五等分の護衛 〜1人で5人なんて守れるわけねえだろ〜   作:無限夢幻

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 祝! UA5000突破!&お気に入り80突破!

 こんな駄文を呼んでいただきありがとうございます!これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします!



 今回の投稿が遅くなってしまいましたことをお詫び申し上げます。やはりリアルが忙しいので、これからは週一投稿になりそうです。次の投稿予定日は活動報告の方に書かせていただきます(初めて使う機能なので間違えたりするかも)

 それでは、どうぞ!


第七話 自分に自信を持て

 次の日、零は今度は余裕を持って早めに家を出た。零だって毎度学校に遅れそうになるのは望ましくない。遅れないためにもいつもより早く家を出たのだ。

 

 だが、そんな零の目論見もマンションのエントランスを出て一歩で打ち砕かれる事になる。

 

 「久しぶりね、零」

 「げっ……」

 

 モデルのようにスラリとしたスタイルに、美術品のように整った顔立ち。さらさらの腰まで届く長く艶のある黒髪に大きすぎず小さすぎない豊かな胸。そんな通行人の視線を釘付けにさせる女性がマンションを出たところで零を待ち構えていた。

 

 そして零は彼女を視認した瞬間に回れ右をして引き返そうとする。

 

 だが、それを彼女は許さない。逃げるように足早に去る零を後ろから抱きついて引き止めた。

 

 「ねぇ、なんで逃げるのよ〜。久しぶりに会ったんだからもっとスキンシップさせてよ〜」

 「ちょ、やめっ、離れろって!」

 「も〜、そんなに嫌がらなくてもいいじゃない」

 

 後ろから絡みついた腕を力づくて引き離した零は女と真正面から対峙する。

 

 「はぁ、いい加減にしてくれないか、ナミ姉」

 「え〜、いいじゃない。仕事明けで人の温もりに飢えてるのよ〜」

 「どうぞ好きなようにその辺の通行人に抱きついてくれ。多分喜んでくれると思うぞ」

 「褒めてくれてるの? お姉さん嬉しいわ〜」

 

 ナミは嬉しそうにニコニコと笑いながら零を抱きしめようと近づくが、零はそれをスルリとかわして学校に向かって歩いていく。

 

 「も〜、逃げないでよね〜」

 「用がないなら帰ってくれ」

 「もう! ほんとうに無愛想ね」

 

 ナミが子供みたいにほっぺたを膨らませる。その顔に見惚れていた通行人が電柱にぶつかった。ちなみにナミに見惚れて電柱にぶつかったり転んだりした人はこれで三人目だ。

 

 「社長が『明日の夜10時にいつもの場所に来い』って言ってたわよ〜」

 

 歩いて去っていく零の背中に向かってナミが伝言を伝える。零は振り返らずに片手を振って了解の意を伝えるとそのまま学校に向かった。

 

 

 

 

 

 「イテッ!」

 

 そしてまた見惚れた人(被害者)が一人増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きちんと電車に乗って20分かけて学校に着いた。早めに家を出たはずがナミと話していたせいで遅くなってしまい、零が学校に着いたのは朝のHRの10分前だった。

 

 心の中で愚痴を呟きながら学校へ入ろうとすると、そこに走り疲れた様子の風太郎がふらふらとやって来た。肩で息をしている風太郎は零を見ると強がって疲れていない素振りを見せるが、一切隠しきれていない。

 

 「よう」

 「うん? なんだ夢宮か。ちょうどよかったお前に渡したいものがあったんだ」

 「ん? なんだ……って昨日のテストか」

 

 零が風太郎に渡されたテスト用紙に興味なさそうに目を通していると、校門前に黒塗りの明らかに高級そうな車がやってきて停車する。

 

 「見たことない車だな。きっと100万はするだろうな」

 「……なあ上杉。時々思うんだがお前って馬鹿なのか?」

 「んなっ! 俺何か間違ってること言ったか?」

 「うん、値段の桁が一桁違うと思う」

 「なに!? たった10万なのかこの車!」

 「……お前の金銭感覚には涙が出てくるよ」

 

 頭がおかしいのかと疑うほどに見当外れなことを言う風太郎に零は心底憐れむような目を向ける。だが風太郎はわけが分からず困惑したままだ。

 

