月夜に閃く二振りの野太刀   作:刀馬鹿

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短め話継続中~
今回は縁日のお話です~






縁日

「以上が、私の店での集客……そして売り上げの状況です」

「ふむ」

 

俺は現在、藤村組組長こと藤村雷画さんの前で、現在の店の状況を話していた。

別に問題が起こったわけでもない。

順調に黒字をたたき出している。

だがそれでも中間報告と言うことで雷画さんに時間を割いてもらったのだ。

借地代やらその他諸々別に構わないと言って下さっているのだが……いくら何でもそれに甘えるわけには行かないからだ。

 

「あいわかった。特に問題はなさそうだな」

「はっ、特に問題ありません。そして今月の借地代になります。お納め下さい」

 

そう言いながら近寄り、俺は封筒に入れた現金を受け渡す。

それを雷画さんは苦笑しながら受け取った。

 

「本当にいいんだぞ? 孫がお前さんを引いた詫びみたいな物なのだから」

「いえ、実害はないのですから引いたとは言えませんし、それではいくら何でも自分の気が済みません」

 

困っていないのだから本当にいらないのかもしれないが……それでは俺の気が済まない。

それがわかっているからこそ雷画さんもこうしてお金を受け取ってくれるのだろうが。

 

「しかし……まさか本当に一人で店を回しきるとは……。若いくせに大した物だ。お主のお父上、そして武芸なんかの師匠はよほどお主を厳しく鍛えられたのだな」

「……はいそれはもう…………」

 

臨死体験は文字通り、星の数ほどしたよ……

 

いくら手を抜いているとはいえ、ある一定の状態まで手加減したら、後はどんなに俺が血反吐まみれになろうが手加減しない。

つまりその一定の強さまで手加減したら、それを越える強さをさっさと身につけなければ殺される回数が増えるだけなのだ。

当時五歳児の俺相手にである……。

 

鬼だった……

 

「まぁそれ故にそれほどの力なんかを有したのだろうが……末恐ろしい奴だよ刃夜殿」

「……恐縮です」

 

経験の差があるとはいえ、俺から言わせればそれを見抜くあなたの方が末恐ろしいのですが……。

 

「おっ、そうだ」

 

そこで雷画さんが閃いたように、手を打ちつつ声を上げた。

俺はそれを訝しみつつ、雷画さんの言葉を待つ。

 

「話は変わるが刃夜殿よ」

「? 何でしょう?」

「出店に興味はないか?」

 

「……はい?」

 

青天の霹靂……とまでは言わないが、その報せは俺にとっては結構驚く物だった。

 

 

 

「ふぇ~いいほわいい。ひゅってんできふなふてはへっほうふほいほとほわない?」

↑へぇ、いいじゃない。出店できるなんて結構すごいことじゃない?

 

「……口の物をきちんと飲み込んでからしゃべれ」

 

夜八時。

普段よりも仕事に時間を取られてしまった大河が、俺の店に食事を取りに来ていた。

孫娘なのですでに事情を知っているかと思ったが、意外な事に知らなかったようだった。

飯を咀嚼しながら頷く様は汚いこときわまりなく……俺は溜め息を吐きながら大河に水を注いだコップを渡した。

 

「ありふぁふぉ」

↑ありがと

 

ゴッゴッゴッ

 

凄まじい勢いで水を嚥下し、口の中の食物もろとも飲み込んでいく。

 

「ぷっはぁ! 別にいいんじゃない? 出店するのも楽しいそうだし。宣伝にもなるし」

「……まぁ確かに断る理由もないのだが」

「そうなると何で出店するの!? 定食?」

「出店で定食出してどうするよ?」

 

目を爛々と輝かせて俺に何を出店するのか聞いてくる大河だが……ぶっちゃけほとんど出店内容は決まっていた。

 

普段とは違った物を作ってみたいしな……

 

舞台……というには少々大げさかもしれないが……は夏祭りの縁日だ。

そこでの出店となれば……気軽に食える物が一番である。

となれば自然と答えは出てくるという物……。

 

 

 

今年もこの時期がきたね~

 

