申し訳ない
今回差別的な表現があります
不快になられた方がいた場合は申し訳ありません
ちなみに筆者にその表現の思想、思考はありません
目標は住宅街の一角にある、少し大きめの武家屋敷
そこに男の目的がいる
他にもいくつも調査ないし回収したい存在はあったが、それでも最優先目標は武家屋敷にいる、存在
聖杯として機能し、門を開いた聖杯のなれの果て
なにせ門を開いたものだ
また調査によってその聖杯は、聖杯として作られたものではなく、人間を聖杯へと生まれ変わらせることによって、作られたものであることが判明したのだ
これはつまり、再び聖杯戦争が行われる際、自らが用意した聖杯によって、聖杯を奪うことが出来るかもしれないという可能性を示唆している
この調査結果に秘密裏に聖杯戦争を調べていた調査陣営は歓喜した
何せ聖杯を自らの手で作り出すことができるかも知れないという事なのだから
聖杯を得ることの栄誉などは計り知れない
しかも栄誉だけではなく、聖杯を得ることが出来るのだ
万能の願望機と言われる聖杯を
無論簡単にはいかないだろう
新たな聖杯を作り出す事は、そんな簡単なことであるはずがなかった
だそれでも次の聖杯戦争に間に合えばいいのだ
四次と五次はかなり短期間の間に行われたが、それでも十年もの月日があった
サンプルがあれば、十年という期間は決して短くはない
そのために今回秘密裏に行動を行っているのだ
当初はただの調査だったのだが、第五次聖杯戦争の調査を進める内に聖杯にたどり着き、この計画が立案された
聖杯を手に入れるというために
また聖杯を所持している人物は当然ながら魔術師だったのだが、魔術師としてはかなり格下の存在だった
もちろん油断するわけではない
だが事実、聖杯を所持している人物は、魔術使いでしかなく、使用できる魔術も強化と投影であるということが確認されている
侮りはしないが、決して後れをとるようなことはないと、男は認識していた
ここが……対象の家か?
そして腰に双剣を携えた男は、目標がいるであろう家へとたどり着く
この辺でも珍しい、昔ながらの武家屋敷という……この国の古い家であった
しかし不思議なことにこの家は魔術を使う存在……魔術使いが……住んでいる、魔術の工房があるはずだというのに大した結界がないという、不思議な家だった
しばし家の前で怪しまれない程度に家を観察していた男は、報告通り大した結界がないことを確認し、塀を乗り越えて家へと……足を踏み入れて
その男と相対した……
「……」
不思議なことにその男はその場に立っていた
何をするわけでもなく、ただ頭上の月を……静かに一人で眺めているだけだった
静かに……まるで祈りを捧げるかのように、三日月を見つめて立つその姿は
何故か懺悔をしているようだった……
だが、それで油断が出来ない相手であると、男は理解した
何せそんなただ立っているという、その無防備なはずの状態であるにもかかわらず
一切隙を見つけることが出来なかったのだから……
強い……いや、決して特別強いわけではない
だが……手強い……
それがその男……この家の主であり、聖杯の所有者である男
衛宮士郎を見て、双剣の男……魔術師が下した評価だった
「こんな時分に塀を跳び越えて不法侵入してくるってのは……どういう了見だ?」
衛宮士郎から紡がれた言葉には、不思議と大した意志を感じ取れなかった
だが、強い意思は感じ取れなくとも、その態度と視線が……はっきりと衛宮士郎の感情をあらわしていた
悲壮感
そう言うべき悲しげな感情が……衛宮士郎からあふれ出していた
初見の相手、ましてや衛宮士郎から見れば不法侵入者である相手に対して、何故悲壮する事があるのか?
何故……魔術使い程度にこの様な不快な目を向けられねばならないのか?
