月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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かなりがんばった
がんばったけどいつもよりも短い
13000字位です

できは良いはずですがこれは賛否両論かもしれないなぁ

でもがんばって書いた

アイディアはいいんだ
つまんなかったら私の力量不足と言うことです


魔槍

疾走する、青い槍兵。

通常の人間では絶対に不可能な鋭角な動きをしながら、ランサーは相手との距離を詰める。

目で追えないほどの速度で迫り、その手にした紅の槍を、相手へと……黒き巨人兵へと突き立てる。

 

「そぉら!」

 

空間に満ちる風を、大気を……押しのけ貫く深紅の槍。

必殺の言葉に違わぬ、絶対的な死の一撃。

その死の槍が……雨のように突き出される。

数えることすらもばかばかしいほどに繰り出される、槍の刺突。

刹那にいくつもの深紅の稲妻が、空を走る。

その全ての刺突を……

 

 

 

「■■■■――!!!!」

 

 

 

手にした岩剣で、弾き飛ばす黒き巨人兵。

払い、流し、正面から打ち飛ばす。

槍という点の攻撃に対して、剣でなぎ払うという線の攻撃。

腕を引いて、突く。

刺突のみに限れば、槍の動作はこの二工程。

剣の場合は通常、腕毎剣を振るい、刃を返して、振るうの三工程。

無論剣の場合でも返さずにそのまま連続で攻撃をすることは可能だ。

 

だが……一つの攻撃の動作において、剣が槍に敵うはずもない。

 

単純故に動作が速く、圧倒的に攻撃の数において勝る、槍。

その槍の一撃を行うのは、英霊として恥じない……否、人外じみた実力を持つ英霊たちの中でも、とびきりの実力を持つ存在であるランサーが見舞う刺突の連続。

まさに赤い死の雨。

ケルト神話における半神半人の大英雄、アイルランドの光の皇子、クーフーリン。

最強と称しても、何ら疑いも持てないほどの実力を有した、槍の使い手。

全てが命を貫く絶対的なその攻撃を……黒き巨人兵は動作において一つ劣るはずの剣で、全てを捌いていた。

それどころか、ランサーが手にする紅の槍、『ゲイ・ボルグ(刺し穿つ死棘の槍)』よりも遙かに重いはずの岩剣で、迎撃の合間に反撃すらもしてくる。

 

……やりやがる!

 

黒き巨人兵も……相手であるランサーに勝るとも劣らないほどの実力者。

ギリシャ神話最大の大英雄、ランサーと同じく半神半人のヘラクレス。

互いに大英雄である二人の実力者の争いは、もはや天災や戦争といった……段違いの規模と言って良かった。

互いに一度の攻撃で、複数人数は吹き飛ばすことが出来るほどの威力を秘めている。

そしてその巨大な体と、立派な体躯が生み出す速度も、風そのもの。

黒く巨人兵が暴風であるのならば……ランサーは突風。

それぞれが、その名に恥じない実力を、遺憾なく発揮し……辺りの地形を変えていく。

足で踏み砕く。

岩で斬り穿つ。

互いに確実に相手を殺すことのみに意識を集中した……完全な殺し合い。

 

「おら!」

「■■■■!」

 

吠える。

互いの得物がぶつかり合う音に、負けないほどの声量で放たれたその裂帛の気合いは、辺りの空気を震え上がらせた。

 

その戦いを……何の感情すらも写さない表情で見つめる、一人の少女。

 

雪の精霊の様な少女はただ、二つの力のぶつかり合いを、静かに見つめていた。

 

「!!!!」

 

突きのみでなく、槍を回しての石突きによる打撃。

回した勢いをそのままに、空間を抉る様に放たれる。

風すらも置き去りにするほどの速度で放たれたその打撃は、もはや打撃を超えていた。

しかしその打撃すらも、黒き巨人兵は岩剣を手にした腕とは反対の腕で、難なく受け止める。

そして受け止めると同時に受け止めたその腕で、放たれた槍を掴もうと、槍へと伸ばす。

 

「させるか!」

 

己の槍を奪いにきた黒き巨人兵の行動を、ランサーは許さない。

鍛え上げた己の力を全て動員し、その力を足へと注ぐ。

地より疾駆する足の一撃。

ランサーの蹴撃は、攻撃した己の足の何倍もあろうかという太さの腕を、吹き飛ばす。

しかしその槍の強奪は囮。

片足立ちとなったランサーを、黒き巨人兵が振るった岩剣の一撃が、容赦なく襲う。

ランサーはその一撃を、残した片足のみで飛び上がり、回避する。

そして回避するだけにとどまらず、岩剣が通り過ぎた後に自らの槍を地面に突き立て、突き刺した勢いを自らの体に乗せる。

そしてその勢いと自らの体躯から生み出す……天より落ちる稲妻の様な踵落とし。

 

