月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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やはり俺は人としてどこか足りないものがあるのだろう
友人と失ったかもしれないことが、それを証明づけている気がする
職場の上司に言われた言葉がマジできつい

が、きついと思えてしまうのはつまりそれが真実だからと言うことだろうか?

人として常識がないのかもしれない
人付き合いが苦手な自分
仕事のできない自分……
勇気のない自分……

う~ん
なんかいろいろと面倒だなぁおいw


捕食

あ~さむい

 

それが柳洞寺へと向かって、キャスターと意見交換および作戦会議を行ってからこの場へ……屋上へと陣取る俺の素直な感想だった。

防寒着をきちんと着込み、それとは別に体に毛布を巻いているが……寒いものは寒いのだ。

 

『こんな高い建物の屋上にいれば寒いのは至極当然だろう』

『確かにな』

 

俺の思考を読んだ封絶にそう返して、俺は改めて今の自分の状況を確認する。

俺は今マンションの屋上に鎮座していた。

当然マンションの屋上など普通は立ち入り禁止なのだが……そこらはどうとでもなるので、普通に不法侵入をしていたりする。

マンションの屋上のため、当然平地よりも高いところにあり、さらには風を遮る物もほとんどないため、夜で冷えた海風がもろに当たります。

ちなみに魔力温存のためにほとんど風翔龍の力は使っていない。

 

こないわけにも行かないしな……

 

先日、黒い陰が出現して以来俺はこうしてこのマンションの屋上にいるようにしていた。

あの黒い陰は俺の狩竜を警戒しているのは、今日の森の一件でもはっきりと解った。

故に、俺は威嚇の意味をかねてこうして屋上に鎮座しているのだ。

当然俺だけいても意味がないので、狩竜はいつでも抜けるように手に持った状態だった。

そして夜長のお供が一人では悲しいので……

 

『仕手もよくやる。確かに今世界で仕手ともっとも接しているとはいえ、あれから毎夜ここにくるとは』

 

封絶も一緒だった。

こいつは意思が普通にあるので、置いていったらそれはそれでひどいだろう。

こっちとしても話し相手がいるのは嬉しいので、封絶を置いていく理由は全くない。

が……

 

『いいよなお前は。寒さを感じなくて』

 

寒さを少しでも緩和するために、魔法瓶に入っているしょうが入りの緑茶をすする。

 

『もう人間でないのだから五感がないのは当然だろう。五感がないということは、今仕手がのんでいる茶の味を味わうことも出来なんだぞ?』

『……すいません』

 

そう言えばこいつ異世界の食事を食べられないことを偉く気にしていた。

そんなこいつに対してこの言い分はきついだろう。

しかしそこでくだらないことを疑問に思う。

 

『そう言えば生前のお前ってどういう生活を送っていたんだ? 余り話したことなかったな?』

『生前の私か? ……そうさな、普通に鍛治士として鍛造をしていた。竜人族は余り鍛造士にならないのだが、私は鍛造にすごくひかれてな。努力してなんとか鍛造士になったのだ』

『ほぉ? 俺と同じような感じか?』

『お主ほど技術と腕はなかったが食うに困るほどではなかった。親友もいたな。そいつとよく競ったものだ。それから妻をめとり、子をもうけて……古龍に襲われて家族を失った』

『……紅炎王龍との戦闘の時の記憶だな』

 

もうずいぶんと前のことのように感じる。

モンスターワールドにて戦ったあの紅炎王龍と紫炎妃龍との戦いにて見た、封絶の記憶。

古龍に家族を奪われた憎しみを糧に、封絶は……封龍剣【超絶一門】に眠りし竜人族は、「封龍剣【超絶一門】」を作り上げたのだ。

 

『その通りだ。古龍を傷を与える武器を得ても、我らは奴らを倒すことはできなんだ。お主のおかげだ……仕手よ。今私がこうして普通でいられるのは』

『最初は殺す殺すってうるさかったしな。まぁ……普通っていう定義がいろいろとおかしい感じがするがな』

 

自分から振っておいてなんだが、重い話になってしまったので俺は努めてふざけたようにそう返す。

封絶としても続けたい話題ではなかったのだろう。

それを察して話題を変えた。

 

『妻が料理上手でな。私自身に調理の腕はほとんどなかったが、舌は肥えていてな。故にこの世界の料理を食せないのは本当に残念だ』

『どこぞの美食倶楽部の芸術美食家きどりかお前は』

 

そんなくだらないことを話しながら俺は護衛を続けていた。

先日からいるこの屋上……マンションの屋上は美綴が居住しているマンションの屋上だったりする。

差別と言うべきか、下衆と言うべきか……俺はあの黒い陰が出てきて、狩竜が有効、もしくは相手が興味を引いていると知ってから毎夜毎夜、美綴が住んでいるマンションの屋上に可能な限りいるようにしていた。

理由は言うまでもない。

美綴を死なせたくなかったからだ。

 

狩竜を嫌うのであればここに来ることはないだろう……

 

という半ば楽観的な考えだが、まぁ当たらず遠からずというところだろう。

むしろ俺がここにいることであの黒い陰がここに出現するかも知れない。

と思ったりもするのだが……俺はそれでもこの屋上へと足を運んでしまう。

 

なんかストーカーみたいだなぁ……

 

行動はまさにそれだが、動機は全く別のことなので多めに見てくれたら嬉しいなぁ……と誰に許しを請うでもなく、俺はそんなことを思いながらそのまま半分寝ることにする。

熟睡すると有事の際に動けないので困るが、それでも夜明けまでずっと起きているのもまずいので、半分寝る事にしていた。

 

『大丈夫だとは思うが万が一のために、もしもの事態になったら声かけてくれ』

『随意に。我が仕手よ』

 

封絶にそう頼んで俺は少しだけ眠りにつく。

そのとき川を挟んだ反対方向で……恐ろしい事が起こっていること自体には(・・・・)、俺は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

夜の暗闇に紛れて

 

それは町を動いていた

 

ゆらめくように、蠢くように

 

ただただゆらゆらと揺れる暗闇よりも、更に深い黒い陰が

 

きちんとした目的などなく

 

あてどなく蠢いていく

 

 

 

「な■■~? 今■■どこい■■?」

 

「あ■■どう■? ま■■持ちよく■■そうじゃ■い?」

 

「い■■! そ■■こうか? き■と今日■■い娘いる■■ょ?」

 

「お■■たやる■■よ? ■ろそ■■重しな■■いろい■と危■■んじゃね?」

 

 

 

夜の()にいる人間が、それに気付くことなく黒く蠢く闇へと近づいていく

 

 

 

 

 

げらげらと笑いながら男数人がそれにさらに近づいていく

 

それは自らによってくるそれらを認識しながらも、特に気にすることなく蠢いていった

 

 

 

ナンデダロウ?

 

 

 

「それ■■ぁいきま■かぁ? 今日■■スリでき■■■て遊■■■?」

 

「おま■■当に好■■なぁ……。本■■捕ま■■■っても■■■いぞ?」

 

「な■■前は家■帰れ■?」

 

「お■■いの独り■■しよ■■て■?」

 

「結■■るんじゃ■」

 

 

 

何がそんなにおかしいのか、それらはげらげらと笑っていた

 

それを煩わしく思いながらも何もせずにそれはただ蠢く

 

ゆらゆらと揺れる足取りのはずなのに

 

導かれるように

 

あの野原へと

 

行き先が一緒だったのが運の尽きだったのかも知れない

 

いい加減うるさく喚くのにうんざりしたそれは

 

 

 

 

 

 

くぅくぅおなかがなりました

 

 

 

 

 

 

自らの内にわき出た欲求に逆らうことなく……

 

それを実行した……

 

 

 

「!?  ■、な■■■こ■!?」

 

「ちょ、■れ■……ぎぃ■―――!!!??」

 

「■、ひゃっ!?  ■■■これ、助■―――!?」

 

「ち■、待て■俺を置い■■■な!?  ■■■■■■■―――!?」

 

「い、■たいい■いいた■いたい■たい!? な、なん■よこ■■ん―――!?」

 

 

 

楽しそうに狂気じみて笑っていた一瞬にして表情が一変したそれらを、それは……

 

 

 

今夜は虫が多いなぁ……

 

 

 

それらを……虫を潰し……

 

 

 

 

 

 

喰らっていた……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

そこは……ただひたすらに黒かった

 

光などなく、ただただ異様な数と密度の黒い何かがうごめいている

 

そんな黒い……ひたすらに黒いところに、士郎の意識はあった

 

 

 

―――ぁ?

