五等分の護衛 〜1人で5人なんて守れるわけねえだろ〜   作:無限夢幻

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 前回の後書き以来、数件の感想を頂きました。ありがとうございます!

 筆者は少しずつ話を書いているので、伏線を回収し忘れていたりすることがありますので「ん? ここはどうなったの?」ということがあれば教えていただけたら幸いです。


 今回はいつもより少し長めです。では、どうぞ。

 


第五話 仕事のメインは後始末です

 場所は中野家のリビング。

 

 「よし、全員揃ったな。小テストを始めるぞ!」

 「「「「「いただきます」」」」」

 「………」

 

 風太郎の呼びかけをものの見事にスルーしてクッキーを食べ始める五つ子。そしてついでに零。

 

 「美味しいです〜」

 「二乃、なんで私のジャージ着てるの?」

 「だって料理で汚れると嫌だし」

 「今すぐ脱いで」

 「ちょ、やめてよ」

 「ふ〜ん、普通に美味しいな」

 

 まるで風太郎が視界に入ってないかのようにそれぞれが自由に振る舞っている。

 

 「って何で夢宮まで食べてんだよ!」

 「ん? 普通にうまいぞ?」

 「味を聞いてんじゃねえ! はぁ、やる気がある奴は一人もいないのか」

 

 希望の光であった零までもが一切やる気を見せない状況に風太郎は絶望していた。

 

 「安心してください、上杉さん。私はもう始めてます!」

 「うん、名前しか書けてないが良いぞ!」

 

 自分はやる気がありますよ! とアピールする四葉であったが、残念なことにやる気しかなかったようだ。名前以外は何もかけておらず解答欄は白紙だった。

 

 「あ〜なんだか眠たくなってきた〜」

 「さっきまで寝てただろ!」

 

 風太郎があくびをしている一花に鋭いツッコミを入れる。風太郎はさっきからツッコミばかりをしていて気だるさを感じていた。

 

 「三玖も体操服が見つかったんだから勉強してくれよ……」

 「勉強するなんて一言も言ってない」

 「デスヨネー」

 

 もう半ば風太郎は諦めかけていた。五つ子たちは全くやる気はなく、期待していた零でさえやる気を見せない。しかし、妹の笑顔が見たい兄心と男としてのプライドがあるので、一度引き受けた仕事を諦めるわけにもいかなかった。

 

 「くっそ、いったいどうすれば……」

 「クッキー嫌い? クッキー食べてくれたら勉強してあげてもいいわよ」

 

 頭を抱える風太郎の横に二乃がやってきた。二乃はニッコリと笑みを浮かべてクッキーを勧める。そう、それは物凄くニッコリと微笑みながら。

 

 「いや、だが……」

 「心配しなくても毒なんて盛ってないわよ」

 

 勉強はしないと自分から言っていた二乃が勉強をしても良いと言ってきたことに風太郎はすごく警戒していた。それはそれは物凄く。

 

 というより風太郎は毒を盛られているなんて発想は一切無かったのだが二乃の発言によって余計に警戒させられることになった。

 

 「食欲ねえのか?」

 「お前は……はあ、もう良い。分かった、食べるよ」

 「どう?」

 「ああ、うまいな」

 「そう言ってくれると嬉しいな〜。はいお水。アンタにも」

 「ん、サンキュー。気が利くな」

 

 風太郎と零の前にガラスのコップに入った水が置かれる。風太郎もクッキーに異常がなかったこともあってか無警戒で飲み干す。零は少し飲んだところでピタッと手を止めたが、風太郎の方を見ていた二乃は気づかなかった。

 

 「ぶっちゃけアタシたち護衛も家庭教師もいらないんだよね〜」

 「!?」

 「ばいば〜い」

 

 満面の笑みに見送られて夢の世界へ風太郎は旅立った。座っていた風太郎の力が徐々に抜け、床に倒れ伏す。

 

