五等分の護衛 〜1人で5人なんて守れるわけねえだろ〜 作:無限夢幻
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では、どうぞ。
護衛、それは即ちその人の命を預かることであり、己の命を課して守り抜くという仕事だ。その
しかしそんな現在の日本で、珍しく護衛業を担っている会社があった。
「次の『
「お前に心配なんかされたくねえよ」
『雛』、それはすなわち護衛業界での保護対象を指す隠語だ。自分で身を守る術を持たない者。そういうものを『雛』と呼ぶのはこの警備会社『守り人』でも同じだ。
「まぁ、君のことだから心配はいらないだろうけどね。なんて言ったって君は社長が認めた数少ない人物なんだから」
「……うるせぇ」
『守り人』の一員である
「高校での五人の子守を頑張ってね〜」
「はぁ、楽な仕事になることを心から祈るよ」
同僚が手を振りながら去っていくのを恨めしそうに見送ると、零はこれから先のことを想像して大きなため息を吐くのであった。
だが、これから先に多くの多難が待ち受けていることなど零はまだ知らない。
これは、五つ子と一人の家庭教師。
そして一人の護衛の日常・非日常を綴った物語である。
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場所はとある五つ子達の通っている学校の食堂。授業に疲れ果てた生徒たちがその腹を満たすオアシスであり、毎度のことだが多くの生徒でごった返して賑わっている。
そんな中、
「焼肉定食、焼肉抜きで」
「あいよー」
耳を疑う注文をする生徒が一人。食堂のおばちゃんも聞き慣れたその注文にもはや何の反応も示すことない。そんな奇妙な注文をして周りから奇異の視線を向けられているのは、学年一位の秀才ーー上杉風太郎だ。
ご飯と味噌汁とお新香を受け取った風太郎は席を探して辺りを見渡すと、空いている四人がけの席を見つけて歩き出した。そしてここは自分の場所だと宣言するかのようにお盆を置こうとした瞬間ーー
カツン!
「うん?」
「ん?」
「あ?」
同じテーブルに同時にお盆を置いた二人の人物とぶつかり顔を顰める。一人は黒髪で高身長の少し鋭い目つきをした少年。もう一人は他の人たちが着ている制服とは違う配色の制服を着た赤髪の美少女。
三人はお互いに顔を見合わせて動きを止める。お互いどう動くべきかを思惑し、つかの間の沈黙が流れる。
だが、一番最初に目を逸らし無言で席に着いたのは黒髪の少年だった。
「「なっ!?」」
何も言わずに席を自分のものにした少年ーー零に風太郎と赤髪の少女ーー中野五月が驚きと非難の声を上げようとする。
だがーー
「悪いけど俺急いでるんだ。座りたいならお好きにどうぞ。多分ここ以外に席ないと思うけど」
少々思うところはあるものの正論である零の言葉で渋々席に着くことにした風太郎と五月。こうして異常なメンバーによるお昼ご飯が始まった。
いつもは一人でいる風太郎が、見たことのない男女と共にご飯を食べているのを見て周囲が少しざわめくが、零は一向に気にせずに箸を進める。
零はそこでふと視界に入ってきた事が気になって、二人のお盆の中身を交互に見比べた。片方はご飯と味噌汁とお新香だけという戦時中もかくやと思わせる質素ぶり。もう片方はうどんに天ぷらにデザートまでセットという、学生にとっては大食いに分類されるであろう量のある豪華ぶり。
次にそれぞれのお盆の持ち主を見比べる。成長期かつ思春期真っ只中の男子と思春期ではあるものの成長期はもう過ぎたであろう女子。それを認識した零はーー
(これ逆じゃね?)
と首をかしげるのであった。
零に観察されている中、風太郎が特に気にせず食事をしながらテストの勉強をしていると、それを見ていた五月が眉を顰めて咎める。
「ちょっと、行儀悪いですよ」
「テストの復習をしてるんだ。ほっといてくれ」
「なんだ、テスト悪かったのか? どれ、見せてみ」
初対面であるにも関わらず、異常な親しさでさっと風太郎の手からテストを奪う零。ざっとテスト用紙に目を通すと口元に意地の悪い笑みを浮かべた。
「へぇ〜、なるほど。面白い」
「へぇ、そんなに悪かったんですね」
零は五月の問いに対して口元に笑みを浮かべたまま、テスト用紙を手を伸ばして催促する五月へと手渡し、五月がニヤニヤと少し笑いながらテストを取る。
そしてテストを見るとその表情のままピキリとフリーズした。
「ひゃ、100点!?」
「あーめっちゃ恥ずかしい!」
「あなたわざと見せましたね!? ひょっとして貴方達グルですか!?」
思ってもいない事を言いながらサッと目を逸らす風太郎。五月の反応を見て愉快げに笑っている零。そんな二人を見て思わず立ち上がりながら怒りの声を上げる五月だったが、二人は不思議そうに顔を見合わせるだけだった。
「ん? いや、俺たち初対面なはずだけど。お前俺のこと知ってる?」
「いや、知らない。初めて会ったな」
「だよな? さっきのやつも俺が合わせただけだし」
「ああ、あれはナイス判断だ」
「だろ?」
そう言ってハハハッと笑い合う男子二人。
「……貴方達本当に初対面なんですか?」
初対面にしてはあまりに気が合いすぎている二人を見て、何処か納得がいかないまま、五月は再び席に着いた。
「でも、自慢するのが良いことかは置いておいて勉強が出来ることは凄いことだと思います」
「お、おう」
落ち着いき直した五月に率直に褒め言葉を送られて、風太郎は調子が狂わされたような声で相槌を返す。
「そうです! 相席になったのも何かの縁です! 私に勉強を教えてくれませんか?」
「嫌だね。ごちそうさま」
風太郎は五月の言葉をサラッと流して席を立った。と言うのも風太郎は既に昼ご飯を食べ終えていたのだ。
「食べるの早!?」
(ご飯と味噌汁とお新香だけならそりゃ早いだろ)
零の心のツッコミも知らず、五月は健全な高校生男子でありながらあまりにエネルギーの不足した食事を取っている風太郎を心配して提案をする。
「お昼、私の分少し分けましょうか?」
「あんたはむしろ頼みすぎだ。
「なっ!?」
善意からの提案を突き返した挙句足蹴にするような言葉に怒りを覚えるも、自分がよく食べる方であると自覚している五月は何もいいかえせず顔を赤くしてプルプルと震えていた。
そんな五月を知ってか知らずしてか、五月と呆然としている零を置いて風太郎はさっと去っていってしまった。
(何でかい爆弾落としていってくれてんだよあいつ!)