 

 

 

何故こんなところにいるのか?

 

そもそもにしてここはなんなのか?

 

それすらも解らない状況だった

 

 

しかしそこが現実ではなく、あり得ない場所であることは十分に理解できた

 

そして……そんな場所に意識があって、士郎が無事でいるわけもなかった

 

漆黒のこの空間に人のみでいていいはずもなく

 

容赦なく異物である士郎の意識を侵し始める

 

侵されはじめた士郎の意識は徐々にかすれていく

 

だがそれでも士郎はこの場所にとどまらなければいけない気がした

 

わずかな時間すらもいることが出来ないはずの空間で、それでも士郎はこの場にいるのが正しいと思ってしまったのだ

 

このどこかに……

 

漆黒の黒い何かに閉ざされたこの中で……

 

 

 

大切な何かを感じ取ったから……

 

 

 

自らを削りとられている感覚を味わいながらも、士郎はそれを探そうとする

 

だが探す速度以上に漆黒の黒い何かによる浸食が圧倒的に早かった

 

それでも士郎は探そうとした

 

そしてそれを見つけて手を伸ばすが……

 

 

 

「ダメだよ、シロウ」

 

 

 

ぇ?

 

己の名前を呼ばれて急速に意識が浮上する

 

そう、それはまさに浮上だった

 

深いそこに沈み、消えかけていた意識を浮上させるその声は……

 

 

 

「……イリヤ?」

「ダメよ。それは行っちゃいけないところ。それ以上潜っちゃったら死んじゃうんだから」

 

浮上し、目の前にいたイリヤを士郎は呆然と見つめた。

そして自室で寝たはずの士郎の部屋に、イリヤがいる事実に気付く。

 

「なんで俺の部屋にいるんだ?」

「なんでって、わたしが寝た部屋はこの部屋のそばだもん。先に目が覚めちゃったからシロウを観察しにきたの」

「観察って、俺なんか観察しても楽し―――」

 

楽しくないだろう。

そう言おうとしたがそれが全部でないことに士郎は気がついた。

 

「もしかして、魘されてたのか、俺?」

「そうよ。わたしを助けてくれたときに黒い飛沫がかかっていたでしょ? 何か良くない感じがするから念のために様子を見に来たの。シロウが寝ているときに傷の治療もしといてあげたから見た目もだいぶ良くなってるし、痛みも引いたでしょ?」

 

言われた初めて士郎は自分の体へと意識を向ける。

目で見ることの出来る範囲での傷跡を見てみると、確かにイリヤのいうように傷跡が少し薄くなっていた。

 

「あの黒い飛沫にかかってリンクが出来た可能性があるわ。だからシロウが見ていたのは夢じゃなくてあの黒い陰の内部。だから潜っちゃダメ。次からは何とかして意識を強引に浮上させて。魔力を体に巡らせれば私がそれに気付くから、そうしてくれてもいいわ」

「……そっか」

 

先ほどの夢だと思っていた空間が黒い陰の内部であると聞いて驚くよりも、何故か士郎は直ぐに納得できた。

飛沫がかかったときに同じようなものを見ていたからだろう。

しかしそれ以上に不思議な事もあった。

 

……あれは一体

 

黒い陰の胎内にて感じ取った何か。

アレがいったい何だったのか?

そうは思うが解るはずもなかった。

 

っと……そう言えば

 

わかりもしない考察は一度捨てて、士郎はイリヤに向き直って礼を言った。

 

「朝からありがとう。イリヤ」

「お礼なんていいわよ。わたしとシロウの仲でしょ? 約束もしたんだから。シロウが苦しいときはわたしが助けてあげるって」

 

それはまさに天使の笑顔と言って良かったかも知れない。

それほどにそう言ったイリヤの表情は好意に満ちており、無邪気だった。

その笑顔に思わず士郎は赤面しそうになった。

が……

 

「それにシロウの可愛い寝顔もみれたしね。苦しいのにいっしょうけんめい我慢して、強がってて。可愛かったよシロウ」

 

赤面するどころか真っ青になってしまうほどに、感情がダウンした。

助けてくれたのは事実だが、それでもここまで動機が不純であればそれも当然だろう。

 

「イリヤ。人の部屋に、それも男の部屋に入ってくるなんてしちゃいけません。朝と夜なんてもっともいけない時間だ。俺としてもいろいろと困るから」

 

至極当然のことを言っているのだが、最後の一言が余計である。

助ける理由が大部分を占めているものの、悪戯をした相手に恰好の餌をやっただけである。

 

「そうなの? どうして困るのか教えて? 詳しく教えてくれないとわたしにはわからないから」

 

一件真顔だが、絶対に純粋な意味で聞いていないことは間違いないだろう。

 

「ぅ……いやだから困るのさ。それにイリヤは女の子だろう? 朝から男の寝ている部屋になんて来ちゃダメだ。イリヤ本人が危ないし……思春期の少年の俺も危ない」

 

だから最後の一言が――以下略。

 

「そうなの? でもそれじゃ全然解らないんだから。なんで来ちゃダメなの? どうして危ないの? それを言ってくれないと、また明日もシロウの寝顔を見に来るわ」

 

そう笑いながらイリヤはそのまま士郎の前で四つんばいになり、更に士郎との距離を縮めていく。

 

「もっと近くに寄っちゃうよ? それで? どうしてシロウの部屋に入っちゃダメなの?」

 

そして息がかかるほどの距離に来てようやく士郎が危険信号を出した。

 

「ばっ!? ばばばばば!?」

 

かかっていた毛布を握ったまま後方へと転がることで距離を置く。

毛布は当然男の生理現象を見せないための下らない意地(プライド)だった。

そして重要なことが一つ。

衛宮家は平屋作りで武家屋敷といってもいいので総面積は広く、敷地面積も広い。

しかしそれでも士郎の自室は普通程度の広さしかない。

つまりそんななかで、でんぐり返しなどしようものなら……

 

 

 

ゴン!

 

 

 

「っづ!?」

「ぁ」

 

となってしまうのも当然のことであった。

ふざけていた自覚は有るのだろう。

イリヤが笑みから一変して気まずそうに顔を伏せている。

士郎もそんなイリヤを見て怒ることはしなかったが、それでも言っておくことは言っておいた。

 

「……だ、だから言ったろ? 危ないって」

「う……うん。ごめんねシロウ。痛かった?」

 

目の前で自分が原因で痛い目に遭わせてしまったので、イリヤはすごく気まずそうにしている。

性根は間違いなくいい子なのだ。

そして士郎はそんな子を見て強がってしまいたくなったのだ。

 

「いや、いい目覚ましになった。だから気にしなくていい。それじゃ遅くなる前に朝飯を作るか」

 

頭を振って完全に意識を覚醒させる。

痛みにて強制的に意識が別のところに行ったので、士郎の生理現象も治まっていた。

 

「え? 士郎もご飯作れるの?」

 

も?

