月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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キャラ崩壊していないかが心配だよ……







うっかり娘

キャラ崩壊していないかが心配だよ……

 

 

 

 

私がその人を見たのは偶然だった。

学園からの帰り道に、深山町の商店街で偶然目にしたのだ。

私はまだ外にいるにもかかわらず、思わず驚愕の声を上げそうになったくらいだった。

 

……何……あいつ?

 

商店街にいた……一人の男。

別段、目立っていた訳じゃない。

身長は普通だし、特に太っているというわけでもない。

だが、その服の下には鍛えられた無駄のない体躯をしているのは、何となくわかってしまった。

私よりもすこし年上だろうか……。

私から見た外見上のその男はその程度の存在だった。

 

だけど……すこしでも内面を……その内側にある物を感じ取ることが出来るのならば、その男の特異性に気づいてしまう。

 

……何、あいつの中にある物体

 

物体と言うよりも力その物と言っていいかもしれない。

何が在るのかまではわからないけど……少なくとも普通の人間が手にするような物ではないと思える。

しかも規模が大きすぎて……遠目で見ただけでは私にはそれが何なのかわからなかった。

 

まるで体内に、弾のない巨大な砲台を有しているような……そんな人間。

 

しかもこの男はそれだけで終わらなかった。

帰宅中の学生が買い食いや寄り道で数多くいて、さらに主婦達でにぎわうマウント深山の商店街で、相手ははっきりと……それとなく観察していた私に目を向けたのだ。

数十mは離れている私に、迷うことなく視線を向けていた。

その瞬間に悪寒が走る。

 

……やっば

 

一瞬、本当に一瞬だけ私に殺意を向けてきたのだ。

それだけで、もう私はこいつに勝てないというのがわかってしまった。

そんな私をどう見たのかはわからないけど、その男はすぐに視線を逸らして雑踏の中へと消えていった。

 

……何なの? あの男

 

あまり長い時間、観察することは出来なかったし、距離もあったから確定も出来ないけど……魔術師には見えなかった。

だけどかといって……普通の人間であるとも思えない。

そう思って後をつけようとか思うのだけれど、あの男に興味本位でついて行くのは得策ではないと……私の本能が告げていた。

 

 

 

朝。

日も昇りきらないうちに俺、鉄刃夜は起床し、とりあえずそこらをひたすらかけずり回る。

体力強化を行った後に、ひたすら森で刀を振るう。

都合のいいことに、俺が住んでいる店の近くにそこそこの広さに森があったので、俺はそこで夜月を振るっていた。

ちなみに狩竜も持って行き、素振りを行う。

また封龍剣【超絶一門】も連れてきていた。

 

『しかしこの世界は随分と魔力(マナ)が希薄だな』

『そうだな。まぁ……俺から言わせれば比較対象のお前が生きていた世界が異常なんだが』

 

モンスターワールドは正に生命に満ちあふれた、世界。

基本的に人の手が入っていない場所が多いのだからそれだけでも生物の数の差は歴然としていた。

 

虫のでかさも異常だったしな……

 

ランゴスタ、カンタロスといった、人の身の丈ほど在るでかい蜂と、子供くらいのサイズをしている巨大なカブトムシ。

それを食す生物や、飛竜種など……俺だから生きていけたものの、もしも何の力もないただの一般人が行っていたら余裕で死ねただろう。

最初の恐竜もどきのランポスでリタイアだ。

 

ランポス……か……

 

初めてであったモンスター、ランポス。

そしてそれに襲われていた少女のことを、ふと思い出してしまった……。

だがそれをすぐに首を振って、思考を打ち切った。

 

考えたところでどうしようもなく、何もできはしないのだ。

ただ……あいつらと出会ったこと、俺を前へと進ませてくれことの感謝さえ忘れなければそれでいい。

 

……素晴らしく自分勝手だがな

 

人によっては最低と思われても不思議じゃなかったが……まぁいい。

考えることをやめて、止まっていた体を俺は再度動かした。

 

『ところで仕手よ』

『なんだ?』

『先日目にしたおなご。放置していていいのか?』

『あぁ……あの子か』

 

封龍剣【超絶一門】が思念を送って話してきた話題は、先日、商店街で見かけた赤いコートを着込んだ女の子の事だった。

制服から言って穂群原学園の生徒だろう。

ウェーブがかかっている黒い髪の毛を頭の両サイドで縛っているツインテール。

身長は平均よりも少し高い程度だ。

そして綺麗な女の子であった。

 

まぁ俺の好みではないが……

 

