五等分の護衛 〜1人で5人なんて守れるわけねえだろ〜 作:無限夢幻
まあ、とりあえずどうぞ。
場所は移って中野家のリビングに零はいた。風太郎は教え子が五つ子だったショックから抜け出せず、電話を借りてマルオに確認の電話をしにベランダに出で行った。
「さてと、俺たちも始めるか。さっきも言ったとおり、俺があんたらの護衛役を任命された『守り人』の夢宮零だ。どうぞよろしく」
零は立ち上がるとポケットから名刺を取り出すと五人に配った。渡された五人は名刺に目を通す。そこにはシンプルな黒文字で『守り人 夢宮零』とだけ書かれていた。電話番号なども一切ないとても素朴な名刺だ。
「ほんとにアンタが護衛なの? めっちゃ弱そうなんだけど」
二乃が疑いの籠もった視線を零に向けた。零は他の姉妹の様子をチラリと伺うが、全員が二乃と似たような反応だった。
「見た目で判断しないでくれ。これでも結構腕には自信があるんだよ」
「確かにそうですね。人を見た目で判断するのは良くないと思います」
零が困った顔をすると五月が零をフォローするような発言をした。しかしその目はまるで嫌いな物を見るかのような嫌悪感を含んでいた。
そこで零は気づく。零が護衛だと言った後から五月以外だけでなく全員が零を軽蔑するかのような目を向けてくることに。あの誰に対しても明るく優しい四葉でさえもがどう接すれば良いのか困惑しているようだ。
(これは俺へのヘイト……ってわけじゃなさそうだな。俺が護衛だと明かす前は普通の態度だった。ってことはこれは俺自身じゃなくて『護衛』って職業へのヘイトか? そういや確か調査書に俺の前任の他社の護衛が不祥事を起こしたと書いてあったな。それが原因か?)
だが、仮にそうであったとしても零は零の仕事をしないといけないことには変わりない。零はそう結論付けると五つ子の視線を無視して語り始めた。
「それで俺があんたらを
「これは……?」
「GPSが入った装置だ。ここに付いているボタンを押せばすぐに俺に連絡が入るようになっている。身に危険が迫ったときに押してくれ。すぐに駆けつけるから」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! なんでそんなGPSが入ったものなんか持ってないといけないのよ! アタシは嫌よ。アンタみたいな奴に居場所を知られているなんてお断りよ」
「…まぁ、それもそうだな。確かにいきなりGPSを持たされるのが嫌なのは分かる。だからせめてさっきの二つの約束は守ってくれないか?」
零は三つ目のお願いは拒否されることも想定はしていた。初対面の男性にGPSで居場所を知られることになるのを嫌がるのはなんらおかしい反応ではない。逆に許可が出ていたらその人を心配するぐらいだ。だが、二つのお願いなら聞いてくれるのではないかと零はふんでいた。
だが、零が思っているほど五つ子の護衛への不信感は甘いものではなかったようだ。
「はぁ!? 嫌に決まってんでしょ! だいたいなんでアンタの指図を受けなきゃいけないのよ」
「私も嫌です。あなたにプライバシーを晒したくありません」
「私もイヤ」
二乃に続いて五月と三玖が反対する。一花と四葉は声は出さなかったが内心は三人と同じなのだろうと零は思った。
(さて、どうしたものか。正直言ってこの二つの約束も守ってもらえないなら俺がコイツらを護るのも難しいのだがな……)
零が困り果てていると二乃が貼り付けたような笑みを浮かべて近づいてくる。もちろん零は警戒している。
「私達ぶっちゃけーー
護衛なんていらないんだよね〜」
「!?」
いつもは無表情な零の顔にも驚きの表情が浮かぶ。それを見た二乃はしてやったりというふうにニヤッと笑うと自分の部屋に帰っていった。それを追って他の三人ーー四葉以外も部屋に戻っていく。
(こいつらまさか
零は驚いていた。二乃の言葉に隠された真実に。零は横に残った四葉の存在に気づかないほどに熟考していた。四葉も考え込んでいる零を見て声をかけるべきか悩んでオロオロとしている。
「……どういうつもりだ中野先生」
「え?」
零がぽろりとこぼした呟きに四葉が素っ頓狂な声を上げるが、零はそれにも気づかずに風太郎のいるベランダに出た。
