今日テレビで見ましたが節分って年に四回あるんですってね
ちょっとびっくりした
日本の歴史ももっと勉強した方がいいかもなぁと思いつつ
仕事と自分したいことで日々はつぶれていくw
何でもそうだけど、学生時代にもっと勉強し説けばよかったなぁ……と後悔したりしてしまうw
さてそんなくだらないことはともかく楽しんでいただければ~
と思うんだが当分戦闘ってほとんどないんだよ
ペースあげないとまずいんだわ
がんばります
む、これは……
夜。
一通り見回りを行い、さらには柳洞寺にて少しの間キャスターと会議を行ってとある屋上へと陣取っていた。
動かずにただじっと……立ち入り禁止の屋上にて鎮座していた俺の感覚が、戦闘の気配を捕らえた。
小次郎もそれを感じ取ったのだろう。
魔法瓶に入れていた熱いお茶……魔法瓶を異様に気に入っている……を飲み干し、戦闘態勢へと移行している。
「なにやらあったようだな」
「みたいだな」
『新都の方のようだが』
封絶も感じ取っているらしく、大方の方角を示してくれる。
ちなみに本日の俺の装備はスタンダードに狩竜、夜月、花月、水月、封絶である。
戦闘の気配を感じた方角へと、俺と小次郎は目を向ける。
新都の方角。
おそらく戦闘をしているであろうその場所に強烈な気配が二つ。
戦闘が行なわれていない状態では敵の気配は掴めないが、それでも先端が開かれたのならば話は別だった。
この苛烈な気配とセイバーと……あぁ? これって……ライダーか?
遠くとも左腕に内包している老山龍のおかげで魔力には人一倍に鋭敏になっている。
その感覚が言っていた……。
ライダーの気配だと。
「ほぉ? あの天馬のサーヴァント、生きておったのか。なかなかどうして、おもしろい戦場よな」
『同感だ。だがそれで止まる訳がなかろう。どうする仕手よ?』
「言うまでもないだろ?」
俺は屋上の地面へとおいていた武器達を手にすることで応えた。
それをしなくても当然俺がどうするかはわかっていたのだろう。
小次郎も封絶も気合いを入れた。
「行くか」
「うむ」
『随意に、仕手よ』
そうして俺と小次郎はマンションの屋上より飛翔した。
といっても小次郎は霊体化していなくなったし、俺も魔力を使用しての荒天の力で滑空してだが。
そして途中同じように戦闘を察知したアーチャーと遠坂凜と出会い、少しだけ話した結果二組で現場へと向かった。
状況がどう動くのかはわからないが……それでもこうなるとは……
思っていなかった。
なんで……お前……
先ほどまで普通だった。
普段と変わらなかったはずなのに……それでも一瞬だけ油断したせいなのだろう。
この……状況は……
「……ふ、そう……落ち込むな」
誰もが動けない、動けていないこの状況下でただ一人だけ、小次郎だけが行動を……俺に言葉を向ける。
いつも通りに振る舞っているのに……その口から流れ出る一筋の赤い血が……
全てを物語っていた。
「……主を死なせるわけにはいくまいて」
その言葉だけを残して……小次郎が己の影へと飲み込まれていく。
否……違った。
影に潜んだその黒い陰が喰らっているのだ。
それに気づいた瞬間に……
何故か固まっていた俺の意志が……
俺の体が……動いていた。
「てめぇ!」
叫んだと同時に鞘から狩竜を抜き放つ。
今まで眠っていたかのように、血のような真っ赤な色をしていたその刀身が……脈打ち紅く光り輝いていた。
だがこのとき、俺はそれに気づかず……ただ手にした狩竜を敵へと向かって振り下ろしていた。
この黒い陰がなんなのかはわからない。
だがそれでも……何もしないと言うことはあり得ない。
気を総動員しての足運び、さらには体裁き、そして何よりも腕の振り方に刀の振るい方……。
全てが力任せだった。
それほどまでに一瞬にして血が上っていた。
その感情の起因が……何だったのかをこのときは正確には把握していなかったが……。
脈打つその狩竜を振るったが……その黒い陰はただその場に突っ立っているだけで、避けようともしなかった。
その体なき体に狩竜が触れたその瞬間に……
パシャ
まるで水風船がはじけるかのように、その黒い陰が小さく破裂した。
通過したはずの狩竜の外見には何の変化もない。
しかしそんなことはどうでもよかった。
手応えのなかった攻撃に意味などない。
すぐに索敵を行ったが、それらしい気配はない。
まるで、その陰に沈んだとでも言うように。
それは……先ほどまでその場にいたはずの小次郎も一緒だった。
……バカな!
そう考えたそのとき……俺は小次郎がいなくなったことで気が回っていなかった。
はじけたその黒い陰。
その飛沫は俺の体へと降りかかっていたがそれは全く問題じゃなかった。
何せ……こんな程度ではない存在の力をあびたことがあったから。
しかし周りはそうじゃなかった。
その飛沫が……士郎へと一滴だけかかった。
――――――――――――
「ッ!?」
刃夜が振るったそのあまりにも長大な野太刀。
それを受けてその黒い陰が飛散した。
黒い陰より飛散した黒いしずくが、士郎へと降りかかった。
ただそれだけだった。
しかしそれだけの事で……士郎は意識が暗転しかけた。
……ぁ
まるで夜の海に潜ったようだ……。
激痛で意識が飛びそうになっているにもかかわらず、士郎はそんなことを思っていた。
もはや痛みが強すぎて感覚の許容範囲を超えているのだろう。
ただ熱いと……。
その熱さが……
あの日の惨劇を思い起こさせる。
熱い……
熱い……
その熱と同時に様々な光景と感情が……士郎へと流れ込んでくる。
あの日の火災……
焼けただれていく人々……
もはや原型もとどめていない人の残骸……
赤い炎とは違う……地面に所々彩られている紅い液体……
地面が……建物が……
人が焼ける臭い……
アツイヨ
空気がひどく重い……
新鮮な空気などどこにもなく……
死の臭いの充満したその空気が、必至になって駆けている
音が聞こえる……
タスケテ……
炎が焼ける音……
何かがはじける音……
誰かが泣いている……声……
イタイ……
必至になって逃げていた……
そうしなければ自分が死んでしまうから……
誰かに助けて欲しく……
ただがむしゃらに駆けていく……
こんな地獄のような状況で……
ただ一人、満足に動くことの出来た少年……
その少年に助けを求めない人間が……いなかったのだろうか?