 「なんですかジロジロと不躾な」

 「あ! 上杉さんと夢宮さん!」

 「なんでアンタたちがいるのよ!」

 

 二人が黒塗りの車の目の前で言い合っていると、ドアが開いて中から五月が出てきて、風太郎を見るなり嫌そうに眉をひそめた。同じように零と風太郎を見て嫌そうな顔をしたのが二乃で、逆に嬉しそうな声をあげたのが四葉だ。

 

 「お前ら昨日は良くも逃げたな! ⋯ってまたかよ! 安心しろ俺は無害だ!」

 

 風太郎に文句を言われるよりも前に既に逃げ始めている五つ子達。参考書を零に投げ渡してから風太郎は両手を上げて無害アピールをして見せる。

 

 「フータローは危険」

 「騙されねーぞ」

 「参考書とか隠してるでしょ」

 

 しかしその努力も無駄に終わり、五つ子たちから疑われまくる風太郎。挙句の果てに背後から零に参考書を投げ返されて頭にぶつかった。

 

 「お前らは俺をなんだと思ってんだよ……」

 

 零にまで雑に扱われて若干拗ねる風太郎。

 

 「確かに私たちの力不足は認めましょう。ですが、自分の問題は自分で解決してみせます」

 

 そして五月はよっぽど風太郎に頼りたくないのか、強気な態度を取って見せる。

 

 「勉強は一人でもできる」

 「余計なお世話なのよ」

 

 (できてねえからこうなってるんだがな)

 

 三玖の意見に零は心のなかで突っ込む。そもそも五つ子が勉強が出来ていたら風太郎が呼ばれることも無かっただろう。そしたら零も仕事は護衛のみで済んだはずだ。

 

 出来ないことは仕方がない。人間だれもが出来ることと出来ないことがある。だが、出来ないことを改善しようと足搔かないのはもちろんダメだし、出来ないことをいつまでも一人で足掻くのもダメだと零は思っている。

 

 「そうか、じゃあ当然昨日のテストの復習はしたよな?」

 「「「「「………」」」」」

 

 風太郎の問いにさっきまでの威勢は何処かへ吹き飛んで、途端に静まりかえる五つ子たち。風太郎が笑顔を向けて顔を合わせようとするが皆目を逸らす。零は答えを聞かなくても分かってしまった。まちがいなく復習はやってない。

 

 「問一、厳島の戦いで毛利元就が破った武将の名前を答えよ」

 

 簡単な一問一答の問題。そしてつい先日出題されたばかりの問題。復習していればまずまちがいなく答えられるはず。

 

 「ふっ」

 

 五月が何やら得意げに笑う。それは明らかに知っている者の得意気な表情で、それを見た風太郎の顔に希望が宿る。だがもちろん零は期待していない。結末はある程度予想できるからだ。

 

 「………」

 

 結果は零の予想したとおり、顔を赤くしてプルプルしながら何も言わずに固まるだけだった。

 

 「無言、だと……」

 

 ショックを受ける風太郎と五つ子はそのまま校舎の中に入っていくが、零は執事の江端に引き止められてその場に留まった。

 

 「実は零様に聞きたいことが……おや? それはなんですか?」

 「これですか? テストですね」

 

 江端に指さされた手に持っていたテスト用紙を零は躊躇うこと無く見せる。それもそのはずで、そこに書かれていた点数は100点だった。だが零には特に得意がる様子もなく、平然と澄ました顔のままだ。

 

 「流石ですね」

 「いえ、このくらい大したことはありません。ですが問題は彼女達ですね」

 「やはり零様の目から見ても危ういですか?」

 「5人合わせて100点でしたと言えば分かります?」

 「な、なるほど……」

 

 生気が失せた目で語る零を見て江端も察したようだ。江端はお嬢様たちをお願いしますとだけ言って他は何も言わずに帰って行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 昼休みになり、屋上に昼寝をしに行こうとしたところを無理やり引っ張ってこられた零は、不機嫌そうな顔で風太郎に付き添っていた。そんな零の雰囲気を感じ取ってか、例の如く零に付いてきた女子も遠くで眺めているだけだった。

 

 「なぜ俺が連れてこられてるんだ?」

 「お前も補佐だろ? 仕事しろよ」

 「そんなこと分かってる。ここに何の仕事があるんだと聞いているんだ」

 「今朝の質問があっただろ? あの問題、昨日三玖はちゃんと正解していたんだ」

 「へえ、そうだったのか」

 