そんなことはどうでもいい。

ここで重要なのは、彼女が明らかに普通の人間に見えないことだった。

俺を訝しげに見ている視線を感じたので、その先にいたのが、その少女だった。

俺が少しだけ殺気を送ると、彼女は反応したのだ。

一瞬身構えるような仕草をした。

そしてそれ以外にも、気の巡りのような物を彼女の体内に感じた。

 

俺が使う気を用いた力……

 

それに似た何かだった。

だがあくまでも似ている気がしただけで、全てが一緒という感じではなかった。

 

『どうするんだ?』

『別に互いに明確に敵対している訳じゃないんだ。まだ情報不足のこの状況で動くのは避けたい』

『話を聞くのにはうってつけだと思うが?』

『確かに』

 

封龍剣【超絶一門】の言うとおり、彼女から話を聞くのが一番だと思っていた。

だが知り合いでもない人間が、いきなり話しかけるのは余り褒められた物じゃない。

ましてや互いに互いが普通じゃないと思っているのだ。

下手に接触すれば最悪戦闘になるかもしれない。

負けないとは思うが……情報が少ないのでまだ動きたくはなかった。

それに明確な敵対行動を起こしていない以上、彼女としてもこちらを測りかねているのだろう。

ならばこちらから事を荒立てる必要はない。

そう結論づけると俺は修行を再開し、それが終えると俺は朝食の準備と店の下ごしらえを行うために、自分の住居兼店へと足を向ける。

そして店に入ろうとすると……。

 

「鉄さん。お早うございます」

「お早う。今朝もお疲れ様」

 

早朝ランニングの美綴が、俺の店の前へとやってきて挨拶を交わす。

そして休憩がてらに店でお茶を一杯飲んでいくのが最近の日常となっていた。

 

「最近お客さんの入り具合はどうですか?」

「まぁまぁってところか? 一応二十日ほどやってみたが、黒字にはなった」

 

今日から五月。

口コミの成果かどうかは謎だが、とりあえずそこそこの集客の効果があり、なんとか黒字にはなった。

忙しくはあったが、黒字になって良かったと思う。

 

まぁ従業員俺だけだしな

 

修行で鍛えた身体能力等を駆使して、俺は一人で店のお客さんを捌いていた。

軽く発狂しそうになるが。

雷画さんは借地代のことは気にしなくていいとまで仰って下さったのだが、そんなわけにも行かないので何とか売り上げの一部を受け取ってもらった。

当然これで終わるわけもないので、たまに藤村組の荒事にも参加させてもらうことにした。

荒事は当然裏のお仕事に連なる物である。

あちらとしても俺の力は戦力になるらしく歓迎された。

 

「ほんとですか! おめでとうございます!」

「それもこれも美綴のお陰だよ。ありがとう」

 

感謝の意を込めて、俺は美綴に礼を述べた。

お客の入りがよかったのは広めてくれた美綴にも少なからずあるからだ。

が、それに対して美綴はうっ、と一瞬あまり女の子らしくない呻き声を上げる。

俺はそれに首を傾げた。

 

「どした?」

「え? ……えっとその、じ、実はあまり広めてないんですよ」

「そうなのか?」

 

美綴が言いにくそうに明かした言葉に、俺は驚きを禁じ得なかった。

別に怒るようなことはしないが、意外だった。

 

「え、えっと……自分のお気に入りって、あんまり人に知られたくないじゃないですか?隠れ家みたいな?」

 

あぁ、そういうことか

 

それを聞いてなんとなく美綴の言いたいことがわかった。

自分が見つけた店や秘密の場所……それらはとても魅力的な響きがあり「自分だけが知っている」「他の人は知らない場所」というのを感じたのだろう。

ひどい言い方をすれば独占欲と言えるが……俺はそれを聞いて嬉しくなった。

 

……独占したいと思ってくれたわけだ

 

当然それを許容するわけにはいかないが、俺はそれが微笑ましく思った。それが顔に出ていたらしい。

美綴が不思議そうにしていた。

 

「安心しろ美綴」

「? 何がですか?」

「当店の最初の客は間違いなく美綴だし、この時間は美綴しかこないし、入れないさ」

「っ!?」

 

その一言に美綴は驚き、次いで顔を真っ赤にしてしまった。

そして……その反応を見て俺は自分の愚かさを悟った。

 

……やばい

 

そんなつもりは微塵もなかったのだが……これは……

 

「…………ひょっとして口説いてます?」

 

だよなぁ

 

そう思われても不思議ではなかった。

美綴が今の俺の言葉でどう判断したのかは謎だが……放置するわけにはいかなかった。

 

