月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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あけましたね、おめでとうございます!
今年もよろしくしてくれたらうれしいです!



ゲームとかでよくある

ラスボス前の怒濤の連続ボスラッシュ!

みたいな状況ですね
まぁそうなるのも当然なのですが

ここからの話は気合い入れて書きましたので、感想とかくれたら超うれしいです!
いや、割とまじめに

楽しんでくれたらうれしいです~



決戦
開戦


夜半となった時間に、複数人数の男女が静まりかえった住宅街を静かに歩いていた。

 

 

一人は雪の精霊の様な容姿の少女。

 

しかしその表情に浮かぶのは全くの無。

 

何も写さず、何も感じられない。

 

その容姿と相まって、美しい人形の様だった。

 

そんな人形の様に美しい少女が手にしているのは、小さな袋。

 

何が納められているのかはわからないが、莫大な魔力を有している何かだった。

 

 

一人は雪の精霊の様な少女より少し成長した、金紗の髪をもつ白磁の肌を持つ少女。

 

この少女も同じく人形の様な美しさだった。

 

白い妖精の様な少女と同じく、手に小さな球状にふくらんでいる袋を手にしている。

 

またそれとは別に、腰に短剣サイズの得物を、下げていた。

 

 

一人は赤いコートを身に纏い、その手には短剣サイズの長さの得物を手にしている少女。

 

両サイドに結んだ髪を夜風にゆらしながら、ただ静かに……歩を進めている。

 

手にしたその奇怪な形の得物を強く握りしめて。

 

 

一人は無手の少年で薄手の上着を纏い、その左の頬に黒い痣のような物があった。

 

何も持たないその両手が、力強く握られていた。

 

まるで、何もないはずのその両手に……何か大切な物を掴んでいる様に。

 

 

 

二人の少年と少女には共通した物があった。

 

その二つの眼に……苛烈なまでの意思と覚悟が秘められていた。

 

 

 

そして最後列にいるのは、二人の男。

 

 

一人はスーツに身を包み、全く色のない瞳を眼鏡が反射させている男。

 

完全に無表情であり、無感情でありながら……どこか近寄りがたい不気味な何かを感じさせている。

 

 

そして最後に……一番異様なのは一人の男だった。

 

長い、長い湾曲した棒を……超野太刀を右手に持って肩に乗せている。

 

左右の腰に帯びるのは、いくつかの打刀で、それらを帯で固定している。

 

後ろの腰に短刀。

 

背中に黒いシースを身につけている。

 

そしてその顔に……実に不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

しかしその笑みを一行は見ていない。

 

最後尾の男の笑みを見ているのは……この場にいながらも姿がない者達だった。

 

 

深夜にただならぬ雰囲気と覚悟を持ち合わせた一行は、はっきり言って不気味であり、異様だった。

だがそれも見るべき者がいない夜半であり、また一連の事件で人が少なくなっているこの状況下で、見とがめられることはなかった。

そして一行は柳洞寺の山門へと続く参道の入り口にたどり着き、足を止めた。

 

「なんか、階段の上……柳洞寺の裏に異様な力場っぽいのが作られている感じがするな?」

 

超野太刀を手に持つ男……刃夜が独り言のように呟く。

しかし眉がひそめられていた。

自分でいいながらも、違和感を覚えたのかも知れない。

 

「柳洞寺に用はないわ。上で作られているのは表向き……つまり聖杯を欲しがっているマスターのためのものでしかないわ。私たちが行くのは大聖杯だから、こっちに道があるわ」

 

刃夜の言葉にそう返して、雪の精霊の様な少女……イリヤは、参道をのぼり始めた。

そして参道には行って周りからの視界が遮られたことで、霊体化していた英霊達が現界する。

赤銅色の肌を、赤い衣に身を包み白い髪を後ろに流しているアーチャー。

正反対に、真っ青な戦装束に身を包んだ長躯の男……ランサーは、身に纏った衣装とは正反対の血の様な赤い槍を携えている。

ローブを身に纏い、フードで顔を隠した魔術師のキャスター。

そして最後に……目元を拘束具で完全に覆った、地に着くほどにのばした長髪を風にたなびかせるライダー。

聖杯戦争に参加しているほぼ全ての人員が、今一つの目的に向かって……歩を進めている。

やがて参道の階段中腹にさしかかって、魔術師であるキャスターが宙を舞い、そのキャスターのマスターである葛木宗一郎が、一行から離れて参道を上り始める。

 

「では、私と宗一郎様は上で魔力の吸い上げを邪魔してくるわ」

「了解。それで邪魔できるどうかは謎だがよろしく頼んだ。一応そっちに行くことはないと思うが、最悪の場合は全速力で逃げてくれ。呑み込まれて敵になるってのは勘弁だ」

 

同盟者の刃夜からのその返しに、キャスターは実に不愉快そうに、顔を歪める。

 

「こちらこそそんなことごめん被るわよ。あのお嬢さんがどれだけの魔術師かはわからないけど、大元は間違いなく下だから、余り期待はしないでほしいわね」

 

そう言い残して、キャスターは宙を舞い自らのマスターを守護する様に、少し後ろについて、二人は参道を上っていく。

その後ろ姿を確認し……刃夜達も、足を動かした。

参道を外れて森の中へと入っていく。

階段を外れたことで、柳洞寺に張られた結界が霊体……サーヴァント達に負荷をかける。

 

「アーチャー、大丈夫そう?」

「ふむ……。多少の重圧は感じるし、今この場で戦闘になれば通常通り動けないだろう。だがそこまで大きな問題にはならないだろう」

「しかしどうかな。こっちに影響はあるが、あっちは黒い泥でなんかしたのか受肉していやがった。下手をすればここで襲ってくることもあるかも知れねぇ。用心だけは怠るな」

 

手にした槍を肩に乗せているが、そう言うランサーの瞳は鋭く細められて、周囲を見渡していた。

そう、黒い泥に呑み込まれたその黒い陰の膨大な魔力によって受肉……つまり肉体を得ているため、サーヴァントでありながら霊体ではなくなっていた。

サーヴァント(英霊)であることに代わりはないが、生身を得た人間とも言えるべき存在だ。

柳洞寺の結界は自然霊以外を排除しようとする結界。

そのため、今この場で襲われたら圧倒的に不利な状況になってしまう。

が……

 