「だぁらぁぁぁ!」

 

体重と勢いを乗せた渾身の一撃。

しかしそれも黒き巨人兵の防御によって、難なく防がれてしまう。

そして防ぐと同時に手にした岩剣が振るわれ、宙に浮いているランサーへと迫った。

 

野郎!

 

突き刺した槍を地面に刺したまま引くことで、強引に自らの体を岩剣の下へと持って行く。

風を吹き飛ばすほどの勢いで振るわれた岩剣を強引に回避して、ランサーは一度距離を離そうとする。

しかし、黒き巨人兵がそれを許さない。

見上げるほどの巨体を、圧倒的な膂力と魔力によって強引に動かし、ランサーへと距離を詰める。

 

「ちっ!」

 

ただ眼前の獲物であるランサーを、追い詰めるためだけの猟犬と化しているかのように、執拗に、獰猛に……黒き巨人兵はランサーに迫る。

 

……きついな

 

それがこうして黒き巨人兵と対峙し、数十に渡る攻防を繰り広げたランサーの、正直な思いだった。

ランサーは一度、ギルガメッシュをのぞく全てのサーヴァントと戦闘を行っている。

小次郎(アサシン)とだけは、対峙したのみで終わっているが、対峙したことである程度実力は推し量れているため、そこまで問題はない。

今戦っているバーサーカー……黒い陰の泥に侵される前だが……とも戦っている。

今はランサーが忘れさせられ、契約を解除された相手である言峰綺礼より命令……お前は全員と戦え。だが倒すな。一度目の相手からは必ず生還しろ」……されたためだ。

そのときは当然、令呪の命令によって全力で戦うことができなかったが、それでもバーサーカーの実力を測るには十分すぎた。

当然、雪の精霊の様な少女も、初見の相手であったランサー相手に全力で戦うことはしなかったため、宝具の内容などはその時は知るよしもなかったが、今はその宝具の内容も明らかになっている。

だからこそわかった。

 

黒き巨人兵を倒すのは極めて難しいことに。

 

もともと卓越した技量と、圧倒的なまでの力量を備えていた存在。

マスターが雪の精霊の様な少女ということもあり、魔力供給も十二分に与えられていたが、今は過剰供給とでもいうべきほどに、魔力が与えられている。

バーサーカーという、消費魔力が尋常ではない存在であるにもかかわらず、過剰と言っていいほどの量だ。

その二つの力が合わさった攻撃は、回避するのも至難の業。

だからこそ、ランサーは先ほどから黒き巨人兵よりも攻撃の動作が少ない、槍の刺突を集中的に行うことで、自らの手数の多さで、黒き巨人兵よりも攻撃を行っていた。

にも関わらず、黒き巨人兵はその攻撃の雨すらもかいくぐり、反撃を行ってくる。

以前戦ったときとは比べものにならないほど、敵の能力が上がっていた。

力も、速さも……そして魔力も。

故に歴戦の勇士であるランサーとしても、苦戦は必至。

だが……

 

あのときと違うってのは……お前だけじゃないんだぜ!

 

そう、以前戦ったときは令呪の命令もあり、ランサー自身も全力を出すことも出来なかった。

ランサーが聖杯戦争に参加した理由は一つ。

聖杯に託す望みはなく、ただ「死力を尽くした戦い」を求めた……誇り高き騎士。

それがランサーが聖杯戦争の召喚に応じた理由。

にも関わらず、言峰綺礼の令呪によって、手加減をしなければならない状況に置かれてしまった。

これはランサーにとって屈辱以外の何物でもなかった。

だが今は違った……。

契約が切れたことで、もはや令呪の縛りはなくまた、以前のマスターよりも相性のよい雪の精霊の様な少女がマスターとなっているため、ステータスも向上している。

そして、黒き巨人兵には到底およばない物の、雪の精霊の様な少女も莫大な魔力を有しているマスター。

そのため、ランサーへの魔力供給も十分すぎるほどにある。

 

さらに……負けられない理由もある。

 

 

 

させる訳には……いかねぇよな……

 

 

 