魔術の深奥を全く理解していない、半端な存在に
そう思うと同時に、その感情を魔術師は斬り捨てた
今のこの場においてその感情は不要だと判断したからだ
今この場ですべき事はこの衛宮士郎を排除して聖杯を持ち帰るという任務をこなすこと
ならばそれをすればいいだけだった
だが何故か魔術師はこの相手に……衛宮士郎という存在に興味を持った
聖杯を所持しながら、それを研究しているという報告は聞かなかった
それどころか、聖杯の手助けをするかのように生活していた
そして今も……おそらくこちらがこの家に侵入した理由がわかっているだろうに
迎撃もせず、素直に聖杯を渡すでもなく
ただ無防備に……中庭の真ん中に立っていた
聖杯がある部屋は……報告では離れだったか……
魔術師が中庭から侵入したのは、母屋ではなく離れに対象がいることを把握していたからだ
女ということで軽いのは間違いないが、それでも運搬をするならば距離は短い方がいい
無論妨害があることは想定していた
何せ貴重な聖杯を、渡せといって渡すわけがないのだから
「……お前が狙っている桜はもう寝ている」
黙って立っている衛宮士郎が、離れへと目を一瞬向けて、呟いた
ブラフかも知れないが、おそらく報告通り……離れにあるのは間違いないようだった
何故敵である己に、場所を教えるのかは疑問に思った魔術師だったが、それでも場所がわかった以上この場にいる理由もない
動き出そうとしたそのとき……
聞き捨てならない言葉が、魔術師の耳に届いた
「……お願いだから帰ってくれないか?」
「……何?」
先ほどの不快な視線
それはまだ耐えられた
含まれた感情は侮蔑にも等しい感じがしたが、それでも致命的ではなかった
だが今の言葉は斬り捨てることも、聞き流すことも出来なかった
お願い
帰ってくれ
この二つの言葉だけは
「……貴様」
「俺も桜も罪人だ。罪があることはわかってる。罰を受けることもわかってる。だけどまだ俺も桜も死ぬわけにもいかないんだ。まだ何も出来てない。始めることすら出来てない。逃げはしない。だけど……降りかかる火の粉を払わないわけにはいかないんだ」
本当に戦いたくないとでも言うように、衛宮士郎は何も持たない手を、僅かに曲げて、その手の平に視線を落として、力なく拳を握った
まるで見えない何かを掴むようにして……
その手には何も握られていない
ただ静かに拳を握っただけにすぎなかった
だが……その仕草をした瞬間、衛宮士郎の雰囲気が変化した
「出来れば戦いたくないけど……桜を連れて行くって言うのなら、容赦はしない」
容赦はしない
その言葉に込められたのは先ほどとは違う苛烈な意志……敵意
その敵意と、言葉を……魔術師へと口にした
先ほど同様、侮蔑以外の何物でもない言葉を……衛宮士郎は口にした
出来れば戦いたくない
戦いになると言っているのだ
そしてその戦いを行いたくないと言っているのだ
魔術の深奥にして究極の目的、「根源」に手が届くかもしれない聖杯を手にしていながら
その価値を全く理解せずに魔術を道具としか見ていない存在が
魔術師として相当の実力者である魔術師に対して
戦いになると……
しかもその言葉を、相手である衛宮士郎は嫌味でも何でもなく、歴とした事実であるかのように、口にしている
魔術使いに舐められているという事
それだけは「生粋の魔術師」である魔術師には、耐えることが出来なかった
「さすがは魔術使い。聖杯という貴重な物を手にしていながら、その価値を理解してない愚鈍な存在なだけはある」
「……物だって?」
士郎の口から紡がれたその言葉は……あまりにも平坦であり、また静かだった
先ほどの悲壮感にも似た感情はなく……ただただ、平坦だった
「生きながらにして聖杯に変わった女。どのような手段を用いて聖杯にしたのかはわからないが……女の記憶を暴けばそれも解明できる」
語りながら男は興奮していた
「しかも都合のいいことに聖杯を身に宿した存在は女だ。子を孕ませ、その子で実験することも出来る。母体の血を強く受け継ぐように、聖杯を調整したりも出来るかもしれない。何せ母体が聖杯だったのだ。最悪母子共々斬り刻み、解剖してもいいだろう」
熱くなるのも無理はなかった
聖杯を手に入れることが出来るかも知れないのだから
自らの手で生み出した聖杯に魔力が満ちて……聖杯となるのかも知れない
これを成し遂げられるかも知れないという事実を前にして、興奮しない魔術師はいないだろう
「といっても、聖杯は一つしかない。貴重だからな。あまり解剖はしたくないが……場合によっては仕方がないだろう」
だから魔術師は知らず知らずのうちに熱くなっていた
語る口調に熱が籠もったのがその証拠だった
相手の……双剣を携えた魔術師の言葉を聞きながら、士郎はただ静かに目を瞑った
目を瞑り、まるで天に祈りを捧げるかのように……瞑目していた
その態度があまりにも気にくわなくなり……魔術師は衛宮士郎を排除すべき存在だと認識した
殺す理由はなく、また意味もない
何せ目的は聖杯なのだから
だが、この男を排除しなければ聖杯が手に入らないと……魔術師は直感で感じ取った
先ほどまでと違い……相手の、衛宮士郎から発せられる雰囲気が一変したからだ
それを主張するように……衛宮士郎が目を開き……
魔術師を睨み付ける
「桜に……また同じ苦しみを味合わせるわけにはいかない。だから……俺は意地でも、お前をここで止める!」
その言葉を吐き捨てると同時に、衛宮士郎が走った
魔術師へと向かって
両手に何も持たずに
ただ突貫してくるだけかと、一瞬冷めた魔術師だったが……しかし次の瞬間瞠目する
何も持たないはずのその両手に……突如として双剣が現れたのだから……
何っ!?