「いえ、大丈夫です。はい、失礼します」
そこでは風太郎がちょうど電話を終えかけているところだったので、零は風太郎の手から電話を奪い取る。風太郎が慌てて声を上げるが、零は睨みつけて黙らせた。普段は人を睨みつけることはしない零だが、今はかなり不機嫌だった。
「どういうつもりですか中野先生」
「…その声は零君かい? どういうつもりとは何のことだろうか?」
「先生、彼女達に話していないでしょ。
「!?」
まだその場に残っていた風太郎は零の言葉に驚愕の表情を浮かべた。風太郎は五つ子に護衛が付くのは単に彼女達がお金持ちだからだと思っていたが、命を狙われているとは一ミリも考えていなかったからだ。
「先生、護衛とは護る者と護られる者の信頼があってこそ成り立つものです。ですが彼女達は自分達が狙われていることを知らず、挙句の果てには護衛は必要ないとまで言っています。これでは護衛のしようがありません」
「……そうかい。だが、零君。僕は親として娘たちには何も気にせず自由に生きてほしいんだ。君にこの気持ちが分かるかい?」
零はイライラとした内心を垣間見せることは微塵もなく、普段どおりの口調で話す。逆にそのことが風太郎には恐ろしく見えていたのだが、零は気づいていない。
「分かりかねますね」
零は即答する。
「この事を彼女たちに伝えないのは後々に彼女達の命を奪うことになるかもしれません。本当に彼女達のことを思ってなら彼女達に話すことをおすすめします」
「そうか……。君がそこまで言うのならそうすることにするよ」
マルオは零に押し負けて命が狙われていることを詳細は省いて五つ子に伝える約束をした。そして零が電話を切ろうとしたその時、マルオは零に尋ねる。
「零君、君に聞いておきたいことがある」
「なんですか?」
マルオの方から何かを尋ねてくるのは珍しいので零は少し驚く。ちなみに風太郎はさっきからずっと聞き耳を立てて二人の話を聞いている。零も特に隠すことはなく話し、マルオにおいては風太郎が聞いていることを知らない。だからだろうか、マルオは二人きりのときに聞くべきことを今ここで聞いてしまった。
「もしうちの娘達が殺されそうになったとき、犯人を殺す以外の選択肢がなかったら君はどうする?」
急に真剣なものに変わったマルオの声に風太郎は身を固くする。それに対して零はそんなつまらないことを聞かないでくださいよ、と軽く笑った。そしてーー
「殺しますよ。躊躇いなく」
冷たく、重たい。風太郎が一番に感じたのは恐怖だった。人をいとも簡単に殺すと言ってのけたその冷たさに。そしてその奥に秘められた覚悟の重さに。風太郎は恐怖した。
「まぁ、そんな状況にさせないのが俺の仕事なんですけどねー」
だが、当の本人はカラカラと乾いた声で笑う。風太郎は困惑した。今の零はとてもさっきの声を出したようには見えない。あの恐怖を感じたのはほんの一瞬だけ。風太郎が気のせいかもしれないと思うには十分な短さだった。
「それじゃあ失礼します」
「あ、あぁ」
マルオにしては珍しい気の抜けたような返事が帰ってきたのを不思議に思いながらも零は電話を切った。そして流れるような動作で風太郎の額へと指を運び、指を弾く動作ーー俗に言うデコピンを打ち込んだ。
「いってぇ!」
「盗み聞きした罰だ」
「す、すまん。だがさっき言ってたことは……」
「本当だ」
「! そ、そうか。お前も大変なんだな」
「ああ、お前もな」
「え?」
意図せず盗み聞きをしてしまい気まずそうに零を慰める風太郎だが、そのまんま同じ言葉で返されて戸惑う。そして風太郎は零に指し示されたほうを見て動きを止めた。
「って、誰もいない!?」
「私はいますよ!」
風太郎が誰もいないリビングを見て叫び声を上げるが、安心してくださいとばかりにひょっこりと四葉が現れた。
「お前は……確か四葉か。0点の」
「えへへ」
四葉は照れくさそうに頭を掻いている。誇れる事ではないはずなのだが、本人は覚えてくれていた事の嬉しさからか、少し照れ気味だ。
「ちょっと眉間にシワを寄せてみてくれ」
「? こうですか?」
「なるほど、本当に五つ子なんだな」
(確かに怒った五月に似ているな)
