申し訳ないw
しかし獰猛化の奴らは面倒じゃの~
あとランクもう少し簡単にあがってほしい……
またモンハンの話でも書こうかなぁ……
うーん……大丈夫ってわかってるんだけど……
時刻はすでに夕方。
約束の時間には少々早いのだけれども、私は会場へと足を運んでいた。
会場……鉄さんが自分の家に帰るに伴って開催される送別会は、藤村先生の家で行われる。
そして藤村先生の実家は……いわゆる極道というおうちだった。
藤村先生はそんな感じじゃないんだけどね……
まだ若いのに剣道五段という……私も武芸にはそれなりに腕に自信はあるのだけれど、藤村先生には全く勝てる気がしない。
そして悔しいことに衛宮にも、弓の腕前でとてもじゃないけど叶わない。
さらにいえば……一つしか年齢が違わないのに、別次元の腕前を持っていると思える鉄さんもいて……
おかしい。腕にはそれなりに自信があったはずなのに……誰にも勝ててない
と一瞬自信をなくしかけてしまう。
けどそれも仕方のないことだと、自分で自分に言い訳しておいた。
三人とも全員が全員異常な腕前の持ち主だ。
でも衛宮になら……空手で戦えば勝てるかな?
といってもあいつの場合、試合でやらないと最終的に体力差で負ける気がする。
あいつの根性というか、なんというか……その辺は異常だから。
結局衛宮は色んな意味で異常に思える。
「入らないのですか?」
「へっ!?」
そうして私が藤村先生の家の入り口の門の前で、あーでもない、こーでもないと、実にどうでもいいことを考えていると、後ろから突然声をかけられて、私は飛び上がるほどに驚いてしまった。
間抜けな声を上げたことに顔を赤くして後ろを振り向くと、そこには絶世の美女という言葉ですら生ぬるいほどの美人がいた。
うっわ……。すっごい美人……
背が高く、出るところは出てて引っ込むべきところは引っ込んでいる。
地面につくんじゃないかと思えるほど長い髪。
これだけ長ければ先っぽが痛んでも不思議じゃないのに、その長い髪は夕日を浴びて輝いているようだった。
外国の人なのはその眼鏡の奥にある瞳の色と、美しく整った顔の造形を見れば一目瞭然だったけど……それにしたってこの人はあまりにも現実離れしていた。
またそれとは別に、別段格闘技の達人ってわけではないのだけれど、考え事をしていたとはいえここまで間合いに入られて何も感じないのに驚いたのだ。
さらにいえば……
すっごい失礼なのはわかってるんだけど……なんか苦手な気がする……
美人すぎて苦手なのか?
それとも間合いにあっさりと入られたからなのかわからないけど……何となくこの人を見ていると、背筋が少し冷たくなる気がした。
「今日この時間にここにいるということは、あなたもジンヤの送別会に呼ばれたのではないのですか?」
「ジンヤって……鉄さん?」
「はい。私はライダーと言います。あなたは?」
「っと、失礼しました。私は美綴綾子って言います」
「アヤコ……アヤコというのですか」
……何故だろう……。すっごい背筋が寒くなってくるんだけど
本当にどうしてかわからないけど、このライダーさんって人が、異様に怖く感じてしまう。
私にも問題があるのかも知れないけど、それでも……
人の名前を言いながら妖艶に笑わないでよ!?
何故か知らないけどこの人……私の名前を呟きながら微笑んでいるのだ。
それも実に妖しく。
その妖しい笑みが、元の美人さと相まって、非常に艶めかしいって言うか……同姓の私でさえも思わず色気を感じてしまうほど、エロかった。
でも……何故かその妖艶さが、私の背筋を寒くさせた。
「アヤコ……と、呼んでもいいでしょうか?」
「へ? は、はい……。別にいいですけど」
出会って間もないのに、いきなり下の名前で呼んでくるのは、外国の人だからなのかわからないけど、慌てていてそれどころではなかった。
「そうですか。それではアヤコ。先ほども言いましたが何故入らないのですか?」
「あ、いえ。その……なんか入りづらくって」
しかしすぐにその雰囲気を消して、私に先ほどと同じ質問を投げかけてきた。
普通に戻ったというのにそれでもなお、何でかこの人に苦手意識が消えない私だったけれども、それを出しては失礼なので何とか通常通りに答えた。
言っていることは嘘ではなかったので、演技でもない。
実際、入りにくいことは事実だったのだから。
衛宮は大丈夫っていってたけどねぇ。いや、わかってるけどさぁ
何せあの藤村先生の家だ。
変な人がいない事なんてわかりきっている。
でもそれでもやっぱり躊躇してしまうのは、失礼とかではなく当たり前の事だと思う。
っていうか……あなたもっていったよね。この人。それにジンヤって……名前で呼ぶのは外国の人だから?
