……っとに、気分が悪い
ようやく気配の消えた間桐臓硯に舌打ちをしそうになったが、それは思いとどまった。
死なば、みな仏と思ったから……ではない。
というか、この言葉はあまり好きではない。
死ねばそれが全ての免罪符になるような気がするからだ。
死ねば全てを許される?
そんなことがあっていいはずがない。
悪人を殺して偽りの平穏を創り上げている俺が思っていい言葉ではない。
だから俺はこの言葉を嫌っていた。
死ねば全ての罪が許されるわけがない。
それは己に対する戒め。
人殺しの自分が、全てを諦め、投げ捨てて……死なないための言葉。
道を外れているとは思っていないが、それでも人殺しであることに変わりはないのだから。
この命を持って……成すべき事をしなければならない。
だっていうのに……
沈みかけた気持ちを、俺は強引に断ち切った。
後回しにしているだけかも知れない。
ただ逃げているだけなのかも知れない。
それでも……今は目の前の問題を片付けなければならない。
目の前の……舌打ちをするのをやめた要因である少女へと、視線を向けた。
……イリヤ……なんだよな?
ずいぶんと雰囲気が違うが……見た目はまんまイリヤだ。
しかしずいぶんと特殊な衣を着ている。
衣とあまりにも常人離れした雰囲気が相まって、
女神
と言われたら思わず信じてしまいそうに……今のイリヤは神々しかった。
そんな女神と思えるような恰好をしているのは……そういうことなんだろうな
何故今、このとき、この場所で……このような恰好をしているのか?
それは考えるまでもないだろう。
というよりも、この場にいることで、どういう意味でいるのかは考えるまでもない。
やれやれ……俺もまだまだだな
この格好をさせてしまった自分のふがいなさに辟易しつつも、俺はそれを態度に出さずに……イリヤへと向き直って言葉を掛ける。
「実に神々しい姿だな? 俺の応援に来てくれたって言うのなら、少々大げさ過ぎるんじゃないか?」
おどけたように俺はそう言った。
というよりもわざとそういう風に言った。
イリヤが今やろうとしていること。
それをやらせるわけにはいかないのだから。
「……冗談をいう気分ではないの。結論から言わせてもらうわ」
おどけた態度など見えていないとでも言うように……というよりも、反応が全くない。
雰囲気から言って今この場にいる存在は、イリヤであってイリヤでないのかもしれない。
が……俺はそれを認めない。
「そんな結論聞く耳もたんわ」
認めるわけにはいかなかった。
「イリヤ、お前が今からやろうとしていることは俺の役目だ。俺が自ら買って出たことだ。士郎も自分の役割を果たした。俺が自分の役割を放棄するわけにはいかない。約束だからな。それに言ったはずだ……」
その先を言わせるわけにはいかない。
言わせてしまっては、それが事実になってしまうかもしれない。
言霊という言葉がある。
その意味を俺は誰よりも知っているから。
だから言わせない。
言わせるわけがない。
美綴との約束。
雷画さんとの約束。
士郎と桜ちゃんとの約束。
そして……もう一つの約束。
俺はそれを必ず果たす。
そのためにこの場にいるのだから。
俺や士郎なんかを助けるために、死ぬとわかっていながら自らの役割を優先したイリヤ。
そのイリヤを助けるために、俺はイリヤの城に突貫して……
こう言ったのだ……。
「たわけ。そんな役割など知ったことか……とな」
イリヤがこの場にいるのは、聖杯がらみであることは間違いない。
そしてその役割を果たすためには……自らの命を捨てなければいけないということも。
そうでなければこんなあまりにも普通に思えない……ものすごい魔力やら何やらの力を感じる衣服……物を着ているわけがない。
こんなにも、人とは思えない何かを発しているのは、俺が不安を与えてしまったのだからだろう。
俺はこの姿にさせてしまった自分を恥じる。
だから……俺はこれ以上イリヤにしたくないことを我慢させてまで、やらせたくないのだから。
「ジンヤ……」
俺が言っている意味がわかったのか、イリヤが目を見開いて俺を見てくる。
それでようやく俺が知っているイリヤになったので……俺はさらにこういった。
「さっき老害がいっていたな? ユスティーツア……ってな? 誰と勘違いしたのかは知らないが、ここにいるのはイリヤだ。俺が知っているイリヤだ! だから聖杯をどうこうするなんてこと、しなくていい」