 

「も」という複数系の接続詞に疑問を抱くも、刃夜であると士郎は推測した。

 

「残念ながら刃夜には負けるけど、作れるぞ? イリヤにはホットケーキとかの方がいいかな? それともなんだったら一緒に作るか?」

「うん! シロウのエプロン姿見てみたい!」

 

嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるイリヤと一緒に部屋の出口へと向かっていく。

だが、料理を作るのは何も士郎だけではない。

 

「わかった。桜も一緒だから三人力だな」

 

料理を多人数で作るという行為は士郎にとっては珍しいことではなく、しかも相手が桜なのだからなおのことだった。

だが桜がいるという事実で……

 

「やめるわ。サクラがいるならわたしはいかない」

 

先ほどまでの嬉しそうな表情が一瞬にして、完全な無表情へと変わる。

その急変ぶりと、昨夜からのイリヤの桜に対する態度が士郎は気になった。

 

「な、なんでさ? イリヤは桜が嫌いなのか?」

「いいえ。どちらかといえば好きな部類に入るわ。だけど、あの子はシロウに合わないから、認めてないだけ」

 

……俺に合わない?

 

「ほんとのことよ。シロウも気付いているんでしょう? でもそれでも逸らそうと必死になってる。だからわたしが言っても意味がないわ」

 

そう言い残してイリヤは部屋を出ようと戸へと手を伸ばす。

だがまだ言い残したことがあってイリヤはその手を一度止め、振り返った。

 

「それと、今の夢は夢であって夢じゃないわ。さっきシロウの意識は別のところに行っていた。パスが出来てしまった状態だからそれも仕方がないけど、進んじゃダメ。アレは人が触れていい物じゃない。だから進んだらシロウは意識を呑まれて精神的に死んでしまう。だから次また見たときは逃げて。……キリツグみたいに勝手に死ぬなんてわたしは許さないんだから」

 

じいさんみたいに……?

 

何故ここでいきなり切嗣の名前が出てくるのか?

忠告よりもそちらの方が遙かに気になった。

 

衛宮切嗣。

 

自分の命を救ってくれた。

 

あの燃えさかる、地獄の中から。

 

自分に力を与えてくれた。

 

魔術という、自分を救ってくれた魔法使いの養父のようになりたくて。

 

 

 

自分に夢を……与えてくれた。

 

 

 

夢を継ぐと約束した。

 

養父がなれなった正義の味方になると。

 

五年前……あの月の綺麗な夜に。

 

自分の言葉を受けて、ただ一言を言い残して眠りについた存在。

 

 

 

そして……己が裏切ってしまった、養父。

 

 

 

正義の味方になると約束したのに……己は桜の味方になると誓った。

 

自分の命の恩人であり、師であり、夢を与えてくれた人物。

 

切嗣は士郎にとってそんな存在だった。

 

何故切嗣のことをイリヤが知っているのか?

 

一瞬停滞してしまった思考を動かし、疑問を口にしようとする。

 

「なかなかどうして、いろいろと朝から重い話をしているな。だがそれでもまずは朝飯にしよう。腹が減っている状況だと脳に栄養がいかないから考えもまとまらないぞ?」

 

疑問を口にする前に、刃夜が戸を開けつつそう言った。

相変わらず神出鬼没……というよりもどこにいるのか解らない男である。

 

「じ、刃夜!?」

「何を朝からどたばた劇場しているんだ? それと残念だが飯の準備は出来ている。早く来い。イリヤもだ。飯は全員で食べるようにしよう。それにそのあとどうせ直ぐに作戦会議になるだろう」

 

有無を言わさない雰囲気のまま刃夜はそう告げる。

そう言われてはイリヤも桜と食べるのはいやだということも出来ないのだろう。

少し渋っていたが、それでも刃夜の後についていく。

士郎も今更聞くことは出来ず、その後についていくことにした。

だがそれでも疑問は消えないままだった。

 

「先輩?」

 

刃夜について行っているつもりで、廊下に立ちつくしていた士郎に、後ろから声を掛けられる。

後ろへと向きなおると、そこには一晩寝て体調がよくなったのか、顔色もよくなっている桜がいた。

 

「どうしたんですか? 廊下に立って」

「あぁ……いや」

 

切嗣とイリヤの関係。

桜とイリヤの関係。

わからないことだらけだったために、思わず立ちつくして考え込んでしまっていたのだった。

故に無防備になってしまっていたために表情にでていたのだが、それに士郎は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

居間にて、今現在衛宮家にいる人間が一堂に会していた。

士郎、桜、刃夜、凜、セイバー、イリヤ。

姿を現していないがアーチャーとライダーも敷地内に待機している。

昨夜同様に、奇妙な緊迫感に包まれている食事だった。

テレビから流れるニュースをBGMに食事は静かに進む。

しかし、そのニュースの中で、どうしても気になる話題が、この沈黙の空気を打ち破らせた。

 

「……あれ?」

 

それに真っ先に気付いたのは士郎だった。

見知った風景がテレビに映っていたので、気付かないわけがない。

新都の公園が移されたその画面の中で、ニュースキャスターが原稿を読み上げていく。

 

「中央公園で身元不明の死体に夥しい血痕?」

 

ニュースの内容はこうだった。

日課のランニングをこなしていた初老の男性が、公園で血痕を発見して警察に通報。

通報を受けて現場検証をした警察が見つけたのは、人間一人分と思われる血痕と被害者の死体の一部。

その死体の一部というのも、肉片がほとんどでありかき集めても重さが50kgに満たないという。

断定は出来ないが、被害者は四人の可能性が高い……ということだった。

 

「なんで四人なんだ?」

「死体の一部ってのが四人分あったからじゃない? 右手首が四つとかね。食べ残しみたいだから一部しかないはずだけど、そんな感じに判断したんじゃないかしら?」

 

士郎の独り言に凜はそう返す。

他の人間も、そのニュースを見て、各々で分析しているようだった。

 

「食べ残しって……。これは臓硯の仕業なのか?」

「臓硯の仕業かは解らないけど、犯人はわかるわ。あの黒い陰でしょうね。画面の端に写っている雑草が黒く変色しているでしょ? あれ、森で黒い陰が出てきたときと同じ現象だわ」

 

皆の疑問を凜は淡々と解析する。

確かに画面の端の雑草が異様に黒く変色しているのが確認できた。

しかし疑問はどうしても残ってしまう。

 

「なんでさ? あの黒い陰がなんだかはまだ解ってないけど、こんな風に……直接殺すなんてこと、今までなかったはずだろう?」

「そうね。理由はわからない。でも魔力を吸収して力がより強大になったかも知れない。だから好き放題にやっても問題ないレベルまで成長したのかも知れない」

「それは……見境がなくなってるって事か?」

 

見境がなくなってくるとなると、犠牲者はそれ以上に増えてしまうことになる。

正義の味方をやめたとはいえ、士郎は人間《・・》をやめたわけではない。

無為な犠牲をよしとはしなかった。

 

「さぁどうかしら? 計画的な行動とは思えない。臓硯が犯人なら食い残しなんて残さないだろうし、これはきっと予期せぬ事故だったんじゃない?」

「確かに」

 

予期せぬ事故というのはすんなりと士郎の中に入ってきた。

確かに遺体の一部が残っているのは明らかにおかしい。

あの虫の大群に襲われたとしたなら一部とはいえ残るわけがない。

となるとこの場には臓硯がいなかった可能性が高い。

そうして全ての分析が終わるころには、ニュースは他の話題へと写っていた。

 

「分析ご苦労様と言いたいが……食事時って事を忘れちゃいないか?」

 

そう言われて、士郎と凜は自ら食欲を失せさせる会話をしていたことに気付いた。

確かに食事時に話すことではなかっただろう。

実際、桜とイリヤは少し顔を曇らせていた。

しかし忠告した刃夜、そしてセイバーは気にせずに、黙々と食事を食べていた。

そうして食事を終えて、本題へと入ることになった。

 

「さて、今後のことを話し合いましょう」

 

食器を下げ終えて、食後のお茶で一服した後、凜はそう宣言した。

しかし先ほどのニュースのことはみんな頭に離れていなかった。

さすがに無関係の被害者が出てしまっては、悠長にしている余裕はなかった。

 

