月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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遅れまして失礼しました
この前の土日は飲み会でつぶれましたw
二日目の日曜はアイディア提供者TT氏と一緒に刀屋に言ってましたw
行くたびに品は変わるんだが……今ほしいのは山城屋にある大宮って刀なんだよなぁ・・・・・
220だがね
買えるか!

でもほしい……

今週の土日にでももういっかい見に行こうかねぇ……



本編短め継続中
11600位です


手綱

二つの影がぶつかり合っていた。

一つは高速で地面を、宙を駆けて。

長く美しい髪がその動きに追従して、たなびいていた。

その姿はまるで尾を引く彗星のように見えた。

そして髪よりも、更に長い無骨な鉄鎖がさらにその後を追い、時に縦横無地に暴れ、標的へと打ち下ろされる。

標的であるもう一つの黒い影は、その場で動かず縦横無尽に駆け回る、もう一つの影の攻撃を、的確に正確に捌いている。

その様はまさに、小さな小さな彗星が、大きな星に向かってただ周囲を飛び回っている様に見えなくもなかった。

それもそのはずであり、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の力は圧倒的だ。

いかにライダーが飛び回って死角をついて多数の攻撃をしても、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)はただの一撃でライダーを葬ることが出来る。

堅固さと圧倒的なまでのその圧力は、真っ黒な太陽を連想させるほどだった。

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の魔力は、常時桜から魔力を供給されているため、魔力切れという物がない。

黒い陰に侵されているということも相まって、並の者なら対峙するだけで気絶するだろう。

 

「!」

 

今も黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)からの流し返しての攻撃を、ライダーは紙一重で回避した。

圧倒的な速度を誇るライダーですら、これほど苦戦が強いられる相手だった。

正直、黒い陰に飲まれるという危険性さえ無視できるのならば、ランサーの方が黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の相手は向いていたかも知れない。

だが、ライダー……そしてそばで戦いの行く末を見守るセイバーがこの場にいるのには、理由があった。

それは圧倒的なまでの黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の宝具に対抗するためともう一つ理由があった。

そのために圧倒的に純粋な筋力が不足しているライダーが、命の危機に何度もされされながら、こうして戦っていた。

 

「っ!!!!」

 

声にならない気迫の声を上げて、ライダーがさらに速度を上げて攻撃を行う。

敵を足止めするほどの立て続けに攻撃をしなければ、そばにいるセイバーが殺される可能性がある。

故に、攻めれば攻めるだけ速度が落ち、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)からの反撃で命を落とす可能性があるとわかっていながら……ライダーは攻撃をするしかなかった。

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)も、ライダーの攻撃に対応しながらも、常に自分の半身であるセイバーに注意するのを怠っていなかった。

純粋な力で言えば、今のセイバーは本当に唯の少女にすぎない。

だがそんな力しか持ち得ていないというのに、この場にいることの意味を警戒しているのだろう。

思考を持ち得ない戦闘のみの存在となりはてている様な存在であるにもかかわらず、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は油断も増長もしなかった。

逆に言えば戦闘のみとなっているからなおさらなのかも知れない。

セイバーは、ただ何をすることも出来ず、事態を見守ることしかできなかった。

見守っているという言い方にも語弊がある。

今のセイバーは本当にただ見ていることしかできない。

ライダーが動き回っている姿を捉えることも出来ず、そして己の戦闘能力が顕現したとも言うべき黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の動きも、ほとんど見ることが出来ていない。

だがそれでも事態を見守り……タイミングを逸しないために見ることが出来なくなってしまった戦闘の成り行きを、必死になって見ていた。

そのセイバーの必死さが、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の一定の注意を引くことに成功していた。

何かがあるのだと……そう思わせているため、ライダーへの攻撃に転じることが出来なくなっている。

ある種の三すくみの様な形になっていた。

だがそれも長くは続かない。

 

くっ! 厳しいですね!