少年が人に助けを求めているように……
その少年に……士郎に……
助けを求めた人間は大勢いた……
タスケテ……
がれきに押しつぶされて動けなくなった人の声を……
炎に巻かれている人の声を……
幼い子供が黒こげになった人に向かって泣きわめいていた声を……
シニタクナイ……
悲痛な声も……
その場に罪人は一人もおらず……
その地獄にいたのは等しく善良な人間だった……
その平等の中ただ一人だけ生きている……無事に今までの人生を謳歌した自分……
駆けている間にどれほどの人間の死体を見たのか?
耳を塞いで……
目を塞いで……
逃げるために……
生きるために……
同じように生きたいと願った人間を置き去りにして……
気づいていないわけがない……
だがそれでもどうにも出来ない……
どうせ死んでしまう……
すでに……死んでいる……
そう思って、
それはいっぺんの疑いもないほどに……
真実だった……
少年だった士郎に死にかけた人々を助ける手段などあるはずもない……
がれきを撤去できる腕力もなく……
仮に自分よりも小さな子供を担いで逃げたところで体力が尽きて果てるだけだ……
自己生存本能……
それを遂行しようとする人間に罪はない……
だが……
どうしようもないほどの罪悪感は残る……
何度くじけそうになったのだろうか?
何度もう全てを諦めてしまおうと思ったのだろうか?
それでも
そして……望み通り……
ごめんなさい……
そう謝ってしまえば楽になるだろうに……
仕方がないことだったと……
自分は子供だったから、何も出来なくて当たりまえだと……
そう思ってしまえば楽になれるはずなのだ……
しかしその罪悪感がそれをさせなかった……
その罪悪感を真っ向から受け止めていた……
それ故に正義の味方を求めたのかも知れない……
何も出来なかった自分が悔しくて……
あまたの人間の命を無視して生き残った自分が許せなくて……
助けを呼ぶ声を無視して……無視し続けた事で……
壊れてしまったが……壊れきってはいなかった……
しかしこのままでは
「がっ!?」
内の底に沈められていた感覚と記憶……
罪悪と後悔……
それが一度にあふれだし、士郎の精神に多大な負荷を駆けた……
しかし士郎にはそれよりも……気になる光景が浮かび上がっていた……
まるで第三者の視点のように見えるその地獄の情景……
そのときはただ熱いと思っていなかったその状況下……
それを掘り起こされて、士郎は違和感を覚えた……
否……思い出した……
寒い……
これほどの炎に巻かれたこの街がどうして寒いのか?
その場に立っているだけで肌が焼きただれて行くであろうこの状況で……
士郎は何故か寒いと……感じていた……
そして……それを見つけた…………
空に浮かぶ、黒い太陽を……
夜だというのに太陽があることが不思議に思ったが、そんなことなど瑣末ごとだった……
そしてこじ開けられた事で士郎はようやく思い出した……
自分が逃げていた理由を……
子供心にわかったのだろう……
それとも生命としての本能なのか……
その黒い太陽が……よくないものだと言うことに……
「!? シロウ!」
「衛宮君! しっかりして……!!!!」
二人の声が、士郎を回想から意識を呼び戻す。
しかし体は憔悴しきっていた。
吐き気は治まらず、頭痛がひどく、一人では立っていることさえ厳しいほどに足下がおぼつかなかった。
その士郎に……
「大丈夫!? 私が誰だかわかる!?」
パン!
手加減は十分にしてるのだろうが、夜と言うことを考慮しても相当にいい音が士郎の頬から発せられた。
凜が容赦なく士郎の頬を平手打ちした音だ。
その音とその遠坂凜らしい行動に、ようやく士郎の意識が覚醒し出す。
「わかる。遠坂だろ? こんな時に平手打ちするのは」
「……! はぁ、冗談言えるのなら大丈夫ね」
いや……冗談じゃないんだけど……
そう思うのだが、今はそんなことをしている場合ではないことを思い出して、士郎は周りを見渡した。
そばには凜とセイバーがおり、少し遠くでアーチャーが辺りを警戒している。
そして……セイバーと凜の外から士郎を見下ろす存在に気がついた。
「……刃夜? あの黒い陰は?」
「……いなくなった」
いなくなった。
そう言う刃夜の苦渋に満ちた表情を見て、士郎は違和感を覚える。
先ほどまでここにいたのは士郎、セイバー、凜、アーチャー、刃夜に小次郎、臓硯に黒い陰。
だがこの場には臓硯と黒い陰がいない。
それは当たり前といってもいいだろう。
明確な共同状態ではないとはいえ、ほぼ完璧に敵対状態である臓硯がこの場にいるわけがない。
いるとすればそれは死体としてでしかない。
ならば……小次郎は?
「……まさか」
その先を言おうとして、士郎は口をつぐんだ。
どうなったかなど、刃夜の表情が物語っていたから。
故に追い打ちのように、再度現実を突きつけたりはしなかった。
……あいつ……一体何を考えて?