何となく、名前の呼び方にどこか普通とは違う感じがして、私は何となく胸にモヤッとしたものが生まれた。
鉄さんに限ってただ美人ってだけで人を好きになったりはしないだろうけど、それでもこれだけの美人の人が、ただ「美人」ってだけではないということが、何となく直感ですらもないのだけれど、わかってしまった。
というか……
なんか……その美貌に目がいってたけど、この人もすごい人な気がする……
ふと思いついてこの人と戦う姿を想像してみたのだけれど……全く打ち込めるイメージが思い浮かばない。
というよりも触れることすら出来ないかも知れない。
私的な哲学で「美人は武道をしなければならない」っていうのを勝手に考えているけど、この人はそれに当てはめれば飛び級だ。
「それとアヤコ。「あなた」だなんて他人行儀な。私のことは是非ライダーと呼んでください」
何でこんな顔を近づけてくるの!?
何でか知らないけど手を握られて、キスが出来るほどの距離に顔を近づけてきて、同姓であるにもかかわらず何故か胸が高鳴ってしまった。
高鳴る理由がいやな意味なのが……よくわからない。
でもなんでかわからないけど、その胸の高鳴りがいくつもの感情が起因していると、何でかわかってしまった。
「え……えっと。あの、顔が近い……です」
「ふふ、カワイイ顔ですね」
吐息が直接頬に触れてくる程の距離で、思わず固まってしまう。
そんな私に優しく微笑みながら……さらに顔を近づけようとして来て……
「なにやってんだライダー? こんなところで」
新たな人の登場で、何とか普通に戻ることが出来た。
近づけていた顔を元の位置に戻して、目の前の人……ライダーさんが後ろに振り向いて、新たな人と対峙した。
そして私も何故かほっとしつつ、ライダーさんに声をかけてきた人を見るのだけれど……
……うわぁ、かっこいい人だなぁ
素直にそう思える人だった。
冬だというのに白いTシャツと革ジャンを纏っているだけだ。
下は黒いレザーパンツ。
皮だから風は通さないだろうけど、それでもあまりにも薄手だった。
長い髪を後ろで一つに束ねている。
そんなハリウッドに出てきても不思議じゃないほどかっこいい人だったけど、それを鼻にかけない、実に快活な笑みが印象的な人だった。
だけど……持ち物が少し変だった。
あれって……クーラーボックス?
「ランサー、あなたも呼ばれたのですか?」
「あぁ。するってえとお前さんもって事だな。というかお前さんはきていいのか? 嬢ちゃんの世話だってあんだろ?」
世話?
世話とは一体どういう意味なのかわからずに、私は思わず疑問符を浮かべる。
けれど興味本位で聞いていい話ではないとわかって、口にすることはなかった。
「それに関しては問題ありません。リンが買って出てくれました。報酬の検分なんかを行うから私に行ってこいと」
「あの嬢ちゃんがか? 確かにあの嬢ちゃんのは金食うだろうが……あいつ、一体何を渡したんだ?」
「私も見せてもらいましたが、異常な物でしたよ。一体……どこからあの人は来たんだか」
……全くわからない
関係のない話に加わるわけにもいかないので、私はただ黙って二人の話を聞いているしかなかった。
すると、後から来た男性が、私に笑みを浮かべながら手を差し出してきた。
「初めましてだな嬢ちゃん。俺はランサーっていう。ここにいるって事は、お嬢ちゃんもあの坊主に呼ばれてきたんだろ?」
「美綴綾子といいます。坊主って言うのは鉄さんですか? あなたも呼ばれたんですか?」
「おうよ。うまいもん食わせてくれるらしいからな。はせ参じた」
鉄さんは色んな知り合いがいるなと思ってしまう。
ライダーさんもランサーさんも……というかこれって名前なの?……計り知れないぐらいに強そうな感じだった。
見た感じどっちも私よりも年上みたいだけど、仮に私が同じ年齢まで修行をしてもたどり着けないところにいることだけはよくわかった。
って……いうか……
「あの……手を……」
「おっとすまねぇ。嬢ちゃんがかわいいもんだからつい、な」
「か、かわいいって……」
かわいいと言われたことがあんまり無くって、私は自分の顔が赤くなっていることがわかった。
武道をやっているからか、性格も勝ち気って言うか……男勝りな感じになってしまったので、かっこいいとは言われることは多々あっても、かわいいと言われることはほとんど無いのだ。
けれど、ただかわいいと言われただけ反応するほど私も単純ではない。
単純ではないのだけれど……
凄腕で、美形の外国の人に言われたからって……
それだけで反応してしまう自分に少し苦笑してしまう。
するとそんな私をどう見たのか、ライダーさんがすっとまた吐息が感じられるほどそばに来て、私にほほえみかけてきた。
「謙遜することはありませんアヤコ。あなたは他の人よりよほどかわいらしい」
「え……えっと……」
ライダーさんも凄腕だし、美人なんだけれど……何故かこの人に言われたら嬉しさよりも恐怖が上回ってしまう。
「……何をしたいのかはわからないがライダーに嬢ちゃん。入ろうぜ? そろそろ始まるぞ?」
何をしたいって……どういう意味!?
