月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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ストレスで最近心身ともにきつい
世の中のお父さんがすげぇ……と俺はまじめに思います




真実

強化が施されているからか……それとも怒り故にか?

振りかぶった士郎の拳は慎二を殴打し、数メートル吹き飛ばしていた。

それには目もくれずに……士郎は桜へと駆け寄った。

 

「桜!」

「先……輩……」

 

助かった今になっても、桜は顔もあげずに力なく床に座っていた。

それが会話を避けてるのだと言うことに、士郎は気づいた。

だがそんなことよりも……桜の高熱の方がよほど士郎にとっては問題だった。

 

「今すぐに家に戻ろう。それで……」

 

ガチャン

 

窓を破砕する音が響き渡り、第三者がこの場へと乱入した。

言わずもがな凜とアーチャーのコンビである。

しかも抜け目ないと言うべきなのか……登場と同時にライダーを切り伏せて、戦闘不可能な状態へとしていた。

 

「勝負あったわね。観念しなさい、慎二」

「が、ぐ……、と、遠坂!? 卑怯者! 約束を破ったな衛宮!」

 

殴られた慎二が立ち上がりながらそう罵倒する。

だがそんな無意味な主張に、凜は歯牙にも掛けなかった。

 

「そうかも知れないわね。それが約束だったならね? 命令だったんでしょ? なら衛宮君を卑怯呼ばわりするのはおかしいと思うけど?」

 

それは紛れもない真実。

自らが言ったその言葉を、慎二は約束と言う。

そんなことを信じる人間は、この場には当然いない。

 

「詭弁だ! 衛宮は一人で来るって言っただろ!?」

 

しかし今窮状に陥っている慎二には、冷静に判断することも出来ず、そんなことを言っている場合ではない。

何せ……文字通り絶体絶命なのだから。

 

「あなたには言うだけ無駄だったわね。衛宮君と一緒に来たのは事実だけど、私が今この場にいるのは……私の意志よ」

その声には……静かながらも明確に怒気が含まれていた。

 

「桜に手を出した以上、私が黙っているわけないでしょう? あんたは衛宮君をおびき寄せる代わりに私を完全に敵に回したのよ」

 

桜に手を出した以上?

 

今の言葉に、士郎は若干の引っかかりを覚えた。

だが、それは慎二の呪詛にも似た言葉にかき消された。

 

「お前も桜か!? 桜桜桜桜桜桜……。お前はまだこんなヤツに執着があるのかよ!? 黙っていじけてるだけの陰険なヤツに!」

「……言いたいことはそれだけかしら?」

 

凜の言葉に更に怒りが込められる。

さすがにそれを聞いて慎二も焦ったのだろう。

懐から一冊の本を取り出した。

 

あれは……

 

先日の夜の公園で慎二が手にしていた書物、偽臣の書。

それがまだ残っていたことに驚いた。

その本を手に、慎二はライダーへと命令を送る。

 

「立てライダー! マスターの命令だ! 立って僕を助けろ!」

 

そう命じるも、ライダーは動けない。

それも当然だ。

魔術師でもない慎二には、偽臣の書でライダーを使役することは出来ても、ライダーの傷を治癒することは出来ないのだから。

むしろこのままでは傷が原因で死滅するだけだ。

 

こんなの!

 

士郎はそれを見ていることは出来なかった。

先ほど自分を助けてくれたライダー。

その彼女が苦しむ様を、見たくなかったのだ。

 

「やめろ慎二! このままだとライダーが死んじまう!」

 

それは紛れもない真実。

いくら超常の存在とはいえ、致命に近い傷を負ったままでいれば死んでしまうのは道理である。

しかし……ただの道具としてしか見ていない慎二にはそれがわからない。

 

「は!? こいつがそんな簡単に死ぬかよ! お前は黙ってろ!」

 

慎二は命令をゆるめず、ただ己のサーヴァントを罵倒した。

それを見かねて士郎が慎二へと再び殴りかかろうとした時……

 

 

 

「これ以上は……ダメ!」

 

 

 

そんな声が、後ろから……桜からあがった。

そしてそれと同時に……

 

ボッ

 

偽臣の書が燃え上がる。

それと同時に……学園の廊下に突風が吹き荒れた。

その発生源は……

 

「何!?」

 

倒れ伏していたはずだというのに立ち上がったライダーと、うずくまったままの桜からだった。

敵の変化を明白に感じ取って、アーチャーは凜の前に立った。

 

「嘘……? これがライダー!?」

 

驚愕しつつも身構える凜と、双剣を具現化して戦闘に備えるアーチャー。

立ち上がったライダーに傷跡は見あたらない。

それどころか体から発せられる威圧感と重圧は今までの比ではなかった。

そして次の瞬間に消えた。

 

え……?

 

「衛宮君伏せて!」

 

咄嗟にしゃがんだ士郎の真上を、長い髪をたなびかせてライダーが飛翔する。

その腕に、桜を抱えて。

 

「!? 桜!」

 

一瞬の隙を突いて、ライダーは桜を抱えて跳んだ。

慎二がいる少し前の場所。

士郎達と慎二の中間地点へと着地した。

 

「な、なんだよお前。誰が桜を連れてこいだなんて……」

「私はサーヴァントとして主の身を守るだけです」

 

抱えていた桜を優しくおろして、ライダーは慎二にそう冷たく言った。

見えないはずのその視線は……おそらくもっと冷たかっただろう。

 

「ば、バカ言うな! お前の主は僕だろう!」

「シンジ。令呪を宿さないあなたを、マスターだと認めた事は一度もありません」

「な……お前……」

「あなたは偽物です。偽臣の書がなくなった今、あなたの命令に従う理由はありません」

 

そうしてライダーは士郎達へと向き直る。

その態度に……慎二は呆然とするしかなかった。

 

ことここに至ってはわかっていたはずだ。

 

だがそれでも信じたくない一心が、士郎の思考回路を停止させていた。

 

そんなわけがない。

 

そんなはずがない。

 

そう思うも現実は残酷で……

 

 

 

「そう……。そういうことだったのね」

 

「推測通りです。アーチャーのマスター。ですがあなたはとっくに気づいていたのではないですか?」

 

「えぇおかしいとは思ってたわ。間桐の人間からマスターがでるはずがない。魔術を使えない……魔術回路を持たない人間が、令呪を宿すわけがない。魔術回路を持たない慎二がマスターになれるわけがない。でも現実にライダーは召喚されている」

 

何……をいって……?