取り残された零は異様な気不味さが漂う空気感の中に身を置かされ、
五月も怒りと恥ずかしさからか箸を進める手を止めて俯いている。それを見た零は嘆息しながら声をかける。
「おーい、麺伸びるぞ?」
「! そ、そうですね」
そう言って無言で箸を進める二人。どちらも悪いわけではないのだが、なんとなく話しかけ難い空気感が充満していた。だが、その静寂を破ったのは五月が先だった。
「……貴方も違う制服を着てますけど、ひょっとして貴方も転校生なんですか?」
「"も"ってことはあんたもか。俺は夢宮零だ。よろしくな」
「中野五月です。こちらこそよろしくお願いします」
同席してからおよそ10分後くらいに始まった突然の自己紹介。明らかに順番が逆だったが、両者ともそれは口には出さない。
「夢宮くんはどこから来たのですか? ここら辺では見慣れない制服ですけど」
「ああ、遠くから」
「……え?」
「遠くから」
「遠くってどこなんですか?」
「多分言っても分かんねえよ。…まあそれは置いといて、
零が五月をじっと見つめる。自分を知っているかのような問いに五月は怪訝そうな表情をしながらも頷いた。
「そうですけど……」
「そうか。
なんら不思議のない初対面の人に向けて言う言葉。だが、五月は何かもっと別の意味があるように感じられた。しかし、五月は自分の気のせいだと思うことにして挨拶を返したのだった。
「はい。これからよろしくお願いしますね」
五月は一ミリたりとも考えることはなかった。まさか目の前にいる細身の男子生徒が、自分が父から聞かされていた姉妹達の護衛だということに。
ーーそして先程の生徒が自分たちの家庭教師となるということに。
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場所は変わって昼休み後の二年一組。同じクラスへの転校生として教室の前まで連れてこられた零と五月を待たせて教師は先に教室に入った。
生徒たちが新しく増えている席数についてザワザワしている雰囲気を零は壁越しに感じ取っていたが、緊張はしていなかった。仕事の都合で何度も転校を繰り返してきた零にとって、転校は最早ありふれた日常の一部になっていた。
「え〜、みんな静かに。このクラスに二人も転校生が来ました」
教師の言葉で再びザワザワし始める生徒たち。そんな生徒たちを軽くなだめてから教師は二人を呼び入れる。
「さっ、入って入って」
教師に催促されて五月、零の順で教室に入る。教師によって教壇の真ん前に立たされた二人はクラス中からの好奇の視線に晒される。
「中野五月です。よろしくお願いします」
「夢宮零です。よろしく」
とりあえず二人は自己紹介を簡潔に済ませる。
「女子だ」
「普通にイケメンじゃない?」
「可愛いなあ」
「あの制服って黒薔薇女子じゃない?」
「二人共スタイルいいな〜」
教室の男女は先生の注意の声も耳に入らないほど各々が騒ぎ始める。だがそんな中、零の視線はある一人の生徒にだけ向いていた。
自分の家庭教師の教え子が誰なのかを知って、後悔と絶望を同時に絶賛体験中の男子生徒ーー風太郎だ。
零と五月の席は教室の一番うしろに並んで配置されていた。風太郎は目の前を通り過ぎる冷や汗と共に震えた声で五月に話し掛けるが、プイッと顔を背けられて無惨に散る。そしてそのまま固まる風太郎の方を通り過ぎた零が、風太郎の肩を少し強めにポンポンと叩いた。
二人が席についたのを見て、先生が声を大きく張り上げる。
一人浮かない顔をしている風太郎を放って授業が始まった。
ちなみに零は家庭教師が風太郎であることを既に知らされています。
次回乞うご期待!