終焉の翼は希望を照らす   作:むみょう・あーす

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おかしいですね……特に構想とか決まってなかったんですが……


予兆

 アティスマータ新王国の軍事力は、アーカディア帝国のわずか数十分の一にも満たない。大半の機竜と機竜使いはクーデター時に消失し、領土自体は無駄に広い状態にとどまっている。

 新王国軍総参謀長に任ぜられた伊集院は副官に任命した夜架と共に、機竜使い養成機関――王立士官学園へと赴いた。

「今日も来てくれてありがとう、慶君。ごめんなさい、今朝急に書簡を送ったりなんかして……」

「いえ、仕事でもありますからお礼なんていいんですよ。それに王宮や駐屯地でずっと訓練させたり、デスクワークに勤しんでばかりですから、ここでみんなと時間を持てるのは心の支えの一つでもありますから」

「あらあら、それ直接生徒のみんなに言ってあげたら?」

「そりゃお恥ずかしい。大事なパーティーの時があれば、その時のために取っておきます」

「そうなのね、わかったわ。じゃあ私からもあの子たちには内緒にしておいてあげるわ」

 学園長を務めるレリィ・アイングラムは<アイングラム財団>の長女として生を受け、おっとりとした物柔らかな女性――初めて出会った時、そんな印象を伊集院は抱いた。

 男子禁制のこの学園に、伊集院が入るともなれば新王国女王の発行した書類がなければ中々立ち入ることはできない。だが、そんな諸々の面倒な事情を突っぱねてくれたレリィ学園長に感謝している面があり、時々機竜操作の臨時教官として通うこともある。

「どうも……それで、手紙にあった〝困った事態〟というのは、機器の故障とかでしょうか? それなら姫や整備員たちが……」

「――ルクス・アーカディア」

「……ッ!?」

 一瞬伊集院の反応が遅れた。

「ちょ、ちょっと待ってください、レリィさん。どうして第七皇子殿下のお名前を……」

 旧帝国皇族の生き残り。それ故に国家予算にも相当する借金の返済を条件に恩赦として世に放たれた雑用皇子……。

 当時内務省社会保障治安維持局という御大層な役所の武装機関に属していた伊集院と夜架だったが、ルクス・アーカディアとは面識があった。何度か直接対話する機会もあり、彼の人の良さはよく知っていた。

 皇帝に相応しい政治的軍事的才能があるかと問われれば判断は難しいところではあったが、彼の展望を聞けばそれに賛同してしまいたくなる程度には、やはり人望は厚かったのだろう……。

 その雑用皇子は現在城下町の人々と、最初は疎まれる対象ではあったのだが、交流を深める仲で関係も改善していったのだというのだから、伊集院にとっては人たらしも同然だった。

「レリィ学園長……」

「彼ね、ルクス君……お風呂に落ちてしまったみたいで……」

「……は?」

 状況を理解しようにも唐突なその一言に、彼の脳はフル回転を余儀なくされた。

 要するに、事情はこうらしい。

 逃げ出した猫を捕まえる、という依頼を引き受けたルクスはアカデミーにある大浴場の屋根を走っていたがために、崩れ落ちて新王国王女リーズシャルテをはじめ、生徒たちの裸体を見てしまった。

 激怒し、なんとしてもルクスを牢獄送りにしたいたリーズシャルテ姫と、故意ではなかったのだと和解を持ち掛けたルクスは、結局機竜による模擬戦の結果によって処分を決定するという。

「……通常憲兵や第三者委員会による事情聴取を経て、然る後、決定を下すべきかと思うのですが……あの姫も随分好き勝手になさるものだ」

「わたくしもそう思いますわ。本来それは行政に任せ、状況に即して司法の手に委ねるべきかと」

「でも私はルクス君にアカデミー内での仕事を依頼しようとしていたから、彼女に負けてもらっては困るし……」

「それで許可したと?」

「ええ。しかも変に話も大きくなってしまったことだし、被害者であるリーズシャルテさんに任せたの」

「……まぁ、我々は学園の方針やカリキュラムに直接口を出せる権限はありませんから、学園長のお好きなように。話がそれだけでしたらもう失礼しても?」

「まぁまぁ、もう少し話を聞いて。私はルクス君の勝利に終わると思ってるの。それかこれまでの模擬戦における引き分けか……」

「確かに殿下には〝無敗の最弱〟なる異名がおありだ。感情の起伏が激しい姫なら機竜を暴走させて降伏させる、なんて手も取れるでしょう」

「そうなった場合、彼をこの学園の士官候補生として編入してもらうのだけれど、あなた方にも常勤教官として――」

「レリィさん、それは無理ですよ」

 落ち込んだ様子で溜息をつく。桃色の長髪がその都度揺れ、日ごろからよく手入れがなされているのが伺えるほどの滑らかな髪質だった。「そうよね……軍の仕事で忙しいのでしょう?」