ランサーさんが言ってきたその言葉に、思わずそう叫びたかったけど……墓穴を掘りそうだったので、すんでの所でやめておいた。
「邪魔をしないでほしいのですが、ランサー」
「いや邪魔をするつもりはないんだが……とりあえず招待されてんだろ? さすがに招待に応じておきながら、入りもしないで家の前で別のことをするってのはどうなんだ?」
「……それもそうですね」
ランサーさんの言葉に渋々了承して、ライダーさんが私から離れてくれる。
失礼かも知れないけど、それに少し安堵しつつ、私は何でかしらないけど三人で藤村先生の家に入っていく事になった。
でもそのおかげであまり緊張しないで入れた。
「失礼。本日はどのようなご用件で?」
黒いスーツでばしっと決めた人が、声をかけてくる。
雰囲気から言ってもたぶん、結構強い人だと思う。
一人だとこんな感じで声をかけられたら、少々怯えていたと思う。
「坊主……ジンヤだったか? に招待されて今日の送別会に馳走になりに来たんだ。よろしくな」
「私も同じく、ジンヤに招待を受けました」
「わ、私もです」
でもやっぱり怖くないと言えば嘘になるので、普段通りとはいかなかったけれど。
「失礼しました。まだ揃ってはおりませんが、すでに何名かはお見えになっております。また刃夜様もすでに会場へいらっしゃいます。会場までご案内させていただきます」
そう言って私たちを先導してくれる。
そして案内されながらきょろきょろと家の中を失礼かも知れないけど、見ていて思った。
すごい邸宅だなぁ……
衛宮の家も何度か邪魔したことがあるけれども、それ以上に藤村先生の家は立派だった。
まさに和の家。
それもとびっきり上の方の。
そして案内された部屋も、八十畳はありそうな大きな和室で……そこにはすでに鉄さんがいて、立派な床の間の前に座っている老人の人と、楽しそうに話をしていた。
そしてその人の雰囲気もまた普通とは違って……それで私はその人がこの組の長、藤村先生の祖父の雷画さんであることがわかった。
「おう坊主、来たぞ。招いてくれてありがとうな。飯も酒もあるんだろうな?」
「来てくれたかランサー。まだ始まる前だが雷画さんが奮発してくれてかなりの量がある。質もいいから期待してくれて構わない」
「そいつは楽しみだ。つってもよ、もらってばっかってのも気が引けるからな。ちょいと港で釣りをしてきた。釣ったばかりで新鮮だぜ? 物も結構いいのが釣れたからよ。なんか調理してくれや」
「ほ、それは重畳。ありがたいな。つーか釣りって……」
「? 変か?」
「いや、いんだけどさ。実になじんでるな?」
「おうよ。他にもバイトもやってるぜ? 花屋とか、喫茶店の店員とか。自分の飲みの代金くらいは稼がないとな」
「……お前」
普通の会話のはずなのに、鉄さんがランサーさんの話を聞いてどんどん渋面になっていく。
最後にはもうどう言う顔をしていいのかわからないのか、実に表現に困る表情をしていた。
「バイトなら私もしてますよ」
「ライダーもか?」
「えぇ。さすがに居候の身ですから、最低限の生活費は入れないと」
「えらいな」
「それが普通です」
結構二人と親しいのか、鉄さんが楽しそうに?会話をしている。
雷画さんが初対面のため、鉄さんがそこそこで話を切り上げて雷画さんに紹介をし始める。
「雷画さん。こちらは私がワガママを言って招待させていただきました人たちです。ご紹介させていただいてよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも刃夜君。お三方、よくぞ来てくれた。本日は楽しんでいってくれ」
そう言いながら笑うのだけれども、深い皺が一種のすごみを与えている。
けれどもそれ以上に歓迎しているのがわかるので、怖いとは不思議と思わない人だった。
まぁ怒らせたら絶対に怖いって言うか……やばいんだろうけど……
そんな事を考えながら鉄さんの紹介にあわせて、私も雷画さんにご挨拶をさせていただいた。
「美綴綾子といいます。本日はお招きいただきましてありがとうございます」
「孫の大河から話は聞いている。いつも孫が世話になっている。弓道部の部長を務めているようだな。今度士郎と一緒に射を見せてくれ」
「そ、そんな。私なんか見せられるような腕前じゃ」
鉄さんという見知った人がそばにいたおかげで、何とか普通に挨拶が出来たのだけれど、射を見せて欲しいなんて言われて思わず焦ってしまう。
勝手なイメージだけど、この雷画さんも相当出来る人だと思う。
そんな熟練者の前で射を見せるほど、まだ私はうまくないと思う。
「謙遜するな美綴。少なくとも俺の弓術よりはよほど腕がいいぞ」
「今自分でも言ってましたけど、鉄さんのは術であって道じゃないでしょ?」
「ほう、アヤコは弓をやるのですか。今度見てみたいですね」
「何かしらやるとは思ってたが弓か? その割にはなんか間合いの取り方が槍とかの長物を手にした感じの取り方に思えたが?」
うわ、読まれてる
ランサーさんにそう言われて、私は再度驚いた。
まぁでも鉄さんの知り合いだから、ある意味当然なのかも知れない。
「というかよ坊主。今度俺と手合わせしねえか? お前さんとはやり合ったが、あれはどう考えても本調子じゃなかっただろ?」