「桜ちゃんを馬鹿にする訳じゃないが、たぶんないな」

「? どういうことさ刃夜?」

「あの子はある程度の知識はあるようだが、経験値が圧倒的に足りてない。実戦のな。またあの妖怪爺の教育がまともじゃないのは確かだから、下手をするとここの結界のことも知らないんじゃないか? 妖怪爺が仕掛けてくる可能性もあり得るが……虫の気配すらも感じられない。挑戦される側として余裕の態度ってところじゃないか?」

 

肩をすくめ、溜め息を吐きながら刃夜はそう呟いた。

実際周りには最強の存在たるサーヴァントが幾人もいるにもかかわらず、誰も異常を検知していなかった。

しかし油断は出来ないので、一行は慎重に歩を進めていた。

木々をかき分け、夜の山を歩く。

獣道すらもないため、非常に歩きにくい。

だがやがて小川が流れている場所へとたどり着いた。

その小川の上流に、岩が密集しているところがあった。

 

「あそこが大聖杯へと通じる道になっているわ。大した魔術もないはずよ。ゾウケンが追加でなにもしていなければって前置きがつくけど」

「見た感じなさそうだな。まぁ念のため、俺から行こう」

 

マスターであるイリヤの言葉の罠に警戒しつつ、ランサーが中へと入っていく。

ランサーに一行は続いた。

水に濡れている地面は急激な角度で下へと続いている。

下手をすれば足を滑らせて、滑り台の要領で滑り落ちてしまうかも知れない。

光もなく、ただ足音だけが響いていく。

下へと下っていることも相まって、まるで自ら地獄の底へと向かっていっている様な錯覚すらも、覚えてしまいそうなほどの暗闇だった。

そしてその暗闇に……充満した魔力が漂っている。

視覚化できてしまうほどの魔力が、垂れ流されている。

あまりにも生々しいその生命力(マナ)は、決して心地いい物ではなく、むしろ不快感を催すほどの汚物に思えた。

 

誕生しようとしているもの片鱗を、わずかにでも感じ取れた……そんな魔力だった。

 

「……」

 

誰も口を開こうとはしなかった。

静かに下へと下り……百メートルは下ったのではないかというところまで下って、暗闇は一行を迎え入れた。

一人しか進めないほど狭かった通路が開き、さらに奥へと続いている。

不思議なことに、灯りは必要がなかった。

光苔の一種のようなものが洞窟に張り付いているのか、うすぼんやりと洞窟を照らしている。

 

「……行きましょう。油断だけは各自しない様に」

 

凜の言葉に逆らうことなく、一行は歩を進める。

広くなったと行っても、一行が横一列になるほどの広さは当然無く、また危険なため、二人一組となって奥へと進んでいく。

ランサーはイリヤを。

アーチャーは凜を。

ライダーはセイバーを。

そして刃夜は士郎を。

歩んだ。

そのとき……

 

「ん?」

 

最後尾にいる刃夜が、不思議そうな声を漏らした。

そしてその視線の先にはいくつもの足跡が刻まれた地面を見つめている。

 

「? どうしたのさ刃夜?」

「……何でもない」

 

急に足を止めた刃夜に、士郎が声をかける。

刃夜は声をかけられても険しい表情で地面を見つめていたが、直ぐに目を閉じて首を軽く振って、足を動かした。

刃夜が見ていた地面をそれとなくみる士郎だったが、足跡以外に何も見あたらなかった。

 

やがて一行は……開けた空間へと足を踏み入れた。

 

大きく開けたその空洞。

広さはわからない。

僅かな光では、暗闇の先を見ることが出来ないからだ。

また高さも、闇に霞んで見えない。

まるで暗闇に呑み込まれてしまったかのようだった。

生命の気配は一切なかった。

いるはずがない。

 

いれるはずがない。

 

 

 

何せそこには……最凶の存在が、いたのだから。

 

 

 

赤黒く染まった巨体。

全身を黒い陰の泥に浸食されたその姿は、あまりにも禍々しい。

以前から狂化されているため、獰猛で強大な気配を漂わせていたが、ここまで来ればただの暴力そのものだった。

手にしたその岩剣は、凶暴さをそのまま体現しているかの様だった。

 

バーサーカー。

 

黒き巨人兵が、この先へは生かさない(・・・・・)と、そう言っているようだった。

 

「いきなりこいつか。また損な役回りなことだ」

 

圧倒的な敵意と暴力。

それらを受けているのも関わらず、いつものようにランサーはそうつぶやき……その表情を一瞬で戦士のそれへと変貌させる。

そして大地を蹴り……黒き巨人兵へと突進した。

 

「そぉら!」

 

最速のサーヴァントたるランサーの突進。

その突進から更に腕の力で加速された紅の槍の刺突。

それは死の閃きに他ならなかった。

音を軽々超えそうなほどのその閃きを、黒き巨人兵はその巨大な岩剣を盾にして防ぐ。

 

 

 

!!!!

 

 

 

硬質な物がぶつかり合った、高い金属音。

それが死地へと赴いた刃夜達の開戦の合図となった。

 

「いけ!」

 

戦端を開いたランサーが、黒き巨人兵と斬り結びながらそう叫ぶ。

ただ一言そう叫ぶだけでも命がけだった。

故に返す言葉を誰も持たず、ただ武運だけを祈って、先へと進んだ。

その場にはイリヤだけが残り……戦いを見守っている。

 

 

 

 

 

 

「仕方がないとはいえ……ほんとうに一人で良かったのか?」

 

前へと走りながら、士郎はぽつりとそんなことを呟いている。

ランサーが一人で大丈夫なのかという不安はあった。

元々最凶だった存在が、さらに黒い陰の泥によって強化されているのだ。

この場にいる誰もが、ランサーと戦っているためその実力は十分に理解していたが、それでも不安は残った。

だが

 

「俺の予想通りであったとしても、数はほぼ互角の状態だ。これ以上一つの戦闘に人員を割くことはできん。それにイリヤの説明を聞いて、秘策もすでに渡している。何とかなるだろう」

 

刃夜の言うとおり、人員を割くことは難しいことはすでに難しいと結論が出ていた。

何せ時間がないのだ。

アンリマユが誕生するまでどれだけの時間があるかは謎だが、そう時間がないことだけは事実。

故に、刃夜達は自分たちと相性がよい、ないし、戦わなければいけない敵と戦い、残りのメンバーは先へと進むと、作戦会議にて早々に決めたのだから。

だがそれでも士郎が言いたくなってしまう気持ちは、誰もが理解していた。

作戦会議にて明かされたバーサーカーの宝具。

その宝具ははっきり言って桁違いの性能を秘めていた。

英雄として謳われた英霊(サーヴァント)達が、驚愕するほどに。

だが、その宝具についても何とか出来る秘策がこちらにはあった。

その秘策をすでに渡すべく存在に渡している。

 