魔術師も、待ちかまえるかのようにして中庭に佇んでいたにもかかわらず、何も所持していないとは思っていなかった
だがせいぜい見えない腰に忍ばせているか、もしくは袖の中にでも隠していると思ったのだ
だが、違った
衛宮士郎は走るという動作以外に、隠し持っていた武器を取り出す、持つといった行為を一切行わなかった
出現したのだ
空の両の手に
幾重にも、魔術回路の様な黒い線が走る、白と黒の双剣
突如として出現させることを可能にしうる魔術について、魔術師もすぐに思い至り
内心で鼻で笑った
投影魔術を使うか……
走ってきた魔術使いの衛宮士郎を一刀の元に斬り捨てようと剣を抜剣しながら、魔術師はそう鼻で笑った
投影
それは本人の持つイメージで、魔力のみで物質を創造する魔術
人間のイメージなど穴だらけのため、オリジナル……つまり物体……に勝るわけもなく、一時的な代用品にしかならない
そして物質ではなく魔力で構成されるため、魔力がなくなったら気化するように消滅する
それが「通常の投影」だ
だが、士郎の投影は違う
通常魔術の投影と似て非なる、士郎だけの異常な魔術
故に……
!!!!
振るってきた投影の剣を受けた自らの剣から硬質な音が響いたことに、魔術師は今度こそ本当に驚いた
受ければもろく砕け、そして魔力の霧となって消滅すると思っていたのだから、驚くのも無理はなかっただろう
だが、そこは優秀な存在である魔術師は、剣を取りこぼすといった失態はしなかった
そして……驚いた己が許せなかった
魔術使いごときにっ!!
調査を行っていた
だがそれだけではわからないことが多すぎる存在だった
それでも魔術を使うという事は把握できており、また強化という……実に地味で余り実戦的とは言えない魔術を使用している事はわかっていた
故に油断はしていなかったが、侮っていなかったとは言えなかった
そう侮ってしまったのだ
それを相手に……魔術使いごときに教えられたが故の苛立ちだった
魔術師は強かった
時計塔に在籍し、生涯のほとんどを魔術の研究と鍛錬に費やしてきた
封印指定執行者その人となった今でも、研鑽を怠っていない
にも関わらず、すでに数十合……剣を交えている衛宮士郎に、驚愕を通り越して、怒りを覚えた
この私が……攻めきれないだと!?
封印指定執行者とは、一言で言うのであれば「希少な魔術を永久的に保存する封印指定を、強制的に行う」存在だ
封印指定は、希少能力を持つ魔術師に与えられる名誉であり、厄介な称号である
希少な能力や魔術を永遠に保存するために「貴重品」として優遇することであり、「品」という言葉が表すとおり、場合によっては魔術的な意味で「ホルマリン漬け」にする行為だ
当然だが、魔術師であろうと魔術使いであろうと、封印指定は死と同義……魔術師にとっては研究が行えなくなる、魔術使いは人として扱われなくなる……であるため、当然だが封印指定された場合は逃亡する
逃亡しても魔術の神秘の秘匿さえ守っていれば、魔術協会も放置するのだが……一般人等に魔術が知れ渡るような状況になった場合、封印指定を強制的に執行する存在が、封印指定執行者という存在だった
当然だが、魔術を使う相手を強制的に封印指定することになるため……荒事になる
根源に至る可能性がある希少な能力を持った魔術師ないし魔術使いは、当然だが死にたくないから逃亡するのだが、逃亡先で静かに暮らすことはほとんどないだろう
特に魔術師は
魔術師は根源に至るための目的のために魔術を研鑽しているため、逃亡先でも魔術を行使する
その魔術行使……研究……が神秘の秘匿の大原則を破った場合、聖堂教会が黙っていない
異端を消し去り、人の手に余る神秘を正しく管理することを目的として存在する、聖堂教会
当然だが魔術というのは普遍的なものではない
そのため、魔術協会と聖堂教会は幾度となく刃を交えてきた
だが聖堂教会の最大の目的は、吸血種など人の範疇から外れた存在を消し去ることであるため、魔術師の最終目的である根源への渇望には関知していない
そのため、封印指定の魔術師ないし魔術使いが、潜伏先で無関係の一般人などを巻き込むような実験を繰り返せば、聖堂教会が代行者と呼ばれる、力づくで異端を排する教会の異端審問官が、研究成果事消滅して自体を収集する
そのため、封印指定執行者は、下手をすれば封印指定という希少能力を持った魔術師ないし魔術使いと、代行者という二者と対峙しなければならないこともある
そのため、封印指定執行者は相当の猛者でなければなることはない
腰に携えた双剣は、伊達でも酔狂でもなく、実力があるために装備された剣なのだ
古代の英雄が使用した宝具と呼ばれる双剣
宝具に相当する物を貸与すると言うことは、ほとんどあり得ないと言っていいだろう
その宝具に相当する武具を、魔術協会から貸与される程の実力を持っているのだ
魔術師の男は
だというのに
なんだ、この男は!?