「対人戦が久しぶりだったからまぁ本調子じゃなかったな。勝負したい気持ちが俺にもなくはないが、俺は帰るための準備に忙しくてな。他を当たってくれると嬉しいんだが」
「ほう、刃夜君との勝負か? 見てみたいな」
「雷画さん、こいつ確実に暴走すると思うので、焚きつけるのやめてください」
「失礼な奴だな、俺だってTPOってのは知ってるんだぜ?」
「……失礼だが色んな意味でその言葉、すっごい違和感がある」
楽しそうに会話するなぁ
手合わせってのはおそらくそういうことなんだろうけど、二人は楽しそうに会話をしていた。
でもその会話の内容は、おそらく今の雰囲気ほど生やさしい物ではないのだろう。
なんとなくそんな感じがした。
楽しそうだけど実は危ない会話をしていると思いつつ、男二人の間に入れないので何となく口を閉ざしてしまう。
「ジンヤが気になりますか? アヤコ」
そうして口を閉ざしていると、私の隣に来たライダーさんが質問してきた。
失礼だけど思わずびくっと反応してしまう。
けれど先ほどと違って、ライダーさんもただ普通に隣に来ただけで、妙に距離が近いとかはなかった。
鉄さんを見るその瞳は……どこか不思議な物を見ている、そんな気がした。
「気になるって言えば……まぁ気になります」
初めてあった人に、鉄さんに恋をしているなんて言えるわけもなく、私はただ誤魔化すようにそう返していた。
ただライダーさんも先ほどの雰囲気と違い、真剣な瞳を鉄さんに向けている。
「私も気になります。あの男のことが」
それって……
ライダーさんが言っている気になること。
それは私のとはちょっと違った物に聞こえた気がした。
だったのに……
「考えていることが一緒だなんて、気が合いますねアヤコ」
「へ?」
「よければアヤコの知っているジンヤのことを、聞かせてもらえませんか?」
先ほどまでの雰囲気はどこへやら、再び微笑みながら……その微笑みが何故かわからないけど寒気を感じる!……私の手を握って来た。
内心怯えながら、それでも多少距離を離して、私はライダーさんに自分の知っている鉄さんの事を話した。
「……そうですか」
私の話をひとしきり聞いて、ライダーさんは小さく、だけどはっきりと頷いた。
そしてさっきと同じ目を……不思議な感情を抱いた瞳を、鉄さんに向けている。
その当の本人は……
「腕相撲ってのが微妙だなぁ。どうせだったら本気でやろうぜ?」
「そうしたら送別会どころじゃなくなるだろ」
「いやそうかもしれねぇけどよお」
「これが最大限の譲歩だから、これ以上は譲れないぞ」
どうやら勝負勝負と言ってくるランサーさんに根負けして、腕相撲を行うことにしたみたいだった。
文句を言いながら、嬉々とした表情で腕を机にのせるランサーさんとは対照的に、鉄さんの渋々といった感じの表情が、実に印象的だった。
でも……腕を組んで戦闘態勢に入った瞬間、鉄さんの表情も、実に好戦的な物へと変わった。
実に好戦的な……楽しそうな笑みへと変わった。
それを見て、ランサーさんも同じような笑みを浮かべる。
その二人の笑みが、あまりにも同じ感じで……思わず寒気を感じてしまった。
あまりにも……普通とはかけ離れた笑みをしていたから。
「ライダー。開始の合図頼むわ」
「……わかりました」
そんな二人の笑みに何ら気圧されることもなく、ライダーさんは鉄さんに頼まれて、二人のそばに歩み寄り、組まれた手に自らの手を置いた。
そのライダーさんの顔にも、僅かだけれども……同じ類の笑みが浮かんでいることが、何故か私にはわかった。
わかってしまった。
「用意……」
そして、一瞬の攻防の火ぶたが降ろされた。
「はじめ!」
その瞬間……この場は戦場となった。
「申し訳ありません!」
「なに、謝ることはないさ刃夜君」
「しかし……この机、相当いい物では……」
「今の試合の観戦料と思えば安い物だ」
戦闘時間は僅か一分足らず。
その一分の攻防で……
藤村組組長宅にある、ものごっつい貴重な机に盛大なヒビが出来た。
ヒビと言うよりも亀裂。
もはや使い物にならないだろう。
おそらく相当高いはずだ。
更に藤村組にある机。
下手をすれば何十年、何百年使用されていたかも知れないのだ。
その歴史の重み……思いでは、どう頑張っても金には換えられない。
「安心してくれ。それは本当に最近仕入れたばかりの物だから、そこまで貴重な物じゃない。値段はそこそこしたが、今の戦いをみれたのならばおつりが来る」
「本当にすみません」
歴史的重みは無くとも、貴重な物に変わりはない。
俺が残りの金で出せる物であればいいのだが……。
「いやすまなかったなじいさん。俺もつい本気を出しちまったんだが……まさか壊れるとは思わなかった」
「気にしなくていい、ランサーさん。刃夜君にも言ったが、今のをみれたのであれば安い物よ」
「すまねえな」
「お前は……もうちょっと悪びれるって言うか」
「壊れた物はしょうがないだろう? じいさんもいいって言ってくれてるんだ。あまり気にしすぎるのも失礼だと思うぞ?」
「それは……」
ランサーの言うことも一理ある。
迷惑をかけたのは事実だが、無理をしている様子は見られないので、俺は再度深く頭を下げて謝罪し、それで終わりにさせてもらった。
美綴がすごく呆気にとられているのが、実に印象的だった。
そう言えばあまり美綴には、俺の実力的な物は見せてなかったんだっけか?