しかし刃夜にとって士郎の気遣いに全く気付いていなかった。
胸に去来した想い……。
それを整理していたから……。
「……ぞう……けん、は?」
それが限界だったのかも知れない。
士郎が苦しそうに表情をゆがめた。
吐き気と悪寒が更にひどくなっていくのを感じて、必至になってそれを持ちこたえようとしている。
士郎の容態に気づいてセイバーが駆け寄って体を支えた。
セイバーの介抱に気づかないほどに、士郎は憔悴しきっていた。
「助かったか。まあ本体と接触したわけでもない。そのうち治まるだろう」
周りの警戒を行っていたアーチャーがゆっくりと士郎の元へとやってくる。
その表情にはひどい諦観の想いが隠れていたが……それに気づいたものは誰もいなかった。
誰もがアーチャーへと驚きの目線を向ける。
「アーチャー? あんたあれがなんなのかわかってるの?」
「さてな……。だがこれでこの街の雰囲気の正体がわかったな」
マスターである凜の言葉を軽くあしらってそうつぶやいた。
それには誰もが納得し、そしてその姿を思い出して恐怖した。
あまりにも禍々しい……その黒さに。
「全く……サーヴァントとして召喚されたというのに、またあれの相手をさせられるとは……。皮肉なものだな」
「あなたは……一体……」
「そうか。君はまだ守護者ではなかったなセイバー。ではあのような存在とはまだ対峙したことはないだろう。全く……いずこにいようとやることが変わらないとは」
「お取り込み中すまないんだが?」
誰もがアーチャーに注目している最中にそれを遮る声。
その声を発したのは、倒れた女性を横抱きに抱えた刃夜だった。
「こいつ放っておくと死ぬぞ? 一応俺もそれなりに回復させることは出来るんだが、ここまで体力がなくなっている人間はどうしようもない。治療できる人間はいないのか?」
「!? そうね、衛宮君の事もあるし教会に行きましょう」
真っ先に凜がそう告げる。
教会の言峰のことを言っているのだ。
苦手意識を覚えている士郎がそれは嫌だと反論しようとするのだが……言葉を発した瞬間にはきそうになるので口をきくことも難しくそんな余裕はなかった。
故にぞろぞろと……大人数で教会へと向かうことになった。
刃夜はこの場で脱しても良かったのだが……さすがに目の前で倒れている人間を放っておくことは出来なかったのか、半ば仕方なくそれに同行する羽目になった。
その最中……
「……そう悲観したものでもないか。まだ事が起きていない。後始末にとどまるか……それともそれを防ぐのか……。今回はまだ選択できる余地がある……」
誰とも知れずにただぼそりと……アーチャーがそんなことをつぶやいていた。
揺れ動く意識の中で……何故かその言葉だけが……。
士郎の頭の中に残っていた……。
――――――――――――
真夜中だというのに教会には明かりがともっていた。
それに違和感を感じつつも、俺はとりあえず教会の神父であるという言峰綺礼とかいう男に襲われていた女性を預けた。
そして治療はそいつの私室で行うと言うことで俺たちは教会の礼拝堂にて待機している。
この場には俺、遠坂凜、士郎の三人だけがいた。
サーヴァント二人は外にて待機中である。
何でもここは聖杯戦争の監督役の拠点だそうで、よほどの事情がない限りサーヴァントを教会に入れることは出来ないらしい。
監督役なんていたんだな
その割には学園に結界を発動させたりと、あまりしっかりと監督していない気がする。
その辺を遠坂凜に聞いてみたところ、教会の監督役というのはあくまでも神秘が白日の下に晒されてしまいそうになったときのみ動くらしい。
まぁそう言う連中にとってはそれが大事だろうしな……
と、そう言った会話をしている最中でも、士郎は全く会話に入ろうとせずにただじっとしていた。
じっとしていたというよりも……どうやら何か考え事をしているようだった。
その表情があまりにも真剣だったために俺と遠坂凜は声を掛けることは出来なかった。
士郎を見つめる遠坂凜の目を見る限りはその理由はわかっているようだった。
まぁ俺にはあまり関係ないか……
どうでもいい……とまでは言わないが何を考えているのかわからない以上、考えるだけ無駄である。
故に俺たちは黙って、言峰綺礼とやらの治療を終えるのを待った。
「治療を終えたぞ。大事には至らないだろう」
そうして言峰が私室へとつながる通路より出てきた。
その言葉に安堵しつつも、俺はこの言峰とやらの存在が気になってしょうがなかった。
……これが神父だと?
俺よりも身長はだいぶ高い。
しかし問題はそこではなく神父服に包まれたその体躯だ。
明らかに尋常じゃない鍛え方をしている。
今の俺でも勝てるかどうか自信がない。
気と魔力を使用すればあるいは……といえるレベルだ。
まぁ……監督役ということはそう言うことも兼ねているのだろうな……
「さて、初めましてと言っておこうか? 最後のマスターよ」
「……どうも」
それとなく観察していた人物へと声をかけらられてとりあえず無難な返事をしておく。
その一言で挨拶は終わったというのだろう。
運び込んだ女性の容態を聞いてみればどうやら無事に完治したようだった。
事後処理は教会の方で行ってくれると言うことらしい。
「しかし……衛宮士郎だけではなくお前のような存在にも令呪が宿るとはな。本来であれば聖杯の存在を知らぬものに令呪は宿らないのだが……衛宮士郎といい、お前といい……今回の聖杯戦争は実に興味深い」
俺と士郎を交互に見てそんなことをつぶやいていた。
令呪の宿り方に俺は少なからず驚いていたが……そんなことはもう関係がなかった。
小次郎は……死んだんだろうな……
右手に宿っていた令呪へと手を添える。
しかしそこにはもはや何もなく、ただ己の肌を感じるだけとなっていた。
あの黒い陰に襲われそうになった時に俺を庇って死んでしまった小次郎。
だがそれがどうにも俺は納得できなかった。
確かに反応は遅れたが……あの攻撃を避けられなかったわけではなかったからだ……。
……さて
「用が終わったのならば帰ってもらおうか? こちらとしても貴様達に構っているほど暇ではないのだ」
「ふん。こっちとしてもあんたには頼りたくなかったわよ」
腕を組んでそう言い捨てて、遠坂凜が外へと向かっていく。
今の態度を見るにこの二人は知り合いのようだった。
遠坂凜に続くように……俺と士郎も外へと向かった。
が……
「ところで最後のマスターよ。名前は何というのかな?」
去り際……俺へと声を掛けてきた。
俺はそれにいぶかしく思いながらも……振り向き答える。
「鉄刃夜だ」
「なるほど。手にしたその長い棒は何だ?」
「……答える義理があるだろうか?」
答える義理もなければ、監督役ということでおそらくこれがなんなのかは把握しているはずだ。
ならば答える意味はないだろうし、この男の興味深そうにこちらを見つめるその視線に……俺は警戒を抱いた。
こいつ……やる気か?