そう言いながら私は早速とばかりに、買ったリンゴ飴を口に含みつつ歩いていた。

冬木市の海浜公園で毎年開かれる縁日だ。

結構大きなお祭りで花火も上がることから、近隣の見物客も来るので結構な人で賑わいを見せている。

そんな中を……一人で歩く私こと美綴綾子。

鉄さんが出店するというので来てみたのだ。

他の連中と一緒に来るという選択肢は……生まれなかった。

 

こんな格好見られても恥ずかしいしね

 

こんな格好……私は今浴衣だった。

アサガオをあしらった落ち着いた雰囲気のある着物だ。

結構自分としても似合っていると思っているのだけれど……客観的に見てくれたのが自分の両親なのでそこまで参考にならない。

 

はぁ~らしくないなぁ……

 

何故こんな気合いの入った格好をしたのかというと……先日の買い物の最後で遠坂に言われた一言が原因だった。

 

賭けねぇ……

 

私と遠坂が互いに賭けた事……「互いにどちらが先に彼氏を作るか」と言う賭け。

全く意識していなかった。

純粋に尊敬していたから。

私とほとんど歳に差がないのに独力でお店を切り盛りして……それだけじゃなく尋常ならざる実力を持っていて……。

本当にそれだけだったのだ。

だけど遠坂の一言で妙に意識してしまって……。

 

遠坂の奴……

 

忠告だったらしいけど……私としては逆効果だった。

それ以来……鉄さんのことを意識してしまって、まともに会話すらも出来ない状態に陥っていた。

 

たは~……私らしくないね

 

恋愛事に興味がないって言うか……あまり自分が惚れるような男と出会ったことがないとか、理由は多々あるけど……とりあえず恋愛なんてしたことがなかった。

ゲームは好きだし、そういう類のゲームも……そう言う類のゲームばかりやってるけど……していた。

 

※ そう言う類のゲーム=乙女ゲーム

 

だから別にそう言うことを否定している訳じゃない。

だけど……今まで恋愛をしたことはなかった。

 

何でだろうね~

 

惚れる男がいなかった。

それはある。

唯一の例を挙げるとしたら……衛宮だろうか?

だけどあいつは弓のライバルとして見ていたからほとんど男と意識することもなかったし。

他にまともに武芸者としての男性は……担任の葛木先生。

けどあそこまで……何というか……感情がない人というのも珍しいし……。

他にはいない。

 

慎二、あれは論外だし……

 

 

 

哀れワカメ……合掌……チーン By作者

 

 

 

実際に実力を目の当たりにしたことはないけど……相当できる人だと思う。

そこに行き着くまでにどれほどの試練と修練を積んできたのかはわからないけど……あの年齢であの佇まいは圧巻だった。

 

……って鉄さんのこと考えすぎ

 

思わず没頭していた思考を無理矢理停止させて私は止まっていた足を進ませる。

自分でもよくわかっていないその感情をはっきりさせるために、私はここまで気合いを入れてきたのだ。

鉄さんに対するこの思いがただの尊敬なのか……はたまた別の何かなのかを知りたくて……。

 

まぁ……でも直ぐには向かわないけど……

 

気合いを入れはした……。

だけど、直ぐに行く勇気もなくて……。

私はとりあえず色々と見て周りながら気を紛らわせる。

 

けどそれも直ぐに無駄なことだったと知る……

 

「たこ焼き三人前」

「へい毎度!」

「さっき頼んだのまだですか?」

「焼きたてお持ちしますんでもう少しお待ちを!」

 

……この声って

 

縁日だから結構な喧噪がある。

そうであるにもかかわらず、その声は他の声と違ってとても通る声で……私の耳に届いた。

声がした方へと目を向けて見ると……そこには……。

 

いつものように板前服を着て……頭にねじりはちまきをしていたけど……必死にキリ(たこ焼きをひっくり返す鉄製の串みたいなやつ)を縦横無尽に振るっている鉄さんがいた。

 

「く、鉄さん!?」

「お。美綴じゃないか? 本当に来てくれたんだな」

 

一切手を休ませずにこちらを向きながら笑顔を向けてくる……鉄さん。

その間に数十個のたこ焼きをひっくり返していた。

きつね色に焼けたたこ焼きの匂いが、すこし離れた私の場所にまで漂ってきていた。

突然の出会いで咄嗟に何も考えずに会話できたけど……直ぐに遠坂の言葉が蘇ってしまって慌ててそれを打ち消した。

 

「来ましたよ~。約束ですからね」

 

何とか笑顔を作りながらそう鉄さんに話しかける。

先日朝のランニングでお店に寄らせてもらったときに、出店の告知を張り出していたから。

何を出すのか秘密にされていたけど、たこ焼きや……しかも明石焼きのたこ焼きだとは思わなかった。

 

すごくおいしそうだけど

 

今は縁日で出店、たこ焼きの出店で汗を……流していない鉄さん。

この真夏の夜というこの暑い中で、たこ焼きの熱気に当てられているにもかかわらず汗一つ欠いていない。

 

……無汗症?