作戦会議にて明かされたバーサーカーの宝具。

そして、全員が自らの宝具すらも明かしたことで生まれた対応策。

対応策を行えば勝負が有利に運ぶのはわかっていた。

だが、その対応策を選ぶことをランサーは由とはしなかった。

したくなかった。

雪の精霊の様な少女のためにも。

何よりも己自身のためにも。

だから……必死になって隙をうかがう。

敵を倒すための……準備を行うための、わずかな隙を。

 

「■■■■!!!!」

 

いつまでもランサーを屠ることが出来なくて苛立ったのか、再び黒き巨人兵が吠えた。

その咆吼は並の者であれば、それだけでショック死するほどの気迫が込められていたが……黒き巨人兵が相手をしているのはランサー。

この咆吼はむしろ、ランサーの闘志に火を灯す!

 

「上等だ!」

 

黒き巨人兵の咆吼に答える様にランサーも吠えた。

そして再度繰り出される、必殺の刺突。

それを迎え撃つ、岩剣の嵐。

互いが互いを殺すべく、自らの得物を手足のように扱い、相手を追い詰めるために振るった。

全てにおいて通常ならば容易に殺すことが出来るほどの攻撃を。

雨の様に……暴風の様に。

全てを置き去りにして繰り広げられる、死闘。

地形すらも変えるほどの戦闘で行われる攻防は、まさに人外達にふさわしい戦いとも言えた。

だが、悲しいことに……戦いを行っている両者の想いには、明確な違いがあった。

 

片方は己の意義と目的のために。

 

片方はただ強制させられ、命じられるままに。

 

胸の内の想いなど意味はないのかも知れない。

 

だが……元は持っていた存在だからこそ、その違いはとても悲しく思えた。

 

黒き巨人兵兵……バーサーカーは聖杯に託す望みは、ランサーと同じように何もなかった。

 

だが召喚されて……サーヴァントとなったときに、バーサーカーには己に課した使命があった。

 

だが、その使命と武人としての誇りすらも汚されて、今の(バーサーカー)はただ、暴れるだけの狂い人だった。

 

そのクラスの名が示すとおりの……狂戦士。

 

猛り狂った……破壊の化身。

 

 

 

「■■■■!!!!」

 

 

 

吠える。

 

穿つ。

 

殴る。

 

岩剣だけでなく、巨大な肉体も武器となり、猛り狂う獣。

 

そのあまりの猛攻故に、ランサーも攻勢が徐々に、防戦へと傾いていく。

 

だが彼には負けられない理由がある。

 

だからランサーはひたすらに耐えた。

 

攻撃する隙を見つけて、槍で突く。

 

避けても避けても、縦横無尽に行われる連続の攻撃を、防いで、躱して。

 

ただ、己が切り札を切るための絶対的な隙を作るために……、ランサーはただ続けるだけでも神経がすり切られてしまうほどの攻防の中で、その瞬間を待った。

 

待つというよりも……その瞬間を作り出すために、ひたすらにあがく。

 

そして、その瞬間を……作り出した。

 

 

 

ここだ!

 

 

 

すでに百には届くであろう攻防を続けたにもかかわらず、未だに殺しきれないランサーに業を煮やしたのか、黒き巨人兵が今までよりも腕を大きく振りかぶる動作を見せた。

そしてその動作に違わず、渾身の力を込めて岩剣が振り下ろされて、衝突した地を粉砕した。

その粉塵に紛れる様に、ランサーは槍からほんの少しだけ指を離して……宙にルーンを描いた。

使うのは火のルーン(アンサズ)

使用目的は粉塵と炎による、目くらまし。

ランサーは魔術にも秀でており、原初のルーンを習得している。

戦闘時においてはめんどくさいという理由で使用することはまれだが、それでも今この場では使うことに躊躇いはなかった。

そしてこのルーンが、ある意味でランサーにとっての切り札といえた。

その切り札の内の一つを……この場で使う。

その行動の意味は一つ……。

 

最強の攻撃を行うために……。

 

ランサーのルーンは、彼自身が魔術に秀でていることもあり、凄まじいほどの威力を秘めている。

といっても、今行ったのはあくまでも目くらましが目的のため、黒き巨人兵を殺しきることが出来るものではない。

だが、この火のルーンだけで、ランサーは雪の精霊の様な少女の城を炎に包み込むことが出来るほどの大火事にすることが出来る。

それだけの威力を秘めたルーンは、当然黒き巨人兵としても、何の躊躇いも無しに突進することはない。

そして……その隙を逃さずに、ランサーは全力で飛び上がった。

 