 

思考が停止していても耳から情報が……声が入ってくる。

耳を塞ぐことすらも出来ず……士郎はただ黙って凜の言葉を聞いていた。

 

「私は間桐臓硯が召喚して慎二に預けているのだと思ってた。だけど……臓硯自身が手を出すまでもなく、間桐家において、もっともマスターにふさわしい人間がいたわね」

 

 

 

待ってくれ……

 

 

 

それを聞いては事実になってしまう。

 

それを知っては戻れなくなってしまう。

 

だがそれでも……止めることも出来ず……

 

 

 

「間桐の正当な後継者。今代の魔術師であるあなたなのね、桜」

 

 

 

その視線はただ一点を……桜を見ていた。

それを聞いてもなお、士郎にはそれが信じられなかった。

だが……それ以上に信じられない存在がこの場にはいた。

 

「桜! もう一度だ!」

 

金切り声を上げて、慎二が桜へと詰め寄ろうした。

だがそれをライダーが阻んだ。

 

「お前……僕に逆らって……」

「もうあなたは私のマスターではありません。サクラに手を挙げるというのならば、排除するだけです」

 

偽りの配下。

偽りの忠臣。

それが二人の関係だった。

そしてその二人の関係が壊れたと同時に……慎二の夢は閉ざされたのだ。

 

魔術師になるという……その夢を……。

 

 

 

「……兄さん」

 

 

 

人質にされてまでまだ慎二を兄と呼ぶ桜。

それは優しくもあり、残酷でもあった。

ライダーの冷徹さと、桜の哀れみにも似た優しさが……慎二に現実を突きつける。

それを悟ってか……慎二は壊れたような笑みを浮かべていた。

 

「そうだよな。僕は魔術師にはなれないんだよな。魔術回路はないし、そもそもにして間桐の正当な後継者は今じゃ桜だ」

 

深い憎悪。

嫉妬だけでしかないその憎悪はどす黒く、そして重かった。

 

「だから……お前がやれよ」

「……え?」

「だからお前が僕の代わりにこいつらを倒せって言ってるんだ! 衛宮も遠坂も敵だろう!? なら間桐の後継者としてきちんと敵を倒せ!」

 

言っていることは全く持って正論だった。

確かに聖杯戦争を行う上で、他のマスターなどただの敵でしかない。

故に、それが知り合いであろうとも敵を倒すのを躊躇していては聖杯には届かない。

だがそれでも……桜には二人を倒すことは出来なかった。

 

したくなかった……。

 

「……嫌です。もうやめましょう兄さん」

 

背を向けて、その手で自分を抱きしめるようにして……だけれどはっきりと聞こえる声で、桜は慎二の言葉を拒絶した。

 

「……なんて言った?」

「嫌です! 兄さんは約束を破りました! 先輩は殺さないって言ったのに……。だからもう!」

 

慎二に振り向かずに声を荒げる。

それは初めての反抗といって良かった。

今まで諦めて、従うだけだった少女の反抗。

それは、慎二に最後の手段を使わせるのに十分だった。

 

ニヤァ

 

笑みを浮かべる慎二。

それはこの上ないほどに乾いていて……

 

悪寒を感じるほどに醜悪だった。

 

 

 

「なら……死んじゃえ」

 

 

 

パキンと……割れる音が響く。

それは桜の耳につけられた耳飾りからだった。

それからあふれ出た液体が、桜の体を濡らす。

 

「あっ!?」

 

その液体を浴びただけで、桜が力なく倒れてうずくまる。

 

「じゃあな桜! 恨むんならあの爺さんを恨め! どうせいつか(・・・・・・)はそうなってたんだ! これは僕なりの慈悲ってものさ!」

 

その言葉を最後に、慎二が逃げていった。

慎二を追いかける者はなく、また追いかけようともしない。

追いかけることなど出来なかった。

 

「あ……ぅ……ぃぁ!?」

 

膝をつき、胸をかきむしっていた。

その動作は、液体を必至になって取ろうとしているようにも見えた。

 

「! 桜!?」

 

ただ桜の身を案じて士郎は桜へと駆け寄ろうとした。

それを……

 

「たわけ! 今の状況がわからんのか!」

 

凜の前で警戒していたアーチャーが、士郎へといつの間にか近寄っていてその肩をつかんでいた。

そしてそのまま突き飛ばし、桜とライダーから引き離す。

 

「離れろ! 下手に魔力を得てしまうと戻れなくなる!」

 

何を言っているのかわからない……そう考えたその瞬間に。

学園の雰囲気が変わった。

変えられたのだ。

 

これは!?

 

それが何かなど、少し前に経験したばかりなので直ぐにわかった。

ライダーの能力の一つが再び発動したのだ。

だが以前とその効果は比べものにならないほど強力だった。

 

「これ……は……」

 

魔力を体に巡らせてもまともに話せないほどに。

だが何とか力を振り絞って、士郎は体の自由を幾分か取り戻した。

 

「学園に張られていた結界ね。桜にマスターが変わったから、威力が段違いになってるわね」

 

桜という言葉に、士郎は視線を向けた。

そこにはうずくまって必至になって胸をかきむしっている桜と、アーチャーと対峙しているライダーの姿があった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「はっ! ざまあみろ!」

 

必至になって逃げている慎二。

もはや襲ってくることはない状況だったが、それでも慎二はがむしゃらになって逃げていた。

すでにサーヴァントもいなくなってしまった状態では、慎二には対抗できる手段があるはずもない。

逃げるのも当然だった。

だがそれを……

 

「待てよ」

 

ドガッ!