「すまない。そんなつもりは全くなかったのだが……軟派なことをしてしまって失礼した」

 

即座に誠心誠意謝る。

カウンター越しに頭を下げた。

そんな俺に届く声……。

 

『軟派だな、仕手よ』

『やかましい!!!!』

 

感情豊かな封龍剣【超絶一門】が俺をからかってくる。

それに対して俺は呪詛を乗せて反論したのだが……元々恨みにて怨霊と化して魔剣となった封龍剣【超絶一門】に、俺のこの程度の呪詛など、効果があるはずもなかった。

そんな俺と封龍剣【超絶一門】のやりとりがわかるはずもない美綴は、俺が頭を下げたことで慌てていた。

 

「や、そんな頭を下げなくても! 別に気にしてないですよ」

 

からからと笑いながら美綴がそう言ってくれる。

その言葉、そしてその表情に陰りというか……含みは全くなかった。

それに俺はほっとした。

 

「そう言ってくれると助かる。だが、出来たら広めてくれると嬉しいな。……家に帰るために金が必要だからさ」

 

別段、帰ること自体に金はびた一文必要ないが……雷画さんへの恩返しに必要なので嘘は言っていない。

俺のその言葉に美綴が疑問を口にした。

 

「帰るって……日本にお住まいじゃないんですか?」

 

俺の言葉に驚いた美綴が疑問を口にしてくる。

 

モンスターワールドなんかと違って日本なら北海道から九州に飛行機で行ってもそんなに掛からないもんな~

 

電車、新幹線、船、飛行機……移動手段は様々だが、飛行機を使っても5万くらいだろう。

となると俺が帰ろうとしている家は海外にあると考えても不思議じゃない。

 

「そんな感じだ。後、この店を貸してくれた人にも恩を返さないと行けないしさ」

 

曖昧な言葉で俺はごまかしておいた。

俺の帰宅手段は特殊すぎるので説明できない。

 

まぁモンスターワールドの人間よりは、俺の事情は理解しやすい世界だろうが

 

目の前の美綴が多重世界(パラレルワールド)のことを知っているかは謎だが、モンスターワールドの人達よりは俺の状況を捉えやすいはずだ《モンスターワールドの連中をバカにしたわけじゃない》。

ちなみに余談だが、俺の家は、俺の世界の日本の関東に存在している。

 

「すごいですね! 私とほとんど年に差がないのに家を出て独力で店を切り盛りするなんて!」

「……ほめてくれてありがとう」

 

明確な嘘は言ってないが、誤魔化していることに変わりはないので、なけなしの良心が痛む。

しばし談笑した後、美綴が帰宅した。

俺はそれを見送る。

 

まぁそんなこんなで一ヶ月が経過しました。

当然……この法治国家で生きていくので必死なので、帰る道というか……帰る方法は見つからないまま、毎日刀と包丁を振るっている。

 

……何も手がかりは見つからず、もう一ヶ月……俺どうやったら……いやどうすればいいのか?

 

全く帰る術が見つかっていない。

それに焦りつつも、仕事をしないでそこら中をかけずり回ったところで見つかるとも思えない。

それに金だって必要だ。

俺自身金に執着は全くないが……雷画さんに恩を少しでも返さなければいけないという俺自身に課した義務がある。

何より雑念は料理に出てしまう。

少しでもおいしい料理を出すために、仕事中は何も考えない……というか考える暇もないが……ようにしている。

だからこそ、こういった空いた時間が出来てしまうと、俺は自分の今の状況を思い出して……気落ちしてしまう。

このままだと鬱になりそうだったので……俺は顔をはたいて活を入れると、本格的な開店作業へと写るのだった。

 

 

 

「食事?」

「そ、そうなんです。一緒にどうですか!?」

 

帰宅の支度をしていた私に、三人のクラスメイトが声を掛けてくる。

午後に大事な会議があると言うことで午後の授業、そして部活も今日はお休みだ。

蒔寺楓(まきでらかえで)氷室鐘(ひむろかね)三枝由紀香(さえぐさゆきか)の三人組。

三人は陸上部に所属しているので、クラス替えになったばかりでもすでに仲良くしていた。

 

「そ、そ~何ですよ!? 私、町でいい匂いをかいで、匂いの元を辿ってたら一件いいお店を見つけたんですよ!」

「に、匂いって……蒔ちゃん」

「蒔の字落ち着け。口調がちょっと変だぞ」

 

三人の会話を聞く限りでは……暴走役が蒔寺楓さん、ストッパー役が氷室鐘さんという感じだった。

そして最後の三枝由紀香さんなんだけど……。

 