今度こそ……ランサーは黒き巨人兵と距離を離す。

 

その距離も、黒き巨人兵の足を持ってすれば数秒で詰め寄られてしまう距離でしかない。

 

だが……この距離が、絶対に必要だった。

 

 

 

ランサーの……真の切り札を、使うために。

 

 

 

……哀れだな

 

 

 

距離を離し、改めて黒き巨人兵の……バーサーカーの姿を見て、ランサーは思う。

 

絶対的な力を有していた。

 

ただ者でないことなど、見た瞬間からわかっていた。

 

そしてその正体も明かされた。

 

故に……より強く思った。

 

全力で戦ってみたいと。

 

狂戦士(バーサーカー)として召喚されたために、言葉を交わすことは出来ないだろう。

 

だがそれがどうした?

 

戦士にとって語るべきは言葉ではなくその力。

 

真の実力者にとって、言葉など不要でしかない。

 

ただ己の腕をかけて。

 

己の誇りを賭けて……。

 

相手を屠るのみ。

 

 

 

しかし、その誇りすらも……バーサーカーは汚されてしまった。

 

 

 

故に……

 

 

 

 

 

 

よう、バーサーカー。いや……ヘラクレス……

 

 

 

 

 

ランサーは魔力を練り上げる。

 

全ての魔力を動員し……全身全霊の力でもって、その技を使う。

 

ゲイ・ボルグ。

 

魔槍の呪いを最大限に発揮させ、敵へと投擲する……魔槍の本来の使用方法。

 

そして、ランサーの最強の切り札。

 

そこに、更にルーンを使用して、能力の底上げすらも行う。

 

文字通り……最強最大の切り札だ。

 

 

 

 

 

 

誇りすらも汚されたお前を殺す……この一撃……

 

 

 

 

 

 

準備が整い……ランサーも疾った。

 

全身の力で持って疾り……そして跳躍する。

 

頭上へと飛び上がったランサーに目を向ける黒き巨人兵……。

 

染められてしまった赤い眼と、ランサーの紅の目が交錯し……

 

 

 

 

 

 

手向けとして受け取るがいい!!!!!

 

 

 

 

 

 

真名が……解放される。

 

 

 

 

 

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

練り上げられた魔力と、全身全霊を持って投擲された紅の槍が、爆発的な魔力で閃いた。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)

 

呪いの魔槍の本来の使用方法。

 

威力に優れ、また呪いを帯びたままであり、命中するまで何度でも襲いかかる槍の一撃。

 

英霊となった今は、生前よりもその威力を増している。

 

更に、ルーンによる威力が上げられており、この一撃は凄まじい威力を秘めている。

 

 

 

 

「■■■■!」

 

 

 

黒き巨人兵が放たれた突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)を防ごうとするが、それも敵わない。

 

速度は実にマッハ2を超える。

 

比較的近距離で放たれたこの一撃を防ぐのは難しく、また避けることもその呪いのため敵わない。

 

ランサーの最強の一撃が……黒き巨人兵にぶつかった。

 

 

 

!!!!!

 

 

 

咆吼が消える。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)を喰らった黒き巨人兵の体が消える。

 

否、徐々に消えていくという方が正しいか?

 

莫大な魔力と威力によって放たれた必殺の一撃により、黒き巨人兵の体が徐々に削がれていく。

 

命を奪われていく。

 

 

 

 

 

 

どうだ!?

 

 

 

 

 

 

投擲を終え、地面に着地したランサーは、そのまま膝を折って崩れた。

 

全身全霊の魔力と、ルーンによる威力の重ね掛けは、ランサーにも少なくない負担を強いていたのだ。

 

だがここまでしなければ、黒き巨人兵の……バーサーカーの宝具を突破できない。

 

殺すことが出来ない。

 

否、何度か殺すことが出来ても……殺しきることが出来なかった。

 

 

 

バーサーカーの宝具、十二の試練(ゴッド・ハンド)