 

誰もいないはずの裏の林で、どこからか声が聞こえたと同時に、慎二は衝撃を受けて……横へと飛ばされた。

 

「がっ!?」

 

そこそこの衝撃であったため、そして身構えることもなく喰らったために慎二は痛みのあまりにむせていた。

 

「ぐっ……あがっ」

「この程度で咳き込むなよ? 今のは魔力の強化はおろか気力による強化もしておらず、挙げ句の果てにはかなり手加減したんだぞ?」

 

声は聞こえる。

だが声が聞こえるだけで姿も気配も感じ取れない。

それは慎二を恐怖させるのに十分な効果をもたらしていた。

 

「だ……誰だ!?」

「誰だぁ? お前こそ何様のつもりだこのくそ野郎」

 

殺意すらも孕んだ明確な怒気。

慎二はそこまで感覚が鋭いわけではない。

逆だ。

鈍くても感じてしまうほどの怒気を相手が放っているのだ。

 

鉄刃夜が……。

 

「さすがに今回はつらかった。というよりもよくぞ飛び出さなかったと自分をほめてやりたい気分だ」

「ど、どこだ!? どこにいるんだよ!?」

 

刃夜の声はするのに姿が見えないことで、慎二は恐ろしいほどの恐怖を感じていた。

幻聴とは言えないほどはっきりと聞こえていて、更にその怒気が相手の存在を告げている。

なのに姿が見えないのだ。

恐慌しても不思議はない。

【霞皮の護り】を使用しているのだから、見えるはずもないのだが……。

 

少しでも恐怖を……与えるために……

 

「何を怖がっている? お前にその権利があるとでも?」

「な、何を言って……」

 

 

 

「あいつは……一言も泣き言を言わなかったぞ」

 

 

 

あいつ。

そう称した相手が誰であるか慎二は直ぐにわかった。

その士郎の姿を思い浮かべて……一瞬だけ怒りが恐怖を越える。

 

「人質を取られた状態で、己では絶対にかなわないはずの存在であるサーヴァントを前にして、あいつは泣き言一つも言わず、ただその体に与えられた打撃に歯を食いしばって耐えていたぞ?」

「そ、それがどうした!? あいつにはお似合いだろう!」

 

その言葉に、刃夜はもはや呆れるしかなかった。

そしてそれと同時に……この目の前の男に大して沸々と怒りがわいてきていた。

 

「正直言って俺は士郎を見直した。あれだけのことをされて、まだ耐えて桜ちゃんを助けるなんてすげぇと思う」

 

あれほどの状況下で最後まで立っていた士郎に刃夜は紛れもない敬意を抱いた。

自分よりも圧倒的に強い存在に大してあれだけの事をして見せたのだ。

それに比べて目の前の青年の姿には呆れた。

その姿が……恐怖で震えているその姿を見て思い出す……。

この男が襲った少女のことを……。

 

 

 

「あぁ……そうだったな。そう言えば思い出したわ……」

 

 

 

その一言で……周りの温度が一段と冷えた。

 

刃夜の凄まじいほどの殺気で……

 

それを感じないほど……慎二もバカでもない。

 

 

 

「お前……ライダーに美綴襲わせたよな?」

 

 

 

「ひっ!?」

 

【霞皮の護り】を解除した事で、刃夜が眼前に現れる。

蹴飛ばされた状態のまま地面に座り込んでいる慎二は、目の前に突然現れた刃夜に恐怖し、そして震えた。

 

こ、殺される……

 

失禁すらもしてしまうほどに、その体から怒気と殺気がにじみ出している。

そして手に持っているのは一振りの刀。

まだ抜かれていないが、それでもそれが偽物か本物であるかなどうかなど……考えるまでもない。

むしろ仮に偽物だったとしても、刃夜ならば造作もなく慎二を殺すことが出来るだろう。

 

「立て」

 

それは否応なく震え上がらせる言葉だった。

だがそれをすることが出来ない。

恐怖で震えている慎二には。

 

「お前のいう特別ではない美綴は、ライダーに襲われた状態でも立っていたぞ?」

 

それは挑発でもあり情けでもあった。

これで反抗して立ち上がることを期待した。

それぐらいの気骨はあるのだと。

だがそれを慎二に求めるのは無理があった。

 

……この程度か

 

刃夜としてもさすがに落胆せざるを得なかった。

故に、これ以上何をしても無駄だと悟って、引導を渡す。

 

「はじけろくそ野郎!」

 

身体強化抜きの、純粋な刺突。

もちろん不殺の戒めを忘れてはいないので鞘から抜いてはいない。

だが、それでも十分な威力を有していた。

 

「――――――――っ!?」

 

腹にめり込んできたその攻撃で悲鳴を上げることも出来ず、慎二は気絶した。

そしてそれと同時に……学園が赤く染まった。

 

「あぁ?」

 

これが一体どういった物なのか、刃夜は直ぐに察した。

学園に再度張られた、内部にいる人間をどろどろに溶かしてそれを養分(魔力)として吸収する術。

そして……これは相当まずいと言うことも。

あくまでも刃夜に取ってではないが……。

 

……放っておいたら死ぬな

 

もちろん刃夜自身ではなく慎二のことである。

元々魔術師ではない慎二では、魔力を張り巡らせることも出来ず、そう時間をおかずに溶けて消えるだろう。

刃夜としてはいけ好かない人間ではあるし、正直放っておきたいというのも山々だったが……それをすることはなかった。

 

というかやっぱり桜ちゃんも普通じゃなかったわけだ……

 

士郎が魔術師というのはすでに知っているが、桜ちゃんも魔術師だったわけであることは、今の状況を鑑みれば明らかだった。

初めてであったときに感じた違和感がまだなんなのかはまだ刃夜にもわかってはいない。

そして慎二と桜ちゃんの祖父は間桐臓硯だった。

 

こいつも、普通に過ごしていれば違ったかもなぁ……

 

刃夜にとっては憎たらしいことこの上なく、このまま吸収されて死ねば、苦しむこともなく死ねることになるのだが……

 

まぁ士郎の友人だしなぁ……

 

そして血縁がないとはいえ桜の兄でもある。

今はどう考えても、仲が良好であるとは言えないがそれでもこのまま放っておく訳にはいかなかった。

そして家族が全員普通ではない以上、保険は掛けておく必要があることも、刃夜は理解していた。

 

やれやれ、俺も優しいことだな……

 

自分にとってなんの特にもならないことを行って、刃夜は自身に苦笑しながら、気を失っている慎二を担ぐ。

 

入ることは出来ずともでることなら……

 

気絶した慎二を抱えて、刃夜は外へと向かって疾走した。

今回の件は完全に自分は関係者ではない。

ならば当事者に全てを任せてもいいだろう、と刃夜は思ったのだ。

 

あれだけの責め苦を耐えた士郎がいるのだから……。

 

 

 

後は任せたぜ? 士郎

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

静寂。

ただただ痛々しく……苦しげにうめく桜の声だけが響く廊下。

結界が発動したことで身動きすらも、士郎と凜は億劫になっている。

故にこの状況をどうにか出来るのはサーヴァント(アーチャー)しかいない……。

 