 「え? 上杉さん?」

 

 突然倒れた風太郎に四葉が驚いた声を上げる。一花、三玖、五月も突然の事態に目を丸くして驚いている。その様子を見て零は睡眠薬を盛ったのは二乃の単独の行為だと確信した。

 

 そう、零は起きていたのだ。

 

 「二乃、やりすぎだ」

 「あれ? なんでアンタは飲んでないのよ?」

 「味がした。睡眠薬のな」

 「味? 味なんてするわけないじゃない」

 

 ありえないことを言い出した零を二乃は馬鹿にしたように鼻で笑った。だが零は実際に睡眠薬の味を感じ取っていた。

 

 (匂いで気づけないとは……俺も鈍ったな。こんなんじゃ社長に怒られるな)

 

 『いいか、敵だと分かっているやつのところで出された料理や飲み物は、まず一番に何かが入っていることを警戒しろ。睡眠薬を飲まされて殺されたなんてことはよく聞く話だからな。どれだけ強くても眠らされたら赤子も同然だ』

 『だが、どうやって異物が入っているかを判断するんだ?』

 『知識、経験、そして勘だ』

 『なるほど………ん? だが経験はどうやって積むんだ?』

 『そんなの実際に盛られるしかないだろ! ってなわけで早速訓練を始めるか! たくさん飯を用意したぞ! たらふく食え!』

 『今の話の流れで誰が食うかよ!』

 

 零は社長に睡眠薬系統の薬が入った料理を食べさせられた地獄の三ヶ月間を思い出していた。一応医師の指導の元行われたので零に害は無かった。強いて言えば睡眠薬の効果が効きにくくなった程度だろうか。そういえばあのときはまだ社長に敬語を使っていなかったな、などと零が回想にふけっていると二乃が軽く零を蹴った。

 

 「なにぼーっとしてるのよ。あんたもさっさと帰りなさいよ」

 「いや、俺の仕事は護衛だから夜まで帰れないんだわ」

 「だから護衛はいらないって言ってるでしょ! アタシたちがいらないって言ってるんだからそれで良いじゃない」

 

 二乃は零がこの場所にいることが相当気に入らないようでさっさと零を追い出そうとしてくる。零は面倒くさそうに立ち上がると、二乃のある間違いを正した。

 

 「一応言っておくぞ。俺の雇い主はお前らじゃねえ。中野先生だ。俺が護衛をすることに文句があるなら俺を雇った先生に直接言ってくれ」

 「ふんっ、分かったわ。パパに言って明日にはアンタをクビにしてやるわよ」

 

 (まぁ無理だろな。こんな任務(無理ゲー)を引き受ける奴はほとんどいない。俺も中野先生の頼みじゃなかったら断っていただろうしな)

 

 零をクビにしてやると息巻く二乃を見ても零は平然としていた。これが風太郎だったら慌てふためいていたかもしれないが、家庭教師と違って護衛はそう簡単にクビにできるものではない。そもそも護衛を職業としている人が少なすぎるからだ。

 

 「とりあえず俺はコイツを家に送ってくる。お前らは家から出るんじゃねえぞ」

 「待ってください! 私も行きます」

 

 零が風太郎を肩を貸すような感じに担ぐと五月が立ち上がった。そして五月は零に先に下に行くように言うとタクシーを呼ぶために電話をしに行った。

 

 「よし、行くか。ああ、そうだ二乃」

 「なによ」

 

 部屋を出る直前零は思い出したかのように足を止めて振り返る。

 

 「お前は分かっていないだろうけど睡眠薬には副作用がある。人によっては日常生活に支障をきたすほどのものだってある。入れる分量を間違えたら最悪死ぬ。なにより薬を盛ることはそもそも犯罪だ。」

 「な、なにが言いたいのよ……」

 