十二の難行を乗り越えたヘラクレスが、褒美として神の祝福によって得た呪いの宝具。

いかなる攻撃すらも通さない屈強な鎧と化している、肉体そのものが宝具といえる。

その屈強さはセイバーの一撃を、苦ともしないことからその頑強さが伺える。

そしてさらに恐ろしいことに、バーサーカーの命は一つではない。

無論命そのものは一つであり、殺せばバーサーカーも息絶える。

だが、その回数が十二回というあり得ないことをのぞけば。

十二の難行を乗り越えたヘラクレスが得た褒美として、実に十一の命を備えている。

つまりバーサーカーを殺すには、単純に十二回殺さなければ、殺しきることが出来ない。

またそこで厄介になるのが、十二の試練(ゴッド・ハンド)のもう一つの効果の、耐性付加。

これは一度受けたダメージを学習することで、新たな命に変わったとき、その攻撃に対する耐性を得るのだ。

先ほどまで有効打となっていた攻撃が、その攻撃で殺されることで、次の命となったときは有効打となくなっているのだ。

つまり、バーサーカーを殺すのに必要な手段が、単純に話せば十二もの数を用意しなければならないことになる。

元が最強と言えるヘラクレスの狂戦士(バーサーカー)を相手に戦うのも至難の業だというのに、その上十二回も殺さなければいけないというのは、はっきり言って相当厳しい。

しかし不幸中の幸いと言うべきか、過剰とも言える威力の攻撃を与えれば、複数個の命を削ることも出来るため、十二もの攻撃を用意しなくても、バーサーカーを殺すことは出来なくもない。

故に、ランサーの勝負はこの突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)にかかっていた。

最強最大の攻撃である突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)の攻撃に、ルーンによる威力の向上を図った。

これでいくつの命を削ることが出来るのか……それが運命の分かれ目と言って良かった。

そして、可能であれば……これで殺し尽くすことが出来れば……。

 

……殺せるか?

 

魔力の回復をしながら、ランサーは己の得物の魔槍を見つめる。

城壁を七つも吹き飛ばすほどの威力を誇る魔槍の威力に、ルーンが加わった。

当然……黒き巨人兵も、黒い陰の泥によって肉体も強化されているが、無事では済まなかった。

 

だが……それでも殺しきることは……

 

 

 

敵わなかった。

 

 

 

魔力が消え、役目を終えた呪いの魔槍が、鋭角的な線を描きながら飛翔し、持ち主であるランサーへと帰還する。

煙が晴れた先にいたのは……

 

体中をずたずたに引き裂かれ、片腕すらもひきちぎられているものの、原型を留めている……それどころか、十二の試練(ゴッド・ハンド)の能力で、蘇生魔術が発動し、再生している黒き巨人兵の姿だった。

 

 

 

「耐えた……だと!?」

 

 

 

自らの最強の一撃を耐えきられて、ランサーが瞠目した。

耐えられたということは……つまりすでに突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)に対する耐性を得たと言うこと。

ルーンによる威力向上を行った最大の攻撃。

それに対しての耐性を得られてしまったのは、厳しい。

果たして突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)によってどれだけの命を削ることが出来たのかはわからないが、それでも最大の必殺を防がれてしまったことは、ランサーにとっても軽いことではない。

精神的に負担を強いる。

また、威力があるということは当然、消費魔力も激しいと言うことであり、ランサーの魔力は大部分を突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)に使用した。

雪の精霊の様な少女がマスターのため、魔力供給は十分であり、回復にそう時間はかからないが、回復する時間も必要だった。

あといくつあるかわからない命。

その命を削ることが……削りきることができるのかわからないという焦燥。

そしてその焦りをあざ笑うかの様に、黒き巨人兵の体が再生を続けている。

まだランサーが回復しきっていないにもかかわらず。

 

くそったれ!

 

仕留めきれなかったことに、ランサーは心の底から悪態を吐く。

吐かざるを得なかった。

最強の一撃を、更にルーンによって威力を上げたにもかかわらず、黒き巨人兵を仕留めることが出来なかったのだから。

それはつまり、秘策を使わなければいけない可能性が濃厚になってしまったということ。

しかし、その秘策を使うことをランサーは快く思っていなかった。

秘策は、今のマスターである雪の精霊の様な少女を、悲しませる行為だとわかりきっているから。

騎士としての誇り高いランサーは、マスターのことを考えて、何とか秘策を使わない方法を模索する。

その間も、黒き巨人兵は回復していき……ついに外見上完全に元の状態へと戻る。

そして間をあけずに雄叫びを上げ……再びランサーへと突進してくる。

 

回復する暇も、考える暇もないか……

 

