらに言葉を続けた……

 

 

 

 

 

 

『その……その方が俺も助かる』

 

 

 

 

 

 

ひょっとしたら、士郎はうれしかったのかもしれない……

 

 

 

切嗣が逝ってしまって以来、ほとんど誰も来なかったこの家に、人が増えたのだから……

 

 

 

そして強引に鍵を押しつけたのだ……

 

 

 

 

 

 

そのときに……士郎は見たのだ……

 

 

 

 

 

 

『はい、ありがとうございます、先輩! 大切な人から物をもらったのは、これで二度目です!』

 

 

 

 

 

 

幸せそうにうなずき、満面の笑みを浮かべた桜を……

 

 

 

 

 

 

あぁ……そうか

 

 

 

 

 

普段はあまり気にしていなかった……

 

だけれども、心のどこかで思っていたのかもしれない……

 

それが……引っかかっていた物がとれた思いだった……

 

桜はいつも一生懸命で、柔らかく微笑むことは士郎もよく知っていた……

 

 

 

だけれども、あんなにも満ち足りた笑顔を浮かべたのは……

 

 

 

 

 

 

士郎が知る限りで、それっきりだったのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は忘却していく生き物である……

 

 

 

嬉しかったことも……

 

 

 

悲しかったことも……

 

 

 

辛かったことも……

 

 

 

苦しかったことも……

 

 

 

悔しかったことも……

 

 

 

くだらないことも……

 

 

 

忘れてしまいたいことも……

 

 

 

覚えておきたいことも……

 

 

 

覚えておかなければならないことも……

 

 

 

 

 

 

そして……大切なことも……

 

 

 

 

 

 

それは人間の本能といってもいい……

 

 

 

すべてのことを覚えておけるわけもない……

 

 

 

脳に蓄積された情報(記憶)を整理し、思い出という枠へとくくり……

 

 

 

そして最後には忘れてしまう……

 

 

 

時間とともに……忘却されていく……

 

 

 

それが罪なのかどうかはわからない……

 

 

 

だがそれでも……士郎は忘れてしまっていたのだ……

 

 

 

 

 

 

それが……失ってはならない(感情)だということに……

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

トントントン

 

士郎が顔を洗って身支度を整えてから台所へと行くと、すでに桜が朝食の準備を始めていた。

その姿はずいぶんと様になっており、そして風景になじんでいた。

この朝と夜の食事を作りに来るという生活が始まってすでに一年以上経っている。

それも当然(・・)のことだった。

そしてそれが(・・・)……この光景が……当たり前だと言わんばかりに、士郎はいつものように自分も桜と同じようにエプロンを着けて桜に並んだ。

 

「もうほとんど終わっちゃってるな。悪い、ほとんどやらせて」

「いえ、大丈夫です。私が勝手におじゃましてるんだから気にしないでください」

 

仲むつまじく、朝食の準備をすませていく。

一年以上こういった生活をしているのだから、それもある意味で当然だった。

今では互いに何をどうすればいいのか、一言二言言葉を交わせばわかってしまう。

この台所にある物は、士郎だけでなく桜も当然のように熟知していた。

とても心温まる風景だと言っていいだろう。

 

 

 

だが、それをあらゆる意味でぶちこわす存在がきていた。

 

 

 

「……ぉはよ~」

 

 

 

入ってきたのは、成績優秀品行方正眉目秀麗な凜だった。

しかし普段のその、「高嶺の花」という言葉が服を着て闊歩しているかのような人間とは思えぬほどに、目が死んでいる。

死んでいると言うよりも、まだ目が覚めきっていないのか焦点が微妙にあっていない。

雰囲気と相まって、ぬぼ~っ、というような擬音が似合いそうな面構えである。

そのあまりにもあまりな姿に、士郎だけじゃなく桜さえもぎょっとしていた。

先日から居候……ということになっている……しており、共同生活をしてすでに数日の日数が経っているが、未だに慣れない物は慣れない士郎と桜だった。

 

「あ、あぁオハヨウ」

 

加えて言うのならば、士郎は凜にあこがれを抱いていたために……その思いは一入だった。

 

「……牛乳もらうわよ」

「あ、あぁ。遠坂、コッ――」

 

コップ、と言いかけて士郎の言葉は止まった。

コップを取り出して差し出す前に、腰に手を当ててパックのままぐいっと直接口をつけて、実におっさんのような仕草で飲んでいる凜に絶句したからだ。

もはや言葉にならない思いを抱きながら、それを何ともいえない目で見つめていると、それに凜が気づいた。

 