眉間にシワを寄せた四葉を見て風太郎が納得し、零も改めて五つ子であることを実感させられる。
「って何でお前は逃げないの?」
「心外です! 上杉さんの授業を受けるために決まってるじゃないですか! 怖い先生じゃないかと心配していたのですが同級生の上杉さんなら楽しそうです!」
零はいつもどおりの明るさで零と風太郎に話す四葉を見て、少なくとも全員に嫌われてるわけではないのだと少し安心した。そして風太郎は授業を受けることに前向きな四葉の姿勢に感動して「抱きしめていいか」などのセクハラ発言をしたので零に再びデコピンされていた。
「あのな、一応俺護衛だからそういうことされたらお前をボコらねえといけねえんだよ」
「そ、そうだったな」
「あはは……」
風太郎の行動に若干引き気味の四葉に零は尋ねる。
「なあ、四葉。お前は俺が護衛をすることをどう思う? 正直に答えてくれ」
「そ、そうですね…。前の護衛の人は嫌な人でしたけど、夢宮さんなら信用できそうです!」
「…そうか。嬉しいがそれは少しダメだな」
「え?」
目の前で急にピシッと指を立てられて四葉は困惑する。
「気持ちはすごく嬉しいが、初対面の人をそう簡単に信じてはいけない。中にはお前を騙そうとする悪いやつもいるからな」
「うぅ、そうですよね」
零の注意を受けて四葉は項垂れた。どういう原理かは分からないがついでにリボンもヘニャへにゃと垂れる。零の中では落ち込む四葉の姿が美雪に重なって見えた。
(少し似ている気がする。ま、気のせいか)
「まぁ気持ちは嬉しかった。ありがとな」
「はい!」
零が慰めると四葉は一瞬でリボンと一緒に元気になった。本当にどういう原理なのだろうか?
「さー他のみんなを呼びに行きましょう!」
「おう、いってらっしゃい」
「お前は来ねえのかよ」
「俺の仕事は護衛だ。生徒を集めるのは家庭教師の仕事だろ。……まぁ一応家庭教師の補佐の仕事も任されてるけどな」
「何だって!? 夢宮が手伝ってくれるのか!」
あくまでも補佐だからなと念を押す零だが微かな希望の光を見出した風太郎には届かない。
「よし! そうと分かればいくらでもやりようがある! 四葉、皆を呼びに行くぞ!」
「はい!」
意気揚々と他の四人を呼びに行く二人を見送った零は、ため息をつきながらかばんからノートパソコンを取り出して起動する。そしてそのままカタカタと細くて男子にしては綺麗な指をパソコンのキーボード上で踊らせていると、風太郎達とはすれ違いに赤いジャージを着た二乃が階段を降りてきた。
「なんだ、まだいたの?」
「仕事だからな」
零が二乃の方に目もくれず事務作業を続けると二乃が後ろから覗き込んできた。
「何してんのよ……って英語!」
「本当なら読まれちゃまずいんだけどな。お前は読めないから見てもわかんないだろ」
「う、うるさいわよ!」
零に真正面から馬鹿にされて、二乃は顔を赤くしてキッチンの方へ立ち去っていった。零はそのまま作業を続けようとしたーーがふと手が止まる。二階から風太郎達がうまくいっていない様子が想像できそうな音や声が聞こえてきたからだ。
零は数秒の間自分も行くべきか迷ったが、嫌われている自分が行くと余計に事態を悪化させかねないので行くのをやめた。
そうこうしているとキッチンから甘いいい香りが漂ってきた。
(なんだ? 二乃が何か作ってんのか?)
零がチラリとキッチンの様子を伺うと二乃がちょうどクッキーを皿に盛り付けているところだった。何やら台所が騒がしかった原因はこれのようだ。
味がありありと想像できそうな見た目と香りを纏ったクッキーを見ていると、風太郎達が重い体を引きずるように二階から降りてきた。
そしてニ乃が着ている体操服を目当てに三玖が降りてきて、何処からか匂いを嗅ぎつけた五月も続けて降りてくる。
「クッキー焼いたんだけど食べる?」
そして二乃が皆にクッキーを勧めたことでリビングでのお茶会が始まったのである。
キリが良いのでここまでになります。
*読者の皆様にお願いです。皆様がこの小説をどう思って見ているのか気になります。ぜひ感想を教えていただけませんでしょうか。ついでに高評価をしてくだされば嬉しいです。
【次回ミニ予告】
次回、零の初仕事!(つまり良くない事が起こる)