 

攻め続けることでようやく、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の動きを封じることが出来る。

だが逆を言えばそれ以上のことを行うことのは難しいということ。

つまりライダー単体では、絶対に黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)に勝つことは出来ないということに他ならない。

何せ黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)にはねバーサーカーすらも一撃で沈めた黒い極光、約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)がある。

しかもそれはマスターが桜に変わったことで、連続して放つことすらも可能となっている。

無限に近い魔力量を有する桜がマスターだからこそ可能となった、宝具の連続使用。

しかもそれが対城宝具という、破格の威力を持った力を連続で使えるというのは、圧倒的なまでの脅威といっていい。

宝具の連続攻撃を行わせないという意味でも、ライダーは止まるわけにはいかなかった。

だが超高速の動きと、息を吐かせぬほどの連続攻撃は、ライダーの体を蝕んでいく。

体力が刻一刻と減っていき、何より彼女の両足が、自らの酷使に耐えきれずに内部から崩壊していくのを、ライダー自身が感じていた。

それに対して、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)はかすり傷すら負っていない。

ライダーの攻撃は、ただの一度も黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)に届いておらず、全く動いていない不動の状態で全てを受けて、流していた。

 

力量、技量ともに届かず、体力も圧倒的に不利で、魔力においては勝負にすらならない。

 

唯一勝っているのは、今の状況が証明するように、速さだけだった。

だがその速さも、徐々に失われていく体力とライダーの体が耐えきれずに敗れ去る。

すでにライダーの速度は徐々に落ちていっている。

もはや黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)がライダーを捉えるのは時間の問題だった。

そして落ちた彗星は、圧倒的なまでの太陽の熱で燃え尽きる。

 

ですが!

 

だがそれはわかりきっていたことだった。

相手が黒い泥によって強化された黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)であることは、むしろ役割でこそあったが、自らが望んだこと。

先ほどの作戦会議ですでに予想されていたことだ。

今のままではライダーは敗北し、足を止めたライダーを黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は一刀の下に両断するだろう。

 

死という結末と、桜を救えなかったという耐え難い敗北を……ライダーは望んでいない。

 

その思いはある意味では士郎よりも強いだろう。

だから歯を食いしばってライダーは攻撃を続ける。

 

永遠にも感じる攻防で……相手が隙を見せるその瞬間を!

 

意思を持たない黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の動きに、僅かながらの変化が……苛立ちにも似た何かがにじみ出した。

それを感じ取った瞬間に、ライダーが動いた。

 

否……止まった。

 

動くことが出来なくなったのか、ライダーは黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の前で膝をつき、呼気を荒げていた。

その瞬間に黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が動き出す。

 

否……動き出そうとして、見えない何かに足を取られて強制的に止められた。

 

剣を振るうために動いていたが、下半身が動かなかったことで剣が空振りした。

思わずといったように黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が自らの足下を見た。

するとそこには、長い鎖に絡まっている自らの両足があった。

ライダーがセイバーの前で膝をついたのはこのためだった。

執拗と言えるほどに攻撃していたのは、少しでも相手に『動きを止めたら負ける』という印象を与えるためだった。

そして最後の一手として……ライダーは足を止めたのと同時に、地面に杭を突き刺して鎖を絡めて、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の動きを封じたのだ。

 

「!?」

 

一瞬の動揺が黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)から漏れ出す。

そのときにはライダーは黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の間合いの外に離脱している。

己にとって必要な間合いをとる。

追撃を行おうとするが、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は足に絡まった鎖によって動くことが出来なかった。

その戒めを解くために、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は足下の鎖に剣を閃かせた。

一瞬にして鎖は無力化された。

 

だがその一瞬こそが必要だったのだ。

 

僅か数秒足らずの間隙。

しかし必要な間合いを……助走距離を得るには十分な時間だった。

 

「!」

 

その距離の意味を……黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は十分に理解していた。

距離にしておよそ五十メートルほどだろう。

だがそれが必要だった。

ライダーが黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)に勝つためには。

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)はライダーの狙いを看破し、瞬時に自らも迎撃態勢へと移った。

 

最大の火力には己自身の最大火力にて、粉砕する。

 