魔術使いである相手が、封印指定執行者の自らの攻撃を圧され気味とはいえ防いでいた
あり得ないことだった
あり得てはいけないことだった
少々斬り合いを行って、離れを見て思い出した
ここに来た目的を
聖杯を手に入れるという、その目的を
その瞬間に、怒りは遙か彼方に消え去り、魔術師は一度息を吐いて
衛宮士郎を排除すべき障害と認識した
油断もしただろう
驕りもしただろう
だが目的を完遂しないわけにはいかない
魔術師には魔術を極めて
根源へ到達しなければならないという理由があるのだから
一度距離を離した相手……侵入してきた魔術師の目が鋭く細められた
その瞬間に、衛宮士郎は相手が完全にこちらを……己を殺す対象として認識したことがわかった
その敵意が……
数年前……聖杯戦争で味わった強者から向けられる殺意
聖杯戦争で向けられた殺意は、紛れもなく「死」そのものといってよかった
隔絶した実力を有した存在であるサーヴァントが相手なのだから、当たり前と言えた
サーヴァントが殺すと認識した存在に、生はない
あるのは絶対化されてしまった死という結果のみ
ランサーに殺意を向けられて、一度衛宮士郎は命を落とした
何故か生き返り……衛宮士郎は聖杯戦争を生き延びた
その経験が
生きたいと……願うその想いが
本来であれば絶対的な死と同義であったであろう魔術師の殺意を……
ただの「敵意」にさせてくれたのだ
今の相手の殺意は絶対的な「死」ではない
聖杯戦争での経験
そして、数年の奇跡の様な時間が、絶対的な死であったはずのこの殺意を、変えてくれたのだ
数年間
長いようで短いようで……不思議な時間だった
絶対的な存在であるサーヴァントが未だ現界し、この町に住んでいる
住むだけに飽きたらず、自らを鍛え上げてくれたのだ
死ぬわけにはいかないのだ
成さなければいけない事を果たしていない
死んではいけない理由がそばにいる
死なせてはいけない理由がそばにいる
以前であれば、他者を助けるためであれば自らの死すらもいとわなかった「衛宮士郎」という存在
「己」がなかった存在に、「己」を宿らせた存在がいる
その存在のために……そして「己」自身のためにも、衛宮士郎は、「己」を死なせるわけにはいかなかった
だから……衛宮士郎は選択する
相手を倒すことを
目の前の障害を魔術師を「殺す」ことを
今から「己」が……衛宮士郎がもたらす「死」は、魔術師としては「死」よりも遙かに恐ろしい「死」である
そのことは衛宮は十分に理解していた
だが、それでも殺せない理由がある
殺したくないという、身勝手な願いもある
我が侭なのはわかっていた
多くの人を見殺しにした
より多くの命よりも、たった一人の命を取った
これ以上背負うわけにはいかないという思い
これ以上背負えないという思い
これを我が侭と言わずしてなんと言えばいいのだろう
十分に理解していた
だがそれでも……我が侭であったとしても
衛宮士郎はソレを選択する
自らの生のために
「己」に命を運んでくれた存在のために
「己」のために……衛宮士郎は、言葉を紡いだ
Train a pair of my swords
―――対の剣を錬成する
その言葉と共に、衛宮士郎の体から凄まじいまでの魔力と……忌避感があふれ出した
その忌避感が……危険だと、魔術師の本能が察した
魔術使いであるはずの存在でしかない、目の前の存在が
今まで出会ってきたどの存在よりも危険であると
【それを感じ取ったのは偶然だったのか?】
忌避感を覚えて、魔術師はさらに苛烈に衛宮士郎を攻撃した
On account of an unpardonable sin,
―――贖えぬ罪を背負い、
【それとも必然だったのか?】
衛宮士郎は言葉を紡ぎながら猛攻を防ぎ、忌避感が増す事に衛宮士郎の力強さと鋭さが増していった
with an inexhaustible mind
―――尽きぬ思いを糧に
【その疑問に答える存在はこの世のどこにもいないだろう】
魔力と、忌避感を強く感じる何かが、視覚出来るほどに衛宮士郎から溢れ出してくる
It is immortal beyond the many charges
―――それは幾たびの罪過を越え不滅
【いるとすれば、他の誰でもない自分自身】
衛宮士郎の背後に溢れ出てくる……漏れ出してくるのは、黒い靄の様な何かだった
Just never shook
―――ただの一度も揺れず
【自分自身であったはずの幻影かもしれなかった】
なんだ!? こいつは!?