「これ以上の心配はランサーに対する侮辱だぞ、士郎」

「けど……」

「士郎。あんたは人の心配をしている場合じゃ――」

 

自分にも役割があるというのに、他人の心配……それも一度自分を殺した存在であるランサー……をしている士郎に対して、凜が叱責しようとしたのだが、眼前に現れた新たな敵の出現によって強制的に口を封じられた。

 

身に纏う鎧は赤い筋がいくつも走る、重装な漆黒の鎧。

 

輝く様な金紗の髪も、その輝きを失いくすんでしまっている。

 

唯一露出した、首周りと頬の肌は、死人の様に青白かった。

 

鎧と同じように赤い筋がいくつも入った漆黒の仮面をつけているため、その表情をうかがい知ることは出来ない。

 

だがその気配が……身に纏う鎧よりも重い絶対的な殺気が、如実にその存在の感情を表していた。

 

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)

 

先に戦闘に入った、最凶の存在と同じく、聖杯戦争において最強といって差し支えないのない、絶対的な存在が、立ちはだかった。

淡い緑の光と、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の青白い死人の肌が相まって……あまりにも幽鬼的だった。

そして、互いに相手を認識した瞬間に……問答無用で黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が襲いかかってくる。

淡い緑の光の色に照らされた黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が迫る。

 

!!!!

 

迫ったと同時に振るわれた醜い漆黒に染まってしまった魔剣は、進路上に阻まれる様に出現した、長い鉄鎖がからみつくことで、強引に止められる。

そして絡まったのを利用して、鎖の持ち主……ライダーが、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)を強引に横へと退かせ、残りの者達の道を強引に造り出した。

 

「……私の出番のようですね」

 

長い鉄鎖に繫がれた鉄の杭を両手に持ち、その鎖を自在に操るライダーが、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)と相対すべく、一歩前に出る。

ライダーに追随する様に、セイバーも前へと躍り出た。

自らの半身とも言える存在を見つめながら。

 

「辛いだろうけど、頼んだぞライダー」

「任せたわよ」

 

刃夜はライダーを見ることもなく、ただ無防備に背中を向けて進むだけだった。

凜は警戒しつつ、ライダーに言葉を残していく。

 

「ライダー、セイバー……気をつけて……」

 

士郎は……自らの契約者であるセイバーにも声をかけて先へと進む。

自らの失態で大事な相棒だったセイバーを、こんな状況に陥らせてしまった負い目を感じながら。

去っていく一行の背中を感じつつ……ライダーはちらりと、少しだけその背中に意識を向けた。

 

……これほど無防備な背中にしなくとも

 

後ろから黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が、ライダーを突破して斬りかかってくることも十分にあり得るというのに、刃夜のその背中にはまるで警戒という物が感じられなかった。

それだけライダーを信頼しているということなのだろうか?

しかしそれでも……あまりに無防備すぎた。

極論を言えば……ライダーが裏切って襲いかかってくることすらも、考えていないと言う様に……。

 

 

 

……なるほど。そういうことですか

 

 

 

考えていないと言うよりも、言っているのだ。

容赦なく襲ってこいと。

その無防備な背中を晒すことが、刃夜のライダーに対する信頼と贖罪の形だった。

士郎と桜を助けるために共同戦線を結んだ。

しかし最終的には、自分にとって大切な存在を取るとも言っていた。

だがそれでも刃夜自身が納得していなかったのかも知れない。

また、膿を出し切るためにわざと覚醒させた負い目も、感じていたのかも知れない。

ライダーが桜を大事にしていることは、士郎が桜を殺そうとした時に、桜にとって大事な士郎を殺そうとしてまで……主に確実に嫌われることがわかっていながら……守ろうとしたライダーの覚悟で、刃夜は十分に理解していた。

だからこその、この背中だった。

 

信じていると。

 

そして信じて欲しいと。

 

そう言っている様だった。

 

 

 

……本当に、おもしろい人ですね

 

 

 

クスリと……ライダーはこれから始まる死闘を前にして、おもわず小さく微笑んでしまった。

不器用と言えなくもなかった。

自分のことを優先すると言いながら、なんだかんだで何とか守れないかと……自分にとっての大切な存在達を守れないかと、奮闘しているその姿。

そして、言葉ではなく態度で示すその不器用さが、ライダーにはほほえましく思えた。

 

……これが……私の半身

 

戦闘能力がないために、ライダーの後ろにいるセイバーには、ライダーが今微笑んでいることに気付いていなかった。

仮に視界に入っていたとしても、注意を払うことはなかっただろう。

自らの半身……純粋な戦闘能力のみを体現した、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)しか、今のセイバーには見えなかった。

己自身……理性と切り離された力そのもの。

絶大的な力を持っていたことに、自信と誇りを持っていた。

セイバーが生きていた時代は、まさに戦乱の世であったため、必要な力だった。

そしてなによりも王として……他者よりもより強者としての自分が必要だった。

その力を……黒く汚れてしまった己の力を、セイバーは今見つめていた。

 

そして同じように、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)も、セイバーのことを見つめている様だった。

 

意思がないと思えるほど、感情を発さない黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が。

その仮面の下にあるはずの瞳には……何が写っているのだろうか?

 

「さて……それでは手筈通りに行きます。タイミングを逃さぬ様にしてください」

 

ライダーがそうつぶやき、総身に力を宿す。

そのライダーの変化を察して、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)もその剣を握る手に力を込めた。

そして……ライダーが目を覆っている拘束具に手をかけて、その魔眼を解放した。

 

セイバーは魔眼除けの特性を所持していなかった。

三騎士のセイバーとして、名に恥じぬ魔力量を持っていたセイバーを、完全に石化することは出来ない。

黒い陰の泥によって強化され、絶対的な魔力を有している黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)相手では、なおさらだった。

だが、重圧をかけることで、動きを鈍らせるには十分だった。

 

そして拘束具が消えさり、そのライダーの視線が黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)を捉えたと同時に……ライダーの姿がかき消える。

 

!!!!