「まずは戦力の確認……というよりもはっきり言って一つだけ知りたいことがあるわ」

 

その一言が、この会議の始まりだった。

といっても凜の言うとおり、そもそも確認すべき事はそこまで多くなかった。

実際に戦えるサーヴァントはアーチャーのみ。

魔力をそこまで消費できないという制限がつくライダー。

セイバーは力を失ったために戦うことは出来ない。

凜は魔術師として傑物であり、多少なりとも八極拳が使えるが、サーヴァントに拮抗できるわけもない。

士郎は魔術使いとして多少は戦えるが、一般人よりも強い程度であり、サーヴァントはおろか、真の武芸者や達人にも勝つことが出来ない。

桜は格闘など出来ない上に、魔術師とはいえ魔力が常に枯渇しているので戦力外。

イリヤは魔術師として魔力は桁違いに有ることは間違いないが、余り戦闘技術が有るわけではない。

これはすでに誰もが解っている事実。

故に……

 

「あなた……本当にあの刀はなんなの?」

 

当然謎の多い存在である刃夜が対象になっていた……というよりも狩竜が。

それも至極当然といえた。

何せ漆黒の黒い戦闘騎士がバーサーカーを葬った直後。

そのとき、あの森には刃夜、アーチャー、士郎、凜、イリヤ、隠れていたがライダーがいたのだ。

この中で通常で考えれば一番脅威度が高いのは、間違いなくサーヴァントのアーチャーだ。

しかも言ってしまえばアーチャーは、バーサーカーよりも総合的に考えれば弱いはずなのだ。

故に漆黒の戦闘騎士であればそう時間を掛けず、倒すことが出来たはずなのだ。

弱い相手を倒して数を減らすのは戦場での基本だ。

サーヴァントがいなくなってしまった士郎とイリヤでは、漆黒の戦闘騎士から見ればもはや雑魚でしかない。

にも関わらず、数を減らすという常套手段を捨てて、漆黒の戦闘騎士は刃夜へと襲いかかった。

それはつまり刃夜が……刃夜が持つ得物をそれほどまでに恐れていることに他ならない。

一瞬だけ場が沈黙した。

誰もが刃夜の説明を待っていた。

 

……あまり手の内晒したくないんだがなぁ

 

狩竜がどれほどの力を有しているのかは、刃夜にも正確にはわかっていなかったが、それでも黒い陰に対して絶大な力を持っているのはわかりきっていたこと。

だがこの狩竜の発動などに時間がかかり、刃夜自身に負荷がかかることはまだ完全な事実として、この場にいる人間には明かしていない。

おそらくアーチャー等はそれとなく推測しているだろうが、それを事実としてしまうのは刃夜としては痛かったが……

 

……手助けするって決めたしな

 

己の生き方を変えて、人間へと戻ろうとしている士郎。

同情すべき身の上に有る桜。

そして白い妖精のような少女。

これらを救うために、刃夜は内心で溜め息をつきつつ、説明を始める。

 

「前に少し話したと思うが、俺は平行世界……俺自身はその世界のことをモンスターワールドと呼んでいた。その世界での煌黒邪神龍という邪神と戦った。そしてそいつにとどめを刺したのがこの野太刀だ」

 

衛宮家の居間に寝かされている、超野太刀、狩竜。

日常的な居間にはあまりに不釣り合いであり、超大な長さを持つ野太刀を見つつ、刃夜は言葉を続ける。

 

「世界の全てを暗雲で包み、炎と雷と氷を操る邪神と戦って、俺は何とか勝利した。そのとき血を吸った上に、敵の魔力をほとんど吸収したのだろう。それがこの狩竜だ。はっきりいってあの邪神と比較すれば黒い陰は赤子同然だ。といっても、俺自身も世界中の魔力(マナ)によって強化されていたから、そのときの俺と今の俺自身では、黒い陰同様に赤子同然だが」

 

皆信じられない視線を刃夜へと向けていた。

特にアーチャーなど瞠目して、信じられない存在を見ている感じだった。

守護者として直に戦ったことのあるアーチャーだからその思いは一入なのだろう。

嘘のような話であるが、嘘を言っている様子は見られず、さらにはそれが嘘ではないという事を裏付ける実力と能力を、刃夜が有していることを知っているからだ。

 

「その煌黒邪神龍の力を得ている狩竜は、敵にとって天敵なのだろう。何せサーヴァントにとっての天敵という……半ばどうしようもないほどの怪物から見ても、更に凶悪な邪神を宿しているのだから」

 

泥に触れたことで浸食し、捕食吸収されてしまうことは、セイバーとバーサーカーの状況から見ても誰もがわかりきったことだった。

 

「故に、相手にとってどうにかしたいのは間違いなくこの刀だ。それのおまけとして俺を殺そうとしたのだろう。もしくはこいつを俺しか使えないことがわかっていて、俺を殺しにかかったのかも知れない」

「となると、やっぱりあんたが……」

 

皆の意見を代表して、凜が確認を取る。

それに力強くうなずき、刃夜はこういった。

 

「あの黒い陰をどうにかすることは可能だろう。殺すのか、それとも黒いものを全て吸収してどうにかするかは状況によるが……ともかく対処自体は可能だろう」

 

それはまさに、半ば絶望的な状況へと陥っている一同にとって、一筋の光明となりうる情報だった。

 

「ほ、本当なのか刃夜!?」

「たぶん……な。しかし勘違いしないで欲しいのが、こいつを解放すると俺にも相当負荷がかかるってことだ。制御には俺自身命を賭けなければいけないレベルだ。故に発動するのに時間がかかる上に長時間は使えない」

「それでも十分だわ。相手のサーヴァント全部倒してそれをぶち込んでやればいいわ」

 

己の監督地を荒らされて凜も相当たまっているのだろう。

言葉がすごく過激的だった。

そして同時に……現状を正しく把握する言葉でもあった。

 

「サーヴァント全部って事はやっぱり……」

「そう考えるのが普通でしょう? 森で戦った存在がいたこと……忘れている訳じゃないでしょう?」

 

森にて戦った、漆黒の戦闘騎士。

それはまさにセイバーそのものだった。

漆黒の戦闘騎士のことを、凜に聞いているのだろう。

セイバーは口惜しそうに、歯を噛みしめて屈辱に耐えていた。

 

「残念……というか最悪な事だけど、あの黒い泥に吸収されてしまったサーヴァントは敵に回ったと考えた方が良さそうだわ。それも……強化された状態でね」

 

そう、それがこの場にいる人間にとって、どれほど重い事実かなど、考えるまでもない。

現時点で吸収されてしまったサーヴァントは小次郎、セイバー、バーサーカー。

姿を現していないため、ランサーも吸収されて敵対している可能性もある。

つまり万全に動くことの出来るサーヴァントがアーチャーのみの士郎達に対して、相手は……黒い陰は実に半分以上のサーヴァントを従えている可能性があるのだ。

それも通常時よりもより黒い泥によって強化(汚染)された状態で。

はっきり言って「詰んでいる」といってよい状況だ。

それを一番理解しているであろう凜は、心の底から溜息を吐いた。

 

「本当にどうなっているのかしらね、この聖杯戦争は。あの黒い陰がなんなのかは未だ不明だけど……こんな状況だと正直どうしていいかわからないわね」

 

諦めるという言葉は凜の中にはないのだろう。

だがそれでも状況は控えめに見ても絶望的だった。

圧倒的に戦力が足りていなかった。

仮に桜の状態が万全でライダーが十全に動けたとしてもそれでも圧倒されて士郎達が敗北することは間違いない。

しかしそれでも凜には……諦めるつもりはなかった。

 

……やれやれ。わたしも損な役回りだこと

 

