月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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ごめん、一万字のつもりが1.7倍になった……


予定では一万字で納めるつもりだったんですよ……
まぁできてないけどねwww


現状確認

「突然ごめんね、おじいちゃん。わがまま言って」

「別に構わんよ。大事な孫の頼みだ。無下にはせぬよ」

 

そう言って私は正座をしていた腰を折って、目の前の人物に頭を下げた。

藤村雷画(ふじむららいが)

この深山町一帯に顔を利かせることのできる……言ってしまえば極道の親分で私の祖父である。

老人といっても差し支えない年齢であるにもかかわらず、おじいちゃんの昔を知る人は「未だに現役時代の雰囲気を持ち合わせている」らしい。

私にとっては大切なおじちゃんだ。

 

「ところで……大河」

「うん?」

「あの兄ちゃんに、何か身の上に関しては聞いたのか?」

 

おじいちゃんとしてではなく、藤村組組長としての顔で聞いてくる。

それがわかったので私も真面目に答える。

 

「特に聞いてないよ。だけど、とりあえず私が本気を出しても勝てない気がする」

「……だろうなぁ」

 

おじいちゃんは私の言葉を聞いて納得すると、カンッと音を立ててキセルの灰を、煙草盆の竹筒に捨てた。

その目は鋭く細まっており、異様な眼光を虚空……私が原付でひいたと思われる人がいる離れへと向けていた。

 

「色んな意味で無駄だろうが……まぁとりあえずあまり離れには行かないようにな」

「うん」

 

色んな意味で無駄……という意味は何となくわかった。

私よりも歳下……おそらく士郎と同じくらいの年齢であの隙のないたたずまいは異様の一言であり、恐らく普通の人生を歩んでいないことは容易に想像できた。

そしてそれと同時に、あの人は凶人でないということは、少しでも会話をしたらわかることで……つまり

 

普通通り接していれば問題ないでしょ

 

と結論づけて私はおじいちゃんにお茶を注ぐのだった。

 

 

 

心身供に特に異常はない……か

 

バイクにひかれたらしい俺は、その治療と言われて藤村大河さんの家であるお屋敷へと案内され、一通り身体を確認された後離れへと案内されていた。

 

俺の名前は鉄刃夜。

年齢は……現実世界というか、俺の世界では18歳で後半年ほどしたら19歳になる。

身長体重は平均よりもどちらも少し上。

家業として刀の鍛造、裏家業として悪人殺しを営む家に生まれた。

「気」を使用してのある種超人的な身体能力とそれを併用した剣技での戦闘方法を用いる。

家族構成は祖父、父親、母親、妹がいる。

 

今頃どうしてんのかねぇ……

 

海外の顧客に刀を鍛造してくれと依頼をもらい、その依頼の帰り道に俺はタンカーに揺られて帰宅していると……何故か異世界へと迷い込んだのだ。

 

現実世界は考えられないようなモンスターが溢れた世界。

その世界では鳥竜種、獣竜種、牙獣種、などなど、様々なモンスターがおり、さらに巨大恐竜や、飛竜種(ワイバーン)、挙げ句の果てには龍種まで出てきて……そしてそれを越えて神様まで出てきました。

人々はそれを狩猟する存在の人間をハンターと言っていた(後半の龍種、および神様は除く)。

そんな世界で俺は何とかハンター兼料理人として半年ほど過ごした。

その間に忘れられない出来事も多々あったのだが……とにかく俺はその世界における神様にあって俺の世界へと帰っているはずだった……が、その帰り道になんか声が聞こえて気が付いたらこの世界にいた。

そしてその時にバイクでひかれたらしく、その治療としてこの家へと案内されて一通り検診を受け……客間にいた。

俺と出会った、というか俺を引いた張本人だという藤村大河さんに聞いた、冬木市という単語に違和感を覚えたのだが……それは見事に的中していた。

 

……やはり俺が知らない市だったか。正しく言えば俺の世界にはない市か

 

知らないのは当たり前だ。

俺は日本全国の市の名前を覚えているわけではないのだ。

だが地図を借りて己の記憶にある、日本の地図と照らし合わせたのだが……予想通り俺の実家周辺の地図と違いがあった。

つまりは……この世界は俺の世界ではないらしい。

それを知って俺は激しく落胆して……今に至る。

 

まぁ前回と違ってまだ日本だし、ほとんど文明っていうか文化も相違ないからまだ楽だが……

 

モンスターがはびこった世界よりもよほど過ごしやすいのは間違いない。

があの世界はあの世界で、見ることなす事全てが新鮮だったので面白かったことは面白かったが。

 

どうしたものか……

 

これからどうするべきか考えるが……当然すぐに思いつくわけもないので……俺はとりあえず武器、道具の確認を……現実逃避……することにした。

 

まず細長い四角い金属製の刀入れを『気』で解錠し、己の得物を取り出す。

 

打刀 夜月(よづき)

打刀 雷月(らいげつ)

打刀 蒼月(あおづき)

脇差し 花月(かげつ)

 

の四本が、刀入れに収納されている。

 

夜月と花月は俺の世界で祖父と父親に鍛造された武器であり鉄の刀だが、雷月と蒼月は全てが鉄で出来た武器ではない。

 

雷月はモンスターがはびこる世界で遭遇した、雷の狼のようなモンスターと戦って勝利し、その尻尾から剥ぎ取った碧玉(へきぎょく)と素材を使用して作られた刀である。

意匠を凝らした造りをしているので、そのモンスター雷狼の見た目が結構残っている。

気を柄頭に埋め込んだ碧玉へと注ぎ、それより発せられた電磁の力を用いて電磁抜刀が使用可能の特殊武器である。

そして蒼月は、モンスターワールドでも特殊な存在だった、魔力(マナ)を操る飛竜、蒼リオレウスから作られたもので、これは大気に満ちる魔力(マナ)を用いて、発火刀剣として使用可能だ。