 

消えると同時に、凄まじいほどの金属音が、辺りの空気を震わせた。

縦横無尽にライダーが地を駆け、それ以上にのたうつ鉄鎖の蛇。

その鉄鎖を切り払い、穿ち、押しのけて……黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)がライダーを斬り殺そうと疾走する。

 

……タイミングを逸さぬ様に

 

その戦いを、セイバーはただ見ていることしかできない。

戦闘能力を失った今のセイバーには、戦いを目で追うことすらも難しい。

タイミングを逃さない様に、注意を払うことしかできない。

それぞれの手に……それぞれ持つべき物を握りしめながら。

 

 

 

 

 

 

「どうやら本当に、あんたのいうとおりみたいね」

 

後ろから響く剣戟の音を聞きながら、先へと進む凜がそう呟いた。

あんた……刃夜の言うとおりとは、サーヴァントの陣形に他ならなかった。

サーヴァントが控えている順番まではさすがにわからなかったが、それでも桜の配下にいるサーヴァントが、こちらの戦力とぎりぎり拮抗できるだけの数しかいないことを指していた。

実際に八人目のサーヴァント……ギルガメッシュとはべつに新たなサーヴァントを従えているのだとしたら、さすがにこの場に配置しないのはいくら何でもあり得ないからだ。

確かに桜は戦闘に置いては素人ではある。

だが、この局面が最終局面であると理解できないのは、もはや素人ではなく愚か者でしかない。

そして桜は愚か者では断じてなかった。

 

つまり、ことここまできて予想以上の数のサーヴァントがいないということは、刃夜が予想した通りにしか、サーヴァントがいないということ。

 

 

 

そして……

 

 

 

「みた――」

 

凜の言葉に言葉を返そうとした刃夜の言葉は、一行が足を止めたことで止まった。

止められた。

 

 

 

一人、静かに佇んでいた……侍によって。

 

 

 

刃夜の予想通りであり、そして望むべく相手が……姿を現す。

 

紺色の陣羽織に、長くも美しい長髪を頭の後ろで一つにまとめ、長大な太刀を帯びて耽美であった姿は……見る影もなかった。

他のサーヴァント同様に、黒い陰の泥によって浸食したのは疑いようもなく……その肌も死人の様に青白い。

 

しかしその佇まいも、瞳に宿したあまりにも鋭い意思も、何一つ揺るがずその場にあった。

 

「……小次郎」

 

刃夜がそう呟いて……前に躍り出た。

だがまだ得物を抜くことはしなかった。

相手も……黒く染まった小次郎も、得物を鞘に収めて肩にかけたままだったからだ。

その小次郎が正面を向けて佇んでいた左足を一歩後ろに引き、何の殺意も漂わせずに左手を自らの後ろへと向ける。

 

「刃夜以外は行くがいい。私が用があるのは刃夜のみ。故に刃夜がこの場に残るというのであれば、他は先へと進がよい」

 

変わっているのは、その姿を見れば明白だというのに、立ち居振る舞いも、その声も仕草も……何一つ変わっていなかった。

だがはっきりと……明確に変わっている箇所が一つだけあった。

その瞳……。

刃夜へと向けられているその視線には、はっきりとした完全なる殺意が宿っていた。

 

「やっこさんは予想通り……そして俺と同じように、俺がお望みの様だ……。先に行ってくれ」

 

足を止めた皆から一歩小次郎へと踏み出しながら、刃夜はそう告げる。

そして刃夜も……小次郎に対して確かに殺意を孕んだ瞳で、小次郎を睨み付ける。

二人は互いに見つめ合う。

静かに、静かに。

 

「任せたけど、あれだけ大口叩いたんだから、責任取りなさいよね」

「頼む、刃夜」

 

そんな二人に凜は何を思ったのか、半ば呆れた様に溜め息を一つ吐き、嫌味の一つを残して先へと進む。

そして士郎は、懇願と若干の羨望を込めた瞳を、刃夜へと向けて先へと進んだ。

 

そんな目をしなくても……死ぬつもりはないぞ、士郎

 

桜を救うために刃夜の力が必要だからこそ、死んで欲しくないと懇願し、自分ではどうすることもできない……そんな自分の力のなさに、少しだけ羨望が宿ったのだ。

そんなある意味でまっすぐすぎる士郎に対して、刃夜は内心で苦笑するしかなかった。

 

すっかりと、人間らしくなってきた様でなによりだ……

 

以前の、自らの意思がありながら、自分という存在が完全に抜け落ちているような違和感はなく、士郎は実に人間らしく……俗物的に男らしくなっていた。

 

己にとって大切な女を助けに行くために……いろんな力を借りて。

 

その人から助けを借りると言うことに、若干の罪悪感を感じているのかも知れない。

 

そのちぐはぐさと、じつに「慣れていない」感じが、好ましく思えた。

 

それでも手を借りなければ、自分にとって大切な存在は救えない。

 

だから士郎は罪悪感を覚えながらも、刃夜を置いて先へと進んでいった。

 

自らの女のために……。

 

 

 

男は女に狂い、女は男に狂う……ん? 狂ってはいないか?

 

 

 

狂っていたのがさらに狂って、回り回って正常に戻ったと言えるのかも知れない。

 

実に興味深い状況と言えた。

 

 

 

まぁ俺について言えば……罪悪感を覚える必要性は全くないんだが……

 

 

 

刃夜は完全に自らの都合で動いている。

 

無論桜を助けたいという気持ちはある。

 

士郎を手助けしたいという気持ちもある。

 

この並行世界で知り合った……大切な人たちを助けたいとも願っている。

 

そして刃夜も当然死ぬつもりはなかった。

 

弱者をいたぶる強者を、弱者を吸い尽くす様にしゃぶった外道を、何人も殺してきた。

 

しかし例え極悪非道のクズであったとしても、人を殺したことに代わりはなく、刃夜に恨みを抱いている人間は大勢いる。

 

恨みを受けることを……やらなければいけないとして、幾人もの親しい人たちを捨ててきた。

 

そしてこの並行世界にやってきた。

 

再び自分の世界でないことに落胆しつつも、自分の世界に戻るために手段を探した。

 

その間に……多くの人間と知り合い、そしてその人たちがとても大切な存在となった。

 

 

 

守らないといけないよな……

 

 

 

この並行世界にきて知り合った、大切な人たちのために。

 

そして人間に成ろうとしている士郎のために、力になるといった自分自身のけじめをつけるために。

 

刃夜は死ぬわけにはいかなかった。

 

 

 

死ぬわけにもいかないし、当然死にたくもない……。だが……

 

 

 

だがそれらの大切な感情は、この場所……この瞬間において、刃夜の中から綺麗に消えた。

 

否、その感情を覆い隠し、覆いつぶすほどの純粋な感情が……刃夜を支配していたのだから。

 

しかし直ぐに動かない。

 

二人はただ……静かに互いを見つめていた。

 

胸の内に濁流とも言えるほど渦巻いた、醜く純粋な思いを……ともに抱きながら。

 