考えをまとめることも出来ず、敵が元の状態へと戻った。

これ以上思考をしている時間はなかった。

故に……己にとってはもっともやりたくない選択肢を、選んだ。

全力で戦うことのために召喚された己の願いとしては、不本意なものになってしまう方法。

それは時間切れを待つという選択肢。

この場に黒き巨人兵を留めることに専念する。

それによって他の連中が勝負に勝ち、大元をぶちこわせば必然的に黒き巨人兵も力を失うことに賭けた、皮肉の選択肢だった。

 

あまりしたくはないが、マスターのためだしな……

 

ある程度回復した四肢に力を込めて状態を確認しながら、ランサーは気合いを入れ直した。

まだ完全に回復しきってないため、万全の状態ではないがそれでも勝ちに行かなければ、十分に戦闘が可能なレベルにまで回復している。

それを確認し、ランサーは再び槍を構えようとしたのだが……

 

 

 

「もういいわ、ランサー。あなたの頑張りは確かに見せてもらったわ」

 

 

 

しかし雪の精霊の様な少女は……それを良しとはしなかった。

さらにあろう事か、ランサーと黒き巨人兵の間へと入り、黒き巨人兵を見つめる。

 

「!? バ――!」

 

死の嵐の軌跡上に自ら足を踏み入れたマスターに、罵声をあげようとする。

何せ相手は狂った……狂化と違い、本当に狂わされてしまった英霊(サーヴァント)のなれの果て。

そんな相手の前に、何の策もなくただ歩み寄るなど、自殺行為でしかない。

元マスターであったとしても、もはやその契約に意味はない。

狂わされてしまった黒き巨人兵は、ただ荒れることでしか、己の存在意義を示すことの出来ない、ただの狂人。

 

 

 

そのはずだった……

 

 

 

「■■■……」

 

 

 

驚くべきことに、雪の精霊の様な少女の手前で止まった。

ただ暴れるだけだった黒き巨人兵は、その動きを止めて、静かに雪の精霊様な少女を見下ろしている。

どうして黒き巨人兵が動きを止めたのかわからず、ランサーは驚きのあまりに何もすることが出来なかった。

今までの戦闘がまるで嘘だったかの様に……辺りは静けさに包まれる。

 

その静けさを……

 

雪の精霊様な少女の……イリヤの、小さな小さな一言が破った。

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね」

 

 

 

 

 

 

その謝罪は果たして何に対しての謝罪だったのか?

 

謝罪の意味も、謝罪の相手も、考えることもできなかった。

 

そして、自らの前に立たれてしまったために、ランサーにイリヤの顔を見ることは出来なかった。

 

そして……イリヤが握っていた秘策が……

 

 

 

黒き巨人兵の体に突き立てられ……その能力を解放した。

 

 

 

一瞬煌めく、魔力の光……。

 

 

 

その光に呼応する様に……

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

黒き巨人兵が絶叫を上げた。

 

痛みをこらえるかの様な、痛々しい絶叫だった。

 

ランサーの突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)を受けても絶叫を上げることがなかった黒き巨人兵が。

 

何かの痛みに耐えるように、暴れ出す。

 

そばにイリヤがいるにもかかわらず。

 

 

 

「ちっ!」

 

 

 

しかし、その暴風にイリヤが巻き込まれる前に、ランサーが紙一重の救出した。

なお暴れる黒き巨人兵。

岩剣を振り回し、体中から湧き上がってくる痛みに耐えている様だった。

イリヤが行った攻撃は、ただ手にした短剣を突き立てただけだ。

その短剣は普通の刃物程度の切れ味しかないため、普通であれば黒き巨人兵にはかすり傷一つ負わせるどころか、傷すら付かないはずだった。

だが、その剣はただの短剣ではなかった。

 

曲がりくねった刃。

 

その刀身は実に禍々しいほどに、虹色に輝く色を反射する。

 

とても切断出来る様な刃物ではなかった。

 

それも当然だった。

 

その刃物は物を切断する物ではない。

 

 

 

魔術を破戒するための……宝具なのだから。

 

 

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

英霊(サーヴァント)、キャスターの宝具であり切り札。

ギリシャ神話の『裏切りの魔女』の異名を持つ、メディアの……キャスターの宝具だった。

その能力は、刃で突いた対象のあらゆる魔術を『破戒』することである。

簡単に言えば、魔術を無効化することが出来る。

これは例えどれほど高度に組まれた魔術であっても、例外ではない。

具体的に例を上げるのであれば、対魔力Aという現代の魔術では傷一つつけることが出来ないセイバーの魔術障壁すらも突破……無効化することが可能だった。

その能力で、サーヴァントの契約を強制的に解除することが可能である。

だが、これは本来、宝具に対しては効果を発揮し得ない。

どれほど強大な魔術であっても突破することの出来る破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)は当然、黒き巨人兵……バーサーカーが保有している十二の試練(ゴッド・ハンド)を破戒することはできない。

