「~~~と~~~」
ってタイトルが続いている
別に何とも思わないのだけれど、なんか続くといいのやらわるいのやら?
年内に第四部の前まであげます
四部は当然最後の戦いのところですねw
そこも見直してます
これはけっこう気合い入れて書いたので期待してもらえたらうれしいですw
でもその戦闘前のこの話……個人的に……スゲーめんどくさかった
かくのが辛かったですw
だって完全な説明だし
かくのもつまらなければ読むのもつまらないかも知れませんが、まぁ読んでやってくださいw
「士郎が倒れた?」
「えぇ。なんでかわからないけど、衛宮君の左の頬に黒い痣みたいな物が浮き出てきて。それで今眠っているわ」
衛宮家に帰ってきた俺を出迎えた遠坂凜からの言葉がそれだった。
今のこのタイミングで倒れるというのが、実に嫌なことしか想像出来ない。
桜ちゃんとなんか関係があると、 考えるのが妥当だろうか?
桜ちゃんが覚醒……覚醒と言うべきか少し悩むが……した後に倒れた。
さらに頬に黒い痣の様な物が浮き出てきているという遠坂凜の証言。
タイミングが少しずれているのが謎だが……無関係ということはなさそうだった。
「まぁそれはそれで問題なんだけど……後ろのランサーは何?」
まぁ気になるわな
俺の後ろにいるのは頭の後ろで両手を組みながら、呑気にあくびをしているランサー。
さすがに主がいる状況下で何もしないわけにはいかないのか、アーチャーが現界して双剣を手にしており、いつでも斬りかかれるよう警戒している。
ランサーは得物の槍を現界していないのに余裕の表情だった。
襲いかかられることはないとわかっているのか、それとも豪胆なのか謎だが……あるいは両方か?……特に恐れる様子もない。
「何って言われてもなぁ嬢ちゃん。敵対するつもりがあるのなら、こんなのこのこと敵陣に単身で、しかも無策で来たりしないさ。見ての通り丸腰だぜ? 歓迎は難しいだろうが、そんなに警戒してくれるなよ」
「……それは無理ね」
「それについては同意だが……というかランサー。こんな呑気なことしてていいのか?」
森での戦闘の様子と、ランサーの気配がどんどんと希薄になっていく様な感じを受けるので、おそらく契約を解除されているのは間違いない。
下手をすれば今にも消えてしまうかという状況下で、こいつは何故こんなにも余裕なのか?
「おっとそれもそうだな。丸腰でここに来たにも理由があってな。どうやら……マスターに捨てられちまったみたいでよ。すまねぇが誰か契約をしてくれないか?」
「はぁ!?」
あっけらかんと、とんでもないことをいうランサーにおもわず遠坂凜が驚きの声を上げる。
俺は先ほどの森での戦闘で半ば予想していたことなので、驚きはしなかったが……それでも契約が切れたことに対しての強い疑問が胸中に渦巻く。
何故この状況下で契約解除を?
黒い陰によって確かに聖杯戦争は混迷の一途をたどっている。
命惜しさに契約を解除することも十分に考えれる。
しかしそれだけでは納得できないことも事実。
特にランサーのマスターについては、おそらく聖杯戦争に関わっている存在で認識しているのはマスターのサーヴァントだったランサーだけだろう。
キャスターが知り得ている可能性もなきにしもあらずだが……魔力不足の関係上余り派手に動くことが出来なかったキャスターが、自らの命を危険にさらす様なことをするとは思えない。
一体何故? 臆病風に吹かれた様には思えないが……。それに今の台詞……すてられちまったみたい?
みたいという……自らの出来事であるにもかかわらず、他人事のようなその物言い。
これがひどく引っかかる。
まるで、マスターのことを覚えていないとでも言う様に……。
「みたい? それってどういうこと?」
当然、遠坂凜も同じことを疑問に思った様で、質問を投げかけていた。
その顔には先ほどよりも警戒心が薄れた様だが、逆にうさんくさそうに眉をひそめている。
自分自身もうさんくさいことがわかっているのだろう。
ランサーが溜め息混じりに事情を説明する。
「いや、信じられないだろうがな? 気がついたら契約が切れた状態でアインツベルンの嬢ちゃんの森の中にいたんだよ。何でか知らないが、契約していたはずのマスターの記憶が抜け落ちてた。そしたら森の方で、戦闘が始まった様子だったから行ってみたら、こいつが戦闘してたから加勢したって感じなんだ」
「……はぁ~~~?」
同意だ、遠坂凜
ランサーの言葉はあまりにもうさんくさかった。
というよりもそれ以外にどう表現すればいいのかもわからないほどだ。
気がついたら、マスターの記憶が抜けた状態で森にいて、戦闘音が聞こえたから現場に向かったなどと……一体誰が信じるのだろうか?
まぁしかし……嘘を言っている感じはしないが……
あまりにも嘘くさいうさんくさい話だが……嘘を言っている様には見られなかった。
余り接したことがないので、安易に判断するのは避けた方がいいのだが、それでもこいつの性格を、これまで態度から推し量るにそんな搦め手を好む様なタイプには思えなかった。
となれば考えられるのはサーヴァント側ではなく……マスター側の策略だろう。
令呪でも使ってどうにかしたのか?