そのアーチャーに対峙しているライダー。

 

一触即発。

そう言っていいほどに空気は張り詰めていた。

 

「どけライダー。お前のマスターは暴走している。他人の魔力の味を覚えてしまえばもう戻れなくなるぞ?」

「お断りします。マスターを守護するのが私の役目。あなたがサクラを殺そうとしている以上、行かせるわけにはいきません」

 

殺す……って……

 

二人が何を言っているのか士郎にはわからない……わかりたくない。

桜が死んでしまう……いなくなってしまうと言うことを考えたこともなかったからだ。

 

「ほぉ? みすみすマスターを殺すのか? 著しい魔力を消費しているぞ? 今のままでは確実に魔力が枯渇する」

「ならば失うよりも多くの魔力を得ればいいだけの話。ここには魔術師が二人いる。サクラが虫に食われてしまう前に、あなたのマスターとそこの青年をもらい受けます」

「ふんっ。性根は変わらず……か……。他人の命よりも自分が大事か」

「それはあなたも同じ事では?」

 

桜の命を優先するライダー。

凜を守ろうとするアーチャー。

 

同じ願い(自身のマスターの命)を望み、手に入れる手段が一つしかないのならば……答えは直ぐに決まる。

 

 

 

「確かにな……。ならばお互い、気兼ねする理由はないというわけだ!」

 

 

 

その言葉と共にアーチャーが突撃する。

この全てを溶かしてしまう結界の中でもその動きに遅滞はなかった。

そのアーチャーに……ライダーが衝突する。

 

「おい、いいのか遠坂!?」

「いいも悪いも、もう戦うしかないわ。このままだと私もあなたも死んでしまう。それに桜が外道になってしまうのは防がないと」

 

外道に……なる?

 

外道。

道を外れたという言葉。

もう人として戻れないところまで堕ちてしまった人間の総称。

それに桜がなると言うことが、士郎には理解できなかった。

 

「待て。そんなはず……」

「暴走しているからしょうがないわよ。結界はライダーが作った物だけど、今使用しているのは桜よ。慎二が何をしたのかわからないけど、今の桜は獰猛な獣と同じよ。自分のために、人の魔力()を欲している。冬木の管理者として、そんなの放っておけないわ」

 

放っておけない。

それが何を意味するかなど、今の状況下では考えるまでもない。

 

「待て!? 遠坂、桜をどうする気だ!?」

「それはアーチャー次第ね。こうなった以上、私には一つの方法しか思い浮かばないけど、あいつだったら何か知ってるかも知れない。でも……それも難しいかも」

 

難しい?

 

そこでようやく士郎は、アーチャーとライダーの戦闘の変化に気づいた。

先ほどまでは優勢を保って戦闘をしていたアーチャーが、逆に劣勢に陥り防戦一方になっているのだ。

そもそもにしてライダーの武器は敏捷性にある。

誰かを護りながらと言った、自由に行動できないという状況は不得手のはずだ。

場所も開けた地形ではない廊下という閉鎖空間。

だというのに、アーチャーが攻め切れていないというのは……どういうことか?

 

そうか、この結界で……

 

結界が作用するのは何も生身の人間だけではない。

サーヴァントも例外ではなかった。

故にアーチャーも徐々に体力を奪われていっている。

そしてそれは……生身の人間の方が消耗が早いのは道理であり。

士郎と凜は、もう限界に近かった。

 

「ちっ」

 

憎々しげにアーチャーが舌打ちした。

倒せるはずの相手を倒せないのでは、そう感じてしまうのも無理はない。

 

「なるほど、今のあなたの力はわかりました」

「なんだと?」

 

一度停止した戦闘。

その最中で言葉を交わすライダー。

 

「あなたでは勝てないと言うことです。宝具を使用しないのが、サクラを気遣っているのがあなたの意志なのか、マスターからの命令なのかはわかりません。ただ使わないと言うのであれば、あなたは私には勝てない」

「……ふん。気遣い理由がどこにある? お前とて同じだろう? 先ほどまで間桐慎二がマスターだったのでは宝具を使うほど魔力がたまっていないからな」

 

それは事実だった。

魔力は魔術回路によって生成される。

故にそれを持たない慎二が魔力を供給できるわけもない。

互いに言葉をこれ以上交わす必要はないと感じているのか、二人が構えた。

 

「だめ……ライダー!」

 

しかしそれを桜が止める。

先ほどまでただ苦しみにもがいていた桜が必至になって声を上げる。

それはライダーを止めるのには十分だった。

 

「やめて! もうやめて! 私はこんな事がしたくて……こんなことをさせたくてあなたを呼んだんじゃ……ない!」

「その命令は聞けません。私はあなたの命を優先します」

 

その言葉と共に、ライダーの腕が上がった。

それは自らの眼帯へと手を伸ばしていた。

 

何を?

 

それが何か意味がある行為であることは誰にでもわかった。

しかしそれ以上に気になった言葉が……士郎の耳を打った。

 

「それに……。これはあなたが望んだことです。サクラ」

 

その言葉と共に黒い眼帯を……封印を解除する。

その眼帯の下が白日の下にさらされたその瞬間……

 

 

 

全てが停止した。

 

 

 

今まで封じられていたその眼球。

光を宿さず、外界をのぞくのは四角い瞳孔。

それは数多ある魔眼と呼ばれる中でも最高位と呼ばれるにふさわしい物だった。

神の芸術か、もしくは神を呪う天性か……。

その目に見つめられたとたんに……三人は停止を余儀なくされた。

アーチャーはそれどころではなく、体そのものが変質し停止していた。

足が半ばから石化しているのだ。

距離が近かったことも相まって、それを防ぐことがかなわなかったのだ。

 

「せ、石化の魔眼!?」

 

悲鳴を上げる凜。

そう叫んだ凜の顔を見ようにも、士郎も顔どころか視線すらも動かすことが出来なかった。

距離が多少なりともあったために何とか体そのものは石化していないが、体の制御がきかなかった。

いや、現在進行形で石化は進行しているのだ。

 

強力な魔眼は基本的に生まれつきとなる。

後天的に得ることも可能だがはっきり言ってしまえば、お粗末と言っていいレベルの物しか効果を持ち得ない。

それらを圧倒的に超越する魔眼の代表格は八つ。

束縛、強制、契約、炎焼、幻覚、凶運。

他者の運命に勧誘する魔眼。

その中で最高位とされる石化の魔眼。

 

視線だけで人を石にする、英霊メドゥーサのシンボル。

 

 

 

「凜! 離れろ!!!! 本命がくるぞ!」

 

 

 

腰まで石化したアーチャーが声を上げる。

アーチャーの言うとおり、ライダーの背後に何か赤黒い紋様が浮かび上がっている。

 

「そ、そんな、こと言われて……も!」

 

忠告されても士郎も凜も防ぐことも逃げることも出来ない。

見た目が石化していなくても、それは確かに進行しているからだ。

紋様は槍のような形を形成して、遠坂へと向けられる。

 

何とかしないと!?