ライダーに襲われていたのを助けた時に、見せたと言えば見せたことになるのかも知れないが……まぁ覚えていないだろう。
「組長。準備が整いました。まだ揃ってない方もいますが、遅れると連絡をいただいております。先に始めた方がよいかと」
「うむ。皆さん、準備が出来たようだ。一度座ってもらおう」
組員の人が会釈をしながらこちらにきて、準備が出来たことを教えてくれる。
そして始めるために、一度席に着くことになった。
正直ライダーが来るこの送別会……自分が送られる側だというのに自分で送別会というのは恥ずかしいな……に呼ぶのは少し気が引けたのだが、それでも美綴には相当世話になったので、呼びたかったのだ。
まぁ……俺が本番の前に少し気持ちを落ち着かせておきたいというのもあったのだが
本番は少し先だ。
それまでに、心の整理をしておこう。
というか……
「アヤコ。隣よろしいですか?」
「いや、いいですけど……。近くないですか?」
「そんなことはありません。むしろ遠いくらいです」
「いや、絶対にそんなことはないと思うんですけど……」
何であんなに美綴の事、気に入ってるんだ?
好き好きオーラ全開というか……すごい気に入っているようだ。
対して美綴は本気で嫌という訳ではなさそうだが、それでもあまりにもライダーの過剰なスキンシップに、少々怯えているようだった。
襲われたんだから、本能的に怖がっている感じかな?
まぁ本当にやばそうだった場合は止めに入ろう。
ライダーが襲ったのも、聖杯戦争のために必要だったから襲ったのであって、美綴自身に恨みなんかがあるわけではないのだろう。
それはそうだ。
ライダーが遙か昔の存在だ。
美綴と直接関係があるわけがない。
まぁ何でここまで気に入っているのかは、後でそれとなく聞いておくか
美綴があわてふためくのを横目にしながら、俺は内心でそう考えていた。
ちなみに、後に聞いてその内容のひどさに思わず呆れて、聞きたくなかったと思ってしまう俺だった。
その後すぐに士郎とセイバー、さらにイリヤが会場に姿を見せて、刃夜の送別会が行われた。
送別会といっても、別段湿っぽい状況にはならなかった。
当の本人である刃夜がそれを嫌ったからだ。
といっても、最初はさすがに藤村組の連中から別れを惜しまれていて、刃夜もさすがにそれを拒否するようなことはしなかった。
だがそれでも、心中複雑そうな表情はしていた。
しかしそれも一瞬だった。
「今日は呑め!」
という、組長命令?が発せられて、後はどんちゃん騒ぎだった。
「鉄さん! 料理が足りない! 士郎と一緒に作ってきて!」
「藤ねえ。俺はともかく刃夜は主賓だぞ?」
「別に構わないぞ。ランサーが持ってきた魚で肴を……」
「その親父ギャグはどうかと思うぞ、坊主?」
「……そんなつもりでは」
呑む、食う、騒ぐ。
普通の家でこんな事などしようものなら文句の一つも飛んでくるだろうが、ここは天下の藤村組。
敷地が圧倒的に広いため、近所迷惑という概念があまりない。
さらにいえば藤村組は地元でも大変評判のいい極道の家。
むしろ藤村組が世話になった人の送別会ということで、近所の家の人が差し入れを持ってくる位だった。
そのため、酒も肴も無くなるどころか増える一方だった。
「勝負だ! ランサー!」
「いいだろう坊主! 勝負だ!」
※お酒は二十歳になってから
「私も乗った!」
「藤ねえ、勝てないからよせって」
刃夜とランサーが飲み比べで競い合ったりもした。
といっても、どちらも相当強かったため、勝敗はつかなかったのだが。
参加した全ての人間が楽しそうに騒いでいた。
「シロウ、これは何という料理ですか?」
「それは小籠包って中国の料理だ。食べるんだったら熱いから気をつけてな、セイバー」
「鉄さんに触発されてから、調理師が一から勉強し直しましたので、だいぶうまくなっております」
「唐揚げなくなっちゃった! もうないの?」
「イリヤ、今揚げているみたいだから、待ってろ。というか、いくら好きだからって、一皿は食べ過ぎ」
「いいじゃないジンヤ。おいしいからたべちゃうんだもん」
出される料理に夢中になって食事を味わっているセイバーがいた。
イリヤももりもりと唐揚げをほおばって満足そうだった。
「知識としては一応知っていましたが……こうも多種多様な料理が並ぶと壮観ですね」
「まぁ大人数だからな。これだけいろんなのが食えるんだから、来た甲斐があったってもんだ」