考えられるのはこれだろう。
絶対の命令権を持つ令呪は、三度しか使えない変わりに魔法じみたことまで行使することが出来るという。
俺は実際に使ってたことがないので何とも言えないが、サーヴァントの記憶を消すことくらいは容易に行えるだろう。
が……
三回しか使えない令呪を、記憶喪失に使用して別の陣営に送り込む理由が……よくわからんが
しかも契約を解除してしまっては、何かしらの罠を仕掛けることも難しいのではないだろうか?
契約を結んでいるからこその令呪であるし、こちらの人間が新しく契約を結べば、こちらが令呪を使える。
契約できる人間がいるにも関わらず、手放す理由がわからない。
それとも契約が切れた状態で、何かしらの命令を下すことは可能なのだろうか?
たとえば……特定の条件下に陥ったときに、誰かを攻撃する様にし向ける等のことも、刷り込みのように行うことが出来るのかも知れない。
だが……
この状況下でえり好みはしてられない……か
ただでさえ最強と言っていいサーヴァントが、二体桜ちゃんの下に付いているのに、さらに最凶のサーヴァントと八人目のサーヴァントという、イレギュラーな存在まで手中に収めた。
もともと強大な上に黒い泥で更に強化されたサーヴァント相手は、正直厳しい物がある。
ならばこちらも使える物は貪欲に使うべきだろう。
「それを信じろって言うの?」
「いやぁ、俺自身もうさんくさいとは思ってんだが……事実なんだよ。信じちゃくれないか?」
「あんたは逆の立場だったら信じるわけ?」
「それはそうだな……相手によりけりってとこだな」
俺が一人で考察している間も遠坂凜とランサーの問答が繰り広げられていた。
考えなければいけないことだし、後回しにも出来ないのだが……こちらとしても余り余裕がない。
「そこまでにしろ遠坂凜。こんなことで時間を浪費している場合ではないだろう」
「あんたねぇ……連れてきた本人がなんでそう無責任なのよ?」
おっしゃるとおりで……
ぐうの音も出ないほどの反撃に、押し黙りそうになるが、これで黙る訳にもいかない。
下手をすればランサーが消える。
「その通りだが、しかし時間を無駄に出来ないのも事実だろう。とりあえず契約が切れているってことは、ランサーとしても本気を出すのは難しいだろう。ならそれでとりあえず様子見ってことにしないか?」
「様子見で敵かも知れないサーヴァントを中に入れろっての? あんた正気で言ってる?」
「正気だ。確かに危険かも知れないが、ぶっちゃけ黒い泥よりよほど危険度は低いだろう? なら利用できる物は利用した方がいい。特にランサーは三騎士だったか? 強力なサーヴァントの一角なんだろう? なら味方に引き入れるのは好都合じゃないか?」
「それはそうだけど……」
まだ渋る遠坂凜に、俺は最後の後押しとして……というよりも最初からこれを言っておけば良かった……イリヤの森での出来事を口にする。
「好都合……というよりも必須事項だ。バーサーカーがあの黒い泥に取り込まれてて……桜ちゃんの下僕になっていた」
「!? 何ですって!?」
「しかもおまけとして、なんか八人目のサーヴァントまで出てきたぞ。最悪なことに……黒く染まった状態で。おそらく桜ちゃんの手駒と考えていい状態の奴だ」
「!? 八人目って……どういうこと?」
「俺が聞きたいくらいだ。ランサーが黒い陰に取り込まれてないことは、状況的に間違いないが……状況は最悪と言っていい。だからここで押し問答している場合じゃない。対策を考えたい」
「……そうね、そんな場合じゃないみたいね」
最凶のサーヴァントが敵に回ったことは、正直言って頭が痛い。
というよりも状況は更に悪化している。
であるにもかかわらず、相手がここに攻めてこないのは何故なのか?
楽勝とはいかないだろうし、楽勝にさせるつもりはないが……十分に勝算はあるだろうに
桜ちゃんが攻めない様にしているのか、それとも間桐臓硯の意向なのかはわからないが、それでもここに攻めてこないのが少々不可思議だった。
イリヤを連れてきたにも関わらず、こうしてこちらに作戦会議を行うだけの時間を与える理由とは?