凜はそれとなく士郎と……桜を盗み見た。

二人とも状況が最悪なことで表情は優れなかった。

しかしそれでも桜に取ってこの状況はそう悪いものではなかった。

十年前に養子に行ってしまった妹。

その妹とこうして一つ屋根の下で生活できる事が……ぎこちないながらも純粋に嬉しかったから。

 

まぁそうはいっても厳しい状況だけどね

 

問題は何も聖杯戦争だけの事ではなく、桜の体のこともある。

余り悠長にしている時間はなかった。

しかしそれでも状況が完全に解っていない今の段階では……余り有効な対策を立てることも出来なかった。

 

「とりあえずまずはこちらの戦力の底上げが必要ね。衛宮君、あんたはあとで道場に来なさい」

「道場って……なんでさ?」

「以前からあなたの魔術の講義してたけど、本格化するわ。特にあなたが一体何が出来るのかを、もう一度確認させてもらうから」

 

確認って……。

 

確認させてもらうと言われても、士郎としては以前にこの家の凜が使用している部屋にて、強化の魔術をしたのがほとんど全てなのでこれ以上見せる物はないと思っている。

しかしそれは本人の大きな誤りだが……それは後に直ぐに解ることになる。

 

「ならば俺は得物の手入れでもさせてもらうかな。最近少しさぼり気味だしな」

 

そう言いながら刃夜が腰を上げたことで、とりあえずこの場はお開きになった。

なったはず……だったのだが……。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、わたしが呼んだのは衛宮君だけよ? なんだって全員道場に来てるのよ!?」

 

食後それぞれ準備や片付けなどをして……何故か全員が道場へとやってきていた。

凜に呼ばれた士郎と士郎を呼んだ凜は当然として。

 

「……遠坂先輩が妙に殺気立ってるから、先輩の身が危ないと思って」

 

と若干声が小さくなりながらも、しっかりと士郎のためにこの場へとやってきた桜。

 

「あなたがどんな方法でやるのかわからないから、監視のために来たのよ。シロウに変なことしたら許さないんだから」

 

士郎の保護者のような言葉をいうイリヤ。

ここまでは凜もまだ納得が出来た。

桜は言わずもがなだが、イリヤも何故か士郎のことを気に掛けているのを凜は知っていたからだ。

理由まではわからないが、イリヤに好感を抱いている程度の物と思っていた。

そしてもう一人。

凜が始める前にさっさと自分の作業を行っている男へと目を向ける。

 

「……なんであんたもここにいるのよ?」

「武器の手入れには道場がちょうどいいと思っただけのことだ。気にしないでくれ」

 

そう言いながら白い布で、黒いシースより抜いた封絶を拭いている刃夜がいた。

封絶と布の上に並べたナイフ関係を中心に手入れを行っていた。

この状況下に陥っても、刃夜はまだこの場にいる人間には別の得物は隠しておくつもりだった。

 

いつ敵になるかもわからんし、それに虫の事もあるしな

 

敵をだますにはまず味方からという。

それを刃夜は実行しているだけだった。

無言だがセイバーも刃夜の少し離れたところに腰掛けており、それとなく刃夜の得物の手入れを見ていた。

力を失ったとはいえ騎士として、見慣れない剣を手入れしている刃夜が、少し気になるようだった。

 

神秘(魔術)とは秘匿されるもの……

 

今からその神秘(魔術)に関わることを行うというのに、この人数は凜にとって少し頭痛がする物だった。

刃夜をのぞけば全員が、魔術に関連する人間ではある。

しかし他者の魔術をこうも堂々と見に来るという行為が……まっとうな魔術師で名家の生まれである凜には少し頭痛のする物だった。

 

まぁ……そうも言ってられないしね

 

こうして和気藹々などという雰囲気にはほど遠いが、大人数の中で士郎の魔術特性とそれを伸ばすための講義は開かれた。

といっても特にやることはほとんどが地味だった。

何せ士郎は素人に毛が生えた程度のことしかできないので、魔力の効率化などしかすることがなかったのだ。

 

凜がこの一言を放つまでは……

 

 

 

「どうも能率が良くない……というよりも調子が出ないわね。衛宮君、他の魔術も試してみてくれる?」

 

 

 

これが、後の士郎の人生を変える一言になり得たのだが……それを知る者は今当然この場にはいなかった。

 

「他のって?」

「前にも言ったでしょ? 魔術にはそれぞれ系統があるって。だから強化以外にも出来るあなたの魔術を、実際にやってもらっていいかしら」

 

士郎が唯一使える魔術は強化。

物質などに魔力を通し、その名の通りに強化する事の出来る魔術である。

特に難易度が高いわけでもなく、実際に無強化の物と比べると強度は格段に上がるために利用価値はそれなりにあった。

だが使い勝手が言い分、強力な魔術でないのも確かだった。

そして強化の系統で他に士郎が使える魔術が……

 

変化と

 

 

 

投影だった……

 

 

 

変化とは、例えるならば刃物などに発火の能力を付与するといった、変化の魔術を行う対象に対して本来持ち得ない能力などを付与させる能力のことである。

実際にそれを行って見たが、使えると言うだけで、なんの役にも立たないとわかり、この変化の講義は直ぐに終えた。

だが……次の投影の講義にて、状況は変化した。

士郎が行った投影は特に失敗することもなく無事に成功し、その場に姿を現した。

 

それは一本のシンプルな剣だった。

 

投影。

それは0から魔力のみで物体を想像し、創造すること。

強化、変化の上位に位置づけられる。

しかし投影を行う人間のイメージであるために、穴だらけの人間のイメージでは投影したとしても、オリジナルの性能にはとうてい及ぶわけもない。

また魔力のみで構成するため、当然魔力がきれれば物質化した物は気化するかのように、消えていく。

魔力の消費量が多い……仮に剣を投影するのならば、投影に必要な魔力は10必要とすると、物体の剣を用意した上で2~3ほどの魔力で強化を施した剣の方がよほど効率がよく、強力な武器となる……上に、消えてしまうことから投影というのは基本的にその場限りの代用品を用意する程度でしか使われない。

 

しかし……

 

 

 

士郎が投影した剣は違った……。

 

 

 

「戦闘の意気込みなのかしら? なんで剣を投影したの? ……まぁ別にいいんだけど。ところでこの投影はどれぐらい持つの?」

「……もつってどういうことさ?」

「どういうことって……。投影なら時間が経てば消えるでしょ? もしもそれなりに持つのなら多少は使えるかも知れないけど……」

「消えるのか? 壊さない限り残るだろう普通」

 

この言葉を聞いた凜は一瞬我が耳を疑った。

しかし、士郎がきょとんと心底不思議そうにしているのをみて、念のためもう一度聞いた。

 

「投影したら……消えるわよね?」

「だからなんでさ? 壊さないと消えないだろう?」

 

自分の聞き間違いじゃないことを悟り、凜は一瞬脳がフリーズしかけた。

再起動して直ぐに、凜は士郎が投影した剣を手に取った。

 

……なにこれ!?

 

そしてその精巧(・・)さに目を剥く。

何せその剣はまさに「剣」そのものだったからだ。

お世辞にも出来のいい剣とは言えず、はっきり言ってしまえばなまくらだった。

だがそれは魔術で……投影で作られた物とは凜には検知できないほどに「剣」だった。

 

これが……投影!?