 零は驚いた顔をするが、すぐにだからどうしたという顔に戻る。だがそれを風太郎はこの数日間の付き合いでしっかりと読み取っていた。

 

 「だからその理由を聞きにいくんだよ」

 「そこまでは分かった。だがなぜ俺も行く必要がある」

 「朝に気づいたんだがあいつらは勉強と同じように俺のことも嫌いっぽい」

 「ああ。それに護衛のことも嫌いみたいだな」

 

 顔を見合わせて揃って溜息つく零と風太郎。お互いの苦労をねぎらうように肩をポンポンと叩きあう。

 

 「そこでだ。二人で行けば何とかなるだろうと考えたんだ」

 「お前馬鹿なのか? 普通嫌いな人が二人揃って来られたら余計に嫌がるだろ」

 

 零の中で風太郎が本当に学年トップの学力なのか疑わしくなった。それとも、良くいる勉強は出来ても他はイマイチなタイプなのかと零は考えた。

 

 「お、三玖がいた」

 「よし、行くぞ」

 

 零が三玖を見つけると、風太郎は動く気配の一切見られない零を引っ張って三玖の方に向かって歩いていく。

 

 「よ、よう三玖。350円のサンドイッチに……なんだその飲み物…」

 「抹茶ソーダ」

 「逆に味が気になるな」

 「意地悪するフータローとレイには飲ませてあげない」

 「あ、俺も意地悪した人に含まれるんだ」

 

 零は率直な感想を漏らす。零は特に自分が三玖に意地悪をした覚えはない。だが、三玖は肯定も否定もせずに零を軽く睨むだけだった。

 

 「一つ聞いていいか? 今朝の問題なんだがーー」

 「上杉さん! 夢宮さん! 一緒にお昼ごはん食べませんか?」

 「うおっ! …なんだ四葉か」

 

 風太郎が三玖に今朝のことを尋ね、三玖がなにか言おうと口を開いた瞬間、四葉が風太郎の後ろから会話に割り込んできた。ちなみに零は四葉の接近に気づいていたが、四葉からのアイコンタクトの意を察して黙っている事にした。

 

 「これ見てください、英語の宿題。全部間違えました! あははははは!」

 「ごめんね〜、邪魔しちゃって」

 

 四葉がグイグイと前に出てきて風太郎が三玖と話すことが出来ない。その事を察して一花が四葉を引き離す。

 

 「一花も上杉さん達に見てもらおうよ〜」

 「うーん、パスかな。私たちほら、バカだし」

 

 一花は自虐するかのような事を言って笑う。それを見た零は心底大きなため息をついて、何も言わずにその場をそっと去っていった。

 

 「あれ? どっか行っちゃった」

 「あ、おい! ため息つきたい気持ちは分かるが俺を置いていくなよ……」

 

 風太郎は零と同じようにため息をつきそうになるのをぐっと我慢する。

 

 「それにさ、高校生活を勉強だけで過ごすなんてどうなの? もっと青春をエンジョイしようよ。 …例えば恋とか!」

 「! …恋? あれは学業から最もかけ離れた愚かな行為だ。したいやつはすればいい。…だがそいつの人生のピークは学生時代となるだろう」

 「この拗らせ方…手遅れだわ……」

 

 風太郎から突如巻き上がる捻くれた性格を更に捻じ曲げたような負のオーラ。それを一花と三玖と四葉は可愛そうなものを見る目で見守る。

 

 「あはは、でもしたくても相手がいないんですけどね。三玖はどう? もう好きな男子とかできた?」

 「え? ……い、いないよ」

 「? 急にどうしたんだ?」

 

 顔を赤らめながら急いで走り去っていく三玖を見て、風太郎は困惑する。だが、三玖の様子を見て思い当たる節がある人が一人。

 

 「間違いありません。あの表情、姉妹の私なら分かります。三玖は恋しています!」

 「……えぇ…」

 

 もしこの場に零が居たらそんな訳無いだろうと突っ込んでいただろうが、生憎ここにいるのは姉妹の恋愛事情に胸をときめかせる乙女二人と、女心など知る由もない勉強バカだけだった。

 

 四葉の推測を聞いた風太郎は嫌そうに顔を顰める。三玖に好きな人が出来ることは風太郎にとっていい流れではない。三玖が余計に勉強から遠ざかろうとするからだ。

 