今の俺の魔力の扱いではその程度が限界だが、元が異常なモンスターだったので恐らくそれ以上の力を発することも可能だろう。

また柄頭には雷月と同じく、蒼リオレウスの尻尾より剥ぎ取った呪われた紅玉(こうぎょく)を埋め込んでいる。

紅玉に気を注ぐことで別の刀剣を宇宙世紀のMS(モビルスーツ)よろしく炎熱剣(ヒートソード)のように使用することも可能だ。

夜月は俺が生まれた直後に鍛造された打刀であり、一番の愛刀だ。

 

これら三振りの打刀が、俺がもっとも得意とする打刀一刀流で使用される武器達である。

 

元はこの刀入れに収まっていた短刀 水月(すいげつ)は腰に装備するように……数が増えたために小さなサイズの刀を入れる余裕がないのだ……なった。

 

軽五本の刀は特に問題なし。お次はこいつか……

 

刀入れ、そして腰に装備している短刀 水月(すいげつ)の様子を確認し特に異常がないとわかると、俺はあらゆる意味で特殊な武器といえる一対の剣を布のシースから取りだした。

 

刃渡りは打刀ほどの長さの剣で、柄頭まで伸びたフィンガーガードの役割も果たしている刃が特徴的な剣であり、側面にある模様が禍々しい。

剣先辺りに、まるで目のような黄色い装飾が施されており、それが柄辺りまで伸びている。

(しのぎ)から峰へと向かって、いくつもの青緑色の筋のような物が伸びていて、それが剣をより一層妖しく飾る。

そして何よりも、その武器はただの鉱石から出来た物ではなく……何か特殊な力が込められているような……そんな雰囲気を醸し出している、そんな武器。

 

というか怨霊が取り憑いている剣なのだが……

 

『失礼だな、仕手よ』

 

俺がそう内心で独白すると、それを感じ取れたのか、一対の魔剣が思念を俺へと送ってくる。

 

『封龍剣【超絶一門】よ。今更だがお前は俺に付いてきてよかったのか?』

 

モンスターワールドの世界で、特殊な存在である古龍という、意志を持ち、そして意思疎通の出来る魔力(マナ)を扱う最強種の生物に、家族と友を殺されて己が鍛えた剣に怨霊としてとりついてまで仇を取ろうとした男の怨霊。

そしてその復讐は俺とともにその古龍を討ち取ることで果たした。

そこから雰囲気に険がとれて、普通に怨霊というよりも剣の意志として、今も封龍剣【超絶一門】に宿っていた。

復讐を果たすまでは完全に魔剣の類だったが、今は意志を持つ特殊な双剣となっている。

 

まぁ……自然だと言うべきか、剣その物から魔力を発するので魔剣に変わりはないか……

 

特殊な鉱石で作られていること、そして意志が籠もっているからか、こいつからは魔力が発せられている。

手持ちの武器の中でもトップクラスの強さを誇っていることは間違いなかった。

 

そんな封龍剣【超絶一門】は俺と供に別世界である、今のこの場所まで来ていた。

 

『仕手のおかげで復讐を成し遂げることが出来たのだ。ならばもうあの世界に未練はない。むしろ仕手の力量も十全なのだ。別の世界にも行って見識を広げるのも悪くはない』

『見識って……お前……』

 

とっくに死んでいるというのにまるで生きた人間のようなその言葉に俺は思わず呆れてしまった。

ほとんど生きている剣だと言っても過言じゃないこの封龍剣【超絶一門】は、手入れをする必要性はあまりない。

刃こぼれ一つしておらず、さらには妖気っていうかなんか危なげなオーラを放っているので本当に手入れの必要性はなさそうだった。

が、折角取り出したのでとりあえず布で丁寧に拭いてシースへとしまう。

またスローイングナイフの残りや、全く使用されなかったコンバットナイフ二本も布でふく程度の手入れだけは行った。

 

次に所持品の確認をしている。

現実世界より別世界へと移行したので、刀の鍛造道具も一式ある。

が、現実世界というか銃刀法違反があるこの世界では勝手に刀を鍛造しては違法になる。

それに造る機会もないだろうし、見た目が完璧に若造の俺に鍛冶場を貸してくれる人がいるとも思えない。

とりあえずこれは鍛造士としての俺の命なので厳重に封印しておく……。

 

「ありゃま」

 

俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。

モンスターワールドで、モンスター討伐をしに行くときに支給される支給品という物を、丸ごと持ってきてしまった。

ペイントボールや渓流の地図、回復薬、解毒薬などなど。

他にも支給品だけではなく、栄養剤グレートといった使える薬系列や、モンスターの素材もいくつも持って来ているが、それはまぁ割愛しよう。

とりあえず使う予定もないので、こちらも厳重に保管する。

荷物、得物供に問題ないことを確認すると、俺は最後に規格外な物体を手に取った。

 

長さ3mはある湾曲した木の棒を……

 

モンスターワールドでのモンスター討伐で、朱色の怪鳥討伐を行っていたときに、乱入してきた赤い火竜のリオレウスに、俺は一振りの刀を砕かれてしまった。

打刀 銘を夕月。

夜月と供に生を受けた、親父が鍛造した打刀だったのだが、その時砕かれてしまったのだ。

だがそれでも……砕かれてなお、気を放つ夕月は生きていた。

だから俺はそれを全て回収し溶かして玉鋼とし、その世界の砂鉄で生成した玉鋼を使用して、一振りの対『飛竜』用の太刀を鍛造したのだ。

 

刃渡り七尺四寸《約222cm》。

柄長さは二尺《約60cm》

全長九尺四寸という、規格外にも程がある野太刀である。

 

銘を狩竜(しゅりゅう)という。

 

これで数多くのモンスターを葬った……のだが……。

 

刀身の色が……なんか危ないよな?