「……ん? あぁ、ごめんなさい。私、朝は弱いから気にしないで」

 

牛乳を飲んで少しは目が覚めたのか、先ほどよりはまだましな口調で言葉を発する凜だが……おっさんくさい飲み方の弁明をするつもりはなかったようだった。

 

「……まぁいいけど」

 

何を言っても無駄だとわかったのか……はたまたすでにそれを学習しているのか……内心で苦笑しつつ士郎は取り出したコップをしまった。

そして再度朝食の準備へと戻った。

 

 

 

そんな自分を見ていた視線に気づかないままに……

 

 

 

 

 

 

「「「「いただきます」」」」

「いっただっきま~す!」

 

朝食の準備が出来て、衛宮家の食卓に食事のあいさつの合唱が響いていた。

一人は元気すぎるほどに元気に、残りの四人は普通……隠してはいるが、一人未だに若干眠そうにしているが……に感謝の言葉を言って、食事を始めた。

 

「はぐ、むぐ、うぐ、むぐ!」

「藤ねえ、少しは落ち着いて食ったらどうだ?」

 

盛大にかっ込みながら、あれよこれよと様々なおかずに手を伸ばし、まるで獣のようにむさぼる大河にさすがに士郎がそれをいさめる。

だがしかしその程度で止まるような存在が、大河であるはずがなかった。

 

「ふぁって! おいすんだもん!」

「わかった、俺が悪かった」

 

もはや言っても無駄だとわかったのか……というよりもすでにわかりきっていることなのだが……士郎はいさめるのを諦めて自分の食事を再開した。

 

「ふふふ、この食事風景も見慣れたものだけど、賑やかよね」

 

そんな二人の会話を、凜が微笑みながら……ちなみにすでに悪魔の皮を装着済み……そんなことを言っていた。

そんな凜に苦笑を返す士郎。

ちなみにセイバーは会話に参加せずに一心不乱……大河ほど荒れ狂っておらず、粛々と……に箸を動かしていた。

そしてセイバーがとろうとしていたおかずの卵焼きを、横から勢いよく伸びてきた大河の箸が強奪した。

 

「卵焼きもっらい~!」

「! 大河! それは私の卵焼―――」

「あんぐ」

「むっ!?」

 

セイバーの言葉に全く耳を傾けずに、大河が卵焼きを口に含み、それを一瞬で咀嚼して飲み込んだ。

 

 

 

それが……竜の逆鱗に触れるともしらずに……

 

 

 

「人の糧食を横取りとは……いい度胸です!」

 

戦場でもないというのに、それに近い激情を振りかざし、セイバーが大河へと斬りかからんと……ちなみに得物は当然のように不可視の剣ではなく、手にした箸である……襲いかかる。

ちなみにセイバーは士郎の食事が大好物である。

というよりも、昔の人間であるセイバーは食事に対しての思い入れが深い。

そしてそれ以上に、本人がきめ細かな食事を好む……彼女の宮廷では雑な食事を作る人間しかいなかった反動のようだ……ので、士郎の食事は至極彼女の嗜好にマッチしていた。

 

 

 

もしも仮にどっかの誰かさんが断食とかいって訓練を優先しよう物なら、完全武装……得物は竹刀だが、鎧装着&怒りによって手加減無し……でその誰かさんをフルぼっこにする位はする……。

 

 

 

「わぁ~よせセイバー! 追加で作るから藤ねえを倒すな!」

「離してください士郎!」

「離したら朝の食事風景がとんでもないことになるだろ!」

「……衛宮君も大変ね」

「傍観してないで手伝ってくれ遠坂!」

 

実にどたばたと騒がしく、冬の静かな朝の風景が一瞬にしてぶち壊れた。

大河が騒がしいことは以前と代わりがないのだが、それでも知る者がいればそれが今まで以上に騒がしいということがわかっただろう。

士郎、大河、桜の三人の頃であれば想像すらも出来ない……しつこいかもしれないが、大河が騒がしいことを想像するのはあまりにも容易だが……だろう。

切嗣が死んでしまってから、大河が一人の知り士郎を気遣ってこまめに足を運ぶだけでなく、保護者の代わりをしていたのも事実だった。

それが切嗣が死んでしまってからの……良くも悪くもそれが新しい衛宮家の日常だった。

そこに桜が増えた。

 

それから一年ほど……3人の食事風景が、衛宮家の日常だった。

 

永遠というものは当然のように存在しない。

だがそれでも、それが当たり前に……居場所だと思っていたのは確かだった。

そこに……衛宮家に再び新しい存在が登場した。

セイバーと凜である。

それは士郎にとっては嬉しいことだった。

 