 

あまりの驚きに凜は言葉も出なかった。

思わず目を向けたそこには、自分がどれだけいかれたことを行ったのか理解もしていない、きょとんとしている士郎がいた。

それはつまり、先ほど言った「壊れなければ消えない」ということが、事実で有ることを物語っていた。

 

まっとうで優秀な魔術師である凜には理解不能な存在だった。

 

この異常さを鑑みれば考えるまでもない。

士郎の本来の(魔術)は投影だ。

強化するための得物を用意しなければいけない強化。

魔力さえ持つのならば無限に得物を出現させることの出来る士郎の投影。

どちらが戦闘に置いて有利かなど……わかりきった事だった。

どれほど頑張ろうと、一度に所持できる得物には限度がある。

 

 

 

だが士郎の投影ならば……それこそ魔力さえ持てば無限の剣を手にすることが出来るのだ。

 

 

 

それがわかってもあまりに異常なこの魔術を、凜はどうすべきか判断に悩んでしまった。

 

「ほぉ? 剣そのものを魔力のみで作るか? 呪術なんかが苦手な俺にはまねできない芸当だ。だが……」

 

そんな声が凜の耳に入り、手にしていた投影した剣が半ばから綺麗におれた。

否、切断された。

持っていたはずの凜の手に、何の感触を与えていないにもかかわらず、士郎が投影した剣は綺麗に斬られ……消えていった。

 

「こんななまくらじゃ何も斬れやしないぞ? どうせ投影ってのをするのなら最低限剣として使える物を出した方がいい」

 

手入れを行っていたはずの双剣、封龍剣【超絶一門】を手にした刃夜は投影した士郎の剣を切り捨てて、士郎に対してニヤリと笑った。

そこでようやく凜も冷静さを取り戻す。

確かに士郎の投影が異常だというのは直ぐに解った。

だが刃夜の言うとおり、投影された剣はお粗末な物でしかなかった。

しかし士郎の投影は間違いなく使える魔術だった。

そうなると

 

……ひたすら投影を鍛えさせるのが無難かしら?

 

あまりに異質なために直ぐに判断できなかったが、刃夜の言うとおり確かに今のままでは使い物にならないほどの物だった。

刃夜の腕が異常だったとしても、ああも簡単に壊されてしまっては、実戦で使えるわけもない。

これで士郎の特訓の方向性は固まった。

ひたすらに投影を繰り返しての反復練習。

スポ根そのものだったが、一番の近道ではあった。

そうして昼までの時間、士郎はただひたすらに投影を繰り返した。

 

 

 

 

 

 

昼食をみんなで食べ終えて、それぞれがそれぞれすべきことを行って、その日の午後は終わりを告げる。

桜は魔力の消費を少しでも抑えるために休み、凜はイリヤに助力を頼んで秘密兵器の作成の準備を、刃夜は夜の寝不足を解消するために仮眠を取っていた。

そして士郎は土蔵にて、ひたすらに投影と強化を繰り返して、練度の強化を行っていた。

凜が驚いていた通り、士郎の投影は強力な武器となる。

だが士郎の腕がまだ未熟なために、脅威になり得ていないのが現状だった。

故にひたすらに、士郎は投影を繰り返して、自分の中に有るイメージの強化をしていく。

そんな士郎を、士郎自身に気付かれないように見ている存在がいた。

 

……シロウ

 

縁側から直接姿を見ずに、気配と魔力の動きによって士郎を見ているセイバーだった。

力を失い、そして士郎が全よりも個をとったために、違えてしまった存在。

しかしそれでも未だ令呪によって二人はつながっており、その令呪より士郎の思いがセイバーへと流れ込んでくる。

 

セイバー……アーサー王は実に優秀な王だった。

絶対的な魔力と最強の剣、そして最強の護り()を有していた彼女に、敵う者はほとんどいなかった。

アーサー王という絶対の強者の元に集う、円卓の騎士に稀代の魔術師。

ブリテンは平和になる……はずだった。

だがアーサー王はあまりにも優秀で、そして王としてありすぎた。

他国の軍勢がブリテンを攻めてきたとき、進路上の村が襲われることを伝令より聞いたアーサー王は、迷わずその村を切り捨てた。

数百の命のために、国全体を危機にさらすわけにはいかない。

その判断は王として至極正しかった。

しかし、部下たちは王とは違い、まだ人間としての感情を持っていた存在だった。

部下達も心ではわかっていた。

少数のために国全体を危機にさらすのは愚かであると。

だがその切り捨てる行為を、何の躊躇もなく行えてしまうアーサー王を見て、迷ってしまうのだ。

この王についていっていいのかと。

そうして完全な王としてあろうとした彼女から一人、また一人と心が離れていった部下達と、息子の内乱によってアーサー王は命を落とした。

だからこそ士郎に対して、アーサー王は……セイバーは期待していた。

()よりも他者(全体)を取ろうとする士郎に。

 

自らの行為が間違いではなかったという答えを……見たかった。

 

だが士郎は己の願いを優先した。

期待していた分だけ、セイバーには落胆が大きかった。

だからこそ、衛宮家に戻ってきたが士郎とはほとんど会話をしていなかった。

しかしどうしても嫌いになりきれなかった。

 

……どうして

 

「気になるなら話しかけたらどうだ?」

 

背後よりの声に、セイバーは勢いよく振り向いて警戒する。

セイバーの視界に写ったのは、眠そうにあくびをしながら立っていた刃夜だった。

 

「士郎のことが気になるんだろう? まぁ確かに仲違いしたとはいえ契約者だもんな。気にはなるか」

「……なにがいいたい?」

 

力を失ってしまったセイバーは非力な少女でしかない。

今この場で戦ったのならば、瞬時に決着がつくだろう。

それでも騎士の誇りとして、セイバーは隙だけは見せないように、警戒を怠らなかった。

 

「なんでお前が士郎のことを嫌いになったのかは知らない。お前の過去が関係あるのかも知れないが、それも正直言ってどうでもいい話だ」

 

ぼりぼりと、緊張感のかけらもなく頭を掻いているその姿は、はっきり言ってケンカを売っているとしか思えない。

そんな態度の存在刃夜から、言葉を聞く必要性もないだろう。

しかし、セイバーはどうしてか聞かなければいけない気がして、黙って聞いてしまった。

 

「仲違いする前と今でお前ら二人の何が変わったのか? そう考えるとお前も生前は全体のために頑張っていた存在なんだろうな。だから正義の味方をやめてしまった士郎が、許せないのかも知れない」

 

刃夜も直接見ることの出来ない、土蔵の中で必死になって訓練を行っている士郎の魔力へ、感覚を向けていた。

セイバーも、視線こそ刃夜に向けつつも、同じように士郎の魔力へ意識を向けている。

 

「話したらいい……と思いもするが、それで簡単に理解し合えたら苦労はしない。故に……俺個人の意見を述べておこう」

「あなたの意見?」

 

思わずそうつぶやくセイバーに小さくうなずいて、刃夜は土蔵へと目を向ける。

それを横で見ていたセイバーは、何故かその視線が……土蔵に向かっていながらどこか別のものを見ている気がしてならなかった。

 

「俺もお前も……士郎も、ただの人間に過ぎない。それを忘れちゃいけないんだ。どんなに強い力を持とうとも、どんなに人間離れしてようとも、俺たちは人だ。人間なんだ」

 

ズキン

 

刃夜の言葉を聞いて胸に去来した痛み。

その痛みがなんなのか、セイバーにはわからなかった。

だがどうしてかその痛みが……どうしても気になり、消えることがない。

 

「人の間と書いて人間。まぁこれは漢字圏に住んでいる人間だからこその考え方だが……。よほどの変人とか、傑物とかじゃない限り、人間ってのは一人じゃ生きていけないんだろうな、きっと……だからさ……」

 

そこでいったん区切り、刃夜はセイバーに正面と向き合った。

向けられる眼差しにはただただ、真摯であり、真剣な瞳だった。

 

「ちゃんと見てやれよ。違えたとはいえ元は自分の主人だろ? いや、パートナーか。見てみればいい。人間ってのを。そうすればきっと何かが見えてくるさ」

 

そう言い残して、刃夜はセイバーの返事も待たずに背を向けた。

おそらく再度仮眠を取りに行くのだろう。

あくびをしながら去る姿は、人をバカにしているようにしか思えない。

セイバーはその言葉を無視することも出来た。

だが、刃夜の表情と言葉は、セイバーの脳裏にひどく残っていた。

 