 

刀身の色……つまり鋼鉄部分の色が鋼色じゃないのだ。

何というか、血のような色をしているというのが一番しっくりするだろう。

赤黒い色をしているその刀身。

その原因は、モンスターワールドで最後に死闘を繰り広げた……煌黒邪神アルバトリオンという……冗談でも酔狂でもなく、邪神との激闘にて、魔力(マナ)の塊の武器として顕現可能な「老山龍」の力、龍刀【却火】とともに野太刀二刀流というあり得ない剣技で邪神を討伐した。

その時邪神にとどめを刺すときに使用したのが、狩竜だった。

そして邪神を構成したと思われる粒子?全てを吸収したのだ。

それによって刀身の色が赤黒くなってしまった。

邪神全てを吸収していると言っても過言ではないというのに、狩竜にあまり変化はない。

見た目には無論変化があるのだが……それしか変化がない。

曲がりなりにも神を吸収したと言うには雰囲気にも特に変化がないのだ。

それが不気味ではあったのだが……

 

……捨てるつもりはないし……様子見だろうな

 

半ば無理矢理納得して、狩竜もとりあえず簡単な手入れをする。

 

他に物体としてあるのは、たてがみの首飾りだろう。

モンスターワールドの世界で麒麟の形をした雷の精霊……の化身である。

 

あまりアクセサリーの類は、俺は好きではないのだが……しょうがないか

 

装備している効果として「精霊の加護」というダメージ軽減のスキルがある。

 

だが……この魔力(マナ)の少ない世界だと効果あるのかね? まぁ、別になくてもいいけど

 

魔力(マナ)が少ないからか、キリンからも返答がない。

かといって死んでいるようには思えないので、おそらく休眠中みたいな物なのだろう。

効果があろうがなかろうが、こいつはただの首飾りにしか見えない以上、たいした問題にはならない。

道具、得物ともに特に問題なくこちらの世界に持ってこれた。

 

まぁいくつか置いてきた武器防具はあるが……まぁいいや

 

置いてきた武器たちはきっと何かしらに使われるだろう……と勝手に思っておくことにする。

欲を言えば鎧だけは持ってきたかったが……重すぎたし、俺が世話になった村を救った装備でもあるので記念として置いてきたのだ。

とりあえずまぁ装備自体に関しては問題ないが……装備に一つだけ問題があった……。

 

何を隠そう、超野太刀、狩竜の存在である。

 

この長さで湾曲しているこの刀は……危ないな

 

何度も言うが、この世界は現実世界っていうか、今いる日本は法治国家である。

理由もなく刀剣を持ち歩くのは違法である。

当然刀であるこの狩竜を持ち歩けば捕まること必至だ。

さらには登録されてない刀剣なので、捕まれば《絶対に逃げられるが》ほぼ一発で没収される。

 

 

刀を鍛造する場合はその鍛造する刀を登録してから……つまりは鍛造することを申請……でないと鍛造してはいけない法律なのだ。

↑これは現実(リアル)の世界でもある歴とした法律です by作者

 

 

だがこいつはどこかに捨てるとか置いていくというのはあり得ない。

基本いつでも持ち出せるようにしたいので、俺はその対策のために、藤村さんにお願いして和紙と筆を借りていた。

 

認識阻害の術を掛ける……のが一番無難だろうな

 

俺は気と魔力を扱う家に生まれたのでちょっとした術の類も使用できる。

といっても本当に入門の術が使えるだけで、その道のプロが見たら鼻で笑えるレベルだ。

だが結界を展開すれば気を扱えない人間には絶対の領域になる。

今から使う認識阻害の術もそれの応用である。

そのためこれも素人しか通用しないが……警察は余裕でごまかせる。

 

夕月に使用されていた紐などを結い合わせて作った柄巻きを外し、白木の柄にする。

鞘の折りたたみギミックだけがちょっと目立つがそれに目をつぶれば湾曲した木の棒になる。

切羽はあるが鍔は取り付けていないからなおさらだった。

折りたたみギミックの節目と鯉口の箇所に、俺は筆で気を込めながら呪文を書いた札を貼り付ける。

さらに気を込めて認識阻害の術を展開する。

そしてそれは特に問題なく発動した。

 

よし、これで一般人には湾曲した木刀にしか見えない

 

持ち運ぶ以上、見る人にただの木であると認識してもらわないと通報されかねない。

俺が使う全ての刀は、俺の『気』にしか反応せず、抜刀できないので特に問題はない。

刀入れも俺の『気』でのみ解錠できるので……封龍剣【超絶一門】だけは例外なので隠さないとまずいが……とりあえずは一通り問題がなくなった。

 

コンコン

 

「お客人、よろしいですか?」

「はい。どうぞ」

 

荷物を整理し終えた直後、襖をノックされた俺は返事をする。

というか気配で部屋に近づいてくるのは分かっていたし、先ほどから見張られている……直接の監視はされていない。監視カメラもなかった……のはわかっていた。

 

まぁ怪しい人間だよな

 

やはり狩竜が在る意味でネックだ。

現実世界ではとてもではないが3mもある木の棒は、違和感が在りまくる。

またこの家もどうやら普通の家ではないようなので、客人とはいえ完全にフリーにすることはないだろう。

静かに襖を開けて礼儀正しく入ってきたのは、俺よりも少し年上の男だった。

黒いスーツでばっちりと決めている。

 

「お食事の用意が調いました。申し訳ありませんがご足労願いますか?」

「これはご丁寧に。というか本当にお食事まで頂いてしまってもよろしかったのでしょうか?」

「お嬢の客人です。遠慮する必要性はございません。それではこちらへ」

 

先導するそいつの案内に従い、俺は後ろをついていくと、大広間へと通された。

そこには……ズラーッ! と床の間の前に座った老骨のご老人の脇に、幾人もの屈強な男達が並び、その老人へと向かうように二列で一直線に、皆が正座して鎮座している。

普通の人間なら軽く引きそうな光景ではあるが……俺として何とも思わなかったりする。

それよりもこの広間の広さに興味があった。

 

広いな~。何畳あるんだ?