 

 

例えそれが……殺し合いの協力関係にある人間だとしても……

 

 

 

別段寂しいことがいやだとは言わない。

平気といってもよかった。

だが、それがいやでなくても、平気であっても……喜ばしいことでもなかったのだ。

 

 

 

しかし……それを喜ばしいと思わない人間もいたのだ……

 

 

 

例えそれが……

 

深い、深い……

 

本人すらも気づいていない……

 

 

 

 

 

 

心の奥底にあった……感情であったとしても……

 

 

 

 

 

 

カチャン

 

「「「「?」」」」

 

それはあまり大きな音でもなく、当然のようにわざと立てた音でもなかった。

しかし何故かその音はぎゃーぎゃーと騒いでいた人々の耳に入った。

そしてその音の発生場所へと、皆が一斉に目を向けた。

その先にいたのは……

 

「ご、ごめんなさい」

 

茶碗を落とした桜がいた。

一斉に注目を浴びてしまったことで、恥ずかしかったのかもしれない。

その頬は若干の赤みを帯びていた。

それがよかったのか、セイバーもこれ以上不毛な争いを続けようとはせずにおとなしく席に着いた。

大河は、あまりにも恐ろしかったセイバーの気迫を浴びて、今後は手を出さないと誓ったのだった。

それからと言うもの、桜はミスの連発だった。

食器を片付けようとしてこけて食器破損。

食器洗いの洗剤を使い過ぎて空に……残量約七割が空に……する。

挙げ句の果てには玄関先でこけて士郎にパンツを見られそう……神速で士郎が顔をそらした……になった。

 

「す、すみません先輩!」

「いや、謝る必要はないけど……」

 

どうしたんだ桜のやつ?

 

それに首をかしげる士郎ほか数名。

衛宮家に生活してまだ日が浅いセイバーと凜も、朝晩の夕食の手伝いの手際の良さを見ているので首をかしげていた。

そんな桜を大河が心配して声をかける。

 

「桜ちゃん大丈夫? 朝練休んだ方がいいんじゃない?」

「だ、大丈夫です、藤村先生。ちょっとつまずいただけですから」

 

つまずいただけ。

とてもではないがそうは思えないような感じではある。

だが桜は意外に頑固だった。

自分がこうだと決めると、がんとして譲らないところも多々あるのだ。

 

 

 

そのことを、士郎はよく知っていた……。

 

 

 

だからこそ、心配ではあったが朝練をでることを止めはしなかった。

弓道部には大河のほかにも、頼りになる部長の美綴に、実の兄である慎二も居る。

だからこそ何かあっても対処できると思ったのだ。

そうして皆に心配されつつも、本人の言葉を信じて皆学園へと登校した。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「……よし」

 

昨晩研いで清水に浸しておいた愛用の包丁の仕上がり具合を確認し、俺は鋭く包丁を振るって水を切った。

 

研ぎ具合にぬかりなし……

 

時間はすでに朝の七時。

いつものように朝早く起きて訓練の後、小次郎と試合を……ちなみに俺が負けた。全敗記録更新中……行い、俺はもう一つの戦装束である板前の服を着て開店準備を行っていた。

美綴もすでに帰宅……というか朝練をするために弓道部へと行った。

最近物騒なので朝練しかできなくなっているらしく、嘆いていたがまぁ妥当と言わざるを得ないだろう。

 

昏睡事件も起きちゃったからなぁ……

 

学園の責任でないことはわかりきっているんだが……そこらを一般人に理解しろと言うのは無理があるだろう。

サーヴァントの宝具とやらが発動して、生徒全員が昏睡するなんて言うのは普通の人間に理解できるわけもない。

しかし理解できないからと行って何も対策を講じないのはいくら何でも無責任すぎる。

だからこそ放課後部活禁止と言うことになったのだろう。

 

まぁ部活が大好きな美綴にとっては悲しいだろうが……

 

「戦闘装束だけでなく、板前姿も様になるのだからお主はおもしろいやつだな、刃夜」

 

そうして戦闘準備を行っていると、準備をしている小次郎……野太刀の代わりに前掛け装備……が、俺へとそんなことを言ってきた。

 

「お前も結構似合っているぞ。野太刀なくても結構いけるな」

「ありがたく頂戴しておこう」

「さらに進化したいなら軟派をや――」

「おっと、それは聞けぬ相談だ」

 

言いたいことを先回りで回避されてしまった。

それに内心で溜息をしつつも、仕方がないと思うことにした。

 