「それもそうだな。呼び止めてすまなかった。気をつけて帰るがいい」
「……どうも」
再度無難な言葉を返して俺は教会より外へと出る。
そして一つ大きく溜め息を吐いた。
……なんともまぁ、心臓に悪いおっさんだ
戦闘に発展していないというのに気疲れしてしまった。
あの油断なく人を観察する目……。
それもこちらの奥底をのぞいてくるかのような……。
あんなに相対するのに気を遣う人間も珍しい。
まぁ……どうでもいい……
とりあえずもう大して会うことはないであろう存在のことはすっぱりと忘れて、俺は今後のことを考える。
しかし……考えるまでもなかったのだ。
やることは一つ……だしな……
帰ると言うことを大前提に、俺は動くのだ。
それに代わりはない。
変えてしまってはあいつらに対する最低限の義務すらも俺は放棄したことになる。
そして外でセイバー、アーチャーと合流した。
しかしどうしたことか、少し気まずそうにしている雰囲気だった。
が、それも俺にとってはどうでも言い。
「さて、それではこれでいいな? 俺は帰るぞ」
「待ちなさい。まさかあんた、まだ聖杯戦争を続ける気じゃないでしょうね?」
そのまま別れようとする俺に何かを感じ取ったのか、遠坂凜がそんな言葉をかけてくる。
その行為はまるでこの後の話を避けるために、俺にあえてふっかけてきた感じだった。
別段無視しても良かったのだが……俺は内心で嘆息しつつ、振り向き答えた。
「そのつもりだが?」
「……あんた正気なの? 確かにあんたは人間なのにサーヴァントに対抗できるのかも知れない。だけど仮にあなたが他の全てのサーヴァントを倒したとしても、あなたが聖杯を手にすることは出来ないのよ?」
「? そうなのか?」
別段興味はなかったがそれでも理由を聞いてみたら……聖杯というのは霊体であるサーヴァントしか触れることが出来ないらしい。
そしてそのサーヴァントは現界のためにはマスターとの契約が必要不可欠。
つまり完全に利害関係であり、相互関係にあったようだ。
しかしそんなことは俺には関係がない。
「別に聖杯そのものが欲しい訳じゃない。それにある程度わかったんでな」
「? わかったって?」
「それこそお前には関係ないだろう」
本日現れたあの黒い陰。
あの気配に近しいものと……といっても規模は桁違い、段違いに小規模な存在だったが……俺は戦ったことがある。
故に、前回と同じように何かこの世界でなすべき事があるのだとすれば……
あれの討伐なのだろうな……
当たらずとも遠からず……と考えていいだろう。
あれは間違いなく普通ではない何かだ。
きっと、あれに付随することを行えば帰ることが出来るのだろう。
俺がずっぱりと切り捨てて、挙げ句の果てに相手にもせずに思案したのが良くなかったのか……遠坂凜から殺気に近いものを込めた視線を送られた。
「確かにその通りかも知れないわね。まぁ勝手にしなさい」
しかしあちらにはサーヴァントがいるという余裕なのか、このままほっぽって帰って行った。
士郎は最初こそこちらを見ていたが、あいつにも何か考えたいことでもあるのか、そのまま帰って行った。
そうして俺も帰路につく。
その横に……小次郎はいなかった……。
『大丈夫か仕手よ?』
「……何がだ?」
そんな俺を心配したのか、今までずっと沈黙していた封絶が俺へと声を掛けてくる。
何を心配してるのか、考えるまでもないというのに……俺は封絶に問いを返した。
それをどう取ったのかはわからない。
少し黙った後……こう言った。
『小次郎がいなくなって……大丈夫なのか?』
大丈夫なのか?