 

 

 

 

 

仲介役というか……間を取り持つって結構大変だなぁ……

 

嫌われても構わないから敵を殺さないようにしていた俺が、どの面下げてこんなことしてるんだろうなぁと思うも、それをせねばならないために俺は仕方なく、この歪すぎる協力関係のフォローをしていた。

ここまでややこしい状況になってしまった一端が、俺にも原因が有るのでそれも仕方のないことなのだが、それでも面倒ごとに違いなかった。

 

「人間か……。本当に、俺がどうしてそんなことを言うのやら」

 

さんざん人間離れした俺が言うのだから、滑稽に写っていること請け合いだろう。

どでかい大剣や、ハンマー、銃の機構をそなえたガンランスとどでかい楯を持った上に、非常に重い鎧を身に纏ってた連中だった。

ゲームに出てきそうな、普通に考えておかしい人間達からみても、俺は異常だったのだから。

 

人間……か……

 

モンスターワールドでは余り人間扱いされていなかったためなのだろうか、そんな言葉がすっと出てきたのは。

竜種を一刀両断し、どんな堅牢な鱗なんかも易々と切り裂いた夜月と狩竜。

それを扱う人外の俺を、尊敬と畏怖と恐怖で見ていた人間は多かった。

 

それでも……あいつらは俺と共にいてくれたんだよな……

 

人の間にいてこそ人間。

この言葉がするりと出てきた。

それはつまり、俺は今まで人の間にいていたことを自分自身が気付かないながらも、実感していたと言うことだろう。

 

ムーナを理由で追い出されたあのとき……もしも本当に一人で発っていたらどうなっていただろうな……

 

あのとき恐怖の対象だったリオレウスの赤ん坊を、抱いていた俺に抱きついてきた二人。

そしてその二人の姉貴分だったあいつ。

騒がしくも愛おしい時間だった。

だからこそ、俺は……

 

「あぁ……そうか……」

 

そこで俺は自分自身で気付いていない自分の感情に気付いた。

こんな事を思っていいはずもない、こんな事を思う資格もない。

だけど……

 

「……俺は寂しかったのか……?」

 

この世界にきて、ほとんどが一人だった。

士郎もいた、大河もいた、美綴がいた。

だがそれでもそれぞれに帰るべき家があり、場所があった。

それはあいつらも一緒だった。

鍛冶場のある家や、各々の家を持っていた。

だから歪な形とはいえ……

 

 

 

今朝も行くのだろう刃夜? あの林に。また斬り結ぼうぞ

 

 

 

朝、目を覚ましてすぐに言葉を交わす相手がいる。

それがどれほど嬉しかったのかを、俺はようやく自覚した。

だから、こんな他人から見れば最低なことをしていると解っているにもかかわらず、俺はここにいるのかも知れない。

 

自分のためにも、そして、俺と同じ思いをさせないために……

 

 

 

なぁ……そうだろう……

 

 

 

もういなくなってしまったあの子のことを思う。

 

平行世界とは可能性の世界だって聞いたことがある。

 

もしかしたらあの子が、この世界にいるのかも知れない。

 

だがそんなことはどうでもいい。

 

ただ、そう呼びかけただけだった。

 

あの子はもう逝ってしまったのだから。

 

だが、俺の心から消えることはない。

 

だから再度俺は誓った。

 

 

 

こんな思い、させるわけにはいかないよな

 

 

 

あの二人に……

 

そして何よりも、俺がすべきことをするために。

 

俺は二人を助けることの決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

その後夕食も特に問題がなく終わりを告げるのだが……一つだけ異変があった。

 

「先輩……この肉じゃが、味付け変じゃないですか?」

 

異変と言えばそれだけ。

普通においしい肉じゃがに対して、桜が言ったその言葉。

朝は刃夜、昼は凜と桜が作ったために、家主として人に任せ切りは出来ないと言って、士郎が作ったのだ。

桜の味付けに対してのコメントで一瞬慌てる士郎だったが、しかし直ぐに桜自身が否定してそれは終わった。

誰もが首を傾げたがそれだけだった。

そして深夜。

士郎は小さな音を聞いて、意識を覚醒させる。

部屋の外にそれとなく気配を感じて、士郎は廊下へと声を掛けた。

 

「起きてるよ、桜」

 

入ってきていいと意思表示をして、桜が襖を開ける。

薄暗い部屋の中においてもなおわかるくらいに頬を赤くした桜がそこにいた。

 

「ごめんなさい先輩……。わたし……」

 

それを聞いて士郎は自分を殴りたくなった。

桜がこんな夜更けに来る理由。

それは(魔力)を吸収しなければいけないからだ。

故に、士郎は謝った。

 

「ごめん桜。もっと気を回すべきだった」

 

女の子が必要とは言え夜ばいに来るというのは、ひどく恥ずかしい行為だろう事は、さすがの士郎も想像できる。

だから桜が言葉を発する前に、士郎は桜を抱きしめた。

そうして二人は同じ布団で眠りにつく。

互いを愛し、互いに支え合うために。

性という魔力を吸収し、性という魔力を与える。

それは愛情というには、あまりにも明確な理由があった。

しかしそれでも互いに引き合っている二人は、互いをむさぼり、愛しみ合う。

 

例えそれが……

 

 

 

餌を与える事になっていると……周りはもちろん

 

 

 

 

 

 

当人(・・)も気付かないままに。

 

 

 

 

 

 

寒いな……

 

今日も今日とて、俺は美綴のマンションの屋上で、寒さに震えていた。

理由はもちろん言うまでもなく……

 

『美綴のストーカーとやらだな。仕手もよくやる』

『お前、わかってて言ってるだろ?』

 

冗談を飛ばしてくる封絶をこづきながら、俺は暖めたお茶をすすった。

本日はほとんど外に出なかったためか、しゃべる機会も少なかったので饒舌な封絶と共に、俺はいつものように美綴の護衛に当たっていた。

そう、本来ならばそれで終わるはずだったのだが……。

 

 

 

投影ねぇ……。なんというかよくわからんなぁ……

 

 

 

昼間道場で始めてみた、士郎の魔術。

 

その魔術……投影によって生み出された一本の剣。

 

あれを見た瞬間に俺は、一瞬殺意と嫉妬を覚えた。

俺の今までの人生とは、鍛治士、そして剣の人生がほとんどだ。

幼少時……それこそ立って歩ける程度の自意識が確立したくらいからは、もう修行に入っていた。

鍛冶場で焼ける鉄の熱、焼けた鉄を叩く音を……。

子供用に鍛え上げられた、人を殺すことが出来る剣を振るっての感覚を……。

血反吐をはいたという生やさしい物ではない。

それこそ何度も本当に死にかけ、秘薬や気力の活性で半ば無理矢理生き返らせられたことも多々ある。

そんな生活を二十年近く続けて、今の俺が存在する。

狩竜、雷月、蒼月。

今手持ちの中では俺が打ち、鍛え上げた刀はどこに出しても恥ずかしくない物だ。

俺の大切な刀で、大事な相棒だ。

 

だからだろうか?

 

魔力のみで一瞬で得物を生成してしまう技を見て、俺は迷わずに切り捨てていた。

 

士郎が増長しない……そもそもあいつはそんなことしないだろうが……ためにというのもあったが、それでも理由の大半は怒りと嫉妬だった。

 

俺も修行が足りないなぁ……

 

遠坂凜が驚いていたと言うことは、間違いなくアレは異常なことであり、士郎にとっての才能と言うことになるのだろう。

だがそれでも鍛造士として、俺はあの剣を許せなかった。

 

一本の剣を鍛え上げるのに、どれだけの気力を注ぐと思って……

 

と、そこまで思考して、俺は無駄な事だとようやく少し冷静になって、思考を外へと追いやった。

俺の怒りと嫉妬は置いておくとしても、あの能力は大いに役立つことだろう。

士郎の魔力総量がどれほどかはわからないが、昼間の様子を見る限りではそこまで魔力を必要としないのだろう。

故に後は士郎の魔術の技量と剣の技量次第で、あの能力は存外に化けることになるだろう。

 

俺が手伝えることは……

 

手伝えることは有るか?