「どうしたの? 突っ立てないで速く中に入りなさいよ」
「……あぁ」
「いやちょっと待て」
それに異を唱えたのは、疑いをかけられているサーヴァントのランサーだった。
「中で話をするのはいいんだが……俺もそろそろ残りの魔力がやばい。誰か契約してくれないとこのまま消えちまう。あれだけ戦い甲斐のある相手がいるってのに、何もせずに消滅なんてごめん被るぞ?」
「……そうは言われてもね」
ランサーの言葉に、遠坂凜が微妙な表情をしながら……俺に目を向けてくる。
今すぐに契約を結ぶことが出来るマスターは、俺、イリヤとなる。
遠坂凜はアーチャーと契約しており、葛木先生は魔力生成が行えないので契約しても意味はない。
だが……契約を結ぶのも安易に行うことは出来ない。
多少なりとも魔力を消費することになるので、契約する方としても今後の作戦によっては最悪の事態にもなりかねない。
そしてみんなには悪いが……俺はランサーと契約をするつもりはなかった。
少しでも戦闘に障害が起こりえそうな物は、排除しておきたいからな
故に会議を行いたいのだが……ランサーが消えそうになっているのも事実だった。
……仕方がない
わがままを言う以上、俺としても何もしないのは余り気持ちのいい物ではない。
故に俺はランサーに近寄ると……なけなしの魔力をランサーへと注ぎ込んだ。
といっても何故か知らないが、魔力の回復が少し速くなっているので、そこまで深刻な問題にはならない。
原因はわからないが、歓迎すべきことなので今は考えない様にしていた。
「これで少しは持つか?」
「……お前、本当におかしな奴だな。魔力の譲渡を無機物ではなく、別の生命に分け与えるってのは高難度の技術だぞ? それをいとも簡単に……」
「まぁ似た様な力でよくやっているからな」
気力による身体能力強化に、武器の強化。
そして気を敵に流し込むことで、相手の身体能力を狂わせる技法も体得している。
気力と魔力の違いはあれど、そこまで難しいことはなかった。
というよりも
この程度のことが出来ることに不思議はなかった。
「とりあえず敵対する気はないんだろう? なら武器は現界せずに中に入って話をしよう。それと敵意も出すなよ?」
「わかってるって。俺も無意味に消えたくはないからな」
俺の言葉に苦笑しながら、ランサーがそう頷く。
遠坂凜も、さすがにここまでされては何も言えないのか、若しくは少しでも戦力が欲しいと思ったのか……苦虫を噛み潰したような微妙な表情をしながらも、先に中へと入っていく。
ランサーについては、罠という可能性はぬぐい去れないが、俺は直感……ただの勘かも知れないが……は、嘘を言っている様にも、何か令呪によって命令を受けている様にも感じられなかった。
おそらくだがな……
そしてこの直感が外れて欲しいと思っている俺がいた。
ランサーが敵に回るよりも面倒なことが起こりそうな予感がしていたからだ。
その予感が外れて欲しくて……といっても両方とも起こる可能性もあるわけだが……ランサーが敵に回っていればと思っている自分がいた。
はぁ……本当に息つく暇もないというか……
ため息しか出てこない。
が、この後の会議で、俺は更に溜め息を吐くことになった。
時間はすでに昼を回っていた。
そして私が座っている居間の食卓には、簡単だけど実においしそうな料理が並んでいた。
ランサーを連れて帰ってきた鉄刃夜が、突然料理をし始めたたときは、正直はったおしてやろうと思ったけど……調理中の匂いを嗅いで、不覚にもおなかを鳴らしてしまったので、黙って食卓で座ることにした。
そう言えば何も食べてなかったんだっけ……
桜の薬を調合している最中に、あの馬鹿が飛び出していったのを見て、私はライダーに掴まった。
それから朝から命の危機に瀕したり、士郎が倒れたりと言った状況だったため誰もまともに人間らしい生活をしていなかった。
食べられる存在……私、セイバー、イリヤ、葛木先生、ランサー、調理人の鉄刃夜……は、頂ますを言ってから、鉄刃夜が調理したご飯を食べている。
何でランサーまで食べているのかはわからないけど……
「ほぉ、料理うまいな坊主。短時間でこれだけの量と質の料理を作るなんてな」
「慣れだな。二年に近い時間を、料理人の店主として働いていたわけだしな」
ランサーが食事をするのを不思議に思っていないのか……といっても私もセイバーが食事をするのを知ってたから別段不思議ではないのだけれど……鉄刃夜はランサーにそう返している。
二年? この街以外でも料理人をしてたってことなのかしら?
私がこの異様な存在を認識したのは夏が始まるまえくらいだ。
概念武装の様な物騒な得物を、店先にぶら下げるのを見つけて驚いた物だった。
まぁ……もっと厄介な物だったみたいだけど……
壁に立てかけられている異様に長い太刀。
以前はただ血の様に赤い刀身がおかしいと思っただけだったけど、今はあまりにも禍々しい雰囲気を漂わせている。
まるで生きているかの様に……。
まぁ害はなさそうだけど……
気配は感じても、こちらにそれが向いていないのは何となくわかったので、私はとりあえず近づかない様にすることとした。
余り明るくない雰囲気の中で、皆が箸だけを黙々と動かす。
ただ空腹だったお腹が満たされることで、若干心の緊張なども回復することが出来た。
やっぱり食事って重要ね
まだ油断できる状況でも、弛緩して言い状況でもない。
けれどずっと張り詰めていてはいつか切れてしまう。
一息つけたのは、ある意味でちょうど良かったのかも知れない。
「で? 士郎の容態は?」
士郎の席に残された料理を見つつ、鉄刃夜がそう問うてくる。
食後のお茶を飲んでいる状況ではない。
食事も済ませたのだから今後の相談をしなければならない。