それが単純な戦力の減少などや、聖杯戦争に参加できなくなってしまったことではないとわかっていた。
時間は短いかも知れない。
だが……あれほど斬り合った相手……。
あの斬り合いは……時間以上に互いに互いのことを知ることが出来た……。
至福の時だった。
これ以上ないほどの信頼と互いを知っていた相方を亡くしたのだ。
封絶が心配するのも無理はないといえた。
だが……その心配とは別のことで、俺は考え込んでいたのだ。
「大丈夫だ。まぁどうとでもなる」
それを聞いて俺が強がりで言っていないことはわかったのかも知れない。
だがそれでもこいつは心配しているようだった。
それに感謝しつつも、それでも俺はただただ一つの事だけを考えて……帰路についていた。
だからこそだろう。
否……仮にそれに気づいていたとしても動いたかどうかはわからない。
それでも俺は気が抜けていたのだ……。
あの虫が……動いていたことを……。
それの大本がどうなったのかを……。
考えていなかった……。
――――――――――――
もう深夜と言っていいほどの時間にさしかかった新都。
駅前であるここにはある程度飲み屋などの店もあるが、さすがに店の外に出れば人通りは皆無と言っていいほどに静まりかえっている。
その新都の駅前のロータリーを千鳥足で歩いている一人の女性がいた。
千鳥足といっても、泥酔までしているわけではない。
多少危なっかしくても、彼女はきちんと状況を把握して帰宅していた。
マンション住まいの彼女の家はそう遠くはない。
深夜と言うことで少し不安はあったが、それでも普段通りに彼女は歩いて帰ることを選択した。
それが、彼女の人生を散らす選択になるとは知らずに。
? 何……
それに気づいた……否気づいたとは言えないだろう。
彼女はただの善良な一般市民でしかない。
見られることで視線を感じ取ることもない、つけられたからと言って危険とは気づけない。
動物としての本能がほとんど退化してしまっているただの人間だった。
それでも彼女は不安を覚えた。
何か……言いようのない恐怖を感じて。
そのために彼女は必至になって歩を早めて……気づいたときには走っていた。
だがそれでも彼女の不安は取り除かれず。
まるで導かれるように……その場所へとたどり着いてしまった……。
「あれ……ここって……」
新都にある……十年前の火災によって全てがなくなってしまった場所に作られた記念公園。
眠りについた人々が安らかに眠れるようにと……そう願いを込めて作られた公園だった。
自分の家のマンションと別の方向に進んできたことに苦笑したそのとき……
それが動き出した。
ザッ!
そんな彼女へと這い寄り、飛びつくもの達。
それはあまりにも醜悪な存在だった。
その先端の口を使って、それはその女を喰らった。
「■■■■■■■■■■■■!!!」
絶叫があがった。
だがその絶叫を上げた口内へとそれは入り込み……その女性の体内を内から喰らう。
その痛みがどれほどのものなのかなど想像できるわけもない。
そして数分と立たずに……その女性が虫に食らいつくされた。
それと同時に先ほどまでいた女性の場所に……一人の老人が倒れていた。
それが喰らうと同時に溶け、混ざり合い……老人となったのだ。
虫の集合体とでも言うのだろうか?
それが間桐臓硯の正体だった。
「むぅ。やはりこればかりは慣れぬものだな」
虫の集合体とでもいうべき臓硯の肉体はまさに虫だった。
つまりは臓硯は人間ではない。
だがそれでも元は魔術師という立派な人間だった。
その立派な魔術師にはかなえたい願いがあった。
それを叶えるために……そこへと至るために己の体を作り替えたのだ。
寄生し、寄生し……寄生して生きている。
しかしそれが果たして生きていると言うのだろうか?
だがそれでも老人は……臓硯は半ば不死と言っても過言ではない。
何せ材料が……寄生できる存在さえあればサーヴァントに吹き飛ばされた怪我すらも治せるのだ。
いや、新しいものになるのだから治癒とは言わない。
だがそれでも手段と方法さえ間違わなければ臓硯は不死に近いと言っていい。
しかしそれも万能ではない。
何故臓硯は老人にわざわざ変化したのか?
これが疑問に残る。
喰らったはずの女性は若かった。
ならばそれを宿したはずの臓硯は何故老人へとなるのか?
あるべきものを別物ものへと変換したから……ではない。
肉体が別物でありながら臓硯を臓硯たらしめているのは何なのか?
それは魂。
五百年という長い年月を生きてきた存在である臓硯。
肉体を失って待っているが故に……臓硯という存在を定義づけているのは魂のみである。
しかし人間の魂が五百年という年月を耐えられるわけがないのだ。
五百年生きてきたという年月のために……魂そのものが限界に近づいていた。
故に臓硯は老人へと変化する……そうならざるを得ない。
自分の体を歪に変え、五百年という長い年月を掛けてまで存在するのは……何故なのか?
「急がねばならんようじゃな。あれが出てきた以上……事は慎重に運ばねばならん。だが……」
狂気じみた笑みを浮かべて臓硯が笑う。
その凄惨とも言える笑みは……夜の雰囲気も相まって……ひどく不気味だった。
――――――――――――
仄かに石の匂いがする、そんな一室だった。
下品でない程度に豪奢なソファーがいくつも並べられ、さらにはワインを収納することの出来る棚のある部屋だ。
明かりは蝋燭に火をともすという……古めかしいものだった。
その蝋燭の揺らめく光に照らされた羊皮紙の報告書を……熱心に見つめている男がいた。
「……」
言峰綺礼だ。
彼は協会の使いとしてこの街に滞在している。
故に今はその報告書を仕上げているところだった。
「何をしているのだ言峰?」
そんな綺礼のそばに……突如として声が降りかかり、一人の青年が現れる。
そこにいるだけだというのに、異様な威圧感を感じる青年だった。
背格好は特別大きいわけでもない。
しかしその青年に睨まれただけで体が萎縮するかのような……それほどの気迫を備えていた。
「報告書か? あぁ、あの簒奪者についてか。餌になったのは五十七名。うち五人は死んだか。これはどうなのだ?」
「……この程度ならば問題はない。どちらの組織も承知の上だ。だが」
「今のままなら……か? 気づいているのだろう言峰? このままだとこの街は無人になるぞ?」
その言葉に言峰は応えず沈黙したままだった。
そんなことは彼自信も十分に理解していたからだ。
刃夜達が遭遇した黒い陰の存在は、言峰はとっくに知っていた。
「問題なかろう。さすがにそこまでバカではあるまい」
「そうかな? こういった輩は放っておくと後々で問題になるぞ?