「ええ。この学園から排出した機竜使いもまだまだ実戦慣れしていませんし、今の国力では機竜を軍事力のメインとするのは難しいですよ」

「あと何年ほどかかりそう?」

「国家間の戦争に運用するとしたら、遺跡の攻略や機竜使いの育成も考えると十年弱はかかるかと」

「予算も考えれば妥当よね……旧式戦闘装備の方は?」

「歩兵銃の開発と急いでいますよ。でも無茶は無茶です。この国はただでさえ新しい。経済基盤も盤石なものではなく、未だに旧帝国時代の大貴族に頼る部分も多い」

「まずは国全体の近代化――工業国化が不可避ということかしら?」

 伊集院は頷いた。「機竜が遺跡から発掘される存在であり、かつそれに限界がある以上、いつの日か機竜なしでの――前時代的な総力戦になることは避けられないでしょう」

 学園長室のドアの傍に立てかけた二振りの刀を振り返って見て続けた。「少なくとも機竜は決戦兵器として使用するべきです。……まぁ、こんなことはここで論ずるべきことではありませんがね」

「そうね。それは長官とラフィ女王に進言すべき内容ね」

「ではこれで」

「模擬戦、見て行かなくていいの?」

「構いませんよ。〝無敗の最弱〟の引き分け数が一増えるだけでしょう?」

「……一応応接室で待っています。模擬戦終了後に通常通り授業が行われるのなら、そこまで待っています」

 それでは、と会釈をして二人は学園長室を後にする。直後、伊集院は頭を抱えていた。「――旧帝国の皇子をやっつける見世物、男なんかやっつけちゃえ、か……」

「帝国が男尊女卑の風潮が強かったこともありますし、機竜への適正は助勢の方がより高いとされていますから、仕方ない部分はあるのでしょうが……」

「それだと被害者と加害者が立場を入れ替えながら慢性的に争っている状態が延々と続くだけだ。人々が変革を望んだ意味がない」

「慶……」

「結局、人が人であるが故の醜さを愛し、受け入れながら、共に未来を歩む偶像がなければ、奇跡を繰り返す術はないらしい。ただ憎悪が復讐を生み、戦争が起こって歴史は繰り返す……全く投げ出したくなるな」

 夜架は答えない。どう返答すればよいのか、彼女を困らせてしまったのではないかと思って彼女の方を見下ろす。切り揃えられた黒い前髪の隙間からのぞく青い双眸が、真っ直ぐ彼を射抜いていた。

 アカデミーと称されるそこに足を運ぶとき、決まって隣を歩く副参謀長は口をとがらせている。

「……」ブツブツと何か不満の言葉らしきものをぼやいているのだが、それを正確に聞き取ることは困難の極みだ。

「なぁ夜架、お前がアカデミーに俺を行かせたがらない理由はわかるが、俺たちは軍人だからな一応。軍や政府の上層部には従わなきゃいけないだろう?」

「それでも嫌なものは嫌ですわ」

「……俺が生徒たちに好意を抱かれてる、とかいうんだろ? どうせお前の勘違いだよ、深読みしすぎだ。俺は所謂モテ期というのが来るような人種ではないんだが、それはお前が一番よく知っているはずだぞ? 俺みたいな冴えない男はそういう概念からは一番遠いものだよ」

「慶が異性から好意を持たれにくいのは知っていますが……」

「うーん、冗談でもいいから、そこはちょっとは否定して欲しかったなぁ、お兄さん悲しいよ」

「でもあなたのテクニックはわたくしよりも高いですから、生徒たちに詰め寄られると、その……少し心配で……」

 普段は露骨に感情を出すことのない夜架が、そうする時、決まって伊集院の中にある悪戯心に火を灯される感覚を抱く。

 だが、結局彼がその心に従って何か発するわけでもなく、苦笑を浮かべたまま応接室に入室していくのだった……。




ヘイズたちによる侵攻、アニメ版までいくといいなぁ……
ただ史実で言う近代兵器や貿易とか、中世から近世への移り変わりを考えると、歩兵や騎兵、槍兵……組織的な軍隊の登場って出番ないんですよ
あとは季節面をどう描くかですよね
この手の作品て中世ヨーロッパ辺りを下にしているので、ペストをはじめとする感染症や惑星規模の寒冷化による農作物の不作、王や教会、貴族の持つ権力とそのバランス……そういったものを参考にしながら二次創作を展開していこうとすると、かなり厳しいものになるのでしょうか、なんて悩みながら書いていました
オリ主や夜架の協力がないヘイズたちの陣営が実際巨兵を連れ出したところですぐに制圧されるでしょうから、意外と原作通りの展開に行かない可能性が……

伊集院読み統一……苗字でやり続けるのは……
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