 

確実に二桁は畳がある。

それほどの広間にびっちりとうめつくすほどの人間がいる。

しかも全員黒いスーツ着用だ。

末恐ろしい。

一人だけ例外として俺を原付でひいたらしい……感じなかったので引かれなかったも同然だが……藤村大河さんが私服でいるのが浮いていた。

俺に笑顔で呑気にパタパタと手を振っている。

他にも衣服が違うという意味では真ん中の老人もそうだったが、黒色の和服なので色的にはで浮いていない。

しかし逆の意味で……目立つ人が老人だった。

この中で間違いなく一番年を取っているというのに、その身から発せられる雰囲気は強烈だった。

間違いなくこの中で一番偉い人間だ。

正直、この状況で飯なんぞ普通の人間なら全力で辞退するだろう。

が……俺の場合……

 

こいつらが束になってかかってきても一分と経たずに勝つだろうが

 

というわけで別に怖くなかったりする。

またこいつらはヤクザじゃないことはすぐにわかったのでそう言う意味でも恐れる必要もない。

俺は案内された席……藤村大河さんの正面へと座らされた。

目の前には膳が置かれており、その上にいくつかの食器が置かれている。

 

「よく来てくれた、鉄刃夜殿」

 

俺が席に着くと、藤村大河さんの隣に腰掛けている老人が俺へと言葉を掛けてくれる。

その言葉にも当然気迫が込められた。

 

……間違いなく一級品の気迫だ

 

他の連中も相当な気迫を持っているが、この人の気迫はより洗練されていた。

 

「特に異常もないというのに、お食事までごちそうになり、さらにはご一緒させていただきまして恐縮です」

「いやなに。孫があなたを引いたというのだから謝るのはこちらの方だ」

「孫? というとあなたは藤村……」

雷画(らいが)という。以後よろしく頼む」

 

快活に笑いながら、俺へと笑顔を向けてくる雷画さん。

だがその瞳の奥に、俺を見抜かんとする鋭い光があるのを俺は感じた。

そんなことを思っていると膳に料理が運ばれてくる。

完全なる純和食の料理だった。

人が作った和食……というかアレンジの入っていない完璧な和食というのは純粋に嬉しかった。

 

「では頂こう」

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

「いただきま~す♪」(大河)

「頂きます」(刃夜)

 

厳かに会食……というには言い過ぎかもしれないが、とりあえず夕食をいただく。

そして一口、口に入れて……俺は心で唸った……。

 

……あぁ、なんか帰ってきた気がする

 

世界こそ違うが、ほとんど相違ない日本であることを、和食を食したことで俺はようやく実感した。

好みの問題はあれど、今口にした和食……この藤村組かな?……の和食はかなり高レベルの食事だった。

一切の妥協もなく、しっかりとした手順で料理を行ったのがよくわかる。

すばらしい味だった。

 

……出来れば家でこれを味わいたかったが

 

しかしここまで料理の味も同じな日本に帰ってきたというのに、俺の世界ではないという事実に途端に沈みそうになるが……今はどうしようもない。

 

しかし、何を思って俺をこの世界に送ったんだ……?

 

あの時……次元の狭間とでも言うような場所で聞こえてきたあの声。

あれは恐らく俺の予想通りの相手だろう。

色々と突っ込むところは満載だが、突っ込む相手がいないのでは意味がないので色々と胸中に宿っている疑問に関しては割愛する。

だが一つだけわからないことがある。

 

この世界に来た意味……ないし理由……

 

それが不思議だった。

というかもしもモンスターワールドに行ったのもあの人の画策だとすれば、何か意味があるのかもしれない。

前回の世界で、俺は貴重な経験をした。

俺に何かしらの経験をさせるのは間違いないだろう。

だがその過程で俺は相当な試練を乗り越えた。

この世界でも何かしらの経験をさせることが目的だとすれば、この世界にもそれ相応の試練が待っていると言うことだろうか?

 

「何か考え事かい?」

 

俺が黙っていると、雷画さんが俺へと声を掛けてくれる。

どうやら観察されていたようだ。

なるべく外に漏らさないようにしていたつもりだったのだが……人生経験の塊である老人相手……しかも間違いなく相当な手練れ、老獪ともいってもいい人物を相手にはまだ分が悪いようだった。

ので俺は素直に頷いた。

 

「ちょっと……まぁ色々と」

「ふむ? 随分と身体がしっかりとしているようだが……何かスポーツでもしてるのかい?」

「え、えぇまぁ。剣道……かな?」

「ほほぉ……?」

 

俺の言葉に、対面でひたすら食事をしていた大河さんがにやりと笑いながらかっこんでいたお茶碗から俺へと視線を投じてくる。

口周りに一粒ごはんがくっついているのを……お茶目と言うべきか行儀が悪いと言うべきか……そんなくだらないことを考えてしまう。

 

「立ち振る舞いから、ただ者ではないというか、実力者と思ってたけど……。段位とかは所得したのかな?」

「……あ~」

 

どうやら腕に自信があるのか、大河さんが嬉々としながら俺へと問いかけてくる。

なんかこのままにじり寄ってきそうな勢いだった。

が、こちらとしてはその質問に対して返答するのに窮してしまう。

 

剣道って言うか、剣術だからなぁ……

 

なんか言うのが憚られて剣道といってしまった自分。

そしてその答えに窮している俺を、雷画さんがそれとなく油断なく見据えていた。

 