 肝心の三玖が居なくなっては意味もないので仕方なく風太郎が教室に戻ってくると、ちょうど教室を出るとこだった零が風太郎に声をかけた。

 

 「さっき三玖が来てなんか置いていったぞ」

 「三玖が? うん? なんだこれ?」

 

 零に言われて机の中を探るとそこから出てきたのは折りたたまれた手紙。そこにはフータローへと書かれており、差出人はまさかの噂の人物である三玖だった。

 

 『昼休みに屋上に来て。フータローに伝えたいことがあるの。どうしてもこの気持ちを抑えられないの』

 

 そう書いてあった。風太郎が勘違いしてしまってにやついてしまい、五月に気持ち悪いと言われたのは言うまでもない事だし、仕方のない事であろう。

 

 

 

 零は教室から出て屋上に来ていた。勿論昼寝をするためだ。屋上の入り口の部分上は人が三人くらい横になって寝れるだけのスペースがあるので、零はそこをバルコニーと呼び、いつもそこで怠惰な時間を睡眠に費やしている。

 

 だが、今回は零の至福の昼寝の時間を遮るものが現れた。

 

 (誰か来たのか? 珍しいな)

 

 誰かが屋上への階段を登ってくる気配を察知した零は、来たのが先生だったときの事を想定して息を潜める。一応この空間は登ってはいけないことになっているからだ。

 

 だが、そこにやってきたのは風太郎だった。零は声をかけようか迷ったが、風太郎の様子を見て何か事情があるのを察知し、声をかけなかった。理由は単純。そのほうが面白そうだからだ。

 

 「ほらね! 程度の低いイタズラに載ってしまったぜ。まあ、本当に来られても困るんだが……」

 

 (何一人で喋ってんだ? ってまだ誰か来る)

 

 ガチャリとドアが開いてやってきたのは、ヘッドホンを首に掛けた三玖だった。

 

 「み、三玖!? イタズラじゃなかったのか?」

 「手紙見てくれたんだ」

 

 二人の会話を聞いてその頭を素早く働かせた零はある程度事情を把握する。

 

 (なるほど、上杉は三玖に呼び出されたのか。さっき三玖が置いていった手紙を見て上杉がここに来たんだな)

 

 まさか告白か? と零は一瞬考えるが即座に否定する。出会ってまだ数日。三玖が風太郎を好きになることはほぼ無い。一目惚れならあり得るかもしれないが、三玖が一目惚れで告白するほどアクティブであるとは零には思えなかった。

 

 「誰にも聞かれたくなかったの。フータロー、あのね、ずっと言いたかったの。………す……す…陶晴賢!」

 

 案の定、風太郎を勘違いさせるような言葉を吐きまくった挙げ句、最後に出てきたのは戦国武将の名前。

 

 言いたかったことを言えて満足げな三玖と、三玖の言ってることが全くわからず凄く混乱している風太郎の様子を見て、笑いをこらえていた零はついに吹き出した。

 

 「クッ………ハッハッハッ! 正解だよ三玖! 正解だ!」

 「レイ? どうしてここに?」

 

 呼んだの? と少し殺気の籠もった目で風太郎を見る三玖。風太郎は首を振って否定する。

 

 「俺がここで昼寝してたらお前らが来たから少し盗み聞きさせてもらったよ。あーおもしれーな」

 「ちょ、ちょっとまってくれ! 正解って何がだよ」

 「ん? まだ気づかないのか? 今朝問題の答えだよ」

 「あっ!」

 

 零に言われてやっと気づいた様子の風太郎。それを放って用事を終えてスッキリした三玖は帰ろうとするが、風太郎に肩を掴まれて止められる。

 

 「ちょっと待て、どうして今このタイミングでーー」

 「あっ!」

 

 三玖は肩を掴まれた拍子にスマホを落としてしまった。スマホは少し跳ねて屋上の入り口に向かって滑っていく。それを零はバルコニーから飛び降りて止め、拾い上げる。

 

 「武田菱……か?」

 

 その拍子に偶然目に入ってきたスマホの画面を見ていると、三玖が素早くそれを奪い取った。

 

 「⋯見た?」

 「え? ああ、見たが」

 

 殺気の籠もった目を向ける三玖。だが、零はその理由が分からず首を捻る。すると今度は赤らめた顔を俯かせて、恥じるような小さい声で語りだす。

 