言ったところで聞かないことはわかりきっていたのでまぁ割り切っておくことにした。

そして俺たちはそこで無駄話を終え、本格的に準備を開始した。

小次郎は食器類を出したり、お冷や、箸などの補充、テーブルの水拭き。

俺は料理の下準備、食材の確認などだ。

すでにこの程度の役割分担はすでに完全に分かれている。

 

まぁ小次郎はたいした料理できないしな……

 

以前に見た夢が真実ならば、料理などどうでもいいと考えていたことは想像に難くない。

そうでもしなければ剣技があれほどの腕前にはなっていないだろう。

ルックスもいいことも相まって、小次郎の接客は結構好評である。

 

まぁ女性客だけというのが少し複雑だが……

 

しかし正直な話、ここの立地では女性客に受けがよくなければ終わりである。

 

住宅街のただ中にある以上、主な客は女性……さらに言うのならば主婦が一番多くなるのは致し方ないことなのだ。

学生も結構くるが、それでも時間が限られる……主に放課後が主体になる……ので、そうなってしまうと一番多いのは間違いなく主婦だ。

平日の明るい時間は主婦同士のお茶会などで結構にぎわってたりする。

 

まぁ井戸端会議というか……会話主体になるからあまり注文自体は入らないが……

 

しかしそれでも閑古鳥がなくよりは遙かにましだ。

その主婦達の相手をしているのが主に……ちなみに俺も会話のタネにされる……小次郎だった。

 

人妻に手を出しそうで何度か怖くなったがな……

 

さすがにそれはしないし、俺がさせない。

人妻に手を出して問題にならないわけがない。

そんな激しくくだらないことで問題が起こってはたまらない。

そのときは令呪を使ってでも止めるだろう。

 

まぁそういった危うさは、あるようで……ないような……

 

【まぁ至極判断に悩むな】

 

そんな俺の自問自答に、封絶が入ってくる。

その言葉に俺はものすごく同意しながら……開店するのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

今日も終わった……

 

本日の授業が終了し、士郎はのびをしながら廊下を歩いていた。

日がだんだんと伸びてきたとはいえ、季節はまだ冬と言っても差し支えない。

廊下はあかね色に染まっていた。

 

今日はどうするかな……

 

聖杯戦争が始まって以来、あわただしい毎日を送っている士郎だったが、現在は半ば停滞期間に入ったと言ってもいいほどに、表面上(・・・)は平和だった。

それで気がゆるむほどさすがにおろかではないが……それでも学園の生徒が昏睡するような自体にもう陥らないと信じている(・・・・・)ためか、士郎は普段通りに過ごしていた。

 

否すごそうとしたといった方が正しいかもしれない。

 

……桜はどうしてる?

 

今朝の桜の様子は少しおかしかったことが頭から離れなかったのだ。

心配したところでどうにかなるわけでもないことは、士郎としてもわかっていたが、それでも様子を見にきていたのだ。

最初は弓道場へと顔を出したが、そこでも見あたらないので四階へと足を運んでいた。

すでに夕刻となっており、部活も禁止されてしまったので、廊下にも教室にもほとんど生徒の姿はなかった。

教師としても先日の昏睡事件の後のため、早めに学園を出たいのが本心なのかもしれない。

一心不乱に仕事をこなしていた。

 

「あ、シロー!」

 

しかしそんな仕草を見せずに、大河は見回りを行っていた。

放課後部活が禁止になっても居残っていては意味がないし、また念のためまた誰かが倒れていないのか見回りを率先して行っていた。

 

「藤ねぇ。桜を見なかったか?」

「桜ちゃん? 見回りし始めたばっかだからまだ見てないよ?」

「そっか」

「なになに~? 気になるの?」

 

獣の嗅覚か、はたまた獣の本能……どちらにしろ獣であることに代わりはない……か、ほとんど的確に士郎の気持ちを言い当てていた。

そしてまだ子供である士郎は、ものの見事に当てられてしまったがために、一瞬にして頬を廊下に負けないほどに赤らめた。

それをいたずら好きな獣が放置するわけもなく。

 

「おやおや~? 顔が赤いよシロー? どうしたのかな~?」

「な、何でもない!」

 

分が悪いと感じた士郎は何とか逃げようとしたが……しかし回り込まれた!

 

 

 

ドゥルドゥルドューッン♪(効果音)

 

 

 

タイガー(獣)に回り込まれた!