「すいません……剣道よりも剣術です」

「剣術……。となると真剣を使った古武術とかですか?」

「……そうなる……でしょうか?」

 

古武術というか……家に伝わる剣術なので、古いというべきなのか……

 

それが判断しづらいが、まぁ少なくとも最近出来た剣術でないことだけは確かだ。

正式な段位なんかはない上に、判断基準が実戦で使えるレベルかどうかなので、自分がどれほどの腕前かは不明だったりする。

そしてそこで俺は一つ、衝撃の真実に気づいた……。

 

……というか、最近まともな対人戦をしていない

 

今更ながら、俺は対人戦の実戦をほとんどしていないことに気がついたのだ。

 

怪物相手に関しては結構な経験値を習得したが……

 

モンスターワールドで約半年生活した。

その間に相当数のモンスターを狩ったので、自分よりも巨大な相手と戦闘するのはだいぶ慣れた。

得物もそれ……巨大な相手を対するために鍛造した狩竜がある。

狩竜はリオレウスという飛竜を真正面から一刀両断することも可能な得物だ。

が……その半年の間に俺は人と戦うと言うことを全く行っていなかった。

修行のために弟子一号と弟子二号とは戦ったが……稽古をつけるためなので命を賭けた死闘を行っていたわけではない。

そしてモンスターワールドには人が持てる巨大な銃槍はあっても……

 

銃器の類がなかった……

 

拳銃、マシンガンなどの銃器。

これらと対峙し、間合いでは圧倒的に不利な刀で戦うという感覚を、果たしてどれほど覚えているかは……はっきり言って謎だ。

これは致命的とも言えるだろう。

別に気壁があるために死ぬことはないし、食らうようなヘマはしないが……それでも対人戦、現代戦の腕前が落ちていることだけは確かだった。

 

……どうやって感覚を戻すべきか

なかなか厄介な問題が浮上してしまった。

ことが銃撃戦のために、日本ではあまり経験をすることはないだろう。

 

どうしたものか……

 

「となると、刃夜殿が持っていたあの偉く長いのは木刀かい? 斬馬刀よりも長かったが」

 

俺がそうして内心で唸っていると、雷画さんが話を続ける。

それで俺は思考を一旦切り上げた。

斬馬刀とは本来、古代中国で使用されていた武器の名前。

武士を馬ごと斬る等の描写が漫画なんかで見受けられるが、本来はその長さで馬の足を切って転倒させるのが目的の武器だ。

大太刀に分類されるような得物だが……当然狩竜の長さには届かない。

 

……まぁ目立つよね

 

「あ~あれはそうですね。……はい」

 

嘘を吐くことになるが、本当のことを言うわけにもいかないだろう。

まぁ数名には通用しないだろうが。

 

「あの長さで修練してるの? というかアレを使う剣術って相当特殊よね? 流派は?」

「え~……聞かないでくれると。一応」

「あらそう? でもすご~い。あれを振り回すんだ! 技とか……」

「やめろ大河。あまり聞いてばかりでは刃夜殿を困らせるだけだ」

 

これ以上聞かれると面倒なことになりそうなので、俺は曖昧に言うことしかできない。

そして幸いなことにそれがわかっているのか、雷画さんがこれ以上突っ込むなと孫娘に釘を刺してくれた。

祖父の言う言葉に渋々と従う大河さん。

何というか……天真爛漫な方のようである。

そしてそれからは静かに会食が進む。

が、それでも雷画さん他数名が、俺から目を離すことはなかった。

 

見極めるつもりかな?

 

組の親分として、俺がどんな人間かを見極めようとしたのだろう。

若輩故に、このご老人の目を完璧にごまかすことは出来ないが……俺の人生を語っても理解できないだろう。

 

主に異世界に飛んだこととかな……

 

自分の奇妙な状況に改めて溜め息を吐たくなる俺であった。

そして食事を終える。

 

「ごちそうさまでした」

「どうだった? うちの料理は?」

「大変おいしかったです。和食の造り方に一切の妥協もなく完璧でした」

 

素直な感想を述べる。

実際料理はものすごくうまかったのでその点に文句はなかった。

雰囲気は余りうまくなかったが。

 

「そうか」

「はい、料理を作った方にお礼を言っておいて下さい」

 

そう言って俺は雷画さんに深々と頭を下げた。

実際今晩の飯を心配しなくて良かったので助かったのだ。

俺の世界でない以上、当然俺の口座はないわけで……手持ちの大して多くもない金が俺の今の全財産となる。

 

大切に使わなければ……

 

しかもこの現金だって……この世界では使えない可能性だってあるのだ。

また、モンスターワールドの世界と違い、どっかの森に勝手に家を建てる事も出来ない……。

身分証……もっと言えば戸籍もない人間がどうやって職に就くのか……問題は山積みだった。

 

あ~……めんどくせ

 

「あの……」

「はい?」

 

そうして俺が今後の自分に関して暗い気分になっていると……何故か遠慮がちに大河さんが声を掛けてきた。

 

「こんなこと聞くのもなんだけど……怖くなかったの?」

 

 

 

私は思わず、疑問を口に出してしまった。

確かにこの目の前の青年、鉄刃夜さんは普通じゃない感じはする。

少なくとも普通の人生を送っていないことだけは確かだった。

だけど、それを差し引いてもこの状況での……周囲全てを組の構成員に囲まれたこの状況下……食事は怖い物があると思う。

私は昔からの事だし、構成員の人たちがいい人だって事を知っている。

だけど初めてきた鉄刃夜さんは当然その事を知らないし、それに今日は客人とはいえ初めて招いた人だったからみんな警戒していたから相当危ない雰囲気だった。

なのに目の前の人は……

 

「はい?」

 

言っている意味がわからない、とでもいうように間抜けな言葉を出していた。

 