 

 

 

 

「本当にあいつにも困ったものね……」

 

それが刃夜とわかれた凜の、正直な思いだった。

ぼそりと独り言の様に呟いたその言葉を、士郎は聞き取り口を開こうとしたのだが……言葉が何も思い浮かばなかったのか、開いた口から出てくるのは吐息のみで、言葉は出てこなかった。

というよりも正直、士郎も同じような気持ちだったからだ。

 

刃夜……

 

自分と同世代の人間であるにもかかわらず、サーヴァントと生身で互角に渡り合うことの出来る、あり得ない存在。

あまりに長い野太刀を平然と振るい、バーサーカーとも斬り結んだ存在。

そして……聖杯によって生まれ出でようとしている化け物を、何とか出来ると断言した。

同じ人間であるのかと、正直時々疑いたくなるほどの存在であり、自分たちにとって重要な戦力であるのは間違いないのだが……先ほどの戦闘の会議において、刃夜は絶対に譲らないことがあった。

それこそ……邪魔をしようものならその邪魔者を斬り捨ててでも、自らの望みを実行するといわんばかりに。

実際、本気で邪魔をしようとすれば、刃夜は容赦なく斬り捨てているだろう。

 

といっても不殺の戒めがあるため、斬り捨てるといっても殺すことはないのだが。

 

 

 

『姿は見ていないが、今まで黒い陰に呑み込まれた存在が、桜ちゃんの配下になっている以上、間違いなくあいつも敵としているはずだ。あいつとは例え何があろうとも、俺は差しでやらせてもらう』

 

 

 

真っ先に自らの力の全容を明かした刃夜は、同時に自らの欲望を真っ先に述べていた。

必要なことでもあったが、例え必要でなかったとしても、刃夜は強行しただろう。

その気持ちは士郎にもわかりかねた。

 

「今の状況下で一斉にたたきのめせば、あの化け物だってそこそこ簡単に倒せるのに。言っちゃ悪いけど、あいつが敵の中で一番最弱なのよ? 全く……状況がわかっているのかしら」

 

更に凜がぶつぶつと、非常に不機嫌そうに文句を垂れ流している。

実際その通りといえた。

というよりも、刃夜とアーチャーがこちらに控えている時点で、二人がかりで挑めばそう時間をかけずに小次郎は殺すことが出来た。

何せ小次郎にはあの野太刀以外に、攻撃する手段はないのだから。

故に刃夜が前衛として攻撃を行い、アーチャーが後衛で弓矢による攻撃を行えばそれで簡単に終わる。

しかし……刃夜はそれを言葉にするのすら躊躇わせるほどの、強固な意志を持っていた。

 

だが、刃夜の気持ちを理解することが出来る者は誰もいないだろう。

 

何せ刃夜にとって小次郎とは……

 

 

 

「そこで止まれ……。雑種共」

 

 

 

言葉そのものに、従わなければいけないと思わせるほどの圧倒的な王気(オーラ)が乗った声が、士郎と凜、そして凜を守る様に走っていたアーチャーの動きを止める。

その視線の先……大きな岩の上に尊大に立ち、淡い緑の光しか光源のないはずのこの空洞の中で置いてなお、錯覚するほどのまばゆい何かを放っている存在が、そこにいた。

全身を金と黒に染められた鎧を身に纏う、八人目のサーヴァント。

あり得ない存在が、こうして三人の前に立ちはだかった。

 

八人目のサーヴァント。

 

黒い陰の闇に呑まれてなお、揺るがぬ意思を持った存在。

自らの意思力で、自らを保っているとおもわず納得させられてしまうほどに、その存在からは圧倒的な存在感が放たれていた。

 

「こいつが……」

「八人目のサーヴァント」

 

刃夜に八人目のサーヴァントの存在を教えられてはいたが、それでも実際に目にしなければ信じられなかった。

信じたくなかったのだ。

自分たちが知らない、八人目のサーヴァントが存在していたことに。

この状況において、更に強敵が増えて喜ぶ奴がいるはずがない。

そして八人目のサーヴァントが、あまりにも強大な何かを秘めていることを、ただ相対しただけでわかってしまった。

八人目のサーヴァントは何もせずただその場にいるだけだ。

その場にいるだけのはずだというのに……あまりにも強烈な気配を放っている。

 

 

 

「ふん。貴様らのようなくだらん雑種ごときに、我が拝謁の栄誉を与えるなど、本来ありえんことなのだがな。それも……薄汚い贋作屋(フェイカー)相手になぞなおのこと」

 

 

 

贋作屋(フェイカー)

 

聞いたこともない単語が相手から放たれて、士郎は思わず頭に疑問符を浮かべる。

凜はそのあまりにも傲岸不遜な態度と物言いに、思わずカチンときたらしく、不愉快そうに顔を歪める。

アーチャーは、現れた八人目のサーヴァントの言葉に何の反応も示さずに……ただ静かに戦闘するために、自らの魔術回路を起動させた。

そのアーチャーの行動を一目で見抜いたのか……八人目のサーヴァントは実に不愉快そうに眉をひそめた。

 

「この俺を前にしてなお、膝を折らぬ不遜者どもめが。実に不愉快だ。貴様らも。天に仰ぎ見るべきこの俺を、飲み干し使役しよう(・・・・・)とした小娘も」

 

苛立たしげに声を荒げる八人目のサーヴァント。

だが、直ぐにその怒りも霧散し……実につまらなさそうに、溜め息を吐いた。

その溜め息は……果たして誰に向けられた物なのか?

 

「まぁよい。これも余興よ。――愉しまなくては意味もない」

 

余興だって?