 恐らくそこまで考えていなかったのだろう。零に言われてやっと自分のしでかしたことの重大さを自覚したらしい。二乃の顔色がだんだん青ざめていきながらも強気に振る舞うが、頑張って強がっているのが零には見え見えだった。

 

 「二度とするな」

 「わ、分かってるわよ」

 

 今にも消え入りそうな声で返事をした二乃。零はもう一度しっかり風太郎を担いでからリビングを出ていった。

 

 エレベーターで下に降りてフロントを抜けるとマンションの前の道路で風太郎を雑に地面におろした。ーーが、この夜の寒さの中で放置は流石に可愛そうだと思ったのか自分の上着を脱いで風太郎にそっとかけた。

 

 「……優しいんですね」

 「別に優しくなんかない」

 

 零が上着を風太郎にかけたのを見ていた五月が零を褒めるが、零はそっぽを向きながら否定する。傍から見ればまるで褒められて照れたのを隠そうとしているように見える。そんな零の意外な一面を垣間見た五月は素直じゃないですね、とクスリと笑う。そして笑われた零は余計にそっぽを向いた。

 

 そうこうしているうちにタクシーがやってきて五月が前、零と風太郎が後ろに乗り込んだ。そこからは特に会話らしい会話もなく風太郎の家に向かう。ちなみに住所は零が知っていたのでタクシーの運転手に教えた。零が周りの景色をキョロキョロと見渡しているうちに風太郎の家の近くに着く。

 

 「おい、そろそろ起きろ」

 「んぁ? ってどこだここ?」

 「お前の家の前。ほら、さっさと降りろ」

 

 零に急かされて風太郎は状況の把握もままならないままタクシーを降りた。タクシーの代金を零が払おうとしたのが五月が二乃がしたことなので、と言ってカード払いで済ませてしまった。

 

 「一泡吹かされましたね。これに懲りたら私達の家庭教師は諦めることです」

 「それはできない」

 「なぜそこまで……」

 「そりゃしゃっき「あ、やっぱお兄ちゃんだ」……なんだ上杉の妹か」

 「!? らいは!」

 

 零が借金があるからと普通に言いかけたことになぜ知ってるんだと風太郎はぎょっとしたが、後ろから妹に声をかけられてさらに驚いた。

 

 「その人ってもしかして! ってあれ? この男の人も生徒さん?」

 「か、関係ない人だ。帰るぞ!」

 「嘘! あの人たち生徒さんでしょ」

 

 風太郎は頑張ってらいはを帰らせようとするがらいはは止まらない。

 

 「よかったら家で晩ごはん食べていきませんか?」

 「え!?」

 「ん? 良いのか?」

 「ちょ、ちょっと待て。ほら……な? この人たち忙しいみたいだから!」

 

 急に誘われて驚く五月だったが、零は晩飯を作る手間が省けてラッキーとしか思っていなかった。風太郎が慌てて止めに入るーーが、

 

 「嫌……ですか……?」

 

 可愛い女の子に目を今にも泣きそうなほど潤ませながら言われて断れるほどのメンタルを風太郎と五月は持ち合わせていなかった。もちろん零は最初から断る気など一切なかったが。

 

 

 

 

 

 

 お世辞にもキレイとも広いとも言えない上杉家のリビングで三人が机を囲んでいた。風太郎の父の勇也と風太郎と五月だ。零は台所で食事の準備をしているらいはを手伝いながらおしゃべりしていた。

 

 「へえー零さんは五月さんの護衛なんですね!」

 「そういうこと〜。流石上杉の妹だ。飲み込みが早いな」

 

 そう零が褒めるとらいはは嬉しそうな嬉しくないような微妙な顔をした。その様子を見て零はらいはの風太郎の評価をある程度理解した。

 

 「零さん、お兄ちゃんちゃんと家庭教師やってましたか?」

 「!?」

 

 風太郎が後ろで慌てている気配を感じ取った零はらいはを安心させるために笑顔で答えた。

 