 

病気なんて全く縁がなさそうだけど……ここまでそうだとつい心配してしまう。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか……鉄さんは陽気に私に話しかけてくる。

 

「遠坂辺りときたのか?」

「いえ、あの子こういった人混みが嫌いで一人なんですよ」

 

そもそも誘っていないので若干嘘になるかもしれない。

まぁ実際人混みが嫌いなので完璧に嘘って訳じゃない。

 

「そうなのか? 彼氏とかはいないのか? 士郎とか?」

「だから違いますって」

 

本気か冗談かわからないけど……そう言ってからかってくる。

そのおかげでまた意識してしまった……。

 

けどそれと同時にわからないことが一つ……

 

『あれはやめといたほうがいいわよ』

 

遠坂がそう言った理由。

遠坂の性格上揺さぶりを掛けてきただけかもしれないけど……けどそれにしたってあの時の表情は普通じゃなかった。

 

まぁあの時気が動転していて余り私自身が平常じゃなかったんだけど……

 

「美綴も食うか?」

「いいんですか?」

「あぁ。構わないよ。まぁ特別扱いするわけにはいかないから順番は最後になっちゃうけど」

「それは当然ですね。楽しみにしてます。というか手伝いますよ」

「いやしかし」

「一人で暇だったからいいですって。のぞきに来ただけですから」

 

再び断られてしまう前に、私は半ば強引に腕まくりをして接客を始めた。

そうなると鉄さんも観念して私に接客を任せてくれた。

 

しかし相変わらずと言うべきか……出店であるにもかかわらず鉄さんの腕前はすごかった。

別段普通の明石焼きだというのに……何か出し汁に工夫があるのかすごくおいしそうな香りを漂わせていて食欲をそそられた。

しかも特徴と言うべきか、ものすごい量の刻んだネギを入れるので香ばしいネギの香りが……。

それだけじゃなくなんと、たこの変わりにベーコンとチーズを入れた……たこ焼き?……もあって、思いの外好評だった。

 

何より良かったのは……

 

「へいおまち!」

 

楽しそうに接客をしている鉄さんだった……。

 

……何考えてるんだろう。本当に、らしくないなぁ

 

思わず鉄さんに見とれてしまいそうになった自分に呆れつつ接客した。

そんな状況だったからか……私は忘れていた。

今の状況と……この場所がどういうところかを……

 

「……み、みつづりん?」

「え?」

 

聞き覚えのある声。

その声に反応したことを……私は激しく後悔した。

 

「げっ!?」

 

思わずそんな声が出てしまう。

そんな私を……その三人組は三者三様の表情をして、見つめていた。

 

一人は、驚愕に震えて……、もう一人は何が恥ずかしいのか頬を赤くして、そして最後の一人は……ニヤリと、ほくそ笑んでいた……。

 

「これはこれは美綴嬢。こんな場所で会うとは奇遇だな?」

 

実に芝居がかった口調で……そのニヤニヤと笑みを浮かべている女……氷室は私に話しかけてくる。

その声でようやく驚愕から復活したのか……蒔寺が大声を上げる。

 

「な、なにしてんだぁ~!?」

「ま、蒔ちゃん。大声出さなくても」

 

未だに頬を真っ赤にした三枝が蒔寺に言う。

穂群原学園陸上部三人娘だ。

 

厄介な奴らに……

 