その言葉で初めて驚きを見せた言峰が後ろへと振り向いた。
「どういう風の吹き回しだ?」
言峰は青年の性格を知っている。
有象無象などどうでもいい……己以外の存在など歯牙にも掛けないにも関わらず、街の人間の安否を気遣うかのような言葉を口にするとは思わなかったのだ。
「驚くことはない。
それを聞いて言峰は納得した。
そして再度理解した。
この青年は……間違いなく人間ではなく、英霊なのだと。
「……なるほど。やはりお前は英霊だ。ならば好きにするといい。私に聖杯は必要ない」
その言葉に、今度は青年の方が驚いた。
「ほぉ? お前には望みはないのか? 聖杯に選ばれた身でありながら」
「明確な望むなどない。私にあるのは……」
そこで区切ったのはどういった意味だったのか?
しかしこの言峰という男はやはり……狂っているのだ。
十年前の災禍。
その元凶の一部とも言える……この男は。
「明確な快楽を欲する己のみだ……」
明確な快楽。
己の望みを叶えるという願望機、聖杯。
その聖杯に触れた事によって起きた十年前の火災。
己の望みを叶えるという聖杯。
願望機に触れて起きた災禍。
つまり……この男の望みは……
「く、ククククク、クハハハハハ! そうか。快楽のみを欲するか!」
その回答に、青年は笑った。
心底楽しいと……自らのパートナーである言峰を褒めそやすかのように。
言峰はそれを聞きながら淡々と、仕事を続けていた。
「よい、よいではないか!
つなぎ止めた。
それはただ単に、この二人の関係を表しただけの言葉ではない。
ただそばにいるとう意味だけではなく、文字通りこの世界につなぎ止めていた存在だった。
その力の源が……言峰だけではなくとも……
青年は、人間ではないからだ。
故に彼は言ったのだ。
人が人を殺せば……
その言葉の真意は……己が人間とは別次元の存在だと言うことを明確に物語っている。
それが青年の正体。
「よかろう。お前が動かぬと言うのならば
そう言って忽然と……現れたときと同じように青年は消えた。
青年の気配が消えて、静寂が戻り言峰は顔を上げて、出口を見つめる。
「……芯は正気のままとは。あの泥も、さすがにあれの魂までは汚染できなかったようだな」
十年前の火災の日に降り注いだ、泥。
それを一身に浴びた青年。
黒い泥によって受肉した存在。
英雄王ギルガメッシュ
それが青年の正体だった。
断言できる。
この存在は最強であると……。
だが……
「無価値ではあるが……無意味ではない。注意するのだな、英雄王。お前が敗北を知るとなると、その一点のみだ」
その言葉には何が込められていたのかはわからない。
しかしその独白は誰にも届くこともなく……部屋の空気を振るわせて消える。
すぐに言峰は新たな報告書を仕上げる。
そしてできあがった報告書。
それを興味深そうに見つめていた。
料理屋を営み、バーサーカーとも斬り合うことの出来る、超野太刀を持った男の事を……。
お前は……何なのだ?
不思議な存在と思いつつも、それのことを思うと言峰は笑いが止まらなかった。
これほどに心が躍ったのはいつぶりだろうか?
これほどおもしろい存在と出会ったのも。
しかもそれがおもしろいことに聖杯戦争にまで参戦している。
しかしサーヴァントは今夜失われてしまった。
だがその程度で止まる存在だとは、言峰はどうしても思えなかった。
どう動く……? 鉄刃夜よ
どう動くのか?
どのような結末を望むのか?
故に……言峰は暗く、暗く……笑っていた。
「……果たして何をするのかな? この青年は」
――――――――――――
ここは?
赤い……。
紅い空間。
暗い眠りについたはずだというのに、士郎はどこか……何かで塗りたくられたかのような場所にいた。
全てが静かな場所。
そこに士郎はただ一人……立っていた。
何だ……これ?
これが変だということに気づいていたのだが……変だと気付かなくなりつつある自分がいることに、士郎は気づいていなかった。
そしてぼんやりと前方を見つめる。
すると……そこに髪をなびかせて歩いていく人物を見かけた。
「……遠坂?」
紅いコートを身に纏った凜へと声を掛けるが、それを無視して凜は歩いていく。
地面に突きそうなほどの長い髪をなびかせて……。
恰好が制服だったので、士郎は凜が学園へ行くのだと判断した。
あぁ……学園に行くのか
そう納得して士郎も同じように学園へと歩いていく。
だがそれでも奇妙な状況だった。
何せこの場所には……歩いていく道に士郎と凜以外に人の姿がない。
それを不思議に思っているのかいないのか……凜はきちんとした足取りで、士郎は少しふらふらとしながら学園へと歩いていく。
そうして……彼女の教室へと向かっていった。
その教室から少女の笑い声が響いてくる。
数は二人。
双子のようにうり二つの美しい女の子の幻影を見た。
何故追いかけたんだろう?