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の周囲を黒い光が覆う。

この薄い暗闇でさえもなお認識することが出来る、光すらも呑み込む漆黒。

風が唸りを上げて黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の剣を加熱させる。

すぐに襲いかかるであろうライダーの彗星の瞬き。

ライダーの駆る白い彗星の瞬きを呑み込まんと、漆黒の極光があふれ出す。

 

「行きます!」

 

ライダーの姿勢が落ちる。

召喚の魔法陣が、ライダーの眼前に彼女自身の血によって描かれていく。

そして赤い血で結ばれた魔法陣は、やがて巨大な血の眼が浮かび上がる。

 

「■■■■■!!!!」

 

それに呼応するように、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の準備も終えた。

手にした剣を横にして……渦巻く力を収束し、回転させて……臨界へと到達した全てを呑み込む漆黒の光を解き放つ。

黒い太陽が、両手に携えた剣を掲げて……その剣は燃えさかる漆黒の光の柱になった。

 

そして放たれる……漆黒の極光。

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)

 

 

 

彼女は真名を唱えない。

唱える必要すらもないのだから、当然だった。

マスターである桜から供給されるね圧倒的な魔力を解き放つだけであるというのに、その黒き極光の威力は、ライダーの宝具を圧倒する。

 

第五次聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの中で、もっとも宝具の威力が高いのはまごう事なきセイバーの約束された勝利の剣(エクスカリバー)だ。

 

その約束された勝利の剣(エクスカリバー)が黒い泥によって汚され、穢された事で、更にその威力を増したのが、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)だ。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)とまともにぶつかり合えってしまった場合、ライダーの切り札である騎英の手綱(ベルレフォーン)は敗北する。

 

力量、技量、体力、そして魔力の容量に宝具の威力。

 

これら全てにおいてライダーは、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の足下にもおよんでいなかった。

 

故に、宝具同士のぶつかり合いになった場合……勝負にならないことは自明の理だった。

 

だがこれで良かったのだ。

 

今のこの状況……

 

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)

 

ライダー。

 

そして……セイバーの立ち位置。

 

この三者が一直線になっている、この状況が。

 

もしも黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)に意思があったのならば……セイバーがいくつもの得物を持ち得ている事に気付いたかも知れない。

 

もし得物がいくつも持っていると気付かなかったとしても……ライダーのブラフに気付いたかも知れない。

 

宝具のぶつかり合い……血の魔法陣を描いたのは完全なブラフだった。

 

宝具の純粋なぶつかり合いで、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)に勝てないこと。

 

仮に勝てたとしても、相手を圧倒するわけにはいかなかった。

 

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)を消滅させるわけにはいかないのだから。

 

だからこの場にセイバーがいたのだ。

 

二つの得物を持って。

 

セイバーはそのうちの一つ……小さな球状にふくらんでいる袋の中身を、取り出した。

 

 

 

この暗闇に置いてもなお、燦然と紅に輝く紅玉を。

 

 

 

「お願いします! ムーナさん!」

 

 

 

紅玉に残された少ない魔力を注ぎ込みながら、セイバーが叫んだ。

 

その叫びと同時に、ライダーは横に跳んで、セイバーの目の前から一時姿を消した。

 

叫びに呼応するように……紅玉からあふれ出す紅の炎。

 

その炎は瞬く間に膨れあがり、ライダーの前へと躍り出て、銀の太陽の化身である竜の形に成っていく。

 

 

 

「!?」

 

 

 

さしもの黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)もこの状況には驚愕した。

 

だが、それでも振りかざした剣を振り下ろすのを止めることはなかった。

 

むしろなおさら止める事が出来なくなった。

 

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)も覚えているのだ。

 

あの竜の火球の恐ろしさを。

 

故に竜が召喚を終える前に……吹き飛ばそうとその極光を解き放った。

 

 

 

!!!!