 

何故か多少は動くことの出来る士郎は必至になって頭を巡らせる。

だがそれでも未熟な彼に手段はそう多くない。

標的とされたからか石化の魔眼はより強く向けられたのだろう。

凜は本当に一歩も動くことが出来ないようだった。

それを防ぐために……

 

「遠坂!!!」

 

士郎は走った。

半ば動かなくなっている体を必死になって突き動かして。

そしてその勢いのまま凜を突き飛ばし……

 

ドスッ

 

そんな不吉な音を、士郎は体の内部から聞いていた。

 

「ばっ!? あんた何して!?」

「――――――――――ぁ?」

 

凜が何か吼えていたが、それを士郎は聞き取ることが出来ない。

だがそれでも……

 

 

 

「……先輩?」

 

 

 

何故かその声だけははっきりと聞こえていた。

だがそれに返事をする余裕もなく……士郎はその場に倒れた。

 

 

 

「や……ぃゃ……、いやぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

まるで断末魔のように……桜はそのまま倒れていった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

ずいぶんとまぁ……疲労困憊というか……

 

それが教会の椅子にて治療を待っている俺の素直な感想だった。

慎二をなんとか学園の外へと放って捨てた俺は、直ぐにとって返して学園へと再び不法侵入。

しかしそのときには全て終わった後だった。

廊下へと急行してみればそこには士郎と桜ちゃんが倒れており、それの救助に当たっていた。

何でも槍のような物を桜ちゃんが凜へと向けて放ったのだが、それを士郎が庇ってしまったらしい。

聞くところによるとそれは吸収する魔術であり、桜ちゃんが無意識のうちに放った物だったようだ。

 

確かに……かなり枯渇した様子だったしな

 

殺し合いの状態だったために、士郎を俺が、桜ちゃんを同姓ということも会って遠坂凜が運んだ。

サーヴァントに運ばせようにも、片方だけが運ぼうとすれば隙が出来てしまう。

そうでなければサーヴァント同士が何をするのかわかったものではないからだ。

ちなみに俺がどうしているのかと聞かれたので……

 

「お前らがくる前から学園に潜んでいたぞ? んで慎二を俺がぶっ飛ばした後、結界が発動したから仕方なく助けてやった」

 

そこでようやく士郎と遠坂凜は、慎二が結界に巻き込まれたかもしれないということに行き着いたらしい。

そのため、俺は慎二は結界の外に出してほっぽったと伝えた。

 

……その後? しらんがな

 

武士の情けで命だけは助けてやったがその後は知らん、というかどうでもいい。

あんなクズには風邪程度では贖罪にもならないが、それでも多少なりとも罰をくれてやるのがあいつのためだ。

結界が発動しなかったおかげで気配遮断のみ……簡単に言えば透明化していない……使用したために、魔力消費量はそこまで多くない。

そうして俺たちは怪我人を何とかするために教会へと足を運んだのだ。

 

……こんなに早くまたここにお世話になるとはな

 

もう大して会うことはないであろう……そう思っていたはずだったのに、よもやこんな早く再会するとは……。

 

あの心臓に悪い神父に……

 

ちなみにその神父が桜ちゃんの治療を行っている。

士郎は魔力を根こそぎ持って行かれたので命に別状はなかったが、それでもライダーとの戦闘とナイフを握ったことで出来た左手の治療を遠坂凜がしていた。

サーヴァント二体は教会の外にて待機中であるため、この場にいるのは俺と士郎と遠坂凜だけだった。

 

「遠坂……」

 

治療を終えて、椅子にじっと座っていた士郎が口を開く。

遠坂凜はそれを聞いて……静かに士郎へと目を向ける。

 

「聞きたいことがある」

「……そうね。いいわ。話してあげる。隠す理由ももうないし。聞きたいのは桜のことでしょ?」

「……席を外そうか?」

 

明らかに重い話……他人に聞かせるような話ではない……と判断して俺は気を使った。

しかしそれに対して……遠坂凜は首を振った。

 

「ここまできたら構わないわ。吹聴するなんてこと、あなたはしないだろうし」

「それはどうも」

 

聞いていい物か謎だったが、どうしてあんな状態になったのか気になったのも事実だったので、俺は姿勢を正して座り直して、遠坂凜の言葉を待った。

それは士郎も同じなのだろう。

必死になって……覚悟を決めているようだった。

 

「発端はずいぶん昔。間桐の血が薄れてしまったことが起因だった。元々間桐は海外の魔術の家系だから、冬木……つまり日本の土が会わなかったんでしょうね。生まれてくる子供に魔術刻印が少なくなっていった。そしてついに、慎二の代になって魔術回路そのものがなくなってしまった」

 

魔術回路。

この世界における魔術を発動させるために必要な物。

何でも話を聞く限りではそれを何代にもわたって継承していく物らしく、いわば一族の誇りと結晶と言っていい物らしい。

それがどんどんとなくなっていってしまうのは……耐え難い事実だろう。

 

「間桐の歴史はそこで終わってしまうはずだった。間桐は名門だからよその人間を弟子に取るのは拒否し続けた。だけど慎二の代になってあわてたんでしょうね。その頃から弟子を取ろうとしたみたいだけど、落ちぶれてしまった家系に来る人間なんてそうはいない」

 

没落貴族……ね

 

ちなみに俺の実家……元はそこそこ有名な家柄だったらしい。

が今は普通の……普通?……一般家庭だ。

没落と言うよりも、貴族としての責務云々が面倒になって一般家庭になったらしいが。

 

「それでも諦められなかった。だから慎二のお父さんは養子を取ってその子に間桐の魔術を伝えた……」

 

……あまりいい予感はしないな

 