 

八人目のサーヴァントの言葉に、士郎は思わず怒りを覚えた。

何をさして余興といっているのかはわからない。

だがそれでも、それが今のこの状況を……この聖杯戦争の状況を言っているのだとしたら、士郎にとっては怒りしかわいてこない。

その士郎の怒りを少しでも感じ取ったのか、八人目のサーヴァントがわずかに眉を潜ませ……士郎を見た。

そして再度溜め息を吐く。

今度の溜め息は、明らかな侮蔑が混じっていた。

 

「ふん、下らぬ。こんなことのために我が動くなど、本来あり得んことだが……。まぁよい。そこの小娘」

「? 私?」

 

警戒しつつ、何とか先に進めないか画策していた凜は、突然八人目のサーヴァントに呼ばれ思わず素で驚いてしまった。

その凜の反応がおもしろかったのか、八人目のサーヴァントは少し愉快げに笑い、顎で後方……つまり桜がいる場所へと進めと促した。

 

「あの生意気な小娘の命令よ。お前は先へと向かうがいい」

「!? それって」

 

小娘の命令という言葉と、先へ向かうという言葉。

その言葉に三人が等しく驚いた。

それがどういう意味なのか、考えるまでもなく……凜は、直ぐに冷静になった。

 

「……そう、本気なのね、桜」

 

そう小さく無感情に呟いて……凜はアーチャーより前に進んだ。

 

その歩みを止めたいと、士郎は思わず声を上げそうになった。

だがそれをすることはできなかった。

その前に、凜が首だけで後ろに振り返り……士郎を見たからだ。

 

「ちょっと予想外だけど、呼ばれているって言うのなら断る理由もないし先に行くわ。士郎。あんたがどうなるか私はわからないけど、私は信頼しているんだから、期待に応えなさいよね」

「遠坂……?」

 

凜の言葉に、意味がわからず、士郎の頭は全く働かなかった。

それもそうだろう。

何を持ってして信頼しているのか?

期待しているのかまるでわからない言葉だったのだから。

凜も思いが通じていないことは理解しているのだろう。

この薄暗い中でもわかるほどに頬を赤らめながら、鼻を鳴らしてこういった。

 

「全部終わった後に文句を言われても迷惑だってことよ! いいから、さっさときなさい!」

 

髪をなびかせながらそう吠えて、凜は誰よりも先に奥へと……桜の下へと向かっていった。

そんな言葉を投げかけられて……そんな素直じゃない凜の背中を見て、士郎はより一層気合いと覚悟を固めた。

凜が今言った言葉の意味を理解して、そうならないはずがなかった。

 

さっさとこい。

 

その言葉がどういう意味で言われたのか直ぐに理解できたからだ。

 

 

 

サンキュ、遠坂。気合い入った

 

 

 

自分が桜を止めていることが出来る内に、さっさと桜を助けにこいと……。

遠坂の人間として、桜を殺すと言っておきながら、そんなことを言っているのだ。

それがどんな思いで紡がれた言葉なのか、さすがの士郎にもわかった。

だからこそ……士郎はここで足止めを喰らっているわけにはいかなかった。

 

「この我が許したのは、王たるこの我の横を通りすぎることのみ。誰が口を開いて良いと言った?」

 

その二人のやりとりを見ていた八人目のサーヴァントが、実に苛立たしげに声を上げる。

その苛立ちに呼応する様に八人目のサーヴァントの背後……左右の宙に一つずつ陽炎の様な穴が空く。

淡い緑色の光しかなかった空間に、突如として黒と金に彩られた光の穴が空いた。

尊大であり、どこか禍々しいその穴より飛び出すのは……その穴よりもよりまばゆくも禍々しいいくつもの武器であった。

その武器を見て、士郎は絶句した。

咄嗟に構造を理解しようとしてしまい……そのあまりに精緻な構造に目を剥いたのだ。

 

何だ……アレは!?

 

同じく、アーチャーも驚きに目を見張っているが……そこは歴戦の勇士ともいえる存在、サーヴァントであった。

驚きこそすれど、それで思考を鈍らせる様なことなどなかった。

その武器が……膨大な魔力を有する、間違いなく宝具と断定できる得物が、何を狙っているのか瞬時に理解した。

そしてすぐさま投影を行い、弓と矢を投影し、瞬時に連射した。

 

!!!!

 

同時と思えるほど間断なく響いたその音で、士郎はようやく意識を戻した。

そして理解する。

今アーチャーが妨害していなければ、凜が殺されていたということに。

アーチャーの妨害行動に、八人目のサーヴァントはゆっくりと、その顔をアーチャーへと向ける。

 

「誰の許しを得て我の宝物を撃つ? 薄汚い贋作屋(フェイカー)ごときが」

「……」

 

アーチャーは何も答えない。

ただ再び矢を射貫かんとすべく、その右手に矢を投影し、番えて穂先を八人目のサーヴァントへと向ける。

 

「お前……どういうつもりだ!?」

「発言を許した覚えはないぞ……雑種」

 

士郎の怒鳴り声に、不愉快そうに……実に不愉快そうに八人目のサーヴァントは眉をひそめて、再度背後の空間に穴を開いた。

その穴よりのぞいた得物もまた、あり得ないほどの魔力を有した宝具。

これですでに三つ。

八人目のサーヴァントがもつ財の全体から見れば砂粒にも見たぬ程の数ではあるが、士郎達は八人目のサーヴァント……ギルガメッシュの正体を知らぬため、その宝具の数と使い捨てるかの様な扱い方に、更なる驚きを隠せなかった。

 

そして再び放たれる……宝具の攻撃。

 

その攻撃は実に正確に士郎の顔を狙っていた。

 

呆然としていた士郎へと放たれる、宝具の一撃。

 

その一撃に士郎は反応することこそ出来たものの、驚いていたために即応することが出来なかった。

 

致命的たる隙を狙って放たれた一撃を……

 

 

 

!!!!

 

 

 

弓から干将莫耶に得物を持ち替えたアーチャーが、迎撃した。

 

「アーチャー!」

「たわけ。驚いている場合か、構えろ」

 

吐き捨てる様にアーチャーが士郎を叱咤した。

その言葉でようやく自分が助けられたことに気付き、士郎は苛立ちながらもアーチャーの言葉に素直に従った。

 

同調開始(トレースオン)

 

魔術回路を起動させ、士郎は自らの得物を……アーチャーと同じく干将莫耶を投影する。

しかし、士郎が投影した干将莫耶は、先ほど土蔵で投影した時同様に、黒い筋がいくつも奔っていた。

目の前のアーチャーの投影を見ながら投影したにも関わらず。

しかし疑問を抱いている場合ではなかった。

自分が為さなければいけないこと、そして為したいと思っていることのために、こんなところで足を止めている訳にはいかないのだから。

 

待ってろ……桜!