 「だ、誰にも言わないで……。戦国武将、好きなの」

 「へー、そうなんだ。なるほどねー⋯⋯⋯……よし、謎も解けてスッキリしたし、俺はそろそろ教室に戻るわ」

 「え?」

 

 三玖が恥ずかしがりながらも自分の恥ずかしい秘密を打ち明けたのだが、零の反応はとても簡素なものだった。零としては特段驚くような事でもなくただ反応に困っただけなのだが、三玖は零が何も言わないことに逆に驚かされていた。しかし、三玖がその理由を尋ねるよりも先に零は屋上を出ていった。

 

 階段を降りて一番下の階に降りた零は、人が誰一人としてない廊下で閑静な校舎裏が見える窓に近づいて窓枠にもたれ掛かった。そして辺りには人の姿が一切見えないはずなのに、そこに人が居ると確信して喋り始める。

 

 「それで? こんなところで何やってんだ?」

 「少し、この学校の調査をね」

 

 予想通り窓の外から帰ってくる声。校舎裏の窓の下には用務員の格好をした人物が座り込んでいる。帽子を目深に被っているが、長めの灰髪は隠しきれておらず、知っている者が見ればすぐに柳井だと分かるだろう。

 

 「なにか問題は見つかったか?」

 「特に何も。爆発物は一切仕掛けられていなかったし、この学校には表立って分かる危険人物はいないよ。うまく隠していたら分からないけどね」

 「そうか。ありがとな」

 

 それだけ聞いた零は満足したように教室に向かって歩き去って行く。それと同時に柳井も校舎のどこかに向けて去っていった。

 

 僅か数十秒の邂逅を目撃したのはそこに蜘蛛の巣を張っていた蜘蛛を除き、一人もいなかったという。

 

 

 

 

 

 ちなみに放課後に、図書室でバカみたいな量の歴史の本を漁る風太郎がいたそうだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 そして翌日の放課後。校舎前にて風太郎と三玖の戦いの火蓋は切られた。二人の間を颯爽と吹き抜ける風。周囲には誰一人として邪魔するものはおらず、決闘の雰囲気としては申し分ない状況であった。

 

 「三玖、お前が来るのを待っていたぞ」

 「何か用?」

 「ああ、俺と勝負だ! お前の得意な戦国クイズ、今度こそ全部答えてやる」

 「だからなんで俺がまた連れてこられてんだよ……」

 

 またもや風太郎に有無を言わさず引っ張って連れてこられた零がぶつくさと文句をこぼす。

 

 「…やだよ、懲りないんだね」

 「くくく、俺をこの前の俺と一緒にしてもらったら困る。それとも唯一の特技で負けるのが怖いか?」

 

 風太郎に煽られて怒った三玖が頬を膨らませる。彼女にとって武将は己の唯一の特技であり、趣味であるのだ。そのプライドを見事に刺激した風太郎の言葉は効果的面だった。

 

 「武田信玄の風林火山。その『風』が意味することは?」

 「そんなの簡単だーー」

 

 知ってる問題が出て余裕で答えようとする風太郎だったが、答える前に三玖は手すりの上を滑って階段を降りて逃げていく。

 

 「答えは『疾きこと風の如く』」

 「あいつ! また逃げやがった!」

 「頑張って追いつけよー」

 「お前も来るんだよ!」

 

 風太郎に言われて仕方なく風太郎の後ろについて走る零。だが零からすると三玖も風太郎も遅すぎるし、追いつこうと思えば瞬時に捕まえることができる。だが零としてはこの事は零が始めた問題ではないので風太郎に解決させたく、本気で走って追いつこうとはしていなかった。

 

 そして風太郎が三玖を追って角を曲がるとき、誰かにぶつかってしまい、その豊かな胸へと顔を突っ込んでしまう。

 

 

 「わお! 上杉さん!」

 「よ、四葉!?」

 「ちゃんと前向いてなきゃダメですよー」

 「ここ三玖が通らなかったか?」

 「三玖ならあっちに走っていきましたよ」

 「サンキュー!」

 

 四葉に聞くや否や指さされた方向に走っていく風太郎。だが、後から追ってきた零は風太郎をの跡を追わず、同じく風太郎を見送る四葉の近くの手すりに腰を落とす。

 