出された料理を一つ一つ吟味……というよりも、少々驚きながら食事を進めるライダーに、少々酔ったランサーが笑いながら話しかける。
それに気を悪くするわけでもなく、ライダーはランサーと共に料理の話で盛り上がっている。
「本当に、お世話になりました」
「よいよい。むしろ刃夜君のおかげで皆にもいい刺激になった。中には木刀を毎日素振りしている奴までおるくらいよ。感謝するのはこちらの方だ」
「恐縮です」
呑みながらも酔ってない刃夜が、改めて雷画に御礼を述べている。
その背後に忍び寄る、タイガー。
だったが……
「そんなずさんな隠形で俺の背後を取れるとでも?」
「うおぅ!? いつのまに背後に!?」
「ならずさんじゃない隠形ならいいんだな?」
「だからランサー! この場で争ったらとんでもないことになるだろう!?」
「ならここじゃないとこ――」
「せんわ!」
逆に背後をとった刃夜の背後に、ランサーが忍び寄ってギャーギャーと騒ぎ立てる。
大騒ぎだった。
だがその喧噪は、別れの寂しさはあっても、誰もが楽しそうに笑っていた。
その騒ぎを楽しんでいるなか、席を立つ刃夜の姿があった。
なるべく姿を見られないように静かに行動し、襖を開けて廊下へと出て行く。
その後を追う姿が、あった。
「何か用か?」
宴会場から出て廊下を進み、曲がり角のところで、壁に背を預けて立っている、刃夜の姿があった。
「さっきからそれとなく俺のこと見てただろ? 何か用事があるとは思ったが……すまなかったな。俺は藤村組には本当にお世話になったのでな。一通り挨拶が終えるまでは放置させてもらった」
「……構いません」
追ってきた人物……ライダーは気付かれたことに驚くことなく、小さくそう呟いた。
しかし瞳の中に宿った感情を見て、思うところがあったのか刃夜は先導し、置かれている雪駄を履いて広い庭へと……月光が照らす庭へと躍り出た。
ライダーもそれに対して何かを言うことはなく、同じように雪駄を履いて刃夜の後を追った。
綺麗ですね……
月明かりに照らされた庭の風景を見て、私はそう思った。
立派な庭園だ。
手入れが行き届いており、管理をしている人間が、どれだけ大事にしているのかがわかる。だからこそ光に照らされた庭が、美しいとそう思った。
「それで、何の用だ?」
私が何かしら話があると思い、席を立って時間を設けてくれた存在へと、私は目を向ける。
鉄刃夜。
人間でありながらサーヴァントである私達に互角以上の戦いをする、不思議な存在。
並行世界から訪れたという彼は、そのあり得ないほど長い野太刀で私を……サクラを救ってくれた。
サクラが多くの人を殺したというのに。
おそらくこの人は知っていたはずだ。
あの黒い陰が、サクラであることを。
であるにもかかわらず、この人はサクラとシロウの手助けを買って出た。
この人が助けに入っていなければ、今とは違う結果になっていただろう。
サクラが完全に人でなくなっていたかも知れない。
シロウが帰らぬ人となっていたかも知れない。
もしかしたら
サクラに覚醒を促したことがあったりと、全ての行為を肯定するわけではない。
けれでもあまりにも不思議な人だった。
そしてどうしても聞きたいことが……私にはあった。
「あなたは自分のことを、並行世界から来た人間だと話していましたね?」
「おうよ。紛れもなく俺は並行世界の人間だ」
淡々と語る私の口調に合わせるように、この人も……ジンヤもまた淡々と返してきた。
並行世界……彼が生まれ育った世界で、彼がどのような人生を歩んでいたのかはわからない。
だけど、少しでも彼の剣技を見ればすぐにわかる。
疑う余地もないほどに。
「詳しくは聞きません。大体検討はついていますので」
「ほう?」
「それでもどうしても聞かせて欲しい」
「……何をだ?」
「サクラは……どうすれば赦されると思いますか?」
それが私が聞きたかったことだった。
無自覚とはいえ、サクラは多くの人間の命を奪ってしまった。
その行為は、言い逃れすることができない。
だがそれでも……サクラが本当に望んでしたことがないとわかっているから、どうしても聞きたかったのだ。
おそらく……同じ事をしているジンヤに。
同じ人殺しである……ジンヤに。
そんな私の問いに対して彼は……
「赦されることはないだろう」
はっきりと……そう告げていた。
そんな気はしたけど、やっぱりか
そんな気はしていた。
桜ちゃんの看病を遠坂にお願いしてまで、何故この場にライダーが参加したのか?