 「ああ、もちろん。ちゃんとしていたぞ」

 「夢宮くん、嘘はーー」

 「ストップ! らいはが悲しむから黙っててくれ!」

 

 嘘をついた零を五月が咎めようとしたが風太郎が待ったをかける。そのやりとりに気づかなかったらいはは五月と零がいるにも関わらずにあることを言ってしまった。

 

 「そーなんだ、安心したよー。これで我が家の借金問題も解決だね」

 「こらっ、らいは。お客さんの前だぞ」

 「あ、ごめん…」

 

 五月がらいはの言ったことの真偽を確かめようと風太郎を見たが、風太郎は顔を背ける。しかし逆にそのことが五月に真実を伝えることになった。零は元から知っていた情報なので特に気にすることもなくカレーと卵焼きの配膳を手伝っている。

 

 食事が始まるとらいはを中心に話が回っていった。そしてらいはと五月が話しているとき零のそばに風太郎が寄って来る。

 

 「なぁ、ちょっと聞いていいか?」

 「ん? なんだ?」

 「夢宮はなんで家に借金があることを知っていたんだ?」

 「ん? …ああ、あのときか。すまん、プライバシーなことなのに勝手に話そうとしてしまった。よくよく考えたら勝手に話すべきことじゃないよな。俺の知り合いに自分の借金額を豪語しているやつがいてな、そのせいか俺の感覚も狂ってたみたいだ」

 「へーそーなんだ……って違う! なんで知ってんのかを聞いてんだよ」

 

 見事なノリツッコミをしてから風太郎は語気を強めて問いただす。零は少し渋る様子を見せるも、おずおずと口を開く。

 

 「あー、あまり詳しくは言えないんだが調査報告書ってのがあってな」

 「調査報告書?」

 「ああ。俺らが護衛の任務につくときは護衛対象及び護衛対象の関係者のことを詳しく調べた報告書が渡されるんだ。そこに上杉家のことも書かれていたわけ」

 「なっ、なんだよそれ。プライバシーも何もあったもんじゃねえだろ」

 

 零が言った言葉の意味。それは五つ子と五つ子の関係者の情報はプライバシーを無視して徹底的に調べられているということだ。

 

 「だがあくまでも事実しか書かれていないから性格とかまではわかんねんだよなー。そこが難点だ」

 「それでらいはのことも知っていたのか」

 「ああ、じゃないと妹だってわかんねえよ。そこまで似てないからなお前ら」

 「うるさい」

 

 風太郎がそっぽを向くと零は今度はらいはと話し始めた。そして話の話題は零の妹の美雪についてへと移り変わる。

 

 「これが美雪ちゃん? 可愛いね」

 「ああ、だろ? だが病弱でな。ずっと病院に入院してるんだ」

 「……そうなんだ。可愛そうだね」

 「ああ、⋯⋯そうだ。良かったら美雪の話し相手になってやってくれないか? あいつも暇してると思うんだ」

 「もちろん! らいはも美雪ちゃんと仲良くなりたいな」

 

 そうか、と零は嬉しそうに顔を(ほころ)ばせると、らいはと連絡先を交換した。そして振り返って風太郎にも声をかけ、風太郎とも連絡先を交換した。五月にも声をかけようとしたが、目が嫌そうだったのでやめておいた。

 

 そうこうしていると零の携帯に着信が入った。綻んだ顔をいつもの鉄仮面へと瞬時に戻すと、零は着信相手の名前を見て家の外に出て行き、数分後にまた戻ってきた。

 

 「悪い、ちょっと野暮用ができたから帰るわ。五月ちゃんとタクシーで帰れよ」

 「⋯あなたに言われなくても分かっています」

 

 五月の護衛であるはずが五月を放って帰るなどと言い出した零を五月は冷たい視線で見送る。らいはと勇也に元気よく見送られた零はおやすみなさいと言って帰って行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 残された五月もあまり遅くまで他人の家に入り浸るのは良くないと思い、夕食を食べ終わった後すぐに帰ることにした。