そう思ったとき、俺のそばに強烈な気配が舞い降りる。

念のために封絶へと手を伸ばしたが……その必要がないことを悟り、俺はその手を元の位置へと戻した。

ここに張ってから数日経つ。

そのときになって初めての客がやってきた。

 

といっても、ここ、俺の家でもなんでもないけどな

 

「出てきたらどうだ? 話しも出来ないぞ?」

 

俺の呼びかけに応えて、赤い弓兵が……士郎のなれの果てが姿を表す。

得物を出してはいないが、とても友好的とは思えない目を向けてくる。

士郎=アーチャーという図式を考えれば、アーチャーが剣を虚空より出現させる力も……

 

投影だったということだ……

 

前から間違いないとは思っていたが、先ほどの投影の剣で確信した。

この赤い弓兵は間違いなく士郎のなれの果てであるということを。

練度、というよりも完成度が格段に違ったが、それでも根っこというよりも感触が間違いなく、アーチャーが持っていた剣と同じ物だったからだ。

 

「……何故黙っていた?」

「別に。そのうち遠坂凜あたりが気付くだろうしな。言うまでもないと思っただけのことだ」

 

やはり聞きたいことはそれだったらしい。

士郎を殺そうとしている理由は今を持ってしても謎だが、それでも一度引いたのならば、俺がこいつが士郎のなれの果てであることをばらす必要性はない。

実際、遠からずばれるのは事実だ。

何せ遠坂凜が驚愕に目を剥くほどに異常な能力だったのだ。

ならばそれと同じようなことをしている存在の事を、疑わないわけがない。

 

「マスターの命令が有るからなのかどうかは知らないが、お前が行動に移さないのがどういう事かは解らない……。が、少しでも桜ちゃんがかわいそうだと、罪悪感を覚えるならば……手伝ってもらうぞ?」

 

壊れたままの士郎がこうなってしまったというのが、目の前にいるアーチャーという存在なのだろう。

だがあいつは少しずつだが戻ろうとしている。

正義の味方から、ただの人間に。

もしかしたら、今の人間に戻ろうとしている士郎のなれの果てが、アーチャーなのかも知れない。

だがそれは何となく違う気がした。

 

そう会話をしていたとき……

 

 

 

俺の左腕の中の老山龍の力が、龍脈の乱れを検知していた。

 

 

 

 

「むっ、これは!?」

「お、気付いたか?」

 

そばで現界下赤い弓兵が、鋭い目線を新都へと向ける。

どうやらアーチャーも感じ取ったようだった。

それに対して驚いた俺に、アーチャーは更に驚いた視線を俺へと投じた。

 

「貴様!? 気付いて……」

「気付いていたさ。だが……今の俺ではどうしようもない」

 

拳を握りしめながら俺はそう答えた。

そう、どうしようもないのだ、今の俺と俺たちでは。

だからなんとしても早々に動かなければいけない。

藤村組の連中と雷画さん、大河、そして美綴。

それらが最優先時効だが、他の無実な一般人も見捨てる理由はないのだから。

 

……間に合うといいのだが

 

この街が、無人の廃墟になる前に……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

真っ赤な……まるで血の海のような中に、それはいた。

 

生け簀の中にいる……。

 

それはそう感じていた。

 

 

 

だって……こんなに苦しいのに……

 

 

 

息苦しさを覚えて、それを解消するために息を吸う。

 

だが空気を吸っても吸っても、息苦しさが解消されない。

 

故に生け簀からでるために、それは必死になって上を目指した。

 

道行く途中で、いくつもの羽虫を殺して……

 

 

 

そうしてそれは一番高い塔へと上り詰めた。

 

 

 

その体を、黒から赤へと変色させて。

 

 

 

そして歪なその体を変化させて天へと手を伸ばす……。

 

しかしその高い塔よりも更に高いその頂へと往くことは出来ず……

 

その手をのばしても届かずに……

 

そしてその手が高さに耐えきれずに落ちていく……

 

 

 

それはまるで街を覆い尽くすかのように広がって……

 

 

 

 

 

 

「!? ぁっ!?」

 

そこで意識を覚醒させる。

寝汗はひどく、そしてその夢がまるで現実で合ったとでも言うかのように、息苦しさは夢から目が覚めても続いていた。

妙に現実感のある夢とその内容に愕然として……熱くほてっている体を抱きしめた。

 

そのとき……両手にぬるりとした感触と、鼻をつく血の臭いを感じ取った。

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

手野の感触があまりにもリアルで……少女は必死になってその手を体から遠ざけた。

しかし目にしたその手にはなんの変化もない、ただのいつもの自分の手だった。

錯覚というにはあまりに生々しい感触に、少女の体は震えていた。

 

「顔……顔を洗いに……」

 

そうすれば少しはさっぱりとするかも知れない。

そう思い体を起こそうとするも、体は全くいうことを聞いてくれず、そのまま崩れ落ちる。

夢の内容と同じように息は苦しいままだった。

 

それが現実であると言うかのように……。

 

 

 

「ぁ……ぁぁ……」

 

 

 

熱のせいか思考はまとまらず、頭にあるのはただ壊れている感覚と。愛欲と飢えだった。

欲求は性と精と優しい言葉と気持ち。

先ほどあれほど貪ったというのに、未だ満ち足りていない自分に愕然とした。

 

 

 

どうして……

 

 

 

あれほど求めたというのに……

あれほど乱れたというのに……

体は精をほしがった。

今までからっぽだった反動なのだろうか?

だから一人では足りないのか?

だが彼以外の人間にそれを求めることなど考えたくもない。

だからもっと長く……もっとずっと彼と、いつまでもどこまでも一緒にいたかった。

 

 

 

いつでもどこでも……自分のことだけを考えてくれる……

 

 

 

そんな彼が欲しいと……

 

 

 

そう思った。

 

思ってしまった。

 

 

 

それが実現したらどれほど自分に取って幸せなのかと……

 

 

 

ただただ、相手を自分にとって都合のいい存在としてしまいかねない自分の心と想い。

 

 

 

それが普通であるわけがない……。

 

 

 

壊れていってしまう。

 

 

 

「ぅ……ぁぁ……」

 

いつのまにか起きて机に寄りかかっていた。

崩れそうになっている体を机に預ける。

夢は日に日に明瞭に……そしておかしくなっていく。

夢が日に日に……怖いことと、おかしいものだと思わなくなっていっている。

 

壊れていく、崩れていく。

 

体だけではなく……心までも。

 

 

 

「いぁ……」

 

 

 

自分が壊れていくのが、崩れていくのは構わなかった。

だがそれ以上に、彼がいなくなってしまうことが恐ろしかった。

こんなにも醜い自分を、こんなにも汚れてしまった自分を愛してくれている彼に、嫌われ疎まれ、いなくなってしまうのが心底恐ろしかった。

自分以外の人と幸せになるべきだと想っていた。

だけどもうそれは出来ない。

 

 

 

だって先輩は……もうわたしのものなんだから……

 

 

 

その思考がおかしいと想うことはなく……

 

少女は……桜は……

 

 

 

必死になって自分の心を保っていた。

 

 

 

もう壊れて言っていることを自覚しながらも、それがどんどんとおかしな方向に向かっていることに、気付かないままに……。

 

 

 

 




最近何もする気力がおきません

パワハラに近いかもしれない行為(いや、俺が悪いところも多々あるんだけど)

精神的にもろい自分

……モンハン4Gで少しは回復すると良いんだけどねぇ

まだ死にたくはないしなぁ

だが胸が苦しくてしょうがない今日この頃

生きるって……面倒だねぇ
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