 

 

 

放たれる莫大な黒き極光。

 

その極光に紅く煌めく火は、なすすべもなく引き飛ばされるかにみえた。

 

だが……実体がない火に触れるその瞬間……

 

その実体をもたない火が、極光をはじき飛ばす。

 

紅銀に光り輝くそれは、黒き極光の光をものともせずに……形を更に明確にしていく。

 

翼が生まれた。

 

大空を羽ばたく翼が。

 

全てをなぎ払う、鋭い棘のある尻尾が生まれて……触れた物全てを切り裂く鋭いかぎ爪を生やした足が生まれる。

 

そして最後に全てを噛み砕く牙と、あらゆる物を消し飛ばす火を吹く口が生まれて……

 

 

 

この世界に再び、銀の太陽が出現する。

 

 

 

「ゴァァァァァァ!」

 

 

 

大気を振るわす咆吼。

 

ただそこにいるだけで、黒き極光すらもはじき飛ばす銀の鱗に包まれた翼竜。

 

刃夜の最愛の息子である銀火竜、ムーナだった。

 

 

 

 

 

 

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)をどうすべきか?

それは作戦会議においても問題となった事だった。

何故セイバーと黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が分裂してしまったのかはわからない。

だが、実際に最強に等しい脅威として敵になっている以上、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)をどうにかしなければいけないことに変わりはない。

先に桜をどうにかすることが出来れば、倒さなくてもいいという意見もあったが、それは楽観的すぎた。

黒い陰での移動がありえるものだと、誰もが理解していたのだ。

故に戦う以外に方法はなかった。

だが誰が戦うのか?

それが問題だった。

何よりも厄介だったのは、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)だった。

何せ威力の桁が違うのだ。

士郎達の最大火力となりえるのライダーかランサーの宝具だけだった。

だが、どちらも約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)と真っ向からぶつかり合って勝てるとは思えなかった。

そのとき……刃夜は預けていた紅玉を返してもらい、セイバーへと手渡した。

 

「おそらく、こいつを使えば召喚が可能だ」

 

それが刃夜の考えだった。

今は窮地といってしまって差し支えない。

前回ムーナが召喚された時も、奇しくもセイバーの約束された勝利の剣(エクスカリバー)が原因だった。

そしてこの紅玉を使えば、ムーナが再び召喚に応じてくれる。

紅玉を持ち、じっと黙ったまま考え込んでいた刃夜のこの言葉は、光明であり、博打でもあった。

光明というのは当然、純粋な火力についてだ。

約束された勝利の剣(エクスカリバー)をただその場にいただけで弾いていたムーナの外殻。

そして約束された勝利の剣(エクスカリバー)を圧倒した火球。

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)に勝てる可能性は大いにあり得た。

 

だがもし……召喚できなかったら?

 

その不安は誰もが抱いたことだった。

幻想種の頂点に立つ、竜という生物。

それがこの世界に降り立つ事自体が奇跡と言っていい。

むしろ以前召喚してこの世界に僅かな時間とはいえ現界出来たことの方が、あり得ないことなのだ。

 

 

 

だが、竜は……ムーナはそれに応えた。

 

刃夜の願いを叶えるために……

 

刃夜が過去に味わってしまった……

 

刃夜が知りたくなかった……

 

あんな思いをもう一度、刃夜に経験させないために……

 

聖杯が満ちたことで以前ムーナが自ら訪れた時よりも魔力の濃度は雀の涙ほどではあるが、増えてはいた。

 

もっとも縁が濃い刃夜のそばではなく、紅玉を用いての召喚は以前よりもさらにムーナに負担を強いていた。

 

故に、以前ほどの火力は出せなかった。

 

だがそれも計算の上だった。

 

というよりも威力が高すぎてもダメなのだ。

 

無論約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)に敗れるようでは話にならない。

 

だが、『銀の太陽の紅火(シルバーソル・プロミネンス)』で消し炭にするわけにはいかなかった。

 

しなければならないことを行うために。

 

だからこそこの場に……彼女が抜擢されたのだ。

 

 

 

あらゆる幻想種を御し、その能力を向上させることが出来る……黄金の鞍と手綱を持つ、ライダーが。

 

 

 

「失礼します! ムーナさん!」

 

 

 

ライダーはそう叫んで、召喚に応じてくれたムーナの背に向かって跳ぼうとした。

 

だが不思議なことに……その背に、見えないはずの何かが見えた。

 