 

 

 

コマンド

戦う    タイガーの先制攻撃のため不可

魔術    タイガーの先制攻撃のため不可

アイテム  タイガーの先制攻撃のため不可

逃げる   タイガーの先制攻撃のため不可

 

 

 

未熟魔術使い(シロウ)は破れた……

 

 

 

「なんでさっ!?」

 

 

 

士郎の叫びがこだまする。

が結局奮闘むなしく少々遊ばれる士郎だった。

 

 

 

 

 

 

まったく、藤ねえめ……

 

ひとしきりからかわれたことで少々体力を奪われてしまった。

しかしからかうだけでなく最後にはきちんと「部活もないんだから早めに帰りなさいよ~」言っていたことにはうなずいておいた。

さんざんからかいながらも、教師としてはまじめに仕事をしているのは大河らしいといえるだろう。

大河に早く帰れと言われてしまったが、しかしそれですぐに帰ることはしなかった。

ここまできてしまった以上、このまま桜の様子を見ないままに変えるわけにも行かない。

そう思って士郎は桜のクラスをのぞいてみた。

 

どれ?

 

ひょい、っと一年B組の教室をのぞいてみた。

西日に染められた教室に、人の気配を感じさせないほどに静かだった。

人の気配はほとんどないにも関わらず……一人残された人影があった。

 

「桜」

 

人気のない教室に唯一残っていたのは、士郎が探していた間桐桜だった。

 

「……先輩?」

 

ぽつんと、おそらくそこが自分の座席なのだろう場所に座っていた少女がいた。

長い髪で夕日が照らされていないその表情には、あまりにも色がなかった。

 

「どうしたんですか? うちのクラスに何か用事でも?」

「いや、桜の様子が気になったから様子を見に来たんだけど……」

 

その言葉を聞いてさらに桜が表情を曇らせる。

朝から元気がなかったのがさらに容態が悪化したように士郎には感じられた。

 

「気分が悪いなら帰ろう、桜。今日はもう手伝いにも来なくていいから」

 

部活が禁止になってしまって以来、基本的に桜も部活を行わずに衛宮家へと直行して、晩ご飯の準備を手伝っていた。

しかし、今の様子を見る限りではとてもそんなことが出来ないだろう。

そう思った士郎はそう提案するのだが……。

 

「いえ大丈夫です。部活は今禁止ですけど、先輩のところで夕ご飯をごちそうになるんです。体調は大丈夫ですから……気にしないでください……」

 

この通り頑固だった。

彼女にとってはそれが支えだったから……。

 

 

 

その行動のすべてが自分の思いだけでなかったとしても……。

 

 

 

そして桜は逃げるように鞄をとって席を立とうとした。

だがその瞬間に桜がバランスを崩して倒れそうになった。

 

「!? 桜!」

 

とっさではあったが、士郎がのばした手はどうにか間に合い桜が倒れるのを防いだ。

しかしある意味で、士郎はそんな場合ではなかった。

 

軽い!?

 

思わず声を上げそうになってしまうところだった。

それほどまでに桜の体は軽かったのだ。

一年以上も接しているというのに、それを知らないかったことに、士郎は驚いた。

そしてそれ以上に心配になった。

 

「ほんとに体調悪いんだな桜。送っていくからもう帰ろう」

「……」

 

心配しているから、士郎はそう提案した。

だがそれでも桜は表情を曇らせるだけで、帰るとは言わなかった。

何が桜をそこまで駆り立てているのかはわからない。

だがこのまま続けていても、桜が意見を変えないことが、士郎にはわかった。

士郎は桜を座らせると自分も桜の前の席へと腰掛けた。

当然のように、桜がきょとんとしてしまう。

 

「あの、先輩?」

「わかったよ。どうしても手伝いに来るんだろ? それはもう止めないから少し休んでいこう。今のままだとうちにくる前に倒れるかもしれないだろう」

 

本来であれば止めるべきなのかもしれない。

だがこれ以上問答しても無駄だと思った士郎は、それをやめた。

早く帰れと言われながら、こうして校内に残るのはいいことではないのかもしれない。

それでも士郎は桜の主張を止めることはしなかった。

 

今朝の回想のせいかもな……

 

思い起こされた、正義の味方の始まりと、桜の家事手伝いのはじまり。

 

何故思い出したのだろう?