 

 「今日はご馳走様でした」

 「おう。風太郎、通りまで送っていってやんな」

 「えー……」

 

 そして五月が家を出そうになった直前に、モジモジとしていたらいはが五月に声をかける。

 

 「五月さん、お兄ちゃんはクズで…自己中な最低の人間だけど…」

 「ええ〜……」

 

 可愛い妹から飛び出た悪口のマシンガンによって風太郎のライフはゴリゴリと削られ、風太郎のメンタルは瀕死状態になった。

 

 「良いところもいっぱいあるんだ! だから…その…また食べに来てくれる…?」

 

 らいはの可愛い過ぎる上目遣いのお願いに五月はーー

 

 「もちろん! 頭を使うとお腹が空きますから。またご馳走してください!」

 

 零や風太郎には見せることのない、可憐な花を思い出させる満面の笑みで答えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 タクシー乗り場までの道中、風太郎と五月はどこか気まずいからかお互いに一言も発することはなかった。そして呼んだタクシーが来るまで風太郎は五月と一緒に待っていた。

 

 その居心地の悪い沈黙を先に破ったのは五月の方だった。

 

 「勘違いしないでください。あなたの家の事情は察しがつきましたが、だからと言って協力はできません」

 「そうかよ。別にお前が気にすることはない」

 「勉強はしますがあなたに教えを乞うことはありません。私の力でやり遂げて見せます」

 「!? そうか……それで良いのか! 条件は卒業だけなんだ!」

 「!? なんのつもりですか!?」

 

 風太郎は五月の肩をがっと掴み(零がいたら速攻で投げ飛ばされていただろう)歓喜する。それに対し五月は急に喜び始めた風太郎に理解が追いつかず、頭からクエスチョンマークを出しながら首をかしげていた。

 

 そうこうしているうちにタクシーがやってきて五月は逃げるように乗り込んだ。

 

 「良いアイデアがある。明日同じ時間に行くから他の四人を集めておいてくれ」

 「わ、わかりました」

 

 わけもわからず頷いた五月を乗せてタクシーは高級マンションへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 それから少したってタクシーは五月の家に到着した。

 

 「4800円です」

 「カードで」

 

 高校生がカード払いをすることに驚きながらも支払いを済ませたタクシーの運転手は去っていった。そしてそれを見計らったかのように、いや、実際に見計らって複数のヤンキーのようなガラの悪い男たちが現れる。

 

 「おい、コイツであってんのか?」

 「おう。あの五人のどいつかは分かんねえが間違いない、コイツだ」

 「うん? コイツすげー可愛いじゃん。本当に好きにして良いのか?」

 「ああ、()()()は好きにしていいって言ってた」

 「よっしゃー!」

 

 怯えて後ずさる五月を放って勝手に話を進めて勝手に喜んでいる男たち。明らかに性的でいやらしい目線でジロジロと眺め回されて逃げようと振り返るがすぐに囲まれてしまう。

 

 「な、何なんですかあなた達は」

 「俺達のことなんかどうでも良いじゃん。ちょっとお兄さんたちと楽しいことしようか?」

 

 一番前にいた金髪の男が五月向かって手を伸ばす。五月は恐怖のあまり抵抗することもできずに目を瞑って小さく縮こまる。

 

 そしてその手が五月に触れそうになったその時、声が響いた。

 

 

 「面白そうだな。俺も混ぜてくれよ」

 「「「「「!?」」」」」

 

 伸ばした手が急に現れた手に掴まれて金髪の男はギョッとする。周りの男達も突然現れた男に驚いて一、二歩後ずさる。

 

 「なんだこのガキ。一体どこから現れやがった!」

 「現れた? 俺はさっきからここにいたけど?」

 「あん? なに意味不明なこと言ってやがる」

 