「怖い……とは?」

「だって……その。わかってると思うけど、私の家って普通じゃないし」

 

この広間を見渡しただけで直ぐにわかる。

普通の家はこんなにビシッと家でスーツを着て、懐に危ない物を持つ理由もないし、そもそもこんなに人がいない。

外見は普通だけど、雰囲気で直ぐにわかる。

堅気じゃないって。

そうだというのに目の前の人物はさも平然としながら食事をし……それどころかしっかりと味わって食事を終えたのだ。

 

「……あぁ。そう言うことですか」

 

私の不思議そうな顔を見て得心がいったのか、鉄刃夜さんが言葉を上げた。

 

 

 

「確かにここは堅気じゃない……いわゆる裏の世界にも通じている家からもしれませんが……ヤクザじゃないでしょ?」

 

 

 

「……え?」

 

その言葉に、私だけでなく隣に座ったおじいちゃんも不思議そうにする。

そんな私たちを見つめつつ、鉄刃夜さんはさらに言葉を続けた。

 

 

 

「え~っとどういえばいいですかね? ……つまりここはヤクザみたいないわゆる腐った組織じゃなくてきちんとした極道だ。そして任侠もある。そして孫娘……組にとってはお嬢様かな? を心配してみんなで食事を取ると言うことすらもする極道なのですから、変なことをしない限り恐れる理由はないでしょ?」

 

 

 

……すごい

 

今食事をしただけで、そこまでのことを認識したこの青年に私は驚かされてしまった。

しかも恐れる理由がないという、その言葉に全くの偽りがなかった。

構成員の何人かが間違いなくあまり客人に向けるべきじゃない物を向けたというのに、全く動揺していなかった。

 

それはつまり……

 

 

 

この人数を前にしても、恐れる理由がないという事で……

 

 

 

「それではこれで失礼させていただきます」

 

そう言って鉄刃夜さんは席を立った。

その雰囲気は……何か無理矢理にでも通ってみせるという……そんな雰囲気を醸し出していた。

そしてそんな彼を止めることは……私には出来なかった。

 

 

 

「……待て坊主」

 

私には……だけど……

 

 

 

 

 

 

「……何か?」

 

立ち上がり、これ以上ぼろを出す前に逃げようと思っていたのだが、その前に雷画さんに呼び止められてしまった。

 

よりによってもっとも厄介な人物に

 

このご老人相手に舌戦は避けたかった。

文字通り経験値が違うのだ。

人生経験の塊である老人……しかも裏の世界の住人であり、組のトップである雷画さん相手ではとてもではないが歯が立たないだろう。

 

「お前さん……どうやら人に知られたくない事があるみたいだな」

 

……まぁそれぐらいわかるよな

 

これに関してはまぁ……だれにでもわかるだろう。

武術を使うとか言いながら流派すら言わないのだから《まぁ言うなれば鉄家剣術という所だろうが……言っても誰もわからないだろうし》。

さらには俺の普通じゃない雰囲気も合わさっているし、その雰囲気に違わず俺も堅気ではない。

 

「それを聞くつもりはないが……それでお前さん、行く宛はあるのかい?」

 

……え?

 

しかし問いかけられたその言葉は……あまりにも予想外な物だった。

 

「……えっと」

 

そしてそれに返答する言葉を……俺は持っていなかった。

 

「……え~」

「お前さんがどんな人生を歩んできたのかはわからんよ。だがお前さんが悪人ではないことはわかる」

 

……それ以上のこともわかってそうだな

 

このご老人……底が知れない。

おそらく俺がどんなことをしてきたのかも何となく察してそうだった。

 

「……そうだな、お前さん何が出来る?」

 

……素直に言うかぁ

 

なんか取り繕ったところでどうしようもないし、嘘を吐く理由もない。

仮に襲いかかられても全員を蹴散らすことが出来るのだから、怖くもない。

という事で俺は素直に言った。

 

「……人を捌くのと食材を捌くのが得意ですね」

「……ほぉ」

 

少しぼかして伝えた、俺の言葉。

ぼかしたところで全く意味はないだろうが。

俺の言葉を聞いて何か考える仕草をする雷画さん。

別に無視して帰る……というか出て行ってもいいのだが、その表情が余りにも真剣だったので、俺は思わず固まってしまった。

 

「よし、坊主。何か造ってみろ」

「……はい?」

「何か料理を」

 

……何故そうなる?

 

何を思ったのか、または何を考えたのか謎だが……突然のその申し出に俺は頭が回らなかった。

だが、その言葉と表情は真剣その物だったので、俺は素直に頷いた。

 

「……はい。では申し訳ありませんが台所をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「家の台所で良ければ好きに使え。食材もある物を好きに使っていい」

「じゃ~私が案内して上げる!」

 

元気にそう言って、大河さんが立ち上がった。

そのまま俺の手を引いて……台所へと向かっていく。

そしてその後に付いてくる……一人の黒いスーツの男。

 

そらぁ……料理作らせるのに見張り一人もいないわけないわな

 

俺がもしも別の組織の鉄砲玉なら、今から作る料理に毒物盛ることだって出来るわけで。

もちろん鉄砲玉ではない俺は普通に料理を作るが。

 

さて……何作るか……

 

手早く作れて、重くなく……かつ料理の腕前がわかるものというのは……

 

「何作るの? おいしい物なら何でも食べるよ!」

 

……あ、メイン作っても問題なさげ?

 

どうやら一品物でなくても腹に溜まるような炭水化物でも良さそうだった。

……少なくともこの女性は。

そうなると、手軽に作れる料理は……。

 

うむ……決めた

 

 

 

……ほぇ~

 

私は目の前で料理をしている人物のその料理負受けにびっくりした。

 

というか……普通の調理じゃない?