「衛宮君の家は特殊みたいだから知らないかも知れないけど、魔術師の家系は一子相伝。跡継ぎの子供だけに魔術を教える。姉妹なんかだった場合は後継者だけに教えて、もう一人の子供は普通に育てるか養子にするの」

 

後継者……か……

 

いつの世、いつの時代、どこの家にどこの平行世界でも、その問題には頭を抱えるわけだ。

養子に出すというのは一応親なりの配慮なのだろう。

魔術回路という……生まれる前からすでに確定している才能という贈り物があるのだ。

それをただそのままにしてしまうのはもったいないと考えてしまうのも無理はない。

 

「……ってことは」

「そうよ。私には一つ年下の妹がいたの。衰退して養子をもらえなかった間桐が頼ってきたのが同盟関係だった遠坂だったってことね。父さんがどっちを後継者にするつもりだったのかわからないけど、現実として私は遠坂に残って、あの子は間桐の養子になった。それが十一年前。それ以来あの子とはまともに会ってないわ。間桐からの取り決めでね。むやみに会うなって言われてた」

「なら遠坂と桜は……」

「実の姉妹になるわ。まぁ……養子にもらわれてからはそんな風に呼び合ってないけどね」

 

その言葉にどれだけの感情が込められていたのかはわからない。

だがそれでもその平坦な言葉が……平坦にしようとしているその言葉が、どれほどの物かは多少なりとも感じることが出来た。

 

「なら遠坂は桜の味方なんだな」

 

遠坂凜の思いを感じながらも、それでも士郎に取ってはそのことの方が重要だったようだ。

何せ姉妹……家族という血縁者。

それをそう簡単に切ることなど、普通であるのならばそうそう出来る物ではない。

あくまでも……普通であるのならば、だが……。

 

「いいえ。私はあの子の味方じゃないわ」

 

それをばっさりと、遠坂凜は切り捨てた。

 

「なんだって?」

「このまま桜が治らなかったら狂ったマスターとして処分するわ。冬木の管理者として。無差別に人を襲う魔術師なんて放っておけるわけないわ」

「処分……って……。お前!? 何を言っているのかわかってるのか!? 妹なんだろう!? 間違っても殺すなんて事――!?」

「……桜は間桐の娘。十一年前から私に妹なんていないわ」

 

明らかに冷静ではない士郎と、見た目は平静だがその胸中でどれだけの思いが渦巻いているのか、容易に想像できる遠坂凜。

互いに熱くなってしまっているのだろう。

士郎にとっては家族同然。

遠坂凜にとってはよそにもらわれたとはいえ姉妹と感じてはいるのだろう……それを言うことが出来なくても。

 

「落ち着け二人とも」

 

二人の頭が冷えるよう、ほんの少しだけ殺気も混ぜた声を放つ。

そこでようやく第三者()がいることを思い出したのだろう。

二人の視線が一斉にこちらへと向けられる。

 

「士郎も気持ちはわかるが落ち着け。遠坂凜も、言っていることは物騒だぞ? とりあえずあの神父の治療が終えるまで結論は後回しにしても良かろう」

「だけど刃夜!?」

「落ち着け。治療が気になって落ち着かないなら、治療が終わるまで気を失わせてもいいんだぞ?」

 

言ってることは遙かに俺の方が物騒であるが、そこらは気にしない。

落とすことも可能だというのは二人ともわかっているのだろう。

お互いにまだ言うこともあれば、思うこともあるだろうがひとまず黙った。

そしてそう時間も経たずに……神父が戻ってきた。

 

「何を騒いでいる。手術はすんだが患者は未だ危険な状態だ。騒ぐなら外でしろ」

 

教会の奥より神父、言峰綺礼がやってきた。

そのときの二人の反応は早かった。

 

「言峰!? 桜は!?」

「綺礼!! 桜は!!?」

 

最初が士郎、次が遠坂……といってもほぼ同時にそう吼えていた。

 

「いがみ合っているのか、息があっているのか、はっきりしたらどうだ?」

 

言峰綺礼が的確に二人の事を表現して苦笑する。

それが二人とも恥ずかしかったのだろう、言峰綺礼に促されて大人しく椅子へと座り直した。

 

「簡単に説明すると、間桐桜の体内には毒物()が混入している。これは刻印虫と呼ばれる物で、人為的に作られた三戸(さんし)のようなものだ」

 

三戸。

人間の体に棲み着いて寄生した人間の悪行を閻魔大王へと伝えるという虫のことだ。

それはわかったが俺はもちろん士郎も、刻印虫とやらの存在はわかっていないようだった。

 

……あの虫か?

 

虫と言われて思いつくのはあの臓硯が使役していた虫だった。

 

「本来はただの寄生虫で魔力を喰らって活動を続けるだけの使い魔だ。宿主の命を知らせるだけしか出来ない最低位の使い魔といえる」

 

……それはつまり

 

「なるほどね。魔術で作った監視装置かしら? 臓硯がそれで桜を監視しているのね」

「おや? 刻印虫がどうして間桐臓硯の物だということになる?」

 

わかりきったことだろうに、神父はそう言って話をはぐらかす。

それにいらだったのだろう。

遠坂凜がいらだたしげに声を上げる。

 

「今あんたの長話につきあってるような気分じゃないの。あいつ以外にそんな物植え付ける人間がいるわけないでしょ」

「確かにな」

「早く結論を言いなさい。桜はどうなの?」

「せっかちだな凜。お前は彼女の容態を把握しているのだろうが、そこの二人は別だ。説明はすべきだろう」

「っ……」

 

遠坂凜が忌々しげに舌打ちをした。

それは結論を先延ばしにした神父に対してか?

それとも……容態を知られてしまうことに対してだろうか?

