月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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42 過去と今

「お前、桜ちゃんに対してどうなのよ?」

「? どうって……何がさ?」

 

あ、これあかんやつや

 

桜ちゃんが帰った頃を見計らって俺は衛宮家に突撃し、残っていた大河も交えてちょっとした宴会を開いた……酒と食い物は俺が持参した……のだが、たったこれだけの会話で、俺はこいつが何もわかってないことを理解した。

別段、野次馬根性があった訳じゃない。

人の恋路を邪魔して馬に蹴られたくはないのだが……あまりにも士郎と桜ちゃんの間の溝が我慢できず、問いただしてしまったのだ。

 

あの体に何かを宿した女の子が……どうにも気になって。

 

「桜にはよくしてもらってるし、手伝ってもらってるからありがたいから感謝してるけど……どうって、どういう意味さ?」

「おい大河……これ本気でいってんだよな? 俺の言い方変だったか?」

「うーん……私も意味はわかってるんだけど……。士郎が相手だとちょっと」

 

? 士郎が相手だとちょっと?

 

その後も何度か問答するが、しかし無意味とわかって俺は匙を投げた。

酒も食事もなくなる頃には、士郎も酒が回ったのか……酒は二十歳から飲むように!!!! by 作者……士郎は居間の机に突っ伏して寝てしまった。

俺と大河の二人が残された。

時期はまだ夏だ。

このままほっといても風邪を引くことはないだろうが、それでも何もしないのはアレなので、俺は士郎を畳に寝かせると、勝手に家を歩いて士郎の部屋から大きめのタオルを持ってきて、腹にかけてやった。

 

「こいつはいつもこうなのか? 前から違和感あったが……いくら何でもおかしくないか?」

 

といっても俺も男女の機微なんぞ経験ないので偉そうなことは言えないのだが……それでもあれだけかいがいしく来るのだから少しはわかりそうなものだと思うが。

しかしそれも経験がないからと言われたら反論できないのだが。

 

「……士郎はね。ちょっと昔に大きな出来事があってね」

「……出来事?」

 

酒に酔って思わず呟いてしまったのだろう。

もしくは誰かに……俺のような存在を待ち望んでいたのかも知れない。

大河は、士郎が寝ているのを確認して……横になっている士郎の頭を優しく撫でた。

 

「鉄さんは最近こしてきたからわからないかも知れないけど、十年前の事件自体は知ってる?」

「十年前の事件……か……」

 

と言われても俺は当然その時間軸に、この世界にいない。

だが怪しまれても面倒だし、何より今の大河の話の腰を折るわけにはいかなかったので……俺は神妙にその言葉にうなずいた。

酔っていたからか、それとも気付かなかったのか……大河は寂しそうに士郎に笑みを浮かべながら、話を続けた。

 

「士郎ね……養子なんだ」

「……養子」

 

それだけでもうある程度の事がわかってしまった。

この地域に住んでない人間ですら知っているのが不思議でない十年前の事件に、養子という言葉。

これでわからない方がどうかしている。

 

後日調べてみたが、十年前の事件は実に悲惨な事件だった。

 

だがこの事件が、調べられた報道通りの事件であるとは、俺は思えなかった。

 

 

 

間違いなく魔術がらみだろうな……

 

 

 

大河は一般人故にわからないだろうが、俺には理解できた。

ある程度わかってしまった。

 

この男の違和感の正体に……。

 

 

 

「結構ひどい目にあっちゃった子だから。それに私が知らないこともいっぱいあったんだと思う。だから桜ちゃんがこうして来てくれてるのは、私嬉しいんだ」

「……」

「士郎がひとりぼっちになる時間が減るからね……」

 

ふにゃっと……寂しげだが本当に嬉しそうに笑うこいつは、本当に士郎の姉なのだと思った。

 

 

 

だからこいつを嫌いにはなれないんだよな……好意的にもなる……。まぁいいように使われてるから思うところはあるにはあるのだが……

 

 

 

それから大河の話を俺は静かに聞いていた。

保護者として思うところが当然あったのだろう。

酒の勢いもあってか、大河はぽつぽつと内心を吐露していた。

そして最後に……こういったのだ。

 

「だから鉄さんも……近い年頃の男の子として、士郎のこと見てあげてね」

 

実に卑怯なことをしてくれる。

これで断ったら俺はただの糞野郎だ。

断るつもりは当然なかったが、俺は大河に盛大に溜め息を吐いて……その赤くなったデコを指で弾いてやった。

 

「別段構わんが、お前もいないとこいつはどうにもならないことを忘れんなよ?」

 

俺もそれなりに酔っているのだろう……お酒は二十歳からな by作者。

大河に苦笑しながら、俺はお銚子を大河へ向けて酒をついだ。

そして再度の乾杯をした。

 

不本意ながら、このどうしようもない男をどうにかするという任務ができてしまった瞬間だった。

 

 

 

やるのは構わないが、士郎だけをどうにかしてもダメなのだ。

 

士郎もだが、もう一人……この家にいる存在でこのままではダメになってしまう存在がいる。

 

故に俺はもう一人の存在のフォローにも奔走することになった。

 

 

 