一人の男と、小さな子供とは違う小柄な二つの生き物が、背中にないはずの鞍にまたがっている姿を。

 

一瞬驚くライダーだったが、しかしそれも刹那の瞬間に消えていた。

 

だが……その映像を見て、何故か自分がまたがることが出来ないと思ってしまった。

 

だからライダーは跳ぶのをやめて、ムーナの頭のそばに着地して……

 

 

 

今度こそ、真名を解放した。

 

 

 

騎兵の手綱(ベルレ・フォーン)!」

 

 

 

解放された事で力の塊である宝具が、魔力を消費して現界し、ムーナの頭部へと装着される。

 

宝具で繋がったことで、ライダーはムーナの圧倒的なまでのすさまじさを、身を以て知ることになった。

 

だがそれ以上に……この竜の優しさと、刃夜に対する信頼を感じ取って……

 

何の迷いもなくなった

 

恐れもなく、すくむこともない

 

ただただ、己が任された役割を全うすることだけを、彼女は遂行した。

 

騎兵の手綱(ベルレ・フォーン)を使うまでは正直不安があった。

 

確かに騎兵の手綱(ベルレ・フォーン)はあらゆる乗り物、そして幻想種であっても、言うことを聞かせることが可能であるし、また能力を一ランク向上させることが可能だった。

 

だが、ライダー自身が竜を乗りこなすことが出来なかった。

 

それが不安だったが……そんなものはこの竜と……

 

ムーナの内面を知ったことで吹き飛んでいた。

 

 

 

今の私なら……きっと!

 

 

 

手綱を握る腕に力がこもる。

 

そして彼女は、ムーナの顔の横に跪き……

 

力の限り叫んだ!

 

 

 

「行きます!」

 

 

 

声に呼応するように、騎兵の手綱(ベルレ・フォーン)が光を帯びる。

 

その声の意図を明確に察して……ムーナが身に纏った魔力の一部を、口内へと収束していった。

 

収束を終えたムーナは、その首を振りかぶって……

 

 

 

小さな太陽を……生み出した。

 

 

 

「ゴォォォォォォォ!」

 

 

 

ムーナより放たれたその火球。

 

それは黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)を、易々と突き貫いていく。

 

まるでデジャブのようだと……セイバーは思っていた。

 

だが、これで終わりではない。

 

自分にはまだやるための役割があるのだ。

 

そう思い直して、セイバーは非力になった体で……大地を蹴った。

 

そして、まるで開かれていく道を進むように……火球の後を走った。

 

もう一つの得物を……その手に握りしめて。

 

 

 

意思のないはずの黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は、戸惑いながらも……だが刻一刻と迫る死にあらがうために、更に約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)の出力を上げる。

 

すでに約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)数発分の魔力を消費していたが、それでもまだ供給されている魔力はとぎれることなく黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)のへと流れ込んでいく。

 

だが……どれだけ頑張っても、どれだけ魔力が無尽蔵にあろうとも……

 

一度に放出出来るだけの量は決まっていた。

 

あり得ないことだが……もしも仮にこの場にもう一人黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)のがいれば、火球を吹き飛ばすことが出来たかも知れない。

 

だが実際この場にいる黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は一人だけ。

 

必死になって供給される魔力を全てを約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)に注ぎ込んでも……火球を止めることが出来なかった。

 

その時間は僅か数秒に満たなかっただろう。

 

だが渦中の存在にとっては、永劫にも等しい時間だった。

 

だがそれでも永劫ではなく……永遠でもなく……

 

結果が訪れる。

 

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)を貫き、そして約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)を放っていた黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)をも貫いて……やがて火球が消失する。

 

火球が通った地面は、凄まじいほどの熱量で熱せられたため、硝子のようになっていた。

 

我が身を貫き、そして背後で消失した火球の威力によって、一瞬黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の意識が飛んだ。

 

そして次の瞬間……

 

 

 

「だあぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

裂帛の気合いを込められた声が耳朶に響いた。

 

そしてその声に導かれるようにして、目に飛び込んできたのは……

 

 

 