 

「では続けよう。この刻印虫は間桐桜の神経に密接に絡み合い、全身に行き渡っている。魔術回路に似た神経となっており、普段ならばなんの影響も及ぼさない。だが……一度活動を始めると魔力を糧に活動する。先ほどの状態はそれだ。体内の刻印虫が徘徊して生命力たる魔力を吸い取り続けていた」

 

監視装置という……本人にはなんの益もないそれらの虫は巣くった宿主の命を糧に動き続ける。

それは監視装置と言うよりも……枷だった。

 

……下衆なことを

 

「あの状態が半日も続いていたならば間桐桜は死んでいた。魔力が枯渇しても刻印虫は動き続ける。そのとき喰らうのは間桐桜の体そのものだ。つまり、魔力がなくなれば間桐桜は内側から虫に食われると言うことだ」

「なっ……」

「その傷みがどれほどの物か……魔術刻印を持つ衛宮士郎ならばわかるだろう。人間は爪の先ほどの異物が混入しても不快感を訴える。下手をすればそれだけで死んでしまうこともある。その点、先ほどまで間桐桜が意識を保っていたのは正直驚いた。意思が強いのか、それとも刻印虫の発動になれているのか……どちらかだろうな」

 

……なるほど……な

 

神父の言葉は残酷だった。

意思が強いはずがないとは言い切れないが……なれていると考えるのが自然だからだ。

何せ桜ちゃんが間桐の家に養子に行ったのが十一年前。

その間……何もなかったと考えるのはあまりにも不自然だ。

 

「ちょっと待って。普段は影響がないっていったわね? それってつまり……」

「そう言うことだ。かけられた薬物は刻印虫を目覚めさせる物だったようだ。刻印虫は監視であり、宿主である間桐桜が『ある条件』を破ったときのみ制裁として活動を始める」

 

……本当に下衆だな。あの虫のじじい

 

「それは……どんな条件なんだ?」

 

必死になって自制しているのだろう。

だがそれでもその体が小刻みに震えていることに……士郎は気づいているだろうか?

 

「間桐桜が倒れ、凜は救おうとした。しかしライダーはそれを拒んだ。ならば簡単だ。マスターとして戦いをしなければ発動する。そう言う仕組みなのだろう。今までは間桐慎二がそれを肩代わりしていたことで賛同していた事になっていたが、それを拒否してしまった以上、刻印虫は間桐桜を攻め続けるだろう。今は治療によって間桐桜も虫も落ち着いているが、そう長くは大人しくしていないだろう」

 

ギリッ

 

そんな音が、静まりかえった教会になった。

その音は……士郎が歯を噛んでいるからだろう。

必死になって……耐えているのだ。

 

……何に耐えているのかが……問題だがな

 

「それが条件だって言うのなら……令呪を放棄して契約を解除すれば――」

「それは、無理だろう。マスターとして戦わなければいけないというのなら、自発的に契約を放棄すればどうなるかわかったものじゃない」

「鉄刃夜の言うとおりだな」

 

……名前覚えてやがる

 

一度自己紹介した故に、覚えていてもおかしくないのだが……それが俺にはどこかゾクリと、嫌な悪寒を覚えさせた。

 

「戦って生き残るか、戦わずに刻印虫に食いつぶされるのか……。今の桜にはそれしかないわ」

 

……何も言えないな

 

普通とは言えない人生ではあるだろう。

魔術師というのは間違いなく裏の世界の住人達なのだから。

だがそれでも……その普通ではない中でも更に普通ではないのが桜ちゃんの状態だ。

今まではまだ普通に暮らすことはそんなに難しくはなかっただろう。

だが……聖杯戦争がそれを困難にさせている。

サーヴァントを従えるには魔力を与えなければいけない。

桜ちゃんにも当然魔力を生み出す力はあるのだろうがそれでも、サーヴァントに刻印虫の二つがいるために、消費量は激しい。

しかも全身に蝕んでいるという刻印虫が発動した時の痛みというのは……どれほどの物なのだろうか?

 

「相当危険な状態と言っていい。後何日持つかはわからんが、日増しに刻印虫の浸食は進んでいくだろう。おそらく体が持つまい」

 

全身に虫に食われた状態。

それらが食うのは魔力と己の肉体。

それがどれほどの責め苦なのか?

それを士郎も想像しているのだろう。

歯をかみ砕かんばかりに必死になって怒りを抑えていた。

 

「私が行ったのは毒物の洗浄のみだ。魔力と精神を呼び戻す手術は今から行うが、それも成功するかははっきり言ってしまえばかなり難しい。結論を言えば、このままでは間桐桜は助からない」

 

はっきりと告げられる……言葉。

今までの話を聞いていればある程度は予測できたことだろう。

だがそれでも士郎はよくわからないといった感じの表情をしていた。

それだけ彼女のことが大事だったのだろう。

 

「けどいきなりすぎるわ。刻印虫はもう何年も前に桜の体に植え付けられたはずなのに、ここ最近でいきなり限界がくるなんて」

 

……なんだかんだでこの子も優しい子なんだな

 

どうやら遠坂凜も少々冷静ではないようだった。

冷静さを欠いている理由を考えれば、こいつはやはり優しい人間なのだろう。

ここ最近で変わったことなど……それこそその変化のただ中にいるはずの人間であるというのに。

 

「最近変化したと考えるのが簡単だろう?」

「どういうこと?」

「お前もその関係者だろ?」

 

それでようやく理解できたのか、遠坂凜は口惜しげに顔を歪ませていた。

士郎も今の問答で気づいたようだったが、念のために俺は言った。

 

「聖杯戦争が始まり、サーヴァントと契約した。それによって常に魔力を消費するようになった。虫の分まで魔力が行き渡らなくなったってことだろう」

「そう言うことだな。先ほどの手術でわかったことだが、間桐桜は戦闘向きではない。その間桐桜を今回の戦争で間桐臓硯が使用することにしたのは、何か理由と条件があるのだろうな」

「何? 桜に何か変化が訪れたってこと?」

 

聖杯戦争以外にも、何か桜ちゃんに変化が訪れたという。

それがいったい何なのかは、俺にもわからない。

再び聞き役に徹する。

 

「そう考えるのが妥当だろう。間桐臓硯ですらも予期せぬ事が間桐桜の身に起きたのだろう」

「マスターとして戦えなんて条件がなくても、足りない魔力が桜の体を傷つけるのね……。でもそれならライダーを使役しなければ……」

「多少はましになるだろう。だが、あの老人がこのまま間桐桜を放っておくとは思えないがな」

「そうね、そもそも自由にする気があるのなら監視(刻印虫)なんて植え付けないでしょうね。戦わなければ虫に喰われ、戦えば魔力を消費して更に体を削って……。最悪、刻印虫で桜のことを自由に操れるのね……あの妖怪じじいは」

 

……悪魔だな

 

八方ふさがりにも程がある。

老獪という言葉が実によく似合う妖怪老人のようだ。

 

……それにしてはいくら何でも気の感じが異常だったがな

 

「好きに……操れる?」

「桜の命を握っているのよ? それくらいは出来るわ。だから臓硯を倒さなければ桜は救えない。だけど……その間桜が何をしてくるのかわからない。臓硯の操り人形である桜を利用することが出来るから」

「そう言うことだ。臓硯に取って間桐桜は都合のいい駒でしかない……。だがこのまま老人の思惑通りに事が運んでいくのも歯がゆいからな。刻印虫の摘出も行おう」

 

……ほぉ

 

精神に密接に結びついているという刻印虫を取り除くというのはどれほど難題なのだろうか?