 

聖杯戦争という、殺し合いの最中で……。

士郎自身は気づいていなかったが、もしかしたら気づいていたのかもしれない。

 

 

 

どちらもが……聖杯戦争に関わっていたことに……。

 

 

 

「……」

「……」

 

静かな時間が過ぎていく。

すでに夕暮れの時間であり、教室は真っ赤に染まっている。

部活が禁止になったこともあって、辺りはすっかりと静まりかえっている。

二人は特に話すこともなく、ただじっと夕焼けを眺めていた。

 

……静かだな

 

桜はあまりおしゃべりな方ではなく、風景を眺めていることも多かった。

それだけではなく、一人の方が落ち着くのか、よく一人でいた。

教室に一人で残っていたのもそれが理由なのかもしれない。

元来として、桜は人と積極的に関わろうとしなかった。

士郎と大河は、彼女にとって特別なのだ……。

 

「……」

 

何気なく、士郎が桜の横顔を盗み見る。

士郎と桜の出会いは四年前。

慎二から紹介された時は、年齢のせいもあって少女と言うよりも女の子という印象だった。

しかし月日が経った今では、幼い面影もだんだんと消えつつあった。

 

……綺麗になったな

 

それが素直な士郎の感想だった。

前々から美人だったが、最近はそれ以上に美しくなっていた。

加えて気がよく利いて、性格も穏やかだった。

その上料理も一級品だ。

美点が多い桜は、学園の美少女である凜と並び称されていると言うことは、あまり噂に強くない士郎でも知っていたことだった。

 

……けど

 

逆を言えば士郎はそれしか知らなかった。

桜が普段学校でどう過ごしているのか?

弓道部でどう過ごしているのか?

そして間桐家で桜がどう過ごしているのか?

これだけ近くにいるのに知らないことだらけだったのだ……。

 

体の軽さにもびっくりしたし……

 

しかしだからといって馬鹿正直に女の子相手に体重を聞くような馬鹿なことはしないようだが。

 

「……先輩、覚えてますか?」

 

自問自答している士郎に、桜は窓の外を見つめながらそう問うた。

その声には、どこか懐かしむような響きがった。

 

「……覚えているかって何をさ?」

 

一瞬間が開いたのは、桜を見つめていたのに照れたからだった。

それに気づいているのかいないのか、士郎へと問いかけた桜は夕焼けに染まった校庭を、ただ眺めているだけだった。

 

「ずっと昔の話です。私がまだ、先輩を知らないときの話です」

「? ……つまり桜と知り合う前の話か?」

 

その質問の意図が士郎にはわからなかった。

覚えているのか?と聞いておきながら、知り合う前の話をする桜に。

しかしそれに取り合わずに、桜は話を続けた。

 

「はい。四年前、私が進学したばかりの頃です。まだ新しい学校になじめなくて、廊下を歩いているときに、不思議な人を見たんです」

 

懐かしむように微笑む桜。

それに何故かむっとしながら、士郎は桜の言葉を待った。

 

「あれは、どういう経緯だったんでしょうね。もう放課後で、グランドには陸上部の人もいない中、誰かが一人で走っていたんです。何をしているのか気になって見てみたら、その人、一人で走り高飛びをしていたんです」

 

くすりと、桜が小さく笑った。

それがどんな思い出なのかは、その笑顔を見ればすぐにわかった。

きっと桜にとっては印象深い思い出なのだろう。

 

「ちょうど今みたいに真っ赤な夕焼けだったんです。校庭も廊下も……グラウンドも真っ赤になってて。けどそれが寂しかった。そんな中に、一人でずっと走ってたんです。走って飛んで、棒を落としては戻してを繰り返して。周りには誰もいなくて、端から見ててもそれが無理な高さだってわかってるのに、ずっと飛んでたんです」

 

校庭を見続ける桜が浮かべる笑みがより深くなった。

きっと、今見ているその視線の先には、そのときの情景が浮かび上がっているのだろう。

 

「何とかできるような高さじゃないんです。だって棒の高さがその人の身長よりもずっと高かったんです」

 

それを黙って聞きつつも、士郎は不思議だった。

 

……それがどうしたんだ? 居残りなんて珍しくもないと思うんだけど

 

「私、そのときいやな子だったんです。いやなことがあって、八つ当たりしたかった。だから失敗しちゃえ、諦めちゃえって念じて、その人がくじける瞬間が見たかったから最後まで見てたんです。けどその人なかなか諦めようとしませんでした。そうしてずっと見てたら、こっちが怖くなっちゃいました。だって、何度も何度も、泣き言も言わずに繰り返してやるから……」

「よっぽどせっぱ詰まってたんじゃないのか? 次の日がレギュラー選定の日だったとか」

 

そういってきた士郎に、桜はおかしそうに笑いながら首を振った。

校庭へと向けていた顔を士郎へと向けて、微笑を浮かべる。

 

「いいえ、違います。だってその人、陸上部でも何でもない人だから、そんなことは関係ないんです」

「そうなのか?」

 

何故笑われたのかわからない士郎は一瞬むっとしたが、それを顔に出すようなことはしなかった。

そんな士郎に知ってかしらずか、桜の話は続いた。

 