手にした短剣を振りかぶり、今新たに生まれた硬質な地面を踏みしめて突貫してくる

 

 

 

自分の半身の姿だった。

 

 

 

この状況が……ライダーとセイバーがこの場にいた理由だった。

 

セイバーを元に戻すために。

 

桜を倒し、聖杯をどうにかすれば、元に戻るかも知れないという意見もあった。

 

だが、完全に別個の姿になってしまっている以上、それは楽観的すぎる。

 

だから二人がこの場にいたのだ。

 

竜の因子を持つセイバーが呼びかけることで、少しでも竜を……ムーナを呼びやすくする。

 

そしてそのムーナの火球の威力を、絶妙な力加減にするために、騎兵の手綱(ベルレ・フォーン)をライダーが用いた。

 

動くことが……反撃するほどの余力を残しては、ライダーもセイバーも殺されてしまう。

 

故に約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)を貫きながら、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が消滅せず、かつ力を失うだけの威力に調整する役割を担っていたのだ。

 

そしてそれは果たされた。

 

今の黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は火球によってそのほとんどの力を失っていた。

 

故にこれが……正真正銘最初で最後の好機だった。

 

 

 

「……」

 

 

 

目に映った者を……黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)はどんな気持ちで見ていたのだろう?

 

力の全てを自らに奪われてしまったセイバーは、本当にただの少女だった。

 

走り寄ってくるその姿も、速度も……自分(黒い戦闘騎士)から見たら止まっているのと同じだった。

 

手にした剣を握る握力も、それを振りかぶる腕力も、その剣に乗せるための技量も……

 

全くなかった。

 

だが一つだけ……たった一つだけ……

 

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が持っておらず、セイバーが持っていたものがあった……

 

 

 

絶対に成し遂げるという思いをつくり……

 

知りたいという思いをつくり……

 

力だけでは絶対にねじ曲げることの出来ない……

 

 

 

 

 

 

強固な「意志」だった……

 

 

 

 

 

 

力も技術もなきに等しく、本当に彼女は見た目そのままの少女そのものだった。

 

 

 

だが、誰にも侵すことの出来ない苛烈な意思が……手にした剣を振るわせて……

 

 

 

その剣を、黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)の胸に突き立てた。

 

 

 

抵抗はなかった。

 

ただの一撃で、セイバーは黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)を仕留めていた。

 

そのとき……ひび割れていた仮面が割れて、素顔が露わになった。

 

その顔を……まさに息がかかるほどの距離にある、肉眼では絶対に直に見ることの出来ない己の死人の様な顔を……

 

 

 

セイバーは目をそらさずに見つめた。

 

 

 

セイバーと黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)が僅かな時間……互いを見つめていた。

 

だがやがてそれも終わり……黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)は口を開くこともなく……セイバーの瞳を見つめたまま、魔力の霧となって消えていった。

 

そしてその魔力の霧が……吸い込まれるようにセイバーへと注がれていった。

 

 

 

「……どうですか?」

 

 

 

霧が吸い込まれ終えて、ライダーは注意深くセイバーを観察しながら、そう声を掛けていた。

黒い戦闘騎士(セイバー・オルタ)を倒すことが出来たのは疑いようがなかったが、霧散した霧を吸収するとはライダーも予想外だったのだ。

そのため、最悪の事態もあり得るとして、ライダーはじわりと汗が流れるのを感じていたのだが……それは杞憂だった。

 

「感謝します、ライダー。あなたのおかげで元に戻れたようです」

 

振り返りながらそうつぶやき、セイバーはライダーへと歩み寄った。

魔力の波動こそ感じられなかったが、しかしその身からあふれ出る威圧感は、先ほどまでのセイバーのそれではなかった。

また自らの言葉を証明するように、その手にエクスカリバーを現界させる。

本来の美しい姿をした尊いその剣が元の姿を取り戻していた。

どうやら問題がないことにほっとするライダーだったが……それと同時に気がついたことがあった。

 

 

 

……なんですかあの黒い毛は?