この人……なんか余りにもほんわかしてて素が出ちゃいそう……

 

私、遠坂凜は家訓である「常に優雅であれ」というのを守っているので……頑張って優等生を演じているのだけれど……、この子の余りにも和やかな雰囲気に私自身が和んでしまって、素が出てしまいそうで怖かった。

だけど、クラス替えが行われたばかりのこの状況で、せっかく誘ってくれたのを無下に断るのは得策じゃない。

 

「えぇ、ご一緒させていただくわね」

 

にこりと、笑顔で答える。

美綴も連れて行こうかと思ったのだけれど、あの子はすでに姿が見えなかった。

どこに行ったのかは謎だけど、部活がないからどこかに出かけたのかもしれない。

そしてそのまま談笑しつつ、蒔寺さんが見つけたという店を向かうのだけれど。

 

? 新都の方じゃないのね?

 

意外な事に新都には向かわず、深山町にある店へと向かっているようだった。

思わず拍子抜けしてしまう私なのだけれど……向かう先が見覚えのある道……そして店だと知って、内心で溜め息を吐いてしまった。

 

……あの男の店じゃない

 

あの男……先日マウント深山の商店街で見かけた、明らかに一般人じゃない男の店だった。

直接的にではなく……魔術なんかを用いて調査して……存在自体は知っていたけど……。

 

まさか目的地がここだったなんて……

 

迂闊だった。

まだ敵か味方かもわからない男の店に行くのは正直気が引けた。

だけどここまで来てしまった以上後には引けないし、それに遠坂家の長である私がどうしてたかだか飲食店で気後れしなければならないのか? と考えると腹が据わった。

 

ふん……たかが定食屋じゃない。入って定食を食べるくらいどうってことないわ!

 

そうして店に近づくのだけれど……それ(・・)を見た瞬間に、私は目を見開いてしまった。

 

……な、何なのこれ!?

 

お店の正面玄関に掛けられている暖簾……そしてそれに通っている、湾曲した棒。

何かしらの術が掛けられているけど……私……魔術師たる私は直ぐに看破した。

 

が……概念武装!?

 

その棒は、何か特殊な術を掛けられていたけど、大した術じゃない。

問題は中身の棒だった。

明らかに……普通じゃない雰囲気を醸し出している。

眠っているのか、それほど危ない雰囲気はない。

だけどランクとしては間違いなく一級品だ。

これほどの概念武装を……まさか暖簾棒に使うようなバカがいるなんて!?

 

ダッ!

 

「え?」

「遠坂さん?」

「ほぇ」

 

このとき、私は冷静じゃなかった。

一緒に来ていた三人組のクラスメイトを置いて全力疾走してしまうくらいに。

そして引き戸を荒々しく開けて……吼えた。

 

「ちょっとどういうつもり!? こんな物騒な物を暖簾棒にするなんて!」

 

お昼時だと言うにもかかわらず、数名しかお客さんがいない店内に、私の声が響き渡る。

誰もが呆然と、突然入って大声を上げた私に視線が注がれている。

 

「と、遠坂?」

 

この場合、数が少なかったのを喜ぶべきか……それともライバルに見られてしまったのを嘆くべきか……。

 

「あ……綾子」

 

カウンターの席に座ってこちらを見ているのは、私のライバルの美綴だった。

 

「……お客様? 他の客様のご迷惑になりますので大声を上げるのはご遠慮願います」

 

そして店主と思われる、白い板前服を着て鍋を振るっている若い男が呆れ気味に声を上げる。

そいつは間違いなく、先日見かけた男だった。

 

「何々?」

「ど、どうしたんですか?」

「なにがあった?」

 

そして三人組が私の後に続いて店内へと入ってくる。

それでやっと自分が犯した過ちを自覚した。

 

「……四人なんですけど、席空いてますか?」

 

これ以上失策しないために……私は努めて冷静になって、声を上げた。

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

夜十時。

最後の客を見送り、俺は一息ついた。

 

いや~~~~今日も疲れた

 

一人で店をこなすのは生半可な作業量ではなかった。

バイトを雇おうかとも思わなくもないが、いつこの店を閉めることになるのか分からないのでそう簡単に雇えないという事情もある。

バイトを雇わない利点としては、人件費がいらないことだろう。

そのおかげでこうして定食屋としては遅い時間までやることができる。

さすがにこの時間になると数えるほどしか客は来ないが……それでも人件費がかからないので気兼ねなく仕事をすることが出来る。

お客さんが出ていき、それを確認してから暖簾をしまうために外に出て暖簾を外す。

暖簾というか……狩竜を店の入り口のそばに立てかけて、最後の客の食器を片付ける。

その時、俺は店に近づく一人の気配を感じ取っていた。

普通じゃない……人が近づいてくるのを。

 