例え真の所有者であるキャスター……魔法使いをも超える腕前を持つ魔術師のメディアが、渾身の魔力を込めて破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を使用したとしても、十二の試練(ゴッド・ハンド)を突破することが出来ない。

また、イリヤが手にしている破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)はオリジナルではない。

複製……贋作である。

本来の所有者ではない宝具の使用、宝具の贋作、そして宝具を破戒というあり得ない現象。

何故……十二の試練(ゴッド・ハンド)を破戒することができたのか?

 

 

 

それは皮肉にも……使用したのがイリヤであったからということに、他ならなかった。

 

 

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

彼女は……第五次聖杯戦争のために用意された聖杯だった。

魔術回路を人間にした『ホムンクルス』。

ホムンクルスの母親と、魔術師の精によって生み出された錬金術の集大成。

ホムンクルスでありながら、人間でもあるという、一段階上の高次生命体である。

そのイリヤは、聖杯の器であるために……小規模ながら願いを叶えることが出来る。

イリヤの魔力の容量次第という条件は付くが、それでも願いを叶えることが出来た。

簡単に言えば、過程を飛ばして結果を生み出すことが出来るのだ。

聖杯(イリヤ)が望む願い……十二の試練(ゴッド・ハンド)を破戒するという結果を、破戒するための過程を経ることなく、生み出すことが出来た。

 

出来てしまったのだ……。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

 

 

 

吠える。

黒き巨人兵が痛みをこらえるかの様に絶叫する。

その咆吼はただ痛みだけが原因ではないかのような、まるで悲鳴の様だった。

イリヤを黒き巨人兵から遠ざけて、ランサーはイリヤを地面に降ろす。

その間も、イリヤはただ静かに……黒き巨人兵を見つめ続けていた。

 

「……嬢ちゃん」

 

見つめているその表情に、感情にも……何もなかった。

ただただ……何でもないただの物を見ているかの様な瞳を、イリヤは黒き巨人兵に向けている。

 

それが見たくなかった。

 

させたくなかった。

 

だからこそ、ランサーは自分が聖杯戦争に参加した理由よりも……優先した。

 

この秘策を、イリヤにさせないために。

 

だがそのランサーの気持ちを、イリヤ自らが否定した。

 

ランサーならば、殺しきることが出来なくても、負けることはなかったというのに。

 

そばでどうイリヤに接すればいいのかわからず、ランサーはただイリヤを見つめることしかできなかった。

 

そんなイリヤが……再び、感情も抑揚もない声を上げる。

 

 

 

「私のバーサーカーは、無敵だもの……」

 

 

 

たった一言……。

 

そう呟いた。

 

その言葉に……何の感情も乗せずに、抑揚もない。

 

表情も変わらず、ただ無表情のままに、イリヤは……黒き巨人兵を見つめる。

 

 

 

イリヤとバーサーカーの出会いは実に数ヶ月前に遡る。

 

凜がアーチャーを。

 

士郎がセイバーを。

 

桜がライダーを。

 

刃夜が小次郎を。

 

皆が自らの主従となるサーヴァントを召喚するよりももっと以前に、イリヤはバーサーカーを召喚していた。

 

他のマスター達よりも早く召喚していた理由は今回の聖杯戦争で、確実に聖杯を手に入れるためだった。

 

召喚を早めたことで訓練と主従の絆を深めることが目的だった。

 

そう……深かった。

 

イリヤとバーサーカーの絆は……他のマスターとサーヴァント達とは比べものにならないほどに……。

 

それこそ……本来ならばありえない願いが叶えられてしまうほどに……。

 

 

 

……全く。呆れた嬢ちゃんだ

 

 

 

そんなイリヤの行動をどう取ったのか、ランサーはわずかに首を横に振るい……苦笑する。

 

そしてその手を、イリヤの頭に乗せてわずかに動かし……頭をなでる。

 

ランサーもまた、イリヤと同じように……黒き巨人兵だけを見つめていた。

 

 

 

「そうだな。確かにお前さんのサーヴァントのバーサーカーは無敵だよ。クーフーリンである俺も、それは認めるところだ」

 

 

 

英雄であり、英霊であるランサーの言葉が、イリヤにどれほど届いているのかはわからない。

 