 驚いた男たちも目の前に現れたのが細くて見るからに弱そうな男だったことを見て、元の威圧的な他者を見下す態度を取り戻していた。

 

 「ボクちゃんこの子の彼氏? かっこいいねぇ〜。惚れちまうぜっ!」

 

 金髪のヤンキーは人の良い笑みを顔に貼り付けながら猫撫で声の賞賛と共に突如零に腹パンを打ち込んだ

 

 ーーが

 

 「彼氏じゃない。護衛だ」

 

 その腕を掴まれて逆に腹にストレートを打ち込まれた。そして驚きと痛みに目をひん剥きながらも、腹から空気を押し出されて何も発する事が出来ずそのまま背負投げで仲間のもとに投げ飛ばされた。金髪ヤンキーはうめいて立ち上がる気配はない。

 

 零は無愛想な鉄仮面ながらも安心させるために五月を引き寄せて軽い笑みと共に言った。

 

 「離れすぎんな。近くにいたら護れる」

 「は、はい」

 

 零の思わぬ行動と状況が状況のせいか五月は顔を少し赤らめたが、零は男達へと油断なく視線を走らせており、一切気づいていなかった。

 

 「おいこら、何してくれとんじゃ!」

 「…それはこっちのセリフだよ」

 「あ?」

 「なに俺の仕事増やしてくれてんだよ。お陰様で残業確定じゃねえか!」

 「知るかボケ! お前らなにボサッとしてんだ。あんなガキさっさとやっちまえ!」

 「「「おう!」」」

 

 (あと四人か。戦闘の腕は素人だが何か凶器を持ってるかもしれない)

 

 殴りかかってきた腕を躱し、蹴りを入れて吹き飛ばす。続けて打ち込まれた拳を横に反らし、突撃してきた勢いを利用して顔面に強烈な肘鉄を打ち込んだ。零は男の鼻の骨が折れたことを感触で感じ取った。

 

そしてそのまま反転しながら地を蹴り空中で体を捻って勢いをつけ、反対側から五月を狙っていた男の顔面に蹴りをお見舞いする。

 

 「キャッ!」

 

 五月のすぐ隣を大気を震わせるような破裂音と共に零の蹴りが通過したが、悲鳴をあげる五月を気にする事なく零はその足を振り抜く。

 

 首と肩の間を袈裟斬りのように蹴り抜かれた男は勢いのままに地面へと叩きつけられて、ピクリとも動かなくなった。

 

 普段の零であればここまでする事はないのだが、仕事が増えた(残業が確定した)今、男達は零にとっては怒りをぶつける為の道具でしかなかった。

 

 「すごい……強い」

 

 零より明らかにガタイの良い男が複数人で挑んでも手も足も出ない程の零の強さに、思わずと言った様子で五月の口から驚きの声が漏れる。

 

 そして瞬く間に動けなくなる男が増え、残りはあと一人になった。

 

 「で? あとアンタだけやけどどうする?」

 「チッ、くそったれ! ぶっ殺してやる!」

 

 男は懐から折りたたみナイフを取り出すとパチンと音を立ててナイフを構えた。そんな男を見て五月の顔は恐怖に染まるが、零はーー

 

 

 

 

 

 

 

 零は()()()()()

 

 「殺す? お前が? 俺を? できるもんならやってみろよ」

 「この野郎!!」

 

 零に挑発されて怒りが頂点に達した男は、戦略も何もなくただ我武者羅に零に突っ込んでいく。

 

 「だがなーー」

 

 零はスルリと刃を躱すとナイフを持った手を捻って逆にナイフを奪い取った。そしてその刃を男の首元に突きつける。

 

 

 

 

 「殺そうとするなら殺される覚悟をしろよ?