 

 

 

姿形が全く変化がなかったが一点だけ、変化しているところがあった。

ライダーの視線の先にある髪の一部の一房が、まるで寝癖のように飛び出ているのだが、その部分だけが何故か美しい金紗の色ではなく、真っ黒だった。

その黒い髪の毛にいい知れない恐怖を覚えるライダーだったが、あえて言及しないことにした。

 

 

 

この一房の毛が……後にとんでもない出来事の発端となるのだが……

 

 

 

それはまた別のお話。

 

 

 

「感謝します、竜のムーナ。私はあなたのおかげで、こうして力を取り戻すことができました」

 

セイバーはそんな事をライダーが思っているとは微塵も気付かず、ムーナへと歩み寄って頭を下げた。

そのセイバーに続いて、ライダーも同じようにムーナへと頭を下げた。

間違いなくこの場での最大の功労者はムーナだったのだから、二人からすれば当然の行動であったし、また彼女らからしたらムーナはまごうことなく幻想種の頂点である竜なのだ。

 

「クォ……。クォルルルル」

 

しかし最大の敬意を持って頭を下げられた当のムーナはというと……とまどうように声を上げるだけだった。

それだけに飽きたらず、まるで誰かを捜すように首を上げて、辺りを見渡していたりする。

その様子に二人は一瞬呆気にとられるが、ムーナから流れ出てくる感情に気付いた。

 

……とまどっている?

 

二人がおそらくとまどっているであろうムーナへと思わず呆然と視線を投じる。

するとさらにムーナが怯えるように狼狽し……

 

「クォルルル! クォォォォ!」

 

ついには親を求める子供のように、泣き出すように声を上げてしまった。

騎乗スキルを持つ故か、それとも別の何かかはわからないが……二人はこのムーナの反応を、明確に理解していた。

 

この反応は照れているだけなのだ。

 

 

 

美人な女性二人にどう反応していいのかわからないのだ。

 

 

 

ムーナが知っている、人間の女性という生物は、二人しかいない。

二人は当然不細工ではない……むしろそれぞれ可愛いさと、美人さでいえば上の方に位置する……が、ある意味で人間ではないこの二人(ライダーとセイバー)と比較するのはかわいそうだという物だろう。

選別の剣を岩から引き抜いた事で、引き抜いた時の見目麗しい美少年と見える程の容姿をしているセイバー。

すらりと整ったプロポーションをしており、まさに女神のような……実際女神だったりするのだが……綺麗な顔をしている美人のライダー。

女性に対する免疫がないムーナには、正直どうしていいのかわからないのだった。

そんなムーナに対して、二人とも同様の感情を抱いているのだが……しかしそれを言葉にする前に、ムーナの姿が霞んでいった。

 

「あ……」

 

それを止める術は今の二人にはなかった。

それでも自分たちが感謝している事だけは伝えたかった。

だがその前に……ムーナが先ほどまでとは違い、二人のことをまっすぐに見据えた。

消えることで安心したのかも知れない。

そして……

 

「クォルルル」

 

一つ鳴いて……姿を消した。

二人は先ほどまでいたはずの竜の空間をただ見据えていた。

 

「聞きましたか……ライダー?」

「えぇ……はっきりと」

 

二人は確かに……ムーナに話しかけられたのだ。

このとき、ムーナは二人に対して、別々の言葉を言っていた。

しかし、互いにムーナの言葉の意味がわからずにその意味を考えていたため、言葉が違っていたことに気付かなかった。

 

「一体、どういう意味でしょうか?」

「……わかりません」

 

戦闘を終えたばかりのため、二人はまだろくに動くことが出来なかった。

そのため二人はムーナが残した言葉の意味を考えいたのだが……結局わからずじまいだった。

ともかくとして、二人は与えられた役割を、きちんとこなした。

だから一刻も早く傷を癒して、仲間の元へ……桜の下へと向かうために、回復に専念した。

 

 

 

 

 

 

 





次はついに小次郎かぁ……
こいつは技にちなんで三話構成で書いてます
文字数は三話全部で18000位なので、ただいつもの一話を三つに分けただけですがw

こいつは……もういっかい見直したいので来週にはあげられないかもしれません
よろしく~
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