 「あれ? 夢宮さんは行かないんですか?」

 「行かねえよ。本物はここにいるんだからそのうち風太郎も戻ってくるだろ?」

 「!?」

 

 『本物』と言われて動揺する三玖。そして遠くからはドッペルゲンガーだのと叫ぶ風太郎と四葉の声が聞こえてくる。

 

 「何で分かったの?」

 「お前の四葉のフリは確かに上手いが、俺はもっと変装が上手いやつを知ってる」

 

 リボンをとってヘッドホンをつけた三玖が零に尋ねる。零の頭の中には灰色の髪のイケメンがピースサインと共に出てきたので、蹴りをぶち込みご退場頂く。零が頭の中で柳井と格闘していると、風太郎が走って戻ってきて、慌てて三玖は再び逃げ出した。

 

 そしてそこから始まる武将しりとり鬼ごっこ。他人から見たら異様な光景だろう。零はどうせすぐに終わるだろうと高を括って今度は二人を追わず、二人の体力が切れるのを待っていた。

 

 そしてきっちり一周回ってきてちょうど零の目の前で倒れる二人。羞恥心など故郷に捨ててきたのか、暑いと言ってストッキングを脱ぎだす三玖から視線をそらして風太郎と一緒に飲み物を買いに行った。

 

 「あいつの羞恥心はどうなってるんだ?」

 「護衛としては変態な男を引き寄せかねないからやめてほしいな」

 

 そんなことを言いながら零は風太郎に、風太郎は三玖にそれぞれ抹茶ソーダを買う。零は二人分買おうとしたのだが、風太郎がそれを断った。

 

 「ひゃっ!」

 「フッ」

 

 冷たいジュースを頬に当てられて思わず声を上げる三玖。ムッとして風太郎を見るが、風太郎はその反応を見て得意げに笑った。ーーが、今度は横から零に缶を頬に押し付けられる。当てられたのではなく、グリグリと頬にめり込むように押し付けられたのだ。

 

 「ちょ、ちょっと、痛いって」

 「やってほしそうな顔してたから」

 「だれもそんな顔してねえよ! ったく三玖も飲めよ。110円は手痛い出費だがもちろん鼻水は入っていない」

 「!?」

 

 風太郎の言葉に三玖が驚く。まさか本当に調べていたとは思わなかったからだ。

 

 「石田三成が大谷吉継の鼻水の入ったお茶を飲んだ話から取ったんだろ?」

 「ふーん、ちゃんと調べたんだね」

 「まあ、何冊調べても分からなくて最後は偶然居合わせた四葉に頼んで調べてもらったんだけどな。いやー、いんたーねっとってやつはすごいな!」

 「四葉?」

 

 缶を開けようとしていた三玖の手がピタリと止まる。そして怒りの籠った目を風太郎に向ける。

 

 「四葉にもこの事話したの?」

 「言ってないが……姉妹にも秘密なのか?」

 「姉妹だから言えないんだよ。…私が五人の中で一番落ちこぼれだから」

 「そうか? 俺から見てもお前が特に劣ってるとは思わないぞ。強いて言うなら学力の面では全員劣ってる」

 

 零は褒めてるのか貶しているのか(多分貶している)分からない言葉をかけるが三玖の表情は変わらない。というより一層暗くなった。

 

 「でも、なんとなく分かるんだよ。私程度に出来ることは他の四人にも出来るって。五つ子だもん」

 「……三玖は自分に自信がないのか?」

 「!? …そうかも知れない」

 

 自分の心情の根源をピタリと言い当てられた三玖は、今日でもう何度目かも分からない驚いた顔を見せる。そして膝を抱えてうずくまった。

 

 「レイはすごいよね。勉強も出来てスポーツも出来る。出来ないことなんて無いんじゃない?」

 「そんなことはない。俺にだって出来ないことはたくさんある」

 

 三玖の発言を鼻で笑った零はうずくまったまま地面を見て話す三玖の横に腰掛けた。

 

 「三玖は自分が嫌いなのか?」

 「どうだろ? 分かんない」

 「そうか……」

 「レイはそればっかりだね。さっきだってそう。私が秘密を明かしたのに何も反応しないで、さっと去っていくんだもん」

 

 三玖がそう言うと零はバツが悪そうに頭を掻いた。

 

