41 開店準備中の出会い
それは突如として
何の前触れもなくやってきた。
「ほう? このような薄汚いところに料理を出す店があるとは……実に興味深いな」
慇懃無礼とは色んな意味で対極にあるかのような尊大で不遜な態度。
だがその圧倒的な圧力と気配は、ただそこにいるだけで物理的に重くのし掛かるほどに、強大な力を秘めていた。
「……申し訳ない。まだ開店準備中なのですが」
最大限の警戒をしつつ、俺は接客を行う。
この世界に来て数日が過ぎ、先日雷画さんのおかげで調理師免許を取得したばかりだ。
店の準備も進めているが、まだ客を呼べるような状況ではなかったが、それでも俺は問答無用で追い返すようなことはしなかった。
いや、出来なかったという方が正しいかも知れない。
相手が殺意も敵意も抱いてないことは、ただただ突っ立っている様子を見れば一目瞭然だ。
だが少しでも選択を間違えれば即座に敵意を……相手が敵になると俺の直感が告げていた。
「我自ら出向いてやったというのに……。あぁそうか。貴様は小僧であって小僧ではなかったのだったな。ならば致し方ないか」
? 何言ってるんだ?
メニュー作りのために色々と試作を作っている最中に突如勝手に入ってこられたので、身に着けた得物は水月のみ。
こいつ自身がそこまで強いとは思えなかったが……こいつはやばいことだけはよくわかった。
しかも隙だらけに見えて……決して油断も慢心もしてないのが、わかった。
これだけの存在が初対面の俺を前にして、何を考えているのかわからないが、それでもこれだけは間違いない。
今の状況下で戦闘になれば絶対に負ける。
だがそんなことなど関係なかった。
こいつは今「客」として来ているのだ。
確かに開店準備が整っていないが、それでも飲食店の店主として……
何より料理人としての意地で
俺は普通に接客を行う。
「それで、何か注文はありますか? 本当は開店前だからいけないですし、材料が大してありませんので、全てのご要望に応えられるわけではありませんが」
「……ほう?」
俺の言葉に、男はさも喜ばしそうに面白そうに、笑みを浮かべる。
その底知れず、初対面であるはずのこの俺の全てをのぞき込むかのようなその瞳に……俺は底知れぬ恐怖を抱く。
だがそれでも俺は意地でも、料理人として振る舞った。
「良かろう。では今の貴様ができる限りの料理を我に献上せよ」
「……畏まりました」
料理人として相対している故に、俺は無頼だが、決して無礼ではない来客者に対して徹底して料理人として振る舞った。
今の食材で、今の俺の実力で、相手を満足させることはおそらくできないだろう。
料理で満足させることが難しいのならば……
俺が料理人として最大限の力を用いて「料理人」であると満足させる以外に方法はない。
力の限りを尽くし。
技の全てを出し尽くして。
俺はこの客をもてなした。
「……ふむ」
出された料理を綺麗に平らげ、食後に出したお茶を飲み干して、無頼な客は一言そう呟いて……ニヤリと、小さく笑った。
「なるほど。変わっても小僧は小僧であることに変わりはないようだな?」
……さっきから何を言ってるんだこいつは?
俺とこいつは間違いなく初対面だ。
こんな気配が圧倒的な存在と会っていれば、忘れたくても忘れられるわけがない。
しかもこの男……何か気配がちぐはぐだ
その場にいるはずなのに、この場で消えてしまいそうな
何か中身に違和感があるというか……
そんなあまりにあやふやでおかしな存在を、忘れるわけがない。
「楽しませてもらったぞ。小僧とはずいぶんと違うようだが、相も変わらず憎たらしい小僧だ」
笑みを浮かべて、その存在は卓に金色に光る硬貨……なんか見た目金貨にみえるんだが……を置いてさっさと席を立って店の外へ向かっていく。
別段店を開いておらず試作品程度の物しか出せなかったのでお代は良かったのだが……しかし変な物を置いて行かれても困るので、厨房から店内のカウンター席へと向かう。
するとそんな俺を、この存在は振り返りながら好戦的な笑みを浮かべて……こういってきた。
「料理人として大儀であった。今回はこれで許してやろう。だが……次に貴様と相対する時は別の在り方で我に向かってくることを厳命する。貴様自身の在り方を忘れるなよ?」
最後に一瞬だけ相手は圧倒的な威圧感を俺に放って、店を出て行った。
相手が視認できなくなってもなお、俺は今度は戦士として最大級の警戒心を持って、その場から一歩も動かずにその気配を追っていた。
やがて俺の気配察知範囲外に出て行ってからしばし経って……俺は荒く吐息を一つ吐き出した。
なんつー心臓に悪い存在だ? あれ?
はっきり言って意味不明だった。
だがこれだけははっきりしていることがある。
俺が今この場で普通にしていられるのは俺が選択を間違えなかったからだ。
もしも別の対応を取っていた場合、間違いなくこの場がふっとんでいただろう。
今の俺では間違いなく塵も残さず消滅していた。
『仕手よ……あれは一体何だ?』
『俺が知るかよ。何故俺のことを知っていたんだろうな?』
『ただ物でないことだけは間違いなかったが……』
『そら誰でもわかるよ。しかし……なんか厄介なのに何でか目をつけられたな』
『確かに……』
封絶が心配して声を掛けてくれたが、しかし余りにも唐突すぎるその出会いは、本当に心臓に悪かった。
ただどうやらこの世界には間違いなく厄介な存在がいると、早めにわかったのは僥倖といえただろう。
どうやらうかうかしている余裕はないらしい。
その後も警戒は続けていたが、特に問題なく俺は日常を謳歌した。
美綴と出会い。
大河の紹介で士郎と桜ちゃんに出会った。
遠坂凜が殴り込んでも来た。
その中で……俺はどうにも納得できないことがあって、士郎に対してつっこんだ。