「正直お手上げね。どうしてあんな物が浮き出てきたのか、こっちが聞きたい位よ。けど痣が蠢くなんて普通じゃないのはわかりきってるし、タイミングから言っても桜が関係しているのは間違いなさそうね」
「それで容態としては?」
「ただ魘されているだけだからなんとも。ただ魔術的に調べても見たけど、害があるようには見受けられなかった。かといって放っておくのもアレなんだけど……」
「対策は思いつかないと……」
「えぇ」
タイミングと痣の蠢き。
桜が関係している様にしか思えなかった。
けれどもし仮に関係しているのだとしたら、あの痣は一体何が原因で起こっているのかわからない。
士郎が取り込まれるという状況も、想定しておくべきかも知れない。
「まぁ俺としても魔術的どうこうは正直わからん。士郎が回復するまで待つという選択肢はあり得ない。……イリヤ、わかったらでいいんだが教えてくれ。残りの時間的猶予は?」
「……後一日あるかないかというところね。サクラは心が強いからそう簡単には壊れないけど……それ以上は耐えられない。いくらサクラが頑張っても、もう
「「「「
この場にいるほとんどの存在が……葛木先生が完全に無表情のままで声も上げない……イリヤの言葉に、顔をしかめる。
「復讐者。聖杯戦争において第八のクラスで、アインツベルンがルールを破って召喚した反則。それが大聖杯の中を汚染した原因であり存在。自らでは外に出られないからサクラと同化して黒い陰を映していたものの本体。今も命を糧にカタチを得ようとしているあり得ない存在。それがアヴェンジャー。三度目の聖杯戦争でアインツベルンが召喚した……してしまった喚んではいけなかった反英雄」
いろいろと意味のわからない単語を言い出したイリヤ。
けれど、意味はわからなくとも……重要なことだけはよくわかった。
「あなた……知ってるの? あの黒い陰がなんなのか? 桜が何に取り憑かれているのか!?」
「えぇ。サクラから必要な情報は取り出したから、何が起きているのか理解できた。私がやるべきこと……そしてシロウ達が敵と見なしているのかが何であるのか」
呟く様にイリヤはそう言い、一度目を閉じる。
その目を閉じた表情はどこか諦めたかの様に見えた。
けれど何かその諦めにも何か違和感を覚える。
まるでイリヤであってイリヤでない様な……そんな感じが。
小さく息を吐いてからイリヤは瞳を開けて……周りにいる私たちに挑む様な目を向けてくる。
「これは私たちの核心。けれどあなたたちが背負うべき物じゃない。この場にいる人たちには聖杯戦争に関わった者として、ただ事実だけを伝えます」
「……イリヤ?」
私は雰囲気が一変したイリヤを呆然と見つめる。
まるで別人の様な静けさと空虚さを併せ持っているようで……どこか曖昧だった。
「始まりは二百年前。正しくはもっと昔だけど、この地で聖杯戦争の儀式が始まったのは二百年前から。聖杯……あらゆる願いを叶える願望機。聖杯の完成のために、アインツベルンとマキリ、そして遠坂は協力して聖杯を召喚するための儀式を行った。これが聖杯戦争の発端。七人の英霊を召喚しての聖杯の所有権の奪い合い。聖杯によってマスターが選ばれ、英霊の依り代として最後の一人になるまで戦う。これが表向きの決まり事」
表向き……ねぇ?
突然雰囲気が一変した……というかその気配の異様さに正直戦々恐々としているのだが……イリヤのその言葉。
俺はそれを鼻で笑いそうになるのをこらえる。
別段イリヤを馬鹿にしたわけではない。
その程度のことを見抜けないほど間抜けではないのだ。
それは遠坂凜も同じようで、イリヤに対して非常に微妙な表情を向けている。
「驚かないのね? やっぱり、ジンヤも凜も気付いていたの?」
「それなりにはね。誰かに利用されてるのは、直ぐに気付いたけど余り気にしなかった。人様が作った儀式を利用して、成果を戴こうとしているのだからね。利用する、されるのはお互い様だわ」
「そう。なら順番が逆なんていう説明も、しなくていいかしら? ジンヤは? 本当はサーヴァントを戦わせるなんて過程そのものが意味ないって気付いてた?」
「一応な」
聖杯によって呼び出される
聖杯を得るのにふさわしい人間かどうか、その選定のために英霊は召喚される。
召喚された
それだけならばまだ納得できる。
だが、倒された
であるにも関わらず、用をなくしたはずの
「聖杯戦争にとって必要なのは
「そう。聖杯戦争においてマスターは、
……いかん、ちょっと意味がわからなくなってきた
術ばある程度使えるが、俺の技量は本当に素人に毛が生えた程度。
更に言えば俺の世界とは違う術だ。
余り難しい話になると、ついて行けなくなるかも知れない。
が、話の腰を折るのも悪いので、本当にわからなくなったら質問することとした。
「三家はその力を必要とした。その力で、外界に出ようと考えた。この地に聖杯が作られた本当の理由。人の手では届かない奇跡、未だ人間ができない現象を手に入れる目的で、この地で聖杯戦争が行われてきた。それはアインツベルンから失われたと言われる神秘。真に不老不死を実現させる大儀式。英霊でも聖杯でもない。小さな人間において、肉体の死後に消え去り還る、この世から失われる運命の『魂』を物質化する神の業」
……日本語を
「その奇跡の名前を
「ま……魔法ですって!?」
イリヤの台詞を聞いた遠坂凜が驚きの声を上げる。
遠坂凜だけでなく、他の連中も驚いているのが多かった。
それはこの場にいたほとんどの存在を驚かせるほどの衝撃的なもののようだ。
魔法って……魔法だよなぁ?
魔法。
通常不可能な結果や現象を実現するもの。
日本においては、アンデルセンやグリム童話が輸入されてことによって、「魔法使い」という存在が日本に根付いたため、その印象などが根底にあるとされている。
が、それはあくまでも俺の世界の話であって……並行世界だとどう違うんだ?