と考えれば、桜ちゃんに関連することで聞きたいことであるというのが、わかる。
そして桜ちゃん関連で、もっとも重たい話題というのは、間違いなくこれしかない。
だから俺は自分の素直な気持ちを、告げることにした。
「赦されない……と?」
「正直に言えば、わからないってのが本音なんだが、それでも俺の意見を述べるのであれば、赦されない……というよりも赦しちゃいけないんだ。己自身を」
「自分を?」
刃夜の言葉に意味がわからず、ライダーはただ困惑するしかない。
だが……嘘でも冗談でもなく、本音を話していることは、月明かりに照らされた刃夜の自嘲気味な表情を見れば、すぐにわかった。
だからこそ、ライダーはただ黙って聞いた。
「そう言えば、話してなかったっけか? 俺が並行世界でどんな人間だったのか?」
「……ということはやはりあなたも」
「あぁ。俺は人殺しだ」
淡々と語られるその言葉には、特段感情は込められていなかった。
というよりも努めてそうしているのだと、ライダーは気がついた。
「誤解がないように言っておくが、別段快楽殺人とかをしていた訳じゃないぞ?」
「それは聞くまでもなくわかっています」
互いに言うまでもなくわかっていることだった。
だがそれをあえていったのは、おそらく自分でも言葉を探しているからなのだろう。
しばし月を見上げながら……刃夜は更に話を続けた。
「弱者をいたぶり、弱者から命という名の金を啜りとるクズ共を殺すのが、俺が自らの世界で行っていた所行だ。弱者達をいたぶる連中を殺すことで、多少なりとも人の命が……人の尊厳が救われることを信じて」
そして語られる、刃夜の悪行。
誰かのためにと信じて人を斬り……誰かを助けるために悪人を殺した。
今は借家であるあの料理の店においてきた、夜月が……どれほどの人間の血を吸ってきたのかを。
「言い訳にもならないが、俺は殺人をするのが好きじゃない。殺さないで解決出来る方法を模索したこともあった。だが、俺は考えるのが苦手なのか、頭が悪いのか……その間に、何人もの人が命を落とした」
無味乾燥の言葉で語られていく。
その怖いくらいに感情のこもらない言葉が……刃夜の心境を語っているようだった。
「言い訳はしない。俺は間違いなく人殺しだ。だからこそ……俺は赦されちゃいけない。己自身を、赦してしまってはいけないんだと思う」
「赦してはいけない?」
「そうだ。どんな理屈を並べたところで、俺が人を殺したことに変わりはない。殺人がしたいわけじゃない。可能なら殺したくない。だが、それでも俺はこれからも、人を助けるために人を斬るだろう。そして償える方法を一生をかけて見つけて、償うために生きていく。いつか……自分が赦されるかもしない日がくると信じて」
目を瞑り、ただ静かに瞑想する。
その閉じた瞳は……一体何を見ているのだろうか?
そう問いたくなったライダーだった。
「いずれ死ぬその瞬間まで、俺は償い続ける。「殺す」という選択肢しかとることの出来なかった未熟な自分が、赦されるかも知れないと信じて。だが決して赦されるはずがない。それでも……例え赦されなくても、最後の最後まで償い続けることが、俺が最低限しなければいけない事なんだと思う。もういいと……自分に言い訳するのは簡単だ。だがそれは決してしちゃいけない、傲慢な選択だ。理由があり、しなければいけなかったとはいえ、相手の命を奪い、全てを奪い、何も考えることも、動くことすらも出来なくしたのは自分なのだから」
人の命を奪った責任を果たすために、多くの人と望まぬ別れをした男の……言葉だった。
だがそれでも、最初と違い……その言葉に若干の迷いのような感情が漏れ出ていることが、ライダーは気になった。
しかしそれを聞くことは……ライダーには出来なかった。
「だがこれはあくまでも俺の考えであり、俺の意見だ。だから桜ちゃんに当てはまるかどうかはわからない。言うなれば桜ちゃんは「奪われる」側だったのだから。だがそれでも人を殺したことに変わりはない。だから……これから先のことは自分が考えなきゃいけない」
「……自分で」
「俺と桜ちゃんは、当たり前だが違う存在だ。だから、犯した罪も、これから償っていく方法も、当然違う。だが、これだけは言える。絶対に償うのをやめないこと。これだけは、俺が確信を持って言えることだ」
な……なんかただならぬ雰囲気なんだけど……
席を立った鉄さんについていくようにいなくなったライダーさんの事がどうしても気になって、思わず自分も宴会場を抜け出して二人を捜した。
すると、庭で話をしている二人の雰囲気があまりにも普通じゃなかったので、何故か知らないけど咄嗟に隠れてしまった。
いけないことだと思いつつも、私は自分の欲求を堪えることが出来ずに、こうして隠れて二人を見ていた。
遠いから何を話しているのかはわからないけど……あの二人って、そう言う関係なの?
会話が全く聞こえないので、邪推というか勝手な想像だけど……あまりにも普通な事を話しているようには見えなかった。
かといって邪魔をするわけには当然いかないし、割ってはいることなんて怖くて出来ない。
でもこの場を去ることも出来なくて……
……柄じゃないなぁ
自分がすごく小さな人間だということがよくわかってしまう。
勇気を持って話を聞きに行くことも出来なくて。
図々しく、話を終わらせるために割ってはいることも出来ない。
かといって邪魔をしないように、潔くこの場を去ることも出来なくて……。
本当に、調子が狂うなぁ
これが人を好きになるって事なのかなぁ、とそんなことを考えてしまう。
「どうしたのですか、アヤコ?」
「っっっうわぁっ!?」
実に情けない事でもやもやしていると、突然背後から声をかけられて思わず飛び上がってしまった……文字通り。
慌てて振り返ると、さっきまで鉄さんと庭で話をしていたはずのライダーさんがそこにいて……。
さらに鉄さんも戻ってきていて……
うわ……覗いてたのばれた?