ガラッ

 

何のためらいもなく開けられる、店のドア。

一応用心のために、腰に備えている水月に手を添えていたが、入ってきた人物を見てそれは杞憂に終わった。

 

「こんばんは。鉄……刃夜さんだったかしら?」

 

入ってきたのは予想通りの人物だった。

昼間店に来て、何かよく意味のわからないことを口走っていた少女。

美綴が互いに共通の知り合いだったこともあり、自己紹介したのだ。

名前を……遠坂凜。

 

「……申し訳ありません、もう閉店時間なのですが?」

「だったら好都合だわ。余り人に聞かせられる話でもないもの」

 

……意地でも話を聞くつもりか

 

不適に……だが一切の油断もなく俺へと語りかけてくるその表情には不退転の文字が浮かんでいた。

まるで敵地、死地へと赴いてきたかのような……そんな気迫を携えていた。

さすがにそこまでの物を見せられてしまっては、俺としても無下にすることは出来なかった。

とりあえずカウンターの席に座らせて水を注ぐ。

 

「それで? 何のようだ?」

「何の? それは私を冬木の管理者と知っての言葉かしら?」

 

……冬木の管理者?

 

その言葉に俺は内心で首を傾げるしかなかった。

雷画さんがここら辺一帯の大地主だったはず。

そうなると雷画さんがこの辺の管理者と言えなくもないが……この目の前の少女がいうのは、それとは違うのは明確だった。

となると、何の管理者なのかさっぱりわからない。

 

「あなたがどこに所属しているのかはわからないけど……この冬木に来たのならばまず私に挨拶をしに来るのが礼儀って物じゃないかしら?」

「……すまない、話が見えないんだが?」

 

だから俺は素直に少女にそう告げた。

仮のこの少女が言っていることが本当で、冬木の管理者だったとして……何故この目の前の少女に挨拶に行かねばならないのか?

俺の疑問の言葉にカチンと来たのか……目の前の少女が眉をひそめる。

 

「だから……どうして挨拶にこないのって言ってるの。そんなに腕があるようには見えないけど……あれほどの概念武装を持っているんだもの。ただの人間だとはとても思えないわ」

 

……ガイネンブソウ?

 

全く意味のわからない単語に、俺は首を傾げるしかなかった。

故に少女がさらに何かを言うのを待っているのだが……その沈黙がいけなかったのか……少女が切れ気味にこちらに向けた言葉を続けた。

 

「何? 冬木の監督者の私が直々に来て、挨拶をしろって言うのに……正体を明かすことすらしないの?」

「いや……正体と言われても」

 

まぁ確かに普通じゃない所は多々あるが……正体と言われても俺はそれが一体俺の何を指すのかわからなかった。

誓って言うが、はぐらかした訳じゃないのだ。

が……

 

「ちょっと! さっきから要領得ないわね! 私は! 冬木の魔術師の管理者として、ここに訪れたって言っているのよ!」

 

……魔術師?

 

今度の単語は漢字変換が行うことが出来た。

俺が使う術とは違う……西洋などでもっともポピュラーとされている術式だろう。

そしてこの少女の言葉から推測するのならば……この目の前の遠坂凜という少女は、「冬木の魔術師の管理者」ということになる。

さらに推理していたのが良くなかったのか……目の前の少女のこめかみに青筋が走った。

 

「……そう、ここまで言ってもまだ明かす気にならないのね。なら、実力行使もありかしら?」

 

ゆらりと幽鬼的に立ち上がった少女は……オーラを立ち上らせながら俺へと指を銃の形にして向けてくる。

そして少女の力が、指先へと収束していくのが感じられた。

別段食らっても俺は平気そうだったが……暴れられても困るので、俺は素直に疑問を口にした。

 

「魔術師って……どういう事だ?」

「……え?」

 

その言葉が意外だったのか、怒気に染まって睨みつけていたその表情に驚きの感情が刻まれる。

それと同時に遠坂凜が纏っていたオーラが、減少した。

 

「……どういう事って……あなた魔術師でしょう!? あんな規格外な概念武装を持っているし、アレにだって何か見慣れない術式が掛けられているじゃない!?」

「確かにアレには認識阻害の術を掛けたが……俺は魔術師ってのじゃないぞ。そもそもガイネンブソウ? ってのは何なんだ? 「ガイネン」は「概念」でいいのか?」

「………………概念武装を知らない?」

 