もしかしたら、イリヤは今何も聞こえていないのかも知れない。

 

それでもランサーは……言葉を続けた。

 

ただ自らの想いが少しでも、イリヤに伝わるようにと願いながら。

 

 

 

「だから、これから俺に殺される奴はただの獣だ。それ以上でも以下でもない……」

 

 

 

そう言いきり、ランサーは獣へと歩み寄る。

 

一切後ろを振り向かずに……ただ前だけを、獣だけを見据えながら。

 

そしてランサーが走り出した。

 

一匹の獣を狩るために。

 

その血の様な、紅の槍を手にして……。

 

 

 

「■■■■!!!!!」

 

 

 

痛みにこらえながら、獣はただ暴れた。

 

何の教示も技も感じさせぬほどの、ただの暴力。

 

本当にただ苦しみから逃れたくて、暴れているだけにすぎなかった。

 

その獣に対するランサーの動きが、先ほどよりも鈍いままだった。

 

宝具を使用した反動が未だ回復していないのもあった。

 

だがランサーは今、自らマスターからの魔力供給をカットしていた。

 

ただの獣討伐に……聖杯戦争と関係のないことに、魔力の供給は必要ないと……。

 

そう言っているかの様に。

 

動きが鈍くとも、ランサーの目に宿った意思は、苛烈だった。

 

その目はただひたすらに……そのときだけを見つめている。

 

 

 

己が為すべきことを……行う瞬間を、待ち続ける。

 

 

 

その鋭い目を、より細くして……その瞬間を見定める。

 

 

 

「■■■■!!!!」

 

 

 

痛みに耐えかねたのか、再び黒き巨人兵が大振りの攻撃を行ってくる。

 

大振りといっても、その巨躯と巨大な岩剣から繰り出される一撃は、常人には見切ることも避けることも、防ぐことも敵わない。

 

しかし黒き巨人兵に相対するのは、常人ではない。

 

 

 

常軌を逸した……紛う方なき……

 

 

 

英霊だった。

 

 

 

わずかに生まれた小さな隙間。

 

それを縫う様な形で……ランサーはその体を、自らの間合いへと滑り込ませる。

 

自らの間合い……すなわち槍の間合い。

 

 

 

そして……絶対の一撃の間合い。

 

 

 

ランサーが生み出した必殺の一撃。

 

 

 

因果という理をねじ曲げる……一撃。

 

 

 

心臓を穿ったという結果を生み出して放たれる一撃。

 

 

 

対人においては、最強と称して何ら差し支えのない、ランサーの一撃。

 

 

 

その名を……

 

 

 

 

 

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!」

 

 

 

 

 

 

その槍の名こそ……ランサーがもっとも信頼する得物。

 

 

 

それは例え……因果を歪められ、相打つ運命すらも斬り抉られたとしても……

 

 

 

この一撃は止まらない。

 

 

 

黒い陰の泥に浸食された黒き巨人兵の肉を貫き……心臓を穿った。

 

 

 

「……」

 

 

 

核たる心臓を穿たれ……黒き巨人兵が動きを止める。

 

今まで暴れていたのが、まるで嘘だったかの様に。

 

それとともに、狂気も霧散した。

 

ランサーの紅の槍に胸を貫かれた……狂戦士(バーサーカー)のなれの果て。

 

クラス特性とも言えた、狂化も消えた。

 

そこにいるのは……此度の戦において、願いもなくただ一つだけ叶えたいことのために召喚に応じ……

 

 

 

自らのたった一つの望みすらも、歪な形でしか叶えることの出来なかった男の……

 

 

 

なれの果てだった……。

 

 

 

「……仕事は終わりだ。魔力も切れた。後は他の連中に任せる」

 

 

 

ランサーは一言そうつぶやき、マスターの許可もなく霊体化し、姿を消した。

 

あとに残されたのは狂戦士(バーサーカー)のなれの果てと……

 

 

 

その狂戦士を、心の底から慕っていた……雪の精霊の様な少女だけ。

 

 

 

二人は何をする出もなく、ただお互いを見つめていた。

 

 

 

静かに……

 

 

 

言葉も交わさず……

 

 

 

ただただ……見つめ合っていた。

 

 

 

男の魔力がなくなり、静かに消えていく。

 

 

 

それでも二人はただ、互いを見つめ続けていた。

 

 

 

 

 




けっこうがんばったけどどうでした?
ここからの連戦はマジでけっこうがんばったので読んでくれたらうれしいです
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