俺はイリヤがどういう
俺が知っているのは、俺が接して俺とともに時間を過ごしたイリヤだけだ。
だから聖杯だのなんだの、そんな役割など知らない。
だから今からイリヤがしようとしていることはさせない。
させたくない。
雷月と封絶を外し、俺はイリヤへと歩み寄っていその頭に触れようとしたのだが……イリヤがそれを拒んだ。
俺の手から逃れるように一歩後ろに体を引きながら、イリヤは俺に疑問をぶつけてくる。
「けど……どうするっていうの? ジンヤの剣を見る限り、確かにあなたが言っていることは嘘じゃないのだと思う。けどあなたは予定よりもかなりの力を消耗している。扱えるの? その意味のわからない剣を?」
「確かにその通りだ。予定外の仕事が二件も入って、気力も魔力もだいぶ消耗している。この状況下で、こいつを……煌黒邪神龍の力を使えば、呑まれてしまうかもしれない」
「だった――」
「だが……俺はモンスターワールドでこれ以上にやばい状況を乗り越えてきた」
モンスターワールドで煌黒邪神龍と戦った時と比べれば、まだたやすい。
人間単純な物で、『今よりやばいことはいくらでもあった!』という経験則があると、何とか出来てしまう物なのだ。
が、毎度言うがその時と俺の状況も違うので正直何とも言えないのだが。
一抹の不安は残るが、やるしかないのだ。
この小さな雪の精霊のような少女を守るためには。
雷月と封絶を外して身軽になった俺は、わざとおどけて見せながら、狩竜を右手で柄を掴んで、返事を聞かずに前へと進んだ。
どうやら触れてはまずい衣服みたいなので、俺はイリヤに触れることはせず、ただ気楽に言葉を掛ける。
「まぁ見ててくれ。どうにかしてみせるさ。年上の俺がな」
返事は聞かずに俺はただ俺が自ら与えた役目をするために、聖杯の根本へと向かう。
『封絶すまんな。お前を連れて行ったら、お前が殺されそうな気がしてな』
『それはかまわないが……。死ぬことは許さなんぞ?』
『あぁ……』
念話で封絶に謝罪を入れながら、俺は足を前に進ませる。
その俺の背中に……イリヤから声が掛けられた。
「……信じて良いの?」
不安そうな声だった。
その声は、神聖な雰囲気を持つ老害が間違えたユスティーツとしてではなく……俺が知るイリヤが出した、声だった。
自分にとって
振り向くことはしなかった。
振り向いてしまえば、見られたくないだろうイリヤの顔を見てしまうことになる。
俺はただ何も言わずに、前に進むことで答えた。
俺自身、成功させると断言できる自信はないから。
だがそれでも、やらなければいけない理由があるから、進むしかない。
己の意志で。
そして根本へと到達して……俺は狩竜を鞘から抜きはなった。
■■■■■■■■■■■■■■■!!!!
鞘から抜かれたその狩竜の姿は……今まで見たこともない、恐ろしい姿をしていた。
血の色をしていた刀身が今は激しく明滅している。
脈動し、黒い陰よりもさらに黒い何かが漏れ出ている。
抜いたその瞬間から……力を行使するために必要な俺の腕に黒い触手のような物がからみついてきて、俺の右腕を変色させていく。
それと同時に……狩竜の中に取り込まれた黒い感情が、俺の中へとなだれ込んでくる。
……やっぱりきついな
強化されていた状態とはいえ、一度経験しているからか耐えられる。
良くも悪くも、モンスターワールドの怨念というのは強いが純粋だ。
純粋な怒りが多い。
故に強くとも、耐性もあって耐えられる
だが、この世界の黒い感情は違う。
人という存在が存在してより積み重なってきた、人の……意志と感情を、他のどの生物よりも多様化した生物の怨念の塊だ。
今でも相当きついというのに、出力が弱いとはいえ、どろどろとした粘性の感情が追加されたら耐えられるかはわからない。
だが……それで臆病風に吹かれるわけにはいかない。
やらねばならない理由がある。
為さねばならない理由がある。
だから俺は……一つ深呼吸をして、右手のみで掴んでいた狩竜の柄を左手でも掴んで……
その剣先を……大聖杯へと突き立てる。
「出番だぞ! 全ての黒い感情を喰らえ! 煌黒邪神龍!!!!」
突き刺さったその先から、刀身を通して……あらゆる感情が俺へと流れ込んでくる。
■■■■■■!!!!