その俺の言葉はあまりにも衝撃的だったのか……遠坂凜が呆然としていた。

それに伴って纏っていた力も霧散した。

 

「……」

「……」

 

沈黙が俺の店を支配した。

 

「……どうやら裏の事情に精通していそうだな」

 

聞き慣れない単語、そして使い魔を使役していた少女。

おそらく普通とは違う裏の事情に精通していると予想が出来る。

その俺の言葉を聞いて、遠坂凜が露骨に「しまった」と言った表情を浮かべている。

俺はそれに内心苦笑しつつ、着席を促した。

 

「俺もある程度自分のことも語ろう。だから教えて欲しい。裏の世界の事情を」

 

強制的に吐かせることも可能だが、いくら不躾にも閉店後に殴り込みのようになってきたとはいえ、年下の女にそんなことをするつもりはなかった。

実際実害はないので問題もない。

だが、誤解をしていたとはいえ不躾には変わりないので、多少は教えてくれても罰は当たらないだろう。

こちらも全ての事を教えるつもりもない。

俺が考えていることがある程度伝わったのか……ストンとイスに腰を下ろして、遠坂凜もこくりと頷いた。

 

 

 

「ほぉ、つまり魔術師というのは様々な術を使える人間で、その魔術師というのは「根源」というアカシックレコードのようなものを求めていて、その技術……「神秘」を秘匿することが暗黙の了解であり、それを破ると魔術協会とやらから粛清者、つまり暗殺者を放たれると……」

「……まぁ大まかに言えばそんな感じでしょうね」

 

私は自分の迂闊さに内心で溜め息を吐いていた。

まさかあれほどの概念武装を持ち得ている人間が、魔術師でないどころか魔術師という存在すら知らないとは思わなかった。

 

魔術師。

「根源」へと至ることを渇望し、そのために魔術を用いる物。

根源に興味が無く、他のことのために魔術を使う物を魔術使いと称する。

魔術師は根源へと至るための飽くなき挑戦をするもので、あり得ないことに挑むのが魔術という学問の本質だ。

 

根源

世界のあらゆる事象の出発点となったもので、ゼロ、始まりの大元、全ての原因とも言われる。

語弊もあるが「究極の知識」とも呼ばれる。

 

「魔術師その物の強さを測るには、魔術刻印なんかでも測れるわ。魔術師の後継者に伝わる遺産ね」

「刻印……ねぇ」

 

魔術師の話をしているときの目の前の男、鉄刃夜という人間は熱心に私の言葉を来ていたところを見ると、魔術師の事情を知らないのは間違いないだろう。

そして今話した刻印の事もまったくしらないようだった。

私も父に託された魔術刻印をこの身に刻んで、一族の遺産を受け取っている。

 

魔術刻印。

魔術師の家系が持つ遺産で、代々が生涯を掛けて鍛え上げた神秘を固定化、安定化して刻印にして、子孫に残す物なのだ。

血統全ての神秘の塊だ。

式に魔力を走らせれば本人が習得していない魔術でも使用できる。

刻印その物に自律意志が備わっており、持ち主の魔術に連動して独自に補助詠唱を行ったり、意識を失っても、自動的に発動する物もある。

 

 

確かにこの態度を見る限り魔術師のことは知らないのだろう。

嘘を吐いているようにも、わざと知らない振りをしているようには思えない。

だけど、それで納得は出来なかった。

 

……あんな武装と、ちょっとしたこととはいえ魔術のような物を使える人間が、一般人なわけないじゃない

 

表の暖簾棒になっている湾曲した棒。

アレは間違いなく一級品の武装だ。

下手をすれば、封印指定執行者が来たっておかしくはない。

 

封印指定執行者。

封印指定を行うための執行者。

封印指定は、魔術協会が判断した希少価値の高い魔術師に与えられる栄誉であり、厄介ごとだ。

希少価値をなくさないために、その封印指定に指定された魔術師を幽閉などの手段で封印して、純度を保つと言う事なのだから。

そうなってしまっては、魔術師は自分の研究を進めることが出来ない。

当然逃げ出すのが当たり前だ。

逃げ出しても魔術協会は静観するが、逃亡先で神秘を暴露したり、一般人を巻き込むような実験を行った場合、聖堂教会……全ての異端を消し去ることを目的とした組織で、魔術師も例外ではない……が黙っていない。

聖堂教会より派遣された代行者に、その魔術師が殺される前に、強制的に封印指定を行うのが封印指定執行者なのだ。

その性質上、代行者よりも先に封印指定を行う必然性があるため、封印指定執行者に求められるのは「いかに戦闘向きであるか」に集約する。

封印指定と判断された魔術師を力づくで封印指定を行うのだから……その実力は文字通り化け物だ。

 

……いったい何なのあの武器は?