見つかってしまったと、私は内心で己の不覚さを呪った。

三人とも浴衣を着ていた。

三枝は雰囲気と同じような穏やかなオレンジの色合いをした浴衣、氷室は紺地に菊の花が綺麗にあしらわれている。

そしてある意味で一番似合っているのが……というか普段のイメージと違いすぎる……蒔き寺だった。

見るからに高級そうな浴衣で、淡い青地にサクラの花が柄の浴衣だった。

さすが老舗の呉服屋「詠鳥庵(えいちょうあん)」の一人娘だけあって、その浴衣の着こなし、佇まいは完璧だった。

 

 

 

詠鳥庵(エイドリアン)ではない…… 念のため

 

 

 

嫌々着ているのに似合ってるのが……こいつはむかつくんだよね……

 

もちろん本気で……思っている。

まぁでも子供の頃から和服を着て飽きているのかもしれないけど……。

というよりもそんなことを思っている場合ではなかった……。

 

「……ふ」

 

逃げ出す前に……というか見つかった時点でアウトだけど……氷室の眼鏡が、夜で灯りが大してないにもかかわらず、キラリと光った。

 

「いやこれ……」

「蒔の字よ、そう騒ぐな。我ら美綴嬢が男にうつつを抜かす光景など、滅多に見られる物ではないぞ? 騒ぎ立てるのではなく、暖かく見守ろう」

「人の話を聞け!」

 

予想通りの反応に、私は頭が痛くなる思いだった。

遠坂に見られるのもアレだが、三人娘……時に氷室に見られたのは面倒だったかもしれない。

 

「あのなぁ、これは別にそう言う事じゃなくて……」

「でも美綴さん……私たちが誘っても断ったし……」

「……えっと」

 

三枝にそう言われて、固まるしかなかった。

確かに誘われた。

だが断った理由は主に蒔寺と行くと騒がしくなりそうだし、三人と一緒に行動して鉄さんの所に行けるわけがないからだったし……。

 

やばい、どうも言えない

 

「どうした美綴、友達か? っていうか蒔寺じゃないか?」

 

そうして三人と漫才をしていると、鉄さんから声が掛けられる。

一切手を止めずに(高速で動く、キリ)、鉄さんが蒔寺と話をし出す。

 

「あ、どうもこんにちは。そう言えば縁日で出店やるって言ってましたね」

「あぁ。まぁまぁ好評のようで何よりだ」

 

仲がいい事に一瞬目が点になってしまった。

だが直ぐに納得した。

 

そう言えば、蒔寺も結構鉄さんの店にいってるんだっけ?

 

陸上部故に、運動をよく行う蒔寺は結構な頻度で食べに行っているようだった。

私はあまり行かない……客としては……ので、鉄さんのお店で一緒になったことはあまりないのだけど。

 

「安心しろ、美綴嬢」

「……何をだ?」

 

二人を見ながら考えていると、そんな私を格好のからかい材料と判断した氷室が、ポンと肩に手を乗せながら話しかけてくる。

からかわれることはわかりきっていたけど、放置しても面倒なのはわかりきっていたので、私は嫌々ではあったが反応する。

 

「蒔の字に恋愛感情がないのは見ていればわかる。お前さんが熱を入れている鉄店主が取られることはないから安心しろ」

「……」

 

未だに勘違いしている氷室に、一言言おうとするのだが……その前に逃げられてしまった。

ちゃっかりたこ焼きだけ買っていっていた……。

 

別に熱をいれているわけじゃ……。それを確かめにきたってだけで……

 

「相変わらず元気な子だったな」

 

全く作業を止めずに、鉄さんがからからと笑いながらそうこぼす。

その笑顔に心がうずいてしまう自分がいて……

 

ほんと~にわからない……

 

自分の心が……自分の思いが。

 

鉄さんは、そのうち帰っちゃうらしいし

 

海外に住んでいるという、鉄さんの実家。

どういった事情で日本に来たのかはわからないけど、その内日本からいなくなってしまうのは事実で……。

 

「しかし、さすが縁日だな。浴衣を着てるのが多い」

「そら、縁日ですからね」

「美綴が着ているのはちょっとびっくりしたな」

「……それは似合わないって事ですか?」

「違う違う。いつも男勝りだから、浴衣なんて着てられるか! とか言うような気がしてたからさ。すごい似合ってるぞ。そこらの女の子の中でも断トツだ」

「!?」

 

満面の笑みでそう言われて……思わず停止してしまった。

ぼっ、と顔が赤くなったのが直ぐにわかった。

幸い今は夜なので余り表情を見られることはないだろうし、それに鉄さんはたこ焼き焼くのに忙しくて、あまり注視できないはず……。

 