紀元前も含めて……人という種族が存続して以来たまり続けた、負の感情。
■■■■■■!!!!
モンスターワールドほどの時間がなかったため、量と純度で言えば圧倒的にモンスターワールドの方が上だろう。
■■■■■■!!!!
だがこの世界……人間が跋扈するこの世界では、感情の重さが違った。
■■■■■■!!!!
意志と感情が、古今東西で存在する生物の中でこれほどまでに多様な生物は、人間を除いて他にいないだろう。
■■■■■■!!!!
俺が多少なりとも実力を身に付けたとはいえ……これは相当にきつい物があった。
がっ!? だ……がぁ!!!!
それでも俺は、狩竜の解放をやめない。
やめるわけにはいかなかった。
直接繋がったというよりも触れたことによって、中の状況がよりわかるようになったと言うことだろう。
直接触れたことでわかることだが、もう孵化寸前だった。
故に、ここで止まるわけにはいかなかった。
!!!!
俺が狩竜を突き立てたことで、黒い陰が暴れ出そうとするが、それ以上に凄まじい力で、狩竜が黒い陰の邪気のみを喰らっていく。
その急激な力の行使に、俺の気力と魔力は瞬く間に吸い上げられ、さらに精神がずたぼろになっていくのがよくわかった。
だがそれもすぐに消えていく。
精神が完全になくなるまですり減って消えていったのだ。
それでも俺は意地でも意識は手放さなかった。
手放したらその時点で死ぬことがわかりきっていたのだから当たり前だった。
しかし手放さなかったとしても……俺の意思はすでに消えかけていた。
モンスターワールドではいかに自然の力を頼っていたのかがわかってしまう。
が……あぁ……
意思が消えそうになる。
だが俺はそれを、唇をかみ切ることで強引に意識を保つ。
だがその痛みも本当に一瞬で消えてしまった。
痛み以上に、この激情の濁流が圧倒的だった。
これ以上解放をしていては、間違いなく呑み込まれるだろう。
ごがぁぁぁ!
だが俺はそれでも意地でも意思を手放さず、解放も止めなかった。
約束したのだから。
色んな人と。
この世界で知り合った大切な人たちとの約束が。
そして何より……自らの世界に帰るために、色んな人と消えていくようにわかれた、理由のために。
だがその理由も……
先ほどの破戒で、意思がゆらいでしまう。
ぐっ!
何とか耐えようとするが、どうしても生じてしまった意識が、俺の心をかき乱す。
言峰綺礼を斬ったことは、己の未熟さを差し引いても、仕方のないことだったかも知れない。
だがそれでも……「恨みを受け止めるために己の世界に帰る」といって、俺は幾人もの人間と、一方的に別れを告げてこの世界へとやってきた。
だというのに……俺は戒めを破ってしまった。
並行世界……己が生まれ育ち、死に絶えるであろう世界以外で人を殺して……
恨みの連鎖を作らないための戒めを。
だが俺は斬った。
斬らざるを得なかったとはいえ、それでも斬ったことに変わりはない。
俺は約束すらも果たせない男なのか?
その思いが、俺の意思を揺るがせる。
だが……それ以上に強い思いがあった。
死ねない……
死ぬわけにはいかないという、生物の根源的欲求だった。
まだ死ぬわけにはいかないのだから。
まだ俺の世界に帰っていない。
まだやらなければいけないことがいくつもある。
元の世界だけじゃなく……この世界でも!
果たさなければいけない約束がある!