俺は知らないことだが、この世界における魔法というのは魔術では到達出来ない神秘、あらゆる手段を用いても実現不可能な現象のことだという。
魔術協会において認定されている魔法は五つ。
魔法の内容と魔法の使い手については、魔術協会に属していない者には、知ることも難しいという。
魔法は、魔術師にとっての最終目標であり、実現し習得した者は、魔術師全てから羨望と畏怖の意味を込められて、『魔法使い』と称されるという。
当然この知識は俺が知るよしもない物であり、俺がこの知識を得るのは本当に当分先の話になる。
「ちょ、ちょっと待って! 第三魔法って魂の物質化なの!? でもそれならサーヴァントは? あれも立派な第三魔法じゃ?」
「違うわ。確かに英霊召喚の基盤は第三魔法を利用してる。でも英霊は降霊よ。サーヴァントはこの地に、この時代の者として生きている訳じゃない。第三魔法じゃないわ。そもそも英霊なら、魔法の力がなくても依り代があれば実体化できるわ」
イリヤの言葉は続く。
「
少しだけ意味がわかったな
魂という精神体はそれ単体では物質に干渉できない。
俺は余り得意ではないが、術符等の道具を用いて使用することも出来るが、それはあくまでも肉体ありきの話だ。
しかし今の話を聞くのであれば、「魂」という存在だけで物質に関与できる存在を作り出そうとしている魔法のようだ。
「つ、次のステップって……確かにとんでもないことね。でもイリヤ? 内容に違いはあっても魔法って全て根源に至るための道でしょ? なんでそれが聖杯戦争と関係があるのよ? そもそも魔法を起動できる様な管理地は日本に一つだけ。冬木の霊脈だって一級品だって自負しているわ。けれど根源に至るほどの歪みはないわよ」
「そう、届くほど歪んでない。だから穴を開けるの。道につなげるために自分たちで壁を壊す。その壁を壊すという行為が聖杯戦争。壁を壊す過程で「どんな願いでも叶えられるほどの魔力」がたまる。でもそれはアインツベルンにとって副産物でしかない。他のマスターを呼び寄せるための宣伝でしかない」
どんな物にもうまい話は裏があるってことか……
確かに武器だけ見ても、相当な魔力を有しているサーヴァントという存在。
実際に見てみなければ何とも言えないが、全ての魂を取り込んだ聖杯ならば、確かに大概のことはどうにか出来そうな気がする。
だが、これで確信が持てた。
……間違いなく、聖杯では帰ることが出来ないな
俺にとっての世界の外と、今話題に出ている外というのが同一の物かは謎だが、同一でなくてもこの世界から出ることすら出来ないのならば、聖杯に望みを託しても無駄だとわかる。
……となるとどうやったら帰れるんだ?
「アインツベルンが必要としたのは魔術協会の目に付かず、大量の魔力を貯蔵できる巨大な魔法陣。時の遠坂の当主も協力した。協会の目が届きにくいこの国で、一等地はほとんど残ってない。アインツベルンにとって冬木の町は、必要条件を完璧に近い状態で満たしている理想的な実験場だった。後はもうわかるわよね? 聖杯戦争を司る聖杯は二種類。この土地に眠る聖杯と、アインツベルンが用意する聖杯。前者が遠坂の管理地を使った魔法陣で、これを大聖杯と呼んでいる。アインルベルンが毎回聖杯戦争に鍵として用意するものが、聖杯と呼ばれているわ」
二種類の聖杯?
ここに来てわからないことが増えていく。
だがもしかしたら、大元である大聖杯を使用すれば、帰ることが出来るのかも知れない。
「大聖杯は聖杯戦争のシステム管理のためのもの。聖杯は敗れていった英霊の魂を回収すして、大聖杯を動かすための炉心になるの。そうやって大聖杯の機動に必要な分の魂が聖杯に溜めて、『外部』からマレビトである英霊の魂を利用して穴を開ける。役目を終えた英霊が元の『座』に戻るときに生じる、わずかな穴を大聖杯の力で固定して、人のみでは届かない根源への道を開く。もちろんこれははじめの一歩にすぎないわ。穴を開けただけでは欲している物は手に入らない。根源への道は遠い。でも聖杯を手にした者は無尽蔵の魔力を手に入れることが出来る。外にはまだ誰にも使われていない、この地上とは比べることも出来ないほど膨大な
「なるほど……。つまり大聖杯という大元の魔法陣があって、聖杯はそれを起動させるための鍵なのね。聖杯戦争が六十年周期なのは、英霊を召喚するために必要な魔力を溜めるためなのね。英霊を召喚するだけの召喚術が、個人の魔力で行使出来るわけがない。大聖杯は六十年という時間をかけて土地に満ちる
イリヤの説明がわかっているらしい遠坂凜はしきりに頷いている。
俺もある程度は理解できているが……正直魔術がらみになるとやはりわからないことの方が多かった。
六十年周期というのも、今知ったことだ。
だが、第四次聖杯戦争というのは確か十年前の話だったと思ったが……そこら辺は一体何が原因なのだろうか?