「はいお待ちどうさま」

「え?」

「美綴の分だよ。ようやく順番が回ってきたから遠慮せずに食ってくれ」

 

休憩のために持ち込んだのか、出店の中には小さなイスと机があって……そこに座ることを進めてくれた。

鉄さんの出店の場所は、結構人通りの激しい場所だったので、落ち着いて食べるには座った方がいいので、私は遠慮なくお店の中に入れさせてもらった。

 

あ、おいしい……

 

別段明石焼きはこの地方じゃ珍しくないのだけれど、それでも初めて食べた……そう思えるほどの新鮮な味だった。

かといって奇抜というわけでもなく……とにかくすごくおいしかった。

それに何より……

 

「はい、五人前ですね。毎度あり!」

 

嬉しそうに接客する鉄さんの笑顔が……綺麗だった。

ゆっくりと咀嚼して、たこ焼きを嚥下する。

ひどくゆっくりとたこ焼きを食した……。

そうすれば長い時間こうして……鉄さんの笑顔を見ることが出来るから……。

 

私自身の気持ちを……はっきりさせたかったから……

 

 

 

けどその前に……

 

 

 

完売!

 

 

 

「いやぁ……思ったよりも早く売り切れたなぁ……」

「そうですね」

 

汗ばんでしまった体に風を送りつつ、私は鉄さんの言葉に頷いた。

時刻はまだ八時前だ。

出店が売りきれるにはまだまだ時間的に早い時間帯といえる。

それであるにもかかわらずサクラとかもなしに、直ぐに売り切れてしまうのは鉄さんの料理の腕がいい証拠なんだろう。

 

……どうしようかなぁ

 

確かに……そこらの男よりもよほどかっこいいと思うのだけれど……正直今まで全く意識して接触してこなかったから、自分が鉄さんをどう意識しているのかもわからない。

だから知りたくなった。

 

いや知りたかったのかもしれない。

 

「これで終わりですか?」

「そうだな。これから雷画さんに報告したらそのまま飲み会に巻き込まれそうだが……」

 

そうか……そうだよね

 

考えてみれば出店しているのだから上の人間がいるわけで……。

だから誘うのは悪いかなと思って一歩引いてしまいそうになる。

だけどその前に先手を打たれる。

 

「どうせだったら一緒に来るか? 暇なんだろ? それとも少し回るか?」

「……え?」

 

予想外な言葉だった。

まさか誘われるなんて思って無くって。

だから思わず頷いてしまったのだ……。

 

「いいですね。行きますか」

 

思わずじゃないかもしれないけど……そうしてみたくなったから……。

 

というかこのままもやもやしているのも実に私らしくないから……。

 

だから……

 

 

 

さて、雷画さんにお金も渡したし……美綴はこっちか……

 

出店の売り物が無くなってすぐに、俺は雷画さんにお金を渡して待たせている美綴を探す。

と言っても気配で大体の位置がわかるし、待ち合わせ場所もわかりやすい場所にしていた。

しかしそれ故に目立ってしまったのか……

 

……周りに複数の気配があるな

 

美綴の周りに複数の気配を感じ取って、俺は直ぐにそれがナンパであることを理解した。

今日の美綴の出で立ちは浴衣だった。

元がいい美綴が浴衣を着たら映えること請け合い……実際なかなか綺麗だった……で、しかも一人で待っていたらそらぁこんな浮かれた状況でバカ共が寄ってこないわけがない。

 

まぁ……美綴の実力を考えればあまり心配はないかもしれないが……

 

大丈夫だとは思うのだが……俺は少し急ぐ。

 

が本当に杞憂だった……

 

「ふん!」

「アピャ!?」

 

アピャ?