I will not succumb only once
―――ただの一度も屈しない
【だが感じ取ったそれは……致命的なまでに違うものだった】
魔術師が忌避感を超えて、薄ら寒さすらも感じさせるそれはなんなのか?
I am a pair of oath swords
―――己は一対の誓いの剣
【同じはずだった幻影は、自分が知らない道へと堕ちていった】
魔術師にはわからなかったが、止めなければならないと判断した
Cuddling with the black cherry blossoms,
―――黒い桜に寄り添い、
【ならばこの先、もう交わることはないのだろう】
故に、使っていなかった魔術すらも行使しようとしたのだが、それを本能が拒絶した
do not disappear,
―――消えず、
【もう一つの存在と共に、螺旋を描くようにして寄り添い、堕ちていくのだろう】
なぜかはわからないが、魔術行使は危険であると判断したのだ
do not die,
―――死なず、
【本来であれば決して褒められた事ではない】
故に、純粋に剣技のみで、衛宮士郎を殺そうと更に剣を振るった
do not allow death
―――死を赦さない
【だが何故か……それを……】
しかしそれでも衛宮士郎は悉く攻撃を防いでいく
Hence his life is with that sword,
―――故にその生涯はその剣であり、
【■■■■】
魔術使いごときに剣を防がれて憤る気持ちと、得体の知れない何かに恐怖するという生命としての本能に苛立ちを覚えた
That sword is surely
―――その剣はきっと
【そう思ってしまう「自分」がいることに、反吐がでる思いだった】
……あぁ、始まってしまった
そう思い、ただ溜め息を吐くことしか出来なかった
わかっていた
こうなることは
魔力が巡ることで、「己」が魔術を行使することを感じた
皮肉にも、あのとき頬にかかった黒い泥が、二人を繋げていた
繋がっている
その事実は
「呪い」であり
「枷」であった
自らが「己」を殺そうとしたが故に繋がったこと
繋がっているが故に……互いに互いのことがわかってしまう
相手の状況も……
相手の想いも
今、こうして自分が横になっている中で、「己」が何を想い
何をしているのかが……
『私が悪いことしたら、どうしますか?』
あの日……土蔵で問うたこの言葉
それに対して、士郎はこう答えたのだ
『あぁ。桜が悪いことをしたら怒るぞ。他のヤツよりも何倍も怒るさ』
そう言った通り、衛宮士郎は決して桜を赦さなかった
そばにいてくれる
支えてくれる
けれど決して無責任に慰めたり
怒ることもしなかった
怒らなかったといっても、ただ怒鳴ったりしないと言うだけで、怒ってないわけではないのだろう
当たり前だが、衛宮士郎は誰よりも桜の事情を知っていた
だから、怒らないだけだ
だけど……怒らなくても絶対に赦さないことはあった
それをさせないために……寄り添っているのだろう
無論、互いが互いに「己」という存在のためということもある
だがそれ以上に赦さないのだ
怒っているのだ
「己」のために
だから衛宮士郎は今……中庭で戦っていた
何も出来ない「己」が悔しいと思う
「己」がいなければ、戦う理由もなくなるのではないか?
そう思う「己」もいた
だが、それではダメなのだ
「己」の衛宮士郎では、生きることができない
だから
今の「己」に出来ることを静かに行った
先輩
人を殺さないでください
私から
私を
私が、あなたと一緒にいるために
あなたが、私と一緒にいるために
お願いします……士郎さん
そして
衛宮士郎は最後の言葉を
口にした
It was made of black petals
―――黒い花びらで出来ていた