 

 

 零は微笑んでいた。優しく、柔らかく、大人しい笑みを浮かべていた。しかしその口から出てきたのは表情に一切合致しない恐ろしい言葉。

 

 零はめったに怒らないが怒るとよくこのような笑顔を浮かべる。零の仲間はこの笑みのことを『悪魔の微笑み』と呼んでいたりするが、それはまた別の話。

 

 「ぁ、あぁぁ……」

 

 そしてナイフを首元に突きつけられながらそんな笑みを間近で見た男は、零の殺気に当てられ恐怖で顔を歪ませながら数歩後ずさると、情けない声と共に気絶した。

 

 零は男が気絶したのを見てつまらなさそうに鼻を鳴らすと男を放り捨てた。そして未だに零に言われた位置から一歩も動かずただ呆然としている五月の方に目をやった。五月は今にも泣きそうに目に雫を溜めていたが、それでも零には涙を見せまいと必死に堪えていた。

 

 「……帰ったんじゃなかったんですね」

 「俺が仕事を放棄して帰るわけないだろ? 上杉の家に向かう途中でつけてきた車がいたから調べに行っただけだ」

 「そうですか……」

 「悪いな。助けに入るのがちょっと遅くなっちまった」

 「いえ、助けてくれてありがとうございます」

 「礼はいらない。俺は俺の仕事をしただけだ。ほら、ここは俺が片付けておくから家に帰っとけ。あいつらもきっと心配してるはずだ」

 「? 夢宮くんはどうするのですか?」

 「俺か? 俺はーー」

 

 先刻まで暴れ回っていた事で生き生きとしていた零の目が一瞬で死んだ魚のような目になり、体全体から倦怠感が湧き出してくる。

 

 

 

 

 「俺は残業だ」

 

 この場の処理、及び五月が襲われたことの報告書の作成などなどやらなければならないことがたくさん出来てしまったのだった。

 

 零の仕事はまだまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 




 
 注)これから先は本編とはあまり関係ありません。興味がない方は飛ばしていただいても大丈夫です。


 【筆者と零の対談】

 筆者「はーいどうもどうも。筆者です」

 零「……夢宮零だ。おい、どうして俺がここにいる?」

 筆者「いや〜よくよく考えたら零君の紹介を詳しくしてないな〜と思いまして。ですが普通に登場人物紹介を書いただけでは面白くないでしょう? なのでこういう場を準備させていただきました」

 零「なるほど、俺に自己紹介をしろと?」

 筆者「いえ、今回は質問形式で行きたいと思います」

 零「……ちょっと待て。俺が答えなくてもあんた答え全部知ってるだろ? だってこれ書いてるのはあんたじゃーー」

 「ストップ! ストーップ!! メタい発言禁止!」



(筆者と零とのOHANASI中)


ーーー閑話休題ーーー

 筆者「ごほんっ。えーそれでは早速質問を。まず零君の身長から」

 零「身長は178cm。体重は56kg」

 筆者「ほうほう、かなり痩せてますね。ウエストは?」

 零「知らん。測ったことがない」

 筆者「では次の質問を。好きな食べ物は?」

 零「そうだな……チョコレートだな」

 筆者「へ〜意外ですね。似合わないな〜……」

 ヒュー、グサッ (零が投げたナイフが筆者の顔面すれすれを通って壁に刺さった音)

 筆者「すごい似合ってるな〜」

 零「バカにしてんのか?」

 零「いえ、全く! 一切馬鹿にしておりません!」


ーーー閑話休題ーーー


 筆者「続いて嫌いな食べ物は?」
 
 零「食べ物じゃないもの」

 筆者「ん? 筆者は『食べ物』と聞いたのですが」

 零「ああ、だから食べ物じゃないものって言ってる」

 筆者「それって食べ物じゃないものを食べた人が言う言葉ですよ〜。冗談はよしてくださいよ〜」

 零「………」

 筆者「え、冗談ですよね?」

 零「………」

 筆者「え?」


 【零の退出により対談が終了されました】

 筆者「ええ〜……」





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