話を聞く限りでは疑似神経と言っていいほどに体に密接な物となっているはずだ。

それをやってのけると言った神父に皆が驚きを隠せないようだった。

 

「言峰……あんた……」

「かなり成功する確率は低いだろうが努力はしよう。最悪聖杯に頼るというのも一つの手段だが……神父が聖杯(奇跡)に頼るというのも体裁が悪い」

「……どういうつもり?」

 

遠坂凜のその言葉には俺も同意だった。

今の言葉に嘘はない。

つまりは本気でこの神父は桜ちゃんを助けようとしているのだ。

 

「死なすには惜しかろう? まぁお前達三人に取っては、いなくなった方が都合がいいのかも知れないがな」

「……わかったわ。手術が終わった頃にまたくるわ」

 

いろいろと様々なことが起こっており、それを知ってしまったので遠坂凜も少し冷静になりたいのだろう。

手術を邪魔しないというのもあるだろうが、率先して外へと出て行く。

俺もこの場にいても仕方がないので、外へと出ようとしたが……いつまで経っても士郎が立ち上がろうとしないので声を掛ける。

 

「士郎、俺たちも外に出るぞ」

「だけど……刃夜」

「何をするのかはわからないが、疑似神経にまで発達してしまった虫の駆除というのはそれこそ大手術のはずだ。ここでいたところでお前に出来ることはない」

 

ある程度やんわりと、言葉を選んで席を立つことを促した。

だがそれを、神父が穿った。

 

「衛宮士郎。お前がここにいては間桐桜にとって害悪でしかない。凜と同じように早々に消えるがいい」

「な……害悪だって」

 

自分にとってそれほどまでに大切なのだろう。

だからこそ桜にとって邪魔であると言われたのが我慢できなかった。

故に士郎は怒りも露わに立ち上がっていた。

 

「何も出来いならせめて……桜の無事を祈っちゃ――」

「それはお前の傲慢だ。衛宮士郎、お前に間桐桜を同情する資格はない」

 

これ以上ないほどに苛烈な言葉だった。

残酷といってもいいかもしれない。

その意味がまだわかっていないのだろう。

士郎は愕然としていた。

 

「あの娘に施された継承という名の行為がどのような物か、容易に想像できるだろう? 何せ女性なのだからな」

 

女。

それを鍛えるのに手っ取り早いのはなんなのか?

房中術もあることを考えれば……答えは簡単だった。

それ自体は士郎もわかっていたのだろう。

そこに驚きはない。

 

「あの娘にとってお前にだけはそれを知られたくはなかっただろう。だがそれでも常に救いを求めていたはずだ。魔術継承という陵辱がどれほどの期間続いていたのかは間桐桜にしかわからないことだ。だが十一年前に養子に出された事も考えれば短期間ではあるまい。その救いを身近にいながら気づけなかったお前に何が出来る? 傲慢というのはそう言うことだ。わかったのならば席を外せ」

 

それはどうしようもない真実。

大切な家族と思っていながら……その家族が抱えていた最大の悩みに気づくことの出来なかった。

隠されていたこともあるだろう。

知られたくなかった最大の秘密なのだから。

だがそれでも……桜ちゃんは救って欲しいと思っていただろう。

それがわかったのか、士郎は無言で立ち上がっていた。

 

その士郎へと……追い打ちを掛ける神父。

 

 

 

「お前が以前にここへ運んできた女性だが、無事に回復したぞ」

 

 

 

「っ!」

 

出て行けと促されていながら、その足を止める神父。

今の士郎には残酷なことかも知れない。

だがそれでも知っておかなければいけないことだ。

俺はそれを止めなかった。

 

「女性を助けたお前は正しい。それは間違いない。だが今後どうなる? 間桐桜が回復してもいずれは訪れることだ」

 

魔力切れによって正気を失ったしまった桜ちゃん。

それが今後も起きないと言うことはあり得ないと言っていい。

三つの要素がある以上、桜ちゃんが我慢すればどうこうできるレベルではないからだ。

 

故に……決めなければならない……

 

 

 

「そのとき……お前はどちらを守るのだ?」

 

 

 

それがどれだけ残酷で苦渋の決断であろうとも……

 

 

 

「衛宮士郎。お前がマスターになった理由はなんだ?」

 

 

 

二つを選ぶなんて事は……出来ないのだから……

 

 

 

「お前は正義の味方になるといい、マスターになった」

 

 

 

どんなに望んでも……過去には戻れないように……

 

 

 

「ならば決断しなければならない」

 

 

 

決めるべきなのだ……

 

 

 

 

「己の理想を取るのか……間桐桜を取るのかをな……」

 

 

 

どちらを取るのかを……

 

 

 

 

 

 

決めなければならない……

 

 

 

 

 

 




「やめろ慎二! このままだとライダーが死んじまう!」



「やめろ慎二! このままだとライダーが慎二舞う!」


執筆中にでた誤変換で思わずクスリと笑ってしまったwww
まぁ実際士郎にぶん殴られて宙を舞ったしなww



ステータス 
ライダー
真名 メデゥーサ

偽臣の書=慎二
筋力C
耐久E
敏捷B
魔力B
幸運D
宝具A+


本来のマスター=桜
筋力B
耐久D
敏捷A
魔力B
幸運E
宝具A+



保有スキル
魔眼:A+
最高レベルの魔眼である石化の魔眼を所持。
魔力Aにはパラメーターを1ランク下げる「重圧」
魔力Bは判定次第で「石化」
魔力C以下は無条件で「石化」する。


軒並み上がっているが幸運だけ下がっている点に注目www
さすがだぜ……桜www


バディ・コンプレックスが最高でした!
これこそ2クールやるべきだろう!
革命なんていらないやい!
来期のアニメはどんなのがあるかな~

ストレス解消が筋トレとアニメとラノベwww
我ながら変なやつよのうw

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