「鈍ると嫌だから訓練に付き合って!」

「え~~~~~やだ~~~~~」

 

と、漬け物石を作る時のように無心になって拒否したのだが……どうやら俺ではまだまだ国士無双には程遠く、修行不足だったようで、結局なんだかんだで付き合わされるハメになってしまった。

場所は手近なところで衛宮家の道場。

結構立派な道場で稽古をつけるには十分すぎた。

といっても……

 

「俺のはあくまで剣術で、剣道とは違うんだが良いのか?」

「いいの! 絶対に一本取ってみせるんだから!」

「そりゃ無理だな」

 

気と魔力を使用しなくても、大河が俺から一本取るのは難しいだろう。

確かにこいつはかなりの腕前を持っているが、剣道ではなく剣術での一本だ。

剣道でもそう負けることはないが、剣術ならなおさらだ。

だが

 

 

 

「とりゃぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

こいつ……

 

 

 

「どっせいぇぇぇぇい!」

 

 

 

気迫と言うよりも……

 

 

 

「チェストォォォォ!」

 

 

 

「しつこいわ!」

「う~~~~!」

「唸るな! 動物かお前は!」

「タイガーいうな!」

「言ってねえ!」

 

勝つまでやると言わんばかりに、しつこくかかって来るので少々辟易してしまう。

そんな様子を、見学している士郎が乾いた笑い声を上げて見ていた。

 

「笑うなよ士郎。さすがに疲れるぞ?」

「まぁそうなんだけど……。でも藤ねえも刃夜と戦えて楽しいみたいだからさ。もう少し付き合ってやってくれよ」

 

そうはいうがなぁ……

 

士郎にも言われては仕方ないのでそれからも何本か付き合ったが……しかしそれでもしつこかったので、最後には当て身で気絶させて強制的に終了させた。

そんな大河を士郎と共に道場に転がしたのだが……そこで士郎からもお願いされてしまった。

 

「刃夜……もしよければ、俺にも稽古をつけてくれないか?」

「……え~~~~~………………いいよ」

 

本当はいやだったが、大河に以前にお願いされた手前断ることができなかった。

士郎もそれなりに鍛えてはいるみたいで……といっても剣術ができるわけでもなく体を鍛えているだけのようだが……竹刀を力強く振るって来て少々驚いた。

だが無駄が多すぎて話にならず……当然だが俺が負けるわけもなく、ぼこぼこにした。

 

「いって~」

「士郎、体は鍛えているみたいだが剣術はしたことないのか? 素人同然だぞ動きが」

「そうだな。俺はただ鍛えているだけだよ。藤ねえみたいに剣を握ってない……というか握らせてくれない」

 

? どういうこったい

 

大河が剣を禁止したらしいが、危うさを大河なりに感じ取ったのだろう。

故に禁止にしており、その禁止に士郎も素直に従っている。

また大河のことをなんだかんだ甘やかしている姿も見られるので……

 

完全に壊れてる訳ではないんだろうが……どうしたものか……

 

そう悩みながら士郎をあしらいつつ、俺は何度か士郎をぼっこぼこにして……といっても軽い打ち身程度で数日もすれば治る程度の負傷しか与えていない……お開きとした。

だがこれはどうやら大河の企みであったらしく、大河と士郎共々、その後も何度も稽古をつけさせられるハメになってしまった。

士郎が同年代の同性と触れあう機会を作りたかったのだろう。

そしてあわよくば……というのも狙っているのがわかり、俺は素直に大河の策略に乗ってやった。

 

「ほい!」

「ぐっ!」

 

士郎の腹に突きを入れて、俺は士郎を悶絶させて一度戦闘不能状況にさせる。

そしてその後間髪入れずに大河が俺に襲いかかってくる。

 

「往生せいやぁぁぁぁ!」

「するわけねぇだろうが!」

 

そうなると当然、士郎の介抱をするのは一人しかいなくなるわけで……

 

「大丈夫ですか、先輩?」

「!? ……あ、あぁ、ありがとう桜」

 

二人して顔を真っ赤にしてそれぞれが互いに気を使っている物だから、もう見ていて初々しいというか、じれったいというか……。

 

砂糖吐くわ!

 

だがそれでも士郎も以前よりも意識しているのが見て取れたので、悔しいが大河の策略は成功したと言っていいだろう。

 

と……思うのだが……

 

「くらぇぇぇぇぇ!」

 

渾身の力で俺に竹刀を振るってくるこの猛獣の様な姿を見たら、なんか目的と手段が入れ替わってしまっている気がするのは……

 

 

 

勘違いじゃないだろうなぁ……

 

 

 

「食らうか! 阿呆めが!」

 

忘れているであろう大河に、俺は渾身の面を……もちろん手加減しているが……食らわせた。

 

 

 

大した手応えもなく時は過ぎていった。

 

だがそれでも士郎がそれなりに意識し出した事と、桜ちゃんが以前よりも赤面することが多くなったことは進歩と言っていいだろう。

 

 

 

何か大きな出来事が起こればもしかしたらどうにかなるかも知れない。

 

 

 

そう思いつつ、俺はすっかり寒くなってしまった冬木の町で……超野太刀狩竜を振るって今朝の鍛錬を行っていた。

 

 

 

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