【完結】とある再起の四月馬鹿(メガロマニア) Ⅱ   作:家葉 テイク

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終章 最善の未来とは The_Best_End_is_Nowhere.
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終章 最善の未来とは

The_Best_End_is_Nowhere.

 

 

 

 ふと気付くと、どこなのかもわからない空間を歩いていた。

 真っ暗な──廊下みたいな空間だった。道の先は多分『外』に繋がっていて、そこからは見る者を安心させるような明かりが伸びている。

 

 なんとなく、この道を歩いていけば元の時代に戻れるのだろうと予想がついた。

 

 

《はぁ、散々な四月馬鹿でしたわね》

 

 

 歩きながら、レイシアちゃんは嘆息混じりに言う。

 あはは……まぁ確かに、色んな目に遇った。散々と言ってもいいかもしれない。

 

 

《でも、俺は面白かったよ。色んな自分の可能性を見ることができたし、色々と為になったし》

 

《そこですわ!!!!》

 

 

 しかしレイシアちゃんの意見は違ったらしい。俺の一言でむしろ気炎を上げた様子で、レイシアちゃんは続ける。

 

 

《せっかく色々と見ることができたのに! わたくしも勉強になりましたのに! これ、もとの時代に戻ったら全部忘れるんですのよ!? もう骨折り損のくたびれ儲け!! しかもこのわたくしの苦労すらももとの時代に戻ったら忘れてしまうのですわ~~不満すら覚えられないなんて歯がゆすぎますわ~~!!》

 

《いやいや、不満も忘れられるならプラマイゼロだと思うけど……》

 

 

 それに、確かに忘れちゃうかもしれないけどさ、

 

 

《あとほら、心、》《心には残るじゃんとかそういうのはナシですわよ。そういうのは残ってねえのと同じなのですわ》

 

 

 ぐう…………ッッッ!!!! 先に言われるともう何も言い返せない……!!

 

 

《というかそもそも。忘れてるかもしれませんが、わたくし達元の世界だと臨神契約(ニアデスプロミス)すら認識していないんですのよ? 完全初耳。ゴム紐の話だって知りませんわ》

 

《ああー……》

 

 

 そういえばそうだった。元の時代の重要知識ばっかり先出ししすぎなんだよな、今回……。

 ええと、臨神契約(ニアデスプロミス)はもとの時代の俺達は名前も聞いたことない。ゴム紐の喩えで説明される時間論も全然知らない。幽体離脱(アストラルフライト)なんかも存在自体知らない。

 

 うわぁ……こうして見ると初出概念が多すぎる……。臨神契約(ニアデスプロミス)に関しては、当麻さんと結婚した未来だと奇想外し(リザルトツイスター)なんてモノに昇華させてたくらいだし、覚えたまま帰れたら俺達も色々応用できたろうになぁ……。

 

 ……あ、応用できたら歴史がめちゃくちゃ変わっちゃうから()()()()のか。臨神契約(ニアデスプロミス)で。うわぁ……納得してしまった……。

 

 

《どうにかして一部でも知識を持ち帰れないかしら。あーこんなことならあの未踏級馬鹿にメモでもなんでも残してもらえばよかったですわ……》

 

《『魔女』でも無理じゃない?》

 

《いやー? わたくしはそうは思いませんわ。アイツ、シレンの体質とか無視して時間旅行を強制させてたじゃありませんの。きっとその気になれば色々無視してわたくし達に知識を残せたはず!》

 

《……じゃあ多分やる気がなかったんじゃないかな》

 

 あの性格なら、多分『ネタバレとか無粋じゃないかしら?』とか平然と言いそうだよね。俺達からしたら死活問題だからネタバレでもなんでもしろよ! なんだけど……。

 

 まぁ、先のことが分かりすぎてしまっても、それはそれで世界に張りがないというかなんというか。

 教えないということが『未来に希望を持たせる』ことに繋がると考えれば、『魔女』なりの気遣いなのかもしれない……。

 

 

《むぅ……いっそ手に忘れないようにメモ書きでもしておきますか? それなら残るんじゃないかしら》

 

《いやいや、それこそ多分均されて消えちゃうよ》

 

 

 レイシアちゃん、粘るなぁ。気持ちはわかるけどね。

 

 

《でもやっぱり、そういうのは自分の手で見つけないとね》

 

 

 ここで見てきた幾つもの未来を思い返しながら、俺は言う。

 

 『冬』も、『魔術師』も、『実業家』も、『警備員』も。

 『馬場さんとの未来』も、『相似さんとの未来』も、『当麻さんとの未来』も。

 そして、あの『魔女』も。

 

 みんなみんな、自分の力で未来を切り拓いてきた。だからこそ、最後にはみんな自分の未来に納得して、前を向いて歩いて行けた。

 そうなるには、やっぱりどんなに近道のように見えても、自分の力で、納得したうえで未来を切り拓いていく必要があるんだと思う。

 

 今、俺達のベストエンドはどこにもない。

 

 それは、これから俺達が、自分の手で作っていかなくちゃいけないんだ。

 

 

《それより、もとの時代に戻った後だよ。…………、》

 

 

 ……そこで。

 俺はとある事実に気付いてしまった。今まで、平然と、何も疑問に思わずやってきたが──そういえば俺達の『もとの時代』って……具体的に何時だっけ?

 そもそも、俺達は何をしているときに、この不思議な時間旅行に巻き込まれたんだっけ?

 

 ともかく、一つだけ分かることは。

 

 

《…………今日って、別に四月一日じゃないよな》

 

《……、》

 

 

 そして、光が近づいて────。

 

 

 


 

 

 

 ふと気付くと、戦場だった。

 

 目の前には、光で出来た巨腕を操る栗毛の女性──麦野沈利。

 狂気に満ちた笑みを浮かべる彼女と相対している俺達は、『亀裂』の翼をはためかせてその様を見下ろしていた。

 

 何か──何か、とても長い夢を見ていたような気がする。

 その内容は思い出せないけれど──。

 

 

「さあ、第二ラウンドと行きましょうか」

 

 

 麦野さんは引き裂くような笑みを浮かべ、上空にいる俺達を撃ち落とすような視線で射貫く。

 俺達もまた、その殺意に呼応するように戦意を高めていく。

 

 

「────裏第四位(アナザーフォー)ォ!!!!」

 

 

 疼く右目を、確かに感じながら。

 

 

 


 

 

 

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八三話:第四位 ②




というわけでエイプリルフール終幕!
今回は明確に本編に続く感じとなりました。続きは後日投稿されますので、本編の方をお気に入り登録してお待ちくださいませ~。

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