その思いが、俺をあと少しで消えてしまいそうな意思の力を、どうにかつなぎ止めていた。
だがその意思の力も、俺一人だけではすぐにかき消えそうになってしまう。
どれだけの修行をしても、所詮は個でしかないのが、俺という人間だ。
人間である以上、最後は個になるのが普通だった。
もしもこのまま……個でしかなかったら俺は終わっていただろう。
だが嬉しいというべきか……
悲しいと言うべきか……
俺は一人ではなかった……
が、ぐ……■■っぁ……
次第に意識が黒い感情の濁流に呑み込まれてしまいそうになった。
それなりに修行をしてきたし、何よりモンスターワールドでの経験が、俺を成長させていたから……。
大丈夫だと思ったのだが……やはり、前の二つの余計な仕事がかなり厳しかった様だった。
このまま呑み込まれて精神的に死ぬかも知れないと、そう思ったときだ。
もう……しょうがないなぁ、ジンヤは
そんな声が、俺の頭に直接響いてきたのは。
……ぃ?
思考すらまともに出来なくなっていた状態で、声が響いたことで俺の意識が浮上する。
そしてその声に導かれるようにして……体の感覚と思考が戻ってきた。
そしてその声が……俺の左腕の力を目覚めさせた
体を蝕む猛毒が……
天を切り裂く稲妻が……
凍てつく風が……
全てを燃やす炎が……
全てを壊す炎が……
全てを破る力が……
全てを崩す力が……
そして……大地の力を司る龍が……
俺を叱咤するように、我が身を焦がした
ジンヤに触れちゃったから、もう私にはこれを止める力はないよ。だからこれでダメだったら、恨むんだから
信じるように、祈るように……そして期待する気持ちと一緒に、そんな声が俺の意識を浮上させる
ありがとうイリヤ。そしてすまない……
あれだけかっこつけておいて、これで失敗してしまっては、本当にどうしようもない奴になってしまう
更にあいつらも力を貸してくれているのだ
これで失敗をするわけにはいかなかった
ゆるんでいた手に再度力を込める
そして、俺は精一杯の力を込めて吼えた
「煌黒邪神龍!」
狩竜に眠っている邪神へと、俺は吼える
「邪神が人程度の怨念喰らうのにどれだけ時間かけている! 邪神ならさっさと喰らえ!」
その発破に呼応したのか、今までよりも俺の体に負荷がかかった
だがそれに拮抗するように、俺の左腕が熱を帯びて……俺が吹き飛ばないようにと、俺の体を焦がした
それでも……俺は更に咆える!
「天の上を! 天の下を! 天も地も!!!! 全ての生命を、全ての存在を!!!!! その全てを欲したという言葉は飾りか! この程度の怨嗟……さっさと飲み干して見せろ!」
■■■■!
一つの思念が……俺の頭に響いた
いや……一つではないのかも知れない
数えきれぬほどの怨嗟が、一つの巨大な力によって束ねられた、一つの力
相反するはずの、二つの巨大な力が……俺を焦がしながら、その力を形に変えていった
血のような色をした刀身の鎬地がから峰にかけて……漆黒の何かが、形を表す
まるで怨嗟が形になったかのように、ひどく醜い黒い何かだった
それは峰よりいくつもの角の様な物が生える
鍔元に、何もなかったはずの鍔が……まるで勾玉二つを、刀身で縛り付けたかのような鍔が生まれた……
柄もまるでいくつもの骨が列なったような物へと姿を変えて……
今この場に……天上を、天下を、あまつさえ天地さえも、飲み喰らうことを願った怨嗟の力が……舞い降りた……
その刀は、まるで龍刀【朧火】と対をなすかのような……あまりにも桁外れの力を有した、超野太刀だった……
その刀が……刀身に宿った邪神が、全ての悪を呑み込まんと咆吼を上げる
■■■■■!!!
最後の咆吼というべきか……
黒い陰が悲鳴を上げるように、大聖杯そのものが震えていた
「死にたくない」
そう言っている様だった
その思いが、先ほどの言峰の言葉を思い出させる
生まれる前に殺すのか?