と、ちょっと焦ったりするんだけど……言い訳も思い浮かばず、思わず苦笑いすることしかできなかった。
「トイレか?」
「……ジンヤ。女性にその質問はどうかと思いますよ?」
「……失礼しました」
そんなやりとりをし出す二人。
その仲の良さに思わず少し複雑な気持ちになってしまう。
「でも会場を抜け出すとしたらそれしかないだろう? トイレの場所がわからなかったのか?」
「えっと……」
そこまで言って気がついた。
おそらくそう言うことにしようとしているんだって。
おそらく二人とも私が覗いていたのを知っている。
けれどそれをなかったことにしようとしてくれているのが、わかった。
鉄さんの台詞で。
一瞬そう言うことにしようと思ったけど……なんかそれは違う気がした。
何故か……無性に対抗意識が沸いてしまった。
ライダーさんにも……自分自身にも。
なんでだかわからないけど、これで終わらせるのは違う気がしたのだ。
それに前決めたはずだ。
自分の恋愛を自分で諦めてたまるか! って……
だから思わず……こう口走っていた。
「いや、二人がいなくなってるのに気付いて、探してたんですが……お邪魔でしたか?」
実にけろっと、何故かそんな言葉が口から出ていた。
あっけらかんと、快活な感じで。
演技が少し入っているけど、本当の事なので、自然と言えた。
そんな私に一瞬二人がきょとんとしていた。
あ、前みたいになんか勝った気がする
定食屋に朝お邪魔している時に、買い物をもう一度付き合って欲しいといった時。
あのときも今みたいに鉄さんの意表を突くことが出来たんだった。
別段狙った訳じゃないけれど、前と同じような表情をさせることができたのが、何となく嬉しかった。
そんな私を見て、鉄さんは一度苦笑する。
ライダーさんは……何故か知らないけど、実に嬉しそうに妖しく笑っている。
えっと……なんで?
ライダーさんの笑みが意味が非常に気になるところだった。
けどその笑みの意味を聞くのも怖かった。
弱いなぁ……私
自分の臆病さが、情けなく思えてしまう。
そんな私のことをどう思ったのかはわからないけど、鉄さんはすっごいいい笑顔で、こういってくる。
「さすがというかなんというか。美綴。お前は本当にかっこいいよ」
「そのかっこいいって、女としてはちょっと微妙なんですけど」
「無論かわいさもあるけどな。それ以上に、お前はすごい奴だよ」
すごいって……鉄さんに言われてもなぁ
自分自身私の何がすごいのかわからないので、すごいと言われても皮肉にしか思えないんだけど、鉄さんが皮肉を言う理由も無いので、私は首を傾げるしかない。
そしてライダーさんは何故か知らないけど、実に妖しそうに微笑んでいる。
それがすごい怖いんだけど……でもすぐに小さく普通に微笑んで、鉄さんに向き直った。
「ではジンヤ。私は先に戻っています。興味深い話を聞かせてもらって、ありがとうございました」
「俺個人の意見だからな。的外れであっても怒るなよ?」
「……怒りません。決して」
鉄さんに向き直っているため、ライダーさんの表情を見ることは出来ない。
僅かに頭を垂れているため、おそらく鉄さんにもライダーさんの表情を見ることは出来てないだろう。
でもそれでもわかってしまった。
本当に大事なことを聞けたのか、ライダーさんが感謝していることが、よくわかった。
「……そうか。ならよかった」
鉄さんもライダーさんの態度に対して、何も言わずただそう呟いていた。
二人はそれで終わったとでも言うように、互いに何も言わず、互いの顔も見ずに、わかれた。
といっても、ライダーさんは会場に戻っただけなのだけれど。
そして後には……残される私と鉄さん。
え……えっと……。これは正直予想外……
何も考えないで来てしまった上に、何も考えずにただ対抗心でさっきみたいなことを呟いただけで、こんな事になるとは全く予想していなかった。
ど……どうしよう
さっき負けてたまるかっていうか……そのなんか知らないけど対抗心を燃やして、とんでもないことを口走っちゃったけど……。
こんな事になるなんて予想してなかったから、正直どうすればいいのかもわからない。
だから思わず、気まずくなってしまうのだけれど……それを払拭するために、自分の両頬を叩いた。
痛い……。でもすっきりした!
前に決めたのだ。
自分の恋愛を自分で諦めないこと。
そして鉄さんを惚れさせるような存在になるって事を。
だったら、ここでわたわたしている訳にはいかない。
何よりも自分らしくない。
確かに武芸的な意味では鉄さんには逆立ちしたって勝てないだろう。
けど、だからといって攻めない理由にはならないのだ。
相手が強くても、それが攻撃しない理由にならない。
しちゃいけない。
だから、私は一度小さく吐息を吐いて……こういった。
「鉄さん」
「……なんだ?」
「買い物に、付き合ってくれませんか?」
意識しなくても、とびきりの笑顔でそう問うことが出来た……。
そんな気がした。