 「俺は反応が薄いんだよ。驚く事なんて稀だし、そもそも大袈裟な反応なんて労力の無駄としか思わない」

 「そう言えば夢宮が驚いたところ見たこと無いな」

 「まあな、それに三玖が武将が好きだってことも別に驚くようなことじゃない」

 「そうなの?」

 

 三玖の疑問に零は頷く。

 

 「だって考えてみろよ。この世界の人口は78億人もいるんだぜ? そんな中に歴史が好きな女子なんて腐るほどいる。そう考えたら別に珍しくもないだろ? 中にはもっとすごい趣味の人だってたくさんいる」

 「⋯ふふっ、確かにそうだね」

 

 あまりにもスケールが大きい話をされて三玖は思わず小さく笑みをこぼす。

 

 「だから三玖も自分に自信が持てないなら、まずは自分の好きなものに自信を持ってみたら良いんじゃないか?」

 「自分の好きなもの……零はどうなの?」

 「俺か? 俺は昼寝と休息と惰眠が好きだな。それは自信を持って言える」

 

 相変わらず真面目なのかふざけているのか分からない零だが、そこを追求するよりも三玖には一番聞きたいことがあった。

 

 「そんなこと言って周りの人からバカにされたりしない?」

 「されるよ。いま上杉がバカにしたようにこっちを見ているみたいにな」

 「んなっ! 俺は別にバカにしてないぞ!」

 

 風太郎が慌てて否定する。風太郎は別にバカにしていたわけではないが、変だと思ったのは事実だ。

 

 「まあ、俺は別に誰にどう思われようが、なんて言われようが別にどうだって良いんだけどな。誰がなんと言おうが俺は俺。好きな物は変わらない」

 「レイは……強いね。どうしたらそんなに強くなれるの?」

 

 三玖が言っているのは力の話ではなく心の話であろう、他人の悪口を意に介さず我が道を行く零を三玖は憧れの目で見る。それと同時に自分はこうはなれないだろうとも思った。

 

 そんな弱気な三玖を零は鼻で笑う。

 

 「三玖は一花と二乃と四葉と五月は好きか?」

 「うん、もちろん」

 

 三玖は迷うこと無く頷く。

 

 「ならもし他人が他の四人を馬鹿だとか、生意気だとか言ったとしたら、三玖は他の四人のことを生意気なバカだと思うか?」

 「思うわけないよ」

 「なんか質問に悪意がねえか?」

 

 三玖は少し怒ったように返し、風太郎はツッコミを入れる。だが零は風太郎のツッコミを見事にスルーして続ける。

 

 「そういうことなんだよ。自分が本当に好きなものは誰がどんなに(けな)そうと、自分の好きな最高のものに変わりはない。誰が何と言おうと自分が好きな物そのものが変わったりはしない。もし、誰かに何かを言われて気持ちが揺らぐようだったら、その程度しか好きじゃなかったってことだ。三玖にとって武将はその程度しか好きじゃないのか?」

 「そ、そんな事ない! 好きだよ!」

 「なら大丈夫だな。他人が何を言おうと三玖は三玖だ。自分の好きなものに自信を持て。自分に自信が持てないなら、まずは自分の心から好きな物、自分の一番である物に自信を持てばいい。だってそれの凄さは誰よりも自分が一番知っているからな」

 

目と目を合わせながら親切丁寧にかけられる言葉は、不安と自己嫌悪でささくれ立っていた三玖の心を落ち着かせる。

 

(そうだ、私はずっと私なんだ。誰かに悪く言われたって気にすることじゃない)

 

「……ふふっ、そうだね。私は私………うん、少し自信が出てきたような気がする。ありがと、レイ」

 「おう」

 

 短く返事をした零は風太郎の方に近づきその肩をポンっと叩く。

 

 「昨日のデータの分析は出来たんだろ? なにか(三玖を勇気づけられる結果は)見つけたか?」

 

言外に告げられた意図に気づいた風太郎は零にニヤリと笑みを向ける。

 「ああ、もちろんだ! 三玖、これを見てくれ」

 「これは…?」

 

 風太郎が開いたノートを三玖に差し出す。受け取った三玖は中身に目を通す。零も後ろから覗き込むようにして見る。

 

 「これって……」

 「へぇ、すごいな」

 「ああ、正解した問題が一つもかぶっていないんだ」

 