その問いに対して答えることが出来ない
きっとこの問いは、今この場だけではなく、今後の俺に対しての問答となるだろう
だが悩むべきは今じゃない
しなければならないという大義名分を盾にして、俺は今この場でお前を殺す
その事実を決して忘れずに……俺は前へと進む
そう、前へと進むために……
俺は『
俺が苦しむのはあの神父の思うつぼだっただろうが、それでも俺はそれも受け入れた上で……
狩竜をさらに解放する
■■■
最後に、黒い陰がか細く何か言葉を呟いた……
だが、俺はそれには気付かずに力つきて膝を突く
「ジンヤ!」
そばにいたイリヤが心配そうに駆け寄ってきてくれたが……俺はそれに手を出して制止した
「大丈夫だ」
正直声を出すのもきつかったが、これ以上イリヤに頼るわけにはいかなかったので、俺は何とか夜月を杖にして、立ち上がって、狩竜の解放をやめる。
どうやら黒い陰の邪気を喰らって多少なりとも満足したのか、姿は元の狩竜となっている。
さらに刀身も、淡い光を放つ程度になっており、素直に俺の言うことを聞いた。
その様子にほっと一安心しつつ、俺は最後の仕上げを上にいるキャスターへと任せるために、念話で叫んだ。
『出番だ、キャスター』
『本当にやり遂げるとは思わなかったわね。褒めてあげるわ、坊や』
『ほざけ。わかってると思うが作戦通りのことをしなければ、俺が全力でお前を殺しに行くぞ』
『あなたみたいな謎の存在を敵に回すつもりはないわよ。後は任してもらわよ』
柳洞寺で待機していたキャスターの役割は、ここからだった。
何でもキャスターは、真っ黒に染まっていた聖杯ですらも使うことが出来るらしい。
が、それはあくまでも妨害も何もなく、また本人自身が万全の状態だったらという前提がつくらしい。
今の状況はまさにその状況と言っていいだろう。
俺の目の前には……黒い陰のみを吸収し、本来の姿を取り戻した大聖杯の姿があった。
つまり……魔力が満ちており、万能の願望機としての聖杯が、目の前にあった。
今回の作戦が成功した場合、聖杯が元通りになることが予想できたため、仮にうまくいった場合聖杯の扱いをどうするのか、作戦会議で話があがった。
そして残った連中で唯一願いがあったのが、キャスターだったのだ。
そのキャスターが、魔力を満たした聖杯に望んだことを、執行した。
聖杯の魔力がほとんどなくなったことからそれを察して、俺は何とかイリヤへと振り向き……唖然とした。
「イリヤ……なんだその恰好は?」
振り向いた先にいたイリヤの衣装が、先ほどまでの神々しさすらも感じさせる衣装と異なり、なんでかわからないが黄金に光り輝く衣装になっていた。
というよりも、見た感じ黄金そのものの様な感じだった。
「これは特別な礼装なの。人間に触れてしまうと黄金に戻ってしまう魔術回路の外装。だからさっきジンヤに触れたから、元の黄金に戻ったの」
「……それはすまなかった」
なんというか……形容しがたい恰好になっているのは俺のせいみたいだ。
それにたいして素直に謝罪したのだが、イリヤは悪戯が思いついたように、ニンマリと笑みを浮かべた。
「あんなにかっこつけてたのにわたしが助けないとダメだなんて、ジンヤはどうしようも無い人だね」
「面目ない」
返す言葉も無かった。
だが、イリヤはその俺に対して今度は満面の笑みを浮かべてくれた。
「でもありがとう。ジンヤ。まさか本当にどうにか出来るなんて、私も思ってなかった」
今はただ……この笑みが見られただけでも良しとしておくか……
俺はそう思って、イリヤに対して小さく頷いた。
そして俺は得物達を全て回収し、イリヤとともに歩き出した。
キャスターがうまく聖杯を使えたのかは地上に出なければわからないが、それでも大丈夫だろうと、なんとなくそう思った。
そして地下にいた全員が無事であることを確認して……遠坂凜も重傷ではあるが、なんとか命は助かりそうだった……俺達は地上へと戻った。
これが、第五次聖杯戦争の、あまりにもあり得ない幕切れであり……
そして始まりでもあった。