「魔力が溜まった時に、英霊を召喚してサーヴァントにするの。けど英霊もただで召喚に応じている訳じゃない。だから聖杯を用意して、望みを叶えることが出来るという代償を用意した。でもそれは欺瞞でしかない。アインツベルンが欲しているのは英霊の魂だけ。霊格なんてどうでもいいの。ただ強大な魂が欲しかっただけ。それを隠すために聖杯戦争なんて表向きのルールを作って、マスターとサーヴァントをだました。でもこの表向きのルールも二度目の儀式かららしいわ。一度目は馬鹿正直に英霊を召喚して、御三家で独占権の取り合いになって、儀式はあっという間に失敗したわ」
「ふざけた話ね。私たちを虚仮にした上に利用しようだなんて」
聖杯戦争の真実を知って、キャスターが憤慨した表情を浮かべつつそんなことを言っている。
利用されるためだけに呼び出されたと知ったのだからそれも当然だろう。
ランサーもキャスターほどではないにしろ、憮然とした表情を浮かべている。
「そ……それが真実なのですか?」
そしてもっともダメージを受けているのがセイバーだった。
目を見開き、おもわずといったように、のばした手もわずかに震えている。
セイバーも何かしらの願いを持っていたはずだ。
それが根底から覆されたのだから、それも当然なのかも知れない。
しかし今は時間が惜しいのか、それともイリヤであってイリヤでないためか……セイバーに構わず、話を続けた。
「だから聖杯戦争というルールが出来たのは二回目の儀式から。外来の魔術師をマスターとして呼び寄せて、それぞれの聖杯を目的にして殺し合いをさせる。自分たち以外のマスターは、サーヴァントさえ呼んでもらえれば邪魔だし、戦いの中で死んでもらえれば効率もいいし面倒がないわ。御三家からしてみれば、自分たち以外の協力者を合法的に始末できるから、都合が良かったのね」
「ってことはあれか? マスター同士で殺し合うというルールは、所有権が誰になるのか話し合いで決められなかったから、勝者が所有権を主張できるという力づくでの決め事ってことなのか?」
話し合いでは御三家が自らが所有権を主張するため話がまとまらない。
かといって目の前にぶら下げられた極上の餌を前にして、黙ってみていることなんて出来る訳もない。
だからこそ、相手を蹴落として欲しい物を手に入れるという物騒とも野蛮とも言える方法になったのだろう。
だが……悲しいことだが……
それがもっとも手っ取り早く、そして反論できない理由になる
「そういうことね。けれどこの殺し合いという選定方法は思いの外いい方法だったわ。凜やジンヤみたいに、だまされていると気付いているマスターやサーヴァントもいたけど、どうでもよかったのよ。だって最後の一人になれば聖杯が手にはいるのは本当のことなんだから」
「……なるほどね」
イリヤの説明に遠坂凜は納得した様子だった。
ほかのこの場にいる面子も、どうやら思うところはあれど今の説明でわからないところはなかったらしく、特に質問などは出てこなかった。
だが、今聖杯戦争の発端というよりも、ここに至るまでの過程に興味はない。
もっとも重要なことがまだ話されていない。
「イリヤ。さっき言っていた
「ゾウケンが手に入れようとしている物。サクラを変貌させている物。聖杯の中に潜んでて、無色で純粋な力の英霊たちの
「第三魔法の成功例になりつつあるって……どういうこと?」
魔法という物がよほどすごいことなのか、さきほどから遠坂凜の魔法という単語に対する反応がすごい。
魔術師ではない俺としてはどうでもいいのだが……先ほどの復讐者という存在が第三魔法に絡んでいる以上、黙って聞くしかないだろう。
「
つまり、
「事の発端は三度目の聖杯戦争での戦いで。一度目は失敗し、二度目では序盤で敗れ去ったアインツベルンは、追い詰められて唯殺すことだけに特化した英霊を召喚した。アインツベルンが手に入れた古い経典、異国の伝承を媒介に、手の内にある中で最悪の魔を喚びだしてしまった。その英霊はアンリマユ。世界最多とも言える、あらゆる呪いを体現した殺戮の反英雄」
アンリマユ?
イリヤの言葉から出てきた英雄の名前を、以前調べて脳みそに叩き込んだ知識から検索する。
しかし該当はなかった。
というよりもへたをすれば、この世界と俺の世界では違う存在かも知れない。
もっとも俺の世界のアンリマユって存在も詳しくは知らないがな
「アンリマユって……古代ペルシャの悪魔の名前でしょう? どうして聖杯がそんな物喚べるの? 聖杯は英霊しか喚べないし仮に呼び出せたとしても、神霊レベルの現象を召喚できるならそもそも聖杯なんて必要ないでしょう? いえ、そもそもアンリマユの名を冠する英雄なんていないわよね? 一体、アインツベルンは何を召喚したの?」
「だから言ってるでしょう?
拝火教というのは……ゾロアスター教だったか?