「それでですね、私気がついたんです。その人、飛ぶことが目的じゃないんだって。その日たまたま自分の出来ないことがあったから、なら負けないぞってただそれだけでがんばってただけなんだって……。それからしばらくして日が落ちたら、その人は平然としてたんです。結局飛べなかったのに、それに納得して帰ったんです」

「うわ、落ちがないな、この話」

「はい、あんまりにもまっすぐすぎて心配になっちゃいました。その人はきっと、すごく頼りがいのある人なんです。けどそれが不安で、寂しかった……」

 

そうつぶやいた桜の声こそが寂しさに満ちあふれていて、この寂しい教室であってもなお飲み込まれそうだった。

そしてここまで話を聞いて士郎はようやく気がついた。

 

記憶にないけど……俺のことか……

 

桜が見たという、校庭で一人高跳びを必死にしていた人物に心当たりはなかったが、こんな話題を士郎と二人でいるときに言うということはきっと自分のことなのだろうと、士郎もさすがに気がついた。

四年前は切嗣が死んでからそう日が経たない時期であったために、士郎も不安定だった。

毎日むちゃくちゃなことばかりしていたと、士郎自身自覚している時期でもあるので、そういうこともあったのだろう、と士郎はそう認識した。

それを桜が見ていたと……ただそれだけの話だった。

 

「えっと……そいつってのはつまり」

 

この言葉で桜も士郎が気づいたことがわかったのだろう。

桜がさらに笑みを浮かべて声を返した。

 

「はい、今私の目の前にいる上級生さんでした。あの頃は小柄だったから、同学年かなって勘違いしちゃいました」

「ぐっ」

 

背のことを言われて士郎が思わず声を漏らした。

167cmと、あまり長身とは言い難い士郎にとって、自分の背の低さはちょっとしたコンプレックスだった。

 

「そういうことです。私、そのときから先輩のことは知ってたんです」

「……そうか。それは初耳だな」

 

どうしてそんなことをしたのか士郎もわからない。

何せもう覚えていないのだから。

むちゃくちゃをしていた頃の自分を、近しい人に見られていたことが恥ずかしかったのか、士郎が目をそらした。

 

 

 

だから、士郎は見るのがかなわなかった……

 

 

 

 

 

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

桜が浮かべた、深い深い……笑みを……。

 

 

 

 

 

 

「わたしたち、同じものをみたんです……」

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

小声でつぶやかれたそれがなんなのか聞こうとして振り向くが……そのときちょうどチャイムが鳴り響いた。

その音で、士郎は時刻がだいぶ遅くなっていることに気づいて、あわてた。

 

「っと、もうこんな時間か。さすがにそろそろ帰るか。体調は大丈夫か?」

 

すでに教室の時刻は四時半を指している。

部活が禁止となっている今、そろそろ校内から出ておかなければまずい刻限になってしまっている。

 

「はい、もう元気いっぱいです。夕ご飯、楽しみにしていてくださいね」

「意地でもくるんだな……」

 

そう力強く言いながら桜が席を立った。

そんな桜に苦笑しつつ、士郎も桜と同じように席を立った。

そうして二人は並んで歩いて、同じ場所へ……衛宮家へと向かった。

昨日多めに買っておいたので食材を買い足す必要性はなかった。

二人で本日の夕飯の献立を考えながら歩いていく。

先ほどの元気のなさはどこに行ったのか、桜は幸せそうに会話をしながら歩いていた。

 

 

 

本当に楽しそうに……歩いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




没にした刃夜と小次郎のやりとり

「私の方が美しいからな。鏡を見れば一目瞭然だろう? 美とは絶対的な物。個人の見解など関係ないところに真の華人は存在する物だ」
「……そらお前の方が美形だが」
「男の嫉妬は見苦しいぞ? 刃夜」
「いや、嫉妬してないし。俺は親からもらった普通にそこそこかっこいい自分の顔で十二分だ」


↑主にタイガーコロシアムの小次郎の言葉を少し改変した物

タイガーコロシアム自体がパロディー的な作品なので完全に「ナンパ」な男になってしまっている
※作者的に「軟派」と「ナンパ」はだいぶ違う感じがするんだけど……皆さんはどう思います?


お久しぶりです、そして開けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします
活動報告にも上げましたが……完結できたらいいなぁ……
と思っている刀馬鹿でございますwww

さてさて、今回は主に下記のことについてお話しさせていただきます



以前一人の読者様に感想にて問い合わせのありました、小次郎の強さについてです

あまりにも原作の小次郎と性能が違いすぎなくね?