それが不思議なはずなのに……それを頭が認識しない。
まるで普通ではない感覚だった。
そして士郎は……その笑い声のする扉を開ける。
そこには……
「っ……ぁぁん……。ふぅ……んむ」
「はぁ……あっ……あん……」
二人の影が一つに重なっていた。
一人は凜。
もう一人は美綴綾子。
二人はまるで恋人のように寄り添って……互いの唇を貪っていた。
唇だけでなく舌も絡ませて……相手の全てを味わっている。
二人とも制服を開き……その肢体のほとんどを白日の下にさらしている。
あまりにも欲情と欲望に満ちた光景だった。
だがそれすらも士郎は不思議に思えない。
驚きもしなければ嫌悪すらも抱かない。
性別を超えた愛というものを見ていた。
だがしかし……よくよく見れば……
凜が美綴を押し倒そうとしているかのように、その唇を貪り、その手を美綴の肢体へと這わしているのがわかっただろう。
そしてその白い首筋を一つなでると……
「ぁっ!?」
びくんと、美綴が快感に耐えられなかったかのように震えた。
露わになったその白い美しい首筋へと……
凜が口を当てて……かみついた。
「ん……ふぅん、……ぁぁ」
恍惚とした表情で美綴が歓喜の笑みを浮かべる。
だがそれは徐々に徐々に生気をなくしていくような笑顔で……。
そこで士郎は間違いに気づいた。
今までの行為が、捕食であることに……。
凜がのどを鳴らしている。
何を嚥下しているのかなど……考えるまでもない。
徐々にだらりと下がっていく美綴の手。
そして膝が砕けていくのを、士郎はただ呆然と見つめていた。
「……ぁ」
やがて食事を終えたのか、美綴がぐったりと座っていた机の上に倒れていった。
凜はそれを見届けながら、食事の余韻を楽しむかのように、赤く染まった指を舐めていた。
赤い指にゆっくりと……舌で舐め取るその行為はあまりにも扇情的で艶めかしく、蠱惑的だった。
「ふふふ……ぅん」
ぴちゃりと……そんな水の音が士郎の耳を打った。
そして、それを終えてようやく気づいたのか……凜が視線を士郎へと向ける。
「良かった……。衛宮君来てくれたのね……」
艶めかしい。
あまりにも欲情を刺激する声が、凜の口から発せられる。
それを聞いて、士郎の体は動けない。
いや、もともと固まるようにして二人の行為を見つめていたのだ。
とっくに体の自由はきかなくなっていたのだ。
ただそれに士郎が気づいていなかっただけだった。
その声があまりにも……扇情的で……。
士郎は思わずのどを鳴らそうとした。
だが出来なかった。
それすらも出来ないほどに体の自由がきかなくなっていたのだ。
「どうしたの……? 何を怖がっているの? 衛宮君」
首を縦にも横にも、士郎は振ることが出来なかった。
妖艶な笑みを受け部手己へと近づいてくるその少女の開いた胸元を……見つめていた。
その視線に気づいて……凜が妖しく笑った。
そしてその両手を首に回された。
二人の顔の距離はもはや拳一つ分ほどもない……。
互いの息づかいすらも感じ取ることの出来るほどの至近距離。
女性らしい甘やかな香りとは別に……メスの匂いが鼻をついていた。
「次は……あなたの番よ……」
そう言って凜が士郎の足の間へと己の足を入れる。
見ていたことを責めているのか、からかっているのか……凜は士郎へとその胸部を押しつけている。
それがあまりにも甘美な感触で……凜の匂いと相まって、士郎は頭が飛びそうなほどの刺激を感じていた。
その小さな口が……首筋へと、添えられた。
「衛宮君を……食べてあげるわ」
スゥ……と舌が士郎の首筋を舐める。
それだけで士郎は腰が砕けそうになるほどの刺激が体中を走っていた。
体中に力が入らなくなる。
もしもこれで噛まれてしまったらどうなるのか?
そんな甘やかながらも危険な状況に……期待してしまっている。
「ふふ……」
一つ甘やかに笑みを受かべて……凜が士郎の首へとかみついた。
「……ぁ」
首筋へと侵入してくる凜の牙。
だがそれに痛みを感じなかった。
それどころかあまい、耐え難い快感が士郎に恍惚をもたらした。
首筋に感じる、柔らかな唇とその牙のわずかな刺激。
そして血を吸われていく感覚。
吸われていくたびに……士郎の体から力が抜けていく。
「はぁん……、んむ……。ふふっ、熱いのね……衛宮君」
だがそれでも、それがあまりにも気持ちが良くて。
聞こえるはずのない声を聞かされながら、士郎の血は吸われていく。
ふらりと体が倒れそうになる。
しかしそれを抱きついている凜が押しとどめている。
そして体中から血がなくなっているかのように体が空っぽになっても……
凜は飲み続けていた。
まるで……生命そのものを、吸っているかのように……。
「ふふ……素敵。これなら……全てもらってあげる……」
獲物を味わい尽くすことに愉悦を感じている……そんな悪戯をしているかのような声を聞いて……。
士郎の意識は……途絶えた。
――――――――――――
「実家に帰った?」
「実家というか……俺の親戚の家だな。なんかそれに呼ばれてしまって、小次郎はいったんそっちに戻っている」
早朝。
いつものようにやってきてくれた美綴へと、俺はあまりにも苦しい言い訳をしていた。
昨夜……おそらく死んでしまったであろう小次郎のことをどうするべきか? それを封絶にも助言をもらって考えた結論だった。
助言といってもたいしたものではなかったが、誰かに相談できて互いに意見を交換できるのではだいぶ違う。
『いや、だからその程度で頼りにされても困るのだが? そもそも私の専門はモンスターと鉱物の知識だぞ?』
『それでも十分だ』
美綴をだましているのに少し罪悪感を覚えつつも、しかしかといって本当のことを言うわけにもいかないので、俺は無難に小次郎は俺の親戚の家に呼ばれたと言っておいた。
あまりにも急なことで少し不思議に思っていた様子だったが……それでも疑ってはいないようだった。
突然現れて……
突然にいなくなってしまった……
まだ全てを出し切っていないというのに……
それが少しだけ心残りだった……
「残念です。せっかく仲良くなれたのに」
「……そのうち戻ってくるかも知れないさ」
もう戻ってこないことはわかっているのに……俺は嘘を吐く。
それを言うのならば……俺ははじめから嘘を吐いている。
しかし今回の嘘はそれ以上にひどい嘘を吐いている。
美綴も、小次郎も……互いに互いのことを好ましく思っていた間柄だった。
純粋に尊敬したこともあったのだろう。
何せあのたたずまいは見事なものだった。
ある程度武道をやっている人間なら……小次郎の軸のぶれのなさに気づけたはずだ。
更に流れるようなその動きは……普段から行っているもので……。
あれほどの使い手に……俺はまた会えるのだろうか?