古代ペルシアを起源の地とする善悪二元論的な宗教だったと記憶している。
だがあいにくとその程度しか俺の知識はなかった。
「村人達の教義がどう歪んでいたのかはわからないわ。どうしてその考えに至ったのかもね。ただ彼らは教義に背くことなく、清く正しく生きていた。人間は善を尊び、光を守って守られて、正しく生きた。貧しくて、外界から隔離されていた彼らにとっては、その祈りは絶対のものだった。そうなりえることが、人間以下であった彼らを人間たらしめた唯一の誇りだったのかも知れない」
「その集落の人たちは、本当に望んでいた。世界中のみんなが平和であることを。人間全てが下らない悪性から解き放たれて、清く正しく生きられるようにって。飢餓とか殺戮とか愛憎とか……予め人に付属された機能の全てを否定して、自分たちは神に祝福されるにふさわしい存在だって、生き物だっていう誇りを持ち続けた」
「けれどそれは不可能なこと。人間は清く正しく生きてるだけで、悪性から解き放たれることなんてない。悪とは元からあるもの。それを切り離したいのなら、何かしら行動をするしかない」
……嫌な予感しかしないな
人間の悪性というのは、仕事柄嫌になるほど見せつけられてきた。
他者を痛めつけ、弱者を嬲り、苦しめる。
何度あの光景を見てきただろう。
人が人を……傷つける光景を。
……今はいい
今はそんなことを気にしていることは出来ない。
俺は誰にも気付かれない様に小さく息を吐き捨てて……イリヤの言葉に耳を傾けた。
「彼らは自分たちの狭い世界だけじゃなくって、人間全てを救える手段を考えた。このその人間全てに善行を取らせることは不可能に近いわ。けれど逆……人間全ての善行を証明することは出来るって……。たった一人……」
「たった一人の人間にこの世の悪を内包させれば、残った人はどう頑張っても悪事を行うことができない。たった一人の人間が全ての悪を持っているのだから、他の人が持っているわけがない……そんな子供じみた単純なことを、彼らは本気で信じた」
「そうして一人の青年が生け贄として選ばれた。彼らは青年を捕らえて、その体に人を呪う言葉を刻んだ。彼らが知りうる限りの全ての罪業を与えて、全ての悪事を彼の責任とする。これで終わり。狭い世界だけど、完成された一つの世界に、究極の悪が誕生した」
生け贄か……
生贄。
本来は神への供物として、生きた動物を供えることを言う。
供えて殺すか、殺してから与えるか、もしくは神域……神社内部……で飼う場合などがある。
が、他にも弱者が強者に見逃してもらうために、見返りとして捧げる場合などがある。
相手が神であったら妖怪だったりと様々だが、共通しているのは、生贄を捧げることで他の人間などが、その強者などに見逃してもらえるための行為だと認識している。
だが、今回の話はどう考えても違った。
「彼らは心から生贄を憎んだ。呪った。恐れた。でも奉りもしたの。自分たちは清くて正しい。あそこにこの世の全ての罪悪があるのだから、自分たちは何をしても善なる者であるのだと。彼らは嘘でも冗談でもなく、世界中の人間のためになると考えて、一人の悪魔を作り上げたの。世界中の人々の善性を証明するために。一人の青年を発狂するまで殺し続けた。寿命が尽きるまで殺しはしなかったわ。人間を堕落させる悪魔の名前。アンリマユの名前を押しつけられた青年は、世界中の人間の敵として、理不尽に殺されて、憎まれていた」
自分たちのためという意味では一緒だが、根本がいろいろと歪んでいる。
自らの命を助けるために、妖怪などに生贄を捧げる行為を肯定するわけではないが……この行為はどう考えて狂っている。
だが話しぶりからすれば、おそらくこの話は事実起こったことなのだろう。
「結果として青年が悪魔になったのかはわからないわ。ただ村落中の人間が彼を悪魔だと信じて、そのように接したわ。憎みながらも恐れて……世界中の人間の善性を証明してくれる『救いの証』をして奉っていたの」
「忌み嫌われる存在でありながら、人々を救う。その存在がいるおかげで、人々がどんなに悪事を重ねても、それは悪事にはならない。方法は違ったけれど、青年は人々を救った。村人達にとっては、青年は間違いなく英雄だった」
「人々に憎まれて恨まれて、自分なんていなくなってしまった。世界中の人間の代わりに悪を体現する生贄。それが反英雄アンリマユ。『この世全ての悪』という存在となってしまった、何の取り柄もないただの普通の青年。拝火教において、六十億の悪全てを容認する悪魔の王様。その体現者として奉られ葬られた、原初に人が想念で作り上げた『願い』という名の呪い」
ただただ淡々と、感情もなにも込められず紡がれた、一人の反英雄の物語。
全ての人間の悪を体現するという英霊。
そいつがどんな思いを抱きながら死に絶えたのかは想像に難くない。
英霊として召喚されたらそれこそバーサーカーに劣らないほど狂っていてもおかしくはない。
しかし、気になる点がある。
仮に英霊としてサーヴァントで召喚されたとして……何故あんな化け物に?