 

認識阻害の術を掛けているというその武器は……湾曲していてしかもその形状から太刀に見えるのだけれど……あんな長い太刀は見たことがない。

普通の人間ならば振るどころか構えることすら出来ないはずだ。

それを振るうという……目の前の男。

今こうして普通に話していても……時折悪寒が私の体を走る。

そしてどんなに強くイメージしても……この目の前の男を倒す想像が出来ない。

 

魔術を使用しても……勝てる気がしなかった。

 

「そしてその魔術師が魔術を使用するために必要な物が、魔術回路と呼ばれる疑似神経で、その数が多いほど優秀であり、強力な魔術が使えると……」

「えぇ。そういうことになるわ」

 

魔術回路。

魔術師が体内の宿す、生命力を魔力に変換するための炉で、魔術を扱うための疑似神経だ。

魔術基盤という……各門派によって取り仕切られている基盤であり、各々の魔術師が魔術回路を通じて命令を送り、それによってあらかじめ作られている機能が実行される。

故に魔術回路の数が多いほど基盤とのコンタクトが容易になり、その魔術師が使える術が多くなり、出力が高まるのは当然だった。

魔力を電気とするのなら、魔術回路は電気を生み出すための炉だ。

また内界である、体内に宿る魔力のことを魔力(オド)、そして外界である自然界に存在する、魔力のことを魔力(マナ)と呼称している。

 

「その説明を聞く限りでは……「魔力(オド)」というのは俺の「気」という概念と一緒か……」

「……気?」

「あぁ。俺が使うのは主に気功術……体内に宿した体力とかのエネルギーを燃焼し、身体強化や、武器の強化なんかを行う。魔力(マナ)も使用できるが……俺は未熟なのでそこまでの量の魔力(マナ)は扱えない」

 

そう言いながらちょっとだけ実演してくれた。

手の先だけをその身体強化の「気壁」というものを行ってもらった。

 

ふ~ん。確かに似てるけど違うみたいね

 

目の前の男が語るその言葉に私は真剣に耳を傾けていた。

ギブアンドテイクと、互いに理解していたからだ。

でも私は内心で驚愕していた。

 

「強化」の魔術に似たものを、魔術回路なしで……しかも何の挙動も見せずに行うなんて!?

 

「強化」とは、マイナーな魔術で、物質などに魔力を通してその物質を文字通り「強化」する魔術だ。

「強化」を使うことは別段驚くことではない。

私でも簡単に行える。

けど驚くべき事はほとんど一瞬で、それも何の前動作も見せずに行ったことだった。

普通なら少し魔術を扱う前兆のような物があってもいいというのに……。

 

末恐ろしい男ね……

 

今のところ敵対関係にはなりそうにないけど……出来ることなら今後も進んで、目の前の男と敵同士になりたいとは思わなかった。

 

「ところで、本当にあの物体は何なの? 概念武装を知らないっていうけど、アレは普通の武器じゃないわよ?」

「あ~アレね。なんと言えば言いかね。とりあえず俺が鍛造した超野太刀だ」

「野太刀? ってことは……刀なの!? あの長さで!? しかも鍛造って!?」

 

目の前の男のその言葉はにわかには信じられない物だった。

あれほどの長さの物体を振ると言うことがどれほどの力を要するのか……?

 

いや……それを魔力……気功術で補っているのね……

 

あの武器をどれほどの速度で振るうのかまではわからないけど……この男と戦うのは避けた方が良さそうだった。

互いにまだ戦闘方法……手の内は明かしていないのだから、まだどちらが優勢かなどはわからないけど……。

 

「刀の鍛造は俺の特技でもある。顧客もいるからな」

「まぁあれに関してはもういいけど。……あなた、体内に何を内包しているの? ものすごくやばい雰囲気を感じるんだけど。それにその首飾り……それも普通の首飾りじゃないわよね?」

 

体内にある謎の力……。

そして首飾りなのか……首にある物も普通じゃなかった。

特に左右にある、赤色と青白い色の爪のような物が……。

 

「体内? あぁこれか。これは……言ってもわからんさ。首飾りも……同様で」

 

……複雑な事情があるのかしら?