 

「え~肉は角切りにして~。野菜は刻んで~」

 

……食材が宙を舞う度に、一瞬にして細切れになっていく。

しかもひとつ一つがかなり綺麗だった。

しかしその包丁というか……切っているのが……

 

短刀って……

 

食材を切るのに使用されているのが、鉄刃夜さんが持ち出した短刀だった。

しかも食材を刻むのにまな板を使用していない……。

漫画でありそうな……宙に食材を浮かせてそれを宙にある状態で細切れにしているのだ。

そのおかげで食材さばきが速い速い……。

 

「っていうか……何故日本の一軒家に中華料理で使うような本格的なコンロが……。助かるけど」

 

あ、中華料理なんだ

 

鉄刃夜さんの独り言で、どうやら中華料理を作るつもりだというのがわかった。

材料は豚肉細切れ、ごはん、卵、長ネギ……

 

これって……

 

 

 

「へいお待ち! チャーハンです」

 

俺は手早く作った料理、炒飯という名のチャーハン(意味不明)を盛りつけた器を、ご老人……雷画さんの膳の上へと置いた。

無論老人だけでなく、ものごっつ食べたそうにしている、孫娘の大河さんの膳、そして他上の地位にいそうな数名の男の前に料理を置く。

 

「一切の妥協もなく、また余分(・・)な物も一切入れずに、愛情込めて作らせていただきました。お味見を、お願いいたします」

 

「余分」の言葉に少し力を込めて俺は言った。

余分な物というのは当然劇物、毒物といった暗殺の意図がないと言うことを言うためだ。

 

料理に関して妥協はせぬ

 

「……では頂こう」

「組長。お客人を疑うわけではありませんが……しかしやはり我らが毒――」

 

 

 

 

 

 

「うめぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!? なんじゃこりゃぁぁぁっぁぁ!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

「……お嬢」

 

自分たちの組長が食する物を、先に食べて問題がないか確認したかったのだろうが……それを一人の女性らしくない叫び声が遮った。

しかも毒味前にチャーハン食ってるし。

 

……空気読め!

 

さすがに今のは俺も唖然としてしまう。

 

というかこの人も一応……重要人物の一人なんじゃ?

 

組長の孫娘なのだからそれも当然なのだが、その重要人物は子分達の危機意識も空しく……盛大に俺の作ったチャーハンをかっこっていた。

無論毒など入っていないので……死ぬことなんぞあるわけもないのだが。

 

……なんかこの人……獣みたいだな

 

もはやこの野生児のような人間に……「さん」はいらない気がしてきた。

さすがに祖父であるご老人の前では言わないが……。

そんな半ば微妙な雰囲気になっているにもかかわらず、大河は食事を続けて……1分と経たずにチャーハン一人前を平らげてしまった。

 

「あれ? みんなどうして食べないの? おいしいよ? というか食べないならちょ~だい♪」

「……大河」

 

さすがに孫かわいさでカバーできる物ではなかったらしく……雷画さんも呆れていていた。

 

「……最初から疑ってはいなかったが。まぁいい。食べようか」

 

そう言って雷画さんは苦笑しながらレンゲを取った。

そして口へと運び……。

 

「……ほぉ」

 

満足げに頷いていた。

 

「……おぉ」

「うまいな」

 

側近達もおおむね好評価をくれた。

そして俺を見る目が変わる。

ここまで来たらさすがに俺を鉄砲玉と見る奴はいなかった。

 

「……なかなかうまい炒飯だ」

「……光栄です」

 

どうやらお眼鏡に叶ったようである。

 

「しかもこれ。老人のわしに気をつかって少々薄味にしているだろう」

 

おぉ。すごいな

 

炒飯の欠点としては少々濃い味というか……まぁ余りご老人に出して言い食事ではない。

無論中華料理をバカにするつもりは毛頭無いが……。

 

おいしいし、好きだしな……

 

「ふむ……炒飯にしたのは手早くできて、かつ炒め物の腕前を見るのに適した料理だからか?」

「……お見事です」

 

雷画さんの言うとおりだった。

チャーハンと言うのは炒め物の技術を見るのに適した料理なのだ。

単純故に味にごまかしがきかない。

中華料理の基本は炒め物だ。

つまりチャーハンが満足に作れない者は中華料理の基本が出来ていないとも言えるのだ。

そして俺はそれの最低条件を満たしている。

 

「え? 味薄めなの? 私的にはちょうどいいんだけど?」

「無論、食べる人によって味の濃さは変えています。それぞれの好みがわからないので基本的な味付けに仕上げましたが」

 

大食漢の大河には十分な味と量……全く足りなかったようだが……を、雷画さんには薄味で少なめの量を、他の側近の方々には普通の量を盛った。

 

「……ふむ」

 

……ていうか何をするつもりなんだ?

 

言われるままに一品作ってしまったが……どういうつもりなのか全くわかっていない。

思わずノリノリで「へいおまち!」と……ドラマでも聞きそうにない掛け声を挙げてしまったが。

 

「……おい。野宮」

「はっ」

 

雷画さんが誰かの名を呼ぶ。

それに即応する、一人の男。

雷画さんの近くに座っており、しかも結構な気迫を醸し出しているので、おそらく側近の一人だろう。

 

「確か……最近潰れた店があったよな?」

「はい。深山町の一軒家で、店主が腰を痛めて店をたたんだのがまだ残っています。調理道具なんかもほとんど残っていますね。店主が何も持って行かなかったので」

 

……何の話をしているんだろう?

 

「ふむ……坊主」

「はい」

「調理師免許もっているか?」

 

……調理師免許?

 

突然の申し出に俺は思わずきょとんとしてしまう。

が、俺の世界での調理師免許はもちろんのこと、この世界の調理師免許も持っている訳がない。

 

「いえ……持ってませんが」

「……野宮」

「はっ」

「確か調理師試験が近々あったな……」

「はい、五日後に……」

 

「よし決まったな……」

 

何が!?