 

驚きで何の反応すらも出来なかった己に叱咤して、士郎は両手に持つ干将莫耶を構えた。

そして、その覚悟を決めた決意を秘めたその瞳を、ギルガメッシュへと向ける。

相手を見ているために、士郎は気付かなかった。

アーチャーが目を細めながらわずかに、士郎が投影した干将莫耶を見ていたことに……。

 

「ふん。余興にもならんかもしれんがまぁよい。こい、雑種に贋作屋(フェイカー)。貴様らの様な有象無象の者を相手してやるのも、たまには悪くなかろう。来るがいい。こんな気まぐれ、後にも先にも一度きりよ」

 

皮肉そうに、可笑しそうに、ギルガメッシュが笑う。

その皮肉めいた笑みは、相手である士郎とアーチャーに実に不快感を与えている。

そしてその言葉と同時に出現した……ギルガメッシュの背後の宙に、数えるのもばかばかしい程の、無数の陽炎の様な穴が空く。

 

そしてその陽炎の様な黒と金に輝く穴には……先ほどと同様に、宝具が姿をのぞかせていた。

 

背後の宙に空いた、無数の穴全てに。

 

無数の宝具に、さすがのアーチャーも驚きに目を見開く。

 

士郎はただただ、あり得ない光景に驚くことしかできなかった。

 

「では行くぞ、雑種に贋作屋(フェイカー)。存分に我を楽しませろ? それが貴様ら贋作屋(フェイカー)に対する、王たる我の決定だ」

 

言い終えると同時に右手を前へと突き出す。

その右手に従う様に、顕れた無数の宝具達が一斉に刃先を二人に向ける。

そして……その刃が宙を疾走する。

 

!!!!

 

無数の宝具が地へと着弾し、凄まじいほどの轟音が、辺りの空気と地面をゆらした。

 

 

 

 

 

 

単身となった凜は、用心深く周りに注意しながら、急いで先へと進んでいた。

すでにここは敵陣の真っ直中。

それも中枢部。

何が仕掛けられていても、全く不思議ではない。

何せあいては老獪そのものといっていい狡猾な間桐臓硯。

故に、何かしらの罠があると考えてしかるべきだった。

だが……

 

何もないっていうのは……どういうことなのかしらね?

 

暗闇に進む道を見渡しても、それらしい罠はまるでなかった。

優秀といってもまだ若い凜が見抜けない罠も当然あるのが、正真正銘、いまこの凜が進む道には罠というものがなかった。

 

どうして……

 

不思議に思いつつ、何もないことそのものが罠かと疑いつつも、進まないわけにはいかない。

故に凜は急ぎつつも、直ぐに対応できる様に身構えながら、先へと進む。

そして本当に何もないことを確信しつつある中で……ある推論が凜の中で成立した。

だがその推論を結論づける前に……凜はその場へと到着した。

 

ここが地の底であると忘れさせてしまうほどの、広大な空間。

 

果てのない天蓋と、黒い太陽。

 

これほどの広大な空間はもはや空洞でも洞窟でもなく……荒涼な大地といって何ら差し支えなかった。

 

数㎞はありそうな広大な空間に……壁のごとき巨大な一枚岩があった。

 

その先が戦いの始まりにして終着点。

 

崖となっている一枚岩を昇れば、その先はすり鉢状になっており、その中心部に二百年間稼働し続けたシステムがある。

 

大聖杯と呼ばれる、巨大な魔法陣を腹に収めている、巨大な岩。

 

その岩が、黒い巨大な炎の柱を燃え上がらせていた。

 

脈動する、黒い影。

 

荒野を照らしている黒い炎は、中に内包されている存在から漏れ出た魔力の波。

 

最中に至る中心。

 

円冠回廊、心臓世界テンノサカズキ。

 

それが始まりの祭壇の異名だった。

 

 

 

想像を絶するほどの魔力を孕んだソレは……異名に恥じない『異界』を、この場に創り上げていた。

 

 

 

「アレが……アンリマユ。この世全ての悪ってのは、誇張でも何でもなく、本当のことなのね」

 

軽口を叩きつつ、凜は祭壇へと向かう。

残してきた仲間達のことも気にかかったが、この状況を見れば自分の状況も楽観視できる状況ではない。

大聖杯に満たされている無尽蔵とも言える魔力は、もはやすでに人の領分を超えている。

その膨大さはすでに『無尽』といって何ら差し支えないほどの魔力の渦。

これほどの魔力を持って行使された望みならば、それこそあらゆる願いを可能とするだろう。

 

「これをどうにか出来るって……あいつ、本気で言っているの?」

 

あまりの異様さに、思わずそんな愚痴の様な言葉をもらす。

何せ凜が圧力で思わず気圧されてしまうほどの膨大な魔力だ。

これを目の当たりにして、これをどうこう出来るという考えすら浮かばない。

あまりにも圧倒的な力の差。

正直今にも心が折れそうだった。

だが……ある意味で推論が正しければ、凜にも勝機があった。

この場に至ってもなお、臓硯が何も仕掛けてこない。

それどころか虫すらもいない。

祭壇に向かう最短距離の直線。

その途中で何も仕掛けてこないと言うこと……それはつまり……

 

 

 

 

 

 

「嬉しい……。きてくれたんですね、遠坂先輩。てっきり逃げちゃうと思ってました」

 

 

 

 

 

 

推論が現実となって、凜の前に現れた。

祭壇へと続く坂道。

すり鉢状になっている丘の最頂部。

黒い太陽を背にして、間桐桜()は、遠坂凜()を歓迎した。

 

「――っ」

 

桜の変貌したその姿と感じられる重圧に、凜はわずかに足を後退させる。

桜の変貌具合は、凜の予想をいろいろな意味で超えていた。

もしかしたら壊れているかも知れないと思った。

だから一番厄介なのは、間桐臓硯だと考えていた。

桜は凜の予想が正しければ、事後処理にすぎないはずだった。

 

だがその予想は大きく外れ、最悪の敵となって凜の前に立ちはだかる。

 

アンリマユは、人間の空想を形づけられ、その空想という願いを受肉する影でしかない。

だが、その影に力を与えているのが、寄り代である桜だった。

『この世全ての悪』という呪いを、聖杯の中よりあふれ出せ、指向性を持たせる存在。

 

「綺礼がいたら……神の代行者とかほざくんでしょうね……」

 

無尽蔵の魔力を有し、絶対者となった桜を見上げながら、凜は手にした得物……宝石剣を解放した。

巨大な宝石を削りだし、刀身としたかの様な短剣だった。

刀身としたといっても、刃の様な物はついていない。

故にその剣は、鈍器にもならないような、実に中途半端な物だった。

だが宝石剣はただの物質ではなく魔術礼装。

魔術礼装には大きく分けて二系統ある。

一つは増幅機能。

魔術師の魔力を補填、増幅し、魔術師本人が行う魔術を強化するための予備。

もっとも普及しているオーソドックスな補助礼装であり、魔術師ならば一つは保有している魔術品である。

凜の宝石がこれと同じ系統となる。

もう一つが限定機能。

武装そのものが一つの魔術となる、特殊な魔術品。

魔術師の魔力を動力源として起動し、定められた魔術……神秘を執行する。

用途は限定されてしまうが、魔力さえ流せば使用者が再現することができない魔術でも執行することが出来るというのが、最大の特徴である。

単一の用途故に、込められた魔術が絶大となっている。

放てば必ず心臓を穿つ槍。

あらゆる魔術効果を初期化する短刀。

聖獣すらも使役することができる手綱。

サーヴァントが持つ宝具は、大体がこの限定機能を有した魔術礼装である。

 

では今凜が手にした宝石剣は、一体どちらの魔術礼装なのか?