 

言い淀んだその顔には、何か色々な感情がない交ぜになっていて……言いたくないというか、言えない事情があるのが容易に想像できた。

言いたくないのなら言わなければいいので、私はそれ以上聞かなかった。

それからも少しの時間、互いの情報を交換し合った。

まだ互いに敵となってないので表面上こそ穏やかだったが、味方でもないので互いにそこまで深いことは聞かなかった。

とりあえずこの鉄刃夜という男が、私と敵対する気もなく、魔術師でもないのでここで料理屋の店主として働く事しかしないという事がしれただけでも……収穫だった。

 

 

 

魔術師……ねぇ……

 

突然の来訪者、遠坂凜が帰宅した後、俺は店じまいをしながら先ほどまでの会話を思い出していた。

余りにも違いすぎる裏の事情……魔術師、魔術協会、聖堂教会……。

魔術が「神秘」で、それの秘匿に躍起になっているのがわかったのは助かった。

 

まぁ魔術回路のない俺が魔術師となるわけもないのだが……

 

しかしかといって余りおおっぴらに俺の術を使用していたらそれから刺客が送られてくるかもしれない。

魔術師を葬るための荒事専門の刺客と考えるならば、相当の手練れがいると考えて差し支えないだろう。

別段派手に術を使う必要性もなければ、使うことも出来ないのでおおっぴらに使用することはないだろう。

せいぜい認識阻害の術と、防犯対策の結界くらいだ。

だが最初に彼女が言ったのだ……。

 

何の? それは私を冬木の管理者と知っての言葉かしら?

 

冬木の管理者。

そして魔術師という単語。

彼女自身魔術師であることは間違いないのだから、冬木の管理者というのは魔術師の管理者と考えて問題ないだろう。

つまり彼女以外にもこの町には魔術師がいることになる。

そして巨大な龍脈……。

 

『どうやら、本当に何か事が起こっても不思議はないようだな?』

『……残念ながらそうらしい』

 

居住区に置いている封龍剣【超絶一門】よりそんな言葉が贈られてくる。

煌黒邪神アルバトリオンを封じた狩竜が目立つのは仕方がなかったかもしれないが……それにしたって封龍剣【超絶一門】の気配を見逃すとは……。

 

『……天然?』

『いや、どちらかというと「うっかり」じゃないか?』

 

すでに見えなくなった遠坂凜の事を、封龍剣【超絶一門】と供に話し合う。

そこそこに優秀なようだが、俺を魔術師と断定して話をしに来たり、挙げ句の果てに暴走したりと……。

存外かわいらしいところが合ったようである。

 

猫かぶってるようだし……

 

昼に友人と来たときの態度と、今の態度は全くの別物だった。

遠坂凜以外の三人はなんか緊張してたし、遠坂凜はいかにもお姫様というか……ご令嬢みたいな雰囲気を醸し出していた。

そんな遠坂凜を、美綴は必死に笑いをかみ殺しながらニヤニヤしていたが……。

 

明日にでも聞いてみるか?

 

美綴が遠坂凜と知り合いのようなので俺は明日にでも話を聞いてみようと思った。

とりあえずもう夜も更けているので、俺は明日の仕込みを終えて、風呂に入って、就寝した。

 

 

 

 

 




うっかり娘こと遠坂凜登場~



うっかり娘、凜



うっかり凜



うっかり~ん♪www



ザワッ!



「殺気!?」



バッ! ←勢いよく後ろへと振り向く



「何もいな……うわ、何するやめ――!?」



後日病院にてインタビュー ←何のだよwww



「強い殺気を感じて振り向いたがそこには誰もいなかった。いなかったはずなのに俺は突然背後からガンドで襲われたんだ! 今までの敵とは何かが違う! 気をつけろよ!」



「うっかりん……なんて恐ろし――」



ドドドドドドド! 黒い球体がガトリングのように刀馬鹿を襲った



効果は絶大だ!



その後、刀馬鹿の姿を見た者はどこにもいなかった……








と、死ぬほどくだらないことを仕事中に思いついてクスリと笑ってしまったwww
ちなみに本編ではでないのでご安心をwww






こっちがほんと~次回予告~



最初に言っておく。

遠坂凜はヒロインじゃない。

いいか? もう一度言うぞ?



遠坂凜は……刃夜のヒロインではない!



大事なことだからな。二度言っておいたぜ。
それに伴って凜が刃夜を好くことは合っても、異性として好きになったり愛したりすることはあり得ないから!!!!
凜ファンの皆様! ご安心を!www

ま、そんなこんなで遠坂凜と刃夜君の出会いでした。
狩竜を暖簾棒にして凜が暴走というのはずっとかきたかったんですよね~
いやぁかいてて楽しかったわw
三人娘の口調が少々心配ですが……多分大して出てこないし物語上重要じゃないので気にしてないで下さい!

次回は……料理屋が行うことをするぜ!
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