 

奇妙な断末魔を挙げて崩れ落ちるちゃらちゃらした格好の男。

味方が一人やられたのを見て、他の連中も動き出した。

 

「な、なにしやがんだてめぇ!」

 

大きく振りかぶるその拳……。

後ろに振り切ってそれが自分へと振り抜かれるその前に、敵の力が溜まりきったその瞬間を狙って、正確無比の左の当て身。

たったそれだけで敵を一匹無力化。

 

……ほぉ

 

さらに後方より自分に蹴りを放っていた相手のその蹴り足を受け止めて軸足を足で払い、転倒。

最後の一人が放ってきた拳は空手の回し受けで流し、そのまま流れるように体重を乗せた手刀を敵のがら空きの顎にたたき込んだ。

 

都合四人の相手を一瞬で無効化……すごいな

 

間合いのはかり方から長物の使い手だと言うことはわかっていたが、よもや徒手空拳もここまで出来るとは思ってもみなかった。

浴衣だけ合って余り派手に立ち回っていないようだが、少し浴衣が着崩れている。

それを直す仕草が……なんというかすごく格好良かった。

 

……ほぉ

 

まさに姉御といった感じの仕草だ。

艶めかしいと言っても過言でない仕草だったが、美綴のその持ち前の気迫がそれを昇華させており、そういった感じが全くしない。

むしろその男勝りな仕草が、すばらしく格好良く見える。

しかし浴衣という動きにくいその格好で、四人ほどの馬鹿な男達を圧倒したのは圧巻だった。

周りの人間も遠巻きに見つめているが、その顔には驚きの表情が刻まれていた。

 

「あんたらみたいなちゃらい男と一緒してやるほど、私は安くないんだよ」

 

うわぉ、なんという姉御的な言葉

 

普段から男勝りな言動をしていたが、何というかそれがここに極まれり、といった感じだった。

崩れ落ちる男達を見下ろすその目には明らかに侮蔑の色が混じっていたが……多勢に無勢で女の子一人を襲うような馬鹿共に同情の余地は皆無だった。

 

「やるじゃねぇか嬢ちゃん!」

 

そうして俺が遠目に見ていると、近くで出店をしている中年の男が美綴に笑いながら近寄っていた。

それでようやく自分が何をしたのか認識したのか、美綴が顔を赤く染める。

 

「男四人相手に浴衣で大立ち回りなんざてえしたもんだ! いいもん見せてもらったからこれやる!」

 

そう言って差し出されるお好み焼き。

咄嗟のことで受け取ってしまったことに自分で困っていた。

その後ろで、じわじわと回復したのか、立ち上がって報復しようとしているバカが一人。

 

やれやれ

 

瞬時に近寄り息の根を……命的な意味ではなく、意識的な意味で……止める。

そしてそれを悟られないように直ぐに美綴に話しかける。

 

「よっ。待ったか?」

「く、鉄さん!?」

 

突然後ろから話しかけられて驚きながら俺へと振り返る。

そして直ぐに顔を真っ赤に染めた。

 

? 何で羞恥する……あぁそう言うことか?

 

浴衣姿で男をぶっ飛ばしたのを気にしているのかもしれない。

確かにあの大立ち回りは見事だった。

だがそれが恥ずかしいと思っているのかもしれない。

俺はそんな見当違いな不安を抱いている美綴にこういった。

 

「やるじゃん。出来ると思っていたがよもやこれほどとは思わなかったぞ?」

「?!」

 

俺の言葉で真っ赤になってしまった。

普通に褒めたのだが……あまり良くなかったのかもしれない。

 

というか色んな意味で逆効果だったか?

 

……色恋沙汰は苦手なのだが……何かむだに変な物を立てたかもしれない。

だがそれでも今の立ち回りが見事だったのは事実だったので、そう言うしかなかったので後悔はしていないが。

 

ヒュ~~~~

 

「おっ?」

 

それを遮る見事なタイミングで……打ち上げ花火が上がる。

夏の風物詩の一つであるそれは……様々な火花を打ち上げて、虚空へと消えていく……。

まさに一瞬の煌めき。

 

「綺麗だな」

「……そうですね」

 

いくつも上がる打ち上げ花火……。

それを見つめる俺と美綴。

ただそれだけの事が、随分と幸せというか……平和なことを知ることが出来る……。

それから二人で色々と見て回って、笑っていた。

楽しく、笑いながら……。

 

そこに何の陰りもなく……実に楽しい、平和な、縁日で……。

 

 

 

そんな縁日での出来事だった。

 

 

 

 

 




ちょっと内容薄いかねぇ……
まぁそんなこんなで縁日でのお話でありました。
とりあえず日常編、最終話は明後日で~す

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