 

もう話の展開に全くついて行けない。

 

というかこのご老人、俺に一体何をさせるつもりなのか!?

 

「坊主、後日その試験受けて調理師免許を取ってこい。そしてわしの土地で店主が辞めたばかりで余っている店がある。そこで料理人として働いてみろ」

「……はい?」

 

まぁ正直半分ほどは読めていた展開ではあるが……何故料理人?

 

料理を作らせ、最近潰れてそのままになっている店の話をする。

料理を作らせたのが俺の腕前を見るためのものだったのだろう。

 

あとは俺の真剣さを見るため……か? というかちょっと待て

 

「あの……調理師免許って、どこかの料理期間に二年間はつとめないと受験の資格がないですよね?」

 

そう、調理師免許は歴とした資格であり、その取得……というか試験を受験するには二年間どこかの調理機関(学校の給食調理場など)に二年間つとめないといけない。

二年間と言う期間は別世界のために少々違うかもしれないが、それでも全く期間がないとは思えない。

 

「うむ、その通りだ。だがそれはこちらが何とかしよう」

 

何とかって……おいおい

 

「お主の腕なら受かること自体は難しくないだろう。それでその腕で食事屋の主として生計を立てればいい。それに伴って戸籍もこちらで用意しよう」

 

……やはり読まれていたか

 

似ているとはいえ別の多重世界(パラレルワールド)の住人である俺には戸籍というものがない。

当然試験どころか警察に普通に掴まる問題である。

それすらも読まれていた。

 

「戸籍や二年間の期間免除なんかは気にしなくていい。詫びの印と、お前さん自身をわしが気に入ったからな。どうだ?」

「……願ってもないことですが……しかし」

「……それとも……人裁きを手伝ってくれるのか? こうしてわざわざ言い回しを変えている所を見ると、乗り気ではないのだろう?」

 

雷画さんの言うとおりだった。

人裁き……要するに悪人殺しの裏家業だが……別にそれ自体を嫌っていない。

むしろカス共をのさばらせておくのは俺の本意ではない。

だがここは俺の世界ではない。

モンスターワールドから俺が帰ると誓っていたのは、俺が受けるべき恨みを受け止めるためだ。

だからこの世界でも悪人殺しを行ってしまっては、その誓いに矛盾が生じてしまう。

というかこの世界から自分の世界へと帰ることが出来なくなってしまう。

そのためにぼかして伝えたのだ。

 

……ご厚意に甘えるしかないか

 

好条件なんてものじゃない……破格だ。

戸籍を用意するだけでも相当の額がいるというのに……しかも借地代までまけてくれる、生きるための仕事も斡旋してくれた。

正直喉から手が出るほど好条件だ。

全てを見抜かれた悔しさもあったが……

 

背に腹は代えられぬ

 

俺は悔しさや嬉しさを全て飲み込み……静かに雷画さんの前に正座し、深く頭を下げた。

 

「……申し訳ありませんが、そのご厚意に甘えさせていただきます」

「なぁに、いいって事よ」

 

ニヤリと、その深い歴史がありそうな皺を歪ませながら、雷画さんが笑う。

俺はそれに対して静かに頷いた。

 

……必ず、このご恩はお返しさせていただきます

 

「試験まですこしあるから……それまでは家の仕事を手伝ってもらおう。心配するな。カチコミとかじゃなく、街の警備みたいなもんだ」

「はい、よろしくお願いします」

 

ちなみにこの言葉に全くの嘘はなかったが……俺は少々「街の警備」というものを甘く見ていたことを、後に知る。

 

戸籍に仕事、さらには住家まで……はっきりいって相当稼がないとこの恩は返せそうにないが……返せるように努力してみよう。

 

「話が終わったなら……他にもなんか作って!!!!」

 

空気を読んだのか……読んでなさそうだ、本能で察したのか大河がそう吼える。

しかしその無邪気さは裏表もない本物で……俺は思わず笑った。

 

「了解」

 

 

 

俺は苦笑しつつ、再び台所へと向かった。

 

 

 

こうして俺は、異世界の法治国家日本で、何とか生きる糧と術を得たのだった。

 

 

 

 

 

 




いかがでした!?!?!?

ひっさしぶりの投稿だぜい!
この導入部……というかステイナイトの世界での生きる糧と家を得る案は友人達が考えてくれました……。
物語よろしく多少ご都合は言ってますが……あまり強く突っ込まんといて……。

ふ……なんか最近自分の物語書いているのか、あいつらの物語を書いているのかわからなくなってきたぜ……
違うんだよ、感謝してるんだ。ただの……愚痴だよ……。自分のアイディアのなさを嘆いているのさ……

まぁそれはさておき~。
とりあえず刃夜君の状況はざっと説明しましたがいかがでしょう?
封龍剣【超絶一門】や、雷月、蒼月といった物体は持ってきてますよ~と言う感じのお話と相成りました~

今後ヒロインが誰になるとか、ルートはどこに行くかなどはお楽しみにしていただけると嬉しいです!

これは友人達と頑張って考えたものだからな、気合いを入れねば!!!!
皆様のご期待と、友人達のためにも頑張りまっす!

……もしも読者様で、ホロウアタラクシアのマップ移動の画像が載っているサイトなどをご存じの方はご一報下さい……

もう覚えてねえよ……




次回は、舞台の冬木市なる物がどのような場所かを説明します。

こうご期待!



あ、でも執筆速度は大して変わらないかも……



あっはっは~www



ハーメルンにて追記
誤字脱字などの修正などを行いました!
楽しんでいただければ幸いです
まぁ「にじファン」で掲載した後の話ってシナリオはできてても、新話ってほっとんどできてないんだけどねwwww


あはははははっはは!!!!www
もう笑うしかねぇwwww
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