 三玖と零の驚きの声を聞いて風太郎は少し得意げに話す。

 

 「俺はここに可能性を見出したんだ! 三玖はさっき言ったよな? 三玖に出来ることは他の四人にも出来るって。なら一人が出来ることは他の四人にも出来るってことだ。一花、二乃、四葉、五月。そして三玖、お前にもな」

 「……なにそれ。屁理屈。五つ子を過信しすぎだよ」

 

 そう言いながら去っていく三玖の顔は零と風太郎には少し笑っていたように見えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 翌日の図書室にて風太郎は四葉の英語の勉強を見ていた。二人の他には誰もおらず、四葉が場を賑わせるものの、物静かな事には変わりなかった。

 

 「何度言わせるんだ! ライスはLじゃなくてRだ! お前はシラミを食べるのか!?」

 「あわわわ」

 

 今日は家庭教師は休みだが、風太郎は四葉の勉強の面倒を見ている。四葉は怒られながらもニコニコと嬉しそうに笑っていた。

 

 「何を笑っているんだ?」

 「えへへ、家庭教師の日でもないのに上杉さんが勉強を見てくれているのが嬉しくて」

 「はぁ、残りの四人もお前くらい物分りが良いと助かるんだがな」

 

 風太郎は己の置かれている現状を振り返ってため息をつく。

 

 「他の人にも声はかけたんですけどね……あ! でも残り四人じゃなくて三人ですよ」

 「え?」

 「ね、三玖」

 

 三玖が少し恥ずかしそうな様子で近づいてくる。風太郎はそれを見て表情を綻ばせる。

 

 「来てくれたのか! ってあれ?」

 

 風太郎の前を通り過ぎて歴史のコーナーに行った三玖は本の表紙の裏の貸出カードに載っている風太郎の名前を見て微笑む。そして振り返った。

 

 「あれ、レイは?」

 「夢宮か? あいつなら他の三人の護衛に行ってるんじゃないのか?」

 「俺ならここにいるぞ」

 

 後ろから聞こえてきた声に風太郎が振り返ると零が片手を上げながらこっちに歩いて来ていた。

 

 「お前護衛はどうしたんだ?」

 「さぼり……ってのは嘘で、もう一人の奴が見てくれてるよ」

 「他にも護衛さんがいるんですか!?」

 「ああ、手伝ってくれるんだ」

 

 もうひとりの護衛がいたことに驚く四葉。零がその人は基本的には姿を表さないことを告げると少し残念そうにしていた。

 

 「二人のせいでほんのちょっとだけ出来るかもって考えちゃった。……だから責任、とってよね」

 

 零や風太郎に今まで見せたことのない三玖の明るい笑み。何かが吹っ切れたような雰囲気を感じさせる笑みだった。

 

 「ああ、任せろ」

 「りょーかい」

 

 ぐっと親指を立ててみせる風太郎と、普段はなかなか見せることのない笑みを見せて答える零。

 

 「! み、三玖。この前隠してた好きな人ってまさかこの二人のどっちかじゃ……」

 「? …ないない」

 

 

 四葉の質問に三玖は顔を少し赤らめながら答えたのだった。

 

 

 

 




 今回はここまでです。

 感想、高評価及びお気に入り登録をどうかよろしくお願いします。その一つ一つが筆者のモチベーションに繋がっています。

 感想をくださいました方々ありがとうございました! おかげでやる気がでました。

 今回は【零との対談 part2】は飛ばしてお知らせです。

 この小説はヒロインが未定となっておりますが、筆者は皆様方とこの小説を作り上げていくつもりです。つまり、最終的には結末はアンケートで決めようと思っています。

 今の所考えているのは

 1,誰か一人を選ぶエンド(IFパートあり)
 2,ハーレムエンド
 3,あいまいエンド(特に進展もなく後退もなく続いていく)
 4,バッドエンド

 でしょうか? 近いうちにアンケートを取りたいと思いますのでそのときはご協力をお願いいたします。

 また、別のエンド案がございます場合はぜひ教えていただけたら幸いです。

 さらに、「こんなキャラを出してほしい!」というご希望がございましたらぜひ感想にてご記入ください。可能でしたら本作に投入します。

 一緒にこの小説を作り上げていきましょう!

 次回乞うご期待!!


 *追記:社長との待ち合わせを「今日」から「明日」に変更(4/20)
 

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