小次郎は目指すべき目標の一つだ。
俺がもっとも得意とする戦闘は打刀での戦闘だし、気と魔力を用いたスタイルのため、小次郎とはだいぶ戦闘方法が違う。
だが得物の長さが違うだけ……といっても野太刀と打刀では雲泥と言っていいほどに違いがあるが……なので、見習うべき点は多い。
体裁きや腕の振り方……全てをとっても俺にはない流麗さがあった。
もっと見ておきたかった……な……
悔やんでも悔やみきれないが、過ぎてしまったことは詮無きこと……と言いたいが言い切れない自分がいる。
しかしそれでも……死んでしまった以上は仕方がない。
そう……思っているつもりだった……
「……寂しいですか?」
少しの間黙っていたのだろう。
そんな俺に対して美綴が優しげな目線で俺にそう言ってくる。
俺は一瞬それにむっとしたが……ほぼ図星だったので、苦笑せざるを得なかった。
「……そうだな」
素直にそう言った。
それが少し寂しげだったのかもしれない。
美綴はからかうことはせず、笑みを浮かべてくれた。
あれほど心躍った斬り合いは……もう経験することが出来ないだろう……
あんな化け物じみた使い手に……しかも刀の使い手だ……会うことはないのだろうから……
技術のみで……あの魔法じみた剣を放った男……
もっと学ぶべき点は会っただろうに……
『人にはそれぞれ、その者自身にあった物がある。それを極めるのがいいと、私は言いたいだけだ』
まぁ……助言はもらったか……
確かに小次郎の言うとおりだった。
俺が目指すべきは、気と魔力を用いての戦闘方法。
そして打刀と野太刀……普通の野太刀と狩竜だが……さらには二刀流だ。
双剣なんかもそれにはいるが……これは二刀流の派生系と考えればいいだろう。
ぶっ飛んだ得物が多いが……これらを過不足なく使えるようにならないと
超野太刀の狩竜は言わずもがな、雷月に蒼月、封絶……封龍剣【超絶一門】。
さらに俺の一番の愛刀、夜月。
これらは全て普通の武器ではない。
雷月に蒼月は雷と炎を出し、封絶は魔を蓄え魔を絶つ。
夜月は……普通の刀と思っていたがなんかすごすぎる防壁を張れる。
狩竜に関しては未知数だが……普通の野太刀でないことだけは確かだろう。
ただ長いと言うだけではなく、何かが。
脈打ってたしな……
あの黒い陰と対峙したときに狩竜は間違いなく嘶いて……反応していた。
そしてその黒い陰の気配には……俺は覚えがあった。
故に狩竜の中には間違いなく、あの黒い邪神龍の力を得ていると考えていいだろう。
予想通り、こいつが役に立つわけだ……
狩竜がどう必要になるのかはわからない。
だがそれでも……この狩竜を持って、俺はこの戦局を切り抜けなければならない。
「……何かあったんですか?」
知らず知らずのうちにまた考え事に没頭してしまっていたようだ。
美綴に心配されてしまった。
小次郎がいなくなってしまったことも相まって、とても意味深になってしまった。
というよりも、これでは小次郎が実家に帰っただけというのは嘘と言っているようなものだった。
『……失策だな』
『だな』
自分の未熟さにあきれかえるが、それでも話すわけにはいかないので俺は曖昧に笑うしかなかった。
そんな俺に対して美綴は……。
「……何かあったら相談してくださいね? 私だって、鉄さんの役に立ちたいんですから」
それら全てを押し殺して……俺の心配をしてくれた。
……なんとまぁ
なんと気丈と言うべきか……肝の据わった少女なのだろう。
普通なら気になって仕方がないところを、嘘でも偽りでも……下心でもなく、俺のことが本当に心配であるという想いだけで、この子は今俺に向けてそう言ったのだ。
これほど神経ができあがっているとは……普通では考えられない。
これこそ間違いなく、いい女と……言うのだろう。
いや、元々だったか……
そんな子に対して俺は一体何をしているのだろう。
いくつかピンチを助けたことは会ったが、それは俺がこの子に対してして上げたかったことであるために恩に着せるつもりはない。
この子がもっとも望んでいることを……俺はどうすれば……
『それがどのような結果になろうとも、嘘だけは言わぬことだ……』
『……封絶』
『お主の事情をこの娘が知っているわけもない。だがそれを知っていたとしても、この子はお主に対して恋心を抱いていただろう。それほどの覚悟と想いをこの子は間違いなく持っている。だからそれに対して誠実に対応すれば……例えそれがこの娘を傷つけることになってもそれは間違いではない。罪ではあるだろうが……嘘を吐くのだけはいけない』
『……あぁ、そうだな』
それも言い訳だと言いたくなったが、それでもそう思うしかない。
例えどれだけ人を傷つけようとも……俺にはなさねばならない事があるのだから。
だから俺は……美綴に対して、こういった。
「……ありがとうな」
相談に乗ってもらうわけにも行かないので、これしか言うことが出来なかった。
逃げているだけかも知れない。
ただこの感謝の気持ちに……嘘はなかった。
「……はい」
俺の言葉をどう受け取ったのかはわからない。
だがそれでも美綴はにっこりと……笑顔でうなずいてくれた。
そんなこの子の笑顔をまぶしくて……俺は優しい気持ちで笑った。
仕事でミスってテンション下がってます~
元気をください~