とのこと
二次創作として執筆している作品の後書きに、原作のステータスを完全に原作通りに載せてしまったのがあまりほめられたことではありませんでしたね汗々
他の皆様も同じようにお思いかと思い、また後日話し合うと言っていたので、アイディア提供者TT氏、編集者HM、そして私刀馬鹿三人で話し合った結果、このような結論に至りました、というのを後書きに添えさせていただきます



まぁといってもほっとんどアイディア提供者TT様のおかげなんですけどねwww

作者は相も変わらず役立たずwっw



ま、それは置いておいて



まず原作との主な違いについて

1 マスターの違い
2 小次郎のやる気(セイバーとの戦いが余興レベルだった)



といったところ
1については簡単ですねw
山門と人間のマスターでは基本性能が違うのは当然のこと

2は単純に小次郎の戦闘に対する心構えです
山門からろくに動けず、さらに言えばいけ好かないといっていいキャスターに無理やり召喚されたということではっきり言ってやる気0
しかしそこにセイバーが訪れてようやく「余興が出来た」、といっている存在です

ここからはアイディア提供者TT様の理論です
まぁそこまで的外れではないかと思われます、と編集者HMと刀馬鹿は思いました

上記1,2の他にも、原作ではキャスターから二十日間現界出来るだけの魔力しか与えられていなかったとのこと(これは原作での設定のようです)
現界するだけでも魔力の消費をするサーヴァントのため、小次郎は戦闘に置いても魔力温存のために、かなりセーブして戦っていた可能性は十二分に考えられます
またその上に上記のやる気のなさ、そしてセイバーとの一回戦目の戦いにて、ようやく余興が出来たと言い切っていることを鑑みれば、原作の小次郎が「全力」を出していないという可能性は非常に高いと思う……とのこと
凜ルートで本気を出している感じではありましたが、消えかけということとやはりどうあっても地の利が気にくわなかったんじゃないかなぁ……。どうせなら平地で正々堂々と戦いたかったのではないかと思います

そして原作と違ってこの作品の小次郎は、まず半分人間でなくなっている刃夜がマスターになっている
設定上、すでに人間から遠のいて言っている刃夜がマスター
刃夜自身魔力の扱いはまだまだ未熟ですが、サーヴァントを従えるだけの魔力を蓄えることは可能です(といっても、仮にセイバーと契約した場合は、エクスカリバーを打たせるのは厳しいでしょうが……)
他のサーヴァントであれば宝具の使用には躊躇するでしょうが、小次郎の魔力消費は現界のみですので、刃夜ならば余裕です

次いで小次郎のやる気
刃夜に召喚されたというよりも、自ら刃夜に会うために召喚に応じたといってもいいので、やる気に関しては十二分
刃夜も小次郎も互いに互いのことを快く思っていますし、朝の訓練は二人の至福の時間www
また山門がマスターの時と違い、ステータス補正が当然のようにかかっています(これを考慮して原作とは違う、この作品小次郎のステータスを考えるべきでした……)


等々の理由から、元々強かった小次郎(我々三人としては原作であっても、小次郎は他のサーヴァントに十分に互角以上に渡り合えると思っているのですが……。まぁそれでもアーチャーから遠距離でブロークンファンタズムの連発や、ランサーの突き穿つ死翔の槍(ゲイボルグ)、ライダーの天馬で突進されたら原作の小次郎は手も足も出ないでしょうがwww あくまでも原作で平地にいた場合ですが……。キャスターの結界があるからブロークンファンタズムも大して効果ないらしいしね)が、この作品においては宝具無しならば無双出来ても全くおかしくない!
という結論になります

ご忠告、ご申告いただきまして誠にありがとうございました!


ということで……作者なりに小次郎のステータスを考えてみる……

※これは作者の独断で考えましたので、後日三人で話し合って修正が加えられる可能性が十二分にあり得ます!



月夜に閃く二振りの野太刀版、小次郎ステータス

アサシン
真名 佐々木小次郎

筋力C+
耐久E
敏捷A++
魔力E
幸運B
宝具×


こんな感じかなぁ?
基本性能がちょっと上がった程度だと思うんですよね~
主に筋力と敏捷に+がついただけwww
耐久と魔力が上がるとは思えないし、そして幸運は下がるwww
だって異世界でろくな目に遭ってない刃夜がマスターだしwww

スキルに関してはいじる必要性は感じない……かな?

まぁそこらを後日三人で話し合ってきます!



ということで、これが俺たち三人の結論だぜ!? キリッ



ではでは今年もよろしく、そして来月にでもまたお会いしましょう~
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