サーヴァントは生前の能力が基礎になるはずだ。
しかし今の英雄の話を聞く限りでは、どう考えてもそいつは一般人でしかないはずだ。
下手をすれば魔術が使える分だけ士郎の方が強いだろう。
あんな黒い陰の様な怪物になる理由がわからない。
「アンリマユ……ね。
同じ疑問を遠坂凜がぶつける。
他の誰もが思っている疑問。
それについても、イリヤは淡々と言葉を紡ぐ。
「そうね、青年はただの青年だった。この世を、人を恨んでいた。この世から、人から憎まれて悪であれと望まれた存在。何の力もなく、周りの人間の想いだけで構成された存在。それが聖杯に取り込まれたことによって、全てが逆転したの」
「聖杯は人の望みをかなえる願望機。サーヴァントは敗れた後、ただの純粋な魔力として聖杯に戻って解放される瞬間を待つ。人格もなくなった万能の力として聖杯に溜まるだけ。けどアンリマユは違ったわ。彼は自分ではなく周りが願うことで生まれた、作り上げられた英雄。人格なんてなくても、アンリマユとして存在しているだけで、悪であれと望まれる存在」
「聖杯はあらゆる願いを叶える器。ただの人間であり、性別も人格もなく、人でさえないソレは、人間の願いそのもの。アンリマユが聖杯に取り込まれた瞬間。聖杯は一つの願いを受諾した」
ここまで説明されて、全員が同じ結論を導き出した。
誰もが驚愕に目を剥き、そして同時に顔を歪める。
黒い陰の正体を、理解して。
「本来はあり得ない存在。身勝手な願いでねつ造された英霊は、願いを叶える願望機、聖杯の中でようやく望んだ姿で生まれることになったの。二千年以上続いた、神代から人々に願われてきた『人間の理想』」
聖杯は人の願いを叶える物。
通常はサーヴァントとマスターの願いを叶えるための存在。
その願いを受諾するには意思が必要となる。
だが、敗れたサーヴァントは純粋な力となるため、その敗れたサーヴァントの願いを叶えることはない。
だが、アンリマユは……
逆なのだ。
自らの意思ではなく、人々によって悪であれと願われた存在。
願う対象が自分ではなく、周りの……世界中の全ての人間。
願望機に願いを訴えるのは自己ではなく世界そのもの。
故に、その世界の……周りの人間達の『悪であれ』という願いを願望機は受諾した。
「それがあの黒い陰の本体で、英霊としてようやく望まれた姿になろうとしてるモノの正体。アンリマユはサーヴァント達の無色の魔力を糧に、自分の霊殻の『この世の全ての悪』を体現した。世界中の人間全てを呪う、世界中全ての人間を呪える
……天災レベルの話だな
人災の方が正しいかも知れない。
天災は自然環境そのものにも影響を及ぼすが、黒い陰は人にしか影響を及ぼさないだろう。
となると天災というのはおかしい。
が、人災にしては規模が違いすぎる。
どちらにしろ怪物であることに代わりはない。
人限定だがな
「じゃあなに? 聖杯の中身はとっくにその
「そういうことね。キリツグがアンリマユをどこまで理解していたのかはわからない。けれど聖杯の外に出ようとした黒い陰が危険だと言うことはわかったのね。だから聖杯を壊そうとした。間違いなく正しい判断よ。以前のアンリマユは無害だけど、聖杯によって受肉するアンリマユは本物。その命ある限り、人間を殺すだけの魔王になるわ」
「けれどアンリマユはキリツグの聖杯破壊で聖杯に残された。その一部を受けたのがコトミネとサクラ。ゾウケンは聖杯の中身に気付いたみたいね。その肉片をサクラに植え付けた。それによって聖杯の中のサーヴァントとリンクした。聖杯の中にいるサーヴァントが外に出てきたときに、ソレを従えるためのマスターとして、サクラを利用した。アンリマユがなんであっても、サーヴァントに代わりはないの。だからマスターに逆らうことは難しい。ゾウケンの目的はそのマスターとしての権限」
と、なると、桜ちゃんはアヴェンジャーというサーヴァントと契約していることになるな
一つ、非常に気になる単語があったが……今はとりあえず救わなければいけない存在のことを優先する。
「正気なのあの爺。アンリマユのコントロールは確かに握れるかも知れないけど、桜がアンリマユの力に耐えられるわけがない。アンリマユが聖杯の中にいるにもかかわらずあそこまで変わったのなら、出てきたら桜の人格なんて残るわけがない。そうなったらマスターなんてどうしようもないでしょう?」
「それでいいのよ。だってゾウケンは人の肉体を乗っ取ることが出来るのだから。ゾウケンは自分の魂の容れ物の
サーヴァントとの契約を解除する方法がなければどうにもならない……その手段があるのか?
「ゾウケンがわたしを攫った理由はそれ。門を開かせるためにわたしを使いたかったの。聖杯の役割をわたしが行って、サクラはアンリマユのマスターとして利用し、自分がなる。そうしてゆくゆくは第三魔法の成功例、魂が物質化した架空の怪物のアンリマユに乗り換える。完全な神を、自らの欲望で不完全な神に堕落させるように」
話は終わりなのだろう。
イリヤはそれ以上言葉を続けようとはしなかった。
そしてイリヤの沈黙は、これからの作戦を行うための会議へ、そのまま移行することになった。
「相手の正体がわかり、臓硯の目的も判明したのなら……今の話を聞いた以上、私たちがやることは決まってるわね」
皆の思いを代弁する様に、遠坂凜がそう言う。
誰もがまだ納得していない部分はあるだろう。
だが今のまま放置しておけば、人災が世界中の人を殺すために生まれる。
それを肯定する存在は……この場にはいなかった。
それぞれ敵を倒す理由は違う。
だがそれでも敵ではないことだけは確かだった。
しかも相手は果てしなく強大だ。
ならば……協力しないわけには行かなかった。
全員の意思が一応統一されたことを確認し、遠坂凜は更に言葉を続けた。
「敵は強大だわ。混じりっけ無しの冗談抜きの怪物よ。聖杯も私たちが考えていた物とは全く違う物だった。だからここは協力してどうにか切り抜けないと、全てが終わるわ」
今の遠坂凜の言葉に異を唱える奴はいなかった。
そして、皆の意思を再度確認して、遠坂凜は宣言した。
「あの妖怪爺の思惑を完膚無きまでにたたきつぶすわよ」
これが聖杯戦争を終焉へと導く最初の言葉となった。
第三部最後の一話はそう遠くないうちにあげます