 

そしてどちらの魔術礼装であったとしても、邪神に近しい力を身につけている桜に……太刀打ちすることが出来るのか?

 

「どうしたんですか、遠坂先輩? もしかして怯えているんですか? 遠坂先輩ともあろう人が」

 

まるで他人のように、実の姉を先輩と呼ぶ。

その呼称が何を意味するのかはわからない。

だが、その力に呑まれようとしている姿は……実に妖しく、危うかった。

 

「言うわね。そうね、怯えているかも知れないわね。あんたのその変貌ぶりに。それに保護者はどうしたの? 姿が見えない様だけど? 保護者もいないのに、よくそんな大口たたけるわね?」

 

嫌味をかえされても、桜は何も変わらなかった。

顔色も、感情も、態度も。

ただ、クスリと……小さく可笑しそうに笑うだけだった。

 

「おじいさまならつぶしました。だって必要ないんですから」

 

実に優雅に微笑みながら……恐ろしいことを言っている。

人間を辞めたのは間違いないとはいえ、意思ある生命を殺したと言っているのに、まるでその行為が正しいことだと言わんばかりだ。

桜の態度に内心で舌打ちしながら、凜は推論が間違いなく正しいと確信した。

姿がないのは当たり前だ。

すでに臓硯はこの世におらず……飼い犬であったはずの桜に消されてしまったのだから。

 

「なるほどね……完全に自由の身になってその力。それじゃ浮かれるのも無理ないわね」

「いいえ……まだです遠坂先輩。私はまだやりたいことと、やらなきゃいけないことがあるんです」

 

桜の言葉は、実に艶やかな感情が込められていた。

本当に狂おしいほどに、切ないほどに……しなければいけないと、そう言っているように。

 

「もう遠坂先輩なんて取るに足りない存在です。けど私の中にまだいたまんま。邪魔でしかないから……消えてもらいます」

 

歌う様に紡がれたその言葉は、軽やかでありながらあまりに重かった。

狂っている。

そういって差し支えないほどに、人格が破綻しようとしていた。

 

「そう、私を殺すのね。人殺しにも慣れたのかしら?」

 

人を殺すという行為。

その禁忌ともいえる行為を、何の臆面もなく言い切るその姿に、凜は警戒を強める。

元々油断はしていなかった。

情に訴えるつもりも毛頭なかった。

だが、己自信の甘さを捨てなければ、間違いなく自分がやられてしまう。

 

「えぇ、慣れました。だって必要なことなんだもの。人間をつぶしていないとつまらないし、食べないとお腹がすいちゃう。それに呼ぶためには、必要なことだもの。だから私は食べます。何人でも……誰であっても……」

 

呼ぶ?

 

無防備にも、凜に背中を向けて桜は祭壇へ両手を広げた。

まるでそこにいる何者かに抱きつこうとしている様に。

その姿は間違いなく狂っている。

支配者からの解放と、得てしまった絶対的な力に酔いしれる……子供の様な無邪気さで。

 

そして……聞きたくなかったことまで、桜は口にした。

 

「だから先輩も食べてあげなくちゃいけない。私の思い通りにならない先輩なんていらない。だから、私が食べて……もう離れない様にして上げる」

 

広げていた手を後ろに回して、桜は首だけを巡らせて凜を見る。

その横顔には……確かな愉悦が混じっていた。

 

その顔を見て……凜の中で完全に覚悟が決まった。

 

宝石剣を握る手に力を込めて、凜は桜との……敵との距離を目算する。

この地を預かる管理人遠坂凜として、血を分け、同じ腹から生まれた実の妹である桜を……『魔』と断定した。

 

「そんなちっぽけな剣で何が出来るって言うんですか? 遠坂先輩。本当は私の力が羨ましいんでしょう? この子を取り上げて自分の物にしようとしている。でもそんなことは許さない。また自分だけ、幸せになるなんて……絶対に」

 

艶やかに浮かべていた笑みに、初めて歪み、憎悪にまみれた感情を刻む。

その憎悪に導かれる様にして、桜の背後にいくつもの影が浮き出た。

以前、士郎の家に訪れた時とは比べものにならないほど、密度を有した魔力の塊。

サーヴァントの宝具に匹敵する『吸収の魔力』。

一つでは治まらず、つぎつぎとわき出て……桜の背後に立った。

 

「渡さない。渡してあげない。だってこれは私に必要なもの。一緒になるために、必要な力。遠坂先輩にあげるのは、後悔と絶望……そして敗北です。私が勝者だってことを……教えてあげます」

 

湧き上がる四つの影。

少女を保護するのっぺりとした影の巨人が……丘の下、眼下にいる小さな人間へと歩み始めた。

 

「上等よ桜。バカなあんたを、私が止めてあげる!」

 

手にした宝石剣を振りかざしながら、凜は恐れることなく桜へと疾走する。

 

 

 

 

 

 

人間の運命を分ける……最後の聖杯戦争が幕を開けた。

 

黒き巨人兵と槍兵(ランサー)

 

黒き戦闘騎士と騎乗兵(ライダー)

 

黒き侍と怪物(モンスター)

 

黒き英雄王と士郎(シロウ)

 

そして……(間桐桜)と姉(遠坂凜)

 

 

 

全てを決めるにはあまりにも少ない人数。

 

全ての数から見れば、豆粒にもならないほどの小さく少ない人が……。

 

全ての人間の命を背負う。

 

だがそれぞれが、真に背負う物は全くの別物だった。

 

己の存在意義を貫く。

 

己の過ちを繰り返さないために。

 

己が真に望むべきことのために……。

 

己が為さなければならないことのために……。

 

そして……もっとも意識している相手のために……。

 

 

 

それぞれが、それぞれの戦いを繰り広げる。

 

 

 




日常編がおわらねえ!

つーか家の作業が多すぎて年末年始は1/1以外全部掃除してたから全く書けてねえ!

くそったれ~!!!!

後三話くらいは書かないといけないのに!!!!
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